【危険】唐辛子酒で高血圧対策は間違い!日本高血圧学会ガイドラインに基づく正しい血圧管理法
心血管疾患

【危険】唐辛子酒で高血圧対策は間違い!日本高血圧学会ガイドラインに基づく正しい血圧管理法

「唐辛子酒が血圧に良い」という話を耳にし、少しでも可能性があるなら試してみたい、そのようにお考えになるかもしれません。ご自身の健康を願うそのお気持ちは、非常によく理解できます。だからこそ、ご自身の体を守るために、まずは科学的な事実を知ることが何よりも重要です。日本において高血圧は「国民病」とも呼ばれ、その推定患者数は約4,300万人にものぼるとされています25。これは、決して他人事ではない、私たち自身の問題です。この記事では、「唐辛子酒と高血圧」という長年の疑問に対し、最新の科学的根拠をもって最終的な答えを提示し、専門家が推奨する本当に確実で安全な血圧管理法を、誰にでも実践できるレベルまで具体的に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、読者の皆様に最高品質の医療情報を提供するため、明示的に引用された最高レベルの医学的根拠にのみ基づいて執筆されています。本記事で提示される医学的指導の根幹をなす主要な情報源は以下の通りです。

  • 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』: 本記事における減塩、節酒、運動、降圧目標値など、日本の高血圧治療に関する全ての生活習慣指導は、この国の最高権威である本ガイドラインの推奨に基づいています4
  • 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年): 「少量の飲酒でも高血圧の危険性は上昇する」という本記事の核心的な警告は、日本の公衆衛生を司る厚生労働省の最新の見解を直接反映したものです3
  • 2021年の国際的メタアナリシス (Pourmasoumi M, et al.): 唐辛子の主成分であるカプサイシンの血圧への影響を否定する本記事の結論は、複数の臨床試験を統合・分析した、科学的信頼性が最も高い研究手法の一つであるメタアナリシスの結果に基づいています1
  • 国立循環器病研究センター (NCVC): 高血圧の基本的な病態解説や、日本の食生活における減塩の重要性に関する記述は、日本の循環器病研究の中心的機関である同センターの公式な情報に基づいています13

要点まとめ

  • 唐辛子酒は、含有されるアルコールの血圧上昇作用により、高血圧を悪化させる危険性があるため、高血圧対策として推奨されません
  • 唐辛子の成分カプサイシンに、持続的な血圧降下作用があることを示す質の高い科学的根拠は存在しません
  • 厚生労働省は2024年の最新ガイドラインで「たとえ少量の飲酒でも高血圧の危険性は上昇する」と明言しています3
  • 真に有効な高血圧対策は、日本高血圧学会が推奨する生活習慣の改善であり、特に1日6g未満の減塩節酒が最も重要です4
  • 自己判断で民間療法に頼ることは危険です。血圧管理については、必ずかかりつけの医師や専門家に相談してください。

第1部:神話の解体 ― 唐辛子酒と血圧の科学的真実

1.1. 結論ファースト:唐辛子酒は高血圧に推奨されません

皆様が最も知りたいであろう結論から、議論の前に明確にお伝えします。このアプローチは、皆様の貴重な時間を尊重し、この記事全体の信頼性を冒頭で確立するために不可欠です。

広く信じられている通説(神話) 科学的真実(事実)
唐辛子酒はカプサイシンの効果で血圧を下げる。 効果は科学的に証明されておらず、むしろ含有されるアルコールの血圧上昇作用により、高血圧を悪化させる危険性が高い

1.2. なぜ推奨できないのか?2つの決定的理由

唐辛子酒を高血圧対策として用いるべきではない理由は、単なる憶測ではありません。それは、2つの揺るぎない科学的事実に基づいています。

1.2.1. 理由①:アルコールの血圧上昇作用は「明確な危険性」である

習慣的な飲酒量が増えれば増えるほど血圧が上昇することは、今日、数多くの信頼できる研究によって証明されている医学的常識です26。日本の高血圧治療における最高権威である日本高血圧学会は、その「高血圧治療ガイドライン2019」において、高血圧者が遵守すべき飲酒量を「純アルコール換算で男性は1日20~30mL以下、女性は1日10~20mL以下」と厳格に定めています4

