はじめに
日常生活の中で、ふと下着に茶褐色や黒っぽい色を帯びたおりものがついているのに気づくと、多くの方は驚きや不安を感じるかもしれません。特に生理期間ではないのに、においがない茶色~黒色のおりものが出る場合、何かの病気ではないかと心配になることもあるでしょう。本記事では、そうした不安を解消するために考えられる原因を幅広く整理し、あわせて対処やセルフケアのポイントを丁寧に解説します。さらに、さまざまな研究や文献の知見をもとに情報を補足しながら、できるだけわかりやすくまとめました。なお、記事内で紹介する内容はあくまで情報提供を目的としたものであり、個々の症状や体調によって大きく異なる場合がありますので、気になる方は必ず医療専門家にご相談ください。
免責事項
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専門家への相談
本記事では、複数の医療研究機関や国際的に権威のある組織(Cleveland Clinic、Mayo Clinic、NHS、Nationwide Children’s Hospital など)が提供している情報や、日本国内の医療現場で広く認知されている知見を参考にしています。また、一部の外部サイト(thuocdantocなど)も参照し、総合的に内容を検証しています。これらの情報源は、長年にわたり多くの症例を扱い、臨床研究を通じて確立された信頼度の高いデータを提供しているため、一般的に信頼度が高いとされています。ただし、最終的な診断や治療方針は医師や助産師などの専門家と十分に相談し、ご自身の体調や症状に合わせて判断してください。
茶褐色から黒っぽいおりものが出る原因
おりもの(帯下とも呼ばれます)は子宮頸管や膣などから分泌される液体で、基本的には透明~乳白色のことが多いとされています。しかし、ホルモンバランスの変動やライフステージの変化、あるいは何らかの疾患の影響などによって、色や性状が変化する場合もあります。ここでは、においがなく茶褐色~黒っぽいおりものがみられる主な要因について、まずは生理的なケースと病的なケースに分けて考えていきます。
生理的な原因
妊娠初期の兆候としての茶褐色のおりもの
性交渉の経験がある方で、月経予定日近くや予定日を過ぎたころに茶褐色のおりものが出て「においもかゆみもない」という状況であれば、妊娠の可能性が考えられます。これは着床時にごくわずかに出血し、それが膣分泌物と混ざることで茶褐色や黒みがかった色に見える場合があるためです。こうした妊娠初期の兆候を早めに把握することは、栄養管理や身体活動などの生活習慣を調整するうえで非常に重要です。
生理前後の茶褐色のおりもの
月経の直前や直後は、体内のホルモンバランスの変化により膣内分泌物が増加しやすくなります。そこに微量の経血が混ざり、茶色っぽいおりものとなってあらわれることがあります。生理期間の終盤に少量の血液が残る場合もあり、それが空気と触れて酸化すると茶褐色や黒っぽい色になることも珍しくありません。こうしたケースは一般的には心配のない生理的な反応とされています。
更年期や閉経期のホルモン変化
更年期に入るとエストロゲンの分泌量が徐々に低下していき、膣の粘膜が萎縮する(膣萎縮)ことで細かい出血が起こりやすくなる場合があります。これら少量の血が膣分泌物に混ざると、茶褐色や黒っぽいおりものとして認められることがあります。とくに閉経前後におりものの量や性状が変わるのは珍しくなく、一時的なものであれば大きな問題ではない場合もあります。ただし、更年期前後に見られるおりものの異常は、子宮・卵巣領域のほかの疾患とも紛らわしいことがあるため、一度検査を受けて確認することをおすすめします。
ホルモンバランスの乱れ(ストレス、疲労など)
ストレスや過度な疲労、急激なダイエットなどでホルモンバランスが崩れると、月経周期が乱れやすくなり、排卵のタイミングがずれることもあります。結果として、子宮内膜の一部が不安定になって少量の出血を伴うことがあります。このような場合、おりものが茶色~黒色に変化することがあるものの、においやかゆみなどの強い症状がなければ、一時的なホルモンバランスの乱れによる可能性も考えられます。
産後の出血(悪露)
出産後しばらくは、子宮内に残っていた血液や組織が排出される“悪露”と呼ばれる出血現象が起こります。産後数日で量が減り始めると、色も次第に赤色から茶色やクリーム色へ変化し、分泌量も減少していきます。生理的な範囲内であれば特に問題ありませんが、血の塊が大きかったり異臭を伴ったり、発熱を伴う場合は感染症の疑いもあるため、産科を受診し適切なケアを受ける必要があります。
ピル・ホルモン剤の影響
避妊用ピルやホルモン補充療法の薬剤を使用している場合にも、ホルモン変動の影響でおりものに血が混ざりやすくなることが報告されています。もし、においもかゆみもなく微量の出血が続く程度であれば、服用の影響かどうか担当医に相談すると安心です。
病的な原因
