高脂血症の危険性とは?未知なる健康リスクに迫る
心血管疾患

高脂血症の危険性とは?未知なる健康リスクに迫る

はじめに

脂質異常症(一般的に「高脂血症」や「高コレステロール血症」などと呼ばれる)は、血液中の脂質成分(コレステロールやトリグリセリドなど)が基準値を超えて高くなる状態を指します。日本国内でも食生活の欧米化や生活習慣の変化に伴い、近年は若年層を含む幅広い年代で脂質異常症のリスクが高まっていると報告されています。脂質異常症がなぜ危険なのかというと、血管壁に脂質が蓄積して動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中(脳梗塞)など重篤な合併症のリスクを上昇させるからです。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、脂質異常症のリスクや原因、そしてどのようにコントロールすれば良いのかを詳細に解説していきます。特に、コレステロールやトリグリセリドが高い状態(以下「脂質異常症」または「高脂血症」)が続くことで起こりうる深刻な病態や、その危険性を踏まえた予防策や治療法、さらに生活習慣の改善ポイントを包括的にご紹介します。

また、この記事では血中脂質に関する専門知識だけでなく、近年(特にここ4年以内)に発表された国内外の信頼性の高い研究結果やガイドラインも取り上げ、最新の情報を分かりやすくお伝えできるよう努めています。なお、ここで述べる内容はあくまでも参考情報であり、実際に治療を受ける・薬を服用する際には必ず医師に相談してください。

専門家への相談

この記事の内容は、健康情報サイトや医療機関の公開情報、学術論文、および日本国内外の公的機関が提供するデータをもとに編集されています。特に、各種医療機関(例:Cleveland Clinic、Bach Mai Hospital など)が公開している脂質異常症に関する情報や、日本国内の保健衛生機関・研究所、そして海外の研究データも参考にしています。

記事内のリンク先にもあるように、たとえば “Cleveland Clinic” が公開している医療情報や “heartuk.org.uk”、 “medlineplus.gov”、 “healthdirect.gov.au”などの信頼性の高いサイトが提供するデータ・解説を確認することで、内容の正確性を高めるように心がけています。さらに、後述する最近4年以内に発表された研究論文(欧州心臓病学会誌など)も追加で参照し、日本の読者の方々にも理解しやすい形で統合・編集しています。

ただし、この記事は医療従事者による個別の診断や治療行為の代替とはなりません。血中脂質に不安を感じる方、生活習慣や薬の服用について詳細な指導を必要とする方は、必ず医師や薬剤師などの専門家へご相談ください。

脂質異常症(高脂血症)は本当に危険なのか?

脂質異常症の定義と主な種類

脂質異常症とは、血液中の脂質(主にコレステロール、トリグリセリド)の濃度が異常に高い(または低い)状態をいいます。特に、総コレステロール値や低比重リポたんぱく(LDL=いわゆる“悪玉”コレステロール)、トリグリセリドが高くなる場合を「高脂血症」と総称することが多いです。一方、高比重リポたんぱく(HDL=いわゆる“善玉”コレステロール)が低下するタイプも脂質異常症に分類され、いずれの場合も動脈硬化のリスクが高まるとされています。

コレステロール

コレステロールは、細胞膜の構成やホルモン・胆汁酸などの合成に関わる重要な脂質の一種です。大きく分けて、LDLコレステロール(悪玉)とHDLコレステロール(善玉)の2つがあり、LDLが高すぎると血管壁に蓄積しやすく、HDLが低いと過剰なコレステロールを回収しにくくなると考えられています。

トリグリセリド

トリグリセリド(中性脂肪)はエネルギー貯蔵の役割をもち、肝臓や脂肪組織で合成されます。適度な量であれば身体機能の維持に不可欠ですが、過剰に増えると動脈硬化を進行させやすいといわれ、さらに極端に高値の場合は急性膵炎などの重篤な病態を招くおそれがあります。

