この記事の科学的根拠
本記事は、引用元として明記された最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下に、提示されている医学的指導の根拠となった主要な情報源とその関連性を示します。
- 日本感染症学会: 本記事における、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎に対する抗菌薬の選択や治療に関する指針は、同学会が公表した「気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言」に準拠しています7。
- 米国感染症学会(IDSA): 溶連菌感染症の診断と管理に関する国際的な標準治療、特にCentor(セイヤー)基準の解釈や迅速検査の役割については、同学会の臨床実践ガイドラインが重要な根拠となっています14。
- 米国疾病予防管理センター(CDC): ウイルス性咽頭炎と細菌性咽頭炎の一般的な特徴や症状の違い、公衆衛生上の注意点に関する記述は、CDCが提供する情報に基づいています610。
- 日本の国立感染症研究所(NIID): 日本国内におけるA群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の発生動向に関する最新の情報は、同研究所の報告に基づいています11。
要点まとめ
- 喉の痛みの大部分はウイルスが原因であり、抗菌薬(抗生物質)は効果がありません。これらの場合は、安静、水分補給などの対症療法が中心となります。
- 咳や鼻水が伴う場合はウイルス性、突然の高熱と激しい喉の痛みがあり、咳がない場合は細菌性(A群レンサ球菌、通称「溶連菌」)が疑われます。
- 溶連菌感染症は、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの重篤な合併症を防ぐために、抗菌薬による適切な治療が不可欠です。医師の指示通りに服薬を完了することが重要です。
- 呼吸困難、水分も飲み込めないほどの激しい痛み、口が開きにくいなどの「危険な兆候」がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。
第1部: 喉の痛みの基本背景:主要な原因の特定
喉の痛みを正確に理解するためには、まず関連する医学用語を整理し、感染性と非感染性の原因を区別することが不可欠です。これにより、読者は自身の状態をより客観的に評価できるようになります。
1.1. 用語の整理:咽頭炎、扁桃炎、そして風邪
医療現場と日常生活で使われる言葉の違いは、時に混乱を招きます。正確な理解のために、これらの用語を明確に区別します。
- 咽頭炎(いんとうえん): これは喉の奥、すなわち「咽頭」に炎症が起きている状態を指す医学用語です1。「喉の痛み」という症状は、この咽頭炎の主症状です。咽頭は呼吸と食事の通り道が交差する重要な場所であり、呼吸、嚥下、発声に不可欠な役割を担っています2。この部分の組織が炎症を起こすと、知覚神経が刺激され、痛みや灼熱感として感じられます2。
- 扁桃炎(へんとうえん): 喉の奥の両側にあるリンパ組織の塊である「扁桃」が特に強く炎症を起こした場合を指します3。重要なのは、扁桃炎は咽頭炎とは別の病気ではなく、咽頭炎の一種、つまり炎症が特に顕著な場所を指しているという点です。ウイルスと細菌のどちらも原因となり得ます3。
- 風邪(かぜ): これは一般用語で、主にウイルスによって引き起こされる軽度の上気道感染症を指します。喉の痛みは、風邪の最も一般的な初期症状の一つです4。
これらの関係性を理解することが重要です。「扁桃炎」と「溶連菌感染症」を別の病気と考えるのはよくある誤解ですが、正しくは「溶連菌(原因)が咽頭炎(状態)を引き起こし、特に扁桃(場所)に強い炎症が見られる」という因果関係になります。この階層的な理解は、正確な医療情報を提供する上での基礎となります。
1.2. 大多数はウイルス性:最も一般的な原因
