多発血管炎性肉芽腫症(GPA)完全ガイド:症状・最新治療から日本の公的支援まで徹底解説
血液疾患

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)完全ガイド:症状・最新治療から日本の公的支援まで徹底解説

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、かつてはウェゲナー肉芽腫症として知られていたこの稀な疾患の診断を受けることは、患者様やご家族にとって大きな不安を伴う経験であると拝察いたします。本疾患は、日本では「指定難病44」として定められており、その診断と治療には高度な専門知識が求められます。JapaneseHealth.org編集委員会は、国内外の最新の医学的知見に基づき、この複雑な疾患についての明確で包括的な情報を提供することで、皆様の不安を和らげ、これからの道のりを歩むための一助となることを目指します。この記事では、GPAとはどのような病気か、その原因、症状、そして最も重要な最新の治療法、さらには日本国内で利用可能な公的支援制度に至るまで、あらゆる側面を深く掘り下げて解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を示したものです。

  • 2022年米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会(ACR/EULAR): 本記事におけるGPAの診断分類基準に関する記述は、これらの組織が共同で発表した最新の国際基準に基づいています。
  • 国際的な臨床試験(例:PEXIVAS試験、LoVAS試験): ステロイド(グルココルチコイド)の減量戦略に関する推奨は、これらの画期的な臨床試験の結果から得られた知見を反映しています。
  • 日本国内の研究・診療ガイドライン: 日本におけるGPAの疫学的特徴(例:MPO-ANCA陽性例の多さ)や、アバコパン(Avacopan)などの新薬承認に関する情報は、日本の「難治性血管炎に関する調査研究班(JPVAS)」や関連学会の報告に基づいています。
  • 難病情報センター(日本): 日本の公的医療費助成制度に関する具体的な手続きや要件についての解説は、この公的機関が提供する公式情報を基に構成されています。

要点まとめ

  • 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は、かつてウェゲナー肉芽腫症と呼ばれ、日本では「指定難病44」に認定されている稀な自己免疫疾患です。
  • 主な症状は、鼻・副鼻腔、肺、腎臓に現れますが、全身に及ぶ可能性があります。初期症状は風邪や副鼻腔炎と似ているため、診断が遅れることがあります。
  • 診断は、症状、血液検査(特にANCA抗体)、画像検査、組織生検などを総合的に評価して行われます。日本の患者では欧米と異なり、MPO-ANCA陽性例が約半数を占める特徴があります。
  • 治療法は近年大きく進歩しており、リツキシマブやアバコパンといった新薬の登場により、高い寛解導入率とステロイド使用量の削減が可能になりました。
  • 寛解後も再燃を防ぐための維持療法が不可欠です。「寛解=完治」ではなく、長期的な管理が重要となります。
  • 日本では、指定難病の医療費助成制度を利用でき、所得に応じて医療費の自己負担が軽減されます。専門医による適切な治療と公的支援の活用が鍵となります。

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)とは?

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は、主に小型の血管(毛細血管、細動脈、細静脈など)を標的とする、原因不明の自己免疫疾患です。この病気は、血管の壁に炎症(血管炎)が起こり、さらに鼻や肺などの組織に「肉芽腫」と呼ばれる特徴的な炎症性の結節が形成されることを特徴とします。かつては発見した医師の名前にちなんで「ウェゲナー肉芽腫症」と呼ばれていましたが、現在ではその病態をより正確に反映する「多発血管炎性肉芽腫症」という名称が国際的に用いられています。

日本の現状と疫学データ

日本において、GPAは厚生労働省によって「指定難病44」に定められています。これは、患者数が少なく、原因が不明で、効果的な治療法が確立されておらず、生活面で長期にわたる支障がある疾患であることを意味します。この指定により、患者は医療費助成などの公的支援を受けることができます。

日本の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数を見ると、GPA患者数は2012年度の1,942人から2022年度には3,437人へと増加傾向にあります。これは、疾患の発生率が急増しているというよりは、疾患に対する医師の認知度が向上し、診断技術が進歩したことで、これまで見逃されたり他の病気と誤診されたりしていた症例が正確に診断されるようになった結果と解釈されています1。年間の新規発症率は人口100万人あたり約2人と推定されており、欧米に比べて少ないとされています。

