2型糖尿病の食事療法完全ガイド:体重管理と心腎保護の新戦略
糖尿病

2型糖尿病の食事療法完全ガイド:体重管理と心腎保護の新戦略

糖質制限、地中海式食事法、それとも野菜から先に食べるべきか?糖尿病の食事に関する、時に相反する情報の海の中で、ご自身にとって正しい道を見つけ出すことは、混乱し圧倒されるように感じられるかもしれません。2型糖尿病を患っている際の体重減少が、単に均整の取れた体型を目指すためだけでなく、血糖値を管理し、使用する薬剤の量を減らし、そして何よりも心臓病、腎不全、脳卒中といった危険な合併症を防ぐための不可欠な一歩であることは、誰もが理解しています。しかし、どのようにすれば健康的かつ持続可能な方法で体重を減らすことができるのでしょうか?一時的な流行ではなく、科学的に証明された方法とは何なのでしょうか?この記事が、あなたの道しるべとなります。私たちは、日本糖尿病学会(JDS)の「糖尿病診療ガイドライン2024」や米国糖尿病学会(ADA)の「糖尿病医療標準2025」を含む、最新かつ最も信頼性の高い医学的証拠に完全に基づいた、明確で詳細な行程表を提供します12。基本的な科学的原則から、一般的な食事法の比較、さらには日々の日本の食卓で実践できる具体的な秘訣までを共に学び、あなたが自信を持って健康改善の道を歩めるよう支援します。

医学的査読者:
本記事は、山田 悟(やまだ さとる)医師によって医学的に監修されています。
役職: 北里研究所病院 糖尿病センター長、内分泌・代謝内科 部長
専門分野: 一般内科、糖尿病。医学的根拠に基づく糖質制限食をはじめとする、糖尿病の食事療法における日本の第一人者の一人です。
資格: 日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。栄養と糖尿病に関する多数の書籍や研究論文の著者でもあります3


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。

  • 日本糖尿病学会 (JDS): 本記事における主要な食事療法、目標設定、およびリスク管理に関する指針は、同学会が発行した「糖尿病診療ガイドライン2024」に基づいています1
  • 米国糖尿病学会 (ADA) / 欧州糖尿病学会 (EASD): 体重管理、心腎代謝(CKM)の健康、およびエビデンスに基づく食事パターン(地中海食など)に関する国際的な視点と推奨事項は、これらの学会の「糖尿病医療標準2025」およびコンセンサスレポートに基づいています24
  • BMJ Medicine誌に掲載されたメタアナリシス: 低炭水化物食がHbA1cに与える具体的な効果(平均0.47%の低下)に関するデータは、同誌に掲載された大規模なアンブレラレビューを引用しています5
  • 名古屋大学の研究: 炭水化物摂取量と長期的な死亡リスクとの関連性に関する議論は、8万人以上の日本人を対象とした同大学の大規模追跡調査に基づいています6
  • 厚生労働省 (MHLW) / 国立循環器病研究センター: 日本の食生活における具体的な塩分目標や「かるしお」の概念など、実践的なアドバイスは、これらの公的機関が提供する情報に基づいています78

要点まとめ

  • 2型糖尿病の食事療法は、単なるカロリー制限から、体重管理を通じて心臓と腎臓を保護する包括的な戦略へと進化しています。
  • 科学的根拠に基づき、まず体重の5〜7%を減らすことが、インスリンの効き目を改善し、血糖値、血圧、脂質を正常化させるための現実的で効果的な第一目標です。
  • すべての健康的な食事法は、「適切なエネルギー摂取」「栄養バランス」「豊富な食物繊維」「減塩」「節度ある飲酒」という5つの基本原則に基づいています。
  • 低炭水化物食、低GI食、地中海食、植物性食品中心食など、様々な食事法にはそれぞれ利点と注意点があり、個人の健康状態やライフスタイルに合った持続可能な方法を選ぶことが重要です。
  • 「食べる順番療法(ベジファースト)」や伝統的な和食を「かるしお」で工夫するなど、日常生活で簡単に実践できるテクニックが血糖管理に有効です。

第1章: 科学的基礎 – なぜ体重減少が鍵となるのか?