喉の痛みの症例の大部分は、ウイルス感染が原因です4。これには、一般的な風邪の原因となるライノウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、そしてコロナウイルスなどが含まれます。ウイルス性の咽頭炎は通常、自己限定性の疾患であり、体の免疫システムが特別な治療なくして感染を克服します。症状は通常5日から7日以内に改善します6。
ここで強調すべき重要な点は、抗菌薬(抗生物質)はウイルスには全く効果がないということです5。ウイルス感染に対して抗菌薬を使用することは、利益がないばかりか、世界的な問題となっている薬剤耐性菌の増加に寄与してしまいます。したがって、原因を正確に見極めることは、患者の期待を管理し、不要な治療を避ける上で極めて重要です。
特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の出現以降、喉の痛みは非常に顕著な主症状の一つとなり、他の原因との鑑別をより複雑にしています4。この事実は、診断において付随する他の症状を慎重に評価する必要性を一層高めています。
1.3. 細菌性の懸念:A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)
ウイルスほど一般的ではありませんが、細菌も喉の痛みの重要な原因であり、正確な診断と治療が必要です。その中で最も臨床的に重要で一般的な原因菌が、A群β溶血性レンサ球菌(Group A β-hemolytic Streptococcus – GAS)、通称「溶連菌」です。これによって引き起こされる咽頭炎は一般に「溶連菌感染症」として知られています7。
日本における疫学: 溶連菌咽頭炎は特に学童期の子供に多く見られます。日本のデータによると、5歳で罹患率が最も高くなり、3歳から8歳の子供たちが報告される全症例の約75%を占めています8。3歳未満の乳幼児では比較的稀ですが、これはこの細菌に対する典型的な免疫応答がまだ十分に発達していないためと考えられています7。成人では頻度は低いものの、依然として重要な医療上の懸念事項です。
なぜ溶連菌を警戒するのか: 溶連菌咽頭炎を特定し治療する主な理由は、単に不快な症状を和らげるためだけではありません。より重要な目的は、起こりうる重篤な合併症を予防することにあります。合併症は二つのタイプに分けられます。
- 化膿性合併症: 扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)、中耳炎、副鼻腔炎など、感染が局所的に広がるものです9。
- 非化膿性合併症: 感染が治まった後に起こる免疫反応で、心臓の弁に永続的な損傷を与える可能性がある重篤な炎症性疾患である急性リウマチ熱や、腎不全に至る可能性のある溶連菌感染後急性糸球体腎炎などが含まれます10。
さらに、近年日本で(2024年6月時点)憂慮すべき事態として、特に30歳以上の成人において、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(Streptococcal Toxic Shock Syndrome – STSS)と呼ばれる重症の侵襲性GAS感染症の症例が増加していることが報告されています11。日本の国立感染症研究所は、このSTSSの増加と、市中における溶連菌咽頭炎の流行レベルの高さとの関連性を指摘しています。STSSは非常に稀ですが、その重篤性(時に「人食いバクテリア」とも呼ばれる)から、公衆衛生上の影響は甚大です。この事実は、通常の溶連菌咽頭炎の診断と治療の重要性を、個人の快適さや稀な合併症の予防という問題から、より緊急性の高い公衆衛生上の警戒へと引き上げています。適切な診断と治療は、個人や子供の健康を守るだけでなく、成人人口で増加傾向にある、より危険な病態の蔓延を制御するという地域社会全体の取り組みの一環なのです。
1.4. 非感染性の刺激物:病原体だけが原因ではない
全ての喉の痛みが感染症によるわけではありません。非感染性の原因を認識することは、不必要な心配を避け、より単純な説明を除外するのに役立ちます。
