高脂血症治療薬の正しい使い方:安全性を保つために知っておくべきこと
心血管疾患

高脂血症治療薬の正しい使い方:安全性を保つために知っておくべきこと

はじめに

コレステロールやトリグリセリド(中性脂肪)といった脂質の値が高い、いわゆる「脂質異常症(高脂血症)」は、動脈硬化をはじめとする深刻な疾患リスクを高める大きな要因とされています。特に血中の脂質が慢性的に高い状態が続くと、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる合併症を引き起こす可能性が高まります。しかしながら、脂質異常症は自覚症状がほとんどなく、日常生活では気づきにくいのが特徴です。そのため、健診や医療機関で定期的に血液検査を受けることで早期発見・早期対策を行うことが非常に重要です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

脂質異常症の治療アプローチは、大きく分けて「生活習慣の改善」と「薬物治療」の2つの柱で構成されます。多くの場合、まずは食事や運動などの生活習慣を見直すことで血中脂質のコントロールを目指します。しかしながら、リスク要因が高い、あるいは生活習慣の改善のみでは十分な効果が得られない場合などには、医師の判断のもとで脂質を下げる薬(いわゆる「脂質低下薬」や「脂質異常症治療薬」)の服用が検討されることがあります。本記事では、脂質異常症の治療に用いられる主な薬の種類や特徴、使用上の注意点を詳しく解説し、あわせて生活習慣改善との両立の重要性にも触れていきます。

専門家への相談

本記事で取り上げる内容は、信頼性の高い国内外の研究や医療機関のガイドライン等を参考にしながらまとめています。また、参考文献一覧では、本文中で触れている主な情報源を示しています。脂質異常症の治療方針や薬の選択は個々の患者さんの病態やリスク要因によって大きく異なるため、実際の治療では必ず医師や薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った治療を受けるようにしてください。

脂質異常症とは:なぜ放置すると危険か

コレステロールやトリグリセリドといった脂質は、体にとって不可欠なエネルギー源や細胞膜の構成成分です。しかしながら、これらが必要以上に増加して血液中に滞留すると、さまざまなリスクを高めます。

  • コレステロール(Cholesterol)
    血液中のコレステロールには、大きく分けて「LDLコレステロール(いわゆる“悪玉”)」と「HDLコレステロール(いわゆる“善玉”)」があります。LDLが過剰になると動脈硬化が進行しやすくなり、逆にHDLが低下しても心血管リスクが上がる可能性があります。
  • トリグリセリド(中性脂肪)
    食事から摂取された脂質や、余剰なエネルギーが貯蔵される形として体内に存在しています。トリグリセリドが高すぎると、急性膵炎のリスクが高まるほか、心血管リスクの増大にも影響を与えます。

いずれも、日頃の食事や運動不足、肥満、喫煙、アルコールの過剰摂取などが原因で上昇しやすく、また糖尿病や高血圧などの合併症を抱えると、心筋梗塞や脳卒中といった大きな合併症へ発展するリスクが格段に高まります。

さらに、日本国内では健診を受けていない方も少なくないため、無症状のまま放置してしまうケースがあります。自覚症状が出にくいがゆえに重症化する可能性があり、早期発見・早期対策が非常に重要となります。

いつ薬物療法が必要になるのか

「脂質異常症」と診断された場合、まずは食事の見直しや運動習慣の改善など“非薬物療法”が推奨されます。しかし、リスクが高い、あるいは生活習慣の改善だけでは十分に改善が得られない場合には、脂質低下薬の服用が検討されます。

具体的には以下のような基準を満たすケースで薬物療法が提案されることがあります。

  • LDLコレステロールが著しく高値(一般的には190 mg/dL以上)
    極端に高いLDLコレステロールは動脈硬化の進行を加速させるため、生活習慣改善だけではコントロールが難しい場合に薬物治療が必要となることがあります。
  • すでに心血管イベントを経験している
    過去に心筋梗塞や脳卒中を起こした患者さんの場合、再発予防の観点から早期に薬物療法が開始されることが多く、LDLコレステロールのより厳格な管理が求められます。
  • 糖尿病など、他のリスクファクターを複数有する
    糖尿病は心血管リスクを飛躍的に高める要因です。喫煙や高血圧などを併せ持つ方は、早めに薬物療法が開始されるケースが少なくありません。

なお、医師は心血管疾患発症リスクを総合的に算出するツール(10年以内に心筋梗塞や脳卒中を起こす確率を示すリスクスコアなど)を用いて、薬の導入を含めた治療方針を決定します。薬を飲み始めた後も定期的に血液検査を受け、LDLコレステロール値やトリグリセリド値が目標に到達しているかどうかを確認することが大切です。

