【泌尿器科専門医が徹底解説】精巣炎(睾丸炎)のすべて:その痛み、放置は危険?原因・症状から最新治療、不妊リスクまで
男性の健康

【泌尿器科専門医が徹底解説】精巣炎(睾丸炎)のすべて:その痛み、放置は危険?原因・症状から最新治療、不妊リスクまで

精巣(睾丸)という男性にとって極めて重要な部位に生じる突然の痛みや腫れは、大きな身体的苦痛だけでなく、「何か大変な病気ではないか」「将来に影響はないか」といった深刻な精神的不安をもたらします。JapaneseHealth.org編集部は、その不安な気持ちに寄り添い、科学的根拠に基づいた正確で信頼できる情報を提供することで、皆様が冷静に、そして適切に次の一歩を踏み出すためのお手伝いをしたいと考えています。この記事では、泌尿器科専門医の監修のもと、精巣炎の基本的な定義から、よく似た病気との見分け方、考えられる原因、具体的な症状、放置した場合の危険性、専門医による診断プロセス、そして日本国内の実情に即した最新の治療法や予防策に至るまで、読者の皆様が抱えるあらゆる疑問に答えるべく、包括的に解説していきます。

この記事の科学的根拠

この記事は、日本国内外の主要な医学会が発行する診療ガイドラインや、査読を経て権威ある医学雑誌に掲載された研究論文など、最高水準の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。本文中のすべての主張と推奨事項は、以下に示すような信頼できる情報源によって裏付けられています。

  • 一般社団法人 日本泌尿器科学会 (JUA): 本記事における精巣炎と緊急疾患である精巣捻転との鑑別診断、および精巣上体炎の標準的な診断・治療に関する記述は、同学会が策定した『急性陰嚢症診療ガイドライン』に基づいています1
  • 一般社団法人 日本性感染症学会 (JSSTI): 性感染症(STI)に起因する細菌性精巣上体炎の治療法、特に日本国内で推奨される抗菌薬の種類や用法に関する記述は、同学会の『性感染症 診断・治療ガイドライン』を主要な根拠としています4
  • 国際的な学術論文: ムンプス(おたふくかぜ)ウイルスによる精巣炎の合併症、特に精巣萎縮や男性不妊のリスクに関する具体的な統計データは、医学雑誌『Frontiers in Immunology』に掲載された包括的なレビュー論文などを参照しています18
  • 米国疾病予防管理センター (CDC): STIが原因の精巣上体炎に対する国際的な標準治療に関する情報は、CDCが発行する『STI Treatment Guidelines』を参考にしています15

要点まとめ

  • 精巣の痛みは、数時間以内に治療が必要な救急疾患「精巣捻転」の可能性があり、自己判断は極めて危険です。直ちに泌尿器科の救急外来を受診すべき症状があります。
  • 精巣炎の原因は大きく分けて「ウイルス性(主におたふくかぜ)」と「細菌性(性感染症や尿路感染症)」があり、原因によって治療法が全く異なります。
  • 適切な治療を受ければ多くは安全に治癒しますが、放置すると精巣内に膿が溜まる「膿瘍形成」や、将来の「男性不妊」につながる深刻な合併症のリスクがあります。
  • 診断の要は超音波(エコー)検査であり、精巣への血流を評価することで精巣捻転との鑑別を正確に行うことができます。
  • 細菌性が原因の場合は抗菌薬治療が必須です。症状が改善しても自己判断で服薬を中断せず、パートナーも同時に治療することが重要です。

1.精巣炎とは?精巣上体炎との違いと、最も警戒すべき「精巣捻転」の見分け方

精巣炎とは、文字通り精巣(睾丸)に炎症が起きた状態を指します。精巣は、男性ホルモン(テストステロン)を分泌し、子孫を残すための精子を作り出すという、二つの極めて重要な役割を担っています。そのため、この部位の炎症は、男性の健康全体に大きな影響を及ぼす可能性がある深刻な問題です。

1.1. 精巣上体炎との密接な関係

臨床の現場では、精巣だけが単独で炎症を起こす「孤立性精巣炎」は比較的まれです。実際には、精巣の後ろに付着している精巣上体(精子を成熟させ、精管へ送り出す通路)にまず炎症が起こり、それが精巣本体にまで波及する「精巣精巣上体炎(せいそうせいそうじょうたいえん)」という形をとることが圧倒的に多いことが知られています19。これは、細菌感染の多くが尿道から逆行して精巣上体に到達することに起因しており、診断と治療において感染経路を考える上で非常に重要なポイントとなります。

