家族性高コレステロール血症(FH)のすべて:診断基準・治療法から日本の公的支援まで徹底解説
心血管疾患

家族性高コレステロール血症(FH)のすべて:診断基準・治療法から日本の公的支援まで徹底解説

高コレステロール血症と聞くと、食生活の乱れや運動不足といった生活習慣を原因と考える方が多いかもしれません。しかし、家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia, FH)は、その考えが当てはまらない遺伝性の疾患です1。FHは、生まれつき特定の遺伝子に変異があるため、体が血液中からLDL(悪玉)コレステロールを効率的に処理できない状態を指します2。その結果、本人の努力とは無関係に、幼少期から血中のLDLコレステロール値が著しく高い状態が続き、若くして動脈硬化が急速に進行します3。これが狭心症や心筋梗塞といった、命に関わる心臓病の重大な危険因子となるのです。この記事では、JapaneseHealth.org編集部が、この見過ごされがちな遺伝性疾患の正しい知識を、診断基準、最新の治療法、そして日本の医療制度における支援体制に至るまで、最新の科学的根拠に基づき包括的に解説します。正しい知識は、あなたとあなたの大切な家族の未来を守るための第一歩です。

この記事の科学的根拠

この記事は、日本の主要な専門学会および公的機関が公表している最新のガイドラインや研究報告など、質の高い医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。本文中で提示される医学的見解や推奨事項は、以下の情報源に依拠しています。

  • 日本動脈硬化学会(JAS): 本記事におけるFHの診断基準、治療目標、薬物療法の選択に関する記述の多くは、同学会が策定した「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022年版」および「小児家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022」に基づいています。これらは日本のFH診療における最も信頼性の高い基準です。
  • 厚生労働省および難病情報センター: FHホモ接合体の指定難病認定や関連する公的医療費助成制度に関する情報は、これらの公的機関が提供する公式データに基づいています。
  • 国立循環器病研究センター: FHと脳血管疾患との関連性に関する最新知見は、同センターが発表した研究報告を情報源としています。
  • 難治性家族性高コレステロール血症患者会: 日本における患者支援活動やカスケードスクリーニングの重要性に関する記述は、同学会と連携する患者会の活動報告や提言を参考にしています。

要点まとめ

  • 家族性高コレステロール血症(FH)は、生活習慣病ではなく、生まれつきの遺伝子変異が原因でLDL(悪玉)コレステロール値が極めて高くなる遺伝性疾患です。
  • 日本におけるFHヘテロ接合体の有病率はおよそ300人に1人と推定され、決して稀な病気ではありません。
  • アキレス腱の肥厚、45歳未満での角膜輪、若年での心臓病の家族歴はFHを強く疑うサインです。
  • 診断は日本動脈硬化学会のガイドラインに基づき、高LDL-C血症(未治療時180 mg/dL以上)、腱黄色腫、家族歴の3項目のうち2項目以上で確定されます。
  • 治療は生活習慣の改善を土台とし、スタチンを基本とする薬物療法が中心です。重症例にはPCSK9阻害薬などの強力な注射薬も用いられます。
  • FHと診断された場合、血縁者も50%の確率で罹患している可能性があるため、検査を勧める「カスケードスクリーニング」が極めて重要です。

家族性高コレステロール血症(FH)とは?—遺伝と心臓病リスクの全貌

家族性高コレステロール血症(FH)は、一般的な脂質異常症とは一線を画す、特定の遺伝的背景を持つ疾患です。その本質を理解することは、適切な診断と治療への第一歩となります。

FHの2つのタイプ:ヘテロ接合体とホモ接合体

FHは、原因となる遺伝子の受け継ぎ方によって、重症度が大きく異なる2つのタイプに分類されます。この違いを理解することは、病状の深刻さや治療方針を決定する上で非常に重要です。

  • ヘテロ接合体(Heterozygous FH, HeFH): 両親のどちらか一方からFHの原因遺伝子を受け継いだタイプです。FH患者の大多数がこのヘテロ接合体にあたり、より一般的な形態です4。LDLコレステロール値は著しく高くなりますが、適切な治療を受けなければ、男性では30代から、女性では40代から心筋梗塞などを発症する危険性が高まります。
  • ホモ接合体(Homozygous FH, HoFH): 両親の両方からFHの原因遺伝子を受け継いだ、非常に稀で重篤なタイプです5。LDLコレステロール値は極めて高く、幼児期から皮膚に黄色腫(コレステロールの塊)が現れ、動脈硬化が猛烈なスピードで進行します。治療を受けなければ10代や20代で心筋梗塞を発症し、30歳までに亡くなることも少なくありません6。この深刻さから、日本ではFHホモ接合体は国の指定難病(指定難病79)に認定されており、医療費の助成を受けることができます7。一方で、より一般的なヘテロ接合体は、現時点では指定難病の対象とはなっていません7

