「検査では異常はないと言われたのに、お腹の調子がずっと悪い」「下痢の日と便秘の日をくり返して、トイレから離れられない」「仕事中や電車の中で急にお腹が痛くなるのが怖い」――そんな悩みを抱えながら、誰にも相談できず一人で我慢している方は少なくありません。
こうした症状の背景にある代表的な原因の一つが、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)です。IBSは、炎症や潰瘍などのはっきりした異常が見つからないにもかかわらず、腹痛と便通異常(下痢・便秘・その両方)が長く続く「機能性消化管疾患」の一つとされています12。
世界全体では成人の約5〜10%程度がIBSとされ、日本でも同程度と考えられています15。命に関わる病気ではないとされる一方で、仕事や学業・家事・育児・人間関係など、生活の質(QOL)を大きく下げてしまうことが分かっています。
本記事では、IBSに多い8つのサイン(腹痛、下痢、便秘、下痢と便秘の交代、便の形や回数の変化、お腹の張り、疲労・睡眠の質の低下、不安・抑うつなど)を中心に、原因の考え方、日常生活でできる対策、病院を受診すべきタイミングを、日本および海外の公的機関や専門ガイドラインに基づいて整理します123。
「もしかして自分もIBSかもしれない」と感じている方が、どの症状に注意すべきか、いつどこで誰に相談すべきかを具体的にイメージできるようになることを目指しています。なお、本記事はあくまで一般的な情報であり、個々の診断や治療方針を直接決めるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医師等の医療専門職に相談してください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。厚生労働省や日本の専門学会、世界保健機関(WHO)、各国の公的研究機関が公開している情報、査読付き論文などを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、主に次のような一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・公的研究機関: 厚生労働省eJIMによる過敏性腸症候群(IBS)の解説や補完療法のエビデンスレビューなど、日本人向けに整理された公式情報を優先的に参照しています1。
- 国内外の学会ガイドライン・査読付き論文: 日本消化器病学会による「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群」3、ローマIV基準4、米国国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)など、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています2。
- 海外の公的医療サイト: 英国NHSやMayo Clinicなど、患者向け情報として整備された公的・非営利医療機関の解説を参考にし、日本の医療制度や生活習慣に合うように解説を調整しています67。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
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要点まとめ
- 過敏性腸症候群(IBS)は、検査で大きな異常が見つからなくても、腹痛と下痢・便秘などの便通異常が長く続く機能性消化管疾患で、世界で成人の約5〜10%にみられます125。
- IBSに多い8つのサインとして、①慢性的な腹痛、②頻回の下痢(IBS-D)、③くり返す便秘(IBS-C)、④下痢と便秘の交代(IBS-M)、⑤便の形や回数の変化、⑥お腹の張り・ガス、⑦疲労感や睡眠トラブル、⑧不安や抑うつなどのメンタルの不調があります1267。
- 一方で、体重減少・血便・発熱・夜間も目が覚めるほどの痛みや下痢などがある場合は、IBSではなく炎症性腸疾患やがんなど、より重い病気のサインの可能性があり、早めに医療機関を受診することが重要です689。