高脂血症がもたらす主な病気と危険性

「脂質異常症は本当に危険なのか?」と問われれば、その答えは「はい、非常に危険になり得ます」ということになります。以下に、血中脂質が過剰な状態がもたらす代表的な合併症や健康被害を整理します。

  • 虚血性心疾患(冠動脈疾患)
    LDLコレステロールが過剰になると、血管壁への蓄積が進行し、動脈硬化を引き起こします。特に心臓を養う冠動脈が狭窄・閉塞すると、狭心症や心筋梗塞のリスクが急激に高まります。
  • 脳卒中(脳梗塞)
    脳を栄養する動脈がコレステロールやトリグリセリドの蓄積によって動脈硬化を起こし、血流が途絶えたり減少したりすると、脳の組織が壊死し脳梗塞が起こります。
  • 高血圧
    血管が硬化し狭くなると血液を送り出す際に心臓に負担がかかり、結果的に血圧が上昇しやすくなります。高血圧は心血管疾患や腎機能障害などにつながる二次的リスクを抱えています。
  • 末梢動脈疾患(PAD)
    四肢を栄養する動脈が動脈硬化によって狭窄や閉塞を起こすと、手足の冷感やしびれ・痛み、歩行困難などをきたします。重症化すると、血流不全によって壊疽(えそ)に至り、最悪の場合、患肢の切断が必要となることもあります。
  • 急性膵炎
    特にトリグリセリドが非常に高い(一般的には 500mg/dL 以上ともいわれます)場合、急性膵炎の発症リスクが高まることが知られています。急性膵炎は強烈な腹痛を伴い、重篤化すると生命に関わります。

このように、高脂血症は単にコレステロール値が“高い”とか“中性脂肪が多い”で終わるものではなく、一連の重篤な疾患発症に直結するリスク因子である点が何よりも危険といえます。実際、近年の日本国内の統計データからも、脂質異常症の有病率が上昇し、かつ若年層の発症例も増加しつつあることが指摘されています。

さらに、近年の多くの疫学研究では、高血圧や糖尿病、喫煙習慣など他のリスク因子との複合的な影響が、心血管疾患や脳血管疾患を飛躍的に増やすことが繰り返し確認されています。脂質異常症とこれらの要因が重なると、脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクが数倍にも跳ね上がる可能性があります。

近年の研究から見た注意点

  • Statin(スタチン)治療によるリスク低減
    コレステロール値(特にLDL)を下げる薬剤として代表的なスタチンの長期投与が、動脈硬化性疾患の発症リスクを有意に低下させるという報告は過去から多く存在します。2020年代に入ってからも大規模追跡研究により、その長期効果と安全性がさらに裏づけられており、スタチンが一次・二次予防の要となることが再度示されています。
  • PCSK9阻害薬や新規治療の台頭
    2021年以降、LDLコレステロールをさらに強力に低下させるPCSK9阻害薬、あるいはトリグリセリド低下作用を持つ新規薬剤についての研究が進んでいます。これらの薬剤が、スタチンに追加する形で高リスク患者の心血管イベントを減らす可能性が報告されており、今後の治療選択肢が拡大すると期待されています(Ray KKら, 2021, Eur Heart J, doi:10.1093/eurheartj/ehab087)。
  • 脂質管理ガイドラインの改訂
    欧州心臓病学会と欧州動脈硬化学会(ESC/EAS)は2022年に脂質管理ガイドラインを改訂し、さらに厳格なLDL管理目標を提示しました。特に心血管リスクが極めて高い患者では、LDLコレステロールの目標値を70mg/dL(約1.8mmol/L)未満、さらには55mg/dL(約1.4mmol/L)未満など、従来より低く設定するという方向性が示されています(Mach Fら, 2022, Eur Heart J, doi:10.1093/eurheartj/ehac347)。日本においても同様に、高リスク群でのより低いLDL目標が推奨される傾向にあります。

