高い致死率を伴う肝腎症候群とは?原因と対策
腎臓と尿路の病気

高い致死率を伴う肝腎症候群とは?原因と対策

はじめに

肝腎症候群とは、重度の肝障害(とくに肝硬変など)に伴い、腎機能まで急激に悪化する深刻な状態を指します。腎不全と肝不全が同時に進行するため、適切な治療が行われない場合、生命予後は非常に厳しいとされています。今回の記事では、肝腎症候群の概要、原因、症状、治療法、そして日常生活で気をつけるべきポイントや、どのように予防策を講じればよいかについて、できるだけ詳しく解説します。本稿は、多くの医療文献や信頼できる学会の情報を参考にしながらまとめていますが、あくまでも一般的な情報提供を目的としています。

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本記事の内容にあたっては、肝臓病や腎臓病に関する研究・情報を扱う複数の専門学会や論文をもとにまとめています。また、肝臓病や腎臓病に精通している臨床医からの情報も参考にしています。ただし、読者のみなさまの健康状態は個人差が大きいため、実際の治療やケアについては必ず医師など医療専門家の指示を仰いでください。

肝腎症候群とは何か

肝腎症候群(Hepatorenal Syndrome)は、進行した肝疾患(主に肝硬変)を背景として腎臓が高度に障害される状態を指します。肝不全に加えて腎不全が急速または徐々に進行し、体内の老廃物や毒素が排出されにくくなることから、身体に重大なリスクをもたらします。日本国内でも肝硬変の患者数は一定数おり、ウイルス性肝炎やアルコール性肝障害などさまざまな要因が背景にありますが、いずれにせよ肝臓が大きく損なわれた状態で腎臓まで機能低下に陥ると、重篤化しやすいことが知られています。

実際に、肝硬変を持つ患者が腎障害を起こす確率は低くはなく、肝腎症候群に至ると治療が難渋しやすい点が問題視されています。近年の医療現場では、肝移植が進行例における有力な選択肢になりつつある一方、ドナー不足や患者個々の全身状態により、全員が移植を受けられるわけではありません。そのため、早期の段階で肝腎症候群を疑い、適切な治療を始めることが極めて重要です。

肝腎症候群の分類

肝腎症候群は、症状の進行速度や腎機能の変化などに基づいて大きく2つに分けられます。

  • タイプ1(急速進行型)
    腎機能が急激に低下し、血中クレアチニン濃度が短期間で大幅に上昇する場合を指します。わずか2週間前後のうちに、透析が必要となるほど重症化することも珍しくありません。
  • タイプ2(徐々進行型)
    ゆるやかに腎機能が悪化していき、むくみや腹水などが徐々に増悪しながら進行します。タイプ1に比べるとやや進行が遅い一方で、臨床症状がはっきりしない段階もあるため、発見が遅れやすい傾向があります。

タイプ1では、ほとんどの患者が短期間での死亡リスクを抱えており、急激に容体が悪化してしまうケースが報告されています。タイプ2の場合、急激な変化は少ないものの、最終的には肝移植以外では充分な改善が見込めない状態になることが多いとされています。

なお、米国立生物工学情報センター(NCBI)に掲載された臨床報告によると、タイプ1の肝腎症候群は早期に肝移植や適切な処置を行わなければ、平均余命は数週間から2か月程度と非常に短いことがわかっています。タイプ2でも平均6か月程度とされるため、どちらも生命予後は厳しいと考えられます。

肝腎症候群の主な症状

肝腎症候群が進行すると、肝硬変の諸症状に加えて、腎不全に伴う症状が重なり、非常に多彩な臨床所見が現れます。もし以下のような症状がみられた場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