1.2. 緊急事態!一刻を争う「精巣捻転」との鑑別

【最重要警告】精巣の痛みを訴える疾患の中で、何よりも優先して鑑別しなければならないのが「精巣捻転(せいそうねんてん)」です。これは、精巣につながる血管や精管がねじれて血流が途絶えてしまう状態で、発症から数時間以内に手術によるねじれの解除を行わないと精巣が壊死(えし)してしまう、泌尿器科領域における最大の救急疾患です22。症状が精巣炎と非常に似ているため、自己判断は絶対に避けてください。

夜間や休日であっても、もしあなたが、あるいはあなたの家族が突然始まった激しい精巣の痛みに見舞われた場合は、決して様子を見ることなく、直ちに泌尿器科のある救急外来を受診してください。以下に、読者の皆様が危険な兆候を見分けるための比較表を示します。

表1:精巣捻転と精巣炎・精巣上体炎の鑑別ポイント
特徴 精巣捻転(一刻を争う緊急事態) 精巣炎・精巣上体炎
痛みの始まり方 突然、何の前触れもなく始まる激痛 徐々に悪化していく痛み(数時間〜数日かけて)15
好発年齢 10代の思春期がピーク(新生児や成人も起こりうる)19 全年齢層(若年層はSTI、高齢者は尿路感染が主)
伴う症状 強い吐き気や嘔吐を伴うことがある 38℃以上の高熱を伴うことが多い41
精巣の位置 正常時より高い位置にあり、横向きになっていることがある 正常な位置にあることが多い15
挙睾筋反射 太ももの内側をこすっても精巣が上がらない(反射の消失)15 反射は正常に保たれていることが多い
超音波検査所見 精巣への血流が途絶・減少している 精巣・精巣上体への血流が増加している19

最終的な診断は専門医による超音波検査が不可欠ですが、痛みが「突然」始まった場合は、精巣捻転を強く疑い、ただちに行動することが命運を分けます。

2.なぜ起こるのか?精巣炎の二大原因:ウイルス感染と細菌感染

精巣炎の原因は、大きく「ウイルス性」と「細菌性」に分けられます。どちらが原因かによって治療法が全く異なるため、正確な原因究明が非常に重要です。

2.1. ウイルス性精巣炎:主犯は「おたふくかぜ(ムンプスウイルス)」

ウイルス性精巣炎の中で最も代表的なものが、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の原因であるムンプスウイルスによるものです。これは特に、思春期以降に成人男性がおたふくかぜに罹患した際に起こる、頻度の高い合併症として知られています1928

  • 合併率: 思春期以降の男性ムンプス患者のうち、20%から40%という高い確率で精巣炎を合併すると報告されています818
  • 発症時期: 通常、耳下腺(耳の下)の腫れが始まってから4〜7日後に、再び高熱が出るとともに精巣の急激な痛みと腫れが出現します19
  • 両側性: 約3分の1のケースでは、両方の精巣が同時に、あるいは時間差で侵されることがあります19

【日本特有の状況】 日本では1989年からMMR(麻しん・おたふくかぜ・風しん混合)ワクチンの定期接種が始まりましたが、副作用の問題で1993年に中止されたという経緯があります。そのため、国立感染症研究所の指摘にもあるように、**特に1990年代前半以前に生まれ、ワクチンを接種していない、またはおたふくかぜに罹患したことがない成人男性は、ムンプスウイルスに対する免疫を持たない可能性があり、感染した場合の精巣炎合併リスクに特に注意が必要**です10

2.2. 細菌性精巣(上体)炎:性感染症(STI)と尿路感染症

細菌が原因の場合、感染経路が年齢によって大きく異なるという、臨床的に極めて重要な特徴があります。

  • 若年層(主に35歳以下)の主因 – 性感染症(STI): 性的活動が活発な年代では、尿道炎を引き起こすクラミジア・トラコマティスおよび淋菌が二大原因菌となります42548。これらの細菌が尿道から精管を逆行して精巣上体に到達し、炎症を引き起こします。国立感染症研究所の感染症発生動向調査(IDWR)によると、日本国内では近年、若年層におけるクラミジア感染症の高止まりが報告されており、これが精巣上体炎の背景にある重要な公衆衛生上の課題です11
  • 中高年層(主に40歳以上)の主因 – 尿路感染症: 40歳以上、特に高齢者では、大腸菌などの腸内細菌が原因となることが最も多くなります19前立腺肥大症による排尿障害で膀胱内に尿が残りやすくなったり、尿路カテーテルの留置、過去の尿路系の手術などが、細菌の侵入・増殖を容易にする危険因子となります。

