小児科

5種混合ワクチン接種後の発熱:期間の目安と赤ちゃんのためのホームケア完全ガイド

2024年4月1日から定期接種が開始された5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)は、ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ・ヒブ感染症という5つの深刻な病気から赤ちゃんを守るための重要な予防接種です。多くの保護者の方が、接種後の副反応、特に発熱について心配されることでしょう。本稿では、厚生労働省や日本小児科学会が公表している最新のデータに基づき、接種後の発熱がどのくらいの期間続くのか、その頻度や特徴、家庭でできる具体的なケア方法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて網羅的かつ実践的な情報を提供します。このガイドが、保護者の皆様の不安を和らげ、自信を持って赤ちゃんのケアにあたるための一助となることを目的としています。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の予防接種後副反応に関する公式見解: 日本小児科学会は、ワクチン接種後の一般的な副反応と、それが免疫獲得の正常な過程であることを示しています。1
  • 国内臨床試験データ: 厚生労働省の専門家会議で審議されたデータは、同時接種時のより現実的な発熱頻度を明らかにし、保護者の心構えに役立ちます。4

要点まとめ

  • 5種混合ワクチン後の発熱は、特に肺炎球菌ワクチンと同時接種した場合、約6割の赤ちゃんに起こりうる正常な免疫反応です。4
  • 発熱ケアの基本は、体温の数字よりも赤ちゃんの機嫌や活気を観察し、快適な環境と十分な水分補給を優先することです。9
  • 生後3ヶ月未満の赤ちゃんが38.0℃以上の熱を出した場合は、「ゴールデンルール」として、他の症状がなくても直ちに医療機関を受診してください。2122
  • 解熱剤(アセトアミノフェン)は、熱を下げること自体が目的ではなく、高熱によるつらさを和らげるために、体重に基づいた正確な用量で慎重に使用します。19

5種混合ワクチンと発熱:科学的根拠に基づく概要

ワクチンを接種した後の発熱は、多くの保護者の方が不安に感じる最初の関門かもしれません。その気持ち、とてもよく分かります。しかし科学的には、この発熱は体がきちんと機能している証拠なのです。その背景には、体の免疫システムがワクチンの成分を「異物」と認識し、将来の本当の病原体と戦うための「予行演習」を開始するメカニズムがあります。日本小児科学会の示す通り、これは体が病気と闘うための免疫を獲得している正常な反応の一つです1。このプロセスは、まるで体の警備隊が初めての避難訓練を行うようなものです。警報が鳴り(免疫反応)、隊員たちが動き出す(炎症物質の放出)ことで、一時的に施設全体が慌ただしくなりますが(発熱)、これにより本番の火災(本当の感染症)が起きた時に迅速に対応できるのです。

では、実際にどのくらいの頻度で発熱は起こるのでしょうか。日本小児科学会が示す一般的な情報では5~20%程度とされていますが3、これは少し控えめな数字かもしれません。なぜなら、実際の接種スケジュールでは肺炎球菌ワクチンと同時に接種されることが多く、厚生労働省が公開した国内臨床試験データによると、その場合の発熱頻度は約6割(ビケン製57.9%、KMバイオロジクス製65.2%)に上ります4。そのため「約半数以上の赤ちゃんに熱が出てもおかしくない」と想定しておくことが、心の準備につながります。発熱は通常、接種後24時間以内(遅くとも48時間以内)に始まり、ほとんどが1~3日で自然に下がります56。発熱以外で最も多いのは注射した場所の反応で、赤み(75.7%)、しこり(51.0%)、腫れ(38.1%)などがみられますが、これらも数日で軽快します78

このセクションの要点

  • ワクチン接種後の発熱は、体が病気への抵抗力をつけるための正常な免疫反応です。
  • 肺炎球菌ワクチンとの同時接種を含めると、実際には約6割の赤ちゃんに発熱がみられ、通常1~3日で自然に解熱します。

保護者のためのホームケア実践ガイド

赤ちゃんが熱を出してぐったりしている姿を見ると、どうしていいか分からず焦ってしまいますよね。それは親としてごく自然な反応です。しかし、こういう時こそ最も大切なのは、保護者が落ち着いて赤ちゃんの「全体像」を見ることです。科学的には、体温計の数字そのものよりも、赤ちゃんの機嫌や活気が重要とされています。その背景には、体の回復力が最大限に発揮されるのは、不必要なストレスから解放され、快適な状態にある時だという原則があります9。だからこそ、まずはお子さんが快適に過ごせる環境を整え、脱水を防ぐことに集中しましょう。これが回復への一番の近道です。

