「骨のがんと言われたら、あとどのくらい生きられるのだろう」「脊椎に転移したと言われたが、すぐに歩けなくなってしまうのではないか」――。 骨肉腫などの骨のがんや、乳がん・肺がんなどから骨へ広がる「骨転移」の告知を受けたとき、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「予後(よご)」「余命」に関する不安です。
しかし、骨のがんの予後は「がんの種類」「進行度」「できた場所(手足か、骨盤・脊椎か)」「年齢や体力」「治療への反応」などによって大きく変わります。 例えば、原発性骨肉腫であっても、転移がない段階で治療を受けた人の5年生存率はおおむね60〜75%とされる一方1,4、診断時にすでに遠くへ転移している場合は5〜30%程度まで下がると報告されています4,10。
また、「5年生存率」が低い=必ず短期間で亡くなる、という意味ではありません。あくまで統計上の数字であり、個々の患者さんの経過は大きく異なります。 本記事では、厚生労働省や国立がん研究センター、海外のがん統計などの公的データをもとに、骨肉腫を中心とした骨のがんの予後をわかりやすく解説しつつ、 「脊椎(背骨)にできた場合のリスク」「どんなときに早めの受診が必要か」「今日からできる備え」についても丁寧に整理していきます。
なお、ここで紹介する数字はあくまで集団全体の傾向を示すものであり、個々の患者さんの余命や治療方針を決めるものではありません。 実際の診断や治療に関する判断は、必ず担当の医師や医療チームと相談して行ってください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。 厚生労働省や国立がん研究センター、日本の専門学会、世界保健機関(WHO)などの公的情報源をもとに、日常生活で活用しやすい知識を整理してお届けすることを目指しています。
本記事では、特に以下のような一次情報源を中心に、骨肉腫やその他の骨の悪性腫瘍、骨転移の予後に関するデータを参照しました。
- 国立がん研究センター・希少がんセンター/がん情報サービス: 原発性骨肉腫の頻度や治療成績、5年生存率など、日本人患者を対象とした統計情報1,2
- 日本の専門学会・研究班の資料: 骨肉腫や骨軟部腫瘍、骨転移に関するガイドライン・予後予測スコア・放射線治療の成績など2,8,9,10
- 米国国立がん研究所(NCI)・American Cancer Society などの統計: 骨肉腫・ユーイング肉腫・軟骨肉腫など骨のがんに対するSEERデータの5年生存率3,4,5,6
- 査読付き論文: 成人の骨転移患者の生存期間や予後因子を検討した臨床研究7
これらの一次資料を、JHO編集部が生成AIツールの支援を受けながら整理し、日本の生活者にとって理解しやすい形に再構成しています。 公開前には編集部が原著資料と照合し、数字や用語、URLなどを人の目で一つひとつ確認しています。
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要点まとめ
- 「骨のがん」と言っても、骨肉腫・軟骨肉腫・ユーイング肉腫などの原発性骨腫瘍と、 乳がんや肺がんなど他のがんが骨へ広がる骨転移では、性質も予後も大きく異なります。
- 原発性骨肉腫では、診断時に転移がない場合、近年の多剤併用化学療法と手術により 5年生存率はおおむね60〜75%と報告されています1,4,10。 一方、診断時に肺や他の骨へ転移している場合は5〜30%程度まで低下します4,10。