これらの最新動向は、脂質異常症の管理が今後ますます重視されていくことを示しています。特に、日本人の場合は食文化や生活環境が欧米とは異なる面もありますが、高齢化社会に伴う生活習慣病の増加は大きな課題であり、早期の予防や治療介入が欠かせません。

脂質異常症の主な原因

高脂血症には、「原発性(家族性)」と「続発性」に大きく分類されるタイプがあります。原発性の場合、遺伝子異常(家族性高コレステロール血症など)により体質的に血中脂質が非常に高くなります。一方、続発性の場合は他の疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など)や薬剤(利尿薬、β遮断薬、経口避妊薬など)、そして生活習慣の乱れ(高脂肪食、運動不足、飲酒、喫煙など)によって引き起こされます。

日本人に多い生活習慣上のリスク

  • 食事の欧米化 高脂肪食の摂取増加により、特に飽和脂肪酸(動物性脂肪や揚げ物など)の過剰摂取が続くと、LDLコレステロールやトリグリセリドの上昇を招きやすくなります。
  • 喫煙習慣 喫煙は血管内皮機能を損ない、HDLコレステロール(善玉)を低下させるだけでなく、動脈硬化の進行を促進すると報告されています。
  • 運動不足 有酸素運動の欠如は、エネルギー消費量が減少するため体脂肪が蓄積しやすく、インスリン抵抗性の悪化や脂質異常をもたらします。
  • アルコール過剰摂取 適度な飲酒は必ずしも大きな問題にはなりませんが、量が多すぎるとトリグリセリドが上昇する要因となります。
  • 遺伝的要素 家族性高コレステロール血症(FHなど)を持つ方は、日常生活が比較的健康的であっても、LDLコレステロール値が非常に高くなる特徴があります。放置すると若い年齢層から冠動脈疾患を発症するリスクが高いとされます。

どのように脂質値をコントロールするか

生活習慣の見直し・改善

高脂血症の対策として、まずは以下の生活習慣を意識することが重要です。多くの場合、こうした習慣の改善だけでもLDLコレステロールやトリグリセリドを十分に下げられる可能性があります。

  • 食事療法の徹底

    • 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の制限
      肉の脂身や揚げ物、マーガリンなどに含まれる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を減らし、オリーブオイルや魚の脂などに含まれる不飽和脂肪酸を積極的に摂取します。
    • 糖質制限と食物繊維の摂取
      白米や白パンなどの精製炭水化物の過剰摂取を控え、野菜・果物・海藻などの食物繊維を多く含む食材を取り入れます。
    • 適正カロリーの維持
      肥満傾向がある場合、エネルギー摂取量を適切な範囲に抑えることも大切です。
  • 有酸素運動と適度な筋力トレーニング
    1日30分を目安にウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を行うと、体脂肪の減少やインスリン感受性の改善に加え、HDLコレステロールの増加にもつながる可能性があります。筋力トレーニングを組み合わせることで基礎代謝が向上し、さらなる体脂肪の燃焼が期待できます。
  • 禁煙と節酒
    タバコは動脈硬化の進行を加速させる要因であり、喫煙を継続している限り、脂質管理がうまくいっても心血管リスクが高止まりする可能性があります。アルコールは少量なら問題ない場合が多いですが、多量摂取はトリグリセリドを上昇させるため注意が必要です。
  • 体重管理
    肥満は脂質異常だけでなく、高血圧や糖尿病など他のリスクをも高めます。適正体重(BMIを約18.5〜24.9)を維持することで、脂質や血糖のコントロールに良い影響を与えます。

薬物療法と注意点

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

LDLコレステロールを効果的に下げる薬で、脂質異常症の治療では中心的役割を担います。動脈硬化の予防効果が多数の臨床研究で裏付けられています。長期投与による副作用(肝機能障害、筋障害など)のリスクを完全には否定できませんが、医師の指示のもと定期的に血液検査を行い、安全性を確認しながら使用することで大きなメリットが得られます。

