【産婦人科専門医が解説】50代からの女性の性欲:低下の原因、GSM治療、パートナーとの向き合い方まで完全ガイド1, 2, 3, 4
女性の健康

【産婦人科専門医が解説】50代からの女性の性欲:低下の原因、GSM治療、パートナーとの向き合い方まで完全ガイド1, 2, 3, 4

50代を迎え、心身の変化と共に、かつてとは違う性の悩みを抱えていませんか。「パートナーを愛している気持ちに変わりはないのに、なぜか乗り気になれない」「性交が苦痛に感じるようになった」――。こうした悩みは決してあなた一人だけのものではありません5。実際、日本では驚くべきことに、50代の既婚女性の87.7%がセックスレスの関係にあるという調査結果もあります3。この広く見られる、しかし語られることの少ない悩みは、戸惑いや罪悪感、喪失感といった複雑な感情を伴うことが少なくありません6。しかし、これは個人の失敗ではなく、生物学的、心理的、そしてパートナーとの関係性という複数の要因が絡み合った、非常に複雑な問題なのです7。この記事では、最新の科学研究と日本の臨床ガイドラインに基づき、50代からの女性の性欲の変化について、その原因から具体的な対処法までを包括的に解説します。ご自身の身体を深く理解し、満たされた人生を送るための選択肢を知ることで、あなた自身がエンパワーされることを目指します8

この記事の監修者:田中 明美 医師(医学博士)
東京大学医学部卒業後、スタンフォード大学にて女性内分泌学・性医学の博士研究員として従事。現在はJAPANESEHEALTH.ORG編集委員会のシニアメディカルライターとして、最新の国際的な研究と日本の臨床現場を繋ぐ、科学的根拠に基づく医療情報の提供を専門とする。専門分野は女性の健康、更年期医療、性機能障害。

この記事の要点まとめ

  • 50代女性の性欲の変化は、エストロゲンやテストステロンなどのホルモン減少、心理社会的ストレス、パートナーとの関係性など、複数の要因が複雑に絡み合って生じます7, 9
  • 性交痛などの不快な症状は、治療可能な医学的状態である「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)」が原因であることが多く、これは閉経後の女性の約半数に見られます10, 11
  • 日本国内で利用可能な治療法には、ホルモン補充療法(HRT)、低用量エストロゲン局所療法、非ホルモン薬(オスペミフェン)、そして日本の診療ガイドラインで認められた漢方薬など、科学的根拠に基づいた選択肢が多数存在します8
  • 画期的なSWAN研究では、日本人女性が他の人種の女性より性機能の低下を大きく経験することが示唆されており、これには文化的なコミュニケーションのあり方が影響している可能性も指摘されています12
  • 問題を一人で抱え込まず、婦人科や更年期外来で専門家に相談することが、解決への最も重要な一歩です。この記事で得た知識は、医師との対話をより実りあるものにするでしょう13

第1章:なぜ性欲は変化するのか?50代女性の身体と心に起こること

50代における性欲の変化は、単一の原因によるものではなく、身体的な変化、心理的な状態、そして社会的な環境が複雑に絡み合った結果です。この章では、その背景にある主要な要因を科学的根拠に基づいて詳しく解説します。

1.1. ホルモンの変動:エストロゲン低下がもたらす直接的・間接的影響

女性の性的健康において、ホルモンであるエストロゲンは中心的な役割を果たします14。エストロゲンは、腟の潤滑を保ち、組織の弾力性と血流を維持する働きを担っています。しかし、閉経期(メノポーズ)を迎えると、卵巣からのエストロゲン分泌が急激に減少し、これが心身に様々な変化を引き起こします10

このエストロゲン低下によって引き起こされる特に重要な状態が「GSM(Genitourinary Syndrome of Menopause:閉経関連泌尿生殖器症候群)」です11。これは、腟の乾燥、灼熱感、刺激感、そして性交痛(ディスパレウニア)といった症状を特徴とします。The Menopause Societyや国際閉経学会(IMS)によると、閉経後の女性の最大50%が何らかのGSM症状を経験すると報告されており、決して稀な状態ではありません10, 14。性交時に痛みを感じることが続けば、脳は性的な行為そのものを「苦痛」と学習し、結果として性的な欲求や興奮が間接的に抑制されてしまうのです。これは「したくない」のではなく、痛みのために「できない」という状況であり、性欲低下の大きな要因となり得ます7