3.見逃してはいけない精巣炎の症状と危険な兆候

精巣炎の症状は、炎症が起きている場所の「局所症状」と、体全体に現れる「全身症状」に分けられます。ご自身の状態を客観的に把握するためのチェックリストとしてご活用ください。

局所症状チェックリスト

  • 片方、あるいは両方の精巣(タマ)が痛む、赤く腫れている1627
  • 陰嚢(タマの袋)全体が熱を持っている27
  • 歩行や衣服との摩擦で痛みが強くなる
  • 排尿時に痛みや違和感がある(排尿時痛)1627
  • 射精時に痛みがある、または精液に血が混じる(血精液症)16
  • 尿道の先から膿のような分泌物が出ている(特に若年層のSTIが疑われる場合)50

全身症状チェックリスト

  • 38℃以上の急な発熱1941
  • 悪寒や体全体の震え(戦慄)19
  • 体のだるさ(倦怠感)、筋肉痛、頭痛、吐き気1951

4.精巣炎は危険か?放置が招く3つの深刻なリスク

記事冒頭の「危険なのか?」という問いに対して、専門家として明確にお答えします。**「はい、精巣炎は危険な状態につながる可能性があります。早期に適切な治療を受ければほとんどの場合は安全に治癒しますが、放置したり自己判断で対処したりすることは、取り返しのつかない結果を招くことがあります。」** 具体的には、以下の3つの深刻な危険性(リスク)が挙げられます。

4.1. リスク1:膿瘍形成(膿のたまり)

細菌感染が重症化し、治療が遅れると、精巣や精巣上体の内部に膿がたまる「陰嚢内膿瘍(いんのうないのうよう)」を形成することがあります1625。この状態になると、抗菌薬の点滴治療だけでは改善が難しく、皮膚を切開して膿を体外に排出する外科的な処置(切開排膿)や、場合によっては精巣摘出術が必要になることもあります2021

4.2. リスク2:精巣萎縮と男性ホルモンの低下

長引く、あるいは重度の炎症は、精子や男性ホルモンを作り出す精巣の繊細な組織を破壊してしまいます。その結果、炎症が治まった後に精巣が縮んで硬くなる「精巣萎縮」を引き起こす可能性があります1619。特にムンプス精巣炎ではその頻度が高く、合併した患者の30%から最大60%で、程度の差こそあれ精巣萎縮が起こると報告されています1819。精巣萎縮が起こると、男性ホルモン(テストステロン)の産生能力が低下し、性欲の減退、勃起不全(ED)、慢性的な疲労感、気力の低下といった、生活の質(QOL)を著しく損なう症状の原因となりえます1618

4.3. リスク3:男性不妊(最も懸念される後遺症)

読者の皆様が最も心配されるであろう不妊の危険性について、科学的データに基づいて正確に解説します。

  • ムンプス精巣炎による不妊リスク: ウイルスが精巣組織そのものを直接攻撃するため、精子を作る能力自体が低下・消失する「非閉塞性無精子症」につながる可能性があります。特に、**両側の精巣炎**を発症した場合、その危険性は著しく高まります2640。2021年に発表された包括的なレビュー論文では、思春期以降にムンプス精巣炎を発症した男性の約30%が、その後の不妊または挙児能力の低下を経験する可能性があると報告されており、これは決して無視できない数字です18
  • 細菌性精巣上体炎による不妊リスク: こちらは精巣本体ではなく、精子の通り道である精巣上体が主戦場となります。炎症によってこの管が狭くなったり、完全に詰まってしまったりする「精管閉塞」が起こり、結果として精子が体外に出られなくなる「閉塞性無精子症」の原因となることがあります2252。この場合、精巣では精子が作られているにもかかわらず、射精された精液中に精子が存在しない状態となります。特にクラミジア感染症は、自覚症状が乏しいまま慢性化し、気づかないうちに精巣上体管の閉塞を引き起こしているケースがあるため、STIの早期発見・早期治療がいかに重要であるかがわかります52