最近の長期追跡研究では、スタチンを5年間以上服用した患者群は心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発症率が明らかに低下し、全死亡率の改善も確認されたとの報告があります。特に、もともと冠動脈疾患などを合併している「ハイリスク患者」においてスタチン治療は、予後改善に大きな役割を果たすとされています。

その他の脂質低下薬

  • PCSK9阻害薬
    LDLコレステロールをさらに強力に抑制できる新しい治療薬です。スタチンで十分な効果が得られない場合や、スタチンを十分量使えない患者に対して、スタチンと併用したり、単独で使用したりするケースがあります。ただし注射剤であり、高コストであるなど実臨床での制限要因も依然として存在します。
  • フィブラート系薬
    トリグリセリドが非常に高い場合などに用いられる薬で、特に急性膵炎リスクの軽減を目的とすることがあります。ただし、スタチンとの併用で横紋筋融解症のリスクがやや高まる可能性があるため、併用する際は医師の管理下で使用する必要があります。
  • エゼチミブ
    小腸でのコレステロール吸収を抑制する薬剤で、スタチンと併用するとより強力なLDLコレステロール低下が期待できます。
  • EPA/DHA製剤
    魚油由来のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を高用量で処方される場合があります。トリグリセリドを低減する効果が期待されますが、コストや用量の問題、効果の個人差なども考慮する必要があります。

最近の研究事例(2021年以降)

  • DA VINCI study(2021年, Eur Heart J)
    欧州における脂質低下療法の現状を大規模に調査した横断研究で、スタチンと併用するPCSK9阻害薬などの新規治療が、心血管リスクの高い患者でより多く導入され始めていると報告しています。欧州各国でLDL目標達成率は依然として不十分ですが、日本においても同様の課題があり、さらなる治療浸透が必要と考えられます。
  • ESC/EASガイドライン改訂(2022年)
    前述のとおりLDLコレステロール管理目標が従来より厳しくなりました。高リスクまたは極高リスクとされる患者に対しては、PCSK9阻害薬などを含む強化療法が推奨されるケースが増えています。
  • トリグリセリドとSGLT2阻害薬に関する検討(2023年, Int J Mol Sci)
    メタボリック関連脂肪肝疾患(MAFLD)と合併する脂質異常症において、SGLT2阻害薬がインスリン抵抗性を改善し、中性脂肪値を含め血中脂質に好影響を与える可能性があると示唆する研究があります。これは2型糖尿病患者の治療薬として広く用いられ始めたSGLT2阻害薬が、トリグリセリド高値の改善にも寄与するかもしれないという新たな視点を提示したものです(Momot Aら, 2023)。

こうした薬物療法は個々の症例によってメリット・デメリットや費用面が異なります。服用にあたっては必ず医師と相談のうえ、安全性と有効性を考慮して決定しましょう。

目標となる血中脂質の数値

健康診断や病院での血液検査では、コレステロールやトリグリセリドの数値を mg/dL(または mmol/L)で確認できます。一般的に理想とされる指標は次のとおりです(mg/dL表記):

  • 総コレステロール:200未満
  • LDLコレステロール:100〜120未満(高リスク患者では70未満を目指す場合も)
  • HDLコレステロール:40以上(60以上が望ましい)
  • トリグリセリド:150未満

あるいは mmol/L で表す場合は記事本文中にもあるように:

  • 総コレステロール:5.0 mmol/L未満
  • LDL:3.0 mmol/L未満
  • HDL:1.0 mmol/L以上
  • トリグリセリド:2.0 mmol/L未満

ただし、日本動脈硬化学会など各学会の推奨値は時期やガイドライン改訂によって変わる場合があります。すでに狭心症や糖尿病など合併症をお持ちの方は、より厳格な数値目標を設定されることが多いため、主治医と相談の上、個々の目標を確認してください。

もし薬物治療が必要になったら

脂質異常症が軽度で、生活習慣の改善によってコントロール可能な範囲であれば、まずは食事療法や運動療法を徹底することで十分改善が期待できます。しかし、遺伝的要因やLDLが非常に高いケース、あるいはすでに動脈硬化性疾患を経験している場合などは、医師が薬物療法を勧める場合があります。

