【がんと診断されたときの心の変化】不安・うつ・怒りとどう向き合い、患者と家族ができること
がん・腫瘍疾患

【がんと診断されたときの心の変化】不安・うつ・怒りとどう向き合い、患者と家族ができること

「検査の結果ですが…がんです。」という一言は、多くの人の人生を大きく変えてしまうほどの衝撃をもたらします。頭が真っ白になって医師の説明が耳に入ってこない、家に帰ってから急に怖くなって涙が止まらない、家族の前では平気なふりをしているけれど、ひとりになると不安で眠れない――こうした反応は決して珍しいことではありません。厚生労働省の解説でも、がん告知は誰にとっても「非常に大きなストレス事象」であり、心身にさまざまな影響が出るとされています。

一方で、「自分だけが弱いのでは」「こんなことでつらいと言ってはいけないのでは」と自分を責めてしまう方も少なくありません。世界の研究では、がん患者さんの約3〜5割に不安や抑うつなどの顕著な心理的苦痛(ディストレス)が見られるという報告もあり、日本人を対象にした研究でも同様に半数前後が強い心理的ストレスを抱えているとされています。

本記事では、がんと診断されたときに起こりやすい心の変化、不安やうつ、怒り、将来への恐怖などの感情がどのように生まれるのかを整理しながら、「どこまでが自然な反応で、どこからが専門家への相談を考える目安か」「患者本人だけでなく、家族や周囲の人はどう支えればよいのか」を、日本の医療制度や支援体制も踏まえてわかりやすく解説します。

この記事は、厚生労働省や国立がん研究センター、国内外のがん医療ガイドライン、心理腫瘍学(サイコオンコロジー)に関する研究論文などの情報をもとに、がんと向き合う人とご家族が「自分はどうすればいいのか」を具体的にイメージできるようにまとめたものです。自分や身近な人ががんと診断され、不安の中にいる方にとって、少しでも心の整理と次の一歩のヒントになれば幸いです。

Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について

Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。

本記事の内容は、厚生労働省の「がんとこころ」に関する情報、国立がん研究センターのサバイバーシップ・がん相談支援に関する資料、日本のがん患者を対象とした心理的苦痛の研究、さらに世界保健機関(WHO)やNCCNのディストレスマネジメント・ガイドラインなどの一次情報源に基づき、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。

  • 厚生労働省・自治体・公的研究機関:e-ヘルスネット、がんと心のケアに関する解説、統計資料など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています。
  • 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:国立がん研究センター、日本の精神医学・心理腫瘍学関連学会の資料、NCCNディストレスマネジメントガイドライン、心理的苦痛に関するシステマティックレビューなど、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています。
  • 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:がんサバイバーシップ研究グループ(SaQRA)など、日本のがん患者・家族支援の実践に基づく情報も参考にしています。

AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。

私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。

要点まとめ

  • がんと診断されたときにショックや不安、怒り、落ち込みなどが入り混じるのは、多くの人に共通する自然な反応です。
  • しかし、強い不安や抑うつが数週間以上続き、眠れない・食べられない・何も手につかない・死についてばかり考えてしまうなどの状態になった場合は、うつ病や不安症など専門的な治療が必要な病気が隠れていることがあります。
  • 日本や世界の研究では、がん患者さんの約3〜5割に心理的苦痛が見られ、その一部は適切な支援につながっていないことが報告されています。早期に気づき、相談することが大切です。
  • 心の負担は、病気そのものだけでなく、治療による外見の変化、仕事や収入、家族関係、性生活・妊よう性の変化など、生活全体に影響します。日本の調査では、告知から最初の入院までや通院治療中に心の不調が強くなる人が多いとされています。
  • セルフケア(睡眠・生活リズム・情報との付き合い方・感情の言語化)と、家族や友人、医療者、がん相談支援センター・精神科・心療内科など専門家への相談を組み合わせることで、多くの場合、心理的苦痛は軽減し、治療や生活の質の向上につながります。
  • この記事を読むことで、「自分の心の状態はどこにあるのか」「今できるセルフケア」「いつ、どこに相談すべきか」の目安を具体的にイメージできるようになることを目指します。

