「昔はもっとアイデアが湧いていたのに、最近は頭がぼんやりして何も思いつかない」「徹夜で乗り切る働き方を続けていたら、気づいたら何もかもがしんどい」。そんな不安や焦りを抱えているクリエイティブ職・知的労働者の方は少なくありません。
日本では、広告・IT・デザイン・ゲーム業界など、アイデアを武器に働く人たちの多くが長時間労働や締め切りのプレッシャーにさらされています。厚生労働省が導入したストレスチェック制度では、毎年およそ1〜2割の人が「高ストレス者」と判定されており11、脳と心が疲れ切ってしまう環境が決して珍しくないことがわかります10。
一方で、最近の脳科学・公的ガイドラインからは、「大人になってからでも生活習慣やセルフケアを見直すことで、脳の働きや認知機能は十分に変えられる」という希望の持てるデータも数多く示されています121315。運動・睡眠・食事・知的活動・音楽・デジタル機器との付き合い方を整えることは、将来の認知症リスクを下げるだけでなく、「今この瞬間のひらめきや集中力」を取り戻す助けにもなります。
本記事では、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」や「睡眠ガイド2023」12、国立長寿医療研究センター(NCGG)など日本の公的機関の情報56、世界保健機関(WHO)の認知症リスク低減ガイドライン15、Lancet Commissionによる大規模レビュー16などをもとに、「脳を活性化して創造性を高める生活習慣・セルフケア」を分かりやすく整理します。
仕事でアイデアが出なくなってきた方、40〜50代になって「もの忘れ」が気になり始めた方、フリーランスとして在宅で孤独に働いている方、定年後も創作や教育に関わり続けたい方など、さまざまな立場の読者にとって役立つ内容を目指しています。ご自身やご家族の状況を思い浮かべながら読み進めてみてください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」や「睡眠ガイド2023」12、国立長寿医療研究センター(NCGG)の認知症予防情報や「食事と認知機能」に関する解説56、職場のメンタルヘルス指針10、国民健康・栄養調査などの統計データ3に加え、WHOやLancet Commissionの国際的なガイドライン・システマティックレビュー1516を一次情報源として参照しています。
JHO編集部は、生成AIなどのツールを文献整理や構成案作成のアシスタントとして活用しつつ、最終的な原稿については必ず人の目で原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しています。数値やリスクの表現についても、元となる論文やガイドラインの範囲を超えないよう慎重に検討しています。
本記事は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が、厚生労働省や日本の専門学会、世界保健機関(WHO)、査読付き論文などの信頼できる情報に基づいて作成しました。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。
要点まとめ
- 大人になってからでも、運動・睡眠・食事・知的活動・音楽などの生活習慣を整えることで、脳の働き(記憶・注意・実行機能)を支え、ひらめきや創造性を発揮しやすい土台を整えることができます1213。
- 日本の調査では、20〜59歳の約4〜5割が「睡眠6時間未満」であり3、運動ガイドラインを満たしている人も半数に満たないと報告されています4。こうした「睡眠不足」「運動不足」「長時間座位」は、ストレスや脳の疲れを強める大きな要因です。
- 認知症研究からは、運動・知的活動・社会的交流・バランスの良い食事(地中海食など)が、長期的な認知症リスク低減や「認知予備能」の維持に役立つことが示されています57151617。
- スマートフォンやSNSそのものが「脳を壊す」という単純な話ではなく、「寝る直前まで画面を見る」「通知に常に反応してしまう」といった使い方が、睡眠不足や集中力低下を通じて脳に負担をかけると考えられています29。
- 「スランプ」のような一時的な不調と、うつ病・適応障害・MCI(軽度認知障害)・認知症のように医療的な対応が必要な状態には違いがあります。気になる症状が続く場合は、早めに医療機関や産業医、相談窓口に相談することが大切です1012。
- 本記事の後半では、クリエイティブ職や忙しい社会人でも実践しやすい「1日10〜15分から始めるミニ習慣」や、朝昼夜のルーティン例、締め切り前のセルフケアの工夫など、具体的なアクションプランを紹介します。
「自分の才能がなくなったのでは」「年齢のせいで頭が回らないのでは」と不安になるとき、その背景には、睡眠不足や長時間労働、運動不足、スマートフォンの使い方、食事の偏りなど、日常生活に潜むさまざまな要因が重なっていることが少なくありません。
この記事では、まず日本の働き方やストレス環境、脳の仕組みを確認し、そのうえで運動・睡眠・食事・読書や学習・音楽や趣味といった身近な要素が脳にどのように影響するのかを段階的に解説します。さらに、認知症やうつ病など専門的な診断が必要になる状態のサインや、どの診療科に相談すべきかの目安も整理します。