多くの2型糖尿病患者にとって、過体重は単なる外見上の問題ではありません。問題の根源は体の奥深く、いわゆる「インスリン抵抗性」という現象に関連しています。インスリンを、血液中の糖(グルコース)が細胞内に入りエネルギーを生み出すための扉を開ける「鍵」だと想像してみてください。脂肪、特に内臓脂肪(腹部の臓器の周りにつく脂肪)が過剰になると、細胞の「鍵穴」が「詰まり」、インスリンに対して鈍感になります。これがインスリン抵抗性の状態です。その結果、糖は効率的に細胞に入れず、血液中に蓄積して高血糖を引き起こします9

良い知らせは、この過程は可逆的であるということです。たとえわずかでも体重を減らすことは、インスリン感受性の改善に強力な影響を与えます。医学的ガイドラインは、すぐに「理想」体重を達成することを求めてはいません。代わりに、非常に現実的で効果の高い初期目標として、「現在の体重の5%から7%の減量を目指すことから始めましょう」と提言しています9。例えば、体重が80kgであれば、初期目標はわずか4kgから5.6kgの減量です。

この数値を侮ってはいけません。ある研究では、「わずか1kgの減量でも内臓脂肪を有意に減少させる」ことが示されています9。さらに、大規模なメタアナリシスでは、5%以上の体重減少がHbA1c、血中脂質(コレステロール、中性脂肪)、および血圧の改善に統計的に有意な利益をもたらすことが確認されています10

より具体的な体重目標を設定するためには、BMI(Body Mass Index)を用いることができます。計算式は次の通りです:BMI = 体重(kg) ÷ (身長(m) × 身長(m))。日本では、理想的なBMIは22とされています。例えば、身長1m60cmの人の目標体重は約 1.6 × 1.6 × 22 = 56.3 kgとなります11。しかし、重要なのは、この目標は高齢者などの特別な対象群に対しては、栄養不良や筋肉減少の危険性を避けるために、個別化し調整する必要があるということです1

日本の状況に合わせた「体重の最適化」

欧米のガイドラインの多くは肥満が主要な危険因子であるため「減量」に焦点を当てていますが10、アジア、特に日本では状況が異なります。アジアでは、BMIが正常範囲内、あるいは痩せているにもかかわらず2型糖尿病を発症する人々(「thin-fat obesity」- 痩せ肥満)が多数存在します1213。彼らは体内の内臓脂肪の割合が高く、筋肉量が少ない傾向にあります。このような人々に対して画一的な「減量」を強いることは、筋肉量のさらなる減少(サルコペニア)を招き、代謝状態を悪化させる可能性があるため、不適切です。実際に、過度な体重減少は骨折のリスクを高めることも指摘されています14

このため、アジアの文脈に合わせて提唱されているのが「体重の最適化」という概念です15。これは単なる減量ではなく、体組成を改善することに主眼を置きます。

  • 過体重または肥満の人にとって:主に脂肪量を減らす健康的な減量を意味します。
  • 標準体重だが代謝リスクが高い人(痩せ肥満)にとって:適切な栄養(十分なタンパク質)と運動を組み合わせることで、内臓脂肪を減らし、筋肉量を維持または増加させることを意味します。
  • 高齢者や痩せている人にとって:筋肉量の減少や栄養不良を防ぐことを意味します。

あなたの目標は必ずしも減量である必要はありません。ご自身の体格に最適な目標が何かを判断するために、医師と相談することが極めて重要です。

第2章: 最新ガイドラインに準拠した健康的な食事の5つの柱

「糖質制限」や「地中海食」といった特定の食事スタイルに踏み込む前に、5つの基本的な栄養原則をしっかりと理解することが不可欠です。これらは世界のすべての権威ある医学ガイドラインで認められている柱であり、あなたの健康のための強固な基盤を築くのに役立ちます。

  1. 適切なエネルギー摂取、絶食ではない:目標は、体が機能するのに十分なエネルギーを供給し、脂肪として蓄積されるほどの過剰摂取は避けることです。一日に必要なエネルギー量(カロリー)は、目標体重と身体活動レベルに基づいて計算されます。一般的な計算式は以下の通りです:
    • 軽労働(主に座位、事務作業):目標体重1kgあたり25〜30 kcal
    • 中等度労働(立ち仕事、家事、軽い運動):目標体重1kgあたり30〜35 kcal
    • 重労働(肉体労働、運動選手):目標体重1kgあたり35 kcal以上