第1部:がんと診断されたときの心の基本反応と日常生活の見直し

まず知っておきたいのは、「がん」と告げられたときのショックや混乱、不安、怒り、現実感のなさ(実感がわかない感じ)は、多くの人にとってごく自然なストレス反応だということです。無理に「前向きにならなくては」と自分を追い込む必要はありません。

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1.1. がん告知後に起こりやすい心のメカニズム

厚生労働省の情報や心理腫瘍学の知見によると、がんと診断された直後に見られやすい心の反応は、次のようなステップで出現することが多いとされています。

  • ショック・麻痺:頭が真っ白になる、現実感がない、医師の説明を覚えていない。
  • 否認:「何かの間違いでは」「自分だけは大丈夫」と感じてしまう。
  • 不安・恐怖:治療への不安、再発や死亡への恐怖、家族や仕事への心配。
  • 怒り・不公平感:「なぜ自分だけが」「これまで頑張ってきたのに」と感じる。
  • 落ち込み・悲しみ:これまでの生活が変わることへの喪失感、将来への絶望感。
  • 受容(少しずつ):時間の経過や情報収集、支援を通じて、病気と共に生きる方法を探し始める。

こうした反応は人によって順番も強さも異なりますし、「受容」に至ってもまた不安や怒りがぶり返すこともあります。直線的に進むというより、「行ったり来たりしながら少しずつ慣れていく」イメージを持つとよいでしょう。

また、日本の調査では、「がんと診断されてから最初の入院までの期間」や「放射線や抗がん剤などの通院治療中」に心の不調を最も強く感じる人が多いことも報告されています。

1.2. 心の負担を悪化させやすいNG習慣と、代わりにできること

心が不安定なときほど、無意識のうちにストレスを増やしてしまう行動をとりがちです。代表的な例と、代わりに試してほしい行動を整理します。

  • インターネット検索のしすぎ:夜中まで不安になりながら検索を続けると、睡眠不足と情報の洪水でかえって混乱が強くなります。
    代わりに:情報源を「厚生労働省」「国立がん研究センター」など信頼できる公的機関に絞り、見る時間帯も1日○分などと区切るようにしましょう。
  • 一人で抱え込む:「家族を心配させたくない」「弱音を吐きたくない」と誰にも相談しないと、孤立感が強まり、うつ状態に移行しやすくなります。
    代わりに:全部を話す必要はなく、「今日は少し不安で」など、小さな一言からで構いません。家族や信頼できる友人、がん相談支援センターに話してみましょう。
  • 生活リズムの乱れ:昼夜逆転、食事の抜きが増えると、心身ともに回復しにくくなります。
    代わりに:眠気が強い日でも、朝起きる時間だけはなるべく一定にする、少量でも3食何か口にする、短い散歩を取り入れるなど、小さなリズムを整える工夫が有効です。
  • 感情を「なかったこと」にする:「泣いてはいけない」「弱音を吐いてはいけない」と感情を押し殺すと、後から一気に爆発することがあります。
    代わりに:ノートやスマホのメモに、その日の気持ちを数行書き出すだけでも、心の整理に役立ちます。「今日はとても不安」「怒りが強い一日だった」など、評価ではなく「事実として」書き残してみましょう。
表1:セルフチェックリスト(心の状態を振り返るための例)
こんな心の状態はありませんか? 考えられる主な背景・原因カテゴリ
診断のことを考えると、急に心臓がドキドキして落ち着かない 急性の不安反応、パニック発作の可能性
何をしても楽しくなく、好きだったことにも興味がわかない うつ状態・抑うつ症状
治療や将来のことが不安で夜眠れない、夜中に何度も目が覚める 不安・ストレスによる不眠、睡眠リズムの乱れ
外見の変化(脱毛・手術痕など)が気になって、人に会いたくない ボディイメージの変化、自尊感情の低下
「家族に迷惑をかけている」「自分のせいだ」と強い罪悪感がある うつ状態・自己評価の低下

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第2部:身体や治療・生活の変化が心に与える影響

がんと診断されたときの心の状態は、病気そのものだけでなく、治療による身体的変化、ホルモンや体力の変化、仕事・家計・家庭環境など、多くの要因が複雑に絡み合って生じます。この部では、とくに影響が大きい内的要因・生活要因を整理します。

