この記事の科学的根拠
本記事は、その主張、データ、結論のすべてが、検証可能な最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。読者の皆様が情報の出所を自ら検証できるよう、記事の信頼性を担保する主要な情報源を以下に明示します。
- 世界保健機関(WHO): 髄膜腫の悪性度を国際的に定義する「WHO中枢神経系腫瘍分類」45の策定機関です。本記事におけるグレード分類、特に2021年の最新版で導入された分子マーカー(遺伝子情報)に関する解説は、この基準に準拠しています。
- 米国国立がん研究所(NCI): 世界最大級のがん疫学データベース(SEERプログラム)を管理する米国の公的機関です6。本記事で提示するグレード別・年齢別の生存率など、最も信頼性の高い国際的な統計データは、主にこの機関の報告に基づいています。
- 日本脳腫瘍学会 / 日本脳神経外科学会: 日本国内における「脳腫瘍診療ガイドライン」7の策定や、日本の臨床実態を示す「脳腫瘍全国統計(BTRJ)」3を運営する国内の最高権威機関です。手術成績や合併症に関する国内データは、これらの機関の報告を引用しています。
- 主要な医学学術誌 (Neuro-Oncology, Journal of Neurosurgery等): 髄膜腫に関する最新の臨床試験結果や、予後因子に関する最先端の研究成果を報告する、査読付きの学術論文です8。記事の科学的先進性と正確性は、これらの最新知見によって担保されています。
- 澤村 豊 医師 (北海道大学名誉教授): 脳神経外科医としての豊富な臨床経験に基づき、患者視点での情報発信をされている専門家です8。本記事では、医師のウェブサイトで公開されている実践的なアドバイスや、学術的洞察を参考にさせていただきました。
要点まとめ
- 髄膜腫の約9割はWHOグレードIの「良性」であり、予後は非常に良好です。しかし、グレードII(非定型)やIII(悪性)も存在し、正確なグレード診断が最も重要です。
- 最新のWHO分類(2021年)では、従来の顕微鏡診断に加え、「TERTプロモーター変異」などの特定の遺伝子情報がグレード判定を左右するようになり、より正確な予後予測が可能になりました。
- 予後を左右する5大因子は「WHOグレードと分子マーカー」「手術の摘出度」「年齢と全身状態」「腫瘍の発生部位と大きさ」「その他の因子(性別、MIB-1指数など)」です。
- 治療の基本は、手術による摘出です。日本の手術成績は国際的に見ても極めて良好ですが、手術が困難な場合や再発予防のために放射線治療が重要な役割を果たします。
- 信頼できる情報に基づき、主治医と十分に話し合い、治療の意思決定に主体的に参加することが、希望を持って病気と向き合うための鍵となります。
髄膜腫の「顔つき」を知る:WHO 2021年最新グレード分類のすべて
髄膜腫の予後、すなわち今後の病状の見通しを理解する上で、最も基本かつ重要なのが、腫瘍の「グレード(悪性度)」です。これは、世界保健機関(WHO)が定める世界共通の基準によって分類されます。ここでは、2021年に大きく改訂された最新の国際基準「WHO中枢神経系腫瘍分類第5版(CNS5)」に基づき、あなたの髄膜腫が持つ「顔つき」の本質を詳しく解説します。
WHO グレードI(良性髄膜腫):最も一般的で、おとなしいタイプ
全髄膜腫の約80%から90%を占めるのが、このグレードIです4。これは「良性」に分類され、細胞の増殖スピードが非常に緩やかであることが特徴です。多くの場合、手術によって腫瘍を完全に取り除くこと(全摘出)ができれば、再発することなく根治(完全に治癒すること)が期待できます。診断を受けられた方の多くがこのタイプであり、過度に心配する必要がない場合がほとんどです。
WHO グレードII(非定型髄膜腫):注意深い経過観察が必要なタイプ