1.2. テストステロンとDHEA:知られざる「意欲のホルモン」の役割

一般的に男性ホルモンとして知られるテストステロンですが、実は女性の性的意欲においても重要な役割を担っています9。テストステロンやその前駆体であるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、性的関心や興奮、思考といった「意欲」の部分に直接的に関わるアンドロゲン(男性ホルモン)です7。エストロゲンが閉経期に急激に減少するのに対し、テストステロンは20代をピークに年齢と共に緩やかに減少し続けます。したがって、50代の女性は、エストロゲンとテストロゲンの両方のレベルが低下している状態にあります。

国際的には、持続的に性欲が低下し、それが著しい苦痛を伴う状態である「HSDD(Hypoactive Sexual Desire Disorder:性的欲求低下障害)」に対して、テストステロン療法が有効な選択肢であるというコンセンサスが形成されつつあります7, 14。しかし、日本国内においては、女性へのテストステロン療法はまだ一般的ではなく、専門家の指導のもとで慎重に行われるべき「適応外使用」とされています8。この国内外での扱いの違いを理解しておくことは重要です。

1.3. 心理的・社会的要因:ストレス、自己肯定感、パートナーとの関係

人間の性欲は、脳が司令塔であり、ホルモンだけで決まるものではありません5。特に50代は、人生の大きな転換期であり、様々な心理的・社会的ストレスが性欲に影響を与えます。例えば、親の介護、子どもの独立による「空の巣症候群」、キャリアの変化、自身の健康への不安などが挙げられます15

さらに、日本特有の文化的背景も無視できません。ある調査では、日本の夫婦間のコミュニケーション時間が、夫婦関係の満足度と強く相関していることが示されています16。満足している夫婦は、そうでない夫婦に比べて会話時間が2.6倍も長いという結果でした。身体の変化や性に関する悩みをパートナーと率直に話し合えない文化的な背景が、問題をさらに深刻化させている可能性があります17。身体的な問題を一人で抱え込み、それが心理的な壁となり、結果的にパートナーとの距離を生んでしまうという悪循環に陥るケースは少なくありません。

1.4.【特筆】SWAN研究が示す日本人女性の特수性:世界との比較

ここで特筆すべきは、米国の多施設共同前向きコホート研究である「SWAN研究(Study of Women’s Health Across the Nation)」が明らかにした衝撃的な事実です12。この大規模研究には日本人女性も含まれており、閉経への移行期において、日本人女性は白人女性など他の人種グループと比較して、性機能(潤滑の低下や性交痛など)の低下がより著しいと報告されたのです18。この低下は、最終月経を迎える20ヶ月前から顕著になることも示されました。

この発見は、単に生物学的な差異だけでは説明がつきません。専門家は、この背景には、閉経や性に関する社会的な捉え方、そして夫婦間のコミュニケーションのあり方といった、文化社会的な要因が深く関わっているのではないかと推測しています17。つまり、世界共通のホルモン変化を経験しながらも、その影響の現れ方には、私たちが生きる文化や社会が大きく影響しているのです。これは、日本の女性が自身の問題を理解する上で、非常に重要な視点を提供してくれます。

第2章:これって病気?女性性機能不全(FSD)の正しい理解と診断

性に関する悩みが続くと、「これは自分の性格の問題なのだろうか」あるいは「年齢のせいだから仕方ない」と諦めてしまうかもしれません。しかし、持続的で苦痛を伴う性の問題は、「女性性機能不全(FSD: Female Sexual Dysfunction)」という治療の対象となる医学的な状態である可能性があります19。この章では、FSDを正しく理解し、医療の力で解決できる可能性があることを知ることで、不必要な自己批判から解放されることを目指します。

2.1. 女性性機能不全(FSD)とは?4つの主要なタイプ

FSDは、国際的な診断基準(米精神医学会のDSM-5など)において、満足のいく性体験を妨げる持続的または再発性の問題と定義されています7, 19。FSDは、主に以下の4つのタイプに分類されます。これらは単独で現れることも、複数が重なって現れることもあります。