  • 意識混濁や錯乱、せん妄
    血液中にアンモニアなどの毒素が蓄積すると、脳機能に障害が及び、意識障害や精神症状が生じることがあります。
  • 悪心・嘔吐
    体内の老廃物や毒素が十分に排泄されないため、嘔気や嘔吐が続く場合があります。
  • 記憶力低下
    軽度の意識混濁から生じるもので、集中力や判断力が落ち、普段の生活でミスが増える、会話を忘れやすいといった症状が現れることがあります。
  • 短期間の急な体重増加
    腹水や浮腫が増し、急激に体重が増える場合があります。
  • 皮膚や眼球の黄疸
    肝障害が進んでビリルビンが排泄されなくなると、黄疸が生じます。
  • 尿量の減少と尿の濃色化
    腎機能が低下すると尿量が顕著に減り、色が濃くなることが多いです。
  • 腹部膨満感(腹水)
    肝硬変による門脈圧亢進などが背景にあり、腹水がたまって腹部が張ります。

こうした症状の背後に腎不全がある場合、さらに高カリウム血症や電解質バランスの乱れなどを起こす恐れがあり、心機能や神経機能まで広範囲に悪影響を及ぼすリスクがあります。

肝腎症候群の原因と誘因

肝腎症候群は、基本的に進行した肝硬変を背景として生じます。肝機能が大幅に低下すると、血液循環の異常や電解質異常が起こり、最終的には腎血流量が著しく減少することが原因の一つです。加えて、以下のような要因が肝腎症候群を誘発しやすいと考えられています。

  • 低血圧
    慢性的な低血圧や循環不全があると、腎臓への血流がさらに低下しやすくなります。
  • 利尿薬の過剰使用
    腹水や浮腫に対して利尿薬が処方されることがありますが、投与量が過剰になると血管内脱水が進行し、腎血流が減少するリスクがあります。
  • アルコール性肝炎の急性増悪
    長年の大量飲酒や急性アルコール性肝炎によって、短期間で肝機能が悪化し、腎臓にも大きなダメージが及ぶケースがあります。
  • 消化管出血(とくに胃腸出血)
    出血によって循環血液量が減少すると、腎血流量も低下しやすくなります。
  • 細菌感染(自然発症性腹膜炎など)
    肝硬変患者は免疫力が低下している場合があり、腹水への細菌感染を起こしやすいです。これにより炎症が全身に広がり、腎への悪影響を強める可能性があります。
  • 肺水腫
    血行動態が乱れると肺にも水が溜まりやすく、全身的な循環不全がさらに進行することがあります。
  • 皮膚潰瘍の悪化
    循環障害によって皮膚の血行が悪くなり、潰瘍ができたり感染のリスクが高まったりすることで、全身の炎症が増悪しやすいです。

肝硬変から肝腎症候群への移行は、ひとたび始まると非常に制御しにくいため、慢性肝疾患を抱えている場合は、こうしたリスク要因を常に意識して生活管理や治療を行うことが大切です。

診断方法

肝腎症候群の確定診断には、以下のような検査が重要になります。

  1. 血液検査
    肝機能(ビリルビン、アルブミン、AST、ALT、プロトロンビン時間など)と腎機能(クレアチニン、血中尿素窒素、電解質など)を評価し、肝障害の程度と腎機能の低下度合いを総合的に把握します。
  2. 尿検査
    尿中ナトリウムや尿中クレアチニンなどを測定し、腎の濃縮機能や塩分排泄能を評価します。肝腎症候群では尿中ナトリウムが極端に低下することが多いと報告されています。
  3. 画像検査
    腹部超音波、CT、MRIなどにより、肝臓や腎臓の形態的評価、腹水の有無と量、血行動態の異常などを確認します。
  4. 他の肝疾患や腎疾患の鑑別
    ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎などの肝病因を特定するために血清マーカーを調べたり、腎臓そのものに病変(糸球体腎炎など)がないかどうかを評価したりします。

日本でも肝硬変の診断基準や慢性肝疾患の病期評価がガイドライン化されており、その中で腎機能悪化の指標としてクレアチニン値の推移が重視されています。肝腎症候群の診断は、ほかに明確な腎病変がないにもかかわらず、肝疾患を背景として急激に腎が悪化していることを示す所見が得られれば、臨床的に強く疑われます。