- 骨盤や脊椎(背骨)のような体幹の骨にできた骨肉腫は、手足の骨にできた場合に比べて手術が難しく、 十分に切除しにくいため、一般に予後はやや不良とされています1,6。
- 骨転移は、乳がん・前立腺がん・肺がんなどさまざまながんで起こります。 原発となるがんの種類によって、骨転移後の生存期間の中央値は数か月〜数年まで大きく変わります7,8,9,10。
- 「5年生存率」はあくまで人の集団としての統計であり、個々の患者さんの余命をそのまま示すものではありません。 年齢・体力・治療内容・合併症などにより、大きくプラスにもマイナスにも振れます。
- 強い背中の痛みと足のしびれ・脱力、排尿排便がうまくできないなどの症状が急に出た場合、 脊髄の圧迫による緊急性の高い状態の可能性があります。 迷ったときは、すぐに救急外来や救急相談窓口に連絡し、必要に応じて119番通報を検討してください。
- 予後について不安になったときは、ネットの情報だけで結論を出さず、 担当医に「自分の場合はどうか」「何を目標に治療していくのか」を率直に相談することが大切です。
骨のがんと聞くと、「もう治らないのでは」「歩けなくなるのでは」と、最悪のケースばかりが頭に浮かんでしまいがちです。 しかし実際には、がんの種類や広がり方によって、治癒を目指せるケースもあれば、長く付き合いながら生活の質を保つことを目標とするケースもあります。
本記事では、まず「骨肉腫とは何か」「骨転移とは何が違うのか」といった基本から整理し、 そのうえで、ステージ別の生存率や脊椎にできた場合の注意点など、予後に関わる情報を段階的に解説します。
あわせて、「家族としてどう支えればよいか」「仕事や学校を続けられるのか」といった日常生活の不安や、 「セカンドオピニオンを受けるタイミング」「緩和ケアはいつから考えるべきか」など、実際の行動に結びつくポイントも取り上げます。
読み進めていただくことで、「自分(あるいは家族)の状況をどう理解し、どのような選択肢があるのか」「何を医師に質問すればよいのか」が、 少しずつ整理されていくことを目指しています。
第1部:骨肉腫と骨のがんの基本 — 予後を理解するための出発点
予後について考える前に、「そもそも骨肉腫とは何か」「骨のがんにはどんな種類があるのか」を整理しておくことが大切です。 同じ「骨のがん」と呼ばれていても、病気の種類や広がり方によって、生存率や治療の目的は大きく異なるからです。
1.1. 骨肉腫・骨の悪性腫瘍・骨転移の違い
一口に「骨のがん」と言っても、医学的にはいくつかのパターンがあります。 代表的なのは次の3つです。
- 原発性骨腫瘍: 骨そのものから発生するがんです。代表例が骨肉腫(こつにくしゅ)で、主に10〜20代の若年者に多く、 膝の周りの大腿骨や脛骨など長い骨の端にできやすいとされています1,3。 ほかに軟骨肉腫、ユーイング肉腫なども含まれます。
- 体幹部の原発性骨腫瘍: 骨盤や脊椎、胸郭など体幹の骨にできる骨肉腫・軟骨肉腫・脊索腫(コードマ)などです。 手足の骨に比べて手術が難しく、十分な切除がしにくいため、一般に予後はやや不良とされています1,6。
- 骨転移(こつてんい): 乳がん・前立腺がん・肺がんなど、他の部位にできたがん細胞が血流などを通じて骨に飛び、 そこで増える状態です。背骨(脊椎)や肋骨、骨盤、大腿骨などに多く見られます8,9。
「脊椎のがん」「背骨のがん」と説明された場合、その多くは上記3つ目の骨転移を指すことが少なくありません。 脊椎そのものから発生する原発性腫瘍(脊索腫や軟骨肉腫など)もありますが、頻度としては骨転移のほうがずっと多いという点を押さえておきましょう。
1.2. 「5年生存率」とは何か?