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2.1. とくに女性に多い悩み:外見・ホルモン・妊よう性

乳がんや婦人科系がんなど、女性特有のがんでは、手術や抗がん剤などの治療を通じて、乳房や子宮・卵巣の切除、脱毛、体重変化、皮膚の色素沈着など、外見や性・妊よう性に関わる変化が現れやすくなります。国立がん研究センターの患者体験調査でも、治療による外見の変化について「誰かに相談できなかった」と答えた人が一定数いることが示されています。

こうした変化は、「もう前の自分ではない」「女性として(男性として)の自信がなくなった」と感じさせ、パートナーとの関係や性生活にも影響します。しかし、多くの患者さんが「こんな話を主治医にしていいのか分からない」「恥ずかしくて聞けない」と相談をためらってしまいます。実際、海外と日本の研究でも、医療者側から性や妊よう性の話題を積極的に取り上げることはまだ少ないと指摘されています。

日本では、がん治療に伴う妊よう性温存の情報提供や、乳房再建の選択肢など、徐々に支援体制が整いつつあります。治療前後に気になることがあれば、「外見や妊よう性について相談したいことがあります」と一言添えて、主治医や看護師、がん相談支援センター、精神腫瘍科・心療内科に相談してみましょう。

2.2. 栄養・体力・慢性症状と心の関係

抗がん剤や放射線治療、ホルモン療法などは、倦怠感(だるさ)、食欲低下、吐き気、痛み、睡眠の質の低下などを引き起こすことがあります。こうした身体症状が長く続くと、「前のように動けない自分」に対する苛立ちや悲しみが生じ、抑うつ状態につながりやすくなります。

また、貧血や甲状腺機能の異常、ビタミン・ミネラル不足など、身体の不調がそのまま気分の落ち込みや集中力低下につながっている場合もあります。単なる「気の持ちよう」と決めつけず、必要に応じて血液検査や内分泌(ホルモン)のチェックを主治医に相談することも重要です。

2.3. 既往のメンタルヘルス・性格傾向

もともと不安症やうつ病の既往がある方、几帳面で責任感がとても強い方、他人に頼ることが苦手な方は、がんの診断によって精神的な負担がさらに大きくなりやすいとされています。

既に心療内科や精神科に通院している場合は、がんの診断や治療開始のタイミングで、主治医(がん)とメンタルの主治医の両方に情報共有してもらうことが大切です。薬の飲み合わせや、副作用の重なりを考慮しながら調整してもらうことで、安全に心身のケアを続けることができます。

2.4. 家族・職場・経済的な負担

日本のがん経験者の調査では、診断時に仕事をしていた人が多く、治療と仕事の両立、収入の減少、将来のキャリアへの不安などが大きなストレス要因になっていることが示されています。

加えて、「子どもやパートナー、親の世話をどうするか」「家族にどこまで話すか」といった家庭内の役割の変化も大きな負担になります。家族が「頑張って」「大丈夫」と励ます一方で、患者本人は「つらいと言えない」「迷惑をかけている」と自分を責めてしまうこともあります。

こうした問題は、医療ソーシャルワーカーやがん相談支援センターで相談できることが多く、就労支援、傷病手当金や障害年金、介護サービスに関する情報も得ることができます。「心の問題だけでなく、生活の問題も相談してよい場所」があることを知っておくと、少し気持ちが軽くなるかもしれません。

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第3部:専門的な診断・治療が必要となる心の病気

がんと診断された直後の不安や落ち込みは自然な反応ですが、その状態が長く続いたり、日常生活に大きな支障をきたすようになると、うつ病や不安症、適応障害など「治療の対象となる病気」として扱った方がよい場合があります。この部では、代表的な状態と受診の目安を紹介します。

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3.1. 不安症・パニック症などの強い不安

がん患者さんの多くは何らかの不安を感じていますが、次のような状態が続く場合は、不安症やパニック症が疑われます。

  • 理由もなく常に落ち着かない、最悪のことばかり想像してしまう。
  • 突然、動悸・息苦しさ・手の震え・冷や汗などが出て、「このまま死んでしまうのでは」と感じる発作が何度も起こる。
  • 検査や治療のことを考えると、恐怖で病院に行けなくなる。