必要に応じて、JapaneseHealth.org の総合ガイドや、より専門的な解説記事に自然な形で橋渡しを行いながら、「自分の状態をどう理解し、いつどこで誰に相談すべきか」をイメージできるように構成しています。
読み進めることで、「まず生活習慣のどこから整えるとよいか」「どのような症状が出たら受診を考えるべきか」「仕事と健康を両立するために周囲とどう話し合えばよいか」などが、少しずつ具体的に見えてくるはずです。
第1部:ストレスでひらめきが出なくなる仕組みと日常生活の見直し
最初のステップとして、「なぜストレスや生活習慣の乱れが、ひらめきや創造性を奪ってしまうのか」という基本を整理しておきましょう。脳の仕組みを大まかに理解すると、「自分のせい」ではなく、生物学的に説明できる部分があることが見えてきます。
1.1. 現代日本の働き方とクリエイティブ職のストレス構造
日本の多くの職場では、長時間労働や残業を前提とした働き方が今も残っています。特に広告やIT、デザイン、ゲーム業界などでは、「締め切り」「コンペ」「クライアントワーク」といったプレッシャーが重なり、慢性的な睡眠不足や生活リズムの乱れが続きやすい環境にあります。
厚生労働省が導入したストレスチェック制度の集計では、毎年およそ12〜15%程度の従業員が「高ストレス者」と判定されており11、一部のサービス業では20%近くに達する報告もあります。職場のメンタルヘルス指針では、こうした高ストレス者への早期対応や産業医によるフォローの重要性が強調されています10。
ストレスそのものは、短期的には集中力を高めたり、締め切りに向けて一時的にパフォーマンスを上げたりする役割もあります。しかし、その状態が何週間も何ヶ月も続くと、脳が常に「戦うか逃げるか」のモードに入りっぱなしになり、余裕を持ってアイデアを発想したり、じっくり物事を考えたりする余地がなくなっていきます。
1.2. ストレスホルモンと前頭葉・海馬の働き
ストレスがかかると、副腎から「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。適度なコルチゾールは、朝に目を覚ましたり、危険から身を守るために必要なホルモンですが、長期間にわたり高い状態が続くと、脳の重要な部分に負担をかけると考えられています。
特に影響を受けやすいとされているのが、計画・判断・感情のコントロール・発想などを担う「前頭葉」と、新しい情報を覚えたり思い出したりする「海馬」です。慢性的なストレスや睡眠不足は、これらの領域の活動を低下させ、注意力が散漫になったり、柔軟な発想がしにくくなったり、些細なことが思い出せなくなったりするきっかけになります1516。
重要なのは、「脳がダメになった」のではなく、「ブレーキとアクセルのバランスが崩れている状態」だとイメージすることです。生活習慣やストレスマネジメントを見直し、脳の休息と刺激のバランスを整えていくことで、前頭葉や海馬の働きは少しずつ回復していくとされています1213。
1.3. 「スランプ」と病気レベルのメンタル不調の違い
クリエイティブな仕事をしていると、アイデアが出ない「スランプ」は誰にでも起こり得ます。数日〜1週間程度、「やる気が出ない」「何を描いてもピンとこない」ことが続いても、睡眠や休養をとることで自然に回復する場合は、多くが生理的な揺らぎの範囲と考えられます。
一方で、次のような状態が2週間以上続く場合は、うつ病や適応障害といったメンタルヘルスの不調が隠れている可能性があります。
- 以前は楽しかった仕事や趣味に、まったく興味が持てなくなった
- ほとんど毎日、気分が落ち込み、「自分には価値がない」「何をやってもダメだ」と感じる
- 眠れない、あるいは寝すぎてしまう日が続き、日中の活動に支障が出ている
- 食欲が極端に落ちる、または過食が続く
- 集中力が著しく低下し、仕事や家事のミスが増えている
- 「消えてしまいたい」「生きていても意味がない」といった考えが何度も浮かぶ
こうした症状が長く続く場合は、「頑張りが足りない」「気合いでなんとかする」と考えるのではなく、心療内科や精神科、産業医など専門家への相談を検討してください。職場のメンタルヘルス指針でも、早期の相談は回復の鍵になるとされています10。
1.4. 脳の可塑性:大人になっても脳は変わり続ける
脳は一度ピークを過ぎたら衰えていくだけ、というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、神経科学の研究では、成人してからも脳は環境や経験によって構造や機能を変化させ続ける「脳の可塑性(neuroplasticity)」を持つことが示されています。
運動によって分泌される「脳由来神経栄養因子(BDNF)」や、学習によって強化されるシナプスのつながりは、まさにこの可塑性の一例です。適度な有酸素運動や筋力トレーニング、読書・学習・新しい趣味などの知的活動、音楽や芸術活動などを組み合わせることで、脳のネットワークが活性化し、認知機能や創造性を支える土台が強くなると考えられています131418。
1.5. 日常で脳を疲れさせてしまうNG習慣の例
脳の可塑性を活かすためには、まず「脳にとって負担の大きい習慣」に気づき、それを少しずつ減らしていくことが大切です。たとえば次のような習慣は、多くの人がついやってしまいがちですが、脳の疲れやひらめきの低下につながります。
- 就寝直前までスマートフォンでSNSや動画を見続ける(ブルーライト+情報過多)29
- 長時間座りっぱなしで作業し、休憩をほとんどとらない14
