「白血病(はっけつびょう)」や「血液のがん」「血のがん」と聞くと、命に関わる病気というイメージから、強い不安や恐怖を感じる方も多いのではないでしょうか。 健康診断で血液の数値を指摘されたり、原因不明の発熱やあざが続いたり、子どもの体調不良が長引いたりすると、「もしかして白血病では?」と頭をよぎることもあります。
白血病は、血液をつくる「骨髄(こつずい)」で異常な細胞が増えてしまう病気で、日本では毎年およそ1万4千人前後が新たに診断されています1。 小児がんの中では最も多い病気の一つであり、高齢になるほど増えるタイプもあります1。
一方で、近年は多剤併用化学療法や分子標的薬、造血幹細胞移植など治療法が大きく進歩し、とくに小児の急性リンパ性白血病や、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による慢性骨髄性白血病(CML)などでは、長期にわたり日常生活を続けられる方も増えてきました23。
本記事では、厚生労働省や国立がん研究センター、がん情報サービス、日本血液学会などの公的情報源や診療ガイドラインをもとに、白血病の基礎知識から症状、検査・診断、治療の流れ、仕事や学校生活・妊娠・お金のことまでを、日本に暮らす方の視点で丁寧に整理します124。
「今の症状が白血病なのか知りたい」「検査や治療がどのくらい大変なのか不安」「仕事や学校、家族の生活はどうなるのか心配」という方が、ご自身やご家族の状況を少しでも整理しやすくなることを目指しています。 気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職に相談してください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、以下のような一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:e-ヘルスネット、各種がん統計、「がん情報サービス(白血病ページ)」など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています1。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン」や日本小児血液・がん学会のガイドライン、米国National Cancer Institute(NCI)のPDQ、CMLレジストリ研究など、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています2345。
- 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:国立成育医療研究センターの小児白血病解説ページなどを、病気の背景説明や日本の医療制度に関する実務的な情報として利用します6。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
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要点まとめ
- 白血病は「血液のがん」であり、急性型(AML・ALL)と慢性型(CML・CLL)に大きく分けられます。症状の出方や進行の速さが大きく異なります12。
- 典型的な症状は、貧血によるだるさや息切れ、あざ・鼻血などの出血傾向、発熱や感染の繰り返し、体重減少などです。ただし、慢性白血病では無症状で検診で見つかることもあります14。
- 診断には、血液検査だけでなく、骨髄検査、免疫学的検査、染色体・遺伝子検査などが重要です。これらの結果をもとに、病型やリスクに応じた治療方針が決まります2。
- 治療は、化学療法、分子標的薬、免疫療法、造血幹細胞移植などを組み合わせて行います。年齢や全身状態、小児か成人かによって標準治療が異なります245。
- 日本では、公的医療保険や高額療養費制度、小児慢性特定疾病、指定難病、障害年金など、治療費や生活を支える制度も整備されています。早めに相談窓口にアクセスすることが大切です。
- 仕事や学校生活、妊娠・出産、家族関係、こころの健康にも大きな影響があり、一人で抱え込まず、医療チームや相談支援センター、患者会などのサポートを活用することが重要です。
「自分や家族の症状が白血病かもしれない」「検査を勧められたけれど、何をされるのか分からなくて怖い」「治る可能性や今後の生活がどうなるのか知りたい」──そんな不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、まず白血病という病気の全体像と、日常生活の中で気づきやすいサインを整理します。次に、血液や骨髄で何が起きているのか、どのような検査で調べるのかを、専門用語をかみ砕きながら解説します。