発症年齢の頂点は40歳代から60歳代にありますが、若年者から高齢者まで幅広い年齢層で発症する可能性があります。かつては男女比が1:1とされていましたが、近年の報告ではやや女性に多い傾向が示されています。

日本におけるGPAの臨床的特徴:ANCA抗体の違い

GPAを理解する上で極めて重要なのが、抗好中球細胞質抗体(ANCA)の存在です。GPAの患者の多くでこの自己抗体が検出されますが、その標的となるタンパク質によって種類が分かれます。欧米のGPA患者では、その多くがプロテイナーゼ3(PR3)を標的とする「PR3-ANCA」陽性です。しかし、日本のGPA患者では、約半数がミエロペルオキシダーゼ(MPO)を標的とする「MPO-ANCA」陽性であることが大きな特徴です2。このMPO-ANCAは、顕微鏡的多発血管炎(MPA)という別の血管炎で主にみられる抗体であるため、日本においてはGPAとMPAの鑑別が欧米よりも複雑になることがあります。この記事がこの日本特有の事情に言及することは、国内の診断上の課題を正確に反映していることを示すものです。


どのような症状が出ますか?

GPAの症状は非常に多彩であり、多くの他の疾患と共通する症状で始まるため、「症状の連結器」として機能することがこの記事の重要な役割です。最初は無関係に見える複数の局所的な問題(例えば、長引く副鼻腔の問題、咳、関節の痛み)が、実は一つの全身性の疾患の一部である可能性に気づく手助けをします。初期症状は風邪や長引く副鼻腔炎と間違われやすく、診断の遅れの一因となっています。

初期の全身症状

特定の臓器症状が現れる数週間から数ヶ月前に、以下のような全身症状が先行することがよくあります。

  • 原因不明の発熱
  • 全身の倦怠感
  • 意図しない体重減少
  • 関節痛や筋肉痛

古典的な三つの標的臓器(ELK)と各器官の症状

GPAは伝統的に、上気道(E: Ear, Nose, Throat)、肺(L: Lungs)、腎臓(K: Kidneys)の三つの領域を侵す疾患として知られています。ただし、全ての患者が三つ全ての症状を示すわけではなく、しばしば時間差を置いて順次出現します。以下に、各器官系ごとの詳細な症状を示します。

表1:GPAの症状の概要(器官系別)
器官系 主な症状 重要な注意点
全身症状 発熱(しばしば長引く)、倦怠感、原因不明の体重減少、関節痛、筋肉痛 他の臓器症状に先立って数週間から数ヶ月続くことがある。
上気道 (E) 膿や血の混じった鼻水(膿性鼻漏)、鼻血(鼻出血)、副鼻腔炎、鞍鼻(あんび:鼻筋が落ち窪む変形)、中耳炎、難聴、耳だれ、口内炎、声がかすれる(嗄声) 最も一般的な初発症状。通常の副鼻腔炎や風邪と誤診されやすい。
肺 (L) 長引く咳、血の混じった痰(血痰)、息切れ(呼吸困難)、胸の痛み。CT検査で肺に結節や空洞が見られることがある。 軽い咳から、生命を脅かす肺出血まで重症度は様々。
腎臓 (K) 初期は無症状(沈黙の臓器)。検査で発見される血尿や蛋白尿(尿の泡立ち)、足のむくみ(浮腫)、高血圧。 尿検査による定期的な監視が不可欠。未治療の場合、急速に腎不全に進行することがある(急速進行性糸球体腎炎)。
神経系 手足のしびれ、ピリピリ感、痛み、筋力低下(多発性単神経炎)。 治療が成功した後も、後遺症として長く残ることがある。
皮膚 紫色の斑点(紫斑)、皮下のしこり、治りにくい潰瘍。 皮膚の血管に起きた血管炎を反映している。
目の充血、痛み(強膜炎)、視力変化、物が二重に見える、眼球突出。 永続的な視力障害を避けるため、眼科専門医による評価が必要。

原因はなんですか?