- 「徹夜で一気に仕上げる」働き方が習慣化している2
- 日中のほとんどを室内で過ごし、自然光や外気に触れる時間が極端に少ない
- エネルギードリンクやカフェイン飲料に頼って眠気をごまかす
- 休日も仕事・SNS・情報収集で頭を使い続け、意図的に「何もしない時間」を作っていない
これらはどれも、「ダメな習慣だからやめなければならない」と自分を責めるものではありません。むしろ、「忙しい中でよくここまで頑張ってきた」と自分をねぎらいつつ、できるところから一つずつ見直していくイメージを持つことが大切です。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 平日と休日の就寝・起床時間が2時間以上ズレており、月曜の朝が特に辛い | 体内時計の乱れ、睡眠不足、社会的時差ボケ |
| 1日中パソコンの前に座りっぱなしで、外を歩く時間がほとんどない | 運動不足、血流低下、長時間座位による疲労蓄積 |
| 寝る直前までスマホでSNSやニュースを見続けている | 睡眠の質の低下、入眠までの時間の延長、情報過多による脳の興奮 |
| 最近、ちょっとした作業でも集中が続かず、ミスが増えてきた | 慢性的なストレス、睡眠不足、うつ病・不安障害の初期サインの可能性 |
| 「ひらめき」が出ないのに、休むことに強い罪悪感がある | 過度な自己責任感、燃え尽き(バーンアウト)のリスク |
第2部:睡眠・栄養・脳の健康 — 体の内側から整える
生活リズムや環境を整えても、「眠れない」「頭がすっきりしない」といった状態が続く場合、背景には睡眠の質や栄養バランス、加齢に伴う変化など、体の内側の要因が関わっていることがあります。この章では、特に脳の健康と関連が深い睡眠と栄養について見ていきます。
2.1. 睡眠とひらめきの関係 — 日本の睡眠ガイド2023から
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の多くにとっておおよそ6〜8時間程度の睡眠が健康維持に望ましいとされています2。国民健康・栄養調査の統計では、20〜59歳の約38〜49%が「睡眠時間6時間未満」であり、日本はOECD諸国の中でも平均睡眠時間が短い国に含まれています3。
睡眠は、単に「疲れを取る」だけでなく、記憶の整理や感情のリセット、創造的な発想にも深く関わっています。ノンレム睡眠中には日中に学んだ情報が長期記憶へと整理され、レム睡眠中には異なる情報同士が結びつき、新しいアイデアにつながるような「ひらめき」が生まれやすくなると考えられています12。
徹夜や睡眠不足が続くと、前頭葉の働きが低下し、「アイデアが浮かんでいるつもりでも、客観的に見ると質が落ちている」という状態になりがちです。短期的に締め切りを乗り切れることがあっても、長期的には創造性をむしばむリスクが高いため、「睡眠を削って仕事をする」スタイルを標準にしないことが大切です212。
2.2. 日本人の睡眠不足と健康への影響
睡眠ガイド2023では、睡眠不足が肥満、高血圧、糖尿病、心血管疾患、うつ病などのリスクを高めることが指摘されています2。特に、仕事や家事・育児で忙しい30〜50代では、「慢性的な睡眠負債」を抱えたまま働き続けているケースが多いとされています3。
慢性的な睡眠不足が続くと、脳のエネルギーが不足し、注意力・判断力・感情のコントロール力が弱まります。クリエイティブな仕事では、「ギリギリまで寝ないで一気に仕上げる」ことが文化的に称賛される場面もありますが、そのツケは体と脳に蓄積していきます。まずは「毎日30分でも睡眠時間を増やす」「週に数日は徹夜をしない日を作る」といった現実的な目標から始めてみましょう。
2.3. スマートフォンと睡眠 — ブルーライトと情報の刺激
睡眠に関する公的なガイドラインや研究では、就寝前の強い光刺激や精神的な興奮が、入眠までの時間を延ばし、睡眠の質を下げることが繰り返し指摘されています212。スマートフォンやタブレット、PC画面から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を遅らせ、体内時計を後ろ倒しにする要因の一つと考えられます。
日本の研究では、青年期のスマートフォン利用時間そのものは、well-being(主観的な幸福感)と強くは関連していない一方で、睡眠時間の短さやスマートフォンへの依存傾向を通じて間接的な影響がみられることが報告されています9。つまり、「スマホが悪い」というよりも、「寝る直前までSNSを見続けてしまう」「布団に入っても通知が気になってしまう」といった使い方が問題なのです。
対策としては、以下のような工夫が現実的です。
- 就寝1〜2時間前には画面を見る時間を減らし、紙の本やオーディオブックに切り替える
- スマホをベッドから手の届かない場所に置き、「目覚まし時計代わり」に使わないようにする
- 夜間は「おやすみモード」や「通知オフ」設定を活用する
- どうしても画面を見る必要がある場合は、画面の明るさやブルーライトカット機能を活用する
2.4. 脳にやさしい食事 — 地中海食と和食の知見
食事もまた、脳の健康と認知機能に大きく関わります。海外の多くの研究では、野菜・果物・全粒穀物・豆類・ナッツ・オリーブオイル・魚を多く含み、赤身肉や加工食品、飽和脂肪酸の多い食品が少ない「地中海食」が、認知症や軽度認知障害(MCI)のリスク低下と関連することが報告されています6717。