さらに、厚生労働省が2024年2月に公表した最新の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、この点についてさらに踏み込み、「たとえ少量であっても、飲酒は高血圧の危険性を上昇させる」という、より厳格な見解が公式に示されました3。アルコールが血圧を上げる医学的な仕組みは複雑ですが、主に交感神経系やレニン・アンジオテンシン系(血圧を調節する体内システム)を過剰に活性化させたり、血管の壁を収縮させたりすることなどが関与していると考えられています26

1.2.2. 理由②:カプサイシンの血圧降下作用は「科学的根拠が乏しい」

「カプサイシンが血管を拡張させ、血流を良くする」といった断片的な情報が存在することは事実です。しかし、それが人間において、持続的かつ意味のある血圧降下につながるという質の高い科学的証拠は、残念ながら見つかっていません。この疑問に終止符を打つ決定的な研究が存在します。2021年に学術誌『Critical Reviews in Food Science and Nutrition』で発表された、複数の臨床試験の結果を統合・分析したメタアナリシス(科学的根拠として最も信頼性が高い研究手法の一つ)です。この研究は、「トウガラシまたはカプサイシンの摂取は、収縮期血圧(上の血圧)・拡張期血圧(下の血圧)のいずれに対しても、統計的に有意な影響を与えなかった」と明確に結論付けています1。つまり、現時点で「カプサイシンで血圧が下がる」という期待は、科学的には支持されないのです。


第2部:知識の構築 ― 専門家が推奨する本当に正しい血圧管理法

2.1. すべての基本:日本高血圧学会が示す「生活習慣の修正」

高血圧の治療と聞くと、すぐに降圧薬を思い浮かべるかもしれませんが、その根幹は薬物療法以前に「生活習慣の改善」にあります。これは、国内外の全ての専門家が一致して強調する点です。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』では、科学的根拠に基づき、降圧効果が証明された6つの生活習慣の修正を推奨しています4。これらは個々に効果があるだけでなく、複数を組み合わせることで、より大きな効果を発揮することが分かっています。

  • ① 減塩
  • ② 適正体重の維持
  • ③ 運動
  • ④ 節酒
  • ⑤ 食事パターンの改善(野菜・果物の積極的摂取)
  • ⑥ 禁煙

2.2. 最重要課題:日本人のための「減塩」徹底ガイド

国立循環器病研究センターによると、日本人の伝統的な食生活は塩分過多になりがちで、これが日本の高血圧患者が多い一因とされています13。したがって、数ある生活習慣改善の中でも、減塩は最も重要かつ効果的な取り組みです。日本高血圧学会が掲げる目標は**「1日6g未満」**という具体的な数値です4。これを達成するためには、日々の食生活における意識的な工夫が不可欠です。

明日からできる!具体的な減塩実践テクニック

「減塩」という目標を、日本の日常的な食卓における具体的な行動レベルにまで落とし込むことで、誰でも今日から実践可能です。

場面 実践テクニック 参照元
麺類 ラーメンやうどんの汁は必ず残す。汁を全部飲むと食塩約5〜6.6gに達することがあります。 11
汁物 味噌汁やスープは、野菜やきのこなど具沢山にして満足感を高め、1日1/2杯までに。1杯で食塩約1.5〜2gを含みます。 12
調味料 醤油やソースは食卓で直接「かける」のではなく、小皿にとって「つける」習慣に。これにより使用量を大幅に減らせます。 11
味付けの工夫 唐辛子、胡椒、生姜などの香辛料や、レモン、すだち、酢などの酸味をうまく利用し、味の物足りなさを補いましょう。 11
外食・加工食品 惣菜や弁当を購入する際は、栄養成分表示の「食塩相当量」を確認する習慣をつけましょう。 11

