「ほかの子と少し違う気がする」「名前を呼んでも振り向かない」「言葉がなかなか出てこない」——。お子さんの様子が気になっていても、誰に相談すればよいのか分からず、一人で抱え込んでしまう保護者の方は少なくありません。
自閉スペクトラム症(ASD)は、脳の発達の特性により、社会的なコミュニケーションや行動のパターンに独特な特徴があらわれる神経発達症です。世界保健機関(WHO)は、全世界の子どもの約100人に1人がASDとみられると報告しており1、日本の調査でもおおよそ100人に1人の割合とされています2。
ASDの特徴は、乳幼児期から見られることが多い一方で、サインが分かりにくく、「様子を見ましょう」と言われているうちに診断や支援が遅れてしまうケースもあります。早期に気づき、適切な支援につなげることで、お子さんの力を伸ばしやすくなることが、多くの研究やガイドラインで示されています3,4,11。
この記事では、世界保健機関(WHO)、厚生労働省、日本の専門学会、米国CDCなどの信頼できる情報をもとに1–4,8,10–12、子どもの自閉スペクトラム症について「原因」「サイン」「診断」「治療・支援」「家庭でできること」まで、日本で子育てをする保護者の方の目線で詳しく解説します。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、世界保健機関(WHO)、厚生労働省、一般社団法人小児心身医学会、日本小児神経学会、米国疾病予防管理センター(CDC)、国立精神衛生研究所(NIMH)などの一次情報源1–4,8,10–12に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:自閉症Q&A、発達障害に関するeラーニング資料、補完代替療法に関する情報など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています0,8,12。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:一般社団法人小児心身医学会、日本小児神経学会、WHO、NIMH、米国CDC、Mayo Clinicなど、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています1–4,9–12,14,15。
- 教育機関・医療機関による一次資料:自閉スペクトラム症の診断基準や症状、支援方法の説明として利用します9,13。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。
要点まとめ
- 自閉スペクトラム症(ASD)は、生まれつきの脳の働き方の違いによる神経発達症であり、社会的コミュニケーションの困難さと、興味や行動の強いこだわりなどが特徴です1,2,8,13。
- 世界全体で約100人に1人、日本でも約100人に1人がASDと診断されると報告されており1,2、男の子に多い(男女比はおおよそ4:1)とされています2,6。
- 原因は一つではなく、遺伝的要因が大きく関わり(遺伝要因の影響度はきわめて高いと報告)、そこに周産期の状態や環境要因が複雑に影響すると考えられています2,10,12,15。
- 乳幼児期から、目が合いにくい、名前を呼んでも振り向かない、指さしが少ない、同じ遊びを繰り返すなどのサインが見られることがあり3,4,9,13、「なんとなく気になる」時点で早めに相談することが大切です。
- ASDそのものを「完全に治す薬」はありませんが、行動療法、言語療法、作業療法などの支援を早期から継続することで、コミュニケーション能力や生活スキルは大きく伸び得ることが示されています3,4,9–11,14。
- 発達の特性だけでなく、てんかん、注意欠如多動症(ADHD)、不安やうつ、睡眠や消化器のトラブルなどを併せ持つ子どもも多いため9,11,14,15、総合的な評価と支援が必要です。
- 保護者が「正しい情報を知り、早めに相談し、家庭・保育園・学校・医療・福祉がチームとして支える」ことで、お子さんと家族の生活の質(QOL)を大きく高めることができます。