    例えば、目標体重が60kgの事務職の人は、一日あたり約 60 × (25〜30) = 1500〜1800 kcalが必要となります16

  2. 主要栄養素のバランス:どの栄養素も「敵」ではなく、すべてが必要ですが、適切な比率で摂取することが大切です。日本のガイドラインでは、アジア人の食習慣に適したバランスの取れた比率を推奨しています:
    • 炭水化物:総エネルギーの50〜60%
    • タンパク質:総エネルギーの20%未満
    • 脂質:残りの約20〜30%

    量だけでなく質も重要です。脂質に関しては、飽和脂肪酸(動物性脂肪、揚げ物、工業製品の菓子類に含まれる)を総エネルギーの7%未満に抑え、不飽和脂肪酸(オリーブオイル、青魚、ナッツ類に含まれる)を優先的に摂取しましょう1617

  3. 食物繊維の強化 – あなたの味方:食物繊維は、糖尿病との戦いにおける静かな「スーパーヒーロー」です。満腹感を持続させ、消化を助けるだけでなく、食後の血糖値の急上昇を抑える効果があります。
    • 目標:一日あたり少なくとも20〜25グラムの食物繊維を摂取することを目指しましょう16
    • 供給源:一日約350グラムの野菜を食べ、海藻、きのこ、特に玄米やオートミールのような全粒穀物を組み合わせることを目標とします。最新のガイドラインでは、HbA1cとインスリン抵抗性の改善において、水溶性食物繊維(オートミール、豆類、リンゴ、ニンジンに多く含まれる)の役割が特に強調されています1
  4. 減塩 – 心臓と腎臓を守る:糖尿病患者は高血圧や腎臓病のリスクが高いため、塩分摂取量を管理することは、これらの臓器への負担を軽減するために極めて重要です。
    • 目標:男性は一日7.5グラム未満、女性は6.5グラム未満の食塩摂取を目指すべきです。すでに高血圧がある場合は、目標はさらに厳しく、一日6.0グラム未満です16
  5. アルコールの制限:アルコールは血糖値に影響を与え、治療薬と相互作用する可能性があります。
    • 制限:飲む場合は、一日あたり純アルコール換算で25グラム以下に制限してください(例:ビール350ml缶1本、またはワイン120mlグラス1杯程度)18
    • 警告:肝臓病、膵炎、またはその他の重篤な合併症がある場合は、絶対にアルコールを飲んではいけません。特にインスリンを注射している場合、空腹時の飲酒は危険な低血糖を引き起こす可能性があります16
表1: 一日の栄養目標要約(JDS & MHLWガイドラインに基づく)
栄養項目 推奨目標 出典 (JDS, MHLW) 重要な注意点
総エネルギー 25〜35 kcal/kg目標体重/日 16 身体活動レベルに応じて調整。減量のためには低めの設定から始める。
炭水化物 総エネルギーの50〜60% 17 全粒穀物、GI値の低い芋類を優先する。
タンパク質 総エネルギーの20%未満 16 高齢者はフレイル(虚弱)対策として1.0 g/kg以上が必要な場合がある。
脂質 総エネルギーの約20〜30% 16 飽和脂肪酸を7%未満に制限。不飽和脂肪酸を増やす。
食物繊維 20〜25 g/日以上 16 特にオートミール、豆類、野菜由来の水溶性食物繊維が重要。
食塩(塩化ナトリウム) 男性 <7.5 g/日、女性 <6.5 g/日 16 高血圧合併時は6.0 g/日未満が目標。
アルコール(純エタノール) 25 g/日以下 18 特定の病状(肝疾患、重篤な合併症)では禁忌。

第3章: 一般的な食事法の比較 – 最適な選択肢は何か?

5つの基本原則を守ることに加え、広く研究され適用されている多くの食事「スタイル」が存在します。すべての人にとって「最良」のスタイルというものは存在しません。最良の選択とは、あなたの健康目標、好み、そして長期的に維持できる可能性に合ったものです。最新の科学的証拠に基づき、それぞれの種類の長所と短所を分析してみましょう。

3.1. 糖質制限食(Low-Carb Diet)

定義:炭水化物(でんぷん、糖)の摂取量を通常の推奨レベルよりも低く抑える食事法です。制限の度合いは様々ですが、研究では一般的に、総エネルギーの26%未満を炭水化物とする食事を低炭水化物食と定義しています5