肝腎症候群の治療法

肝腎症候群の治療は、多くの場合以下のようなアプローチが中心になります。

  • 循環動態の安定化と血圧管理
    血圧が著しく低下している場合、輸液や血管作動薬(昇圧薬)などを用いて腎血流を保とうとする治療が行われます。
  • 利尿薬の調節
    腹水やむくみのコントロールに不可欠な利尿薬ですが、過度な使用は腎血流低下を招きます。そのため、使用量や種類の最適化が重要です。
  • 血液浄化療法(透析など)
    腎不全が進行して尿毒症症状(毒素蓄積による意識障害など)が強い場合、血液透析や持続的血液ろ過透析(CHDF)が検討されることがあります。ただし、肝臓機能も悪化している状況での透析管理は慎重を要するため、専門医によるきめ細かい対応が必要です。
  • 肝移植
    根本的な治療としては肝移植が最も効果的であるとされています。肝臓自体を新しく置換すれば、腎機能が回復する可能性が高まるからです。実際に、アルコール性肝硬変やウイルス性肝炎による重度肝硬変でも、移植後に腎機能が改善し長期生存が期待できるケースがあります。ただし、ドナー不足や年齢的・全身的リスクなど、実際の適応は厳格に判断されます。

近年では、肝腎症候群の原因病態に基づいた薬物療法の研究も進んでいます。たとえば、血管作動薬(テラリプレシンなど)とアルブミン製剤を併用することで一部の患者に腎機能の改善がみられるという報告があり、Journal of Clinical Medicine誌に2021年に掲載された系統的レビュー(Facciorusso A. らによるメタ解析, doi:10.3390/jcm10091907)でも、テラリプレシン治療とアルブミン投与の併用が一定の効果をもたらす可能性が示されています。ただし、これらの薬剤は副作用や使用条件も厳しく、専門医の管理下で行われるべき治療です。

肝腎症候群の予後と合併症

肝腎症候群においてもっとも大きな問題は、その致死率の高さです。タイプ1は急激に腎不全が進行するため、2週間程度で致命的な状態に陥るケースもあります。タイプ2は比較的進行が緩徐ですが、それでも半年ほどで深刻な状態になると報告されています。

特に日本を含む先進国では、肝移植が行える医療施設は増えているものの、ドナーの不足や移植待機中の合併症によって多くの患者が移植前に悪化してしまう現状があります。重度の肝硬変に併発する腎不全は、以下の合併症を伴いやすいことも問題を複雑にしています。

  • 体液貯留による呼吸障害
    腹水や胸水が増加すると、横隔膜が圧迫され呼吸困難を生じやすくなります。
  • 感染症(二次感染)
    免疫能が低下しているため、肺炎、尿路感染症、腹膜炎などを併発しやすくなります。
  • 多臓器不全
    腎臓の悪化だけでなく、心臓や肺など他の臓器への影響が連鎖的に波及することがあります。
  • 意識障害(肝性脳症)
    有害物質が脳に蓄積すると、肝性脳症により高度な意識障害や昏睡状態を引き起こす可能性があります。

肝腎症候群を防ぐために

肝腎症候群の直接の予防策としては、まず肝臓を健やかに保つことが重要です。肝硬変に進行しないよう、日常生活で以下のポイントを心がけましょう。

  • 過度のアルコール摂取を避ける
    アルコール性肝炎やアルコール性肝硬変は日本でも主要な肝障害の原因の一つです。とくに多量飲酒の習慣がある方は医療機関で定期的に肝機能をチェックし、指導を受けることを推奨します。
  • 肝炎ウイルス対策(B型・C型など)
    B型肝炎とC型肝炎は肝硬変・肝がんへの進行リスクが高いため、未接種の方はB型肝炎ワクチンの接種を検討し、C型肝炎ウイルス感染が疑われる場合は早期に検査・治療を受けましょう。
  • 安全な性行為の徹底
    一部のウイルス性肝炎は血液・体液を介して感染する可能性があります。コンドームの使用など、安全策を講じることが大切です。
  • 感染予防
    肝硬変になると免疫が低下しがちです。手洗い、うがい、衛生的な生活習慣を維持し、体を守ることが望ましいです。
  • 医師による定期フォロー
    肝硬変の診断を受けている方は、症状が軽い段階でも定期的に血液検査や画像検査を受け、早期に肝腎症候群や合併症が疑われる兆候を捉えられるようにしてください。