GPAがなぜ発症するのか、その根本的な原因や引き金は、残念ながらいまだに不明です。しかし、近年の研究により、病気が発生するメカニズムについては多くが解明されてきました。GPAは、身体を守るべき免疫系が、誤って自分自身の身体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種です。

免疫系の「誤作動」:友軍相撃という名の悲劇

GPAの病態を理解するためには、「友軍相撃(フレンドリーファイア)」という比喩が役立ちます。本来、身体を守るべき兵士が、誤った指令によって自軍の施設を攻撃してしまうような状態です。

  1. 身体の兵士「好中球」:私たちの血液中には、細菌やウイルスなどの外敵と戦う「好中球」という白血球の一種がいます。これは、身体の最前線で戦う兵士や警備隊のような存在です。
  2. 誤った指令「ANCA抗体」:何らかの理由で、この好中球に対して「ANCA(抗好中球細胞質抗体)」という自己抗体が作られてしまいます。これは、兵士たちに送られる「誤った攻撃命令」や「偽の警報」に例えられます。
  3. 自爆攻撃:この誤った指令を受け取った好中球は過剰に活性化し、本来攻撃すべきではない自分自身の小型血管の壁を誤って攻撃し始めます。この攻撃により血管に炎症(血管炎)が起こり、組織が損傷します。さらに、炎症が慢性化する過程で、炎症細胞が集まって塊を形成し、「肉芽腫」と呼ばれる結節が作られます。

ANCA抗体が標的とするのは、好中球の表面にあるPR3やMPOといった特定のタンパク質です。最近では、活性化した好中球が「NETs(好中球細胞外トラップ)」と呼ばれる網状の構造物を放出し、これがさらなる自己免疫反応を惹起することも病態に関与していると考えられています3。この一連のプロセスは、免疫系の複雑な誤作動が引き起こす悲劇と言えるでしょう。


どのように診断されますか?

GPAの診断は、単一の検査で確定するものではありません。それは、あたかも探偵がパズルのピースを集めて全体像を明らかにするように、複数の証拠を積み重ねていく「証拠の集積」プロセスです。このプロセスには通常、リウマチ専門医、腎臓専門医、呼吸器専門医、耳鼻咽喉科医など、複数の専門家が関わります。

診断に至るまでのステップ

  1. 問診と身体診察:患者様の症状の物語(いつから、どのような症状が、どのように変化してきたか)が最初の、そして最も重要な手がかりです。医師は、鞍鼻や皮膚の病変、聴診による肺の異常音など、身体的な兆候を詳細に診察します。
  2. 血液・尿検査:炎症の存在や臓器の損傷を客観的に評価します。
    • 炎症マーカー:CRP(C反応性タンパク)やESR(赤血球沈降速度、赤沈)の上昇は、体内に炎症があることを示します。
    • 腎機能:血中クレアチニン値の上昇は、腎臓の濾過機能が低下していることを示唆します。
    • 尿検査:尿中の血液(血尿)やタンパク(蛋白尿)の存在は、腎臓の炎症(糸球体腎炎)の重要な兆候です。
    • ANCA検査:血液検査における最も重要な手がかりであり、後述します。
  3. 画像検査:体内の病変を可視化します。
    • 胸部CT:単純なX線写真よりも感度が高く、肺の結節や空洞、炎症を詳細に捉えることができます。
    • 副鼻腔CT/MRI:副鼻腔の炎症や肉芽腫の存在を確認します。
  4. 組織生検:「決定的証拠」とされることが多い検査です。病変のある臓器(鼻、肺、腎臓など)から小さな組織片を採取し、顕微鏡で調べます。「壊死性肉芽腫性血管炎」という特徴的な所見が確認されれば、GPAの強力な診断根拠となります。ただし、他の証拠が十分に揃っている場合は、必ずしも生検が必要でないこともあります。

ANCA検査の役割と国際的な診断基準

ANCA検査はGPA診断の要ですが、その結果は慎重に解釈される必要があります。

  • PR3-ANCA (c-ANCA): GPAに非常に特異性が高い古典的なマーカーです。世界的にはGPA患者の多くがこの抗体を持っています。
  • MPO-ANCA (p-ANCA): 日本の患者の約半数で検出される抗体です。これは顕微鏡的多発血管炎(MPA)との鑑別を難しくする要因となります。
  • 注意点: 非常に稀ですが、ANCAが陰性のGPA患者も存在するため(約10%未満)、ANCA陰性というだけでGPAを完全に否定することはできません。

近年、専門家が疾患を分類するために用いる国際的な基準として、2022年ACR/EULAR分類基準が発表されました4。これは診断基準そのものではありませんが、診断の補助として非常に有用です。この基準はスコア方式を採用しており、合計スコアが5点以上の場合にGPAの可能性が非常に高いと判断されます。例えば、PR3-ANCA陽性は最も高い5点が与えられ、鼻の症状(膿性鼻漏や鞍鼻など)には3点、肺の結節や空洞には2点が与えられます。このスコアシステムは、医師がどのようにして診断の確信度を高めていくのかを論理的に示しており、患者様がご自身の診断プロセスを理解する上での助けとなります。


最新の治療法は?

