この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
骨肉腫と診断されたあなたへ
骨肉腫と告げられた瞬間、「なぜ自分が」「これからどうなるのか」と、頭の中が真っ白になってしまうのはごく自然な反応です。特に希少がんである骨肉腫は、周りに同じ経験をした人が少なく、情報も限られているため、孤立感や将来への不安が強くなりがちです。持続する骨の痛みが「成長痛ではなかったのか」と自分を責めてしまう方もいますが、骨肉腫の初期症状は他の痛みと非常に紛らわしく、誰にでも診断が遅れ得る病気です。このボックスでは、そうした不安な気持ちを少し整理しながら、「今、自分に何ができるのか」を一つずつ確認していくお手伝いをします。
まず大切なのは、「骨肉腫は骨を作る細胞から生じる悪性腫瘍でありながら、集学的治療によって治癒を目指せる病気である」という全体像を知ることです。骨の原発性悪性腫瘍の中で最も頻度が高い一方、日本全体では年間約200人程度という希少がんであるため、経験豊富な専門施設で、多職種チームによる一貫した診療を受けることが特に重要になります。がん全般の基礎知識や、腫瘍とは何かという土台を理解しておくと、骨肉腫という個別の病気も位置づけやすくなります。全身のがん・腫瘍疾患の仕組みや検診・診断・ステージ・治療の流れは、がん・腫瘍疾患の総合ガイドで体系的に整理されているので、骨肉腫に向き合ううえでの「地図」として併せて参考にしてみてください。
骨肉腫は、骨芽細胞と呼ばれる骨を作る細胞ががん化し、「悪性腫瘍」として制御不能に増殖する病気です。良性腫瘍との決定的な違いは、周囲の正常な組織に染み込むように広がる「浸潤」と、血液やリンパの流れに乗って遠くの臓器へ広がる「転移」の力を獲得している点にあります。骨に原発する悪性腫瘍の代表でありながら、全体としては希少がんであるため、一般的な整形外科では診療経験が限られることも少なくありません。思春期の急激な骨成長期や高齢者に発症のピークがあること、特定の遺伝性疾患や過去の放射線治療が一部のリスク因子になることなど、骨肉腫の背景には「悪性腫瘍」としての共通の性質と、この病気ならではの特徴が混在しています。こうした悪性腫瘍全体の振る舞いやリスクについては、悪性腫瘍の真実も参考にしながら、「がん=即絶望」ではないことを冷静に整理していきましょう。
次に、「いつ受診すべきか」という行動の目安を具体的に押さえておくことが大切です。骨肉腫の痛みは、運動後だけでなく安静時や夜間にも続き、時間とともに強くなる傾向があります。また、膝周囲などの長管骨に腫れや熱感が出てきたり、市販の湿布や安静で改善しない痛みが何週間も続く場合は、成長痛やスポーツ障害と自己判断せず、早めに整形外科(できれば腫瘍専門のある施設)を受診することが重要です。がん全体に共通する「見逃してはいけないサイン」を知っておくと、「これは様子見でよいのか、それとも受診すべきか」の判断がしやすくなります。持続する痛みやしこり、原因のはっきりしない出血・体重減少など、骨肉腫とも重なり得る警告サインについては、がんの危険なサイン11選で全身の視点から確認しておくと安心です。
骨肉腫と確定診断された後は、「何から手を付ければよいのか」を一緒に整理していきましょう。高悪性度骨肉腫の標準治療は、術前化学療法→手術→術後化学療法という集学的治療で、限局性症例では5年生存率が70%前後まで改善してきました。治療計画を理解するうえでは、どの薬剤がどのタイミングで使われるのか、副作用として何が起こり得るのかを、主治医や看護師と一緒に紙に書き出しながら確認していくことが役立ちます。また、長期にわたる治療を乗り切るためには、日々の生活でできるセルフケアも重要です。吐き気や食欲低下への対処、感染予防、疲労への向き合い方など、がん治療全般に共通する工夫は、がん治療の副作用を乗り越えるセルフケアとしてまとめられているので、骨肉腫の治療と重ね合わせながら「自分なりの過ごし方」を組み立てていくとよいでしょう。
一方で、インターネット上には生存率や再発率に関する断片的な数字があふれており、それらを見てかえって不安が増してしまうことも少なくありません。骨肉腫の予後は、診断時の転移の有無や術前化学療法の効果、腫瘍の部位・大きさ、手術でどこまで安全に取り切れたかなど、複数の要因によって大きく変わります。統計はあくまで「多くの患者さんの平均」であって、今目の前にいるあなた自身の未来を決めるものではありません。また、「がんになったら必ず強い痛みが続く」「抗がん剤を受けると必ず日常生活が送れなくなる」といった誤解も、治療への向き合い方をゆがめてしまいます。がん全般に広がる代表的な誤解と、その背景にあるデータは、がんの6大誤解として整理されているので、主治医から聞いた説明と照らし合わせながら、「正しく怖がる」視点を取り戻すきっかけにしてください。