また、ウイルス性肝炎の中でもC型肝炎用のワクチンは現時点で実用化されていませんが、適切な衛生管理医療機関での定期検査によって予防・早期発見が十分に可能です。

新しい研究動向

近年、肝腎症候群やその前段階である肝硬変・門脈圧亢進症に関する研究が活発化しています。Wong, F.ら(2021年)による文献(J Clin Transl Hepatol, 9(5): 715-727, doi:10.14218/JCTH.2020.00085)では、肝腎症候群の病態メカニズムと治療法に再検討が加えられ、従来の病態分類や新規治療薬の可能性について言及しています。これはカナダの多施設共同研究を含むレビュー論文であり、主に急性増悪型(タイプ1)の治療について血管作動薬とアルブミンの併用療法を推奨する報告がされています。

さらに、Angeli, P.ら(2023年)が欧州肝臓学会(EASL)関連のガイドラインにおいて提示した報告(Journal of Hepatology, 79(1): 70–90, doi:10.1016/j.jhep.2023.02.012)では、急性肝不全および慢性肝不全が複合した状態(Acute-on-Chronic Liver Failure; ACLF)のマネジメントの中で、腎機能保護の重要性が強調されています。これらのガイドラインは、日本の肝臓専門医にとっても参考になる内容であり、今後の臨床現場での治療方針にも大きく影響を与えるとみられています。

日本国内でも同様に、急性型肝腎症候群の救命率向上に向けて血液浄化療法のタイミング薬物療法の最適化についての研究が行われており、国際学会でも結果が報告されています。国際標準治療と日本の医療環境を踏まえ、さらに高い精度の診療ガイドラインが確立されることが期待されています。

日常生活上のポイント

肝腎症候群の発症を防ぐため、あるいは肝硬変の段階から少しでも病態を安定させるためには、日常生活での注意が欠かせません。下記のような点を意識するとよいでしょう。

  • 塩分管理
    食事の塩分摂取量を抑えることで、浮腫や腹水を軽減し、利尿薬の使用量を抑える助けになります。
  • タンパク質の摂取コントロール
    肝性脳症のリスクがある方は、過度な高タンパク食を避け、必要量を医師や管理栄養士と相談しながらコントロールすることが推奨されます。
  • 適度な運動
    重度の肝疾患を抱える方でも、無理のない範囲のウォーキングや軽いストレッチを行い、筋力維持と血流改善を図ることが推奨されています。
  • 脱水予防
    過度な利尿薬使用や下痢・嘔吐により脱水状態に陥ると、腎血流がさらに低下する恐れがあります。こまめな水分補給と、医師の指示に従った利尿薬の調整が重要です。
  • アルコールを極力控える
    アルコールによる肝機能悪化を防ぎ、追加で腎機能に影響を与えないためにも、断酒を含む厳格な節酒が推奨されます。
  • 定期的な検査と医師のフォローアップ
    肝臓と腎臓の機能を定期的に検査し、わずかな変化でも見逃さないようにすることが大切です。

特に日本では、定期健康診断や人間ドックを受ける習慣がある方が多いため、そのタイミングを活かして肝機能や腎機能の状態をチェックし、異常があればすぐに専門医へ相談することが理想的です。

肝腎症候群と他の病気との関連

重度の肝硬変は、しばしば糖尿病脂質異常症、さらには他の代謝性疾患とも関連が指摘されます。肝機能が低下することでインスリン抵抗性が上がり、糖代謝異常を引き起こすケースもあるため、合併症としての糖尿病管理が必要になる場合があります。また腎臓が悪化すると血圧調整にも支障が出るため、高血圧を合併することも珍しくありません。