- 環境要因: 特に冬場の暖房や冷房が効いた部屋の乾燥した空気は、非常に一般的な原因です。乾燥は喉の粘膜から必要な水分を奪い、繊毛の防御機能を弱め、痛みや炎症を引き起こします1。
- 生活習慣: 大声を出す、長時間話すなどの声の酷使、喫煙、多量の飲酒は、喉の粘膜への直接的な刺激物です1。タバコの煙は何百もの有害物質を含み慢性的な炎症を引き起こし、アルコールは脱水作用により喉の乾燥を悪化させます1。
- 他の医学的状態: 胃食道逆流症(GERD)では、胃酸が食道や喉に逆流し、慢性的な刺激と炎症を引き起こすことがあります。同様に、鼻からの粘液が喉の後ろに流れ落ちる後鼻漏(こうびろう)も、持続的な刺激の原因となり得ます4。
第2部: 症状に基づく鑑別診断ガイド
このセクションでは、ウイルス性と細菌性の原因を見分けるための、症状に基づいた実践的なフレームワークを提供します。これは、読者が自身の状態を評価する上での中心的な部分となります。
2.1. ウイルス性咽頭炎の兆候:「風邪」の症状群
ウイルス性の原因を示唆する最大の特徴は、喉の痛みと同時に、多彩な上気道症状が存在することです。ウイルス感染は喉だけに限定されず、しばしば気道全体に影響を及ぼします。
主要な鑑別症状:
- 咳(せき): これは最も重要な鑑別点とされています。顕著な咳の存在は、原因がウイルスである可能性を強く示唆します。咳は典型的な溶連菌咽頭炎の症状ではありません6。
- 鼻水または鼻づまり: これらは風邪の典型的な症状であり、典型的な溶連菌感染症では稀です6。
- 声のかすれ(嗄声): 声の変化は、炎症が喉頭にまで及んでいることを示し、これは通常ウイルス感染の特徴です6。
- 結膜炎(目の充血): この症状は、喉の痛みを引き起こすウイルスの一種であるアデノウイルス感染と関連付けられることが多いです6。
ウイルス性咽頭炎は、数日にわたってゆっくりと発症する傾向があり、通常は軽度の発熱(多くは38℃未満)を伴います12。
2.2. 溶連菌咽頭炎の兆候:突然の激しい攻撃
広範囲にわたるウイルス感染の様相とは対照的に、溶連菌咽頭炎は、より集中的で重篤な症状群によって特徴づけられます。特に「風邪」のような広範な症状がないことが注目されます。
主要な鑑別症状:
- 突然の高熱: 通常、38℃から39℃(華氏100.4度以上)の高熱で突然発症します9。
- 激しい喉の痛み: 嚥下時の痛み(嚥下痛)が非常に強く、特に子供では飲食が困難になることがあります10。
- 咳がない: これは重要な陰性の兆候です。典型的な溶連菌咽頭炎の患者は、通常、咳をしません13。
- 扁桃の滲出物(しんしゅつぶつ): 喉を観察すると、扁桃が赤く腫れあがり、白い斑点や膿の筋(膿栓)が付着していることがあります10。
- 前頸部リンパ節の腫れと圧痛: 首の前側のリンパ節が大きく腫れ、触ると痛みを伴います10。
特異性は高いが、頻度は低いその他の兆候:
- 口蓋の点状出血: 口の天井(軟口蓋)に小さな赤い斑点が見られることがあります10。
- 猩紅熱様発疹(しょうこうねつようほっしん): 首や胸から始まり、全身に広がる、触れると紙やすりのようにザラザラした感じの細かい赤い発疹です。これは猩紅熱の兆候です8。
- いちご舌: 最初は舌が白い苔で覆われますが、数日後にはそれが剥がれ落ち、苺のように赤くブツブツとした舌が現れます9。
注意すべき重要な点として、溶連菌の症状プロファイルは年齢によって異なる可能性があることです。猩紅熱の典型的な兆候(発疹、いちご舌)は子供でより一般的です15。成人では、より曖昧な臨床像を呈することがあります。一方、3歳未満の子供では溶連菌感染は非常に稀で、鼻づまりが強いなど非典型的な症状で現れることがあり、ウイルス性疾患との誤認を招きやすいです13。臨床ガイドラインでは、特定の危険因子(例:感染した兄弟がいる)がない限り、この年齢層での定型的な溶連菌検査は不要とさえ勧告しています14。したがって、単一の普遍的な症状リストを提示することは臨床的に不正確です。情報は年齢層(3歳未満、3~15歳、成人)によって層別化されることで、最も実用的な価値を提供します。
2.3. 提案表1:症状比較マトリックス