こうした不安症状は、心理療法(認知行動療法など)や抗不安薬・抗うつ薬などの薬物療法によって、軽減できることがわかっています。がんと心の両方を診てくれる精神腫瘍科や心療内科、精神科で相談してみましょう。

3.2. うつ病・うつ状態

世界と日本の研究では、がん患者さんの約1〜4割にうつ病やうつ状態が見られると報告されていますが、そのうちかなりの割合が見逃されている可能性が指摘されています。

次のような状態が2週間以上、ほとんど毎日続いている場合は、うつ病の可能性があります。

  • 一日中気分が沈んでいる、涙もろくなった。
  • 今まで楽しめていたことにも興味がわかない。
  • 食欲が落ちた/逆に過食ぎみになった、体重が大きく変化した。
  • 寝つけない、早朝に目が覚める、逆に寝過ぎてしまう。
  • いつも疲れていて、何をするにもおっくう。
  • 「自分には価値がない」「家族の足手まといだ」と強い罪悪感が続く。
  • 集中力が落ち、些細なことを決めるのにも時間がかかる。
  • 「いなくなった方がいいのでは」「死んだ方が楽かもしれない」といった考えが頭を離れない。

こうした症状が続く場合、「気のせい」「気合いでどうにかする」ではなく、できるだけ早く専門家に相談してほしい状態です。抗うつ薬による治療と、心理療法を組み合わせることで症状が改善し、治療や生活への意欲が戻ってくる可能性があります。がん治療との飲み合わせについては、主治医と精神科・心療内科が連携しながら調整します。

3.3. 適応障害・「将来への不確実さ」による悩み

「がんであることは理解しているが、治療や再発、仕事や家族の将来が不安でたまらない」「考えても答えが出ないことをいつまでも考え続けてしまう」といった状態は、適応障害や「将来への不確実さ」による心理的苦痛としてよく見られます。

適応障害では、うつ病ほど重い症状ではないものの、眠れない、集中力が落ちる、涙もろくなる、仕事や家事が手につかないなどの状態が数か月続くことがあります。この場合も、カウンセリングや認知行動療法、必要に応じて少量の薬物療法によって、ストレスとの付き合い方を整えていくことが役立ちます。

3.4. 怒り・恐怖・自責感が止まらないとき

「なぜ自分だけが」「医師や病院を信じられない」「家族のせいでこんなことになった」といった怒りが強く、周囲との衝突が続く場合も、心が限界に近づいているサインかもしれません。また、「あのとき検診に行かなかった自分のせいだ」「仕事ばかりしていたからだ」という強い自責感に支配されると、うつ病や自殺念慮につながる危険があります。

怒りや恐怖、自責感そのものは自然な感情ですが、「一日中頭から離れない」「人間関係が壊れそう」「自分を傷つけてしまいそう」と感じる場合は、早めに専門家に相談してほしい状態です。

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第4部:今日から始める心のセルフケア・アクションプラン

心の不調は、「がんがあるから仕方がない」と我慢し続ける必要はありません。完璧でなくて構いませんので、自分にできる小さな一歩を積み重ねることが大切です。この部では、今日からできること、今週から試したいこと、長期的に取り組みたいことをレベル別に整理します。

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表2:心のセルフケア・アクションプラン
ステップ アクション 具体例
Level 1:今日・今夜からできること 呼吸を整え、感情を言葉にする 寝る前に3分間、ゆっくり腹式呼吸をする/今日一日の気持ちをノートに3行だけ書く/「今は不安が強い」と自分でラベリングしてみる
Level 2:今週末から試したいこと 信頼できる人に気持ちを共有する 家族や友人に「少し話を聞いてほしい」と伝える/がん相談支援センターに電話してみる/主治医に「心のことで相談したい」と一言添える
Level 3:1〜3か月かけて続けたいこと 専門家の支援や仲間とのつながりを活用する 病院の精神腫瘍科・心療内科を受診する/患者会・ピアサポートに参加して同じ経験を持つ人の話を聞く/就労相談や経済的支援の窓口を利用する

セルフケアは、うつ病や不安症などの診断がつくレベルの状態を完全に治すものではありませんが、「波を少しなだらかにする」「回復に向かう土台を整える」役割があります。無理のない範囲で、自分に合いそうなものから取り入れてみてください。

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第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?