科学的証拠:この食事法は、短期的な血糖管理の改善に非常に効果的であることが証明されています。大規模なメタアナリシスでは、HbA1cを平均0.47%低下させることが示されました5。また、中性脂肪(トリグリセリド)の濃度を低下させるという肯定的な効果もあります。しかし、長期的な体重減少効果や悪玉コレステロール(LDL-C)の低下効果は明確ではありません19

ガイドラインの見解:JDSガイドライン2024では、糖質制限食が血糖コントロールに有用である可能性を認めていますが、それは短期間(6〜12ヶ月)に限られ、重篤な合併症がなく、医学的な監視下にある患者の選択肢としてのみ考慮されるべきだとしています1

実践上のアドバイスと危険性:極端な糖質制限を長期間続けることには、潜在的な危険性が伴う可能性があります。名古屋大学による8万人以上の日本人を9年間にわたり追跡した大規模研究では、炭水化物の摂取が少なすぎると、長期的にはあらゆる原因による死亡リスクを高める可能性があることが示唆されました6。したがって、医師や管理栄養士の助言・監督なしに、自己判断でこの方法を極端に適用すべきではありません。

3.2. 低GI食(Low-GI Diet)

定義:この食事法は、炭水化物の量だけでなく、その質にも焦点を当てます。血糖指数(Glycemic Index – GI)が低い食品、つまり食後に血糖値を急激に上昇させない食品を優先します。

科学的証拠:メタアナリシスによると、この食事法は血糖コントロールの改善に役立ち、対照群の食事と比較してHbA1cを平均約0.14%低下させることが示されています20

ガイドラインの見解:JDSガイドライン2024でも低GI食は有用であると認められています。しかし、研究結果に一貫性がない場合があるため、「弱い推奨」に分類されています21

実践上のアドバイスと危険性:これは比較的に適用しやすく安全な戦略です。白米を玄米に、白いパンを全粒粉パンに替え、豆類、オートミール、ほとんどの野菜や果物を多く食べることから始めることができます。

3.3. 地中海食(Mediterranean Diet)

定義:地中海沿岸諸国の伝統的な食事に着想を得たこの食事法は、野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ類、エキストラバージンオリーブオイル、魚を多く摂取し、乳製品は適度に、赤身肉や甘いものは制限することを強調します。

科学的証拠:これは最も徹底的に研究された食事法の一つであり、その利点に関する強力な証拠があります。メタアナリシスによると、血糖コントロールの改善(HbA1cを最大0.47%低下)に非常に効果的であるだけでなく、体重を大幅に減少させる(平均1.84kg)助けにもなります20。さらに重要なことに、心血管疾患のリスク低下と密接に関連しています22

ガイドラインの見解:ADAやEASDなどの国際的な組織は、地中海食を「エビデンスに基づく食事パターン」として強く推奨されるものの一つに挙げています1523

実践上のアドバイスと危険性:この食事法は非常に柔軟で美味しく、長期的に続けやすいです。極端な禁止事項はなく、バランスと食品の質に重点を置いています。

3.4. 植物性食品中心食(Plant-Based Diet)

定義:この食事法は植物由来の食品を優先します。動物性製品を完全に排除する完全菜食(ヴィーガン)、卵と乳製品は摂取する菜食(ベジタリアン)、または主に植物性食品を食べながら時々少量の肉や魚を食べる柔軟なスタイル(フレキシタリアン)など、様々な形態があります。

科学的証拠:研究によると、植物性食品中心食はBMIと腹囲の減少に効果的です5。菜食および完全菜食も、血糖コントロールを改善し、減量をサポートする能力を示しています20

ガイドラインの見解:ADAの医療標準2025は、この食事法の核となる植物性タンパク質と食物繊維の摂取を奨励しています223

実践上のアドバイスと危険性:適用するためには、豆腐、納豆、豆類、ナッツ類を使った料理を増やすことができます。厳格な菜食主義を実践する場合は、栄養不足を避けるために、十分なタンパク質、ビタミンB12、鉄分、カルシウムを補うことに注意が必要です。