「この行動は性格なのか、発達の特性なのか」「診断を受けるとこの先どうなるのか」——不安は尽きませんが、ASDは世界中で研究が進んでいる分野であり、日本国内にも多くの支援の仕組みがあります1–4,8,10–12,14。
この記事では、まずASDとは何かという基本から整理し、そのうえで年齢ごとに気づきやすいサイン、医療機関での診断の流れ、主な治療・支援方法を段階的に解説していきます。さらに、家庭でできるかかわり方や、保育園・学校との連携、相談窓口の利用の仕方についても触れます。
また、「将来自立できるのか」「学校はどう選べばよいのか」「眠れない・食べないときどうするか」など、保護者の方が抱きやすい具体的な疑問にもQ&A形式でお答えします。
この記事を読み進めることで、「今のお子さんの状態をどう理解し、いつ・どこで・誰に相談すべきか」を具体的にイメージできるようになることを目指します。
第1部:自閉スペクトラム症とは?— 基本的な考え方と子どもの日常で見えるサイン
まずは、自閉スペクトラム症(ASD)がどのような状態を指すのか、そして乳幼児期〜学齢期にどのようなサインが見られやすいのかを整理します。ここで紹介するのはあくまで「よくみられる傾向」であり、当てはまるからといって必ずASDというわけではありません。気になる点があれば、医療機関や発達相談窓口で専門家に相談するきっかけにしてください。
1.1. 自閉スペクトラム症の基本的なメカニズムと定義
WHOは、自閉スペクトラム症(ASD)を「脳の発達に関連する多様な状態のグループ」であり、社会的な交流やコミュニケーションの困難さ、行動や興味のパターンの違いなどで特徴づけられると定義しています1。日本の小児心身医学会も、「社会的コミュニケーションの障害」と「興味や行動への強いこだわり」を主な特徴とする神経発達症と説明しています2。
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、「コミュニケーション・対人関係の問題」と「興味の限局やこだわり、常同行動」が両方とも存在することがASDの診断の前提とされています13。幼児期に見られやすい具体例として、日本小児神経学会は以下のような特徴を挙げています13。
- 指さしが少ない、あるいはない
- 視線が合いにくい
- 言葉の発達が遅れる
- 表情が乏しい
- ほかの子どもとうまく関われない
- 興味の対象が他の子どもと大きく異なる(例:車のタイヤばかり回して見る など)
- 強いこだわりが目立つ(物の並べ方、ルーティンなど)
厚生労働省の資料では、自閉症は生まれつきの障害であり、「完全に治る」というよりは、生まれつきの脳の特性に応じて、周囲の理解と支援を通じて生活しやすさを高めていくことが大切と説明されています8。これは、ASDを「病気だから治す」というより、「脳の多様性の一つとして理解し、その人が力を発揮できる環境を整える」という考え方に近いものです。
1.2. 子どもの「NG習慣」ではなく、「特性」として理解する
ASDのある子どもの行動は、周りから見ると「わがまま」「頑固」「空気が読めない」などと誤解されがちです。しかし、厚生労働省が発達障害の特性として紹介しているように12、本人にとっては次のような「感じ方・考え方の違い」が背景にあることが多くあります。
- 人の表情や態度よりも、文字や図形、物そのものに強く興味が向きやすい
- 先の見通しが立たない状況が特に不安で、逆に見通しが立てばきっちり行動できる
- 音・光・匂い・肌触りなど、感覚刺激に非常に敏感だったり、その逆に鈍かったりする
- 決まった順番ややり方が変わると、強い不安や怒りとしてあらわれる
こうした特性を「NG習慣」として直そうとするだけでは、お子さん自身が「自分はダメな子だ」と感じてしまい、自己肯定感を損なうおそれがあります。まずは「脳の感じ方の違い」によって起きている行動であることを理解し、環境調整やコミュニケーションの工夫を通じて、「少しでもラクに、安心して過ごせる」状態を一緒に見つけていく姿勢が大切です8,12。
| お子さんの様子・行動 | 考えられる背景・相談の目安 |