これらの合併症があると、肝腎症候群の治療はさらに複雑になります。例えば血糖コントロールのための薬剤選択や降圧薬の使用など、複数臓器を総合的に管理することが求められます。そのため、患者自身が病状をよく理解し、消化器内科医や腎臓内科医だけでなく、糖尿病や循環器の専門医とも連携をとる多職種アプローチが重要になります。

肝移植への展望

肝腎症候群において期待される最終的な治療手段が肝移植です。しかし、肝移植を受けるためには以下のような課題があります。

  • ドナー不足
    提供可能な肝臓は決して多くないため、患者は移植待機リストに長期間載る可能性があります。その間に病状が進行し、移植不能になってしまう例もあります。
  • 手術リスク
    肝硬変と腎不全で体力が大きく衰えている場合、移植手術に耐えられるかどうかの判断が困難になるケースがあります。
  • 拒絶反応や術後感染
    免疫抑制剤の使用で拒絶反応を抑えますが、そのぶん感染症のリスクが上がります。腎機能がすでに低下している場合は、感染管理に細心の注意が必要です。

ただし、移植が成功すれば腎機能が回復し、元の生活に近い状態を取り戻せる可能性があります。実際に、日本国内でも肝移植後の長期生存率は着実に向上しており、特に若年層では高いレベルで社会復帰を果たしているケースが多く報告されています。

治療上の新たな知見

近年、血管作動薬やアルブミン製剤だけでなく、新規生物学的製剤肝再生医療の研究などが活発に行われています。European Association for the Study of the Liver(EASL)の会合でも、肝不全と腎不全を同時にケアするための包括的アプローチが提唱され、例えば肝臓の再生力をサポートするための細胞療法や、門脈圧を低減させるための内視鏡的治療、手術的治療とあわせて腎保護を進める方法などが検討されています。

まだ実験段階のものも多いですが、これらの新しいアプローチが日常臨床に導入されれば、肝腎症候群の重症度を低減し、移植以外の治療選択肢が増える可能性があります。たとえば一部のメソッドでは、肝臓の残存機能を補助する人工肝臓装置の開発や、腎不全に対する最新の血液浄化療法と組み合わせることで、重症期を乗り切り、移植の機会を得るまでの時間をかせぐことを目指しています。

肝腎症候群と日本の医療体制

日本では、肝移植のほとんどが脳死ドナー提供ではなく、親族などからの生体肝移植が中心となるケースが少なくありません。しかし、ドナー側のリスクや倫理的問題があり、また血縁者の健康状態によっては適合しないことも多々あります。そのため、肝移植を検討する段階で専門チームによる多角的な評価が行われ、患者自身や家族との話し合いを重ねる必要があります。

一方で、腎移植を同時あるいは段階的に検討するケースも一部に存在します。肝腎両方の深刻な障害がある場合、同時移植または肝移植後に腎移植を行う戦略が海外では報告されていますが、日本においては移植制度や法的手続き、ドナーの確保などのハードルが高いため、現実的にはすぐに普及できる状況ではありません。

具体的な生活改善・予防策

肝腎症候群を予防するうえで、特に意識していただきたい日常生活の改善や注意点をまとめます。

  • 飲酒量のコントロール
    肝障害のある方は、医療者と相談の上で可能な限り禁酒または節酒を徹底しましょう。
  • 規則正しい食習慣と栄養バランス
    肝機能や腎機能を維持するためにも、栄養バランスを意識した和食中心の食事、塩分制限やタンパク質摂取の量・質に注意した献立が推奨されます。
  • 休養と睡眠の確保
    疲労が蓄積すると肝機能や免疫力が低下しやすいため、十分な休息と質のよい睡眠を心がけましょう。
  • 医療機関での定期検査
    肝硬変や慢性肝炎が疑われる場合、定期検査で肝臓と腎臓の状態をモニタリングすることが大切です。
  • 感染予防
    日頃から手洗い・うがいの徹底に加え、B型肝炎のワクチン接種やインフルエンザワクチンの接種など、必要な予防接種を受けることで感染症のリスクを下げることにつながります。
  • 薬剤の正しい使用
    慢性肝疾患を抱えている方はとくに、市販薬やサプリメントをむやみに使用するのは避け、かかりつけ医と相談しながら適切な薬剤管理を行うようにしましょう。
  • 体重管理
    急激な体重増減は腹水や浮腫の進行、あるいは肝機能低下の表れである場合があります。自宅で定期的に体重を測定し、変化が大きいと感じたら早めに受診してください。