グレードIよりも細胞の増殖スピードがやや速く、脳の組織に染み込むように広がる(浸潤する)傾向があるため、再発のリスクが比較的高いタイプです。このグレードの取り扱いは専門家の間でも特に慎重な判断が求められます。米国のNCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドライン9や、大規模な臨床試験であるRTOG 0539試験10の結果に基づいても、手術で腫瘍を完全に取り切れた場合に、再発を予防するための放射線治療を追加で行うべきかについては、世界的に見ても明確な結論は出ていません。そのため、患者さん個々の年齢、腫瘍が発生した場所、後述する遺伝子情報などを総合的に考慮し、主治医と十分に話し合って治療方針が決定されます。
WHO グレードIII(退形成性/悪性髄膜腫):集学的治療で立ち向かうタイプ
全髄膜腫の1%から3%程度と非常に稀なタイプですが、いわゆる「がん(悪性腫瘍)」に分類されます4。増殖スピードが非常に速く、再発しやすい最も悪性度の高い髄膜腫です。このグレードと診断された場合は、手術、放射線治療、そして場合によっては薬物療法(新しい治療法を試す臨床試験を含む)を組み合わせた「集学的治療」によって、積極的に病気と闘っていく必要があります。
【重要】2021年WHO分類の革命:遺伝子がグレードを決める時代へ
本記事で最も強調したい点の一つが、この2021年のWHO分類改訂が持つ革命的な意味です。これは単なる小さな変更ではなく、髄膜腫の診断における「パラダイムシフト」と言えます。具体的には、「TERTプロモーター変異」や「CDKN2A/Bホモ接合性欠失」といった特定の遺伝子異常が認められた場合、たとえ顕微鏡で見た細胞の「顔つき(組織像)」がおとなしく見えても、それだけで自動的に最も悪性度の高いWHOグレードIIIと診断されるようになったのです4511。これは、髄膜腫の診断と予後予測が、従来の「見た目」から「遺伝子レベルで規定される本質」へと移行したことを意味します。将来的には、これらの遺伝子情報を標的とした個別化医療(プレシジョン・メディシン)の発展が大きく期待されており、あなたの治療方針を決定する上でも極めて重要な情報となります。
WHOグレード別 髄膜腫の比較表
項目 | WHO グレードI | WHO グレードII | WHO グレードIII |
---|---|---|---|
別名 | 良性髄膜腫 | 非定型髄膜腫 | 退形成性/悪性髄膜腫 |
頻度(国際)4 | 約80.5% | 約17.7% | 約1.7% |
頻度(日本)3 | 約92.4% | 約6.3% | 約1.3% |
診断基準(要約)4 | 低い細胞分裂能 | 中等度の細胞分裂能、脳への浸潤など | 高い細胞分裂能、またはTERT変異、CDKN2A/B欠失 |
5年相対生存率10 | 80-90%以上 | 50-79% | 14-34% |
10年相対生存率4 | 83.7% | データは限定的 | 61.7% ※研究によりばらつきあり |
再発リスク412 | 低い(全摘出後10年で10-20%) | 中程度(約50%) | 高い(約90%) |
【最重要データ】髄膜腫の生存率:グレード・年齢・治療法別の詳細な統計
読者の皆様が最も関心を寄せられている「生存率」について、最新かつ信頼性の高い大規模データを基に、様々な角度から詳しく見ていきます。ここで一つ、非常に重要な注意点があります。「生存率」は、あくまで同じ診断を受けた多くの患者さんの集団から得られた統計的なデータであり、あなた個人の余命を直接示すものでは決してありません。治療法の進歩により、これらの数値は常に改善されています。希望を持つための一つの目安として、冷静に情報を受け止めてください。
グレード別の5年・10年相対生存率(国際データ)
米国国立がん研究所(NCI)が運営する、信頼性の高いSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)プログラムのデータによると、髄膜腫の生存率はグレードによって大きく異なります。
- WHO グレードI: 予後は極めて良好で、10年後の相対生存率(がんでない人も含めた同年代の一般的な人口と比較して、どのくらい生存しているかを示す割合)は83.7%と報告されています4。
- WHO グレードII: 5年相対生存率は50%から79%の範囲にあるとされています10。治療方針の選択が予後に大きく影響します。