|---|---|
| 生後9〜12か月頃になっても、名前を呼んでも振り向かないことが多い | 聴力の問題、ASDを含む発達の特性などが隠れている可能性。乳幼児健診や小児科で相談を。 |
| 1歳半を過ぎても、「バイバイ」「ちょうだい」などのジェスチャーや指さしがほとんど見られない | 社会的なコミュニケーションのサインが出にくい状態かもしれません。自治体の発達相談や小児神経科などへの相談を検討。 |
| 2〜3歳になっても言葉がほとんど出ず、身振りや声のトーンで気持ちを伝えることが少ない | 言葉の遅れだけでなく、コミュニケーションそのものが苦手な可能性。言語聴覚士による評価や発達外来受診の目安。 |
| 同じ遊びや動作(物を並べる・くるくる回すなど)を長時間くり返し、話しかけても反応が乏しい | 興味の範囲が限局している、感覚刺激への強いこだわりのサインかもしれません。繰り返し続くときは専門家へ。 |
| 保育園・幼稚園で、集団活動に入れず一人で過ごしていることが多いと指摘された | 集団が苦手な性格の場合もありますが、対人関係のスキルに課題があるケースも。園と連携しながら発達相談を検討。 |
第2部:原因はなに?— 遺伝・脳の発達・周産期の状態と環境要因
「なぜうちの子が自閉スペクトラム症なのか」「自分の子育てのせいではないか」と自分を責めてしまう保護者の方は少なくありません。しかし、現在までの研究では、ASDの主な要因は育て方ではなく、生まれつきの脳の発達や遺伝的な要因であることが繰り返し示されています1,2,10,12,15。
2.1. 遺伝的要因と脳の発達
一般社団法人小児心身医学会は、ASDにおける遺伝要因の影響度は約90%と非常に高く、遺伝的な要因が関与して起こると考えられると説明しています2。つまり、「親のせい」「しつけの問題」というより、「生まれつきの脳の働き方の違い」がベースにあるということです。
WHOやNIMHも、ASDの原因は複雑であり、複数の遺伝子が関与すること、脳の特定のネットワークの働き方が異なることなどが報告されていますが、単一の原因で説明できるわけではないとしています1,10,14。
また、兄弟姉妹にASDがいる場合、そうでない家庭に比べてASDの発症リスクが高くなることも、複数の疫学研究で示されています10,14,15。こうしたことから、家族内で似た特性が見られることも珍しくありません。
2.2. 周産期の状態・環境要因との関わり
ASDのリスクに関する研究では、以下のような周産期の要因や環境要因との関連が示唆されていますが、どれも「これだけでASDになる」というものではありません10,14,15。
- 早産・低出生体重
- 分娩時の仮死や重い低酸素状態
- 妊娠中の感染症や、重い合併症
- 高齢出産(父母いずれか、あるいは両方が高齢)
これらはあくまで統計的な「リスク増加要因」であり、当てはまるからといって必ずASDになるわけではなく、逆に当てはまらなくてもASDのお子さんはいます10,14,15。一つひとつの要因を「悪いもの」と決めつけるのではなく、「いろいろな要因が重なって起こる可能性がある」と理解しておくことが大切です。
2.3. ワクチンとの関係について
過去には「予防接種が自閉症の原因ではないか」という説が取りざたされたこともありますが、WHOや多くの国際的な研究機関は、MMRワクチンなどとASDとの因果関係を示す信頼できる証拠は見つかっていないと繰り返し報告してきました1,10,14,15。大規模な疫学研究でも、ワクチン接種とASD発症率の間に有意な関連はみられなかったとされています10,14,15。
インターネット上にはさまざまな情報がありますが、ワクチンは命を守る重要な医療行為であり、接種の可否について不安がある場合は、かかりつけ医や小児科専門医に直接相談することが大切です。
2.4. 併存症(合併しやすい状態)
ASDのお子さんは、ASD以外にもさまざまな身体・精神の状態を併せ持つことが少なくありません。MSDマニュアルやNIMHなどは、以下のような併存症がよく見られると報告しています9,11,14,15。