上記のような生理的要因に当てはまらず、明らかに違和感がある場合や、おりものが持続的に茶褐色~黒色の状態が続く場合、何らかの疾患リスクを疑うことが必要です。以下に挙げる病気は、日本の医療機関でも比較的多く診断されることがあるため注意してください。
膣炎・外陰炎
膣内や外陰部が細菌や真菌(カビ)、原虫などに感染して炎症を起こすと、黄色や緑色、あるいは茶色など、おりものの色やにおいに変化が生じることがあります。一般に、細菌性膣炎やトリコモナス膣炎では生臭いにおいを伴うことが多いですが、軽度の感染や混合感染などでは必ずしも強いにおいがあるとは限りません。少量の出血が混ざり、結果的に茶色っぽく見えることもあるため、「においがない=病気ではない」と判断するのは危険な場合があります。
骨盤内炎症性疾患(子宮内膜炎・卵管炎・骨盤腹膜炎など)
骨盤内炎症性疾患とは、子宮や卵管、卵巣などの骨盤内臓器に感染が波及し、広範囲の炎症を引き起こしている状態です。下腹部痛や性交時痛、排尿時痛などを伴うことが多く、そこに膣分泌物の増加や色の変化が生じるケースが報告されています。茶褐色のおりものが出始めて、下腹部痛や腰痛などの症状が続くときは、できるだけ早く産婦人科を受診し、原因を特定することが大切です。
子宮頸部のびらん・子宮頸管炎
子宮頸部にびらんや炎症がある場合、性交渉などの刺激によって少量の出血が起こることがあります。その血液がおりものと混ざり、茶色や黒色の分泌物として認められることがあるのです。初期段階は自覚症状が少ないため、定期検診(子宮頸がん検査など)を受けていない方が知らないうちに進行させてしまうケースも否定できません。
子宮頸がん
子宮頸がんは日本でも年間一定数の患者が診断される代表的な婦人科系がんのひとつですが、早期発見・早期治療によって生存率や予後が大きく左右されるといわれています。初期症状として、不正出血やおりものの異常(茶褐色、黒色、またはピンク色など)がみられることがあるため、「生理じゃないのに変色したおりものが続く」「においが普段と違う」と感じたら、子宮頸がん検診を含めた婦人科受診を検討することが重要です。
茶褐色や黒っぽいおりものが出たときの対処方法
おりものの色や形状の異常は、多くの女性にとって精神的なストレスの原因になるだけでなく、感染症や子宮・卵巣の疾患など重大なトラブルのサインである可能性も否定できません。ここでは、具体的なセルフケアや医療機関の受診のタイミングについて整理します。
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婦人科を受診するタイミング
- 茶褐色のおりものが続き、下腹部痛や排尿時痛、性交時痛など他の症状を伴う場合
- 生理とは明らかにタイミングがずれ、量や色の異常が何日も続く場合
- かゆみ、腫れ、発熱など炎症を疑う症状がある場合
- 更年期前後での膣出血(少量でも)を繰り返している場合
いずれのケースでも、放置すると悪化してしまう疾患が隠れているかもしれません。できるだけ早めに産婦人科や婦人科クリニックを受診し、原因を特定することが大切です。
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日常ケアとセルフチェックのポイント
- 毎日の洗浄: 過度に洗いすぎると膣内の自浄作用を乱す可能性があるため、刺激の少ない洗浄料を使い、外陰部をやさしく洗うのが望ましいです。生理用ナプキンやおりものシートはこまめに交換し、蒸れないように気をつけましょう。
- 下着の選び方: 吸湿性や通気性の良い綿素材の下着が推奨されます。化学繊維のタイトな下着は、蒸れやすく雑菌が繁殖しやすい環境を作る可能性があります。
- 性交渉の管理: 痛みやしみる感じがあるときは性交渉を控え、原因が特定されるまではパートナーとのコミュニケーションを図りながら適切に対応しましょう。コンドームの使用は性感染症の予防に効果的です。
- ストレス管理: ストレスや疲労はホルモンバランスを乱す主な要因の一つです。十分な睡眠、栄養バランスの良い食事、適度な運動などで心身をリラックスさせるよう心がけましょう。
- 定期健診: 子宮頸がん検診や乳がん検診など、定期的な婦人科検診を受けることで、初期段階の異常を早期に発見できる可能性が高まります。
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妊娠の可能性がある場合
- もし妊娠が疑われる時期に茶褐色や黒っぽいおりものが出た場合、自宅で妊娠検査薬を試したり、産婦人科で診察を受けたりして、早めの確認を行いましょう。
- 妊娠が成立していた場合、その後の栄養管理や生活習慣の見直しが重要です。出血やおりものの変化が続く場合は、切迫流産などのリスクも否定できないため、主治医の指示を仰いでください。
追加の研究知見と専門家の見解
近年の研究では、ホルモンバランスの乱れや膣内環境の変化は、単に生活習慣だけでなく腸内環境との関連も注目されています。以下、国内外で発表された比較的新しい研究をいくつか例示しながら、茶褐色のおりものと関連がある可能性が示唆されている点を補足します。