日本におけるFHの頻度:あなたは決して一人ではない

かつてFHヘテロ接合体は500人に1人程度の頻度と考えられていましたが2、近年のより正確な研究により、その頻度は従来考えられていたよりもずっと高いことが明らかになりました。現在、最新の知見では、日本の一般人口におけるFHヘテロ接合体の有病率は、およそ300人に1人と推定されています4。これは日本全体で30万人以上の患者がいる計算になり8、決して稀な病気ではないことを示しています。

特定の集団では、その割合はさらに上昇します。

  • 心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を持つ患者の中では、約30人に1人がFHです4
  • 特に、若くして心臓病を発症した早発性冠動脈疾患の患者や、LDLコレステロール値が極めて高い患者の中では、約15人に1人がFHであると報告されています4

一方で、重症型であるFHホモ接合体の頻度は極めて低く、およそ100万人に1人とされています5。これらの事実は、FHが身近な疾患であり、もし診断されたとしても、決して一人ではないことを示唆しています。

FHの原因となる遺伝子

FHの背景には、コレステロール代謝に関わる特定の遺伝子の変異が存在します。これらの遺伝子は、血液中からLDLコレステロールを肝臓に取り込み処理するシステムを制御しており、主に以下の3つが知られています5

  • LDL受容体(LDLR)遺伝子: 最も一般的な原因で、FH患者の大多数(60%以上)でこの遺伝子に変異が見られます9。LDLRは細胞表面で血液中のLDLを捕まえる「受け皿」の役割を担いますが、この遺伝子に変異があると受け皿が機能不全に陥り、血液中にLDLが溢れてしまいます。
  • アポリポタンパクB(APOB)遺伝子: APOBはLDL粒子の一部で、LDLR(受け皿)に結合するための「鍵」の役割をします。この鍵に変異があると、LDLが受け皿にうまく結合できず、結果として血液中にLDLが蓄積します。
  • PCSK9遺伝子: この遺伝子は、LDL受容体の分解を促進するタンパク質を作ります。PCSK9の機能が過剰になる変異があると、LDL受容体が次々と壊されて数が減ってしまい、血液中からLDLを取り除く能力が低下します10

これらのいずれかの遺伝子に変異があると、生涯にわたりLDLコレステロールを適切に処理できなくなり、FHを発症します。


FHの症状とセルフチェック—見逃されやすいサインに気づくために

FHは心筋梗塞などの重大な事象が起こるまで自覚症状がないことがほとんどですが、注意深く観察すれば、体に現れる特徴的なサインや家族歴に隠されたヒントを見つけ出すことができます。

体に現れるコレステロールのサイン

長期間にわたる高コレステロール状態は、体の様々な組織にコレステロールを沈着させ、目に見えるサインとして現れることがあります。

  • 腱黄色腫(けんおうしょくしゅ): 最も特徴的なサインの一つが、腱にできるコレステロールの塊です。特に、かかとの後ろにあるアキレス腱が太くなる(アキレス腱肥厚)ことは、FHを強く示唆する所見です11。正常なアキレス腱は平坦ですが、FH患者ではゴツゴツとした硬い膨らみとして触れることがあります。その他、手の甲や肘、膝の腱にも黄色っぽいしこりができることがあります1。これはFHの診断基準にも含まれる重要な身体所見です12
  • 皮膚結節性黄色腫(ひふけっせつせいおうしょくしゅ): 肘や膝、お尻などの皮膚に、黄色からオレンジ色の硬いしこりができることがあります5。これも体内にコレステロールが過剰に蓄積しているサインです。
  • 角膜輪(かくまくりん): 黒目の周りに白く濁った輪が見られることがあります。高齢者では加齢現象として見られますが、45歳未満の人に角膜輪が現れた場合は、FHを強く疑うべきサインです13