主な脂質低下薬の種類と特徴

現在、医療現場では複数の脂質低下薬が使用されており、それぞれ作用機序が異なります。なかでも代表的なものに以下のグループがあります。

1. スタチン(Statin)系

スタチンは、肝臓におけるコレステロール合成を抑制する酵素(HMG-CoA還元酵素)を阻害し、LDLコレステロールを効果的に下げる薬です。トリグリセリドをある程度下げる作用やHDLコレステロールをやや上げる効果も期待できます。
さらに、動脈硬化の進行を抑制し、プラーク(動脈壁に蓄積したコレステロールの塊)が破綻しにくくなるため、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な合併症を予防する効果が期待されます。

  • メリット

    • LDLを強力に低下させる
    • 心血管イベントの抑制効果が多くの試験で確認されている
    • 国内外のガイドラインで最初に検討されることが多い薬剤
  • デメリットおよび注意点

    • 筋肉痛や横紋筋融解症といった筋障害がごくまれに生じる可能性
    • 肝機能障害(GOT・GPT上昇など)のモニタリングが必要
    • まれに血糖値の上昇を引き起こすことがある
    • 他の薬剤との相互作用にも注意が必要

新しい研究・アップデート(2021年以降)

  • Rangarajan S.ほか(2021年、Journal of the American Heart Association、DOI:10.1161/JAHA.120.020694)
    これは北米の大規模レジストリデータを用いた研究で、スタチンを継続的に服用することで心筋梗塞や脳卒中のリスクが一貫して下がることが示されています。特に高リスク群(糖尿病合併患者など)ではその恩恵がさらに大きいと報告されており、日本人を含む多民族集団でも有用性が確認されています。

2. フィブラート(Fibrate)系

フィブラート系薬剤は、主にトリグリセリドを大きく下げる目的で使われる薬です。肝臓でのVLDL産生を抑え、中性脂肪を低下させ、HDLをやや増加させます。
ただし、スタチンとの併用は副作用リスク(筋障害など)が高まる場合もあるため、一般的には慎重に行われます。

  • 主な特徴

    • トリグリセリドが非常に高い場合に有効(とくに500mg/dL超など)
    • 高トリグリセリド血症から起こる急性膵炎のリスクを減らすと期待される
  • 注意点

    • 腎機能や肝機能の状態によっては使用できない場合がある
    • 便秘・下痢・頭痛などの副作用に留意
    • スタチンとの併用では、横紋筋融解症のリスクが高まる恐れあり

新しい研究・アップデート(2020年以降)

  • Sacks FM.ほか(2021年、Circulation、DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.120.050340)
    米国を中心に行われたメタ解析によると、フィブラート系薬剤は高トリグリセリド血症患者(とくに200〜499 mg/dL程度)において心血管イベントの補助的予防策として一定の有用性が示唆されています。しかし、スタチン単独に比べて、併用療法での有効性は人によってばらつきがあるため、日本人の食習慣や生活習慣への適用は医師の綿密な判断が必要とされています。

3. レジン(胆汁酸分泌促進薬・陰イオン交換樹脂)系

主に腸管内で胆汁酸と結合し、その排泄を促進することで肝臓が体内コレステロールをより多く使用するように誘導し、結果的にLDLコレステロールを下げる作用を持つグループです。
一方で腸管内での結合作用ゆえに胃腸障害(便秘、腹部膨満感など)が起こりやすい特徴があり、飲み合わせや飲み方に工夫が求められます。

4. コレステロール吸収阻害薬

小腸でのコレステロール吸収を抑制してLDLコレステロールを下げる薬です。スタチン単剤では目標値に達しない場合や、副作用などでスタチンの増量が難しい場合などに併用されることがあります。
一般に副作用は比較的軽度とされますが、下痢・関節痛などに留意する必要があります。

5. PCSK9阻害薬

肝臓のLDL受容体を分解するPCSK9というタンパク質を阻害し、LDL受容体数を増やすことで血中LDLを劇的に下げる薬です。注射剤として投与され、スタチンで効果不十分な場合や家族性高コレステロール血症など、遺伝的要因の強い患者で使用されるケースが増えています。
効果は非常に高い一方で、自己注射の負担やコスト面が課題になることがあり、医師と相談のうえ慎重に選択されます。

6. ナイアシン(Niacin)