そのうえで、代表的な病型(AML・ALL・CML・CLL)ごとの治療の流れや、仕事・学校・妊娠・お金への影響、治療後のフォローアップや再発への備えまで、段階的に理解できるよう構成しています。
必要に応じて、JHOの総合ガイドや、がん統計や治療を詳しく解説している公的サイトへのリンクも紹介しながら、「今の自分がどこにいて、次に何をすればよいか」がイメージしやすくなることを目指します。
読み進めながら、「ここは自分に当てはまりそう」「家族の状況に近い」と感じる部分をメモしておくと、医療機関で相談するときにも役立ちます。
第1部:白血病の基礎知識と「もしかして?」と思ったときのセルフチェック
まずは、白血病という病気の「そもそもの仕組み」と、日常生活の中で気づきやすいサインを整理します。 「少し疲れやすい」「あざができやすい」など、風邪や過労と勘違いしやすい症状も多いため、どんな点に注意するとよいかを具体的に見ていきましょう。
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1.1. 血液と造血の基礎:どこで血がつくられているのか
私たちの血液は、主に骨の内部にある「骨髄」というスポンジ状の組織で作られています。 骨髄には「造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)」と呼ばれる元となる細胞があり、そこから赤血球・白血球・血小板へと分かれて成熟していきます1。
赤血球は酸素を運ぶ役割、白血球は細菌やウイルスから体を守る役割、血小板は血を固めて出血を止める役割を担っています。 通常は、必要な数だけ作られ、古くなった細胞は壊れて、新しい細胞と入れ替わります。
白血病では、この造血幹細胞やその手前の「芽球(がきゅう)」と呼ばれる未熟な細胞に遺伝子の変化が起こり、増殖のブレーキが効かなくなります。 その結果、骨髄の中が白血病細胞で占領され、正常な血液細胞がつくられにくくなることで、さまざまな症状が現れます2。
1.2. 白血病の4つの基本型と急性・慢性の違い
白血病は、大きく「急性(きゅうせい)」と「慢性(まんせい)」、「骨髄性(こつずいせい)」と「リンパ性」に分けられます。 組み合わせると、次の4タイプが代表的です12。
- 急性骨髄性白血病(AML)
- 急性リンパ性白血病(ALL)
- 慢性骨髄性白血病(CML)
- 慢性リンパ性白血病(CLL)※日本では比較的まれ
「急性」は、未熟な細胞が短期間で一気に増えるタイプで、数週間〜数カ月のうちに症状が急速に悪化することがあります。 一方、「慢性」は、ある程度成熟した細胞がゆっくり増えるタイプで、健康診断の血液検査で偶然見つかることも少なくありません14。
小児ではALLが最も多く、大人ではAMLやCMLが増える傾向にあります。 病型によって治療法や予後(よご:今後の見通し)が大きく異なるため、診断の段階で「どのタイプか」を詳しく調べることが、とても重要です26。
1.3. 初期に気づきやすいサインと「よくある勘違い」
白血病の初期症状は、風邪や過労、更年期障害などと似ていることが多く、「まさか白血病だとは思わなかった」という声もよく聞かれます。 代表的な症状には、次のようなものがあります14。
- 貧血:疲れやすい、息切れがする、動悸がする、顔色が悪い。
- 出血傾向:あざが増える、鼻血がなかなか止まらない、歯ぐきからの出血、月経の量が急に増える。
- 感染:発熱やのどの痛み、肺炎、皮膚の化膿などが繰り返す。
- その他:体重減少、食欲低下、夜間の寝汗、原因不明の微熱、骨や関節の痛みなど。
もちろん、これらの症状があっても、必ず白血病というわけではありません。 しかし、「理由が思い当たらないのに長く続く」「市販薬や休養だけでは良くならない」「血液検査の異常を指摘された」場合は、一度医療機関で相談することが大切です。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる背景や受診の目安 |
|---|---|
| 階段を少し上っただけで息切れが強く、顔色も悪いと言われる | 貧血の可能性。数週間以上続く場合は内科・血液内科で血液検査を相談。 |
| 体のあちこちに心当たりのないあざが増えてきた | 血小板減少による出血傾向のサインのことも。早めに受診を。 |
| 発熱が続き、抗生物質でも良くならない感染を繰り返している | 白血球の機能低下や免疫不全の可能性。血液検査と精査が必要になることも。 |
| 子どもが長引く発熱とあざ、ぐったりした様子が続いている | 小児白血病のサインに重なることがあり、小児科での早期受診が強く勧められる。 |
| 健康診断で「白血球数の増加」や「貧血」を指摘された | 再検査だけで終わらせず、必要に応じて血液専門医への紹介を受ける。 |
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第2部:白血病の原因と危険因子 — 血液・骨髄・遺伝子で何が起きている?