2.3. 「節酒」の正しい知識:飲んで良い上限量と注意点

前述の通り、飲酒は血圧を上げる明確な要因です。日本高血圧学会が示す具体的な上限量を、日本で一般的に消費される酒類に換算して再度提示します。高血圧と診断されている方は、この量を超えないように厳格に管理することが求められます4

  • ビール:中瓶1本(500mL)まで
  • 日本酒:1合(180mL)まで
  • 焼酎(25度):半合弱(約110mL)まで
  • ワイン:グラス2杯弱(約200mL)まで
  • ウイスキー:ダブル1杯(60mL)まで

特に重要な注意点として、すでに降圧薬を服用中の方が飲酒すると、薬の効果を弱めたり、めまいや立ちくらみといった副作用を増強させたりする危険性があります。飲酒習慣のある方は、必ず事前にかかりつけの医師や薬剤師に相談してください27

2.4. その他の重要な生活習慣

  • 運動療法: ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を中心に、毎日30分以上、または週合計180分以上を目標とします。定期的な運動は、血圧を下げるだけでなく、心臓や血管の健康を総合的に向上させます4
  • 適正体重の維持: 肥満はそれ自体が高血圧の大きな要因です。ご自身の体重(kg)を身長(m)で2回割った値であるBMI(Body Mass Index)を25未満に保つことを目指しましょう。体重を1kg減らすと、血圧が約1mmHg下がるとも言われています4
  • 食事パターン: 野菜や果物を積極的に摂取することが推奨されます。これらに含まれるカリウムは、体内の余分なナトリウム(塩分)を排出するのを助ける働きがあります。また、魚に含まれるDHAやEPAといった多価不飽和脂肪酸も血圧に良い影響を与えることが知られています。飽和脂肪酸(肉の脂身など)やコレステロールを控え、これらの食品をバランス良く取り入れる「DASH食」という食事療法は、降圧効果が科学的に証明されています28
  • 禁煙:喫煙は一時的に血圧を上昇させるだけでなく、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中の危険性を著しく高めます。禁煙は血圧管理において必須の項目です4
健康に関する注意事項:ヒートショックにご注意ください日本の生活習慣に深く根差した「入浴」にも注意が必要です。特に冬場、寒い脱衣所から急に熱い湯船に入ると、血圧が急激に変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす「ヒートショック」の危険性があります。国立循環器病研究センターは、湯温を40℃程度のぬるめに設定し、長湯を避ける、脱衣所や浴室を事前に暖めておくといった対策を推奨しています21

よくある質問

Q1. 家庭での血圧は、いつ、どのように測るのが正しいですか?

家庭血圧の正しい測定は、治療方針を決める上で極めて重要です。国立循環器病研究センターの指針に基づくと、朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬・食事前)と夜(就寝前)の2回、リラックスできる椅子に座った姿勢で1〜2分安静にした後に測定するのが基本です。毎日同じ時間帯に測定し、血圧手帳などに記録して、受診時に医師に見せることが、適切な治療につながります13

Q2. 降圧薬を飲み始めたら、一生やめられないのでしょうか?

降圧薬は高血圧の原因そのものを治す薬ではないため、自己判断で中断すると血圧が再び上昇し、脳卒中や心筋梗塞の危険性が高まるため非常に危険です。しかし、生活習慣の抜本的な改善によって血圧が安定的にコントロールできるようになった場合、医師の監督のもとで薬の量を減らしたり、中止したりできるケースも存在します。治療へのモチベーションを維持し、生活習慣の改善を継続することが重要です4

Q3. 唐辛子酒以外に、血圧に良いとされる飲み物はありますか?