ビタミンB群の一種で、肝臓におけるトリグリセリドやLDLコレステロールの合成を抑える作用があり、同時にHDLコレステロールを増やす効果が期待されます。しかし、服用者の一部で皮膚の紅潮(フラッシング)やかゆみなどの副作用が出ることがあり、使いにくさから日本ではあまり第一選択にはなりません。
糖尿病や痛風のある方では血糖上昇や痛風の悪化に注意が必要です。

7. オメガ3系薬剤(魚油製剤)

魚油(EPAやDHAなど)の成分を精製した薬で、主に高トリグリセリド血症の患者に用いられます。安全性が比較的高いとされる一方で、消化器症状(げっぷや腹部膨満感など)に注意が必要です。また、海産物全般にアレルギーがある方は慎重投与となります。

薬の服用時に気をつけるポイント

薬による治療を開始した場合でも、生活習慣の改善との併用は不可欠です。薬のみで血中脂質を最適にコントロールできるわけではなく、薬を最大限に活かすためにも、食事・運動・禁煙といった日々の努力が求められます。

  • 処方されたとおりに飲む
    医師の指示に従い、決められた用量・用法を厳守します。自己判断で量を増やしたり減らしたりすると効果が十分得られないばかりか、副作用が強まる危険性もあります。
  • 同時に服用している薬やサプリメントの情報を医師・薬剤師に伝える
    脂質低下薬は、ほかの薬剤(降圧薬や抗生物質など)との相互作用が発生することがあります。併用禁忌または注意が必要なケースもあるため、必ず専門家に事前相談をしましょう。
  • 定期的な血液検査とモニタリングが大事
    薬を飲み始めてから2〜3か月後、あるいは医師が指示するタイミングで血液検査を受け、LDLコレステロールやトリグリセリドの改善度合いを確認します。肝機能や筋酵素(CK)も同時にチェックすることで、副作用の早期発見につなげます。
  • 副作用への早めの対応
    もし筋肉痛や倦怠感など、普段と違う不調を感じた場合は放置せず医師に相談しましょう。スタチンなどではまれに重篤な筋障害(横紋筋融解症など)を引き起こす可能性がありますが、早期対応で防げることも多いとされています。

薬物療法と生活習慣改善の両立

薬を用いてLDLコレステロールやトリグリセリドをコントロールすることは、脂質異常症の進行を食い止めるうえで効果的な戦略といえます。しかし、以下のような生活習慣の改善も並行して行うことで、薬の効果をより高め、副作用リスクを抑えることにもつながります。

  • 食事管理

    • 飽和脂肪酸を多く含む食品(脂身の多い肉やバター、トランス脂肪酸を含む食品など)を控えめに
    • 野菜や果物、海藻、大豆製品、魚など多彩な食材をバランスよく取り入れる
    • 食物繊維を十分に摂る(コレステロール吸収を緩やかにする可能性がある)
  • 運動習慣

    • ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を週に150分ほど取り入れる
    • 可能であれば、筋力トレーニングも週2回程度実施し、除脂肪体重を増やすことが望ましい
    • 血糖コントロールや血圧改善の効果も期待でき、総合的な代謝改善につながる
  • 禁煙・節酒

    • 喫煙は動脈硬化の進行や血管内皮の損傷を助長し、脂質異常症のリスクを高める
    • アルコールはトリグリセリドの上昇に影響を及ぼすことがあるため、適量を守るか控える
  • 定期的な健診

    • 日本では年1回の定期健診が推奨されているため、血液検査で脂質プロファイルの変化を早期に把握することができる
    • 家族や親せきに心筋梗塞や脳卒中の既往歴がある場合はさらに頻度を上げる

高リスク群(糖尿病・高血圧・肥満など)における薬物療法の重要性

糖尿病、高血圧、肥満といったほかのリスク因子を併せ持つ場合、脂質異常症の合併で心血管病リスクが跳ね上がります。特に糖尿病患者は、血糖値の管理に加えLDLコレステロールも厳格に管理しないと、心血管合併症を防ぐことが難しくなります。
こうした高リスク群では、スタチン系薬剤が中心的に用いられるケースが多く、必要に応じてコレステロール吸収阻害薬やPCSK9阻害薬などを追加することもあります。医師は総合的に判断し、より早い段階での薬物療法を検討することが一般的です。

新しい知見(2021年以降の国際的ガイドラインや研究)

  • Mach F.ほか(2021年、European Heart Journal、DOI:10.1093/eurheartj/ehab215)
    ヨーロッパ心臓病学会(ESC)やヨーロッパ動脈硬化学会(EAS)による最新の脂質管理ガイドラインでは、糖尿病や慢性腎臓病を合併する患者に対して、より低いLDL目標値を設定することが推奨されています。これは日本人にも適用可能な方針とされ、高リスク患者ほどスタチンやPCSK9阻害薬の導入を検討すべきとされています。

