黄斑変性症とは?視力を守るために知っておきたいこと
眼の病気

黄斑変性症とは?視力を守るために知っておきたいこと

はじめに

目の奥にある黄斑部(こうはんぶ)は、光を受け取る網膜の中心に位置し、私たちが物を見るときにもっとも鋭敏かつ詳細な視覚を担う、大変重要な部位です。この黄斑部が何らかの原因で浮腫(むくみ)を起こし、腫れてしまう状態を一般的に「黄斑浮腫(おうはんふしゅ)」と呼びます。黄斑浮腫自体は単独の病気ではなく、多様な眼疾患や全身疾患の結果として生じるケースが多いとされています。初期の段階では自覚症状がほとんどない場合が多く、見え方にわずかな異常を感じても放置してしまいがちです。しかし、黄斑部は視力を保つ要として非常に重要な組織であり、適切な治療が遅れると視覚障害のリスクを高める恐れがあります。そこで本稿では、黄斑浮腫の全体像、症状、原因、リスク要因、診断法、そして治療法までを詳しく解説し、読者の皆さまが早期発見と対策をとれるよう情報をまとめました。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事は日常生活のなかでの注意点や治療の現状などを包括的に整理し、視力を守るために必要な知識をお伝えすることを目指しています。糖尿病などの生活習慣病との関連、加齢に伴う変化、手術後の合併症など、黄斑浮腫につながる要因は多岐にわたりますが、いずれも早期発見と適切な治療が重要です。本稿を通じて、少しでも早期に専門医の診察を受けるきっかけになれば幸いです。

専門家への相談

本記事の内容は医療機関での正式な診断や治療の代替ではなく、あくまで参考情報です。万一、視力低下や視界のゆがみ、色の見え方に違和感があるなど、気になる症状がある場合には、必ず専門の眼科医に相談してください。なお、本稿における医学的内容の監修は、Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(内科・総合内科/Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh 勤務)によるものです。


黄斑浮腫とは(概要)

黄斑部は「網膜の中心部分」にあたり、私たちが物を見るときにもっとも重要な機能を果たす領域です。光が入ってきたとき、この黄斑部で光情報が集中して処理されることで、はっきりとした中心視力を得ることができます。しかし、この黄斑部に体液や血漿成分がしみ出して蓄積し、組織がむくむと厚みが増してしまいます。これが「黄斑浮腫」です。

  • 黄斑浮腫が生じると、中心視力の低下や視界のゆがみが起こりやすくなります。
  • 初期段階では症状が軽微で、見え方の異常に気づきにくいこともあります。
  • しかし、放置すると見え方が著しく低下し、日常生活に支障をきたす恐れがあります。

黄斑浮腫は、その原因となる病態によって症状や治療方針が異なります。なかでも、糖尿病網膜症などの全身病が進行した結果として黄斑部に浮腫が生じるケースは非常に多く注意が必要です。


黄斑浮腫の主な症状

視界の中心がぼやける・ゆがむ

最も特徴的なのは、中心視力の低下ゆがみです。患者さんによっては、文字を読んでいるときに中央部分だけかすんで見えたり、直線がうねるように感じたりします。また、視野の中心が少し暗く見える、色の見え方が鈍くなるなど、日常のちょっとした見え方の変化で気づく場合もあります。

色覚異常・彩度の低下

浮腫によって黄斑部が腫れると、色の識別がやや困難になったり、色がぼやけて見えたりすることがあります。特に、以前より鮮やかに見えていた色がくすんで見えるようになるという訴えが多いようです。

視力低下

黄斑浮腫が進行していくと、視力が顕著に低下し始めます。症状が軽度でも、すでに網膜の障害が生じている可能性があります。自覚症状に乏しいまま進行してしまうケースもあるため、自己判断で様子を見るのではなく、なるべく早く受診することが大切です。


黄斑浮腫が起こる主な原因

黄斑浮腫は、以下のような複数の眼疾患あるいは全身疾患の合併症・後遺症として起こることが知られています。

1. 糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)

糖尿病による慢性的な高血糖状態は、網膜の微小血管を傷つけやすくします。これが進行して「糖尿病網膜症」を発症すると、網膜内の血管から血液成分が漏れやすくなり、その結果として黄斑部が浮腫を起こす場合があります。とくに、血糖値や血圧を良好にコントロールできていない場合はリスクが高まります。日本でも糖尿病患者数が増加しており、眼科での定期的な検査と早期診断が視力を守るうえで重要です。