「なぜ自分が白血病に?」という疑問は、多くの方が抱く非常に大きな不安です。 しかし、白血病の多くは一つの明確な原因が特定できず、「さまざまな要因が重なって起こる」と考えられています5。 ここでは、現在分かっている範囲で、原因や危険因子を整理します。
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2.1. 造血幹細胞の遺伝子変異と病気の仕組み
白血病では、造血幹細胞やその子どもの細胞に「遺伝子変異」が生じ、増殖のブレーキが壊れたり、死ぬはずの細胞が生き残ったりすることで、異常な細胞が増え続けます2。 これは、親から受け継ぐ「生まれつきの遺伝」とは別に、人生のどこかのタイミングで細胞の中に起きた変化(後天的変異)であることがほとんどです。
代表的なものとして、慢性骨髄性白血病(CML)では「BCR::ABL1(ビーシーアール・エイブルワン)」という融合遺伝子がほぼ必ず見つかります。 これは2本の染色体が入れ替わることでできる異常な遺伝子で、細胞を増やす酵素(チロシンキナーゼ)が過剰に働き続ける原因となります4。
急性前骨髄球性白血病(APL)では「PML::RARA」、急性骨髄性白血病では「FLT3」や「NPM1」、急性リンパ性白血病では「IKZF1」など、病型ごとに特徴的な遺伝子異常が存在し、予後や治療方針の判断に用いられています2。
2.2. 環境要因:ベンゼン、高線量放射線、喫煙など
世界保健機関(WHO)や米国がん協会(American Cancer Society)は、白血病のリスクを高める環境要因として、ベンゼンなどの化学物質への高濃度・長期曝露や、高線量の放射線被ばく、喫煙などを挙げています5。
- ベンゼン:石油化学工場などで高濃度ベンゼンに長期間さらされると、急性骨髄性白血病などのリスクが上昇することが報告されています。
- 放射線:がん治療などで体の一部に高線量の放射線治療を受けた場合や、大規模な原子力事故などによる高線量被ばくでは、数年〜十数年後に白血病が増えることが知られています。
- 喫煙:喫煙は、肺がんだけでなく、白血病を含む多くのがんのリスクを高める「避けられる危険因子」とされています。
ただし、これらの危険因子に当てはまらなくても白血病になる人も多く、「原因となる要因が一切思い当たらない」というケースも決して珍しくありません。 「自分の生活が悪かったのでは?」と自分や家族を責める必要はありません。
2.3. 遺伝素因・基礎疾患・ウイルスとの関係
ごく一部の白血病では、生まれつきの体質や基礎疾患が関係していると考えられています25。
- ダウン症候群:21番染色体が3本あるダウン症候群の方では、小児白血病(とくにALLや一部のAML)のリスクが高いことが知られています。
- 骨髄異形成症候群(MDS)や先天性骨髄不全症:これらは将来的に急性骨髄性白血病に移行することがあり、長期のフォローアップが大切です。
- HTLV-1:成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の原因ウイルスで、日本では一部地域にキャリアが多く、母乳や輸血などで感染します。ただし、感染者の多くは発症しません。
「家系に白血病の人がいるから必ず遺伝する」というわけではなく、家族に一人白血病の方がいるというだけでは、一般的には大きくリスクが上がるとはされていません。 しかし、複数世代にわたって白血病や血液のがんが多い場合など、特殊なケースでは専門外来で相談されることもあります。
第3部:検査・診断の流れと白血病の病型別治療の全体像
白血病が疑われたとき、多くの方が不安に感じるのが「これからどんな検査をされるのか」「どのように病名が決まるのか」という点です。 ここでは、受診から診断までの流れと、代表的な病型ごとの治療のイメージを整理します。
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3.1. 受診から確定診断までのステップ