- WHO グレードIII: 5年相対生存率は14%から34%と厳しい数字になりますが10、これは過去のデータであり、後述する新しい治療法の開発によって、今後の改善が期待されています。
※一部の研究ではグレードIIIの10年生存率が61.7%という報告もありますが4、これは特定の患者集団を対象とした研究結果である可能性があり、解釈には注意が必要です。研究の対象や年代によってデータにばらつきがあることをご理解ください。
年齢が生存率に与える影響
一般的に、診断時の年齢が若い患者さんの方が、治療への耐性(体への負担に耐える力)や術後の回復力が高いため、予後が良い傾向にあります。NCIのデータでも、若年者の方が生存率が高いことが示されており13、これは日本の研究でも同様の傾向が報告されています14。
「無増悪生存期間(PFS)」という、もう一つの重要なものさし
生存率と同じくらい、あるいはそれ以上に患者さんの生活の質(QOL)にとって重要な指標が「無増悪生存期間(Progression-Free Survival: PFS)」です。これは、単に「生存しているか」だけでなく、「治療後に腫瘍が再発したり大きくなったりすることなく、安定した状態でいられる期間」を指します。例えば、グレードIIの髄膜腫に対する術後放射線治療の効果を検証したRTOG 0539試験では、3年無増悪生存期間が93.8%と非常に良好な結果が示されました10。治療の真の目的は、QOLを高く維持しながら、いかに穏やかな時間を長く過ごせるかにある、という視点も非常に大切です。
あなたの未来を左右する5つの予後因子
なぜ同じグレードと診断されても、その後の経過に違いが出るのでしょうか。その鍵を握るのが「予後因子」です。ここでは、あなたの今後の見通しを予測する上で特に重要とされる5つの因子を、優先順位の高い順に解説します。
因子1:WHOグレードと分子マーカー(最も重要)
前述の通り、WHOグレードが予後を予測する上で最も強力な因子であることは揺るぎません。特に、TERTプロモーター変異などの分子マーカーは、従来の組織学的グレード以上に予後を正確に反映する場合があることが、最新の研究で次々と明らかになっています4。ご自身の腫瘍の正確なWHOグレードと、可能であれば分子マーカーの情報を主治医に確認することが、第一歩となります。
因子2:手術の摘出度(Simpson分類)
手術で腫瘍をどれだけ完全に取り切れたかは、特にグレードIおよびIIの髄膜腫の再発率に直接影響します。この摘出度を示す国際的な指標が「Simpson分類」です。腫瘍本体だけでなく、腫瘍が付着していた硬膜やその周囲の骨まで含めて完全に取り切れた場合を「SimpsonグレードI」とし、最も再発率が低いとされています9。逆に、腫瘍の一部が残存した場合(亜全摘出)、グレードIであっても5年後の再発率が27%から47%にまで上昇するというデータもあり9、手術の完全性が極めて重要であることがわかります。
因子3:患者の年齢と全身状態(PS)
診断時の年齢や、他に持病があるかどうか(併存疾患)、そして日常生活をどの程度自立して送れているかを示す「パフォーマンス・ステータス(Performance Status: PS)」も、治療法の選択や治療への耐性、ひいては予後に影響を与える重要な因子です3。全身状態が良好であれば、より積極的な治療を選択できる可能性が広がります。
因子4:腫瘍の発生部位と大きさ
腫瘍がどこに発生したかも、予後を左右します。例えば、頭の奥深くにある「頭蓋底」と呼ばれる場所は、生命維持に重要な神経や血管が複雑に集中しているため、手術で腫瘍を完全に取り除くことが非常に困難な場合があります15。このような手術が難しい部位にできた腫瘍や、サイズが非常に大きい腫瘍は、予後不良因子となり得ます。
因子5:その他の因子(性別、MIB-1指数など)
その他にも、いくつかの因子が関連していると報告されています。髄膜腫は全体として女性に多い腫瘍ですが、悪性度の高いグレードIIやIIIは男性に多い傾向があります6。また、細胞の増殖能力を示す「MIB-1(またはKi-67)指数」という病理検査の指標があり、この数値が高いほど再発しやすいことが知られています8。
髄膜腫の最新治療法:あなたにとっての最適な選択とは