- 治療の中心は、生活習慣・食事の見直し、ストレスマネジメント、必要に応じた薬物療法や心理療法の組み合わせで、症状のタイプ(下痢優位・便秘優位・混合型)に応じて方針が変わります237。
- ペパーミントオイルやプロバイオティクスなどの補完療法には一定のエビデンスもありますが、有効性や安全性は限定的であり、特に持病や妊娠中の方は自己判断ではなく医師・薬剤師と相談しながら利用することが勧められます1。
「ストレスのせい」と言われたものの、本当にそれだけなのか分からない。薬を飲めばいいのか、食事を変えればいいのか、どこから手を付ければよいのか迷ってしまう――IBSで悩む多くの方が、同じような不安を抱えています。
本記事ではまず、腸の動きや自律神経の乱れなど、体の中で何が起きているのかを整理し、そのうえで「生活習慣」「栄養・ホルモン・ストレス」「専門的な検査や治療が必要なケース」の3つのレイヤーに分けて解説します。
生活習慣や食事の調整だけで大きく改善する方もいれば、薬や心理療法を組み合わせることで安定する方もいます。Japanese Health(JHO)のトップページでは、他の消化器症状やストレス・睡眠などに関する総合ガイドも公開していますので、必要に応じて行き来しながら、自分に合った情報を探してみてください。
記事を読み進めることで、「自分の症状がIBSの典型パターンに当てはまりそうか」「いつ・どの診療科に相談した方がよいか」「明日から何を試せばいいか」が段階的に整理できるようになるはずです。
第1部:過敏性腸症候群(IBS)の基本と日常生活の見直し
まずは、IBSとはどのような状態か、どんな仕組みで症状が起こるのかを確認し、そのうえで日常生活のなかで悪化させやすい行動や環境を振り返っていきます。いきなり難しい病名を心配する前に、多くの人に当てはまりやすい身近なポイントから整理することで、自分の状態を客観的に振り返りやすくなります。
1.1. IBSの基本的なメカニズムと「脳腸相関」
IBSは、内視鏡検査などで明らかな潰瘍や炎症が見つからないにもかかわらず、腸の動き(蠕動運動)や痛みの感じ方が過敏になっている状態と考えられています12。
最近の研究では、脳と腸が自律神経やホルモン、腸内細菌などを通じて双方向にやり取りしていることが分かっており、これを「脳腸相関」と呼びます。ストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、腸の動きが急に速くなったり、逆に遅くなったりし、IBSの典型的な症状である下痢や便秘、腹痛が現れやすくなります29。
また、腸の中を移動する便やガスに対して、本来なら「少し張る程度」で済む刺激を、IBSの人では強い痛みや不快感として感じやすいことも分かっています。この「痛みの感受性の高さ」と腸の運動の乱れが組み合わさることで、IBS特有の「腹痛と便通の変化」が繰り返し起こるのです13。
1.2. 症状を悪化させやすいNG習慣
英国NHSや各国のガイドラインでは、IBSの悪化に関わりやすい生活習慣として、次のようなものが挙げられています678。
- 不規則な食事:朝食を抜く、夜遅くに大量に食べる、食事時間が日によって大きく違う。
- 高脂肪・刺激の強い食事:揚げ物・こってりした料理・唐辛子の効いた辛い料理など。
- カフェイン・アルコールのとり過ぎ:コーヒー、エナジードリンク、緑茶のがぶ飲み、晩酌の増加など。
- 食物繊維のとり方のアンバランス:急に食物繊維を増やし過ぎる、逆にほとんど摂っていない。
- 睡眠不足・夜更かし・長時間のスマホ:自律神経の乱れを通じて腸の動きを不安定にします。
- 運動不足:腸の動きが鈍くなり、便秘やお腹の張りにつながりやすくなります。
- トイレを我慢する習慣:便意を繰り返し我慢していると、排便リズムが乱れ、残便感や便秘の悪化を招きます。
これらはIBSに限らず、さまざまな消化器症状を悪化させる要因でもあります。まずは「平日と休日の起きる時間・食事時間の差を小さくする」「カフェインの量を少しずつ減らす」など、無理のない範囲から一つずつ見直していくことが大切です。