予後の話でよく出てくる「5年生存率」や「相対5年生存率」という言葉は、まず定義を理解しておくと不安の感じ方が少し変わります。 American Cancer Societyや国立がん研究センターは、次のような考え方を提示しています3,4,6。
- 5年生存率: ある時期にそのがんと診断された人のうち、「診断から5年後に生きている人の割合」を示した数字です。
- 相対5年生存率: 同じ年齢・性別の一般集団と比べて、がんと診断された人がどの程度生存しているかを示す指標です。 例えば相対5年生存率80%とは、「同じ条件の人と比べて、5年後に生きている割合が80%程度」という意味になります。
重要なのは、これらが「集団としての平均」を示す統計であり、個々人の余命を直接示しているわけではないという点です。 5年生存率60%の病気であっても、10年以上元気に生活している人もいれば、持病や合併症の影響で短期間のうちに体調を崩してしまう人もいます。
1.3. 日常生活のなかで気づきやすいサイン
骨肉腫や骨転移は、初期には「成長痛」「肩こり」「腰痛」と勘違いされることも少なくありません。 次のような症状が長く続くときは、早めに整形外科やがん専門医に相談しましょう。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 夜間や安静時にも続く骨の痛み(特に太もも・すね・膝まわり) | 骨肉腫などの原発性骨腫瘍、骨髄炎など |
| 軽い転倒やくしゃみで骨折してしまう、同じ場所を何度も骨折する | 骨粗しょう症、がんの骨転移による病的骨折など |
| 背中や腰の強い痛みとともに、足のしびれ・脱力、排尿排便の異常が出てきた | 脊椎への骨転移による脊髄圧迫など(緊急対応が必要なことがあります) |
| しこりのように腫れた部分があり、数週間〜数か月かけて少しずつ大きくなっている | 良性・悪性を含む骨・軟部腫瘍の可能性 |
もちろん、これらの症状があるからといって必ず骨のがんというわけではありません。 ただ、「痛み止めを飲めばおさまるから」と長期間がまんしてしまうと、診断が遅れ、結果として治療の選択肢が狭くなることがあります。 気になる症状が続くときは、早めに医療機関を受診することが、結果的に予後を良くする大切な一歩になります。
第2部:予後に影響する身体の内部要因 — 年齢・場所・ほかのがんとの関係
同じ「骨肉腫」や「骨転移」という診断名でも、「どこに」「どのくらい広がっているか」「どんな背景疾患があるか」によって予後は大きく変わります。 ここでは、統計的に予後に影響しやすいとされている要因を整理します。
2.1. 年齢・全身状態
原発性骨肉腫は主に10〜20代の若年者に多く、若い世代では強力な化学療法を比較的受けやすいことから、 一定の割合で治癒が期待できると報告されています1,3,4,15。 一方、高齢の患者さんでは、心臓・腎臓などの機能低下や他の持病の影響で、同じ強さの治療を行いにくい場合があります。
米国SEERデータを解析した研究でも、25〜59歳の骨肉腫患者における相対5年生存率は約58%と報告されており15、 若年者よりやや低い傾向がみられます。 日本でも、年齢や全身状態(パフォーマンス・ステータス)は予後因子のひとつとされています1,2,7,8。
2.2. がんができた場所(四肢か、骨盤・脊椎か)
骨肉腫では、手足の長い骨(大腿骨・脛骨・上腕骨など)にできた場合と、 骨盤や脊椎など体幹の骨にできた場合で、治療方法も予後も大きく異なります。
- 四肢(手足)の骨にできた骨肉腫: 近年は、化学療法と患肢温存手術の組み合わせにより、治療成績が大きく向上しています。 日本のデータでも、転移のない四肢骨肉腫では5年生存率がおおむね70〜80%と報告されています1,2,6,10,16。
- 骨盤・脊椎など体幹の骨にできた骨肉腫: 周囲に大血管や神経が多く、十分な切除が難しいため、局所制御や予後が課題となっています。 日本や海外の報告でも、同じステージでも四肢より予後が不良であることが示されています1,6,10。