「家族」に隠されたヒント:家族歴の重要性

FHは遺伝性疾患であるため、最も重要な手がかりは血縁者の中に隠されています。家族の健康状態を把握することは、FHの可能性を探る上で不可欠です。

  • 血縁者のコレステロール値: 両親、兄弟姉妹、子供(第一度近親者)の中に、脂質異常症で治療中の人や、健康診断で「LDLコレステロール値が180 mg/dL以上」と指摘された人はいませんか?11
  • 若くして発症した心臓病の既往: 家族の中に、若くして心臓の病気を経験した人はいませんか?FHの診断で重要となる「早発性冠動脈疾患」とは、以下の年齢で心筋梗塞や狭心症、心臓バイパス手術やカテーテル治療などを経験したことを指します8
    • 男性:55歳未満
    • 女性:65歳未満

あなたと家族のためのセルフチェックリスト

以下の項目に2つ以上当てはまる場合、FHの可能性が考えられます。一度、循環器内科や内分泌・代謝内科などの専門医に相談することを強くお勧めします。

【家族性高コレステロール血症セルフチェックリスト】

  • □ 薬を飲んでいない状態で、LDL(悪玉)コレステロール値が180 mg/dL以上である。
  • □ アキレス腱がゴツゴツと太い、または手の甲や肘、膝に黄色いしこりがある。
  • □ 45歳未満だが、黒目の周りに白い輪(角膜輪)がある。
  • □ 両親、兄弟姉妹、子供の中に、FHと診断された人や、LDLコレステロール値が非常に高い人がいる。
  • □ 父親または兄弟が55歳未満で心筋梗塞や狭心症になった。
  • □ 母親または姉妹が65歳未満で心筋梗塞や狭心症になった。

専門医による診断プロセス—最新ガイドラインに基づく確定診断

FHの疑いがある場合、専門医は科学的根拠に基づいた明確な基準に沿って診断を行います。その拠り所となるのが、日本の専門家集団が作成した公式な指針です。

診断のゴールドスタンダード:日本動脈硬化学会ガイドライン

日本におけるFHの診断は、日本動脈硬化学会(Japan Atherosclerosis Society, JAS)が策定した「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022年版」に基づいて行われます12。このガイドラインは、最新の研究成果と臨床データを集約した、日本のFH診療における「ゴールドスタンダード(最も信頼できる基準)」です14。これにより、診断は医師個人の経験に頼るのではなく、全国で標準化された客観的なプロセスで進められます。

成人(15歳以上)の診断基準

成人(15歳以上)のFH(ヘテロ接合体)の診断は、以下の3つの主要項目のうち、2項目以上を満たすことで確定されます11

成人FH(ヘテロ接合体)診断基準
項目 基準内容 補足説明
1. 高LDL-C血症 未治療時のLDLコレステロール値が180 mg/dL以上 すでに薬物治療中の場合は、治療前の値を参考にします11
2. 腱黄色腫または皮膚結節性黄色腫 手背、肘、膝などの腱黄色腫、またはアキレス腱肥厚、あるいは皮膚結節性黄色腫が認められる アキレス腱肥厚は、X線撮影や超音波検査で評価されます9
3. 家族歴 第一度近親者にFHの確定診断、または早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満)の既往がある 家族の情報が診断の鍵を握るため、正確な問診が不可欠です11

【診断における重要な注意点】

「強く疑う」ケース: 上記3項目のうち1項目しか満たさなくても、未治療時のLDLコレステロール値が250 mg/dL以上の場合や、項目2(黄色腫)または項目3(家族歴)を満たし、かつLDLコレステロール値が160 mg/dL以上の場合は、「FHを強く疑う」と判断され、確定診断に準じた厳格な管理が推奨されます11。また、甲状腺機能低下症など他の疾患を除外することも必要です11

小児(15歳未満)の診断基準

FHによる動脈硬化は小児期から進行するため、子供のうちの診断と早期介入が将来の心臓病予防に極めて重要です15。小児の診断は、日本小児科学会と日本動脈硬化学会が共同で作成したガイドラインに基づき、成人と異なる基準が用いられます4

小児の診断では、LDLコレステロール値の基準(未治療時140 mg/dL以上)が成人より低く設定されており、親または兄弟姉妹のFH確定診断歴、あるいは親のLDLコレステロール高値(180 mg/dL以上)や親・祖父母の早発性冠動脈疾患歴といった家族の情報がより一層重要になります4