ここでは、現在日本で行われている標準的な治療法から、将来が期待される新しい治療法までを網羅的に解説します。これらの情報を基に、ご自身の治療について理解を深め、主治医との対話に主体的に参加するための「知識の地図」としてご活用ください。
髄膜腫の治療選択肢 概要比較表
治療法 | 主な対象となる患者 | 治療の目的 | 主な利点 | 主なリスク・副作用 |
---|---|---|---|---|
経過観察 | 無症状・小型のグレードI | 腫瘍の増大や症状出現の監視 | 治療による身体的負担がない | 腫瘍増大による症状出現の可能性、精神的ストレス |
外科手術 | 症候性、増大傾向、グレードII/III | 根治(全摘出)、症状緩和、組織診断 | 最も根治性が高い、症状の即時改善 | 手術リスク(出血、感染、神経損傷)、後遺症3 |
放射線治療 | 手術困難例、術後残存、再発、グレードII/IIIの術後補助療法 | 腫瘍の増殖抑制、再発率低下 | 非侵襲的、手術不能例にも適用可 | 放射線による晩期障害(脳浮腫、認知機能低下、二次がん)16 |
薬物療法 | 再発・難治性のグレードII/III | 腫瘍の増殖抑制(延命) | 全身に効果が及ぶ可能性 | 副作用、効果が限定的(標準治療未確立)9 |
経過観察(Watchful Waiting):何もしない、という積極的な選択
脳ドックなどで偶然発見された、症状がなくサイズの小さいグレードIの髄膜腫の多くは、すぐに治療を開始する必要はありません。定期的なMRI検査で腫瘍の大きさや形に変化がないかを慎重に観察する「経過観察」が、世界の標準的な考え方です8。これは「何もしない」のではなく、最適なタイミングで治療介入できるよう専門家が見守る、積極的な医療戦略の一つです。
外科手術(Surgical Resection):根治を目指すための第一選択
腫瘍が大きくなって周囲の脳を圧迫し、頭痛や麻痺などの症状を引き起こしている場合や、増大傾向にある場合には、手術による摘出が根治を目指すための最も基本的な治療法となります。日本の脳神経外科医の技術水準は世界トップクラスであり、脳腫瘍全国統計(BTRJ)によると、髄膜腫の手術が直接の原因で院内で死亡する割合は0.59%と極めて低いことが報告されています3。これは患者さんにとって大きな安心材料です。一方で、手術には出血や感染、神経損傷などのリスクが伴い、特に再手術の場合は合併症のリスクが高まることも知られており8、治療の利益と不利益を十分に理解することが重要です。
放射線治療(Radiation Therapy):手術を補完する、もう一つの柱
手術が困難な場所に腫瘍がある場合や、手術で取り切れなかった腫瘍に対する追加治療、そして再発した場合や、グレードII/IIIの術後再発予防において、放射線治療は極めて有効な選択肢です。ガンマナイフやサイバーナイフに代表される、腫瘍にピンポイントで高線量の放射線を照射する「定位放射線治療(SRS)」から、数週間にわたって少しずつ照射する「分割照射(FSRT)」、さらには先進医療である「陽子線治療」まで、様々な方法があります15。前述のRTOG 0539試験10の結果など、科学的根拠に基づいて最適な方法が選択されます。
薬物療法(Systemic Therapy):未来への希望
現時点では、残念ながら髄膜腫に対して広く有効性が認められた標準的な薬物療法(抗がん剤など)は確立されていません。これは、正直にお伝えしなければならない現実です。しかし、それで終わりではありません。世界中の研究者が、髄膜腫の増殖に関わる分子メカニズムを解明し、スニチニブやベバシズマブといった「分子標的薬」や、ペムブロリズマブなどの「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた臨床試験を精力的に進めています8。これらの研究が、将来的に再発・難治性の髄膜腫患者さんにとっての新たな希望となることが期待されています。
日本の患者様へ:診断から治療、そして自分らしい生活まで
最後に、日本の医療・社会環境に即した、具体的で実践的な情報を提供し、診断後の日々を歩まれるあなたとご家族をサポートします。