表2: 主な食事法の効果比較
食事法 HbA1c低下効果 減量効果 その他の利点 危険性/注意点 推奨度 (JDS/ADA)
糖質制限食 (<26%) 高い (短期間)
(-0.47%)5
中程度 (短期間)24 中性脂肪の低下19 極端な場合、長期的な死亡リスクの可能性6。医学的監視が必要。 JDS: 短期間(6-12ヶ月)で有用1
低GI食 中程度
(-0.14%)20
低い 安全で実践しやすい。 総炭水化物量とカロリーにも注意が必要。 JDS: 弱い推奨21
地中海食 高い
(-0.47%)20
高い
(-1.84 kg)20
心血管系への利益が明確22 特筆すべき危険性はなく、持続可能。 ADA/EASD: 強く推奨15
植物性食品中心食 中程度22 中程度 (BMI低下)5 腹囲の改善5 厳格な菜食ではタンパク質、ビタミンB12などの不足に注意。 ADA: 推奨23

第4章: 実践の秘訣 – 知識を習慣に変える

理論はさておき、これらの知識を日々の食事、特に日本の食文化の中でどのように応用すればよいのでしょうか?以下に、効果が証明されている実践的なテクニックを紹介します。これらは、知識を健康的な習慣へと容易に変える手助けとなるでしょう。

4.1. 食べる順番療法(Eating Order Therapy)

これは食後の血糖値をコントロールするための最もシンプルで効果的な戦略の一つです。ルールは覚えやすく、「野菜/食物繊維 → タンパク質/脂質 → 炭水化物」の順で食べることです25

作用機序:野菜(食物繊維が豊富)や肉・魚(タンパク質・脂質が豊富)を先に食べると、それらが胃の中でクッションのようになり、後から食べるご飯や麺類からの糖の消化・吸収を遅らせます。これにより、血糖値は急激に上昇するのではなく、緩やかに安定して上昇するため、インスリンを大量に分泌しなければならない膵臓への負担が軽減されます25

「ベジファースト」の実践:食事の最初にサラダ、野菜スープ、または茹で野菜から始めましょう。他の料理に移る前に、約100グラムの野菜を食べることが目標です26。これは血糖コントロールを助けるだけでなく、満腹感を得やすくし、その後の食事の過食を防ぐのにも役立ちます。

別の視点:山田悟医師のような専門家の一部は、脂質やタンパク質が豊富な料理を先に食べる(「リピッドファースト」や「プロテインファースト」)ことでも、糖の吸収を遅らせる同様の効果があると指摘しています27。これは、炭水化物を空腹時に単独で食べないことが鍵であることを示唆しています。

4.2. 伝統的な和食の工夫(Washoku Hacks)

日本の伝統的な食事(和食)は健康的とされていますが、主に塩分と白米の量が多いという点で、糖尿病患者にとっては課題もあります28。以下は、和食を「アップグレード」する方法です。

「かるしお」の概念を適用する:これは国立循環器病研究センターが提唱した「軽い塩使いで素材の味を引き出す」という哲学です。醤油や味噌に頼る代わりに、他の食材から得られる自然な旨味(うまみ)を活用しましょう。秘訣の一つは、昆布とかつお節から取った濃厚な出汁(だし)を使うことです。この出汁が料理に深みを与え、多くの塩を使わなくても満足のいく味になります8

賢い炭水化物の選択:白米だけを食べる代わりに、玄米に切り替えるか、白米に麦を混ぜて炊く(麦ごはん)ことを試してみてください。これらの選択肢は食物繊維が格段に多く、血糖値の上昇を緩やかにし、消化器系にも良い影響を与えます25

4.3. マインドフル・イーティング(Mindful Eating)

忙しい生活の中で、私たちはしばしば急いで無意識に食事をしがちです。マインドフル・イーティングとは、食事の体験に完全に注意を向ける実践です。研究によると、この方法は過食を防ぎ、食べ物との関係を改善するのに役立つことが示されています29

実践のステップ:

  • 気を散らすものを排除する:食卓に着いたらテレビを消し、スマートフォンやタブレットをしまいましょう。
  • ゆっくり食べ、よく噛む:一口一口をよく噛み、料理の味や食感を十分に感じ取る時間を取りましょう。
  • 体に耳を傾ける:体の空腹感と満腹感のサインに注意を払います。お腹が80%程度満たされたと感じたら食べるのをやめましょう(日本で馴染みのある「腹八分目」の概念です)29

利点:マインドフル・イーティングは、食べる量をコントロールしやすくするだけでなく、血糖値に悪影響を及ぼす可能性のあるストレスを軽減するのにも役立ちます29

4.4. 定期的な食事の重要性

食事のタイミングと規則性は、その内容と同じくらい重要です。

原則:一日3回の主食を、毎日ほぼ同じ時間に食べるように心がけましょう。特に朝食は絶対に抜いてはいけません30

理由:食事を抜くと、体は極度の空腹状態になり、次の食事で過食に走りやすくなり、血糖値の急上昇を引き起こします。また、就寝時間に近い遅い時間に夕食をとることも、余分なエネルギーが脂肪に変換され、蓄積されやすくなります11

よくある質問

果物は食べても良いのですか?