  • スタチンの優位性
    心筋梗塞や狭心症などの既往歴がある場合、スタチンの服用は二次予防として必須に近いと考えられています。日本人患者を含む数多くの大規模臨床試験が、スタチンの心血管イベント抑制効果を報告しています。
  • 薬剤選択は個別最適化
    スタチン不耐容(副作用などで服用困難)やトリグリセリドが異常高値など、特殊なケースではフィブラート系、PCSK9阻害薬、エゼチミブ、EPA製剤などを組み合わせることがあります。例えばフィブラートはトリグリセリド低下に有効で、EPA製剤は中性脂肪を抑えつつ心血管イベントの発生率を下げる可能性が示唆されています(ただし効果には個人差がある)。
  • 肝機能・腎機能への配慮
    薬によっては肝障害や腎障害など副作用のリスクがあり、定期的な血液検査が欠かせません。特に多剤併用中の方や高齢者では、投与量の調整や副作用チェックが重要になります。

具体的な生活習慣のポイント

脂質異常症は“長く付き合う”必要がある場合が多く、生活習慣の改善は治療と予防の基盤となります。ここでは、より具体的な対策をいくつか挙げます。

  • 調理法の工夫
    揚げ物ではなく茹でる・蒸す・焼くなど、余分な脂質を取り除きやすい調理法を優先します。加えて、ドレッシングやマヨネーズの使用量も控えめにしましょう。
  • 魚を活用
    青魚(サバ、イワシ、サンマなど)には不飽和脂肪酸(EPAやDHA)が豊富に含まれ、LDL低下や中性脂肪低減に寄与する可能性があります。週2〜3回ほど魚料理を取り入れると良いでしょう。
  • 適度な塩分制限
    塩分摂取が多いと高血圧を悪化させ、動脈硬化の進行リスクが高まります。脂質異常症と併存する場合は特に注意が必要です。
  • 間食や甘味料の見直し
    お菓子や清涼飲料水など、糖質が多く含まれる食品の過剰摂取は、トリグリセリドの上昇を助長します。間食をする際はナッツ類やフルーツを適度に選ぶなど、質と量を考慮しましょう。
  • 適度な水分補給
    血液の粘度を高めないためにも、こまめに水分を摂取します。ただし、糖分の多いジュースやスポーツドリンクの摂りすぎは逆効果です。

日本人に適した注意点と文化的背景

日本は伝統的に魚や大豆製品、野菜を多用する食習慣がある一方で、近年は外食やインスタント食品、ファストフードなどが広く普及し、飽和脂肪酸や塩分を取りすぎる傾向が懸念されています。また、ストレス社会ともいわれる現代では、仕事時間が長くなり運動不足や睡眠不足が加速し、結果として肥満や脂質異常症が若い世代を含めて拡大する一因とみられます。

「昔の和食中心の食生活に戻す」というのは必ずしも現実的ではありませんが、できるだけ野菜や魚、海藻、大豆製品を取り入れる、日本茶などを活用して糖分を抑える、などの工夫によって脂質コントロールがしやすくなるケースは多いでしょう。また、独自の健康保険制度と定期健康診断の習慣がある日本では、定期的に血液検査を受けることで早期発見・早期治療ができるメリットがあります。健康診断の結果をもとに医師や保健師に相談しながら、食事や生活習慣を見直すことが大切です。

合併症を防ぐための総合的アプローチ

脂質異常症は単独であればすぐに重症化しなくとも、高血圧・糖尿病・肥満・喫煙歴など、他のリスク因子が重なると一気に深刻化します。逆にいえば、血圧や血糖の管理、禁煙の実践、体重コントロールなどを同時に行うことで、動脈硬化の進行を大幅に遅らせることが可能です。