診断を補助する検査:遺伝子検査の役割

FHの診断は主に臨床基準に基づいて行われますが、特定のケースでは遺伝子検査が非常に有用です。遺伝子検査は、採血によりFHの原因遺伝子(LDLR, APOB, PCSK9など)の変異を直接調べる検査で13、病原性遺伝子変異が見つかれば、それだけでFHの確定診断となります1。特に、重篤なFHホモ接合体が疑われる場合や、臨床基準を満たさないがFHが強く疑われるケースで推奨されます1。検査結果が出るまでには通常1ヶ月程度かかります7


FHの治療戦略—生涯にわたるLDLコレステロール管理

FH治療の最大の目標は、動脈硬化の進行を食い止め、心筋梗塞などの心血管イベントを未然に防ぐことです7。治療は、生活習慣の改善を土台とし、薬物療法を主軸に進められます。

治療の基本方針と目標値

FH治療の基本は、LDLコレステロール値を早期から持続的に目標値以下にコントロールし続けることです。目標値は、患者さんの状態によって異なります。

  • 一次予防(心血管疾患の既往がない場合): 将来のイベント予防を目的とし、LDLコレステロール値を100 mg/dL未満に設定します16
  • 二次予防(心血管疾患の既往がある場合): 再発予防を最優先とし、より厳格な管理目標値としてLDLコレステロール値を70 mg/dL未満とします17。近年の国際的な動向では、さらに厳しい55 mg/dL未満を目指すことも推奨されています16

これらの目標値は、FH患者が生涯にわたって高いコレステロールにさらされてきた「負債」を考慮し、一般的な脂質異常症よりも厳しく設定されています。

治療の第一歩:生活習慣の改善

FHは遺伝性疾患のため、生活習慣の改善だけで目標値を達成することは不可能ですが、薬物療法の効果を高め、他の危険因子を管理する上で不可欠な土台となります18

  • 食事療法: 日本のガイドラインでは、コレステロールや飽和脂肪酸(肉の脂身、バターなど)の摂取を控え、魚(特に青魚)、大豆製品、野菜、海藻などを積極的に摂る食事が推奨されます119
  • 運動療法: ウォーキングなどの有酸素運動を週に合計150分以上行うことが推奨されます1
  • 禁煙: 喫煙は動脈硬化を強力に促進するため、FH患者にとって禁煙は絶対条件です7

薬物療法:治療の主役となる薬剤

FH治療において薬物療法は中心的な役割を担い、ほとんどの場合で必須となります。効果が不十分な場合は複数の薬剤を組み合わせます。

FH治療に用いられる主な薬剤
薬剤クラス 作用機序 主な役割・特徴
スタチン 肝臓でのコレステロール合成を阻害 第一選択薬。FH治療の基本となる薬剤1
エゼチミブ 小腸でのコレステロール吸収を阻害 スタチンと併用し、さらなるLDL-C低下を目指す1
PCSK9阻害薬 LDL受容体の分解を抑制し、肝臓へのLDL取り込みを促進 スタチン・エゼチミブで目標未達の重症例に使用する強力な注射薬1
siRNA製剤 肝臓でのPCSK9タンパク質の産生そのものを抑制 重症例に使用。PCSK9阻害薬より投与間隔が長い(半年に1回)のが特徴16

治療は通常、強力なスタチン(ストロングスタチン)から開始されます9。効果が不十分な場合はエゼチミブを併用します。それでも目標値に届かない重症例や、副作用でスタチンが使えない患者さんには、非常に強力な注射薬であるPCSK9阻害薬(エボロクマブ、アリロクマブ)や、さらに新しいsiRNA製剤(インクリシラン)が用いられます。これらの新しい注射薬は薬価が高額ですが、医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の利用が可能です16

重症例に対する専門治療:LDLアフェレシス

薬物療法を最大限に行ってもコントロールが困難な最重症のFH患者、特にホモ接合体の患者さんに対しては、特殊な治療法であるLDLアフェレシスが行われます20。これは血液透析に似た装置で血液中のLDLコレステロールだけを吸着・除去する治療法で13、1〜2週間に1回のペースで行われます。ホモ接合体の患者さんにとっては生命線を維持するために不可欠な治療であり、多くの場合、小児期から開始されます5


日本におけるFH患者支援と医療制度—知っておくべき公的サポート

FHは生涯にわたる管理が必要ですが、日本では患者を支える公的制度やコミュニティが存在します。これらを活用することは、安心して治療を続ける上で非常に重要です。

指定難病としてのFH(ホモ接合体)