最初のステップは、症状の聞き取り(問診)と身体診察です。 医師は、発熱や体重減少、出血、感染の頻度、既往歴や職業・家族歴などを丁寧に確認し、皮膚のあざ、リンパ節の腫れ、肝臓・脾臓のはれなどを診察します14。
次に、血液検査で赤血球・白血球・血小板の数や形、炎症や臓器の状態、凝固機能などを調べます。 この段階で、白血病を強く疑う所見(芽球の出現や著明な白血球増加/減少など)があれば、専門の「血液内科」や「小児科」「小児血液・がん科」への紹介が行われます26。
確定診断と病型の分類には、「骨髄検査」がほぼ必須です。 通常、局所麻酔をして腰の骨(腸骨)から専用の針で骨髄液を少量吸い取り(骨髄穿刺)、必要に応じて小さな骨の柱を取る生検も行います。 検査中は圧迫されるような独特の痛みを伴うことがありますが、時間は数分程度で、多くの施設で痛みをできるだけ軽くする工夫がされています14。
採取した骨髄や血液のサンプルに対して、顕微鏡で細胞の形を観察する「形態学的検査」、細胞の表面マーカーを調べる「フローサイトメトリー(免疫表現型検査)」、染色体検査・遺伝子検査などを組み合わせることで、WHO分類に基づいた詳細な診断が行われます2。
3.2. 急性白血病(AML・ALL)の治療の流れ
急性白血病では、症状が短期間で悪化するため、診断後できるだけ早く入院のうえ「寛解導入療法」と呼ばれる強力な化学療法を行うのが一般的です24。 寛解(かんかい)とは、検査上、白血病細胞がほとんど見つからない状態を指し、「完全に治った」という意味とは少し異なります。
成人の急性骨髄性白血病(AML)では、アントラサイクリン系薬剤とシタラビン(AraC)の併用が標準的な寛解導入療法で、その後、リスク分類に応じて大量AraC療法や多剤併用療法、造血幹細胞移植などが検討されます2。 一部の予後良好群では化学療法のみで長期寛解が期待できる一方、高リスク群では同種造血幹細胞移植が根治を目指す選択肢となります。
急性リンパ性白血病(ALL)では、多剤併用化学療法を段階的に行い、中枢神経系(脳や脊髄)への予防治療も重要です。 フィラデルフィア染色体陽性のALLでは、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を併用したレジメンや、造血幹細胞移植の適応が検討されます2。 日本のJALSG試験では、高用量メトトレキサートを用いた成人ALL治療で、5年生存率の改善が報告されています2。
小児ALL・AMLについては、日本小児血液・がん学会のガイドラインに基づく多段階レジメンが標準となっており、多くの症例で80%以上の長期生存が期待できる時代になっています6。
3.3. 慢性白血病(CML・CLL)の治療の流れ
慢性骨髄性白血病(CML)の慢性期では、経口のチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)が第一選択治療です。 定期的に血液検査や分子検査(BCR::ABL1の量を測る検査)を行い、治療の効き具合を確認しながら薬の種類や量を調整していきます4。
日本のCMLレジストリ(NEW TARGET)では、新規診断CML患者でTKI治療を行った場合、5年全生存率が約94.5%と報告されており、適切な治療とフォローアップにより、長期にわたり仕事や家庭生活を続けている方も多くいます3。 深い分子寛解が一定期間続いた場合には、厳密な条件のもとでTKI治療を中止し、経過観察を行う「治療中止(TFR)」の試みもガイドラインで示されています4。
慢性リンパ性白血病(CLL)は、日本では欧米に比べ少ない病気ですが、比較的進行がゆっくりで、症状がなければ「経過観察(watch and wait)」が標準となることもあります2。 症状が出てきた場合や高リスク因子がある場合には、抗CD20抗体と化学療法の併用、BTK阻害薬、BCL2阻害薬など、患者さんの状態に合わせて薬剤が選択されます。
第4部:今日から始めるアクションプラン — 生活・感染予防・こころのケア
白血病の治療は、医療機関での薬物療法や移植だけでなく、「日常生活をどう整えるか」「どのように不安と付き合うか」もとても大切です。 ここでは、診断前後から今日から意識できるポイントを、レベル別の行動として整理します。