国立長寿医療研究センターのNILS-LSA(長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断研究)では、日本人高齢者を対象に、血中のDHA・EPA(魚に多く含まれるn-3系脂肪酸)が高い人ほど、10年間での認知機能低下リスクが低かったことが示されています68。また、魚・豆類・多様な食品を日常的に摂っている人ほど認知機能が保たれやすい傾向が報告されています5。
クリエイターやフリーランスの方は、締め切り前に「エナジードリンク+コンビニの揚げ物」「炭水化物メインの早食い」で済ませてしまうことも多いかもしれません。こうした食事は、血糖値の急上昇と急降下を招き、眠気や集中力低下を引き起こしやすくなります。忙しい中でも、できる範囲で以下のような工夫を取り入れてみましょう。
- 週に数回は、サバ・イワシ・サンマなどの青魚を取り入れる
- 白米だけでなく、雑穀米や玄米を選ぶ日を作る
- サラダや野菜スープ、具だくさんのみそ汁で野菜・豆類を摂る
- おやつにチョコレートやスナック菓子ではなく、ナッツや果物を選ぶ
- エナジードリンクに頼る頻度を減らし、水やお茶に置き換える
2.5. 認知予備能と読書・知的活動
「認知予備能(cognitive reserve)」とは、簡単に言うと「脳の予備力」のことです。長年にわたり読書や学習、仕事や趣味で頭を使う機会が多かった人は、加齢や病気による脳のダメージがあっても、症状が出にくかったり、進行がゆっくりだったりする可能性があると考えられています1516。
日本の研究でも、中高年の人で、読書や日記・手紙の執筆、情報機器の活用などの知的活動が活発な人ほど、注意力や実行機能など高次脳機能テストの成績が良い傾向が報告されています8。必ずしも難しい専門書である必要はなく、小説やエッセイ、ライトノベル、マンガであっても、物語を追い、登場人物の気持ちを想像し、自分なりに解釈するプロセス自体が脳への刺激になります。
忙しくてまとまった時間が取れない場合でも、「1日10〜15分だけ本を開く」「通勤時間や家事の合間にオーディオブックを聞く」といった小さな習慣から始めることができます。SNSやニュースのスクロールを少し減らして、その時間を「ゆっくり文字を読む時間」に置き換えるだけでも、脳のモードが変わっていくのを実感できるかもしれません。
第3部:認知症・うつ病など専門的な診断が必要な状態
生活習慣を整えることは、脳の健康や創造性を支えるうえで大きな意味があります。しかし一方で、「生活習慣の問題」だけでは説明できない症状が隠れている場合もあります。この章では、特に認知症や軽度認知障害(MCI)、うつ病・不安障害など、専門的な評価が必要となる代表的な状態について簡単に紹介します。
3.1. MCI(軽度認知障害)と認知症のサイン
日本神経学会などの「認知症疾患診療ガイドライン」では、認知機能の低下が日常生活に明確な支障をきたしている状態を「認知症」、日常生活はほぼ自立しているものの、検査上明らかな認知機能低下が認められる状態を「MCI(軽度認知障害)」と定義しています12。
代表的なサインとして、次のようなものが挙げられます。
- 最近の出来事(約束・会話・買い物の内容など)を何度も忘れてしまい、同じ質問を繰り返してしまう
- 慣れた道で迷う、時間や場所の感覚が混乱する
- お金の管理や薬の管理、料理など複雑な作業が以前より難しく感じる
- 趣味や人づきあいへの興味が薄れ、引きこもりがちになる
- 性格が急に変わったように感じられる、怒りっぽくなる、疑い深くなる
高齢の家族にこうした変化が見られる場合や、自分自身が「単なる物忘れなのか、病気の始まりなのか不安だ」と感じる場合は、早めにかかりつけ医や認知症疾患医療センター、神経内科などに相談してみましょう512。
3.2. 「年相応の物忘れ」と病気による物忘れの違い
加齢に伴う「年相応の物忘れ」と、認知症・MCIによる物忘れには、いくつかの目安があります。一般的には、次のような違いがよく示されています12。
- 年相応の物忘れ:出来事の一部を思い出せない(人の名前がすぐ出てこないが、あとで思い出すなど)。日常生活は自立しており、本人もある程度自覚している。
- 病気による物忘れ:出来事そのものを忘れている(会ったこと自体を覚えていない、約束したことを完全に忘れているなど)。日常生活に支障が出ており、本人の自覚が薄いことも多い。
とはいえ、これらはあくまで一般的な目安であり、自己判断だけで「大丈夫」「きっと病気だ」と決めつけるべきではありません。不安が続く場合は、専門の医療機関での評価を受けることが安心につながります。
3.3. うつ病・適応障害と仕事のパフォーマンス
うつ病や適応障害もまた、「頭が回らない」「アイデアが出ない」という形で現れることがあります。仕事のストレスや人間関係の変化、妊娠・出産、更年期、家族の介護など、人生の大きなイベントが引き金になることもあります。
うつ病では、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失に加えて、集中力・判断力の低下、作業速度の低下などもよく見られます。いくら頑張ってもタスクが進まず、「自分は無能だ」と感じてしまう悪循環が起こることもあります。こうした状態で無理に仕事を続けると、さらに症状が悪化し、回復までに長い時間がかかる場合があります。