はい、しかし量と種類が重要です。果物にはビタミンや食物繊維が豊富ですが、果糖も含まれています。日本糖尿病学会のガイドラインでは、現時点では強力な研究が不足しているため、果物の摂取に関する明確な推奨は示されていません1。一般的には、一日に80kcal程度(例えば、りんご半分やみかん1個)を目安とすることが多いですが、最適な量は個人によって異なります。血糖値への影響をみながら、医師や管理栄養士と相談してご自身に合った量を見つけることが最善です。

人工甘味料は安全ですか?

非栄養性甘味料(人工甘味料)の使用については、科学的な見解がまだ完全に一致していません。これらはカロリーゼロで血糖値を直接上げないため、砂糖の代替品として有用な場合があります。しかし、長期的な健康への影響については、まだ研究が続けられています。米国糖尿病学会(ADA)は、砂糖入り飲料の代わりに水や無糖飲料を選ぶことを推奨しており、甘味料の使用は個人の判断に委ねられています2。もし使用する場合は、適度な量に留めるのが賢明です。

外食が多いのですが、どうすれば良いですか?

外食は塩分、脂質、カロリーが高くなりがちですが、工夫次第で健康的な選択が可能です。まず、「ベジファースト」を実践し、サラダや野菜の小鉢から食べ始めましょう。定食を選ぶ際は、揚げ物よりは焼き魚や蒸し料理を選び、ご飯は少なめにしてもらうか、可能であれば残しましょう。丼物や麺類のような単品料理は栄養が偏りがちなので、野菜やタンパク質を追加できる定食形式が望ましいです。

結論

食事療法による2型糖尿病の管理という旅には、すべての人に共通する単一の公式は存在しません。私たちが提示したのは、現在利用可能な最も確固たる科学的証拠に基づいた原則と選択肢です。成功の鍵は、厳格な食事制限に従うことではなく、バランスが取れ、個人に合わせられ、そして何よりも持続可能な方法、つまりあなたが人生を通じて楽しく続けられる方法を見つけることにあります。

この記事の情報は、知識の基盤を提供する重要な出発点です。しかし、次に来る最も重要なステップは、食事に大きな変更を加える前に、必ず主治医、管理栄養士、または薬剤師と相談することです。彼らはあなたの健康状態、服用中の薬、そしてライフスタイルを最もよく理解している専門家です。彼らが、安全で効果的、そしてあなた自身に本当に合った食事計画を立てる手助けをし、あなたが最良の方法で健康目標を達成できるよう導いてくれるでしょう1