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| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今日からできること | 体調の変化を記録し、受診のきっかけを逃さない | 発熱・あざ・息切れ・体重などを簡単なメモやアプリに記録し、受診時に見せられるようにする。 |
| Level 1:感染予防の基本 | 手洗い・うがい・口腔ケア | 外出から帰ったら石けんで手洗い、毎日の歯みがきに加えてうがい薬やフッ素入り歯磨き剤を活用する1。 |
| Level 2:1〜2週間で取り組むこと | 生活リズムの見直しと休養の確保 | 睡眠時間を一定に保ち、無理な残業や徹夜を避ける。週末も「寝だめ」ではなく軽い昼寝で調整する。 |
| Level 2:食事と水分の工夫 | 極端な制限ではなくバランスを重視 | 好中球が少ない時期は、生ものを避けるなど主治医の指示に従いつつ、少量でもこまめにエネルギーと水分を補給する1。 |
| Level 3:1カ月単位で考えること | 仕事・学校・家族との役割調整 | 上司や学校と相談し、通院日や入院スケジュールを共有して勤務形態や登校のパターンを調整する。 |
| Level 3:こころのケアと相談先の確保 | 一人で抱え込まない仕組みづくり | がん相談支援センターや患者会、心理カウンセリングなど、話せる場所をあらかじめいくつか把握しておく。 |
4.1. 感染予防と安全な日常生活
白血病そのものだけでなく、治療によって白血球が減ると、免疫力が下がり感染症にかかりやすくなります。 国立がん研究センターの療養情報では、次のような感染予防のポイントが紹介されています1。
- こまめな手洗い・うがい、口腔ケアを習慣づける。
- 人混みや流行期の外出時にはマスクを着用する。
- 傷や虫刺されを放置せず、清潔を保ち、必要に応じて医療機関で処置を受ける。
- 好中球が著しく低い時期は、生ものや加熱不十分な食品を避ける。
- 発熱(とくに38度以上)が出たら自己判断せず、すぐに主治医や救急外来に相談する。
4.2. 仕事・学校・家族との付き合い方
治療期間中やフォローアップの時期には、長期の入院や定期的な外来通院が必要になることがあります。 会社員の方は、主治医と相談しながら診断書や意見書を用意し、上司や人事と治療スケジュールや勤務調整について話し合うことが大切です。 傷病手当金や障害年金などの制度も、早めに情報収集しておくと安心です。
小児の場合は、保育園や学校と連携し、「院内学級」や「病弱特別支援学校」の利用、オンライン学習の活用など、学びの機会をどう維持するかを一緒に考えていくことになります6。 きょうだい児のケアや、親の付き添い疲れをどう軽減するかも、大きなテーマです。
4.3. 妊娠・出産と将来の妊孕性
若い世代の方にとって、「治療が将来の妊娠・出産にどの程度影響するのか」は大きな関心事です。 一部の抗がん剤や放射線治療は、卵巣や精巣の機能に影響を与えることがあり、治療前に精子や卵子、受精卵の凍結保存を検討するケースもあります25。
すでに妊娠している状態で白血病が見つかった場合には、妊娠週数や病型、母体と胎児の状態を踏まえ、産科と血液内科が連携して治療方針を検討します。 「何をどこまで優先するか」という難しい選択になることもありますが、複数の専門家の意見を聞きながら決めていくことが重要です。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「この症状で受診してよいのか分からない」「どの診療科に行けばよいのか迷う」という声は少なくありません。 ここでは、受診の目安や診療科の選び方、診察時に役立つポイントをまとめます。
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5.1. 受診を検討すべき危険なサイン(レッドフラッグ)
- 止まりにくい大量の出血(鼻血、歯ぐき、便に黒い血が混じるなど)。
