はじめに
日常的に運動を行うことは、健康増進や体力維持にとって大切な行為であると広く認識されています。しかし一方で、激しい運動をやりすぎると、女性が妊娠しにくくなる恐れがあるという説も近年注目を集めています。特に、若い女性で体力に自信があり、長時間かつ高強度のトレーニングを積み重ねる人にとっては、「運動が体に良いはずなのに、なぜ妊娠を遠ざける場合があるのか?」という疑問も生まれがちです。本記事では、なぜ過度の運動が妊娠に影響を与える可能性があるのか、どのように運動量と妊娠準備を両立させればよいのか、研究や専門家の知見に基づきながら詳しく掘り下げていきます。さらに、運動と食事や生活習慣との組み合わせ方についても解説し、過度なストレスを避けつつ健康的に妊娠を目指すためのポイントを整理します。
免責事項
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専門家への相談
本記事の内容は、多くの研究や専門家の見解をもとにまとめられています。実際に妊娠を考えている女性や、強度の高いトレーニングを行っていて妊娠に不安を感じる方は、必ず主治医や産婦人科医などの医療専門家に相談することが望ましいです。本記事中で紹介しているのは、あくまでも参考情報であり、個別の症状や体質、既往症に合わせた詳細な診断やアドバイスは専門家にしかできません。なお、本記事の医療アドバイザーとして言及されているのは、もともと記事内で示されていた内科・総合内科領域の専門家である Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(ベトナム語表記のまま)です。したがって、当該医師の肩書は原文に基づいて保持し、日本語訳は行っていません。これは読者が確認・参照できるようにするための措置です。
運動量と妊娠の関係:過度のトレーニングは妊娠を妨げる可能性がある
激しい運動は基礎代謝を大きく上げ、肥満や生活習慣病の予防には大いに役立つとされています。その一方で、消費カロリーが増えすぎることにより、妊娠に必要なエネルギーが不足したり、ホルモンバランスを乱したりすることがあるという報告があります。以下では、高強度の運動と妊娠の関係を示唆する主な研究や理由を整理しながら解説します。
過度の運動が女性の妊娠に影響を与えると示唆する研究
- ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究
ノルウェーのノルウェー科学技術大学(NTNU)が行った調査では、日常的に激しい運動を習慣化している若い女性の一部で、一定期間妊娠しづらくなる傾向が確認されました。これは「エネルギー不足」により、妊娠に必要な生殖ホルモンを含む内分泌系の働きが乱れる可能性を示しています。ただし長期的にみると、最終的には多くの女性が妊娠に至っており、あくまで一時的な影響にすぎない場合が多いと報告されています(“Hard Workouts Reduced Fertility” ノルウェー科学技術大学サイト 参照)。 - Verywellfamily の記事
“Can Too Much Exercise Decrease Your Fertility?” では、女性の過度なトレーニングが月経周期(とくに黄体期)へ影響を及ぼす恐れがあるとされています。黄体期が短縮したり、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が低下すると、受精卵の着床が不安定になる場合があります。 - Healthline の記事
“The Unsuspecting Way Being Fit May Damage Your Fertility” でも同様に、体重が標準範囲にある女性が過度の運動を続けると、生殖ホルモンの分泌や排卵周期に影響を及ぼし、妊娠の成立が遅れる可能性を指摘しています。
さらに、2022年にアメリカ合衆国のAmerican Journal of Epidemiology(疫学領域の国際的な学術誌)において White らが発表した前向きコホート研究(DOI: 10.1093/aje/kwac163)では、「日常の身体活動量・座って過ごす時間・睡眠時間と排卵障害(またはホルモンレベル)との関連」を詳細に調査しています。研究対象となった女性たちは、過度の運動を継続するグループよりも、適度な運動を継続し生活習慣を整えているグループのほうが、排卵障害リスクやホルモンの乱れが少ない傾向にあることが示されました。この研究結果は、運動そのものは悪ではない一方で、「やりすぎ」に注意しながら、適度に行うことが妊娠を望む女性にとって重要である可能性を補強しています。
なぜ激しい運動は妊娠を妨げるのか?