| 症状・状況 | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 出勤前や電車に乗る前だけ、急にお腹が痛くなりトイレに駆け込むことが多い | ストレスや不安による自律神経の乱れ、下痢型IBSの可能性 |
| 数日間まったく便が出ない日が続いたあと、突然ゆるい便が何度も出る | 便秘型〜混合型IBS、食物繊維バランスや水分不足の影響 |
| 内視鏡検査では「異常なし」と言われたが、腹痛とお腹の張りが何年も続いている | 機能性消化管疾患(IBSなど) |
| 会議や試験の前など、緊張する場面でだけ下痢が起こりやすい | 脳腸相関を介したストレス反応、下痢型IBS |
| 便が細くなったり、コロコロした小さな便ばかりが出る日が多い | 便秘型IBS、食事内容や運動不足による腸の動きの低下 |
1.3. 過敏性腸症候群に多い8つのサイン
IBSに特徴的な症状はいくつかありますが、ここではとくに多くの研究やガイドラインで繰り返し示されている8つのサインを整理します1267。
- 1)慢性的な腹痛・下腹部痛
IBSの診断で最も重要な症状は、繰り返し起こる腹痛です。痛みはおへそのまわり〜下腹部に出ることが多く、「キリキリする」「差し込むような痛み」「重苦しい感じ」など感じ方は人それぞれです。排便のあとに少し楽になることが多いのも特徴です。 - 2)頻回の下痢(下痢優位型:IBS-D)
トイレに行く回数が増え、柔らかい便や水様便が続くタイプです。特に朝の通勤前や人前に出る前にだけ急にお腹がゆるくなるなど、状況と結びついて出ることもあります。NIDDKなどでは、こうした症状があり、検査で他の病気が否定された場合に下痢優位型IBSと分類しています2。 - 3)くり返す便秘(便秘優位型:IBS-C)
反対に、「何日も出ない」「出ても少量で残便感が強い」といった便秘が主体となるタイプもあります。便がコロコロとした硬い小さな塊になったり、排便時に強くいきむ必要があるのが特徴です27。 - 4)下痢と便秘をくり返す(混合型:IBS-M)
数日〜数週間の便秘のあとに下痢が続き、また便秘に戻る…というパターンをくり返す方も少なくありません。「出ない日と出過ぎる日が極端」という方は、この混合型に当てはまる可能性があります12。 - 5)便の形や回数の変化・粘液便・残便感
IBSでは、便の回数だけでなく形や質感が大きく変化します。細い便やコロコロした便、逆にどろどろした便が交互に出ることもあります。また、便に透明〜白っぽい粘液が付着する「粘液便」や、出し切れていない感じ(残便感)が続くこともよく見られます26。 - 6)お腹の張り・ガス・膨満感
少量の食事でもお腹がパンパンに張る、ガスが多くて人前での音やにおいが心配、という悩みもIBSに多い症状です。腸内細菌のバランスや腸の動きの乱れにより、ガスがたまりやすくなると考えられています12。 - 7)疲労感・集中力低下・睡眠の質の悪化
IBSの人は、強い疲労感や日中の集中力低下、不眠・中途覚醒といった睡眠トラブルを抱えていることが多いと報告されています17。夜間に腹痛やガスで目が覚める場合は、生活の質が大きく下がってしまいます。 - 8)不安・抑うつなどのメンタルの不調
IBSと不安障害や抑うつ状態が同時にみられるケースは多く、互いに影響し合って症状を長引かせることが知られています129。お腹の不調が続くことで「またトイレに行きたくなったらどうしよう」と不安になり、その不安がさらに腸の動きを乱す…という悪循環に陥りやすくなります。
これらのサインが3か月以上、ほぼ毎週のように続いている場合は、自己判断で様子を見るよりも、一度医療機関で相談してみる価値があります。次の部では、生活習慣だけでは説明しきれない「体の内側の要因」と、特に女性に多い悩みを整理していきます。
第2部:身体の内部要因 ― 栄養・ホルモン・隠れた不調とIBS
生活習慣を見直してもなかなか症状が落ち着かない場合、背景には栄養バランスの乱れやホルモンバランスの変化、慢性的なストレスや不安など、体の内側の要因が複雑に絡んでいることがあります。ここでは、特にIBSと関連が深いとされるポイントを整理します。
