はじめに
糖尿病のなかでも特に2型糖尿病は、日々の食生活や運動などライフスタイル全般が病状に大きく影響するといわれています。血糖値のコントロールを安定させ、合併症を防ぐためには、栄養バランスのとれた食事を継続することが欠かせません。本記事では、2型糖尿病の方々が食事を考えるうえで役立つポイントを詳しく解説し、どのように1日の食事量を調整しながら健康的な食生活を築けるかを考えていきます。幅広い年齢層の方にわかりやすく読んでいただけるよう、日常生活で取り入れやすいヒントや具体例をできるだけ豊富に示しながら紹介します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事は、医療機関や糖尿病治療に携わる医療従事者、さらに国内外の栄養学・内科領域の専門家が公表している文献やガイドラインを基に、一般の方でも理解しやすい形でまとめています。ただし、ここに書かれている情報はあくまでも参考であり、実際の治療方針や食事制限の詳細は個々の状態や合併症の有無などによって異なります。必ず担当の医師や管理栄養士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしてください。
2型糖尿病と食事の基本的な考え方
2型糖尿病の治療では、食事療法・運動療法・薬物療法などを組み合わせ、血糖値や体重、血圧、脂質プロファイルなどを総合的にコントロールすることが目標になります。そのなかでも食事は毎日の積み重ねであり、糖尿病の経過に大きく作用します。過度に制限するイメージを持たれることも多いのですが、実際には「すべてを我慢する」よりも「バランスよく食べる」ことが重要です。
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血糖値の安定
食事によって上昇した血糖値をできるだけ緩やかにし、必要以上に血糖値が乱高下しないように工夫します。 -
体重管理
肥満や過体重のある方は、適度なカロリー制限や栄養素バランスの調整によって体重の減量を図り、インスリン抵抗性を改善することが期待されます。 -
合併症の予防
コレステロールや中性脂肪が過剰にならないよう食事で工夫し、心血管疾患や腎障害などのリスクを下げるように配慮します。
こうした目的を踏まえて、まずは一日のエネルギー量や各栄養素のバランスを整え、血糖値が乱高下しにくい食習慣をつくることが大切です。
食事療法における基本的な原則
2型糖尿病の方の食事づくりでは、以下のような原則が挙げられます。これは国内外のガイドラインや専門家の推奨事項にも含まれ、多くの糖尿病患者さんの食事療法に応用されています。
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多様な食品をバランス良く組み合わせる
以前は「糖尿病だから○○は絶対に禁止」と思われがちでしたが、現在では多くの研究が進み、極端な制限よりも多様な食品を適量ずつ摂取することが勧められています。 -
食物繊維を豊富に含む食材を積極的に取り入れる
雑穀や全粒粉などの未精製穀物、豆類、野菜、海藻、きのこ、果物などは食物繊維が豊富で、食後血糖値の急上昇を防ぎやすく、満腹感の持続にも効果的です。 -
適度な塩分制限
日本人は塩分摂取量がやや多めですが、2型糖尿病の合併症として高血圧リスクも懸念されます。味付けが濃すぎないように注意し、スパイスやだし、酸味を活かして美味しく減塩を目指します。 -
脂質の種類に注目する
総エネルギーの約30%以下に脂質を抑えつつ、飽和脂肪酸(肉の脂身やバターなど)をなるべく控えるようにします。一方、魚やナッツ類などに含まれる不飽和脂肪酸は体に良い働きを期待できるため、積極的に摂りたいところです。 -
糖質の質と量を適切にコントロール
血糖値を上げやすい糖質は、急激な変動を防ぐため食物繊維を多く含む食材を選びます。また、砂糖や甘い菓子、果糖の多いジュースを大量に摂ることは避け、果物を食べるときも量やタイミングに留意します。 -
アルコールは適量にとどめる
アルコール類はエネルギー量が高く、血糖の乱高下を招く可能性があります。過剰な飲酒は血糖管理に悪影響を及ぼすため、飲むならばほどほどに抑えるのが望ましいとされています。
カロリー計算と栄養バランスの立て方