読者が喉の痛みの主な原因による典型的な症状群を直感的かつ直接的に比較できる視覚的ツールとして、以下の表を提案します。
症状 | ウイルス性咽頭炎(例:風邪) | 細菌性咽頭炎(溶連菌) |
---|---|---|
発症 | ゆっくり、徐々に | 突然、急速に |
発熱 | 軽度(<38℃)または無熱が多い | 高熱(>38℃)が多い |
咳 | よく見られる | 非常に稀、または無い |
鼻水・鼻づまり | 一般的 | 稀 |
扁桃の状態 | 赤く腫れることがある | 赤く腫れ、しばしば白い斑点や膿が付着 |
頸部リンパ節 | 軽く腫れることがある | 大きく腫れ、触ると痛い(首の前方) |
その他の症状 | 声のかすれ、結膜炎(目の充血) | 頭痛、腹痛、吐き気、発疹(猩紅熱)、いちご舌 |
本表は、複数の情報源6を基に、診断上の主要な鑑別点をまとめたものです。
この表は、咳の有無のような主要な鑑別点に光を当てることで、読者の注意を最も診断価値の高い情報に向けさせ、より情報に基づいた自己評価を可能にします。
第3部: 医師の診断ツール:スコア評価から検査まで
このセクションでは、臨床医が疑いから確定診断へと移行する際に用いる医学的診断プロセスを解明します。これは、読者の信頼を築き、医師の診察に対する期待を管理する上で重要です。
3.1. リスクの定量化:Centor(セイヤー)基準とMcIsaac(マックアイザック)基準
臨床現場では、医師は単なる印象に頼るわけではありません。溶連菌感染の確率を推定し、検査の必要性を判断するために、検証済みのスコアリングシステムを使用します。これはリスクを層別化するツールであり、確定診断そのものではありません17。Centor基準はその中でも最も広く使われているツールの一つです。
基準項目(各1点):
- 扁桃の滲出物または腫脹 (Tonsillar exudates) 16
- 圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹 (Tender anterior cervical lymph nodes) 16
- 38℃を超える発熱の既往 (History of Fever) 16
- 咳がないこと (Absence of Cough) 16
McIsaacスコア(年齢による修正):
溶連菌の罹患率は年齢によって大きく異なるため、McIsaacスコアはCentor基準を年齢で調整したものです。
このスコアの解釈が、診断と治療の次のステップを決定します。
3.2. 提案表2:Centor/McIsaacスコアと臨床的対応
抽象的なスコアを具体的な確率と行動に変換し、臨床プロセスを透明化するため、以下の表を提案します。これは国際的なガイドライン(IDSA, AAFP)と日本のガイドライン(JAID)からの推奨事項を統合したものです。
スコア (McIsaac) | 溶連菌感染の確率 | 推奨される臨床的対応 |
---|---|---|
0-1 | <10% | 検査や抗菌薬は不要。症状に対する対症療法のみ。7 |
2-3 | 15-35% | 迅速抗原検出検査(RADT)および/または咽頭培養を実施すべき。検査結果が陽性の場合にのみ抗菌薬で治療。7 |
≥4 | >50% | 感染の疑いが強い。RADT/培養を実施。一部のガイドラインでは経験的治療を許容するが、IDSAおよびJAIDのガイドラインは治療前の検査による確定診断を優先する。7 |
この表は、自己評価(第2部)と医療行為(第3部)の橋渡し役を果たします。医師が客観的な所見に基づいて特定の行動方針を選択する理由を読者に示し、「なぜすぐに抗菌薬を処方してくれないのか?」といった期待を管理し、憶測に基づく治療ではなく、根拠に基づく医療の重要性を強調します。
3.3. 確定検査:検査室からの視点
Centor/McIsaacスコアが中等度から高度の溶連菌感染リスクを示した場合、確定検査が実施されます。
- 迅速抗原検出検査 (RADT): ほとんどの診療所で最初に行われる検査です。数分で結果が得られ、特異度が高いため、陽性結果は非常に信頼できます。しかし、感度は完全ではなく、偽陰性(実際には感染しているが、検査では陰性となる)の可能性があります19。