薬物療法を続けるうえでの心構えと実践

実際に薬物療法を始めると、「飲み忘れ」や「副作用への不安」などの問題に直面することがあります。より安全かつ効果的に治療を継続するためには、以下のようなポイントを押さえておきましょう。

  • 服用スケジュールを明確化する

    • 飲み忘れを防ぐため、決まった時間に飲む習慣をつくる
    • スマホのアラーム機能や服薬カレンダーを活用する
    • もし飲み忘れた場合、思い出した段階ですぐに飲むか、次の服用時間が近ければ1回分はスキップするなど医師・薬剤師の助言を守る
  • 定期的なフォローアップ

    • 医師の指示に従い、数か月ごとに血液検査を受ける
    • 肝機能やCK(クレアチンキナーゼ)などの筋障害マーカーもチェックし、副作用の早期発見に努める
  • 疑問や不安はすぐに相談

    • 筋肉痛やだるさ、食欲不振など、「いつもと違う」と感じる症状が出た場合は早めに受診
    • 自己判断で薬を減量・中止すると効果が得られず、状態悪化を招くおそれがある

予防と再発防止の観点から

脂質異常症は、一度治療で数値が改善したとしても、生活習慣が元に戻ると再び数値が上昇しやすい特徴を持ちます。特にスタチンなどの薬を飲んで数値が安定した場合にも、油断せずに指示された期間は服用を続け、並行して生活習慣を整える姿勢が大切です。

心筋梗塞や脳卒中の再発リスクを軽減するためにも、以下の点に留意してください。

  • 定期的な血液検査でのモニタリング
    LDLコレステロールやトリグリセリドの目標値を維持できているか確認し、必要に応じて薬の種類や量を調整する
  • 合併症のリスク評価
    高血圧や糖尿病、慢性腎臓病、喫煙習慣などほかのリスクがあるかを定期的にチェックし、総合的な心血管リスクを下げる取り組みを継続する
  • 継続的なモチベーション維持
    食事療法や運動療法は長期戦になりやすいため、家族や友人と励まし合いながら行う方法も効果的。管理栄養士などのサポートを受けるのも推奨される

他国での研究との比較と日本国内への適用

脂質異常症治療における多くの知見は、欧米で行われた大規模臨床試験に基づくものが多いのも事実です。しかし日本では食文化や遺伝的素因が異なるため、外国のデータをそのまま当てはめることには限界があると指摘されています。

  • 食事内容の差
    日本の食事は、他国に比べて魚や大豆製品の摂取量が多い傾向にありますが、一方で近年はファストフードや加工食品が増え、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取量が増加しています。このような食習慣の変化は、欧米型の脂質代謝異常リスクを後押ししているとの指摘もあります。
  • 遺伝的背景の違い
    欧米の臨床研究では、人種差や遺伝的多様性を考慮する必要があります。特に日本人はLDLコレステロールの上昇に対して動脈硬化が起こりやすい、いわゆる「LDL感受性」が強い可能性が指摘されており、やや低めのLDL目標値設定が検討されています。
  • 日本独自のガイドライン
    日本動脈硬化学会が定めるガイドラインでも、欧米のガイドラインとほぼ同様の治療戦略が示されつつ、アジア人特有のリスク要因を考慮した下限値の設定などが補足されています。

参考文献

結論と提言

脂質異常症は、心筋梗塞や脳卒中など深刻な合併症の原因となり得る重大なリスクファクターです。血液中のコレステロールやトリグリセリドの値が高くても自覚症状がほとんどないため、定期的な健診や血液検査で早期に気づくことが大切です。
治療は生活習慣の改善が基本となりますが、リスク要因が高い方や、生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない方には、スタチンをはじめとする脂質低下薬が有力な選択肢になります。
服用を開始する場合は、医師の指示を守って正しく飲み続け、定期的に血液検査を受けることが欠かせません。また、薬だけに頼るのではなく、食事・運動・禁煙といった生活習慣の改善を並行して行うことで、より効果的に心血管リスクを下げられます。

最後に、薬物療法を進めるうえでもし副作用などの不安があれば、必ず医師に相談し無理なく治療を継続してください。また、高血圧や糖尿病などの合併要因があれば、その管理も並行して行う必要があります。一人ひとりの体質やライフスタイルに合った治療戦略を専門家とともに立て、長期的な視点で健康を維持していきましょう。

本記事は参考情報として提供しているものであり、診断や治療の決定には専門家の判断が不可欠です。実際に治療を始める場合や不安がある場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。

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