エネルギー不足による内分泌系への影響
体を動かすには大きなエネルギーが必要です。激しく運動した場合、消費エネルギーが非常に大きくなるため、身体維持や排卵などの生殖機能に振り分けられるエネルギーが不足しがちになると考えられています。特に、食事制限も同時に行っている場合や体脂肪率が極端に低い場合には、女性ホルモンを安定して分泌するための条件が乱れ、排卵が不規則になりやすくなります。
ホルモンバランスの乱れ
- 黄体期の短縮:
生理周期のうち、排卵後にあたる黄体期が短くなると、受精卵の着床に必要な時間が確保されません。黄体ホルモン(プロゲステロン)は子宮内膜を妊娠に適した状態に保つ役割を担うため、プロゲステロンの分泌が運動過多により下がると、受精卵が着床しにくくなります。 - 視床下部-下垂体-卵巣系への影響:
生殖ホルモンの分泌調整を行う視床下部や下垂体は、強度の高い運動や体重減少の刺激に弱く、その結果として卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオールの分泌に異常が生じる場合があります。 - レプチン(leptin)の低下:
レプチンは脂肪細胞から分泌され、食欲や代謝を調整するホルモンとされます。体脂肪が少ない女性や激しい運動で急激に体重が落ちた女性はレプチン濃度が下がりやすく、排卵不全が起こりやすいとの指摘があります。
調査結果:運動をしすぎると妊娠が遅れる女性がいる
NTNUの大規模調査
ノルウェー科学技術大学(NTNU)は、1984〜1986年に行われた健康調査と、そのおよそ10年後(1995〜1997年)に実施した調査結果を突き合わせ、約3,000人の女性を対象に運動習慣と妊娠の成否を解析しています。この研究では、以下のような特徴が確認されました。
- ほぼ毎日、高い強度で運動を行う女性:
1年以内に妊娠に至らない確率(不妊傾向にある確率)が有意に高い。 - 一度のトレーニングで完全に“くたくた”になるまで運動する女性:
こちらも同様に、妊娠しにくいという傾向が示唆された。
ただし、研究者らが指摘しているように、この影響は一生続くわけではなく、「激しい運動をいったん控える」「年齢を重ねて運動スタイルを変える」などの要因が加われば、最終的には多くの女性が無事に子どもを授かっているという点も見逃せません。運動量と妊娠準備を両立させるには、一時的でも運動強度を調整することが有効と考えられます。
年齢と運動強度の相乗効果
同じように激しい運動をしていても、20代前半と30代半ば以降では体の反応が異なる可能性があります。若年層はホルモン分泌が比較的安定しており、体力面でも回復しやすいため、運動の影響が一時的で済みやすいという見方があります。一方、30代後半に差しかかると、もともと卵巣機能が徐々に落ち始め、排卵の規則性も低下する傾向が見られます。そこへ強度の高い運動を重ねると、妊娠がさらに難しくなるリスクが上がると指摘する専門家もいます。
運動を全くしないのもよくない:適度な運動がカギ
「運動をやりすぎると妊娠を妨げる可能性がある」と聞くと、まったく運動しないほうが良いのかと思われる方もいるかもしれません。しかし、それも得策ではありません。まったく体を動かさずに生活すると、肥満や生活習慣病、ストレス増大などの要因によって、かえって妊娠に不利になる恐れもあるからです。実際、「肥満と生殖機能の関連性」について研究した多くの論文では、BMIが著しく高い女性は排卵障害やホルモン異常が起きやすくなると報告されています。そのため、大切なのは“中庸”です。週に数回、1回あたり1時間程度の軽〜中程度の運動を行うことが勧められています。ウォーキングやヨガ、軽いジョギング程度であれば、血行改善やホルモンバランス維持にもメリットが期待できます。
具体的に気をつけたいポイント
1. 運動頻度と時間の見直し
- 1回あたりの運動時間を1時間以内に抑える
5時間を超える運動を週に行うと、体が慢性的な疲労やエネルギー不足に陥りやすくなり、排卵に悪影響を与える恐れがあります。 - 激しい有酸素運動は週2〜3回程度に留める
マラソンやエアロビクスのように心拍数を大きく上げる運動は、脂肪の燃焼効果が高い反面、エストロゲンやプロゲステロン分泌が乱れることもあると考えられています。
2. 栄養バランスを意識した食事
- たんぱく質・脂質・炭水化物をバランス良く
過度のダイエットや炭水化物制限などで栄養が偏ると、エネルギー不足や体脂肪低下が急激に進み、ホルモンバランスが乱れやすくなります。 - 鉄や葉酸、ビタミンDなども適度に摂取
女性ホルモン分泌や月経周期の安定には、ビタミンやミネラルも重要です。とくに鉄分は月経による損失が大きいので、しっかり補給する必要があります。
3. 月経周期の観察
- 生理不順や無月経は要注意
運動のしすぎによって体重が大きく変化したり、疲労やストレスが重なったりすると、生理が数カ月来なくなるケースがあります。2〜3カ月以上無月経が続く場合には、必ず医療機関に相談することが望ましいです。 - 基礎体温を測る習慣