厚生労働省の職場のメンタルヘルス指針では、メンタル不調が疑われる従業員に対して、産業医や産業保健スタッフによる面談、必要に応じた休職や業務調整などを行うことが推奨されています10。「休むことは甘え」ではなく、「脳と心の治療の一部」と考える視点が大切です。
3.4. すぐに受診すべき危険なサイン
次のような症状がある場合は、「様子を見る」のではなく、早急に医療機関を受診する、あるいは救急車(119)を呼ぶことが推奨されます。
- 突然の片側の手足の麻痺、顔のゆがみ、ろれつが回らない(脳卒中を疑うサイン)
- 激しい頭痛とともに、今までにない意識の混乱やけいれんが起こった
- 強い自殺念慮(「今すぐ死にたい」「具体的な方法を考えている」など)がある
- 幻覚や妄想が現れ、自分や他人を傷つけてしまう可能性が高いと感じる
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の状態に対する診断や治療を行うものではありません。少しでも「命に関わるかもしれない」と感じる症状がある場合は、すぐに119番通報や地域の救急相談窓口に連絡してください。
第4部:今日から始める脳と創造性のセルフケア・アクションプラン
ここからは、クリエイティブ職や忙しい社会人でも実践しやすい「脳を活性化する生活習慣」を、具体的なアクションとして整理していきます。すべてを一度に完璧にこなす必要はありません。生活や体調に合わせて、できそうなものから一つずつ試してみてください。
4.1. 運動:1日10〜15分から始める「脳のための有酸素&筋トレ」
厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023では、成人には1日あたり60分以上の身体活動(生活活動+運動)が推奨されており、そのうち中強度以上の活動(少し息が弾む程度)を週に150〜300分程度行うことが望ましいとされています1。しかし、現実には加速度計を用いた調査で、この推奨量を満たしている人は約47.9%にとどまり、平均の座位時間は1日8〜9時間と報告されています4。
海外のメタ解析では、50歳以上の成人を対象とした有酸素運動や筋力トレーニングの介入により、実行機能や記憶、処理速度などの認知機能が小〜中程度改善したと報告されています1314。また、日本を含む複数のコホート研究をまとめた系統的レビューでは、余暇の身体活動量が多い人ほど、将来の認知症やMCIのリスクが低いことが示されています7。
忙しい社会人・クリエイターにとって現実的な始め方としては、次のようなものが考えられます。
- 通勤や買い物のときに「10〜15分の速歩き」を取り入れる
- 自宅やオフィスの階段を、1日に数回意識して使う
- 仕事の合間にスクワット・かかと上げ・軽いストレッチなどの「1分筋トレ」を挟む
- オンラインのエクササイズ動画を活用し、週2〜3回、20〜30分の軽い運動を行う
- ダンスやヨガ、ピラティスなど、楽しめる運動を趣味として取り入れる
特に、音楽に合わせて体を動かすダンスやグループ運動は、運動+音楽+社会的交流を同時に満たす「脳にやさしい活動」として注目されています518。
4.2. 読書・インプット習慣で認知予備能を育てる
「本を読む時間がない」という声はよく聞かれますが、読書や勉強は、長期的な認知機能や創造性にとって非常に重要な投資です。日本の研究では、中高年の人で読書や日記、手紙、情報機器の活用などの知的活動が盛んな人ほど、注意力や実行機能テストの成績が良いことが報告されています8。
忙しい人向けには、次のような工夫がおすすめです。
- 寝る前の10〜15分だけ、紙の本や電子書籍を読む時間を決める(スマホのSNSタイムを少し置き換える)
- 通勤電車の中で、ニュースアプリではなく、興味のある分野の本や専門誌を読む
- 家事の合間や散歩中に、オーディオブックやポッドキャストで学習する
- 日記やアイデアメモをつける習慣を作り、1日の出来事や気づきを言葉にする
フィクション(小説・マンガ)もノンフィクション(ビジネス書・専門書)も、それぞれ脳への刺激が異なります。フィクションは感情移入や想像力、共感を育て、ノンフィクションは知識・語彙・論理力を鍛える助けになります。ジャンルにこだわりすぎず、「楽しく続けられること」を何より大切にしましょう。
4.3. デジタルデトックス&スマホとの賢い付き合い方
スマートフォンは、仕事の連絡、スケジュール管理、情報収集、家族とのコミュニケーションなど、多くの場面で欠かせない道具です。一方で、通知やSNSのタイムラインに常に注意を奪われ続ける状態は、前頭葉にとって大きな負担となり、集中力や創造性を低下させる要因となります9。
すべてのデジタル機器を手放す必要はありません。重要なのは、「いつ」「どのように」使うかを意識的に選ぶことです。例えば次のような工夫があります。
- 仕事の集中タイム(例:25〜50分)は通知をオフにし、終わったらまとめてメッセージを確認する
- 寝室にはスマホを持ち込まず、リビングで充電する習慣を作る
- 1週間に1日は「SNSを見ない日」「ニュースを追いすぎない日」を作る
- スマホでやってしまいがちな「なんとなくスクロール」の代わりに、散歩やストレッチを挟む
日本の研究では、スマホ利用時間そのものよりも、「睡眠時間の短さ」や「依存傾向」がwell-beingの低下と関連していることが示されています9。まずは睡眠時間と心の余裕を守るためのルールづくりから始めてみましょう。