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 不安症やうつなどの気分の問題
- てんかん・けいれん発作
- 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に何度も起きる など)
- 消化器症状(便秘、下痢、腹痛など)
- 知的発達症(知的障害)
これらがあると、「眠れないから日中さらに不機嫌になり、こだわりが強く見える」「てんかん発作で一時的に発達が後退したように見える」など、ASDの症状と重なって見えることもあります。ASDの評価では、こうした併存症も含めて総合的に診ることが重要です9,11,14,15。
第3部:診断と評価 — どのようにして自閉スペクトラム症と分かるのか
「発達検査」「発達外来」「小児精神科」などの言葉を聞くと、「レッテルを貼られてしまうのでは」と不安になる方もいるかもしれません。しかし、WHOやCDCは、ASDを含む発達の特性について早期に評価し、必要な支援をスタートすることが、お子さんと家族の将来のQOLを高めるうえで非常に重要だと強調しています1,3,4,11,14。
3.1. 診断の基本:観察と保護者からの聞き取り
ASDには血液検査や画像検査など「一発で診断がつく検査」はありません。診断は、以下のような情報を総合して行われます3,4,9,11,13。
- 保護者からの聞き取り:発語の時期、目線の合い方、遊び方、こだわり、乳児期からの様子など
- 医師・心理士による行動観察:遊びや対人関係の様子、コミュニケーションのスタイルなど
- 標準化された発達検査・心理検査:知的発達、言語発達、社会性の発達などを評価
- 必要に応じて、聴力検査や脳波検査、画像検査など(てんかんや他の疾患が疑われる場合など)
CDCは、1歳〜2歳頃の健診でASDのスクリーニングを行い、必要に応じて専門家へ紹介することを推奨しています3,4,11。日本でも、1歳半健診・3歳健診などで発達のチェックが行われており、気になる点があれば「要観察」や「専門機関への紹介」となることがあります5,13。
3.2. 診断基準(DSM-5など)
ASDの診断には、DSM-5など国際的な診断基準が用いられます。日本小児神経学会は、DSM-5によるASDの診断基準を次のようにまとめています13。
- コミュニケーションの問題・対人関係の問題(表情・ジェスチャー・会話のやりとり・対人関係の築き方など)
- 興味の限局、こだわり、常同行動(同じ動作の繰り返し、特定の物への強いこだわり、ルーティンの変化への強い不安など)
これらの特徴が幼児期から存在し、家庭・保育園・学校など複数の場面で生活に支障が出ていること、ほかの疾患では説明しきれないことなどが確認されることで、ASDという診断がつけられます9,13。
3.3. 早期発見の重要性と「見逃されやすいサイン」
CDCは、ASDのサインとして、生後数か月〜1歳頃から以下のような特徴が見られることがあると紹介しています3,4,7。
- 生後6か月を過ぎても、笑顔や楽しい表情がほとんど見られない
- 生後9か月を過ぎても、名前を呼んだときに振り向かない、反応が乏しい
- 生後12か月頃になっても、指さしや「バイバイ」などのジェスチャーがほとんどない
- 生後16か月頃になっても、意味のある単語が出ない
- 24か月頃になっても、2語文(「ママ きて」など)が出ず、同じ言葉をオウム返しするだけ
ただし、言葉の遅れだけでASDとは限らず、聴力の問題や、単純に個人差の場合もあります。一方で、「言葉は出ているが、会話のキャッチボールが極端に難しい」「視線が合いにくく、周りの人への関心が薄い」といった場合は、言葉の遅れがなくてもASDの可能性があるため、注意が必要です3,4,9,13。
3.4. 診断後に得られる支援(日本の例)
日本では、ASDなどの発達障害と診断されると、自治体や医療機関、福祉機関を通じて次のような支援につながることがあります。
- 発達支援センターや児童発達支援事業所での個別・集団療育
- 言語聴覚士・作業療法士・理学療法士などによる専門的支援
- 特別支援学校・特別支援学級・通級指導教室など教育面での支援