具体的なケアとして、まず衣服は熱がこもらないよう、通気性の良い綿素材の薄着を基本にします1011。室温は赤ちゃんが心地よく感じる25~27℃程度を目安に調整しましょう10。そして、発熱時のケアで最も重要なのが水分補給です。発熱は体から水分を奪いやすいため、母乳やミルクを欲しがるだけ与え、脱水を防ぐことが最優先事項となります。おしっこの回数が減ったり、色が濃くなったりするのは水分不足のサインかもしれませんので、注意深く観察してください13。また、赤ちゃんが熱でつらそうであれば、首の付け根やわきの下など、太い血管が通る場所を濡れタオルで優しく冷やしてあげるのも効果的です10。ただし、市販の冷却シートは乳幼児の窒息事故のリスクが指摘されているため、使用には十分な注意が必要です14。接種当日の入浴は問題ありませんが、長湯は避け、体調が優れない場合は控えましょう1516

今日から始められること

  • 赤ちゃんの機嫌と活気を第一に観察し、体温計の数字だけで一喜一憂しない。
  • 薄着と快適な室温を保ち、こまめな水分補給(母乳・ミルク)で脱水を予防する。
  • おしっこの回数や色が、水分が足りているかの大切な目安になることを覚えておく。

解熱剤(アセトアミノフェン)の安全で効果的な使い方

「熱が高いから、すぐに解熱剤を使わなければ」と慌ててしまうかもしれません。そのお気持ちは痛いほど分かります。ですが、ここで一つ大切な考え方があります。科学的に、発熱は体が病原体と戦うために体温を上げている防御反応の一部です。そのため、解熱剤の役割は、その戦いを無理に止めることではありません17。この関係は、火災報知器に例えることができます。火事(感染・炎症)が起きると、警報ベル(発熱)が鳴ります。解熱剤は、火事を消す消火活動そのものではなく、あまりに大きな警報音(高熱によるつらさ)で住民(赤ちゃん)がパニックになったり、避難(水分補給や休息)ができなくなったりするのを防ぐために、一時的に音量を下げる役割なのです。だからこそ、熱の高さだけでなく、赤ちゃんがつらそうにしているか(眠れない、水分を摂れないなど)を基準に使うことが推奨されます9

日本で乳幼児に使用する場合、日本小児科学会などが第一選択薬として推奨しているのは「アセトアミノフェン」です1811。安全な使用のために最も重要なのは、年齢ではなく「体重」に基づいた正確な投与量を守ることです。一般的な1回量は体重1kgあたり10~15mgで、少なくとも4~6時間の間隔をあける必要があります。1日の合計量が60mg/kgを超えないように管理することが絶対的なルールです19。必ず医師や薬剤師の指示に従い、薬に付属の説明書をよく読んでから使用してください。

今日から始められること

  • 解熱剤は「熱を下げる」ためではなく、「高熱によるつらさを和らげる」ために使うと心得る。
  • 使用する際は、必ず赤ちゃんの「体重」に基づいた正しい量を、決められた間隔を守って与える。
  • 市販薬を選ぶ際も、成分が「アセトアミノフェン」であることを薬剤師に確認する。

医療機関の受診を判断するための明確な基準

ただの副反応による発熱なのか、それとも何か別の病気のサインなのか、その見極めは非常に難しく、不安になりますよね。万が一の事態を考えると、どのタイミングで病院へ行くべきか迷うのは当然です。大切なのは、いくつかの危険な兆候、「レッドフラッグ」を知っておくことです。これらは、体が発している「専門家の助けがすぐに必要です」という強いシグナルです。例えば、呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりして意識がはっきりしない、けいれんを起こした、呼吸が明らかに苦しそうといった症状です1320。これらのサインが一つでも見られた場合は、ためらわずに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。

特に、すべての保護者の方が知っておくべき最も重要な「ゴールデンルール」があります。それは、生後3ヶ月未満の赤ちゃんが38.0℃以上の発熱をした場合は、他の症状がなくても、必ず、直ちに医療機関を受診するということです13。なぜなら、この月齢の赤ちゃんは免疫機能がまだ未熟で、髄膜炎などの重い細菌感染症にかかっていても、発熱以外の症状がはっきりと現れないことがあるためです。専門家による診察と検査が不可欠であり、これは赤ちゃんの安全を守るための絶対的な原則です22

受診の目安と注意すべきサイン

  • 意識の異常:呼びかけても反応が鈍い、視線が合わない、ぐったりして力が入らない。
  • けいれん:体が硬直したり、ガクガクと震えたりする。
  • 呼吸困難:息が速く苦しそう、顔色や唇が青白い。
  • 重度の脱水:半日以上おしっこが出ない、泣いても涙が出ない、水分を全く受け付けない。
  • 月齢のルール:生後3ヶ月未満で38.0℃以上の発熱。