骨肉腫の治療は、診断・手術・化学療法・リハビリ・長期フォローアップと、決して短くはない道のりです。しかし、その一つひとつのステップには必ず意味があり、あなたの将来の生活の質と命を守るためのプロセスでもあります。分からないことや不安な点はメモにしておき、診察のたびに一つずつ質問しながら、自分のペースで理解を深めていきましょう。骨肉腫と共に歩む時間は、決して「がんだけの時間」ではなく、あなた自身の人生をこれからどう生きていくかを考える貴重な時間でもあります。焦らず、一歩ずつ、一緒に前に進んでいきましょう。
I. 序論:骨肉腫の全体像
骨肉腫はまれながんであり、情報が少なく、どのような病気か分からず不安を感じるかもしれません。その気持ちは、希少がんと診断された多くの方が経験する自然な反応です。しかし、治療法はここ数十年で大きく進歩しており、希望を持って向き合うことができます。科学的には、骨肉腫は骨を作る細胞が制御不能に増殖する病気です。これは、建設現場で設計図とは全く違う材料が無限に作られ続け、建物を内側から壊していくようなものです18。だからこそ、まずは骨肉腫がどのような病気で、どのように治療が進むのか、全体像を正しく理解することから始めましょう。
骨肉腫は、がん全体から見ると非常にまれな「希少がん」に分類されます。日本国内における年間の新規発症者数は約200人程度と、国立がん研究センターがん情報サービスにより報告されており、その希少性は際立っています5。この希少性は、骨肉腫が抱える臨床的な課題の根源となっています。絶対数が少ないため、一般的な医療機関では診断や治療の経験を積む機会が限られます6。したがって、骨肉腫の治療においては、豊富な治療経験を持つ専門施設(がんセンターや大学病院など)で、多分野の専門家からなる集学的治療チームによる治療を受けることが極めて重要です。
かつて骨肉腫は有効な治療法が限られ、予後が極めて不良な病気とされていました。しかし、1970年代以降、強力な多剤併用化学療法(抗がん剤治療)が導入され、外科手術と組み合わせる「集学的治療」が確立されたことで、その治療成績は劇的に向上しました7。この治療戦略の進歩により、現在では初診時に遠隔転移が認められない限局性の骨肉腫の場合、5年生存率は70%程度にまで達しています3。
このセクションの要点
- 骨肉腫は、骨を作る細胞のがんであり、骨の悪性腫瘍の中では最も頻度が高いですが、全体としては希少がんに分類されます。
- 集学的治療の確立により生存率は大幅に向上しており、専門施設での治療が極めて重要です。
II. 骨肉腫の基礎知識:発生機序と疫学
なぜ自分が、あるいは自分の子どもがこの病気になったのか、原因が分からず悩んでしまうかもしれません。多くの場合、骨肉腫のはっきりとした原因は分かっておらず、ご自身を責める必要は全くありません。その背景には、体の急激な成長という生物学的な現象が関わっていると考えられています。科学的には、思春期の骨の急成長は、骨を作る細胞(骨芽細胞)が爆発的に増殖する時期であり、この過程で細胞分裂のエラー(遺伝子変異)が偶然起こりやすくなるのです10。これは、超高速で文章を書き写していると、どうしても誤字が増えてしまうのに似ています。そのため、まずはどのような人に、どのようにして起こりやすいのか、現在分かっている科学的な事実を知り、病気への理解を深めていきましょう。
骨肉腫の発生には二つの年齢のピーク(二峰性分布)が認められます。第一のピークは10代の思春期で、特に骨の成長が最も活発になる10代後半に発生数が最大となります2。第二のピークは60歳以降の高齢者に見られます。性差も報告されており、男性の方が女性よりも約1.5倍多く発生します1。好発部位は、腕や脚の長い骨、特に骨成長が最も盛んな膝関節周囲(大腿骨遠位端、脛骨近位端)が全症例の半数以上を占めます8。
ほとんどの骨肉腫は特定の原因なく発生しますが、いくつかのリスクを高める要因が同定されています。リ・フラウメニ症候群や遺伝性網膜芽細胞腫といった特定の遺伝性疾患を持つ家系では、発生リスクが著しく高まることが知られています1。また、ページェット病などの先行する骨の病気や、過去に他のがん治療で高線量の放射線治療を受けた部位に、数年から数十年を経て骨肉腫が発生することもあります9。
このセクションの要点
- 骨肉腫は10代の急激な骨成長期と高齢期に発症のピークがあり、膝周りに最も多く発生します。
- 特定の原因は不明なことが多いですが、一部には遺伝的素因や過去の病歴がリスク因子として関連しています。
III. 臨床症状と診断プロセス