- 障害者手帳や福祉サービス(通所支援、ヘルパー利用など)の利用
自治体によって制度や窓口は異なるため、お住まいの市区町村の福祉課・子ども家庭支援センター・発達相談窓口に問い合わせると、お子さんに合った支援の情報が得られます。
第4部:今日からできる家庭での支援と療育のポイント
ASDのお子さんを育てるうえで、保護者ができることは決して「特別な訓練」だけではありません。WHOやCDC、国内の資料は、日常生活の中での小さな工夫が、子どもの安心感やコミュニケーションの伸びにつながるとしています1,3,4,8,9,11,12,14。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今日からできる「安心の土台づくり」 | 見通しを伝え、安心できる環境を整える | 1日の流れを絵カードや簡単な表にして視覚的に示す/急な予定変更があるときは事前に繰り返し伝える など |
| Level 2:ことばと非言語コミュニケーションを増やす | 子どもの興味に合わせて「ことば掛け」を増やす | 子どもが好きなおもちゃや動画の話題から、「◯◯が好きなんだね」「◯◯が回っているね」など、今起きていることを言葉にして共有する |
| Level 3:専門家と連携したトレーニング | 療育・言語療法・作業療法などと家庭をつなげる | 療育で教わったかかわり方(アイコンタクトを促す遊びなど)を家庭でも短時間ずつ取り入れる/できたことを具体的にほめる |
| Level 4:長期的な進路・自立に向けた準備 | 得意・不得意を一緒に整理する | 「集中しやすいこと」「疲れやすいこと」を家族で話し合い、学校の先生や支援者と共有する/将来の仕事や生活のイメージを少しずつ一緒に描いていく |
4.1. コミュニケーションを増やすコツ
ASDの子どもは、自分から言葉を発したり、人に働きかけたりすることが難しい場合があります。CDCやNIMHは、以下のような工夫がコミュニケーションのきっかけづくりに役立つと紹介しています3,4,11,14。
- 子どもの「好き」に合わせる:電車が好きなら電車の絵本を一緒に見て、「これは何色?」「どこに行くのかな?」と会話を広げる
- 短く、はっきり伝える:「着替えなさい」ではなく、「今は着替える時間です」「パジャマから服に着替えよう」など具体的に
- 言葉だけでなくジェスチャーも活用:指さしや身振り、絵カード、写真など、視覚的な情報を組み合わせる
- 「できたところ」を見つけてほめる:「ちゃんとできなかった」部分より、少しでもできた部分を具体的にほめる(例:「玄関まで自分で靴を持って来られたね」)
4.2. 補完代替療法・食事療法との付き合い方
ASDの子どもの症状を少しでも和らげたいと願って、特別なサプリメントや食事療法など、いわゆる「補完代替療法」に関心を持つ保護者も少なくありません。厚生労働省のeJIM(統合医療情報サイト)は、ASDの子どもへの補完療法について、「行動療法や理学療法などの通常のケアに加えて試されることがあるが、科学的な有効性や安全性については慎重に評価する必要がある」と注意喚起しています0。
例えば、カゼインやグルテンを除去する食事療法については、一部の研究で行動の改善が報告されているものの、サンプルサイズが小さく、効果が限定的であったり、栄養バランスの問題が懸念されるといった指摘もあります0,10,14,15。自己判断で極端な食事制限を行うと、お子さんの成長に必要な栄養が不足する可能性があるため、「やってはいけない」というより、必ず専門家(小児科医・栄養士など)と相談しながら検討することが重要です。
4.3. 保護者自身のケアも大切に
ASDの子育ては、日々の細かな配慮や調整が必要となり、保護者の心身の負担が大きくなりがちです。NIMHやWHOは、ASDのある子どもを持つ家族のストレスやうつ・不安のリスクが高いことも指摘しており1,10,14、保護者自身のケアも非常に重要としています。
- 一人で抱え込まず、家族・友人・支援団体などと気持ちを共有する
- 「完璧な親でなければ」と思い過ぎない(「今日はここまでできれば十分」と区切る)