  • 血圧管理
    目標は上(収縮期)130 mmHg未満、下(拡張期)80 mmHg未満(高リスク患者ではさらに厳しい場合も)などが指標になります。減塩や有酸素運動が効果的です。
  • 糖尿病管理
    HbA1c(ヘモグロビンA1c)を適切な範囲(一般的には7.0%未満)に維持し、血糖変動をなるべく安定させるよう努めましょう。
  • 禁煙支援プログラム
    自力で禁煙が難しい場合は、医療機関が提供する禁煙外来やカウンセリングを活用するのも有効です。
  • ストレスマネジメント
    ストレスが長期化すると自律神経やホルモンバランスが乱れ、食生活や睡眠パターンに悪影響を及ぼします。適度なリラクゼーションや趣味の時間を確保し、心身の健康を保ちましょう。

予防のための定期検査

日本では健康保険制度が整備されており、企業などに勤務している方であれば年1回の定期健康診断を受ける機会があります。自営業やフリーランスの方でも自治体の検診や人間ドックを活用し、定期的に血液検査(脂質プロファイル)をチェックすることが重要です。

  • 基礎的な血液検査
    総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドを中心に確認します。
  • 必要に応じた追加検査
    家族性高コレステロール血症が疑われる場合や、LDLコレステロールの値が極端に高い場合は、アポリポたんぱくBやLp(a)などの詳細な検査を行うことがあります。
  • 結果を放置しない
    数値に異常が出ていても自覚症状がないことが多いため、結果を自己判断で放置してしまうと、後から深刻な合併症を起こすリスクが高まります。検査結果に基づき、医師や保健師の助言を得ながら早めに生活習慣を修正することが大切です。

結論と提言

脂質異常症(高脂血症)は、血管に脂質が蓄積しやすくなる状態であり、放置すると心筋梗塞や脳卒中などの重大な疾患リスクを著しく高めます。特にLDLコレステロールやトリグリセリドが高い方、家族性の高脂血症がある方は若い年齢でも注意が必要です。一方、適切な食事療法・運動療法・禁煙などの生活改善を行い、必要に応じてスタチンなどの薬物療法を受ければ、血中脂質をコントロールすることは可能です。

さらに、最近4年以内に公表された研究では、PCSK9阻害薬や新規の脂質低下薬の登場、SGLT2阻害薬の脂質改善への応用可能性などが報告され、治療選択肢が増えつつあります。特にLDL値を厳格に管理することで長期的な心血管疾患リスクを大幅に軽減できる可能性が繰り返し示されています。

日本国内でも食の多様化や生活習慣の変化により、若年層から中高年層まで幅広く脂質異常症が増えてきています。しかし、定期健診の受診や早期介入、正しい情報に基づく生活習慣の見直しによって、合併症のリスクを抑えることが期待できます。

  • 特に強調したいポイント
    1. 定期検査を怠らない
      自覚症状がなくても、年に1回以上の血液検査で脂質プロフィールを確認しましょう。
    2. 生活習慣を最優先に改善する
      食事・運動・禁煙など、薬物治療以前にできることが多くあります。
    3. 必要に応じた薬物療法
      スタチンを中心に、症状やリスクに応じて適切な薬剤を医師と相談して選択しましょう。
    4. リスク因子を複合的に管理する
      高血圧や糖尿病など他の要因を同時にコントロールすることで、心血管合併症を大幅に予防できます。

最後に、ここで述べた内容はあくまでも一般的な医療・健康情報をまとめたものです。自己判断で治療方針を決めることは避け、必ず専門の医師や薬剤師と相談した上で実行に移してください。

重要
この記事は参考情報を提供する目的で作成されたものであり、医師・薬剤師の個別診療に代わるものではありません。具体的な治療・予防に関する決定や薬剤の使用は、必ず医療従事者とご相談ください。

参考文献


※この記事の情報は参考用であり、医師など専門家の診断・指導の代替にはなりません。ご自身の健康状態や治療に関しては、必ず医療機関でご相談ください。

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