続く足の痛みを「成長痛」だと思っていたら、診断が遅れてしまったのではないかと後悔されるかもしれません。そのお気持ちは、とてもよく分かります。骨肉腫の初期症状は他のありふれた痛みと見分けがつきにくいため、診断の遅れは誰にでも起こり得るのです。大切なのは、これからどう向き合うかです。医学的に、骨肉腫による痛みと成長痛の重要な違いは「性質」と「持続性」です7。骨肉腫の痛みは、安静時や夜間にも現れ、時間と共に悪化する傾向があります。これは、家の中に静かに広がる水漏れのように、放置すると被害が大きくなるサインです。だからこそ、どのような症状が危険信号なのか、そして正確な診断のためにどれほど専門的な検査が重要かを確認することが、最初の重要な一歩となります。
診断への道筋は、問診と身体診察から始まり、単純X線(レントゲン)検査が最初の重要な画像診断となります11。骨肉腫が疑われる場合、腫瘍の局所での広がりを詳細に評価するためにMRI検査が、肺などへの遠隔転移を調べるためにCT検査が必須です。最終的な確定診断は、腫瘍組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる「生検」によってのみ下されます13。この生検は、その後の治療方針、特に手足の機能を温存できるかを左右する極めて重要な手技です。不適切な生検は、腫瘍細胞を周囲に広げ、本来なら温存可能だった四肢の切断を余儀なくされる事態を招きかねません14。そのため、生検は必ず骨肉腫の治療経験が豊富な専門施設で行われるべきです。
受診の目安と注意すべきサイン
- 数週間以上続く、悪化傾向のある骨・関節の痛み
- 安静にしている時や夜間に強まる痛み
- 原因不明の腫れや熱感、しこり
- 一般的な湿布や安静で改善しない、または一時的にしか良くならない痛み
IV. 病期分類(ステージング)と予後
診断された病期(ステージ)を聞き、今後の見通し(予後)がどうなるのか、非常に怖いと感じるのは当然のことです。その不安な気持ち、誰にとっても同じです。ここで知っておきたいのは、生存率などの統計データはあくまで多くの患者さんの平均値であり、あなた一人の未来を正確に予測するものではない、ということです。科学的には、骨肉腫の予後は「微小転移(マイクロメタスターシス)」をいかに制御できるかに大きくかかっています。これは、目に見えないほど小さな火の粉が全身に飛び散っている状態で、限局性のがんと診断されても、約8割の症例では既にこの状態にあると考えられています15。だからこそ、手術だけでなく、全身に作用する化学療法が治療の標準となっているのです。ご自身の状況を正しく把握し、どのような要素が治療成績に関わるのかを理解することが、治療に前向きに取り組む力になります。
骨肉腫の予後を予測する上で最も強力な因子は、診断時に遠隔転移が存在するかどうかです11。次に重要なのが、手術前に行った化学療法の効果です。手術で摘出した腫瘍組織を調べ、90%以上の腫瘍細胞が壊死していると判断された場合(効果良好例)、その後の予後は良好とされます11。その他、腫瘍が小さいこと、腕や脚に発生したこと、そして手術で腫瘍を完全に取り切れたこと(外科的マージンの確保)も良好な予後につながります5。
| 病期 (Stage) | 5年生存率 (5-Year Survival Rate) | 備考 (Notes) |
|---|---|---|
| ステージ I (低悪性度、限局性) | 90%以上 | 手術が中心。予後は良好。 |
| ステージ II / III (高悪性度、限局性) | 50% – 80% (一般的に約70%) | 標準的な集学的治療(化学療法+手術)の対象。 |
| ステージ IV (転移性) | 予後は不良だが、転移巣の状況により異なる。 | |
| – ステージ IVA (肺転移のみ) | 30% – 50% | 肺転移巣が外科的に完全切除可能かどうかが鍵。 |
| – ステージ IVB (他部位への転移) | 0% – 20% | 治療が非常に困難。 |
表1: 骨肉腫の病期(ステージ)別5年生存率の目安。出典: 国立がん研究センターのデータに基づく3。
このセクションの要点
- 病期は限局性と転移性に大別され、限局性でも微小転移を想定した全身化学療法が標準治療です。
- 予後は、転移の有無、術前化学療法の効果、腫瘍の部位や大きさ、手術の完全性など、複数の要因によって左右されます。
V. 骨肉腫の集学的治療戦略