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膣内微生物叢(フローラ)の重要性に関する研究
2021年に発表された系統的レビューでは、膣内の細菌叢が感染症の発症や再発に深く関与することが示されています(Balan, G. G. ら 2021, Diagnostic Microbiology and Infectious Disease, 100(3), 115367, doi:10.1016/j.diagmicrobio.2021.115367)。この研究では、細菌性膣炎が慢性的に起こるケースの一部で茶褐色から黄色がかったおりものが認められた例も報告されています。国内の婦人科でも、膣内環境のバランスを整えるために、抗菌剤だけでなくプロバイオティクスの活用など多角的な治療アプローチが試みられています。 -
再発性の膣カンジダ症とおりもの変化
2022年に発表された論文では、カンジダ属真菌の感染によって繰り返し起こる膣カンジダ症が、婦人科外来での相談の多くを占めるという調査結果が示されています(Sanchez, S. ら 2022, Clinical Microbiology Reviews, 35(4), e00202-21, doi:10.1128/cmr.00202-21)。ここでは、典型的には白い酒粕状のおりものがみられるものの、二次感染やホルモンバランスの乱れを合併すると褐色や茶色に変化する症例があることも記載されています。日本人女性においても、妊娠期や更年期、生活習慣の変動期などにカンジダ症が再発しやすい報告があるため、注意が必要です。 -
グローバル視点で見た膣感染症マネジメント
2021年に発表された総説では、世界各国における膣感染症の診断および治療ガイドラインが比較されており、患者個々の症状と膣内細菌叢の状態を総合的に評価する手法の重要性が強調されています(Simmons, B. ら 2021, Clinical Microbiology and Infection, 27(8), 1087–1094, doi:10.1016/j.cmi.2021.02.009)。日本でも、婦人科や検査技術が充実した医療機関で、従来の顕微鏡検査だけでなく分子生物学的手法を用いた膣内環境の分析が普及しつつあり、より正確な原因特定と的確な治療が期待されています。
こうした新しい研究は、日本国内でも婦人科領域の医師が注目しており、茶褐色のおりものを含む膣分泌物の異常について、さらに個別化医療(パーソナライズド医療)を進める傾向にあります。においがない場合でも、感染症やホルモン異常が潜んでいる可能性があり、慎重な診断が求められます。
日常生活で気をつけること
茶褐色や黒っぽいおりものは、生理的な範囲であればそれほど心配いらないケースが多いものの、繰り返し起こる場合やほかの症状を併発している場合には注意が必要です。下記のポイントを意識して、毎日の生活を整えることが大切です。
- 衛生管理: 外陰部を清潔に保つため、温水または低刺激の洗浄料を用いてやさしく洗いましょう。必要以上に強くこすったり、膣の奥まで洗い流すような方法は膣内の自浄作用を乱す恐れがあります。
- 下着の選択: 吸湿性や通気性に優れた綿素材を中心とした下着を使用すると、膣周辺の蒸れを抑えやすくなります。締めつけの強い化学繊維の下着やガードルを常に使用している方は、状況に応じて見直しを検討しましょう。
- ナプキンの交換: 生理中は4~5時間ごとにナプキンを交換することで、経血とおりものが混ざった状態での細菌繁殖を防ぐことができます。おりものシートを使用する場合も、なるべくこまめに交換することを意識しましょう。
- 適度な運動: 散歩や軽い筋トレなど、毎日少しでも身体を動かす習慣をつくると、血行やホルモンバランスの改善が期待できます。軽い運動はストレス軽減にも有効です。
- 栄養バランス: ビタミン、ミネラル、タンパク質をバランスよく摂ることはホルモン合成や免疫機能の維持に欠かせません。極端な食事制限や偏食はホルモンバランスを乱す原因にもなり得ます。
- ストレスマネジメント: 睡眠不足や過労、過度の精神的ストレスは、女性ホルモンの分泌バランスを崩しやすいとされています。質の高い睡眠を確保し、趣味やリラックスできる時間を意識的に取り入れるようにしましょう。
推奨される受診・検査・治療
婦人科検診(子宮頸がん検査など)
日本では、20歳以上の女性に対して子宮頸がん検診の受診が推奨されています。茶褐色のおりものに限らず、婦人科系疾患は早期発見が重要です。特に子宮頸がんや子宮内膜症などは早期には症状が軽微で見逃しやすいため、定期的に検査を受けることでリスクを低減できます。
感染症の検査