肝腎症候群と今後の展望

医学の進歩により、肝硬変や腎不全に対する治療選択肢は拡大しています。肝性脳症の管理薬の改良や抗ウイルス療法の進展によって、ウイルス性肝炎から肝硬変への移行を遅らせられる可能性も高まっています。また、肥満やメタボリックシンドロームに伴う肝障害を対象とした新薬開発も活発化しており、将来的にはアルコール性やウイルス性以外の肝障害に対しても効果的な治療薬が増えると期待されています。

ただし、肝腎症候群は依然として重篤化すると救命が難しい病態です。早期発見と早期介入、適切な生活管理が治療成績を左右するため、慢性肝疾患を抱えている方はもちろん、肝臓や腎臓に不安を感じる方は定期検査や専門医のフォローアップを怠らないようにしましょう。

結論と提言

肝腎症候群は、重症の肝疾患がもととなり腎不全が進行する危険な病態です。タイプ1では急激に腎機能が低下し、わずかな期間で生命に関わるケースも多く、タイプ2も半年程度で深刻化する例が少なくありません。治療の根幹は、肝移植によって肝機能そのものを回復させることですが、ドナー不足や患者の全身状態によっては実施が困難な場合も多くあります。

本症候群の予防策としては、肝機能を損なわない生活習慣づくりが最優先です。過度の飲酒を避け、ウイルス性肝炎の予防接種や早期治療、適切な栄養と休養、定期的な医療フォローアップを行うことで、肝硬変へ進行するリスクを下げられます。また、慢性肝疾患を抱えている方は利尿薬の使い方や低血圧・感染の管理など、腎への負担を増やさないよう注意する必要があります。

一方、医療技術の進歩により、薬物療法や血液浄化療法の改善、さらには再生医療を含む新たな治療法が研究されています。欧米や日本の最新ガイドラインをもとに、血管作動薬やアルブミンなどを組み合わせた薬物療法も効果が示唆されており、特定の患者群では腎機能を一時的に改善できる可能性があります。ただし、こうした治療法も根治をもたらすことは難しく、肝移植が依然として最も有効な最終手段であることに変わりはありません。

肝腎症候群に直面した患者とその家族にとって、情報不足やドナー不足など多くの困難があるのも事実です。だからこそ、早期の段階から専門医と十分に連携を図りながら、適切な検査・治療を受けることが重要となります。さらに、肝疾患のリスクを抱える方は普段の生活を見直し、アルコールを控え、ウイルス性肝炎の可能性をチェックするなど、継続的な予防と早期発見に努めてください。

重要: この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、専門家による医療アドバイスの代替とはなりません。具体的な診断や治療方針については、必ず医師などの専門家にご相談ください。

参考文献

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  • Angeli P. ら (2023) “European Association for the Study of the Liver–European Foundation for the Study of Chronic Liver Failure Clinical Practice Guidelines for the Management of Acute-on-Chronic Liver Failure”, Journal of Hepatology, 79(1): 70–90, doi:10.1016/j.jhep.2023.02.012

本記事はさまざまな信頼できる情報源を参考に作成しておりますが、個別の症状や治療方針に関しては医師・薬剤師などの専門家と相談されることを強くおすすめします。医療は日々進歩しており、最新情報や患者さん自身の状況によって最適な選択肢は変わる可能性があります。症状が疑われる場合やご不安がある場合は、専門医療機関への受診を早めにご検討ください。

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