抗がん剤治療や大きな手術が必要と聞き、副作用や体への負担がどれほど大きいのか心配になるのは当然です。強力な治療には、確かにつらい副作用が伴います。しかし、それらを乗り越えるためのサポート体制も、現在の医療には整っています。骨肉腫の治療は、一つの方法に頼るのではなく、「集学的治療」というチーム戦でがんに立ち向かいます。これは、空爆(化学療法)で敵の主要な戦力を叩き、その後、地上部隊(手術)が残存勢力を掃討する、という連携作戦に似ています。まず化学療法で全身に散らばった見えない敵(微小転移)を攻撃し、同時に本拠地(原発巣)を弱体化させます11。この連携こそが、現代の骨肉腫治療の根幹をなす戦略なのです。現代の骨肉腫治療の柱である化学療法と手術が、どのように連携してがんを克服するのか、その戦略を学びましょう。
高悪性度骨肉腫に対する標準治療は、まず手術の前に数ヶ月間の術前化学療法を行うことから始まります。これにより、微小転移を根絶し、原発巣を縮小させて手術をより安全に行えるようにします11。手術後には、再発予防のためにさらに術後化学療法が行われます。現在、世界的な標準レジメンとして、メトトレキサート、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を併用するMAP療法が最も広く用いられています16。
| 薬剤名 (Drug Name) | 主な作用 (Primary Action) | 特に注意すべき主な副作用 (Key Side Effects to Monitor) |
|---|---|---|
| メトトレキサート (Methotrexate) | 細胞増殖に必要な葉酸の働きを阻害 | 骨髄抑制、口内炎、腎機能障害、肝機能障害 |
| ドキソルビシン (Doxorubicin) | DNAの複製を阻害し細胞を死滅させる | 骨髄抑制、脱毛、吐き気・嘔吐、心機能障害(心毒性) |
| シスプラチン (Cisplatin) | DNAに結合し細胞分裂を阻害 | 腎機能障害、吐き気・嘔吐、聴力障害(高音域)、末梢神経障害(しびれ) |
| イホスファミド (Ifosfamide) | DNAを損傷させ細胞を死滅させる | 骨髄抑制、出血性膀気炎、腎機能障害、中枢神経系への影響(錯乱など) |
表2: 主要な抗がん剤と注意すべき副作用。出典: 米国がん協会の情報に基づく16。
外科治療の基本は、腫瘍を周囲の正常な組織ごと一塊として切除する「広範切除術」です。化学療法の進歩により、現在では四肢に発生した骨肉腫の約90%で、腕や脚を切断しない「患肢温存手術」が可能となっています3。切除された骨や関節は、チタン合金などで作られた腫瘍用人工関節などで再建されます9。一方で、腫瘍が主要な神経や血管を広範囲に巻き込んでいる場合には、生命を救うために切断術が選択されます11。
今日から始められること
- 治療方針について分からないことがあれば、遠慮せずにリストアップし、次の診察で主治医に質問しましょう。
- 治療が始まると体力を消耗します。今のうちから、栄養バランスの取れた食事と十分な休息を心がけましょう。
VI. 治療後の生活:リハビリテーション、経過観察、晩期合併症
治療が終わっても、再発の不安や後遺症と共に生きていかなければならないのかと、気持ちが沈むことがあるかもしれません。治療の終了はゴールではなく、新しい人生のスタートです。長期的な視点での健康管理が、その後の生活の質を支えます。医学的に、骨肉腫の治療は「サバイバーシップの第二の病」ともいえる晩期合併症との長い付き合いの始まりを意味します。これは、火事を消し止めた後も、建物の構造的なダメージ(心臓や腎臓への影響)や、将来の火災リスク(二次がん)を定期的に点検し続ける必要があるのと同じです1617。だからこそ、リハビリや定期的な検診、そして晩期合併症への備えについて学び、安心して未来を歩むための準備をすることが不可欠なのです。
患肢温存手術を受けた後の機能回復には、理学療法士や作業療法士の指導のもと、長期的で集中的なリハビリテーションが不可欠です9。また、治療終了後も、再発や転移を早期に発見するため、定期的なフォローアップ(胸部CT、患部X線、血液検査など)が数年間にわたって行われます17。
骨肉腫の強力な治療は、数年後、あるいは数十年後に現れる晩期合併症のリスクを伴います。主なものに、ドキソルビシンによる心機能障害、シスプラチンによる聴力・腎機能障害、化学療法による妊孕性(子どもを授かる能力)の低下、そして二次がんのリスクがあります161418。特に若年者の場合、治療開始前に精子や卵子の凍結保存といった「妊孕性温存療法」について、主治医と十分に相談することが強く推奨されます。
今日から始められること
- リハビリの目標について、医療チームと具体的な計画を立てましょう(例:3ヶ月後には杖なしで歩く)。
- ご自身の治療歴(使用した薬剤や放射線量など)を記録した「長期フォローアップ手帳」を作成・管理し、将来の健康管理に役立てましょう。