緑茶(カテキン)、食塩無添加のトマトジュース(カリウム、GABA)、ココア(カカオポリフェノール)など、一部の研究で血圧に対して好ましい影響が示唆されている飲み物は存在します8910。しかし、その効果は限定的であり、これらの飲み物だけで高血圧が治るわけでは決してありません。あくまで、本記事で解説した減塩と節酒を中心とした生活習慣全体の改善が基本であるという点を忘れないでください。これらの飲み物は、健康的な生活習慣の一部として、補助的に楽しむ程度に留めるのが賢明です。

結論:確かな知識で、あなたの健康を守るために

本記事では、高血圧と唐辛子酒の関係について、科学的根拠に基づき詳細に解説しました。結論として、唐辛子酒のような根拠の乏しい情報に惑わされることなく、日本高血圧学会のガイドラインに示された、エビデンスに基づく生活習慣の改善(特に減塩と節酒)こそが、あなたの血圧を管理し、将来の健康を守るための王道です。正しい知識は、時に厳しい事実を突きつけるかもしれませんが、それこそがあなたを最も安全な道へと導く光となります。

本記事で得た知識を基に、ご自身の具体的な治療方針や生活習慣の改善計画について、ぜひかかりつけの医師や専門家にご相談ください。専門家との協働こそが、あなたの健康を守る最も確実な方法です。

免責事項本記事は、信頼できる医学的情報源に基づき、情報提供を目的として作成されています。しかし、個々の読者の健康状態や医学的な状況に合わせた専門的な助言を提供するものではありません。健康に関するいかなる懸念や、治療に関する決定を下す前には、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Pourmasoumi M, et al. The effect of red pepper/capsaicin on blood pressure and heart rate: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Rev Food Sci Nutr. 2021;62(26):7331-7344. doi:10.1080/10408398.2021.1980205
  2. JR仙台病院. 2024年2月19日、厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました. 2024. Available from: https://jrsendai-hospital.jp/wp-content/uploads/2024/04/1712570288.pdf
  3. 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. 2024. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
  4. 日本高血圧学会. 一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子. Available from: https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
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  7. EPARKくすりの窓口. 【管理栄養士が解説】高めの血圧を下げるおすすめのお茶 8選. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/blood-pressure-tea
  8. Hit The Knee. 【高血圧対策】血圧を下げる効果のある飲み物一覧!即効性はある?. Available from: https://medical.jiji.com/hittheknee/hypertension-drink/
  9. 血圧の学校 produced by Med-Pro Doctors. 血圧を下げる飲み物とは?おすすめの飲み物7選. Available from: https://med-pro.jp/media/htn/?p=95
  10. メディカルドック. 「血圧を下げる飲み物」はご存知ですか?血圧を下げる予防法も医師が解説!. Available from: https://medicaldoc.jp/m/healthcheck/hc0223/
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  20. 時事メディカル. 高血圧を専門とする医師|ドクターズガイド. Available from: https://medical.jiji.com/doctor/disease/hea0004
  21. 国立循環器病研究センター. 高血圧|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ. Available from: https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/hypertension-2/
  22. World Health Organization (WHO). Hypertension. Available from: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hypertension
  23. American Heart Association. Limiting Alcohol to Manage High Blood Pressure. Available from: https://www.heart.org/en/health-topics/high-blood-pressure/changes-you-can-make-to-manage-high-blood-pressure/limiting-alcohol-to-manage-high-blood-pressure
  24. 日本生活習慣病予防協会. 高血圧性疾患で治療を受けている総患者数は. Available from: https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2025/010844.php
  25. くにちか内科クリニック. 日本人と高血圧. Available from: https://kunichika-naika.com/subject/ht-japanese
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  27. Mayo Clinic. Alcohol: Does it affect blood pressure?. Available from: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/high-blood-pressure/expert-answers/blood-pressure/faq-20058254
  28. American Heart Association. Hypertension Highlights 2017. Available from: https://www.heart.org/-/media/files/health-topics/high-blood-pressure/hypertension-guideline-highlights-flyer.pdf
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