運動量を調整する際に、基礎体温の変化を毎日記録しておくと、排卵の有無や黄体期の長さがある程度把握できるため便利です。
4. ストレス管理
- 運動でストレスを解消する方法を見直す
「走ってストレスを吹き飛ばす」という方もいますが、激しすぎる運動はかえって体に負荷がかかりすぎ、疲労とストレスを増幅させることがあります。 - ヨガやピラティス、瞑想など緩やかな方法の活用
心身のリラックスを図るには、激しい運動よりも呼吸や姿勢を整えるエクササイズが有効です。
具体例:高強度運動を控えて妊娠しやすさが改善するシナリオ
例えば、もともと週に5~6回、毎回1時間半ほどランニングやスイミングをしていたAさんが、妊娠を望むにあたり、運動を週3回程度に減らし、食事もしっかりとるように心掛けた結果、生理周期が安定し、半年ほどで自然に妊娠したというような例があります。もちろん個人差が大きいので一概には言えませんが、このように一時的に運動強度を落とすだけでも、ホルモン状態が改善する可能性があります。
運動不足と過度の運動の中間を目指す意義
先述のとおり、運動をまったくしないと体重増加や生活習慣病リスクが高まり、妊娠のしやすさにマイナスとなる場合もあります。たとえば糖尿病や高血圧などは妊娠・出産に際してトラブルを引き起こすリスクを上げます。また日常的に体を動かしているほうが、血流が良好になり、子宮や卵巣への血流も改善するというメリットも見逃せません。
推奨される適度な運動の目安と理由
運動の頻度:週3〜4回
研究によると、週に3〜4回程度の中程度の有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、バイクなど)が健康維持と妊娠準備の両面においてプラスに働く傾向が報告されています。体を動かすことでインスリン感受性が高まり、ホルモンバランスの安定化を助けると考えられています。
運動の強度:中程度
目安としては、「やや息が弾むが会話が可能」なレベルの運動が適度とされます。過度にハアハアと息切れするほど追い込む必要はありません。
運動の種類:有酸素運動+筋力維持
筋力を維持することは基礎代謝を落とさず、適切な体重コントロールを行う上で重要です。しかし、強度の高い筋トレを毎日何時間も行うことは、先述のようにエネルギー不足やホルモン異常を引き起こす場合があるので、週2回ほど軽めの筋トレを組み合わせる程度が望ましいとされています。
ダイエットとの組み合わせは要注意
妊娠を目指す女性のなかには、体重を落としたほうが良いという医療者のアドバイスを受けて、厳格なダイエットとハードな運動を並行して行う人がいます。もちろんBMIが高く肥満状態の場合、ある程度の体重管理は推奨されますが、無理なダイエットと過度の運動が同時進行すると、前述したように生殖機能の低下を招きかねません。
- 炭水化物を極端に制限しない
エネルギー不足を招くと、生殖ホルモンを分泌するための材料が不足する可能性があります。 - タンパク質・良質な脂質も重要
ホルモンはコレステロールを素材に作られます。極端に脂肪摂取を抑えすぎるとホルモン生成のバランスが崩れます。
運動と妊娠に関わる新たな研究動向
前述のとおり、近年の研究では「運動は決して悪ではなく、むしろ適度な運動は妊娠準備を良好に導く鍵である」という見解が強調されつつあります。一方で、2021年以降発表のいくつかの研究では、体重が標準以下の女性や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性が過激な運動を行う場合のリスクについても言及が増えています。PCOSの方は体重管理が必要なケースが多い反面、急激なダイエットや極端な運動量増加がホルモンバランスを乱しやすいという報告があるため、特に注意が必要です。
妊娠を望む女性が意識するべき生活習慣のポイント
妊娠を望む場合、運動以外にも見直すべき生活習慣があります。運動量を調整しても、他の習慣が乱れていると妊娠しづらいままになる可能性があるからです。
- 睡眠時間
運動不足・過度の運動を問わず、睡眠が十分でないとホルモンバランスが乱れやすくなります。1日7〜8時間の睡眠を確保することが望ましいです。 - 喫煙や飲酒の制限
タバコや過度なアルコール摂取は、卵巣機能を直接的にも間接的にも低下させる要因とされます。 - ストレスマネジメント
仕事・家事・人間関係などによるストレスが大きいと、いくら運動を控えていても排卵障害を引き起こすリスクがあります。適度なリフレッシュ方法を日常に取り入れましょう。 - 定期的な健康診断
婦人科系の疾患(子宮内膜症、子宮筋腫など)が妊娠の妨げとなる場合もあるため、定期的に検診を受けることが大切です。
よくある疑問:運動と妊娠について
Q1. 運動を完全にやめるほうが妊娠しやすくなる?