  • 性的欲求障害 (Sexual Desire Disorder): 性的な空想や思考、性行為への関心や欲求が持続的に欠如、または低下している状態。HSDD(性的欲求低下障害)がこれに含まれます。
  • 性的興奮障害 (Sexual Arousal Disorder): 性的な刺激に対して、十分な興奮(潤滑など)が得られない、または維持できない状態。
  • オルガズム障害 (Orgasmic Disorder): 十分な性的刺激にもかかわらず、オルガズム(性的快感の極致)に達することが極めて困難、または全く達することができない状態。
  • 性交疼痛障害 (Sexual Pain Disorder): 性交時やその前後に、持続的または反復的に痛みを感じる状態。前述のGSMによる性交痛(ディスパレウニア)が代表的な原因です。

2.2. 日本における診断アプローチ:産婦人科医は何を診るのか

日本国内の婦人科では、FSDの診断は、日本産科婦人科学会(JSOG)の「産婦人科診療ガイドライン」に沿って行われます8。医師はまず、患者さんの話を丁寧に聞くことから始めます(問診)。どのような症状が、いつから、どのくらいの頻度で起こり、それがどの程度の苦痛をもたらしているのかを詳しく尋ねます。さらに、心理的なストレス、パートナーとの関係、過去の病歴や現在服用中の薬など、多角的な情報を収集します8

その後、内診などの身体診察を行い、GSMに特徴的な腟粘膜の萎縮や乾燥、その他痛みの原因となる身体的な異常がないかを確認します。このプロセスについて、日本のFSD診療の第一人者である関口由紀医師は、患者さん一人ひとりの背景を理解する、包括的で個別化されたアプローチの重要性を強調しています13, 20。診断は、単に症状を分類するだけでなく、その人にとっての最善の治療法を見つけるためのスタートラインなのです。

2.3. 「引退腟」から「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)」へ:言葉の力と正しい知識

近年、メディアなどで「引退腟」という言葉が使われることがあります3。この言葉は、閉経後の女性が経験する性交痛や不快感を象徴的に捉え、多くの女性の共感を呼びました。しかし、この言葉には「もう終わり」「機能しない」といった、諦めや宿命論的なニュアンスが伴いがちです。

ここで重要なのは、この状態を医学的に正確な言葉で捉え直すことです。それが「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)」です11。この医学用語を使うことには、二つの大きな力があります。第一に、これは個人の問題ではなく、ホルモン低下によって引き起こされる「医学的な状態」であると明確に位置づけることで、不必要な罪悪感や羞恥心から解放します7。第二に、「症候群」という名前が示す通り、これは治療可能なターゲットであり、効果的な治療法が存在するという希望の扉を開くのです8。「引退」ではなく「治療可能な状態」へ。この言葉の転換こそが、エンパワーメントの第一歩となります。

第3章:情熱を取り戻すための具体的戦略:日本で利用可能なエビデンスに基づく選択肢

悩みを正しく理解した次のステップは、具体的な解決策を探ることです。幸いなことに、現代の医療は、50代以降の女性の性の悩みを解決するための、科学的根拠に基づいた様々な選択肢を提供しています。この章では、日本の医療現場で実際に利用可能な治療法を、そのメリット・デメリットと共に詳しく解説します。

3.1. ホルモン補充療法(HRT):日本のガイドラインに基づく最新知識

ホルモン補充療法(HRT)は、減少したエストロゲンを補充することで、ほてりや発汗といった更年期症状だけでなく、GSMの根本原因にアプローチする、最も効果的な治療法の一つです14, 21。日本のJSOGガイドラインでも、その有効性は明確に認められています8

  • 全身的HRT(飲み薬、貼り薬、塗り薬): ほてりや気分の落ち込みといった全身的な更年期症状と、GSMの両方に悩む女性に適しています。血流に乗って全身にホルモンを届けます8
  • 局所的エストロゲン療法(LET:腟錠、クリーム): 症状が腟の乾燥や性交痛に限られる場合に第一選択とされる治療法です。ごく低用量のエストロゲンを腟に直接投与するため、血中への吸収がごくわずかで、全身への影響が非常に少なく、極めて安全性が高いと考えられています7, 14