- 自治体の家族会やオンラインコミュニティなど、同じ立場の人とつながる
- 必要であれば、保護者自身もカウンセリングや心療内科のサポートを受ける
第5部:いつ・どこで・どのように相談すべき?— 受診の目安と日本での支援ルート
「様子を見たほうがいいのか、もう受診したほうがいいのか」——迷う方も多いポイントです。CDCや国内のガイドラインを参考に、受診の目安を整理してみましょう3,4,5,9,11,13。
5.1. すぐに相談・受診を検討すべきサイン
- 生後1歳前後になっても、ほとんど笑わない・表情が乏しい状態が続いている
- 1歳3〜4か月頃になっても、名前を呼んでもほとんど振り向かない
- 1歳半を過ぎても、指さしや「バイバイ」「ちょうだい」などのジェスチャーがほとんど見られない
- 2歳を過ぎても単語がほとんど出ず、身振りや声でのやり取りも少ない
- 何度も頭を打ちつける、自傷行為が見られるなど、危険な行動が続いている
- けいれん発作がある、急に今までできていたことができなくなった など
これらのサインがある場合、早めに小児科・小児神経科・発達外来などに相談することが勧められます3,4,9,11,13。緊急性が高い場合(意識がない、けいれんが止まらない、重いケガなど)は、ためらわずに119番通報を行ってください。
5.2. 症状に応じた診療科・相談先の選び方
- まず相談しやすい窓口:かかりつけ小児科、自治体の乳幼児健診、子ども家庭支援センター、保健センターなど
- より専門的な評価が必要な場合:小児神経科、小児精神科、児童精神科、発達外来を持つ大きめの病院や専門機関
- 日常生活・学校生活での支援:児童発達支援センター、発達支援事業所、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなど
いきなりどこに行けばよいか分からないときは、まずかかりつけ小児科や自治体の保健師に相談し、必要に応じて専門機関を紹介してもらう流れが現実的です。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 乳幼児健診の結果、母子健康手帳
- 日々の様子をメモしたノート(気になる行動が起こるタイミング、頻度、きっかけなど)
- 動画(家での遊びや、気になる行動の様子を撮影したもの)
- これまで受けた検査結果や、他院からの紹介状
診察・検査費用は保険診療の対象となることが多く、3割負担の場合でも数千円〜1万円前後であることが一般的ですが、医療機関や検査内容・自治体の助成制度によって幅があります。事前に医療機関のホームページや電話で確認しておくと安心です。
よくある質問
Q1: 自閉スペクトラム症の子どもは、赤ちゃんのときからどんなサインが出ますか?
A1: 生後数か月〜1歳頃から、「目が合いにくい」「あまり笑わない」「名前を呼んでも振り向かない」「指さしやバイバイがほとんどない」といったサインが見られることがあります3,4,7,9,13。ただし、これらはあくまで「よく見られる傾向」であり、1つ当てはまるからといって必ずASDというわけではありません。
一方で、こうしたサインが複数あり、「なんとなく育てにくい」「目が合わない感じが続いている」など保護者の直感的な不安がある場合は、乳幼児健診の場や小児科で遠慮なく相談してください。早めの相談は、お子さんにとっても、ご家族にとっても、支援につながる第一歩になります1,3,4,11,14。
Q2: 2〜3歳で言葉が遅れているとき、「様子を見て」いいのか、すぐ相談したほうがいいのか迷います。
A2: 言葉の発達には個人差があり、「単語が出るのが少し遅かったが、その後順調に伸びた」というお子さんも少なくありません。一方で、CDCや日本小児神経学会は、言葉の遅れに加えて「指さしがほとんどない」「他の子どもにあまり関心を示さない」「視線が合いにくい」など複数のサインがある場合には、早めに専門家に相談することを勧めています3,4,9,13。