5.専門医による診断プロセス:原因特定のための精密検査

泌尿器科を受診した場合、医師は原因を正確に特定し、適切な治療方針を立てるために、以下のような標準的な診察・検査を行います。

  1. 問診: 症状がいつからどのように始まったか、性交渉の状況(パートナーの数やコンドーム使用の有無)、過去のおたふくかぜの罹患歴やワクチン接種歴など、原因を推測するための重要な情報を詳しく聴取します。
  2. 身体診察: 医師が直接、陰嚢を目で見て、手で触れて診察します。痛みや腫れの場所・程度を確認し、精巣捻転を疑う所見(精巣の位置異常や挙睾筋反射の消失など)がないかを慎重に評価します。
  3. 尿検査: 尿中の白血球(膿尿)や細菌の有無を調べ、尿路感染症の合併を確認します1953
  4. 血液検査: 白血球数やCRP(C反応性タンパク)といった炎症マーカーの値を測定し、体内で起きている炎症の強さを客観的に評価します54
  5. 超音波(エコー)検査:
    • 【診断の要】: 陰嚢内の状態をリアルタイムで詳細に観察できる、最も重要な画像検査です1944
    • 鑑別の威力: カラードップラー法という機能を用いることで、精巣への血流状態を色で評価できます。血流が増加していれば炎症(精巣炎/精巣上体炎)、逆に血流が途絶・減少していれば精巣捻転と、極めて高い精度で鑑別することが可能です1946。また、膿瘍の有無や大きさも正確に把握できます21
  6. 原因菌特定検査(STIが疑われる場合): 尿または尿道の入り口から綿棒で分泌物を採取し、クラミジアおよび淋菌の遺伝子を増幅して検出する核酸増幅検査(NAAT法)を行います。これは非常に感度が高く、現在の標準的な診断法です4455

6.精巣炎の最新治療法:科学的根拠と日本の実情に基づくアプローチ

繰り返しになりますが、「原因によって治療法が全く異なる」という点が、精巣炎治療の最も重要な大原則です。

6.1. ウイルス性精巣炎(ムンプス)の治療

現時点では、ムンプスウイルスに直接効果のある特異的な抗ウイルス薬は存在しません。そのため、治療はご自身の免疫力がウイルスを排除するまでの間、つらい症状を和らげる「対症療法」が中心となります1928

  • 安静: 体力の消耗を防ぎ、回復を早めるため、可能な限りベッドで安静に過ごすことが推奨されます。
  • 陰嚢の挙上と冷却: タオルなどで巻いたアイスパックで患部を冷やし、ブリーフのようなフィット感のある下着や専用のサポーター(陰嚢挙上帯)で陰嚢を少し持ち上げるように固定すると、うっ血が改善し痛みが和らぎます2856
  • 薬物療法: 痛みや発熱に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、例えばイブプロフェンやロキソプロフェンといった解熱鎮痛剤が処方されます16

6.2. 細菌性精巣(上体)炎の治療

細菌が原因の場合は、その菌を死滅させるための抗菌薬(抗生物質)の投与が治療の絶対的な根幹です1627。原因菌として推定される菌種に応じて、適切な抗菌薬が選択されます。

  • STI(クラミジア、淋菌)が原因と疑われる場合: 日本性感染症学会のガイドラインなどを基に、多くの場合、クラミジアと淋菌の両方に効果が期待できる広範囲な抗菌薬が選択されます。日本国内の保険診療では、医師の判断に基づき、**ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン、商品名:クラビット®など)**や、クラミジアにも有効な**テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリン、商品名:ミノマイシン®など)**の内服薬が処方されることが一般的です333738。淋菌感染が強く疑われる場合や重症例では、**セフトリアキソン(商品名:ロセフィン®)**の点滴静注が必要となることもあります35
  • 尿路感染症が原因と疑われる(主に高齢者の)場合: 大腸菌などのグラム陰性桿菌に有効な、**ニューキノロン系抗菌薬**や**セフェム系抗菌薬**の内服が第一選択となることが多いです3337

治療における最重要注意点

  • 処方薬の完全な服用: 症状が良くなってきたからといって、自己判断で薬の服用を中止してはいけません。処方された抗菌薬は、指示された期間(通常1〜2週間程度)必ず最後まで飲み切ってください。これが再発や慢性化、さらには薬が効きにくくなる薬剤耐性菌の出現を防ぐために極めて重要です1627
  • パートナーの同時治療: STIが原因の場合、症状の有無にかかわらず、性的パートナーも必ず検査を受け、必要であれば同時に治療を行う必要があります。これを怠ると、治ってもまたパートナーから感染するという「ピンポン感染」を繰り返してしまいます1655