日本における髄膜腫の現状(疫学)
国立がん研究センターが公表している最新のがん統計によると、日本国内で2019年に新たに脳・中枢神経系の腫瘍と診断された方は28,349例でした17。この中で髄膜腫が占める割合は最も高く、日本の脳腫瘍診療における重要な位置を占めています。
診断後の流れと信頼できる医療機関の選び方
診断後は、精密検査(造影MRIなど)を経て、脳神経外科医、放射線治療医、病理医などが連携する「キャンサーボード」と呼ばれる会議で、個々の患者さんに最適な治療方針が検討されるのが一般的です。治療法選択に迷いや不安がある場合、「セカンドオピニオン」を求めることは、ご自身が納得して治療に進むための重要な権利です。脳外科医の澤村豊医師も、特に専門家を名乗る個人のクリニックなどについては慎重な判断が必要であると指摘しており8、複数の専門家の意見を聞くことの重要性がうかがえます。
ひとりで悩まないで:患者会と体験談から得られる力
同じ病気を経験した方々の声は、何よりの力になります。個人のブログ18や、患者会での交流19は、医学書には載っていない生活上の工夫や、治療中の心の持ち方、社会保障制度の活用法など、貴重な情報を得る場となります。また、同じ痛みや不安を分かち合える仲間がいるという事実は、孤独感を和らげ、病気と向き合う勇気を与えてくれるでしょう。
よくある質問
Q1: 良性の髄膜腫でも再発はしますか?
はい、可能性はゼロではありません。特に手術で腫瘍を完全に取り切れなかった場合(亜全摘出)や、グレードIIと診断された場合は再発リスクが高まります。WHOグレードIの髄膜腫を手術で完全に摘出できた場合でも、10年間で10%から20%程度の患者さんで再発する可能性があると報告されています8。だからこそ、治療を終えた後も、定期的なMRI検査による経過観察が非常に重要になるのです。
Q2: 手術の合併症が心配です。リスクはどのくらいですか?
日本の大規模な調査(脳腫瘍全国統計)によると、髄膜腫の手術が直接の原因となって院内で死亡するリスク(手術関連死亡率)は0.59%と、国際的に見ても極めて低い水準です3。しかし、何らかの合併症が起こる可能性はあり、同調査では約19.3%の患者さんで術後合併症が報告されています。具体的には、けいれん発作、手足の麻痺といった神経症状の悪化、創部の感染症などです。手術のリスクと、治療によって得られる利益(症状の改善や根治の可能性)を主治医と十分に話し合い、ご自身が納得した上で治療に臨むことが不可欠です。
Q3: 放射線治療に副作用はありますか?
はい、副作用は起こる可能性があります。治療中や治療直後に見られる早期の副作用としては、照射部位の脱毛、皮膚の炎症、だるさ(倦怠感)などがあります。より注意が必要なのは、数ヶ月から数年経ってから現れる可能性のある「晩期障害」です。具体的には、脳のむくみ(脳浮腫)、記憶力や集中力の低下といった認知機能への影響、そして非常に稀ではありますが、放射線が原因で新たな腫瘍(二次がん)が発生するリスクもゼロではありません16。しかし、近年の放射線治療技術の進歩は目覚ましく、ガンマナイフやサイバーナイフなどにより、標的となる腫瘍にピンポイントで放射線を集中させ、周囲の正常な脳組織への影響を最小限に抑えることが可能になっています。
結論:希望を持って、あなた自身の治療に主体的に参加するために
本記事を通して、髄膜腫の生存率がWHOグレードによって大きく異なること、しかし正確な診断と適切な治療戦略によって、多くの場合、長期的に良好な経過が期待できることをご理解いただけたかと存じます。特に、分子生物学の目覚ましい進歩は、髄膜腫の診療を「個別化医療」の新たな時代へと導きつつあり、今後、予後はさらに改善していくという大きな希望があります。最も重要なことは、あなたが孤立しないことです。本記事で得た知識を一つの「武器」として、ご自身の主治医と積極的に対話し、信頼できる情報に基づいて治療の意思決定に主体的に参加してください。その前向きな姿勢こそが、病気と向き合い、あなたらしい人生を歩み続けるための最大の力となるでしょう。
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