- 晩期合併症に関する不安や心配事があれば、一人で抱え込まず、主治医や専門の相談窓口(長期フォローアップ外来など)に相談しましょう。
VII. 患者と家族のための支援情報
長期間にわたる治療では、医療費や生活に関する不安も大きな悩みとなります。経済的な心配が治療への集中を妨げてしまうこともあります。しかし、日本にはこうした負担を軽減するための公的な制度が整備されています。これは、マラソンを走るランナーのために、コースの各所に給水所が設けられているのと同じです。これらの制度を「特別なこと」ではなく「利用できる権利」として捉え、積極的に活用することが大切です。まずは、どのような支援があるかを知り、ご自身が利用できる制度について専門家に相談してみましょう。
骨肉腫の治療は高額になりがちですが、経済的負担を軽減するための公的支援制度があります。「高額療養費制度」は、1ヶ月の医療費の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。また、18歳未満(条件により20歳未満まで)の患者は「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象となり、医療費の自己負担が大幅に軽減されます59。申請手続きはお住まいの自治体の保健所などで確認できます。
同じ病気を経験した他の患者や家族との交流は、大きな精神的な支えとなります。「肉腫(サルコーマ)の会 たんぽぽ」などの患者会では、情報交換や交流の場が提供されています。また、より効果の高い新しい治療法の開発を目指す臨床試験(治験)も、選択肢の一つとなる場合があります。主治医と相談の上、情報を得ることが可能です。
今日から始められること
- ご自身が加入している健康保険の窓口や、病院のソーシャルワーカーに連絡し、「高額療養費制度」や「限度額適用認定証」についてすぐに相談しましょう。
- お住まいの自治体のウェブサイトや保健所の窓口で、「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の申請方法を確認しましょう。
- 患者会のウェブサイトを訪れ、オンラインでの交流会や資料請求ができないか調べてみましょう。
よくある質問
子どもの足の痛みが「成長痛」なのか骨肉腫なのか見分ける方法はありますか?
骨肉腫は遺伝しますか?
ほとんどの骨肉腫は遺伝しません。しかし、「リ・フラウメニ症候群」や「遺伝性網膜芽細胞腫」など、ごくまれな遺伝性疾患を持つ家系では、骨肉腫の発生リスクが高まることが知られています1。ご家族に若くしてがんになった方が多いなど、心配な点があれば主治医に相談することをお勧めします。
患肢温存手術と切断術では、どちらが再発のリスクが低いですか?
腫瘍を完全に取り除くという「広範切除」の原則が守られれば、患肢温存手術と切断術とで、局所再発率や生存率に差はないとされています11。どちらの手術を選択するかは、腫瘍の大きさや場所、神経や血管への広がりなどを総合的に評価し、安全に腫瘍を取り切れるかどうかで判断されます。
治療後、普通の生活に戻れますか?
多くの患者さんが学校や職場に復帰し、充実した生活を送っています。しかし、手術や化学療法による後遺症や晩期合併症と長く付き合っていく必要があります。特に患肢温存手術後は、激しいスポーツの制限や人工関節の入れ替え手術が必要になることがあります17。定期的な検診を受けながら、ご自身の体と向き合っていくことが大切です。
結論
骨肉腫は希少で複雑な疾患ですが、決して治療法のない病気ではありません。確立された集学的治療により、多くの患者さんで治癒を目指すことが可能です。診断に伴う不安を和らげ、治療に主体的に向き合うためには、本稿で提供されたような正確で包括的な情報を理解することが重要な第一歩となります。治療は、整形外科腫瘍医、腫瘍内科医、放射線診断医、病理医など多くの専門家が連携する「チーム医療」で行われます。経験豊富な専門施設で一貫したケアを受けることが、最良の治療成績を得るための鍵となります。ゲノム解析に基づく新たな治療法の開発など、骨肉腫治療の未来は、より希望に満ちたものになることが期待されています。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
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- YouTube. 肉腫(サルコーマ)~骨の肉腫~】講演 小林 英介【国立がん研究センター希少がんセンター】. [インターネット]. 引用日: 2025-09-13. リンク
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