2.1. 【特に女性】ライフステージとホルモンバランス
多くの調査で、IBSは女性に多いことが報告されています12。また、月経周期・妊娠・出産・更年期など、女性特有のライフステージの変化と、IBS症状の変動が重なりやすいことも知られています。
- 月経前〜月経中に腹痛や下痢が悪化する
女性ホルモンの変動により、腸の動きや痛みの感じ方が変わり、IBSの症状が強く出ることがあります。子宮内膜症など、婦人科の病気が隠れているケースもあるため、「生理痛だと思って我慢していたが、実は別の病気だった」ということも少なくありません。 - 妊娠中・産後の便秘や下痢
妊娠中はホルモンの影響や子宮の圧迫で便秘になりやすく、もともとIBSがあった方では症状が悪化することがあります。薬の選択肢が限られるため、必ず産婦人科や主治医と相談したうえで対策を考える必要があります。 - 更年期とストレス・睡眠の問題
更年期にはホットフラッシュや不眠、気分の落ち込みなどが起こりやすく、それに伴ってIBS症状が悪化することもあります。消化器内科だけでなく、婦人科や心療内科と連携しながら総合的にケアしていくことが大切です。
2.2. 栄養バランス・腸内環境とIBS
IBSにおける食事の影響は個人差が大きいものの、近年はFODMAP(発酵性オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオール)と呼ばれる一部の糖質が症状悪化に関わることが注目されています。オーストラリアのMonash大学などは、IBS患者に対する「低FODMAP食」が一部の人で症状の改善に役立つ可能性を報告しています8。
ただし、低FODMAP食は長期に厳格に続けると栄養バランスが偏るリスクもあり、日本消化器病学会のガイドラインでは、専門職の指導のもとで慎重に行うべきとされています3。自己流で極端な制限を行うのではなく、次のような基本から始めることが勧められます。
- 食事時間をなるべく一定にし、1日3食を目安にする。
- 揚げ物や高脂肪の料理を続けて食べないようにする。
- 一度に大量に食べるのではなく、腹八分目を意識する。
- 自分の体に合わないと感じる食材(例:乳製品、小麦、豆類など)がないか食事日誌で確認する。
- 水分は少しずつこまめにとり、甘い清涼飲料水のがぶ飲みは避ける。
また、厚生労働省eJIMでは、ペパーミントオイルやプロバイオティクス(善玉菌サプリメント)がIBS症状の改善に役立つ可能性を示した研究を紹介していますが、そのエビデンスの質は限定的であり、長期的な有効性や安全性については十分に分かっていないとしています1。
特に、消化器疾患や肝障害、免疫力の低下がある方では、これらのサプリメントが合わない場合もあるため、使用前に必ず医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
2.3. ストレス・不安・抑うつとIBS
IBSは、いわゆる「ストレスでお腹が弱い」というレベルを超えて、不安障害や抑うつ状態と密接に関連する慢性疾患であることが、多くの研究で示されています19。
- 就職・転職・部署移動、試験・受験、育児・介護など、大きな環境変化の前後に症状が悪化する。
- 「またトイレに行きたくなったらどうしよう」という不安から、外出や会議、旅行を避けるようになっている。
- お腹の症状だけでなく、「気分が落ち込みがち」「何をしても楽しく感じない」「眠れない」といったメンタルの不調も続いている。
こうした場合は、消化器内科だけでなく、心療内科・精神科・カウンセリングなどと連携し、認知行動療法や腸管指向催眠療法などの心理的アプローチを組み合わせることで症状が改善することがあります19。
「精神的な病気だと言われるのが嫌で受診をためらっている」という声もよく聞かれますが、IBSはあくまで「脳」と「腸」の両方が関わる身体疾患です。「心の問題か、体の問題か」ではなく、「両方からアプローチした方が良くなりやすい病気」ととらえていただくとよいでしょう。
第3部:診断と「IBSではない可能性」を見極めるポイント