2型糖尿病の方が食事メニューを考える際、まずは一日の総エネルギー目安を把握し、そこから栄養素の割合を考慮していく方法がよく用いられます。以下では、計算の大まかな流れを紹介します。
1. 適正体重(P)の把握
身長をもとに理想的な体重を計算し、そこから過度な肥満ややせの有無を確認します。
- 男性:身長(m)× 身長(m)× 22
- 女性:身長(m)× 身長(m)× 21
たとえば身長170cm(1.70m)の男性の場合:
1.70 × 1.70 × 22 ≈ 63.58(約64kg)
身長160cm(1.60m)の女性の場合:
1.60 × 1.60 × 21 ≈ 53.76(約54kg)
糖尿病の方が実際の体重を理想より大幅に上回る場合、体重を少し減らすだけでも血糖値のコントロールがよくなるケースは多く報告されています。
2. 一日の総エネルギー摂取量(kcal)の目安を計算
日常生活や仕事の強度に応じて、1日に必要とされるエネルギー量の目安を出します。
- ベッド上安静の場合:25 kcal × P(適正体重)
- 軽労作(デスクワーク中心など):30 kcal × P
- 中労作:35 kcal × P
- 重労作:40 kcal × P
たとえば軽労作(オフィスワーク中心)の男性(適正体重64kg)の場合は、
30 kcal × 64kg = 1,920 kcal/日
同様に軽労作の女性(適正体重54kg)の場合は、
30 kcal × 54kg = 1,620 kcal/日
これを基準として、実際には医師や管理栄養士と相談しながら微調整を行います。
3. 栄養素の割合を調整
糖尿病の食事では総エネルギー量に加え、主に以下の栄養素の比率が重視されます。
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炭水化物(糖質+食物繊維):全体の50~60%程度
通常の健康な成人では60~65%ほど推奨されることが多いですが、2型糖尿病では血糖値管理を重視しつつも極端に減らしすぎないよう、50~60%ほどに設定するのが目安とされています。食物繊維を多く含む未精製穀物(全粒粉やオートミールなど)を半分程度取り入れるのが望ましいです。 -
たんぱく質:全体の15~20%程度
動物性、植物性の両方からバランスよく摂ることが推奨されます。魚(EPAやDHAなどの不飽和脂肪酸を含む)や鳥のささみ、豆類などを組み合わせ、飽和脂肪酸が多くなる肉の脂身や皮は控えめにします。 -
脂質:全体の30%以下
血管合併症を予防するため、飽和脂肪酸の過剰摂取は避け、オリーブオイルやなたね油、魚油(青魚など)に多く含まれる不飽和脂肪酸をうまく取り入れます。 -
食物繊維:1日30~40gが目標
野菜、海藻、きのこ、豆類、未精製穀物などを十分に摂ることで、血糖値の急上昇や便秘の予防にも役立ちます。特に緑色野菜や食物繊維豊富な根菜の利用をおすすめします。
一日の食事メニュー例(約1600kcal)
以下は、一日のエネルギーが1,600kcal前後、適正体重が50~55kg前後の方を想定した例です。生活強度や個人の病状に応じて微調整しましょう。
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朝食(例:牛肉入りフォー)
- フォーの麺約160g(大きめのどんぶり半量)
- 牛肉35g(薄切り数枚)
- もやし約150g
- スープや調味料は薄味を意識
- 食物繊維を補うために、青菜や香草を合わせるとさらによい
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昼食(例:ご飯、豆腐のソテー、肉の葉包み焼き、ゆでキャベツ、果物)
- ご飯100g(お茶碗に軽く2杯分弱)
- 豆腐65g(1/2~1/3丁の目安)
- 赤身肉の葉包み焼き40g(2~3枚分程度)
- キャベツ200g程度(約1杯分)
- サラダ油10ml(小さじ2)
- 果物(グレープフルーツ3房など合計180g)
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夕食(例:ご飯、挽き肉入り卵焼き、ゆでカボチャ、果物)
- ご飯80g(お茶碗1杯弱)
- 赤身肉25g+卵1個
- サラダ油10ml(小さじ2)
- カボチャやズッキーニなどの野菜を250gほどゆでる、あるいは蒸す