4.4. 「覚える」トレーニングとワーキングメモリ
最近は、電話番号も予定もメモアプリやクラウドカレンダーに任せるのが当たり前になりました。こうした「外部記憶」を活用することは、とても賢い戦略です。その一方で、日常の中で少しだけ「自分の頭で覚える」機会も残しておくと、ワーキングメモリ(作業記憶)のトレーニングになります。
例えば次のような小さなチャレンジが考えられます。
- スーパーで買うものを、メモに書く前にいったん頭の中で3〜5個覚えてみる
- 新しい知人の名前を聞いたら、心の中で数回繰り返してからメモする
- 一日の予定を、朝の時点で頭の中で順番にイメージしてみる
コンピュータを使った「脳トレゲーム」については、多くの研究で「トレーニングした課題に近いテストの成績は良くなるが、日常生活全般の能力まで大きく変わるとは限らない」という結果が示されています19。ゲーム自体を楽しめるのであれば一つの選択肢ですが、「これだけやっていれば認知症を防げる」といった過度な期待は持たず、運動や睡眠、食事、社会的交流などと組み合わせて活用するのが現実的です。
4.5. 音楽・アートで脳を刺激する
音楽やアートは、感情や記憶と深く結びついた活動です。音楽を聴くと、聴覚野だけでなく、運動野や情動をつかさどる辺縁系、記憶に関わる海馬など、脳の広いネットワークが同時に活動するとされています。さらに、楽器演奏や合唱など能動的な音楽活動では、視覚・聴覚・運動・注意・記憶・社会的交流が一度に使われます18。
高齢者や認知症の方を対象とした研究では、音楽療法や合唱、楽器演奏などの介入により、認知機能や気分、生活の質が小〜中程度改善したという結果が報告されています18。若い世代やクリエイティブ職に対する直接的な研究はまだ少ないものの、「脳全体をバランスよく使う活動」として、音楽やアートは十分に取り入れる価値があります。
忙しい大人でも、次のような形で音楽の時間を作ることができます。
- 1日5〜10分だけ、ピアノやギターを触る時間を確保する
- 好きな曲を流しながら、鼻歌やハミングをしてみる
- オンラインの合唱・セッションコミュニティに参加する
- 仕事用BGMとして、歌詞の少ないインストゥルメンタルや環境音を試してみる
作業中の音楽が集中力に与える影響は、タスクの種類や個人差によって異なります。言語をたくさん使う作業(文章執筆や読解など)のときは歌詞のない音楽、単純作業のときは好きな曲、といったように、自分の脳がどう反応するかを観察しながら調整してみましょう。
4.6. 一日の中で脳をいたわるルーティン例(クリエイティブ職向け)
ここでは、朝・昼・夜のそれぞれの時間帯に取り入れやすい「脳をいたわるルーティン」を例として紹介します。すべてを真似する必要はありませんが、自分の生活に合うアイデアを組み合わせてみてください。
朝のルーティン例:
- 起きたらまずカーテンを開けて日光を浴び、軽くストレッチをする(体内時計のリセット)
- 水や白湯を一杯飲み、寝ている間に失われた水分を補う
- スマホを見る前に、紙のメモに「今日やりたいこと」を3つだけ書き出す
- 通勤前に5〜10分だけ、読みかけの本や資料に目を通す
昼のルーティン例:
- ポモドーロ・テクニック(25分集中+5分休憩など)を活用し、集中タイムと休憩をセットでスケジューリングする
- 休憩時間には席を立ち、外の空気を吸いながら数分歩く
- 昼食は、炭水化物だけでなく、魚・豆・野菜を含む「脳にやさしい定食」を意識する
- 午後の眠気が強いときは、10〜20分の短い仮眠+軽いストレッチでリセットする
夜のルーティン例:
- 就寝1〜2時間前には「スマホとPCをベッドから離す」ルールを作る
- 温かいお風呂やシャワー、ストレッチで体をゆるめる
- 紙の本や日記、アナログのスケッチブックを開き、1日の振り返りや自由な落書きをする
- 睡眠時間を削っての作業は「週◯回まで」と上限を決め、長期戦ではなく「持久戦」を意識する
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 刺激を減らし、リラックスする | 就寝前1〜2時間のスマホオフ、照明を少し暗くする、深呼吸やストレッチをする |
| Level 2:今週から始めること | 短い運動と読書タイムを作る | 通勤時に10分速歩き/週3回、寝る前10分だけ紙の本を読む |
| Level 3:1〜3ヶ月かけて整えること | 食事・仕事の進め方・人間関係を見直す | 魚・野菜中心のメニューを増やす、ポモドーロ・テクニックを習慣化する、産業医や上司と働き方を相談する |
| Level 4:長期的に続けたいこと | 趣味や学びで認知予備能を育てる | 音楽・アート・語学など、新しいことを学ぶコミュニティに参加する、地域のサークルやオンラインコミュニティに関わる |
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
ここまで見てきたように、多くの場合、運動・睡眠・食事・知的活動・ストレスマネジメントなどの生活習慣を整えることで、「ひらめきが出ない」「頭がぼんやりする」といった状態は少しずつ改善していきます。しかし、それでも不調が続くときや、「もしかして病気ではないか」と強い不安があるときは、専門家への相談も重要な選択肢です。