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://npartner.jp/topics/2024%E5%B9%B4%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%94%B9%E5%AE%9A%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%81%A8%E6%A0%84%E9%A4%8A%E6%8C%87/
  2. The American Diabetes Association. Summary of Revisions: Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Supplement_1):S6-S14. Available from: https://diabetesjournals.org/care/article/48/Supplement_1/S6/157564/Summary-of-Revisions-Standards-of-Care-in-Diabetes
  3. 北里研究所病院. 糖尿病センター. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: http://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/visitor/section/center/diabetes/
  4. Davies MJ, Aroda VR, Collins BS, et al. Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2022. A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care. 2022;45(11):2753-2786. doi:10.2337/dci22-0034. Available from: https://diabetes.org/newsroom/ADA-EASD-consensus-update-management-hyperglycemia-type-2-diabetes-report
  5. Daly M, Al-Ansari A, Al-Jufairi Z, et al. Diet in the management of type 2 diabetes: umbrella review of systematic reviews of randomised controlled trials. BMJ Med. 2023;2(1):e000445. doi:10.1136/bmjmed-2022-000445. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10649708/
  6. 糖尿病ネットワーク. 極端な「糖質制限」や「脂質制限」は危険? 糖尿病の人に良い食事. [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dm-net.co.jp/calendar/2023/037789.php
  7. 厚生労働省 e-ヘルスネット. 糖尿病の食事. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-004.html
  8. 糖尿病ネットワーク. 減塩は難しくない 糖尿病の人も減塩は必須 減塩の新しい考え方「かるしお」を提唱. [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dm-net.co.jp/calendar/2023/037918.php
  9. テルモ株式会社. 糖尿病と肥満をよく知ろう. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://mds.terumo.co.jp/diabetes/pdf/guide12_21T327.pdf
  10. Franz MJ, Boucher JL, Evert AB. Lifestyle weight-loss intervention outcomes in overweight and obese adults with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. J Acad Nutr Diet. 2015;115(9):1447-63. doi:10.1016/j.jand.2015.02.031. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25935570/
  11. 糖尿病情報センター. 糖尿病の食事のはなし(基本編). [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/020/02-1.html
  12. CareNet. 食事療法の見直しへ日本糖尿病学会が動き出す. [インターネット]. 2022. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.carenet.com/news/general/carenet/47235
  13. 麻生クリニック. 『糖尿病診療ガイドライン2024』の食事療法について. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.asou-clinic.com/column/column-456/
  14. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン 2024. 22章 高齢者糖尿病. 2024. Available from: https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/22.pdf
  15. Unnikrishnan R, Kalra S, Das AK, et al. ADA–EASD Consensus Report on the Management of Hyperglycaemia in Type 2 Diabetes in an Afro-Asian Context: Broadening the Perspective. J Assoc Physicians India. 2023;71(12):11-20. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10769473/
  16. こころみクリニック. 2型糖尿病の食事療法をガイドラインに沿って解説|メニュー例も紹介. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://cocoromi-cl.jp/knowledge/internal-disease/diabetes/dietary-therapy/
  17. 厚生労働省. 1 糖尿病における食事療法の現状と課題. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002xto9-att/2r9852000002xtsn.pdf
  18. dminfo.jp. 食事療法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.dminfo.jp/pc/kensa_chiryou/syokuji/
  19. Sami W, Ansari T, Butt NS, Ab Hamid MR. Efficacy of low carbohydrate diet for type 2 diabetes mellitus management: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Appetite. 2017;116:44-55. doi:10.1016/j.appet.2017.04.026. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28750216/
  20. Ajala O, English P, Pinkney J. Systematic review and meta-analysis of different dietary approaches to the management of type 2 diabetes. Am J Clin Nutr. 2013;97(3):505-16. doi:10.3945/ajcn.112.042457. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23364002/
  21. 樋口クリニック. 糖尿病診療ガイドライン2024の変更点-食事療法編. [インターネット]. 2024. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: http://higuchi-clinic-akiruno.com/info/1904/
  22. Papamichou D, Panagiotakos DB, Itsiopoulos C. Dietary patterns and management of type 2 diabetes: A systematic review of randomised clinical trials. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2019;29(6):531-543. doi:10.1016/j.numecd.2019.03.004. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30952576/
  23. The American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Supplement_1). Available from: https://diabetesjournals.org/care/issue/48/Supplement_1
  24. Snorgaard O, Poulsen GM, Andersen HK, Astrup A. [Diets low in carbohydrates for type 2 diabetics. Systematic review]. Ugeskr Laeger. 2017;179(9):V07160533. Danish. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28244795/
  25. 四谷・血管クリニック. 糖尿病にならないための食事とは?食事療法や運動療法についても解説. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.yotsuya-naishikyo.com/diabetes-lab/diabetes-meal/
  26. 神戸きしだクリニック. ベジファーストが血糖値に与える効果とは – 糖尿病予防の食事術. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://kobe-kishida-clinic.com/diabetes/veggie-first-blood-sugar-2/
  27. プレジデントオンライン. 血糖値上昇を抑えるのは「野菜」ではなかった…「痩せ効果ホルモン」を分泌するために「一口目」に食べるべきもの. [インターネット]. 2024. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://president.jp/articles/-/96270?page=1
  28. 公益社団法人 日本栄養士会. 健康増進のしおり 2014-3. [インターネット]. 2014. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.dietitian.or.jp/assets/data/learn/marterial/teaching/2014-3.pdf
  29. 糖尿病ネットワーク. 食事のカロリー制限はこうすれば成功する 糖尿病の食事に役立てられる「マインドフルネス食事法」. [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dm-net.co.jp/calendar/2023/037684.php
  30. 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団. みんなで始めよう! – 糖尿病. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.health-net.or.jp/syuppan/leaflet/pdf/tounyou_yobou.pdf
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