特に、2歳を過ぎても単語がほとんど出ない、もしくは「オウム返し」ばかりでコミュニケーションになっていない場合や、3歳になっても保育園・幼稚園での集団活動にほとんど参加できない場合は、一度発達外来や言語聴覚士のいる医療機関に相談すると安心です3,4,11,14。
Q3: 自閉スペクトラム症は治りますか?「脳を治す」ことはできるのでしょうか。
A3: 厚生労働省の自閉症Q&Aでは、「自閉症は生まれつきの障害で、完全に治ることはありません」と説明されています8。つまり、「治す」というより、「脳の特性を前提に、その子が生活しやすく、力を発揮しやすい環境とスキルを身につけていく」というイメージに近いと考えられます。
ただし、これは「一生変わらない」という意味ではありません。WHOやNIMHは、早期から行動療法や言語療法、作業療法などを継続することで、多くの子どもでコミュニケーション能力や日常生活スキルが大きく向上し、ASDの特徴が目立ちにくくなるケースもあると報告しています1,10,14。
脳の働きそのものを「元に戻す」というより、脳の可塑性(変化し続ける性質)を活かして、新しいスキルや対処法を身につけていくイメージで捉えるとよいでしょう。
Q4: 自閉スペクトラム症の子どもは、学校はどうしたらいいですか?普通級と特別支援、どちらを選ぶべきでしょうか。
A4: 学校選びに「これが正解」という唯一の答えはありません。お子さんの得意・不得意、感覚の特性、集団での過ごしやすさなどに応じて、「どの環境なら最も力を発揮しやすいか」を軸に考えることが大切です。
日本では、通常学級のほかに、特別支援学級や特別支援学校、通級による指導など、さまざまな選択肢があります。学校の見学や体験入学、教育委員会や特別支援教育コーディネーターへの相談を通じて、お子さんに合った環境を一緒に考えていくことが勧められます。
また、環境は一度決めたら変えられないわけではありません。進学や学年の切り替わりのタイミングで、改めて状況を見直し、必要に応じて変更を検討することも可能です。迷うときは、医療機関の主治医や療育スタッフ、スクールカウンセラーなどと一緒に整理してみましょう。
Q5: 将来自立できますか?寿命や健康面が心配です。
A5: ASDのある人の将来は本当にさまざまで、「一人暮らしをしながら仕事をしている人」「家族や支援スタッフのサポートを受けながら暮らしている人」など、多様な生活スタイルがあります。WHOやNIMHは、ASDの重症度や併存症の有無、支援の有無によって、自立度やQOLが大きく異なるとしています1,10,14。
一般的な統計では、ASDのある人の平均寿命がやや短いことを示す研究もありますが、その理由の多くはてんかんの合併や事故、メンタルヘルスの問題など、適切な支援があればリスクを減らせる要因が含まれています9,14,15。
早期からの支援や、思春期・成人期も含めた継続的なサポートにより、多くの人が自分らしい生活を送れる可能性があります。将来を考えると不安になりますが、「今できる一歩(安心できる環境づくり・コミュニケーションの練習・好きなことを伸ばす)」に目を向けることが、遠回りのようでいて大切な土台になります。
Q6: 自閉スペクトラム症と「ただの人見知り」や「性格の問題」はどう見分ければいいですか?
A6: 人見知りや内向的な性格も、社会的な場面での緊張や距離の取り方に影響しますが、ASDとは少し性質が異なります。ASDでは、DSM-5の診断基準が示すように、「相手の表情やジェスチャーが読み取りにくい」「会話のキャッチボールそのものが難しい」「興味の範囲が極端に偏っている」「同じパターンの行動をくり返さずにはいられない」など、より広い範囲でのコミュニケーション・行動の特性が見られることが多いです9,13。
また、「性格」であれば状況によって柔軟に変えられることも多いですが、ASDでは環境や関係性が変わっても、特性が比較的一貫して見られるのが特徴です。「人見知りにしては少し極端な気がする」「好きなことに没頭しすぎて日常生活に支障が出ている」など不安がある場合は、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。
Q7: 睡眠トラブルや偏食は、自閉スペクトラム症と関係がありますか?