重篤なFHホモ接合体は、厚生労働省によって指定難病79に認定されています6。これにより患者は医療費助成制度の対象となり、治療にかかる自己負担額に上限が設けられ、経済的負担が大幅に軽減されます。令和4年度(2022年度)時点で、この制度の利用者は398人と報告されています21。一方、より頻度の高いFHヘテロ接合体は、原則として指定難病の対象外ですが7、高額な治療を受ける際には「高額療養費制度」を利用できます。

家族の未来を守る:カスケードスクリーニングのすすめ

FHの診断は、家族全体の健康を守るためのスタートラインです。FHは常染色体優性遺伝するため、患者の第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)はそれぞれ50%の確率で同じ疾患を持つ可能性があります。この特徴を利用し、一人のFH患者(発端者)を起点に血縁者を連鎖的に検査していくアプローチを「カスケードスクリーニング」と呼びます22。これは未診断のFH患者を効率的に早期発見するための最も有効な手段として、国内外のガイドラインで強く推奨されています。

もしあなたがFHと診断されたなら、それは家族に隠された健康リスクを知らせる重要な機会です。血縁者にFHの遺伝的性質を伝え、LDLコレステロール値の血液検査を受けるよう勧めることは、家族を将来の心臓病から守るための、何よりの贈り物となり得ます。

患者会とのつながり:一人で悩まないために

同じ病気を抱える仲間とのつながりは、大きな心の支えとなります。日本では、「難治性家族性高コレステロール血症患者会」が活動しており、FH患者とその家族を支援しています23。この患者会は、情報交換や啓発活動、医療制度改善への働きかけなどを行っています24。特筆すべきは、日本動脈硬化学会の専門家と密に連携し、患者の声を国に届ける活動も行っている点です25。これは、FHに対し患者と医療者が一体となって立ち向かっている力強い証拠です。


よくある質問

ヘテロ接合体のFHは指定難病ではないのですか?

はい、現在の制度では、FHの中でも特に重篤な「ホモ接合体」のみが指定難病の対象です。より一般的な「ヘテロ接合体」は対象外となっています7。ただし、治療費が高額になった場合には、所得に応じた自己負担限度額が設定されている「高額療養費制度」を利用できます。

遺伝子検査にはどのくらいの時間がかかりますか?

採血後、結果が判明するまでには通常1ヶ月程度の期間を要します7。遺伝子検査はすべての患者に必須ではなく、医師が必要と判断した場合に行われます。

FHと診断されました。家族に何を伝えればよいですか?

まず、FHが遺伝性の疾患であり、生活習慣だけが原因ではないことを伝えてください。そして、第一度近親者(ご両親、ご兄弟、お子さん)は50%の確率で同じ体質を受け継いでいる可能性があるため、症状がなくてもLDLコレステロール値の血液検査を受けることを強く勧めてください。この家族への働きかけは「カスケードスクリーニング」と呼ばれ、家族の健康を守るために非常に重要です9

FHの新しい治療法はありますか?

はい、FHの治療は近年大きく進歩しています。特にスタチンやエゼチミブで効果不十分な重症例に対して、PCSK9阻害薬やsiRNA製剤といった強力な注射薬が登場し、治療の選択肢が広がっています16。日本動脈硬化学会は、新しい薬剤の登場を背景に「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン フォーカスアップデート2025」を発表するなど26、治療法の開発は現在も活発に進められています。

FHは心臓だけでなく、脳にも影響しますか?

はい、その可能性が指摘されています。日本の国立循環器病研究センターからの最新の研究報告によると、FHは脳の細い血管に異常をきたす「脳小血管病」の独立した危険因子であることが示されました10。脳小血管病は、将来の脳卒中や認知症の主な原因となるため、FH患者さんは心臓だけでなく、脳の健康を守るためにも、血圧や血糖など他の危険因子もしっかりと管理することが重要であると考えられます。

結論

家族性高コレステロール血症(FH)は、遺伝が原因で若いうちから動脈硬化が進む、決して珍しくない疾患です。しかし、診断されずに放置されるケースが依然として多いのが現状です。アキレス腱の肥厚や若年での心臓病の家族歴といったサインに気づき、早期に専門医を受診することが、何よりも重要です。FHは生涯にわたる管理が必要な疾患ですが、悲観することはありません。最新のガイドラインに基づいた適切な薬物療法と生活習慣の改善を継続すれば、動脈硬化の進行を効果的に抑制し、健康な方と変わらない生活を送ることも十分に可能です27。あなたとご家族が安心して治療に臨めるよう、私たち専門家も全力で支援します。一人で悩まず、ぜひご相談ください。

免責事項この記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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