ただし、HRTが性欲そのものを劇的に向上させる「魔法の薬」というわけではありません。あるメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)では、HRTは性機能に対して「統計的に有意ではあるが、軽度な改善」をもたらすと結論づけています22。HRTの最大の便益は、GSMによる「痛み」を取り除くことです。痛みがなくなることで、初めて脳はリラックスし、本来の欲求や快感を取り戻すことができるのです。

3.2. 非ホルモン療法:安全で効果的な選択肢

HRTに抵抗がある、あるいは禁忌(乳がんの既往など)がある女性のために、ホルモンを含まない安全で効果的な選択肢も存在します。

  • オスペミフェン(医薬品): 日本で承認されているSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)と呼ばれる薬です。骨や脂質には影響を与えず、腟の組織に選択的に作用して潤いを取り戻し、性交痛を改善します7, 8
  • 保湿剤と潤滑剤(市販品): これらは混同されがちですが、役割が異なります。保湿剤は、ヒアルロン酸などを含み、日常的に使用することで腟の潤いを保ち、組織の健康を維持します。一方、潤滑剤は、性交時に使用し、一時的に滑りを良くして痛みを軽減するものです7。水性、シリコンベースなど様々な種類があり、目的に応じて使い分けることが推奨されます。

3.3. 漢方薬:日本の産婦人科診療で認められたアプローチ

日本の医療のユニークな点は、西洋医学と伝統医学である漢方が融合している点です。JSOGの診療ガイドラインでは、更年期に見られる様々な心身の不調に対して、一部の漢方薬が有効な選択肢として明記されています8。これらは直接的に性欲を高めるものではありませんが、冷え、疲労感、気分の落ち込み、イライラといった、性欲に間接的に影響する症状を緩和することで、全体的なQOL(生活の質)を向上させ、結果的に性の健康にも良い影響を与える可能性があります。

表1:JSOGガイドラインで更年期症状に言及される主な漢方薬

漢方薬 (Công thức Kampo) 主な適応(証) (Chỉ định chính / “Sho”) 更年期症状への効果 (Tác dụng đối với các Triệu chứng Mãn kinh) 出典 (Nguồn)
当帰芍薬散 (Tōki-shakuyaku-san) 体力虚弱、冷え症、貧血傾向 血行を改善し、冷えや疲労感を和らげる。気分の落ち込みにも用いられる。 8
加味逍遙散 (Kami-shōyō-san) 体力中等度以下、のぼせ感、肩こり、精神不安 特にイライラ、不安、不眠といった精神神経症状に効果的。 8
桂枝茯苓丸 (Keishi-bukuryō-gan) 体力中等度以上、のぼせ、下腹部痛 血の滞り(瘀血)を改善する。のぼせや肩こりに用いられる。 8

3.4. パートナーとのコミュニケーション:最も重要で、最も難しい一歩

これまで述べてきた全ての治療法も、パートナーとの良好な関係がなければ、その効果は半減してしまいます。コミュニケーションは、最も強力な「治療薬」の一つです15。前述のハルメクホールディングスの調査が示すように、対話の時間は夫婦の満足度に直結します16

しかし、特に性に関する繊細な問題を切り出すのは、文化的に見ても容易ではないかもしれません。そこで、具体的な戦略が役立ちます。例えば、「最近、身体の変化のことで少し悩んでいることがあるの。あなたに聞いてほしくて」と、非難ではなく、相談という形で切り出す。「私が感じていること」を主語にする「アイメッセージ」を使うことも有効です。また、すぐに性交を目指すのではなく、マッサージやただ寄り添う時間を作るなど、プレッシャーのない形で身体的な親密さを再構築することから始めるのも良いでしょう17

第4章:専門家への相談:いつ、どこで、誰に相談すべきか

この記事を通じて、ご自身の悩みが医学的な側面を持ち、多くの選択肢があることをご理解いただけたと思います。最後の、そして最も重要なステップは、勇気を出して専門家の助けを求めることです。この章では、日本国内で専門的なサポートを得るための具体的な道筋を示します。

4.1. 婦人科・更年期外来の受診

どのようなタイミングで医師に相談すべきでしょうか?一つの目安は、「症状によって生活の質が低下している」あるいは「悩みが精神的な苦痛になっている」と感じた時です。特に、性交時の痛みが続く場合は、我慢せずに受診することを強くお勧めします8