膣炎や子宮内膜炎などの感染症が疑われる場合、膣分泌物の顕微鏡検査や細菌培養検査、必要に応じて血液検査や超音波検査を行うことがあります。感染症が見つかった場合は、抗生物質や抗真菌薬など適切な薬剤を用いて治療を行います。自己判断による市販薬の使用はかえって症状を悪化させることもあるため、必ず医療機関で正しい診断を受けましょう。
ホルモン療法・ピルの調整
ピルやホルモン補充療法中におりものの変化が気になる場合は、医師に相談のうえ投与量や薬剤の種類を調整することも検討されます。症状が持続する場合や副作用が強く出る場合は、他の治療方法に切り替えるケースもあります。
外科的治療
子宮頸部の高度なびらんや高度異形成、子宮筋腫・子宮内膜ポリープなど、手術が必要と判断される疾患が原因の場合には、外科的治療(レーザー治療、切除術など)が検討されます。婦人科の専門医とよく相談し、治療方針を決めることが大切です。
結論と提言
においのない茶褐色~黒っぽいおりものは、月経前後や妊娠初期、更年期などの生理的な理由で起こる場合がある一方で、感染症や子宮頸がんなどの初期症状である可能性も否定できません。とくに日本人女性はホルモンバランスが乱れやすい環境にある、あるいは検診を後回しにしてしまうなどの理由で、病気に気づくのが遅れるケースもあると指摘されています。
- 注意が必要な症状: 下腹部痛、発熱、においの変化、かゆみ、頻尿、性交時痛などの症状を伴う場合は、早急に婦人科を受診し原因を突き止めることが重要です。
- 定期検診の大切さ: 茶褐色のおりものが一時的に収まっても、原因が解消されていなければ、将来的に再発や合併症を引き起こすリスクがあります。子宮頸がん検診をはじめ、定期的に婦人科の検査を受けることで、早期発見・早期治療につなげましょう。
- 自己判断ではなく医療専門家の意見を: インターネットや自己流のセルフケアだけで完全に解決できるとは限りません。症状が気になる場合は、専門の産婦人科医や助産師の指導を仰ぎ、必要な検査や処置を受けることが望ましいです。
日本における婦人科医療の発展にともない、精密検査やホルモン解析なども充実しており、原因不明の出血やおりものの異常に対する診断精度が年々向上しています。早めに対処し、疑わしい症状を先送りにしないことが、長期的な健康と安心につながります。
参考文献
- Brown Discharge: 4 Causes and What It Means – Cleveland Clinic(アクセス日: 2022年10月30日)
- Vaginal discharge Causes – Mayo Clinic(アクセス日: 2022年10月30日)
- Vaginal discharge – NHS(アクセス日: 2022年10月30日)
- Vaginal Discharge: Signs of Infection, Treatment and Prevention – Nationwide Children’s Hospital(アクセス日: 2022年10月30日)
- 「おりものが茶色でにおいがしない」解説 – thuocdantoc.vn(アクセス日: 2022年10月30日)
- Balan, G. G. ら (2021) “The importance of bacterial biofilm in the pathogenesis of vaginal infections: A systematic review.” Diagnostic Microbiology and Infectious Disease, 100(3), 115367, doi:10.1016/j.diagmicrobio.2021.115367
- Sanchez, S. ら (2022) “Recurrent vulvovaginal candidiasis: an overview of pathogenesis, immunology, and management.” Clinical Microbiology Reviews, 35(4), e00202-21, doi:10.1128/cmr.00202-21
- Simmons, B. ら (2021) “Emerging concepts in the management of vaginal infections: a global approach.” Clinical Microbiology and Infection, 27(8), 1087–1094, doi:10.1016/j.cmi.2021.02.009
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以上を踏まえ、茶褐色や黒っぽいおりものが気になったときには、自己判断に頼らずに医療専門家に相談し、原因を見極めながら適切な対処・予防策を講じるようにしてください。もしも疑問や不安がある場合は、早めの受診や検査が安心と健康を守る第一歩となるでしょう。今後とも、ご自身の身体の変化に気を配りつつ、定期的な検診を欠かさず行い、豊かで健やかな日々をお過ごしください。