5.1. 受診を検討すべきサイン
- 気分の落ち込みや不安、やる気のなさが2週間以上ほぼ毎日続いている
- 睡眠の問題(寝つけない/何度も目が覚める/早朝に目が覚める/寝すぎてしまう)が続き、日中の生活に支障が出ている
- 最近の出来事を何度も忘れてしまう、同じ質問を繰り返してしまうなど、物忘れが急に目立つようになった
- 仕事や家事のミスが急に増え、「自分でもおかしい」と感じる
- 「消えてしまいたい」「いなくなりたい」といった考えが頭から離れない
これらが当てはまる場合は、一人で抱え込まず、心療内科・精神科・神経内科・もの忘れ外来・かかりつけ医・産業医など、相談しやすい窓口を探してみてください。会社勤めの方であれば、産業医や産業保健総合支援センターに相談する方法もあります10。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 気分の落ち込み・不安・不眠が主な場合:心療内科・精神科・メンタルクリニック
- 物忘れや認知機能の低下が気になる場合:神経内科・もの忘れ外来・認知症疾患医療センター
- 頭痛・めまい・しびれなど神経症状がある場合:神経内科・脳神経外科
- どこに相談すべきか迷う場合:かかりつけの内科医や地域の保健センター、職場の産業医
どの診療科が適切かわからない場合でも、「最近こういう症状が続いていて不安です」と正直に伝えれば、必要に応じて適切な専門科を紹介してもらえることが多いです。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- ここ1〜2ヶ月の睡眠時間や気分の変化をメモしたノート
- 服用中の薬やサプリメントのリスト、お薬手帳
- 家族や同僚が気づいている変化(物忘れ・仕事のミス・行動の変化など)のメモ
- 過去の健康診断結果や血液検査の結果
費用は、保険診療の場合、初診料や一般的な血液検査で数千円〜1万円前後、心理テストや画像検査(MRI・CTなど)を追加するとさらに費用がかかることがあります。具体的な金額は医療機関や検査内容によって異なるため、事前にホームページや電話で確認すると安心です。
よくある質問
Q1: 運動する時間がほとんどありません。1日10分だけでも脳に効果はありますか?
A1: はい、短時間でも「まったく動かない」よりは明らかにプラスの効果があると考えられています。厚生労働省の身体活動ガイド2023では、理想的な目標として1日60分以上の身体活動や週150〜300分の中強度の運動が示されていますが1、「少しでも活動量を増やすこと」が重要だと強調されています。
メタ解析でも、週数回、20〜30分程度の有酸素運動や筋トレを行うことで、実行機能や記憶などの認知機能が小〜中程度改善したという結果が報告されています1314。1日10分の速歩きを通勤や買い物に組み込むだけでも、「脳への血流を増やし、気分をリセットする」効果が期待できます。最初は10分から、慣れてきたら15分、20分と少しずつ伸ばしていきましょう。
Q2: 徹夜で仕事をしたほうがクリエイティブになれる気がします。本当に睡眠を優先したほうがいいのでしょうか?
A2: 短期的には「徹夜した後のテンション」でアイデアが出ているように感じることがありますが、研究では、睡眠不足が実行機能や注意力、判断力を低下させることが繰り返し示されています212。自分では「冴えている」と感じていても、客観的に見るとミスが増えたり、アイデアの質が落ちていることも少なくありません。
また、徹夜を繰り返す生活は、うつ病や不安障害、生活習慣病、将来の認知症リスクの増加とも関連しています21516。クリエイティブな仕事を長く続けるためには、「締め切り前に徹夜する」ことを例外的な手段にとどめ、ふだんは睡眠時間を確保する働き方を模索することが大切です。
Q3: 最近、名前や約束を忘れることが増えました。年齢のせいなのか、認知症の前ぶれなのか不安です。
A3: 加齢による「年相応の物忘れ」と、認知症・MCIによる物忘れには違いがあります。一般的には、「出来事の一部を思い出せない(名前がすぐ出てこないが、あとで思い出す)」のは年相応の変化であることが多く、「出来事そのものを忘れている(会ったこと自体を覚えていない)」場合は病気の可能性が高いとされています12。
とはいえ、自己判断だけで不安を抱え続けるのは負担が大きいものです。「最近の出来事を繰り返し忘れる」「仕事や家事に支障が出てきた」「家族や同僚から心配される」といった場合は、かかりつけ医やもの忘れ外来、認知症疾患医療センターなどで相談してみてください。早期に原因を調べることで、対策を立てやすくなります。
Q4: スマホを枕元に置いて寝ていますが、脳や睡眠にどんな悪影響がありますか?
A4: 枕元のスマホ自体が直接「脳を傷つける」わけではありませんが、ブルーライトや通知によって睡眠の質が下がるリスクがあります。睡眠ガイド2023でも、就寝前の強い光刺激や精神的な興奮を避けることが推奨されています2。
枕元にスマホがあると、通知が鳴るたびに目が覚めたり、ちょっとしたきっかけでSNSやニュースを見始めてしまったりしがちです。その結果、入眠が遅れたり、夜中に何度も目が覚めるなど、睡眠の質が低下してしまいます9。可能であれば、スマホはベッドから手の届かない場所で充電し、目覚まし時計は別に用意するのがおすすめです。
Q5: エナジードリンクやカフェインは、脳にとってどこまで安全ですか?