「この程度で相談していいのか」「誰に何を話せばいいのか分からない」と迷っているうちに、心の状態が悪化してしまうことがあります。この部では、受診を検討すべきサイン、診療科の選び方、診察時に準備しておくと役立つ情報をまとめます。

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5.1. 受診を検討すべき危険なサイン

  • 強い落ち込みや不安が2週間以上続き、日常生活に支障が出ている。
  • 眠れない・食べられない状態が続き、体重が急激に減っている。
  • 「死にたい」「消えたい」「いなくなった方がいい」という考えが頭から離れない。
  • 自分を傷つける具体的な方法を考えてしまう。
  • 現実感がなくなる、周囲の人が自分を責めているように感じるなど、現実検討能力が低下している。

これらに当てはまる場合は、できるだけ早く精神科・心療内科・精神腫瘍科などへの受診を検討してください。夜間や休日を含め、命の危険を感じる場合には、ためらわずに119番通報や救急外来の受診も選択肢に入れてください。

5.2. 症状に応じた診療科の選び方

  • 主治医(がん)の外来:まずは「最近よく眠れない」「気分の落ち込みが強い」など、簡単でよいので伝えてみると、院内の精神腫瘍科や心療内科、がん相談支援センターを紹介してもらえる場合があります。
  • 精神腫瘍科・心療内科:がんと心の問題を専門に扱う診療科です。大きながん拠点病院などに設置されていることが多く、治療薬との相互作用も考慮しながら心の治療を受けられます。
  • 精神科:重いうつ病や統合失調症、双極性障害などの診断・治療も含め、幅広い精神疾患に対応します。がんの専門病院に限らず、地域の精神科クリニックなどで相談できることもあります。
  • がん相談支援センター・医療ソーシャルワーカー:医療・仕事・お金・家族のことなど、生活全体の相談窓口として活用できます。必要に応じて適切な医療機関や支援制度につないでくれます。

5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安

  • 症状のメモ:いつから、どのような気分の変化や睡眠・食欲の変化があるかを簡単にメモしておくと、短い診察時間でも状況を伝えやすくなります。
  • お薬手帳:がん治療薬やその他の薬との飲み合わせを確認するために重要です。
  • 家族の同席(可能であれば):診察時に緊張してうまく話せない場合でも、家族が様子を補足してくれることがあります。
  • 費用の目安:日本では公的医療保険が適用されるため、通常3割負担で受診できます。高額療養費制度や自立支援医療(精神通院医療)などを活用することで、自己負担を抑えられる場合もあります。詳細は病院の相談窓口やがん相談支援センターで確認してみましょう。

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よくある質問

Q1: がんと診断されたショックは、どれくらい続くのが「普通」ですか?

ショックや混乱、不安が強い時期は、多くの人で数日〜数週間程度続くといわれています。診断直後から最初の入院、治療方針が決まるまでの期間は、とくに心の負担が大きくなりやすいことが日本の調査でも示されています。

ただし、「何か月もほとんど何も手につかない」「泣いてばかりで家事や仕事ができない」といった状態が続く場合は、うつ病や不安症などの可能性もあるため、早めに主治医や精神科・心療内科に相談してみてください。

Q2: 泣いてばかりいる自分は弱いのでしょうか?

泣くこと自体は「弱さ」ではなく、むしろ心がストレスに対処しようとしている自然な反応の一つです。がんと診断されたとき、多くの人が強い不安や悲しみを感じ、涙が出てくるのは当然のことです。

ただし、「一日中涙が止まらない」「何をしていても急に涙が出てしまう」「死にたい気持ちと結びついている」といった場合は、うつ病などの可能性もあります。その場合は、遠慮せず専門家のサポートを受けてください。相談することは「弱さ」ではなく、「自分を守るための行動」です。

Q3: 家族として、患者にどんな声かけをすればいいですか?