- 咽頭培養: 診断の「ゴールドスタンダード(至適基準)」とされています。RADTよりも感度が高いですが、結果が出るまでに24~48時間かかります。リウマチ熱のリスクが最も高い子供や思春期の若者において、RADTの陰性結果を確認するためのバックアップ検査としてしばしば用いられます19。
- 核酸増幅検査 (NAATs): より新しいタイプの検査で、培養と同等の感度を持ちながら、はるかに迅速です。NAATsの使用は増加しており、日本のガイドラインでも将来的な選択肢として言及されています7。
3.4. 日本のガイドラインによるアプローチ:重症度の統合
日本感染症学会(JAID)のガイドラインにおける、微妙かつ重要な違いは、意思決定プロセスに別の臨床要素を統合している点です7。これらのガイドラインでは、成人患者に対して、Centorスコアを用いることに加え、臨床症状の重症度も考慮することを推奨しています。これは、溶連菌陽性の成人患者は、より重度の喉の痛みや日常生活への影響を報告するという研究に基づいています。
このアプローチは、「同じCentorスコアを持つ二人の患者が、全く異なる病気の体験をしている可能性がある」という臨床現場の現実を反映しています。したがって、日本の読者に対してこの統合的アプローチを提示することは非常に重要です。「あなたの医師は、リスクを評価するためにCentorスコアを使用しますが、あなたがどれほど辛く、痛みを感じているかも考慮して最善の決定を下します。」これは、より患者中心で文化的に適合した説明と言えるでしょう。
第4部: 管理戦略:自宅でのケアから処方薬まで
このセクションでは、ウイルス感染と細菌感染に対する戦略を明確に区別し、治療成功における患者の重要な役割を強調する、実践的なアドバイスを提供します。
4.1. ウイルスとの戦い:支持療法のツールキット
ウイルスに対して抗菌薬は無効なため、ウイルス性咽頭炎の治療は、症状の緩和と体の免疫システムのサポートに完全に焦点を当てます5。
主な対策:
- 安静: 十分な睡眠と休息は、体が感染と戦うためにエネルギーを集中させることを可能にします。声を休めることも重要です20。
- 十分な水分補給: たくさんの水分を摂ることは、喉を湿らせ、粘液を薄め、脱水を防ぐのに役立ちます。スープ、カフェイン抜きの温かいお茶、または蜂蜜入りの温水などは、特に喉を和らげる効果があります1。
安全上の注意: ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児に蜂蜜を与えてはいけません1。
- 鎮痛・解熱薬: アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの市販薬は、痛みを和らげ、熱をコントロールするのに効果的です19。
安全上の注意: 稀ではあるものの生命を脅かす可能性があるライ症候群との関連から、子供や思春期の若者へのアスピリンの使用は避けるべきです19。
- 環境管理: 加湿器を使用して室内の空気に潤いを与え、刺激された喉を和らげます。タバコの煙のような刺激物は避けてください1。
- 塩水でのうがい: 温かい塩水(コップ1杯(約240ml)の水に小さじ1/4~1/2杯の食塩)でのうがいは、年長の子供や成人において、一時的に痛みや炎症を和らげるのに役立つことがあります19。
4.2. 細菌の撲滅:抗菌薬を使用する理由
咽頭炎が溶連菌によるものと確定された場合、抗菌薬による治療が必要です。抗菌薬療法の主な目的は、(1)症状の期間を短縮し重症度を軽減すること、(2)他者への感染伝播を防ぐこと(治療開始後24時間で感染力は大幅に低下)、そして(3)最も重要なこととして、急性リウマチ熱のような重篤な合併症を予防することです14。
服薬遵守に関する重要なメッセージ: たとえ数日で気分が良くなり始めても、処方された抗菌薬の全コース(ペニシリン系薬剤では通常10日間)を完了しなければなりません。早期に服薬を中止すると、治療の失敗、感染の再発、そして合併症を発症するリスクを高める可能性があります5。