「脊椎にがんがある」と言われた場合、それが原発性骨腫瘍なのか、他のがんからの骨転移なのかによって、今後の治療や予後の考え方が大きく変わります。 主治医に、「原発のがんはどこか」「脊椎以外にも病変があるか」を確認しておくと、説明を理解しやすくなります。
2.3. もともとのがんとの関係 ― 骨転移の場合
骨転移の予後は、「骨に転移している」という事実だけでは判断できません。 原発となるがんの種類や、ほかの臓器への転移の有無、全身治療の効果など、多くの要素が絡み合います7,8,9,10。
- 乳がん・前立腺がん: 骨転移を起こしやすいがんですが、ホルモン療法や分子標的薬などの全身治療により、 骨転移後も数年単位で病状をコントロールできるケースが少なくありません7,8,9。
- 肺がん: 骨転移、特に脊椎転移は比較的予後が厳しいことが多く、日本の報告では 肺がんの脊椎転移例における生存期間中央値が5〜7か月程度とされる研究もあります10。 ただし、最近は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場により、治療成績は少しずつ変化しつつあります。
- その他(腎がん・甲状腺がんなど): 骨転移後も比較的長期生存が期待できるタイプもあれば、急速に進行しやすいタイプもあります7,8,9。
成人の骨転移患者を対象とした研究では、全体としての生存期間中央値はおおむね1年前後である一方、 原発のがんの種類や骨以外の転移の有無によって、数か月〜数年と大きくばらつくことが示されています7,8,9,10。
第3部:代表的な骨のがんとステージ別の予後
ここでは、骨肉腫を含む代表的な原発性骨腫瘍と骨転移について、ステージ別にどの程度の生存率が報告されているのかを整理します。 いずれも大規模な統計やガイドラインにもとづく「目安」であり、個々の患者さんの余命を直接示すものではない点にご注意ください。
3.1. 骨肉腫(osteosarcoma)の予後
骨肉腫は、10〜20代の若年者に多い原発性悪性骨腫瘍で、日本では年間発症数が人口10万人あたり0.3人程度とされる希少がんです1,3,6。 近年は術前・術後化学療法と手術を組み合わせることで、治療成績が大きく改善してきました。
国立がん研究センターや国内外の研究によると、骨肉腫の5年生存率の目安は以下のように報告されています1,4,6,10,15,16,17。
- 転移のない局所の骨肉腫(Localized): 約60〜75%前後の5年生存率
- 診断時にすでに転移がある骨肉腫(Metastatic): 約5〜30%の5年生存率
- 特に肺だけに転移がある場合は、肺の転移巣を切除する手術などにより、 一部の患者さんでは長期生存が得られることも報告されています。
日本骨・軟部腫瘍関連の統計では、ステージI(低悪性度・限局)の骨腫瘍では5年生存率が90%近くに達する一方、 ステージIII〜IVでは40%以下〜20%台に下がることが示されています2。 こうした数字からも、「どのステージで見つかるか」が予後に大きく影響することがわかります。
3.2. ユーイング肉腫・軟骨肉腫など他の原発性骨腫瘍
骨肉腫以外にも、骨に発生する悪性腫瘍はいくつかあります。 American Cancer SocietyやSEERデータでは、以下のような5年相対生存率が報告されています3,4,5,7。
- ユーイング肉腫(Ewing sarcoma): 骨や軟部組織にできる悪性腫瘍で、10代〜若年成人に多いとされています。 SEERデータでは、局所病変では5年生存率81%、遠隔転移がある場合でも41%と報告されています5,7。
- 軟骨肉腫(chondrosarcoma): 中高年に多く、骨盤や股関節周囲に生じやすい腫瘍です。 SEERデータでは局所病変の5年生存率は91%、遠隔転移がある場合は約28%とされています4。
- 脊索腫(chordoma): 脊椎や頭蓋底にできる稀な腫瘍で、局所での5年生存率は94%、遠隔転移がある場合でも54%と報告されています4。
- 巨細胞腫(giant cell tumor of bone): 多くは良性ですが、まれに悪性化することがあります。 SEERデータでは局所病変の5年生存率は91%、遠隔転移がある場合は39%とされています4。