家族の方ができる一番大切なことは、「正解のアドバイス」を探すことではなく、「話を否定せずに聞くこと」です。例えば、「それは大変だったね」「怖かったね」「不安なんだね」と気持ちを受け止める一言が、患者さんの孤独感を大きく和らげます。

反対に、「もっと前向きに考えよう」「他の人の方がもっと大変だよ」といった言葉は、悪気がなくても相手を追い詰めてしまうことがあります。「何かできることがあったら言ってね」と、具体的に頼みやすい雰囲気をつくることも大切です。

Q4: 子どもには、がんのことをどこまで伝えるべきでしょうか?

子どもは大人が思う以上に、家庭の変化や空気の違いに敏感です。何も説明しないままにしておくと、「自分のせいで親が怒っている/泣いている」と誤解してしまうこともあります。日本の小児がん・家族支援のガイドラインでも、年齢に応じたわかりやすい言葉で病気のことを説明することが推奨されています。

具体的な伝え方は年齢によって異なりますが、「病気の名前(がんであること)」「どの部分が病気なのか」「治療のために入院や通院が必要になること」などを、嘘をつかずに説明することが大切です。不安な場合は、主治医や看護師、がん相談支援センターに「子どもへの伝え方」を相談してみましょう。

Q5: 仕事はすぐに辞めたほうがいいのでしょうか?

診断直後はショックが大きく、冷静な判断がしにくい時期です。短期的な感情だけで「今すぐ退職する」と決めてしまうと、後から「もう少し別の選択肢もあったのでは」と後悔することもあります。

まずは主治医に、治療期間や通院頻度、体力への影響の見込みを確認し、その情報をもとに職場の産業医・人事部・上司などと話し合ってみるとよいでしょう。医療ソーシャルワーカーやがん相談支援センターでは、休職制度や傷病手当金、時短勤務などの制度について具体的な情報を得ることができます。

Q6: 外見や性生活の悩みは、どこに相談すればいいですか?

外見の変化(脱毛、手術痕、乳房や臓器の切除など)や性生活・妊よう性についての悩みは、とてもプライベートな内容のため相談しづらいものですが、決して「相談してはいけない話題」ではありません。

まずは主治医や担当看護師に、「外見や性のことで相談したいことがあります」と一言伝えてみてください。必要に応じて、精神腫瘍科・心療内科、婦人科・泌尿器科、カウンセラー、リハビリテーション科など、適切な専門職につないでもらえることがあります。また、患者会やピアサポートグループでは、同じ悩みを持つ人の具体的な工夫を聞ける場合もあります。

Q7: 心療内科や精神科に行くと、薬漬けにならないか不安です。

心療内科や精神科では、必ずしも薬だけが治療法ではありません。症状や生活状況に応じて、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を中心に行う場合も多くあります。

抗うつ薬や抗不安薬が必要と判断された場合も、がん治療との相互作用や副作用を考慮しながら、少量から慎重に調整されます。「薬には不安がある」「できれば少なめにしてほしい」といった希望があれば、遠慮せずに医師に伝えてください。治療方針は、医師が一方的に決めるものではなく、患者さんと相談しながら一緒に考えていくものです。

結論:この記事から持ち帰ってほしいこと

がんと診断されたときに感じるショックや不安、怒り、悲しみは、多くの人が経験する自然な反応です。「自分だけが弱い」「こんなことでつらいと言ってはいけない」と自分を責める必要はありません。

一方で、強い不安や落ち込みが長く続き、眠れない・食べられない・何も楽しめない・死についてばかり考えてしまう、といった状態は、うつ病や不安症などのサインであり、治療や支援の対象となる「病気」である可能性があります。早く気づき、専門家に相談することで、症状が軽いうちから手を打つことができます。

また、心の状態は、病気そのものだけでなく、外見や性・妊よう性の変化、仕事やお金、家族関係など、生活全体の影響を受けます。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカー、患者会など、「心」と「生活」の両方をサポートしてくれる資源を活用することも大切です。

あなたが今感じている不安やつらさは、決して一人だけのものではありません。この記事が、自分の心の状態を少し客観的に見つめなおし、「誰かに話してみよう」「この窓口に相談してみよう」という小さな一歩につながれば幸いです。

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