6.3. 治療中の生活で守るべきこと

回復を早め、悪化を防ぐために、治療中は以下の点に注意してください。

  • 安静: 症状が落ち着くまで、激しい運動や長時間の立ち仕事は避けましょう56。可能であれば、数日間は仕事を休むことが望ましいです。
  • 性行為の禁止: 治療が完了し、医師から許可が出るまでは、性交渉は絶対に避けてください25
  • 禁酒: アルコールは血管を拡張させて炎症を悪化させる可能性があるため、治療中は禁酒が原則です27
  • 入浴: 急性期で熱感や痛みが強い間は、湯船に浸かって患部を温めるのは避けるべきです。シャワーで清潔を保つ程度に留めましょう56

7.精巣炎の予防:未来の自分を守るための賢明な選択

精巣炎、特にその深刻な合併症は、多くの場合、事前の対策によって予防することが可能です。

7.1. ムンプスワクチンの接種

ウイルス性精巣炎とそれに伴う不妊リスクを回避するための、最も確実で効果的な予防法です1617。日本では任意接種(自費診療)となりますが、過去におたふくかぜに罹患したことがなく、ワクチン接種歴も不明な成人男性、特に将来子どもを持つことを望む男性とそのパートナーにとっては、その価値は非常に高いと言えます。

7.2. 安全な性行為の実践

コンドームを性交渉の最初から最後まで正しく使用することが、クラミジアや淋菌をはじめとするSTIの感染を防ぎ、結果として細菌性精巣炎のリスクを大幅に低減させます161727。また、不特定のパートナーとの性交渉を避けることも、感染リスク管理の観点から重要です。

7.3. 日常生活でのその他の注意点

  • 水分を十分に摂取し、尿意を我慢しないことで、尿路感染症を予防します。
  • 陰部を清潔に保つことを心がけます。
  • バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、体の抵抗力を高く維持することも、あらゆる感染症に対する基本的な防御策となります。

よくある質問

Q1: 精巣炎は自然に治りますか?

A1: ウイルス性(ムンプス)精巣炎の場合は、特効薬がないため、体の免疫力で治るのを待つことになり、その意味では「自然に治る」と言えます。しかし、その間、高熱や激しい痛みが続くため、症状を和らげる治療が必要です。一方、細菌性精巣炎は、抗菌薬なしで自然に治ることはほとんどありません。放置すれば重症化し、膿瘍形成や不妊などの深刻な後遺症を残す危険性が高いため、絶対に放置してはいけません。

Q2: 痛みはどのくらいで治まりますか? 仕事は休むべきですか?

A2: 細菌性の場合、適切な抗菌薬治療を開始すれば、通常2〜3日で痛みや発熱は改善し始めます。しかし、腫れが完全に引くまでには数週間かかることもあります25。急性期で痛みや発熱が強い間は、安静が第一です。立ち仕事や体を動かす仕事の場合は、少なくとも2〜3日は休むことが推奨されます。デスクワークであっても、通勤時の振動などで痛みが強まることがあるため、医師と相談の上、判断することが重要です。

Q3: 精巣炎と診断されましたが、不妊にならないか心配です。

A3: 不妊は精巣炎の最も心配される合併症の一つですが、すべての人が不妊になるわけではありません。片側の精巣炎であれば、もう一方の精巣が正常に機能していれば、挙児能力は維持されることがほとんどです。リスクが特に高まるのは、①両側のムンプス精巣炎にかかった場合、②治療が遅れて両側の精巣が萎縮してしまった場合、③両側の精巣上体炎によって精管が詰まってしまった場合などです。治療が完了してから不妊の心配がある場合は、泌尿器科や男性不妊専門のクリニックで精液検査を受けることで、現在の状態を正確に評価することができます。

結論

精巣の痛みや腫れは、精巣炎や精巣上体炎だけでなく、一刻を争う救急疾患である精巣捻転の可能性も含む、体からの極めて重要な警告サインです。その原因はウイルス性と細菌性に大別され、それぞれ治療法が全く異なります。放置は膿瘍形成や精巣萎縮、そして将来の不妊といった、取り返しのつかない深刻な合併症につながる危険性があります。正確な診断、特に精巣捻転との鑑別には、専門医による超音波検査が不可欠です。

精巣の異常に気づいたら、決して自己判断で放置したり、インターネットの情報だけで解決しようとしたりしないでください。恥ずかしがったり、ためらったりする必要は全くありません。できるだけ早く泌尿器科の専門医を受診することが、あなた自身の現在の苦痛を取り除き、将来の健康と大切な可能性を守るための、最も確実で賢明な一歩です。

免責事項本記事に掲載されている情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状に対する医学的アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。ご自身の健康状態に関する具体的な懸念については、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。

参考文献

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