- 果物(パパイヤ約150gなど)
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補足(間食例)
- どうしても空腹感がある場合は、無糖の豆乳や牛乳、あるいは血糖値に配慮した糖質オフのヨーグルトを少量取り入れる。
これらはあくまで一例であり、毎食必ず同じメニューにする必要はありません。ご自身の好みに応じて野菜やたんぱく質の種類をアレンジすると続けやすくなります。
食事構成を工夫するポイント
カーボカウントやGI値の活用
糖質量を把握するカーボカウント(Carbohydrate Counting)や、食品ごとの血糖上昇指数(GI値)を参考にする方法も有効です。GI値が低めの食品(未精製穀物、豆類、野菜、果物など)をメインにすると、食後血糖値の急激な上昇を抑制しやすいとされています。ただし過度に数値ばかり気にしすぎると食生活が苦痛になることもあるので、無理のない範囲で取り入れましょう。
油脂の選び方
- 調理に使う油は、オリーブオイルやなたね油を中心にすると、血中脂質のバランス維持に良い影響がある可能性が示唆されています。
- 魚の脂(青魚など)にはEPAやDHAが豊富に含まれ、心血管リスク低減につながる可能性があります。週2~3回は魚料理を取り入れましょう。
間食の上手な使い方
2型糖尿病では、血糖コントロールのために食事の間隔が空きすぎると低血糖を起こす方もいます。一方で間食で糖質を取りすぎると高血糖になってしまうため、適切な内容と量の間食がポイントです。ナッツ類やヨーグルト、野菜スティックなど、糖質が過剰にならず栄養価の高いものを少量楽しむとよいでしょう。
運動や生活習慣との組み合わせ
2型糖尿病では、食事療法だけでなく適度な運動や十分な睡眠、ストレスマネジメントも重視されます。たとえば食後1時間ほど経ったタイミングでウォーキングを行うと、血糖値の上昇をある程度抑えられる可能性があります。無理のない範囲で体を動かす習慣を継続すると、インスリン抵抗性の改善や体重管理にもつながりやすいです。
新しい研究から見た2型糖尿病の食事アプローチ
近年、世界各国の糖尿病ガイドラインや大規模研究を通じて、食事アプローチは多様化しています。以下は直近数年(4年以内)に公表された一部の研究やガイドラインで示唆されているポイントです。
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炭水化物制限に関する新しい見解
米国糖尿病学会(American Diabetes Association)が2023年に発表した食事指導に関する報告(“Nutrition Therapy for Adults With Diabetes or Prediabetes: A Consensus Report”, Diabetes Care, 46(3), 452–468, doi:10.2337/dci23-0001)では、極端な炭水化物制限よりも、個々の状況や好みに合わせて適度なバランスを保つ重要性が強調されています。摂取総カロリー内で、質の高い未精製穀物を適量とるアプローチが血糖コントロールや生活の質向上に寄与する可能性が示されました。 -
生活習慣全般を含めた包括的なマネジメント
同じく2023年版の米国糖尿病学会基準(“Standards of Medical Care in Diabetes—2023”, Diabetes Care, 46(Suppl.1), S1–S142, doi:10.2337/dc23-SINT)では、食事だけでなく、睡眠やメンタルヘルス、身体活動などを含めた包括的マネジメントの重要性が再度明記されています。日本国内でも同様に、糖尿病学会や内分泌学会から総合的な自己管理をサポートする指針が提示されています。 -
地中海食・DASH食などの食習慣の応用
日本の食文化にも取り入れやすいかたちで、野菜・果物・全粒穀物・魚を中心とした地中海食や減塩食(DASH食)を部分的にアレンジする方法が注目を集めています。とくに高血圧や脂質異常症などを合併している場合、こうした食事パターンが総合的にリスクを下げる可能性が報告されています。
よくある疑問と留意点
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「糖尿病だから果物はダメ」なの?