- 40度近い高熱と悪寒が続き、意識がもうろうとする。
- 激しい頭痛やけいれん、視力の急な低下・二重に見えるなどの症状。
- 息苦しさや胸の痛み、急な顔面蒼白、冷や汗を伴う状態。
これらの症状がある場合は、迷わず救急車(119番)を呼ぶか、救急外来を受診する必要があります。 白血病に限らず、重い感染症や出血、心疾患など、命に関わる状態のこともあるからです。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 「貧血や出血傾向、発熱が続く」→ まずは内科(総合内科)を受診し、必要に応じて血液内科へ。
- 「子どもの発熱・あざ・ぐったりした様子」→ 小児科または小児救急を受診し、小児血液・がん専門の医療機関への紹介を受ける。
- 「健診で白血球数の異常を指摘された」→ 健診結果を持参して内科を受診し、再検査や専門医紹介を相談。
どの診療科に行けばよいか迷うときは、地域の医療相談窓口や、がん相談支援センターに電話で相談すると、地域の医療機関情報を教えてもらえることがあります。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- これまでの検査結果(健康診断の報告書、他院での血液検査・画像検査など)。
- いつからどのような症状があるかをまとめたメモ(発熱の回数、あざの場所、体重変化など)。
- 現在服用している薬の一覧や「お薬手帳」。
- できれば家族など、情報を一緒に聞いてくれる人。
受診や検査・入院には費用もかかりますが、日本では健康保険による自己負担3割(高齢者では1〜2割の場合も)に加え、「高額療養費制度」や「指定難病」「小児慢性特定疾病」などの公的支援制度が利用できることがあります。 詳細は、病院の相談窓口や社会福祉士、自治体の窓口で相談してみてください。
よくある質問
Q1: 白血病の初期症状は風邪とどう違いますか?
A1: 白血病の初期には、発熱やだるさ、食欲低下など風邪に似た症状が出ることもあります。 ただし、「あざや点状出血が増える」「息切れや動悸が以前より強い」「感染症が何度も繰り返す」「原因不明の体重減少や夜間の寝汗が続く」といったサインが重なる場合は、単なる風邪ではなく血液の病気が隠れている可能性があります14。
数日で良くなる風邪と違い、白血病では症状が数週間以上続くことが多いため、「おかしいな」と感じたら早めに受診し、血液検査を受けることが大切です。
Q2: 白血病は治りますか? 完治した人はどれくらいいるのでしょうか?
A2: 「どのタイプの白血病か」「年齢や全身状態はどうか」によって、治療の目的や見通しは大きく変わります。 小児の急性リンパ性白血病(ALL)では、多剤併用化学療法により5年生存率が80%を超えると報告されており、長期寛解・治癒が期待できる時代になっています6。
一方、高齢者の急性骨髄性白血病(AML)では、強力な治療が難しい場合もあり、全体としての予後は厳しいことも否定できません2。 慢性骨髄性白血病(CML)では、TKI治療により5年生存率が90%以上と報告されており、長期にわたって通常の生活を続ける方も多くいます34。
自分の場合の詳しい見通しについては、担当医が病型・遺伝子異常・治療への反応などを踏まえて説明してくれますので、遠慮せず質問してみてください。
Q3: 白血病の原因は何ですか? 子どもに遺伝しますか?
A3: 白血病の多くは、特定の一つの原因があるというよりも、「造血幹細胞の遺伝子の変化」がさまざまな要因の積み重ねで起こると考えられています25。 ベンゼンなどの化学物質や高線量の放射線、喫煙などがリスクを高めることは報告されていますが、多くの場合は明確な理由が分からないままです。
「親が白血病だから必ず子どもに遺伝する」ということはなく、家族に一人白血病の方がいる程度では、大きくリスクが上がるとはされていません。 ただし、ダウン症候群や先天性の骨髄不全症など、一部の病気では白血病のリスクが高くなることが知られています25。
Q4: 白血病の検査では何をされますか? 骨髄検査はどのくらい痛いですか?