日本の保護者のための必須医療リソース

夜間や休日に赤ちゃんの体調が急変し、「これは救急車を呼ぶべき?それとも朝まで待って大丈夫?」と判断に迷う時、一人で抱え込むのはとても心細いものです。その不安な気持ち、誰にでも起こり得ます。幸い、日本にはそのような時に頼れる公的なサポートがあります。それが「子ども医療電話相談事業(#8000)」です。これは、全国どこからでも「#8000」をダイヤルするだけで、小児科の医師や看護師に直接電話で相談できるという、いわば「医療のホットライン」です23。このサービスの背景には、保護者の不安を和らげ、不要な救急外来受診を減らし、本当に緊急性の高い子どもたちへ医療資源を集中させるという社会的な目的があります。だからこそ、緊急性は高くないけれどどうしていいか分からない、という状況で非常に役立ちます24

実際に医療機関を受診する際には、短い診察時間で正確な情報を伝えるための準備が大切です。いつから熱が出たか、体温の推移、機嫌や水分摂取の状況、他の症状などを簡単にメモしておくだけで、医師の診断の大きな助けとなります9。母子健康手帳、健康保険証、子ども医療費受給者証も忘れずに持参しましょう。

今日から始められること

  • 携帯電話に「#8000」を登録し、いざという時の相談先として覚えておく。
  • 受診する際は、症状の経過を簡単なメモにまとめて持参する習慣をつける。
  • 母子手帳や保険証など、受診に必要なものをひとまとめにして保管しておく。

よくある質問

接種後、お風呂は入れますか?

はい、接種当日の入浴は問題ありません15。ただし、体力を消耗させないよう長湯は避け、注射した部位を強くこすらないように注意してください12。赤ちゃんの体調が優れない場合は控えるのが賢明です16

熱があっても、解熱剤は使わないほうが良いのですか?

必ずしも使う必要はありません。解熱剤の目的は、熱を下げること自体ではなく、高熱で赤ちゃんがつらそうな状態(眠れない、水分が摂れないなど)を和らげることです17。39℃あっても機嫌が良く水分が摂れていれば、様子を見ることも選択肢です9

結論

5種混合ワクチン接種後の発熱は、赤ちゃんが病気への抵抗力をしっかりと身につけている証拠であり、多くは1~3日で自然に軽快する一時的な反応です。特に肺炎球菌ワクチンと同時接種した場合は、約6割の赤ちゃんに発熱がみられると想定しておくことで、保護者は冷静に対応することができます4。発熱時のケアで最も重要なのは、体温計の数字に一喜一憂するのではなく、赤ちゃんの全体的な状態(機嫌、活気、水分摂取)を注意深く観察することです。解熱剤は赤ちゃんのつらさを和らげるための「お守り」として、体重に基づいた正確な用量を守って慎重に使用しましょう19。そして何よりも、けいれんや意識障害といった危険な兆候を見逃さず、特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんの38.0℃以上の発熱は直ちに医療機関を受診するという原則を心に留めておくことが、赤ちゃんの安全を守る上で不可欠です21。判断に迷った際には、一人で抱え込まずに子ども医療電話相談(#8000)のような公的リソースを積極的に活用してください。正しい知識は、保護者の不安を自信に変えるための最も強力なツールです。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

  1. 日本小児科学会. 予防接種の副反応と有害事象. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  2. くすりの適正使用協議会. クイントバック水性懸濁注射用 | くすりのしおり. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
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  9. 日本小児科学会. こどもの救急(ONLINE-QQ) – おうちで様子をみましょう. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
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  11. 教えて!ドクター. こどもの病気とおうちケア. 2021. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  12. いわき市. 五種混合ワクチン接種についての説明書. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
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  16. 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
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  18. かわぐちこどもクリニック. 子どもの発熱と解熱剤について. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  19. 西条中央病院. 消炎・鎮痛剤(内用剤). 2023. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  20. 姫路市医師会. 子どもの急病 ク ガイドブック. 2014. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  21. 今日の臨床サポート. 発熱(乳幼児と年長児の対応含む)(小児科). [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク [有料]
  22. 東京都福祉保健局. こどもの救急(ONLINE-QQ) – 東京都. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  23. 厚生労働省|上手な医療のかかり方. 子どもの症状は 8000. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  24. 大阪府. 小児救急電話相談(#8000)について. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
  25. 厚生労働省. 子ども医療電話相談事業( 8000)について. [インターネット]. 引用日: 2025-09-16. リンク
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