これらの数値からわかるように、「骨のがん=すべて予後不良」というわけではなく、 種類やステージによっては長期生存が十分に期待できるタイプもあります。
3.3. 骨転移と脊椎転移の予後
骨転移全体の予後は、原発がんの種類や転移の広がり、全身治療の効果によって大きく変わります。 成人患者を対象とした研究では、骨転移後の生存期間中央値が約9〜12か月と報告される一方7、 乳がんや前立腺がんのように、骨転移後も数年以上にわたり病状をコントロールできるケースもあります7,8,9。
一方で、脊椎への転移で脊髄が圧迫されている場合は、歩行障害や排尿排便障害など急速に進行する神経症状を伴うことがあり、 治療の緊急度が高くなります。 肺がんの脊椎転移患者を対象とした日本の研究では、脊髄横断症状で発症した症例の生存期間中央値が5〜7か月程度と報告されています10。
また、国立がん研究センターなどの研究班による報告では、骨転移患者全体の1年生存率が70〜80%前後、 2〜3年生存率が徐々に低下していくことなどが示されています8,9,13。 こうした結果からも、骨転移は決して「すぐに余命が尽きる状態」ではなく、適切な全身治療や放射線治療、 手術などを組み合わせることで、痛みや骨折のリスクを抑えながら生活の質を保てる期間を伸ばせる可能性があります8,9,13。
第4部:今日から始めるアクションプラン — 予後と上手につき合うために
骨肉腫や骨転移と診断されたとき、多くの方が「余命」という言葉にとらわれてしまいます。 しかし実際の治療や生活の現場では、「余命の長さ」だけでなく、「その間をどう過ごすか」「どのように痛みや不安を軽くするか」がとても重要になります。
ここでは、診断の直後から長期的な視点まで、段階ごとのアクションプランを整理します。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:診断直後〜数日以内にできること | 情報を整理し、主治医への質問を準備する | 診断名・ステージ・転移の有無を書き留める/ 「自分の場合の治療の目的(治癒か、延命か、症状緩和か)」を確認する/ 家族と一緒に診察に入る日程を調整する |
| Level 2:治療方針を決めるまでの数週間 | セカンドオピニオンや専門施設への相談を検討する | 骨・軟部腫瘍の診療経験が豊富な拠点病院を調べる/ 主治医に紹介状を書いてもらう/ 仕事や学校の調整について相談する |
| Level 3:治療中〜退院後の数か月 | 痛み・副作用・生活のしづらさを我慢しすぎない | 緩和ケアチームに早めに相談する/ リハビリテーションで筋力や歩行機能を維持する/ 骨折リスクが高い部位を保護するための装具を検討する |
| Level 4:長期的な生活設計 | 再発フォローと生活の質のバランスをとる | フォローアップの頻度や検査内容を確認し、仕事や家事と両立できるスケジュールを組む/ 介護保険や障害年金などの制度について相談窓口を活用する |
骨転移に対する放射線治療のガイドラインでは、痛みの軽減や骨折予防において放射線治療が有効であり、 2か月後の時点で約半数以上の患者で痛みの消失または軽減が得られたと報告されています13。 「もう末期だから何もできない」とあきらめてしまうのではなく、今の体調に応じて何ができるのか、 医療チームと一緒に考えていくことが大切です。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「骨肉腫かもしれない」「骨転移と言われたが、どこまで治療するべきか迷っている」というとき、 どのタイミングで、どの診療科に相談すればよいのかは悩ましい問題です。 ここでは、受診や相談の目安を整理します。
5.1. すぐに受診・救急相談を検討すべき危険なサイン
- 背中や腰の痛みが急に強くなり、歩くのが難しいほどの脚のしびれ・脱力が出てきた
- 突然排尿が困難になった、尿が出にくい/失禁してしまう、便が出ないなどの排尿排便障害が出現した
- 軽い転倒やくしゃみで骨折してしまい、強い痛みで動けない
- 痛み止めや湿布でごまかしてきた骨の痛みが、夜も眠れないほど続いている