ここからは、IBSを診断する際に用いられる「ローマIV基準」と、IBSと症状が似ているものの、より重大な病気のサインである可能性がある「レッドフラッグ(警告症状)」について解説します。自己判断で「IBSだろう」と済ませてしまうと、重い病気を見逃してしまうこともあるため、この部分は特に重要です。
3.1. ローマIV基準によるIBSの診断
現在、世界的に広く使われているIBSの診断基準がローマIV(Rome IV)基準です。Gastroenterology誌に発表された専門家コンセンサスや、その要約に基づく臨床ツールでは、IBSは次のように定義されています234。
- 過去3か月のあいだに、平均して週1日以上の腹痛があり、
- その腹痛が次のうち少なくとも2つ以上に関連している:
- 排便と関連している(排便で痛みが軽くなる、または悪化する)。
- 排便頻度の変化を伴う。
- 便の形・性状の変化を伴う。
- 症状の発症は少なくとも6か月以上前にさかのぼる。
これらの条件を満たし、かつ検査で炎症性腸疾患(IBD)や大腸がん、感染症など、他の器質的疾患が否定されれば、IBSと診断されます。日本消化器病学会のガイドラインでも、ローマIV基準に基づいてIBSの診断やサブタイプ分類(下痢型・便秘型・混合型・分類不能型)を行うことが推奨されています3。
3.2. 見逃してはいけないレッドフラッグ症状
いくら症状がIBSらしく見えても、次のようなレッドフラッグ(警告症状)がある場合は、IBSではなくより重い病気が隠れている可能性が高くなります。英国NHSやMonash大学、StatPearlsなどでは、以下のような症状があれば早急な検査が必要とされています689。
- 原因不明の体重減少が続いている。
- 肛門からの出血がある、黒っぽいタール状の便が出る。
- 強い腹痛や下痢で、夜中に目が覚めることが多い。
- 発熱・寒気・寝汗などの全身症状を伴う。
- 鉄欠乏性貧血を指摘されている。
- 50歳以降になって初めて症状が出てきた。
- 大腸がんや炎症性腸疾患の家族歴がある。
これらに当てはまる場合は、「IBSかどうか」にこだわる前に、まずは重大な疾患を除外することが優先されます。日本では、まずかかりつけ医や消化器内科を受診し、必要に応じて血液検査・便検査・内視鏡検査などを受ける流れが一般的です。
急激な腹痛や大量の血便、立っていられないほどのふらつき・冷や汗などがある場合は、119番に連絡する、救急外来を受診するなど、ためらわずに緊急対応を検討してください。
第4部:今日から始めるIBS改善アクションプラン
IBSは「完全に治す」というより、症状とうまく付き合いながら、生活の質を高めていくことを目標にする病気です。ここでは、今日から始められるセルフケアと、医療機関と相談しながら進める中長期的な対策を、レベル別に整理します238。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 刺激を減らし、腸を休める習慣づくり | 就寝2時間前からスマホ・PCをオフにする/夜遅い時間の大量飲食を避ける/カフェイン・アルコール・辛い料理を控えめにする |
| Level 2:今週から始めること | 食事・生活リズムのパターンを整える | 平日と休日で起床・就寝時間の差を1〜2時間以内にする/食事日誌と排便日誌をつけて、どの食材で症状が悪化しやすいか可視化する |
| Level 3:1か月〜数か月かけて取り組むこと | 医師・管理栄養士・心理職と連携した専門的なケア | 消化器内科で診断・薬物療法を受ける/低FODMAP食などの食事療法を専門職の指導のもとで試す/認知行動療法やストレスマネジメント法を学ぶ |
どのレベルから始めるにしても、「一度にすべて変えようとしない」ことが大切です。IBSの治療では、「ある対策が自分に合うかどうか」を見極めるために、1つずつ試し、1〜2週間単位で変化を観察することが推奨されています28。
例えば、カフェインを減らす・夕食の量を少し減らす・就寝前のスマホ時間を短くする・1日10〜15分だけ散歩をする──こうした小さな積み重ねでも、腸のリズムが安定し、腹痛や下痢・便秘が軽くなる方も多くいます。
第5部:専門家への相談 ― いつ・どこで・どのように?