A7: ASDのあるお子さんは、睡眠と食事に関するトラブルを抱えやすいことが、複数の研究で報告されています9,11,14,15。寝つきに時間がかかる、夜中に何度も目を覚ます、早朝に起きてしまうなどの睡眠障害や、特定の食感・色・匂いに強いこだわりがある偏食などが代表的です。
これらは、感覚の過敏さや脳の覚醒リズムの違いなどが関係していると考えられていますが9,12,14,15、対応方法は原因や状況によって異なります。環境調整(寝る前のルーティンを決める、部屋を暗く静かにするなど)だけでは改善しない場合、睡眠障害外来や小児精神科などで相談し、必要に応じて薬物療法や専門的な睡眠指導を受けることが検討されます。
Q8: 特別なサプリや「脳に良い食品」で自閉スペクトラム症を改善できるという話を聞きました。本当でしょうか。
A8: 厚生労働省の統合医療情報サイト(eJIM)は、ASDの補完代替療法について、「通常の医療ケアに加えて利用されることがあるが、治療効果や安全性について十分な科学的根拠があるとは限らない」と注意喚起しています0。特定のサプリメントや食品がASDそのものを治すといった表現には注意が必要です。
もちろん、栄養バランスの良い食事や適切なビタミン・ミネラルの摂取は、ASDに限らず子どもの健康にとって大切です。しかし、「これを飲めば治る」「これさえ食べさせれば大丈夫」といった宣伝は、科学的根拠が不十分なことが多く、経済的な負担が大きくなったり、必要な治療や支援から遠ざかってしまうリスクもあります0,10,14,15。
気になるサプリや食事療法がある場合は、自己判断で始める前に、小児科医や栄養士などの専門家に相談することをおすすめします。
Q9: 自閉スペクトラム症と「うつ病」や「適応障害」との違いは何ですか?
A9: ASDは、主に幼少期から見られる「脳の発達の特性」による神経発達症であり、社会的コミュニケーションと行動・興味のパターンに関する特性が中心です1,2,9,13。一方、うつ病や適応障害は、ストレスや環境変化などをきっかけに、「気分の落ち込み」「興味や喜びの喪失」「意欲の低下」などが続く気分障害(感情の障害)に分類されます10,14,15。
ASDのある人は、学校や職場でのストレス、人間関係の難しさなどから、二次的にうつ病や不安症を併発することもあります9,10,14。そのため、「発達の特性」と「気分の問題」を分けて考え、それぞれに合った支援や治療を組み合わせることが大切です。
Q10: 親として、今一番大切にしたほうがいいことは何でしょうか。
A10: まず何よりも、「お子さんの特性は、親のせいでも、お子さんのせいでもない」ということを知っていただきたいです。WHOや国内の専門家は、ASDを「脳の発達の多様性の一つ」と捉え、生まれ持った特性を前提に、その人が暮らしやすい環境とサポートを整えることの重要性を強調しています1,2,8,10–12,14。
そのうえで、次の3つを意識してみてください。
- 「困っている行動」の裏側にある「困っている気持ち」に目を向ける
- お子さんの「好き」「得意」を見つけて、それを伸ばす時間を意識的に作る
- 親自身も一人で抱え込まず、専門家や支援者、同じ立場の保護者とつながる
完璧な親である必要はありません。「今日はこれができた」「ここまで頑張れた」という小さな一歩の積み重ねが、長い目で見れば大きな変化につながっていきます。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
自閉スペクトラム症(ASD)は、生まれつきの脳の働き方の違いによって、社会的なコミュニケーションや行動のパターンに特有の特徴があらわれる神経発達症です。世界で見ても、日本で見ても決して珍しい状態ではなく、多くの人がASDの特性を持ちながら、さまざまな形で生活しています1,2,6,10,11,14。
ASDそのものを「完全に治す薬」はありませんが、早期からの療育や言語・作業療法、学校や地域の支援を組み合わせることで、お子さんのコミュニケーション能力や生活スキルを伸ばし、家族全体の生活の質を高めることができます1,3,4,9–11,14。
「育て方のせいではない」「一人で抱え込まなくてよい」。この2点を、ぜひ心のどこかに置いておいてください。そして、「気になるサインがある」「少しでも不安がある」と感じたときは、乳幼児健診やかかりつけ小児科、自治体の相談窓口などに、遠慮なく声をかけてみてください。それが、お子さんとご家族にとっての、支援への大切な第一歩になります。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、世界保健機関(WHO)、厚生労働省、日本の専門学会(一般社団法人小児心身医学会・日本小児神経学会など)、米国疾病予防管理センター(CDC)、国立精神衛生研究所(NIMH)などの一次情報を中心に参照しました1–4,8–15。
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参考文献
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