これらは、脊椎転移による脊髄圧迫や病的骨折など、緊急の治療が必要な状態のサインである可能性があります8,9,10,11。 迷ったときは、地域の救急相談窓口や救急外来に連絡し、必要に応じて119番通報を検討してください。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 原因不明の骨の痛みや腫れが続く → 整形外科、がん専門の整形外科
- すでに乳がん・前立腺がんなどの診断があり、骨の痛みが新たに出てきた → まずは担当の腫瘍内科・乳腺外科・泌尿器科など
- 脊椎の病変が疑われる、または脊髄圧迫が心配 → 整形外科(脊椎外科)や脳神経外科との連携がある病院
- 痛みや不安が強く、生活の質が大きく損なわれている → 緩和ケアチーム・ペインクリニック
骨肉腫や骨軟部腫瘍は希少がんなので、すべての病院が同じレベルの経験を持っているわけではありません。 主治医に、骨・軟部腫瘍の拠点病院や経験豊富な施設を紹介してもらうことも選択肢のひとつです1,2,6。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- いつから・どのような痛みがあるのか、どの動きで痛みが強くなるのかをメモしたノート
- これまでに受けた検査(レントゲン・CT・MRI・骨シンチグラフィなど)の結果や画像データ
- 服用中の薬がわかるお薬手帳
- 高額療養費制度や介護保険、障害年金などの公的支援制度についての質問メモ
日本では、公的医療保険により自己負担は原則3割(高齢者では1〜2割の場合も)となります。 ただし、手術や入院、放射線治療、抗がん剤治療などが続くと、1か月あたりの窓口負担額は大きくなりがちです。 「高額療養費制度」や「限度額適用認定証」などを活用すると、ある一定額以上の自己負担分が払い戻される仕組みがありますので、 早めに医療ソーシャルワーカーなどに相談しておくと安心です。
よくある質問
Q1: 骨肉腫と「骨のがん」「骨転移」は何が違うのですか?
A1: 骨肉腫は、骨そのものから発生する原発性の悪性骨腫瘍の一種です。一方、「骨のがん」という言い方には、 骨肉腫・軟骨肉腫・ユーイング肉腫などの原発性骨腫瘍に加え、乳がんや肺がんなど他の部位のがんが骨に広がった「骨転移」も含まれることがあります1,3,4,8。
骨転移は、がん細胞の出発点が骨ではなく、乳房・前立腺・肺など別の臓器にある点が大きな違いです。 予後や治療方針は、「原発のがんが何か」「どの程度広がっているか」によって大きく変わります。 自分がどのタイプに当てはまるのか、主治医に用語を確認しておくと説明を理解しやすくなります。
Q2: 骨肉腫と診断されました。平均余命はどれくらいなのでしょうか?
A2: 統計的には、転移のない骨肉腫では5年生存率が60〜75%程度と報告されており1,4,10,16,17、 多くの方が治癒または長期生存を目指せる時代になっています。 一方、診断時にすでに肺や他の骨に転移がある場合、5年生存率は5〜30%程度と低くなります4,10。
ただし、これはあくまで「大勢の患者さんをまとめたときの数字」です。 実際には、年齢や全身状態、腫瘍の場所、手術がどこまでできるか、化学療法への反応などによって個々の経過は大きく異なります。 具体的な余命については、検査結果をすべて把握している担当医に「自分の場合の全体像」を聞きながら相談することが大切です。
Q3: 「5年生存率70%」と言われました。これは「30%の人は5年以内に亡くなる」という意味ですか?
A3: 5年生存率70%とは、「診断から5年後に生存している人の割合がおよそ70%」という意味であり、 「残り30%が必ず5年以内に亡くなる」という意味ではありません3,4,6。
また、この数字はあくまで「その時代に診断された大勢の患者さん」の統計であり、 その後の治療法の進歩や、個々の患者さんの体力・合併症などは反映されていません。 最近診断された方ほど治療成績が良い傾向もあるため、主治医に「最新の治療成績」や「自分の年齢・状態を考えたうえでの見通し」を尋ねると良いでしょう。
Q4: 脊椎に転移があると言われました。すぐに歩けなくなってしまうのでしょうか?