婦人科や更年期専門外来では、医師があなたの話をじっくりと聞き、必要な診察や検査を行います。そして、あなたのライフスタイルや価値観、健康状態を総合的に考慮した上で、HRT、漢方薬、カウンセリングなど、最適な治療計画を一緒に考えてくれます。何を話せばいいか分からなくても心配ありません。「50代になってからの性のことで相談したい」と伝えるだけで、専門家はあなたの悩みを理解し、優しく導いてくれるはずです。

4.2. 日本で探せる専門家とクリニック

幸いなことに、日本には女性の性の健康を専門とする医師や医療機関が存在します。信頼できる情報源を知っておくことは、適切なケアへの近道となります。

  • 専門医と専門クリニック: 例えば、女性性機能障害を専門とする横浜の「女性医療クリニックLUNAグループ」の関口由紀医師は、この分野の第一人者です13, 20。このような専門クリニックでは、より踏み込んだ診断と治療が期待できます。
  • 学会による専門医制度: また、日本性機能学会(JSSM)では、性機能に関する専門医の育成と認定を行っています23, 24。同学会のウェブサイトなどで情報を得ることも一つの方法です。

これらの専門家や組織は、最新の知見に基づき、あなたの悩みに真摯に向き合ってくれるでしょう。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 性欲が全くないのは、もう女性として終わりなのでしょうか?

A1: 決して終わりではありません。性欲の変化は、閉経期における極めて正常で一般的な生物学的プロセスの一部です7。この記事で解説したように、ホルモンレベルの変化、身体的な不快感(GSMなど)、心理的ストレスなどが複雑に影響しています。これを個人の失敗と捉えるのではなく、治療やケアの対象となる医学的な状態と理解することが重要です。適切な治療やライフスタイルの見直し、パートナーとの対話を通じて、新しい形での親密さや満足感を見出すことは十分に可能です8

Q2: HRT(ホルモン補充療法)は乳がんのリスクを高めると聞いて怖いのですが…

A2: HRTと乳がんのリスクについては、多くの情報が混在していますが、正しく理解することが大切です。最新の研究では、HRTのリスクは使用するホルモンの種類、期間、開始時期によって異なり、多くの女性にとっては利益がリスクを上回るとされています14, 21。特に、腟の症状のみに用いる低用量のエストロゲン局所療法は、全身への吸収がごくわずかで、乳がんリスクを増加させないと考えられています7。どのような治療法が自分にとって最適か、リスクとベネフィットを婦人科医と十分に話し合って決定することが不可欠です8

Q3: パートナーにどうやってこの話を切り出せばいいか分かりません。

A3: これは非常に繊細で、難しい問題です。大切なのは、非難や要求ではなく、「相談」という形で始めることです。「あなたのせいではないのだけれど、今、私の身体が少し変化していて、性的なことについて少し痛みや不安を感じているの。このことについて、あなたの意見を聞かせてもらえる?」といったように、「私」を主語(アイメッセージ)にして伝えてみましょう17。また、この記事のような客観的な情報源を一緒に読むことを提案するのも良い方法です。専門家のカウンセリングを一緒に受けるという選択肢もあります。大切なのは、二人で協力して乗り越える問題であるという姿勢を共有することです。

結論:50代からの性は「終わり」ではなく「新しい章の始まり」

50代からの性欲の変化は、単なる「衰え」や「終わり」を意味するものではありません。それは、女性のライフサイクルにおける自然な移行期であり、身体、心、そしてパートナーシップについて、これまでとは違う深いレベルで理解し、向き合う機会を与えてくれます5。ホルモンの変動という生物学的な現実を認識し、GSMのような治療可能な状態を正しく理解すること。そして、HRTや漢方薬、カウンセリングといった、科学的根拠に基づいた有効な選択肢が日本にも存在することを知ること。これらは、あなたを不必要な悩みから解放し、自信を取り戻すための力強い武器となります。

最も重要なメッセージは、あなたは一人ではないということです。この記事で得た知識を羅針盤として、ご自身の身体と心に真摯に向き合い、必要であればためらわずに専門家の扉を叩いてください13。それは、これからの人生における親密さを、より成熟した、あなたらしい形で再構築していくための、新しい章の始まりとなるでしょう。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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