IBSが疑われる場合、「どのタイミングで」「どの診療科を」「どのような準備をして」受診すればよいのか分からず、そのまま様子を見てしまう方も少なくありません。ここでは、受診の目安と、診察を有効に活用するためのポイントをまとめます。
5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 3か月以上、腹痛と便通異常が続いている。
- 夜間に痛みや下痢で何度も起きてしまう。
- 原因不明の体重減少、貧血、発熱がある。
- 血の混じった便・黒いタール状の便が出る。
- 50歳を過ぎてから初めて症状が出てきた。
- 家族に大腸がんや炎症性腸疾患がいる。
こうした症状がある場合は、「IBSかもしれない」と自己判断する前に、できるだけ早く医療機関を受診してください689。突然の激しい腹痛や大量の出血、意識が遠のくような感じがあるときは、119番通報や救急受診も検討が必要です。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- まず相談しやすいのは「かかりつけ医」や「内科・消化器内科」
長く続く腹痛や便通異常の場合、最初は一般内科や消化器内科を受診するケースが多くなります。必要に応じて大腸内視鏡検査などが検討されます。 - 女性で月経や骨盤内の痛みが強い場合は「婦人科」も候補に
IBSと子宮内膜症などの婦人科疾患は症状が似ていることがあるため、両方を並行してチェックした方がよい場合もあります。 - ストレス・不安・抑うつが強い場合は「心療内科・精神科」
心身双方を扱う心療内科では、IBSを含む機能性消化管疾患に対する心理療法や薬物療法を併用しながら対応している医療機関もあります。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状日誌・排便日誌:いつ・どんな状況で腹痛や下痢・便秘が起きるのか、1〜2週間分メモしておくと診断の助けになります。
- 服用中の薬・サプリのリスト:市販薬やサプリメントも含めてすべて書き出しておきましょう。
- 健康診断結果・これまでの検査結果:既に血液検査や内視鏡検査を受けたことがある場合は、結果を持参すると重複検査を避けられます。
- 医療費のイメージ:日本の公的医療保険(3割負担の場合)では、初診料・血液検査・X線検査などで数千円〜、大腸内視鏡検査を行う場合には1万円を超えることもあります。詳細は受診先の医療機関に確認してください。
不安な点や聞きたいことは、事前にメモしておき、診察の最後に「質問してもよろしいですか?」と一言添えると、限られた時間でもスムーズに相談しやすくなります。
よくある質問
Q1: 過敏性腸症候群(IBS)はがんの原因になりますか?
Q2: IBSは一生治らない病気ですか?
Q3: 市販薬だけで様子を見ても大丈夫ですか?
Q4: ストレスだけがIBSの原因ですか?
Q5: 低FODMAP食は自分で始めてもいいですか?
Q6: ペパーミントオイルやプロバイオティクスは試しても大丈夫?
A6: 厚生労働省eJIMは、腸溶性ペパーミントオイルカプセルや一部のプロバイオティクスがIBS症状の軽減に有用である可能性を示した研究を紹介していますが、エビデンスの質は限定的であり、長期的な有効性や安全性については十分ではないとしています1。また、日本ではペパーミントオイルの経口摂取製剤が一般には流通していないことや、基礎疾患によってはリスクが高まる可能性も指摘されています。必ず医師・薬剤師に相談したうえで使用し、自己判断で大量摂取しないようにしてください。
Q7: 子どもや学生にもIBSは多いですか?
Q8: どれくらい症状が続いたら「受診したほうがいい」のでしょうか?
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
過敏性腸症候群(IBS)は、検査では異常が見つからないことが多いにもかかわらず、腹痛や下痢・便秘、お腹の張り、不安や疲労感など、日常生活に大きな影響を与える病気です。この記事で紹介した8つのサインに心当たりがある方は、「自分が弱いから」「気のせいだから」と責める必要はありません。
一方で、体重減少・血便・発熱・夜間の強い症状などのレッドフラッグがある場合は、IBSではなく別の疾患が隠れている可能性があるため、早急な受診が重要です。迷ったときは、「IBSかどうか」を自分で決めるのではなく、「今の症状が安全かどうか」を医師と一緒に考えていきましょう。
生活習慣・食事・ストレスマネジメント・薬物療法・心理療法など、IBSと付き合うための選択肢は決して一つではありません。今日できる小さな一歩(睡眠の見直し、食事日誌の開始、信頼できる医療者への相談など)から始めることで、少しずつ「お腹の不調に振り回されない毎日」に近づいていくことができます。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、厚生労働省eJIM、日本消化器病学会の診療ガイドライン、米国NIDDK、英国NHS、Mayo Clinic、Monash大学などの情報を主な根拠として用いました1236789。
本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
記事内容に誤りや古い情報が含まれている可能性にお気づきの場合は、お手数ですが 運営者情報ページ 記載の連絡先までお知らせください。事実関係を確認のうえ、必要な訂正・更新を行います。
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