2. 加齢黄斑変性

加齢黄斑変性(がれいおうはんへんせい)は、高齢になると増える代表的な黄斑疾患です。網膜の下の脈絡膜から新生血管が異常に成長し、網膜内に滲出液や出血をもたらして黄斑浮腫を引き起こす「湿性型」の病態が知られています。進行すると視力障害が顕著になり、日常生活に大きな支障をきたすため、定期的な眼科検診が推奨されています。

3. 眼科手術後の合併症

白内障手術や緑内障手術など、あらゆる眼内手術のあとに、術後の炎症や血管透過性の変化から黄斑浮腫が生じることがあります。術後数週間から数か月以内に発症することが多く、これを「術後黄斑浮腫」または「嚢胞様黄斑浮腫(CME)」と呼ぶこともあります。多くの場合は軽度であり、ステロイド点眼などで治まることが期待できますが、片目が術後黄斑浮腫を発症した場合、もう片方の目も高率で発症すると報告されています。

4. 網膜静脈閉塞症

網膜の静脈が詰まる「網膜静脈閉塞症」は、血液が網膜からうまく排出されずに圧力が高くなり、網膜内の血管が破綻して出血や浮腫を引き起こす疾患です。とくに黄斑部にまで血液や体液が漏出すると、黄斑浮腫につながります。動脈硬化や高血圧、糖尿病などが背景にあると発症リスクが高まります。

5. ブドウ膜炎などの炎症性疾患

ブドウ膜(ぶどうまく)とは、虹彩や毛様体、脈絡膜などを含む眼球内部の組織を指します。ブドウ膜炎をはじめとする炎症が眼内に広がると、血管透過性が亢進して黄斑部に滲出液が漏出しやすくなり、黄斑浮腫を合併しやすくなります。自己免疫疾患や感染症などが原因で発生する場合があるため、全身状態の評価も重要となります。


黄斑浮腫のリスクを高める要因

黄斑浮腫は特定の疾患だけでなく、さまざまな健康状態や生活習慣との関連で起こりやすくなります。以下の要因を抱えている場合、定期的な眼科検診が望ましいと考えられます。

  • 糖尿病(血糖コントロール不良)
  • 高血圧(血管透過性の異常を助長)
  • 動脈硬化(血管が脆弱になりやすい)
  • 加齢(加齢黄斑変性症のリスク増)
  • 術後の炎症(白内障手術などの眼科手術歴)
  • 自己免疫疾患や感染症(網膜やブドウ膜の炎症を起こす)
  • 外傷や先天性疾患(網膜の構造にダメージを与える要因)

これらに当てはまる方は、急な視力低下やものが歪んで見えるといった症状がなくても、定期的に網膜の状態をチェックすることで早期発見・早期治療に結びつきやすくなります。


黄斑浮腫の診断方法

黄斑浮腫の疑いがある場合、眼科では以下のような検査を総合して状態を把握し、原因と重症度を特定します。

視力検査

まずは視力表を用いて、現在の視力がどの程度低下しているかを測定します。初期段階の黄斑浮腫では、まだ大きな視力低下が出ないケースもありますが、微妙な変化を捉える手がかりになることがあります。

散瞳検査

瞳孔を薬で開き、網膜の奥まで詳しく観察する検査です。浮腫の程度や、網膜血管の状態、黄斑部のむくみを直接確認できます。また、出血や滲出物の有無をチェックすることで、糖尿病網膜症や網膜血管閉塞などの有無の判断につながります。

蛍光眼底造影検査(フルオレセイン造影)

腕から造影剤を注射して、網膜の血管を浮かび上がらせる検査です。血管のどの部分で漏れが起きているか、閉塞があるかなどを詳細に把握できます。糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞による黄斑浮腫の診断や病態把握に役立ちます。

光干渉断層計(OCT)

網膜を断層構造で撮影し、黄斑部のむくみの厚みを数値化して評価できる検査です。治療前後の比較にも有用で、黄斑浮腫の経過観察には必須となっています。

アムスラーチャート

碁盤の目のような格子を見てもらい、線がゆがんだり暗点があったりしないかを確認する簡易検査です。日常生活でも、自己チェックとして使用されることがあります。


黄斑浮腫の治療法

黄斑浮腫の治療は、まず浮腫の原因そのものにアプローチすることが基本です。たとえば糖尿病や高血圧が背景にある場合は、それらの全身管理が優先されます。そのうえで、網膜や黄斑部の病態を改善するために以下のような治療法が行われます。