果物にはビタミンやミネラル、食物繊維も豊富ですが、果糖が多く含まれるため摂りすぎは血糖値を上げるリスクがあります。一方で、適量なら健康維持に良い効果を期待できます。おやつ代わりに小皿1杯分程度、食後時間をずらして摂るなど工夫をするとよいでしょう。 -
「糖質ゼロやダイエット食品は自由に食べられる」?
糖質オフやカロリーオフをうたう製品でも、脂質や塩分、人工甘味料などに偏りがある場合もあります。商品ラベルを確認し、トータルの栄養バランスを考慮して選ぶことが大切です。 -
「外食時は何に注意すればいいか」
外食では味付けが濃い、量が多いなどの傾向があります。麺類ならスープを全部飲まない、ご飯を半分残す、サイドメニューで野菜を注文するなど、血糖値を急激に上げにくい工夫を心がけましょう。
結論と提言
2型糖尿病の方が日常的に血糖値を安定させ、合併症のリスクを低減しながら健康的な生活を送るためには、以下の点が重要になります。
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エネルギー量の把握
自分の適正体重と生活強度に合った1日のカロリー目安をまず知りましょう。過度に制限しすぎると栄養不足やストレスにつながり、逆に過剰に摂れば肥満や血糖値のコントロール悪化を招きます。 -
炭水化物の質と量の調整
未精製穀物や野菜、豆類などの食物繊維を積極的に摂り、血糖値の急激な上昇を抑える食事を意識します。砂糖や甘い菓子、飲料などの過剰摂取は控えるのが基本です。 -
脂質・たんぱく質のバランス
不飽和脂肪酸を多く含む食材(魚、ナッツ、植物油など)を選び、飽和脂肪酸の摂りすぎに注意します。たんぱく質は動物性と植物性を組み合わせ、飽和脂肪の少ない食材を工夫しましょう。 -
食物繊維の強化と適度な塩分制限
毎食野菜や海藻、きのこなどを取り入れて、1日30~40gを目標に食物繊維を確保します。塩分は高血圧や腎機能障害を招かないよう、過剰摂取を避けます。 -
適度な運動と総合的な生活管理
食後の軽い有酸素運動や、睡眠の質の改善、ストレスケアなどを組み合わせて、より良い血糖コントロールを目指します。
何より大切なのは、無理なく長く続けられる食習慣を見つけることです。制限ばかりに着目すると心身ともに疲弊しがちですが、多くの研究やガイドラインでも、多彩な食品を楽しみながら血糖値管理をするアプローチが推奨されています。
参考文献
- Diabetes type 2 – meal planning Information | Mount Sinai – New York (アクセス日:2022年4月15日)
- Diabetes Meal Planning (アクセス日:2022年4月15日)
- Diabetes Meal Planning | CDC (アクセス日:2022年4月15日)
- Thực đơn cho bệnh đái tháo đường (アクセス日:2022年4月15日)
- Trung tâm Dinh dưỡng lâm sàng BV Bạch Mai hướng dẫn chế độ ăn cho người bệnh đái tháo đường (アクセス日:2022年4月15日)
- American Diabetes Association. “Standards of Medical Care in Diabetes—2023.” Diabetes Care. 2023;46(Suppl.1):S1–S142. doi:10.2337/dc23-SINT
- Evert AB, Dennison M, Gardner CD, et al. “Nutrition Therapy for Adults With Diabetes or Prediabetes: A Consensus Report.” Diabetes Care. 2023;46(3):452–468. doi:10.2337/dci23-0001
本記事で紹介した内容は、あくまでも医療従事者による診断・治療の一助として活用されることを想定した参考情報です。健康状態や既往症、服薬状況には個人差がありますので、食事や運動を大きく変える前に、必ず主治医や専門家に相談してください。自己判断による食事制限や治療の中断は、思わぬ合併症のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。長期的に心身を整えながら、糖尿病と上手に付き合う方法を見つけていきましょう。