4.3. 抗菌薬の処方計画:ガイドラインに基づく要約
- 第一選択薬: ペニシリンVまたはアモキシシリンが第一選択薬です。これらは高い効果が証明されており、抗菌スペクトルが狭く(体内の有益な細菌叢への影響が少ない)、安価です5。
- ペニシリンアレルギー患者の場合: 代替選択肢には、第一世代セファロスポリン(アナフィラキシー型でないアレルギーの場合)、クリンダマイシン、またはアジスロマイシンのようなマクロライド系薬剤が含まれます7。
日本のガイドラインからの留意点7:
日本のガイドラインでは、アモキシシリン(AMPC)での治療失敗の問題が認識されています。これは、βラクタマーゼ(薬剤を不活性化する酵素)を産生する共感染菌の存在や、ペニシリンが浸透しにくい細胞内にGASが潜伏することが原因である可能性があります。治療失敗例や重症の成人例では、セファロスポリン系や、場合によっては呼吸器系キノロンが第二選択薬として考慮されることがあります。これは、初期治療が効果を示さない場合に医師が処方を変更する理由を読者に説明するものです。
4.4. 提案表3:管理と治療の要約
最も一般的な二つのシナリオに対して、明確で並行した行動計画を提供し、患者の正しい行動を強化するため、以下の表を提案します。
状態 | 主な目標 | 医療的治療 | 患者の必須行動 |
---|---|---|---|
ウイルス性咽頭炎(例:風邪) | 症状緩和、自己治癒のサポート | 抗菌薬は不要。支持療法のみ。 | 安静、水分補給、必要に応じて市販の鎮痛薬を使用。医師に抗菌薬を要求しない。 |
確定した溶連菌咽頭炎 | 細菌の撲滅、合併症と感染拡大の予防 | 医師から処方された抗菌薬。 | 指示された通りに抗菌薬の全コースを完了する。治療開始後少なくとも24時間は自宅で過ごし、他者への感染を防ぐ。 |
この表は、管理の道を直接対比させ、「全ての喉の痛みは抗菌薬を必要とする」という一般的な誤解に対抗します。「患者の必須行動」の列は、自分自身や子供の回復過程、そして公衆衛生の保護(感染拡大と薬剤耐性の防止)において明確な役割を与えることで、読者に力を与えます。
第5部: 危険な兆候の認識と長期的な問題
この最終セクションでは、安全性に焦点を当て、いつ緊急の医療的ケアを求めるべきか、そして再発性の問題に対する長期的な管理選択肢を概説します。
5.1. 提案表4:直ちに医療介入が必要な危険な兆候(レッドフラッグ)
これは重要なセーフティネットの構成要素です。一般的な病気と、医学的緊急事態の可能性がある状況とを明確に区別します。
症状・兆候 | 潜在的な意味 | 必要な行動 |
---|---|---|
呼吸困難または喘鳴(ぜんめい) | 気道閉塞(例:急性喉頭蓋炎、重度の膿瘍) | 直ちに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶ。1 |
唾液を飲み込めない、よだれが多い | 重度の腫脹、気道への影響の危険性 | 直ちに救急外来を受診する。6 |
口が完全に開けられない(開口障害) | 扁桃周囲膿瘍 | 緊急の医療的ケアを求める。16 |
首の硬直または激しい頭痛 | 髄膜炎の可能性(稀な合併症) | 緊急の医療的ケアを求める。 |
抗菌薬を2~3日服用しても悪化、または改善しない | 治療失敗または誤診 | 再度、医師に連絡する。9 |
単なる症状のリストは警鐘を鳴らすだけかもしれません。この表のように、潜在的な意味と必要な行動を説明する構造にすることで、文脈と明確な指示が提供されます。この形式は、不必要なパニックを引き起こすことなく適切な行動を促すように設計されており、重要な公衆衛生上の機能を果たします。
5.2. 合併症の影:なぜ治療が重要なのか
溶連菌を治療しないことの潜在的な結果について簡潔かつ明確に説明し、適切な医療ケアの重要性を再確認します。
- 化膿性合併症: 扁桃周囲膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎9。
- 非化膿性合併症(免疫介在性):
5.3. 再発性感染と扁桃摘出術:いつ手術が選択肢になるか?