A. 完全にやめる必要はありません。むしろ中程度の運動はホルモンバランスの安定やストレスの軽減に寄与すると考えられています。大切なのは、「疲労困憊になるまでの運動」を控えることです。
Q2. 運動量を減らしたら体重が増えそうで不安
A. 適度な運動とバランスの良い食事を両立すれば、極端に体重が増えることは少ないでしょう。特に、ビタミン・ミネラル・良質な脂質を適度に摂取しつつ、週数回の軽い有酸素運動を行えば、体重管理もしやすくなります。
Q3. 食事面はどの程度気をつければいい?
A. 激しい運動をするときと同じかそれ以上に、しっかりカロリーと栄養を補う必要があります。炭水化物・タンパク質・脂質をバランスよく摂り、ビタミンやミネラルも欠かさないようにしましょう。
妊娠を望む方への最終的なアドバイス
- 適度な運動を続ける:
ウォーキングや軽いジョギング、ヨガ、ストレッチなどを週2〜4回、1回30〜60分程度行うのが基本的な目安です。 - 過度な負荷を避ける:
完全に疲れ切るまでの長時間トレーニングや高負荷ウエイトトレーニングを連日続けることは避けましょう。 - バランスの良い食事を心がける:
適正カロリーに加え、ビタミン・ミネラル、鉄分、葉酸などをしっかり摂ることで、ホルモン分泌や子宮内膜の健康維持をサポートします。 - 体調の変化を見逃さない:
生理周期の乱れや急激な体重減少・増加があれば、早めに医師へ相談することを推奨します。
結論と提言
激しい運動そのものが絶対に悪いわけではありませんが、女性が妊娠を望む場合には、「高強度の運動をほぼ毎日行う」「練習のたびにエネルギーを使い果たすほど追い込む」という状態は避けたほうが無難です。体内エネルギーが枯渇すると、生殖機能に回す余力が減り、結果的に排卵障害やホルモンの乱れにつながる恐れがあるためです。一方で、適度な有酸素運動や軽い筋力トレーニングは体重管理や血行促進に役立ち、心身のストレスを軽減する効果も期待できます。
したがって、妊娠を望む女性は次の点を重視してください。
- 週に何度も激しく動きすぎないように調整する
- 適切な栄養補給と休息を確保する
- 排卵やホルモンバランスに影響が出ていないか、基礎体温・生理周期などを観察する
- 不安や疑問があれば、早めに婦人科や専門家に相談する
繰り返しになりますが、妊娠を望むときに大切なのは、「極端にやりすぎない」という点です。過度な運動とエネルギー不足が重なると、一時的に妊娠に不利な状態を作り出してしまうかもしれません。逆に全く運動しないのも体重管理やストレスケアの面でリスクを伴います。適度な運動と生活習慣のバランスを整えることで、健康的に妊娠を目指せる可能性は高まるでしょう。
参考文献
- Can Too Much Exercise Decrease Your Fertility?
https://www.verywellfamily.com/optimal-fertility-and-exercise-1960255
アクセス日:2019年4月27日 - The Unsuspecting Way Being Fit May Damage Your Fertility
https://www.healthline.com/health/pregnancy/exercise-fertility
アクセス日:2019年4月27日 - Hard Workouts Reduced Fertility
https://www.ntnu.edu/news/hard-workouts-reduced-fertility
アクセス日:2019年4月27日 - White AJ, Gaskins AJ, Schisterman EF, et al.
Are physical activity, sedentary time, and sleep associated with reproductive hormone levels and anovulation? A prospective cohort study.
American Journal of Epidemiology. 2022. DOI: 10.1093/aje/kwac163
- 注意
本記事は現在入手可能な研究や文献をもとにした参考情報です。個別の体調や病歴により最適な運動強度や食事内容は異なりますので、必ず医師や管理栄養士などの専門家にご相談ください。自己判断で過度の運動や極端な食事制限を行うのは避け、適切な医療機関のフォローを受けながら計画的に妊娠を目指しましょう。