A4: 脊椎転移があっても、すべての人がすぐに歩けなくなるわけではありません。 しかし、腫瘍が大きくなって脊髄や神経根を強く圧迫すると、足のしびれ・脱力、排尿排便障害などが急速に進行し、歩行が難しくなることがあります8,9,10,11。
脊椎転移の治療には、手術・放射線治療・全身治療(抗がん剤・ホルモン療法など)が組み合わされます。 日本のガイドラインでも、痛みの軽減や神経症状の改善のために放射線治療が有効であることが示されています9,13。 背中の痛みが急に強くなったり、足に力が入らなくなったときは、自己判断せず早急に主治医や救急外来に相談してください。
Q5: 骨転移があると言われました。もう治療しても意味がないのでしょうか?
A5: 骨転移があるからといって、「治療しても意味がない」ということは決してありません。 原発のがんの種類にもよりますが、骨転移後も数年以上にわたり病状をコントロールできるケースは少なくありません7,8,9。
治療の目的は、「完全に治す」だけでなく、「痛みを減らす」「骨折や麻痺のリスクを減らす」「できるだけ長く自分らしい生活を続ける」など様々です。 放射線治療や手術、薬物療法、緩和ケアを組み合わせることで、生活の質を保ちながら過ごせる期間を伸ばすことが期待できます8,9,13。
Q6: 高齢の親が骨のがんと診断されました。どこまで治療を受けさせるべきか迷っています。
A6: 高齢の患者さんでは、強い化学療法による副作用や、手術後の回復力などを考慮する必要があります。 そのため、「できるだけ長く生きること」と「痛みや負担を減らして穏やかに過ごすこと」のバランスについて、家族と医療チームが一緒に話し合うことが大切です。
日本の緩和ケアやがん診療ガイドラインでは、「がん治療」と「緩和ケア」は二者択一ではなく、早い段階から並行して行うことが推奨されています8,9,13。 「どこまで治療を頑張るのか」「どの時点で方針を見直すのか」について、主治医・看護師・ソーシャルワーカーと率直に相談してみてください。
Q7: 子どもの骨肉腫は、大人より治りやすいと聞きました。本当ですか?
A7: 骨肉腫やユーイング肉腫は、主に小児〜若年者に多い希少がんです。 若年者は全身状態が良く、強力な化学療法に耐えやすいことから、統計的には高い生存率が報告されています3,4,5,6,7,15,16。 ただし、年齢だけで予後が決まるわけではなく、腫瘍の場所や転移の有無、治療への反応なども重要です。
小児がん拠点病院や骨・軟部腫瘍の専門施設では、小児科・整形外科・放射線科・リハビリ・心理職など多職種チームが連携しながら、 長期的な生活の質も含めてサポートする体制が整えられています。 主治医と協力しながら、必要に応じて専門施設への紹介も検討してみてください。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
骨肉腫や骨転移など「骨のがん」と聞くと、多くの人が「あとどのくらい生きられるのか」という予後ばかりに目が向きがちです。 しかし、実際の診療の現場では、「がんの種類」「ステージ」「できた場所」「年齢や体力」「治療への反応」など、 さまざまな要素が絡み合って一人ひとりの経過が形作られています。
統計的には、転移のない骨肉腫では5年生存率60〜75%程度、骨転移ではおおむね1年前後の生存期間中央値が報告されていますが1,4,7,8,9,10,15,16,17、 これはあくまで「過去のデータにもとづく平均値」です。 実際には、数十年にわたり再発なく生活できる方もいれば、他の持病や合併症のために治療の選択が限られる方もいます。
大切なのは、インターネット上の数字だけで未来を決めつけてしまわないことです。 「自分の場合はどのような選択肢があるのか」「治療の目的はどこに置くのか」「どのように生活の質を保っていくのか」を、 主治医や医療チームと一緒に少しずつ言葉にしていくことが、予後と向き合う第一歩になります。
不安や恐怖を一人で抱え込む必要はありません。 家族や友人、医療者、緩和ケアチーム、患者会など、さまざまな支えを借りながら、 「限られた時間だからこそ、自分らしく過ごせる時間をどう増やしていくか」を一緒に考えていきましょう。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
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本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、 内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
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