このセクションは、患者の一般的な疑問に答え、期待を管理するための根拠に基づいた基準を提供します。
広く参照される米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のガイドラインに基づくパラダイス基準によると、以下のいずれかを満たす場合に扁桃摘出術が検討されることがあります。
- 過去1年間に7回以上の咽頭炎エピソード
- 過去2年間、年に5回以上のエピソード
- 過去3年間、年に3回以上のエピソード
(情報源: 21)
経過観察: これらの厳格な基準を満たさない患者には、「経過観察」が強く推奨されます。手術は、頻繁でない感染症に対する第一の解決策ではありません21。
その他の考慮事項: 扁桃周囲膿瘍の既往、複数の抗菌薬へのアレルギー、またはPFAPA症候群(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群)のような他の要因が決定に影響を与える可能性があります21。
結論:患者のための段階的行動計画
この結論部は、報告書全体を、読者のための明確で、記憶しやすく、実行可能なガイドに要約します。
- 自分の症状を自己評価する: 自分の症状群を考えてみましょう。咳や鼻水がありますか(ウイルス性の可能性が高い)?それとも、咳がなく突然の高熱ですか(細菌性の疑い)?症状比較マトリックス(表1)を再参照してください。
- 自分のリスクを理解する: 症状が細菌感染と一致する場合、医師はCentorスコア(表2)のような公式なスコアリングシステムを用いてリスクと検査の必要性を判断します。
- いつ医師に診てもらうべきかを知る: いずれかの「危険な兆候」(表4)がある場合は、直ちに医療的ケアを求めてください。その他の重篤または持続的な症状(例:数日以上続く喉の痛み、高熱)については、適切な診断のために医師の診察を予約してください。
- 検査を信頼し、治療を遵守する: 検査が実施された場合、その結果が治療の指針となります。確定した溶連菌咽頭炎に対して抗菌薬が処方された場合、自分自身と他者を合併症や感染拡大から守るために、全コースを完了することが絶対的に不可欠です。管理と治療の要約(表3)を参照してください。
- 予防を実践する: 良好な手指衛生と咳エチケットは、全ての呼吸器感染症の拡大を防ぐ効果的な方法です8。
よくある質問
喉が痛いだけで病院に行くべきですか?
一概には言えませんが、いくつかの目安があります。痛みが非常に強い、水分を摂るのも辛い、高熱(38℃以上)を伴う、数日間経っても改善しない、咳や鼻水といった他の風邪症状が全くない、といった場合は、細菌感染(特に溶連菌)の可能性も考えられるため、医療機関の受診を検討することをお勧めします。また、本記事の「危険な兆候(レッドフラッグ)」のいずれかに当てはまる場合は、直ちに受診が必要です。
溶連菌は大人でもかかりますか?
はい、かかります。学童期の子供に最も多いとされていますが、大人も感染します。特に、子供のいる家庭や、学校・保育施設などで働く人は感染のリスクが高まります。大人の場合、子供ほど典型的な症状(発疹など)が出ないこともありますが、突然の高熱や激しい喉の痛みが特徴です。近年、日本では成人における重症型の溶連菌感染症(STSS)の増加も報告されており、大人の感染も軽視できません11。
抗菌薬(抗生物質)を飲み始めたらいつから楽になりますか?
何度も扁桃炎になるのですが、手術(扁桃摘出術)をしたほうがいいですか?
扁桃摘出術を検討するには、厳格な医学的基準があります。例えば、米国のガイドラインでは「過去1年間に7回以上」「過去2年間、年に5回以上」などの頻繁な再発が目安とされています21。単に「年に数回繰り返す」というだけでは、通常は手術の適応にはなりません。手術には利点だけでなく、出血や痛みなどのリスクも伴います。再発性扁桃炎にお悩みの場合は、まずは耳鼻咽喉科の医師に相談し、ご自身の状況が手術の適応基準に合致するかどうか、そして手術の利益と不利益について十分に説明を受けることが重要です。
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