GPAの治療目標は、まず強力な治療によって病気の活動性を完全に抑え込む「寛解導入療法」、次いでその良好な状態を維持し再発を防ぐ「寛解維持療法」の二段階に分けられます。治療法の進歩は目覚ましく、かつての「絨毯爆撃」的なアプローチから、特定の免疫細胞を狙い撃ちする「精密誘導爆弾」のような治療へと進化しています。これにより、治療効果を高めつつ、副作用を軽減することが可能になりました。

第一段階:寛解導入療法

目標は、迅速に炎症を鎮め、病気の活動性がない「寛解」という状態を達成することです。適切な治療により、90%以上の患者が3~6ヶ月以内に寛解を達成できると報告されており3、これは非常に希望の持てる数字です。治療は通常、グルココルチコイド(ステロイド)と、強力な免疫抑制薬または生物学的製剤の組み合わせで行われます。

治療法のパラダイムシフト

  • リツキシマブ(Rituximab): ANCA抗体を産生するB細胞というリンパ球を特異的に除去する生物学的製剤です。かつての標準治療薬であったシクロホスファミドに比べ、同等以上の効果を示し、かつ不妊や発がんといった長期的な副作用のリスクが低いことから、現在では重症GPAの第一選択薬として国際的なガイドラインで推奨されています5
  • シクロホスファミド(Cyclophosphamide): 強力な免疫抑制薬ですが、骨髄抑制、感染症、出血性膀胱炎、不妊、発がんなど、多くの副作用のリスクがあります。現在では、リツキシマブが使用できない場合や、特定の病態に限って使用されることが多くなっています。
  • アバコパン(Avacopan): 2021年に日本で承認された画期的な新薬です。これは、炎症を引き起こす重要なシグナルの一つである補体C5aの受容体を阻害する薬剤です。この薬の最大の利点は、寛解導入療法におけるステロイドの総投与量を大幅に削減できる点にあります。これにより、ステロイドの長期使用に伴う様々な副作用(糖尿病、骨粗鬆症、肥満、精神症状など)を最小限に抑えることが期待されます6。リツキシマブまたはシクロホスファミドと組み合わせて使用されます。

重度の腎障害や肺出血など、生命を脅かすほどの重篤な状態の患者には、上記の治療に加えて、有害なANCA抗体を物理的に血液中から除去する血漿交換療法が行われることもあります。

表2:重症GPAに対する寛解導入療法の比較
治療法 作用機序 効果と位置づけ 注意すべき主な副作用
グルココルチコイド + リツキシマブ 有害なANCA抗体を産生するB細胞を標的とし除去する。 高い寛解率。主要ガイドライン(ACR, EULAR)で重症GPAの第一選択として推奨。 点滴時の反応、感染症リスクの増加、長期的な抗体産生能の低下。
グルココルチコイド + シクロホスファミド 過剰に活動する免疫系を広範に抑制する。 有効だが毒性が高い。現在はリツキシマブが使えない場合や特殊な症例に限られる。 高い感染症リスク、骨髄抑制、膀胱毒性(出血性膀胱炎)、不妊、発がんリスク。
アバコパン + (リツキシマブまたはシクロホスファミド) 重要な炎症シグナル(補体C5a)を遮断し、ステロイドの大幅な減量を可能にする。 ステロイドによる毒性を軽減しつつ、寛解導入効果は同等であることが示された。ステロイド曝露を減らす選択肢として推奨。 肝機能のモニタリングが必要。ベースとなる薬剤(リツキシマブ/シクロホスファミド)の副作用は残る。

第二段階:寛解維持療法

「寛解は完治ではない」— この点を理解することが、長期的な健康を維持する上で最も重要です。症状が消えて体調が良くなっても、病気そのものが体から消え去ったわけではありません。治療を自己判断で中断すると、病気が再び活動を始める「再燃」のリスクが非常に高くなります。

寛解維持療法は、苦労して達成した寛解という状態を守るための「盾」のようなものです。病気が再燃するのを防ぐために、より強度の低い治療を長期間(通常は数年間)続けます。寛解導入にリツキシマブを使用した場合、再燃率が低いことから、維持療法にもリツキシマブが定期的に投与されることが多くなっています。その他、アザチオプリンやメトトレキサートといった免疫抑制薬が用いられることもあります。


予後と日常生活の注意点は?