A4: まずは血液検査で、赤血球・白血球・血小板の数や形、炎症や臓器機能などを調べます。 白血病が疑われる場合は、確定診断と病型分類のために骨髄検査が行われるのが一般的です12。
骨髄検査は、局所麻酔をして腰の骨から専用の針で骨髄液を少量吸い取る検査で、多くの方が「ズーンとした圧迫感や痛み」を感じますが、数分で終わることがほとんどです。 痛みが不安な場合は、事前に医師や看護師に相談し、麻酔の工夫や体勢の調整などのサポートを受けることができます。
Q5: 白血病になっても仕事や学校は続けられますか?
A5: 病型や治療内容、職種によって大きく異なりますが、慢性骨髄性白血病(CML)などでは、TKI内服治療を続けながら仕事を継続している方も多くいます34。 一方、急性白血病の寛解導入療法中は、数カ月単位の入院が必要になるため、休職や休学が前提となることもあります2。
仕事や学校のことは、一人で抱え込まずに、主治医や医療ソーシャルワーカー、会社の産業医・人事担当、学校の先生などと相談しながら、「どのタイミングで、どの程度の復帰」が現実的かを一緒に考えていくことが大切です。
Q6: 白血病の治療中や治療後に妊娠・出産はできますか?
A6: 一部の薬や放射線治療は卵巣や精巣の機能に影響を与えるため、将来の妊娠・出産に影響する可能性があります25。 そのため、若い世代の方では、治療前に精子や卵子、受精卵の凍結保存について説明を受けることがあります。
すでに妊娠している場合に白血病が見つかったときは、妊娠週数や病型、母体と胎児の状態を踏まえて、産科と血液内科が連携して治療方針を検討します。 非常に難しい選択になることも多いため、必要に応じてセカンドオピニオンを利用することも選択肢です。
Q7: 白血病の治療費はどのくらいかかりますか? 公的な支援はありますか?
A7: 治療内容(化学療法、分子標的薬、造血幹細胞移植など)や入院期間によって大きく異なりますが、日本では公的医療保険に加え、「高額療養費制度」や「指定難病」「小児慢性特定疾病」、障害年金などの制度が利用できる場合があります。
具体的な自己負担額は、所得や年齢、利用する制度によって変わるため、病院の相談窓口やがん相談支援センター、自治体の福祉窓口で相談することをおすすめします。
Q8: 白血病は再発しやすい病気ですか? 再発した場合の治療は?
A8: 再発のリスクは、病型や遺伝子異常、初回治療への反応などによって異なります。 急性白血病では、寛解後も一定期間フォローアップを続け、血液検査や骨髄検査、分子検査などで再発のサインがないかを確認します2。
再発した場合には、初回とは異なる薬の組み合わせや、造血幹細胞移植、新しい分子標的薬や免疫療法の臨床試験などが選択肢となることがあります45。 自分に合った治療法について、担当医とじっくり相談することが大切です。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
白血病は「血液のがん」と聞くと非常に怖く感じられますが、その正体は「血液をつくる工場である骨髄に異常な細胞が増え、正常な血液の働きが妨げられる病気」です。 病型や年齢によって治療法や予後は大きく異なり、近年は治療の進歩によって、長期にわたり日常生活を続けられる方も少なくありません346。
一方で、急性白血病では短期間で症状が悪化することもあり、「何となくおかしい」と感じた段階で受診し、血液検査や必要な精査につなげることがとても重要です。 自己判断で様子を見過ぎず、「念のため検査してもらう」くらいの気持ちで相談してみてください。
仕事や学校、妊娠・出産、家族、お金、こころの健康など、白血病は生活のさまざまな面に影響を及ぼします。 だからこそ、一人で抱え込まず、医療チームや相談支援センター、患者会や家族など、複数の支えを組み合わせていくことが大切です。 本記事が、ご自身や大切な人の状況を整理し、「次に何をすればよいか」を考えるための一つの手がかりになれば幸いです。
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参考文献
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