A5: カフェインは、眠気を一時的に覚ましたり、集中力を高めたりする効果がありますが、摂り過ぎると睡眠の質を下げたり、動悸・不安感・胃の不快感などを引き起こすことがあります。特に夕方以降の大量摂取は、入眠を妨げ、睡眠不足を通じて脳の疲れを悪化させる可能性があります2。
エナジードリンクは、カフェインに加えて糖分も多く含まれているものが多く、血糖値の急激な上下による疲労感や眠気の悪化につながることもあります。一般には、1日の総カフェイン量の上限や、妊娠中・授乳中のカフェイン制限が各種ガイドラインで示されていますので、自分の体質やライフステージに合わせて、無理のない範囲で利用することが大切です。眠気をカフェインだけでごまかすのではなく、「睡眠時間を確保する」「短い昼寝を活用する」といった根本的な対応も並行して行いましょう。
Q6: 脳トレアプリやパズルゲームは、本当に認知症予防や創造性アップに意味がありますか?
A6: 多くの研究で、脳トレアプリやパズルゲームなどの「認知トレーニング」は、トレーニングした課題に近いテストの成績を改善する効果が示されていますが、日常生活全般の能力や認知症リスクの大幅な低下にまでつながるかどうかは、まだはっきりしていません19。
楽しみとして続けられるのであれば、脳トレも「頭のストレッチ」の一つとして取り入れる価値がありますが、「これさえやれば認知症を防げる」「他のことは何もしなくていい」という過度な期待は持たないほうがよいでしょう。運動・睡眠・食事・社会的交流・読書や学習など、複数の要素を組み合わせて脳全体をケアすることが重要です。
Q7: 魚が苦手であまり食べられません。DHAのサプリを飲めば、脳に良い効果は同じですか?
A7: 日本の高齢者を対象とした研究では、血中のDHA・EPAの濃度が高い人ほど、長期的な認知機能低下のリスクが低かったことが報告されています68。しかし、その効果が「魚から摂った場合」と「サプリから摂った場合」で完全に同じかどうかについては、まだはっきりした結論は出ていません。
魚にはDHA・EPA以外にも、たんぱく質やミネラルなどさまざまな栄養素が含まれています。サプリメントはあくまで補助的な位置づけと考え、まずは豆類・ナッツ・緑黄色野菜など、他の食材からも栄養バランスを整えることを意識しましょう。サプリメントの利用を検討する場合は、用量や持病との相互作用について、かかりつけ医や薬剤師に相談することをおすすめします。
Q8: 仕事と家事・育児で一日中忙しく、自由時間がほとんどありません。それでも脳の健康と創造性を守るにはどうすればいいですか?
A8: 小さなお子さんがいる方や、介護と仕事を両立している方にとって、「自分の時間」を確保するのは簡単なことではありません。そのような状況だからこそ、「長い時間を確保する」よりも、「日常生活の中に小さな工夫を忍ばせる」という発想が大切になります。
例えば、子どもと一緒に散歩をしながら10分だけ速歩きしてみる、家事の合間に好きな音楽を流して歌ってみる、寝る前の5分だけ日記に今日の出来事を書いてみる、といった工夫です。これらは一見ささやかですが、積み重ねることで「自分の脳と心を大切にしている」という感覚につながり、長期的な健康維持にも役立ちます。
「時間がないから何もできない」と考えるよりも、「今の生活の中で、1〜5分だけなら何ができるか?」と問いかけてみると、新しい選択肢が見えてくるかもしれません。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
ストレスの多い現代日本で、仕事や家庭の責任を果たしながら創造性を保ち続けることは、決して簡単ではありません。「ひらめきが出ない」「頭が回らない」と感じるとき、多くの人は「自分の才能が足りない」「年齢のせいだ」と自分を責めてしまいます。しかし、脳科学や公的ガイドラインの視点から見ると、その背景には睡眠不足や運動不足、食事の偏り、スマートフォンの使い方、長期的なストレスといった、具体的で調整可能な要因がたくさん隠れています12345。
大人になってからでも、運動・睡眠・食事・読書や学習・音楽や趣味・デジタル機器との付き合い方を少しずつ整えていくことで、脳の可塑性を活かし、認知機能や創造性を支える土台を強くしていくことができます131415161718。同時に、うつ病や認知症など、生活習慣だけでは説明できない症状が隠れている場合もあります。そのときは、「自分だけで何とかしなければ」と抱え込まず、医療機関や産業医、相談窓口を頼ることが大切です1012。
この記事が、「脳の疲れ」や「ひらめきの不調」を、自分を責める材料ではなく、「生活や働き方を見直すサイン」として捉え直すきっかけになれば幸いです。あなたの脳と心を大切にしながら、自分らしいペースで創造的な仕事や暮らしを続けていけるよう、小さな一歩から始めてみてください。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、厚生労働省や国立長寿医療研究センター(NCGG)、世界保健機関(WHO)、Lancet Commission などの公的機関・専門家グループの資料を中心に参照し、クリエイティブ職・知的労働者の視点から再構成しました125101516。
原稿の作成にあたっては、最新のAI技術を活用して文献検索や下書きの整理を行ったうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断と責任は、すべてJHO編集部にあります。
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参考文献
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