予後の改善と再燃のリスク

GPAの予後は、治療法の進歩によって劇的に改善しました。効果的な治療法がなかった時代には、数ヶ月で死に至る病でしたが、今日では適切な治療を受けることで、5年生存率は97%に達するとの報告もあり、非常に良好です3。これは、この病気と向き合う患者様にとって最大の希望と言えるでしょう。

一方で、GPAは再燃のリスクがある慢性疾患です。特にPR3-ANCA陽性の患者様は再燃リスクがやや高いとされています。再燃は起こり得ますが、治療法を調整することでコントロール可能です。定期的な通院と医師との密な連携が、再燃の早期発見と対応の鍵となります。

起こりうる後遺症(合併症)

病気の活動性そのものはコントロールされても、初期の炎症によって臓器が受けた損傷が、後遺症として永続的に残ることがあります。これらの課題を長期的な管理計画の一部として捉え、積極的に向き合っていくことが大切です。

  • 腎機能障害:一部の患者様は慢性腎臓病を患い、ごく少数ですが長期的な透析が必要になる場合があります。
  • 神経障害:手足のしびれや痛みが持続する末梢神経障害は、比較的よく見られる後遺症です。
  • 構造的損傷:鞍鼻や、視力低下、難聴などが永続的に残ることがあります。
  • 呼吸機能障害:肺の損傷により、慢性的な息切れが続くことがあります。

日常生活での管理:感染症対策が最重要

免疫抑制療法を受けている患者様にとって、最大の関心事は感染症の予防です。免疫力が低下しているため、普段なら問題にならないような病原体でも重症化する危険性があります。以下の「感染症予防ツールキット」を実践し、リスクを主体的に管理しましょう。

  • 手洗い・うがいの徹底:最も基本的かつ効果的な予防策です。
  • 人混みを避ける:特にインフルエンザや風邪が流行する季節には注意が必要です。
  • ワクチン接種:主治医と相談の上、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、そして新型コロナウイルスのワクチンを積極的に接種することが強く推奨されます。

特別な「GPAのための食事」というものはありませんが、ステロイドの副作用を考慮し、塩分を控えて血圧やむくみを管理し、血糖値の上昇に注意したバランスの良い食事を心がけることが推奨されます。仕事や生活については、多くの患者様が職場復帰を果たしています。体調に合わせて適度な運動を続け、職場と病状についてオープンにコミュニケーションをとることが、長く仕事を続けるための助けとなります。


日本でのサポート体制:医療費助成と専門医の見つけ方

稀な慢性疾患と向き合う上で、経済的な負担や専門的な医療へのアクセスは大きな課題です。日本には、これらの負担を軽減するための公的な制度があります。

特定医療費(指定難病)助成制度

GPAと診断された患者様は、「特定医療費助成制度」という公的な支援を利用できます。この制度により、GPAに関連する医療費の自己負担割合が、通常の3割から2割に軽減されます。さらに、世帯の所得に応じて月々の自己負担上限額が定められており、それを超える医療費は助成されます。

制度を利用するためには、お住まいの自治体の窓口(保健所など)への申請が必要です。以下の表は、申請プロセスの概要を示したものです。

表3:特定医療費(指定難病)助成制度の申請手続き
ステップ 詳細
1. 指定医による診断 申請には、都道府県から指定された「指定医」が作成した診断書(臨床調査個人票)が必要です。かかっている医療機関に指定医がいるか確認しましょう。
2. 書類の準備 申請書、臨床調査個人票、健康保険証のコピー、世帯全員の住民票の写し、世帯の所得・課税状況を確認できる書類など、必要な書類を揃えます。
3. 窓口への申請 準備した書類一式を、お住まいの都道府県・指定都市の担当窓口(保健所など)に提出します。
4. 認定と受給者証の交付 申請が承認されると、「特定医療費受給者証」が交付されます。これを指定医療機関や薬局の窓口で提示することで、助成が適用されます。