1. 抗VEGF薬の硝子体内注射

網膜内で過剰に働いてしまう血管内皮増殖因子(VEGF)を抑えるための注射療法です。VEGFは血管の新生や透過性亢進を引き起こすため、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜血管閉塞などで浮腫の原因になりやすい要因です。抗VEGF薬を直接眼内(硝子体腔)に注射することで、異常な血管からの漏出やむくみを抑制し、視力の維持・向上が期待できます。通常は数回の注射を継続しながら経過観察を行い、OCT検査などで黄斑浮腫の改善状況を確認していきます。

2. レーザー光凝固療法

以前は黄斑浮腫に対する標準的な治療のひとつでした。黄斑部周囲の漏出点にレーザーを照射することで血管を「焼き固め」、漏出を抑える方法です。ただし、抗VEGF薬の登場以来、中心窩(黄斑部の中心)に近いエリアでのレーザー照射は慎重になり、現在では症例や病態に応じて選択されることが多くなっています。

3. ステロイド療法・抗炎症薬

炎症が強く関与している場合(例えばブドウ膜炎などが背景にある場合)、ステロイド点眼ステロイドの眼内注射、または内服薬や点滴などを駆使して炎症を抑えます。ステロイドには強力な抗炎症作用がありますが、副作用として眼圧上昇や白内障の進行リスクがあるため、医師の慎重なモニタリングのもとで使用されます。また、手術後の黄斑浮腫を予防する目的でNSAIDs点眼薬が用いられることもあります。

4. 硝子体手術

黄斑浮腫の原因として、硝子体の牽引(けんいん)が黄斑部を引っ張る場合や、ガラス体内に出血が溜まって視力を妨げている場合などがあります。こうしたときは、硝子体手術を行い、濁った硝子体を切除・除去して黄斑部への牽引力を除去することで、浮腫や視力低下を改善に導きます。


治療上の推奨

  • 背景疾患のコントロール
    糖尿病や高血圧、脂質異常症などがある場合は、内科の主治医と連携しながら血糖値や血圧を良好に保つことが、黄斑浮腫の悪化を防ぐ第一歩です。
  • 定期的な眼科検診
    自覚症状がない段階でも、黄斑浮腫や網膜の変化は少しずつ進行することがあります。特に糖尿病患者、高血圧の既往がある方、高齢者、術後経過観察中の方は早めに受診しましょう。
  • 自己判断で放置しない
    軽度だからと放置すると、いつの間にか重度の視力障害へ進んでしまうリスクがあります。少しでも見え方に異常を感じたら、専門医に相談し、適切な検査を受けましょう。

結論と提言

黄斑浮腫は、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞、術後合併症、炎症性疾患など、さまざまな要因で生じる可能性があります。初期症状が乏しく、中心視力のわずかな異常色の見え方の違和感のみでは気づきにくい場合も少なくありません。しかし、黄斑部は視力を保つかなめであり、この部分にむくみや出血が生じると、日常生活への影響が大きくなる恐れがあります。

したがって、次のような点を心がけることが重要です。

  • 背景疾患がある場合は、全身管理を徹底する。
  • 視力や色覚の変化を感じたら、早めに眼科を受診する。
  • 専門医との連携のもと、適切な治療を継続する。

特に糖尿病の方は、網膜症のリスクが高まるため、血糖値や血圧の安定管理、定期的な眼底検査が必須です。また、高齢化社会において増加が予想される加齢黄斑変性についても、視界のゆがみや物が小さく見えるなどの微細な異常を見逃さず、専門医による検査や治療を受けることが視力を守る鍵になります。

なお、本記事で紹介した内容はあくまで参考情報であり、最終的な治療方針は各個人の症状、病態、生活習慣、全身状態などによって異なります。自己判断による放置や自己流のケアでは悪化を招く可能性がありますので、少しでも違和感を覚えた場合は、必ず眼科専門医の診察を受けるようにしてください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療専門家の診断・治療に代わるものではありません。必ず主治医や眼科医の指示を仰ぎ、必要に応じて詳しい検査や適切な治療を受けましょう。


参考文献


【免責事項】
本記事は参考情報を提供するものであり、専門的な医療アドバイスや診断、治療の代替とはなりません。実際の治療を行う場合は、症状や病歴に応じて医師の診察と指導を必ず受けてください。特に合併症のリスクが高い方や、すでに糖尿病や高血圧などの全身疾患をお持ちの方は、より慎重な眼科および内科的管理が必要です。自己判断での放置は悪化につながる恐れがあるため、気になる症状がある場合には早めに専門医の受診を検討してください。

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