注意:必要書類は自治体によって異なる場合がありますので、必ず事前にお住まいの地域の担当窓口にご確認ください。

専門医を探す

GPAの診療は、血管炎の治療経験が豊富なリウマチ・膠原病内科医腎臓内科医が中心となって行います。お近くの専門医を探すには、以下の情報源が役立ちます。

  • 日本リウマチ学会:学会のウェブサイトで専門医を検索することができます7
  • 難治性血管炎に関する調査研究班(JPVAS):日本の血管炎研究をリードする組織で、研究に参加している医療機関は専門性の高い施設である可能性が高いです2
  • 主要な医療センター:慶應義塾大学病院、東京女子医科大学病院、杏林大学医学部付属病院などは、血管炎の診療と研究で知られています。

よくある質問

GPAは遺伝しますか? 他の人にうつりますか?

いいえ。GPAは遺伝性疾患ではなく、また感染症でもないため、他の人にうつる(伝染する)ことはありません。家族内で複数の人が発症することは極めて稀です。

治療中に妊娠・出産は可能ですか?

可能です。しかし、使用する薬剤によっては胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠を希望する場合は、必ず事前に主治医と十分に話し合う必要があります。病状が安定している寛解期に、安全な薬剤を選択して計画的に妊娠することが重要です。

GPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の違いは何ですか?

両者はともにANCA関連血管炎に分類される近縁の疾患ですが、いくつかの違いがあります。最も大きな違いは、GPAでは鼻や肺に「肉芽腫」という炎症性の結節が形成されるのに対し、MPAでは通常見られない点です。また、抗体もGPAではPR3-ANCAが、MPAではMPO-ANCAが多いとされますが、前述の通り日本のGPA患者ではMPO-ANCA陽性例も多いため、鑑別が難しい場合があります。


結論

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は、確かに深刻で人生を左右する可能性のある疾患です。しかし、医学の進歩により、その展望はかつてないほど明るくなっています。診断は困難を伴うことがありますが、早期に正確な診断を受け、専門家チームによる適切な治療を開始することが、良好な結果を得るための鍵となります。リツキシマブやアバコパンといった最新の治療法は、多くの患者様に寛解をもたらし、ステロイドによる副作用の負担を軽減することで、生活の質を大きく改善しました。

寛解は完治ではなく、長期的な管理と再燃への備えが必要な慢性疾患であるという現実もあります。しかし、大部分の患者様にとって、充実した活動的な人生を送ることは、もはや単なる可能性ではなく、現実的な期待となっています。ご自身の医療チームと密に連携し、利用可能な公的支援制度を最大限に活用することで、希望を持ってこの道のりを歩んでいくことができると、私たちは信じています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 難病情報センター. 多発血管炎性肉芽腫症(指定難病44) [インターネット]. 公益財団法人 難病医学研究財団; [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.nanbyou.or.jp/entry/263
  2. 難治性血管炎に関する調査研究班 (JPVAS). [インターネット]. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: http://www.vas-mhlw.org/
  3. Jennette JC, Falk RJ, Bacon PA, et al. 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. Arthritis Rheum. 2013 Jan;65(1):1-11. doi: 10.1002/art.37715.
  4. Robson JC, Grayson PC, Ponte C, et al. 2022 American College of Rheumatology/European Alliance of Associations for Rheumatology classification criteria for granulomatosis with polyangiitis. Ann Rheum Dis. 2022 Mar;81(3):315-320. doi: 10.1136/annrheumdis-2021-221795.
  5. Chung SA, Langford CA, Maz M, et al. 2021 American College of Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Antineutrophil Cytoplasmic Antibody-Associated Vasculitis. Arthritis Rheumatol. 2021 Aug;73(8):1366-1383. doi: 10.1002/art.41773.
  6. Jayne DRW, Merkel PA, Schall TJ, Bekker P; ADVOCATE Study Group. Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis. N Engl J Med. 2021 Feb 18;384(7):599-609. doi: 10.1056/NEJMoa2022142.
  7. 一般社団法人 日本リウマチ学会. [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.ryumachi-jp.com/
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