顔や腕、首などに赤くてかゆい湿疹が繰り返しできると、「これはアトピー性皮膚炎かも?」「家族や職場の人にうつったらどうしよう」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
特にお子さんにアトピー性皮膚炎がある場合、「きょうだいや自分にうつるのでは?」「保育園や学校に行かせてもいいの?」と、誰にも相談できず一人で抱え込んでしまう保護者の方も少なくありません。
結論からいうと、アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではなく、人から人へうつる病気ではありません。ただし、アトピー性皮膚炎の上に「とびひ」やヘルペスなどの感染症が重なった場合、その感染症のほうがうつることがあります。
本記事では、日本のガイドラインや世界の研究データにもとづき、アトピー性皮膚炎の「うつる・うつらない」の正しい仕組み、原因と悪化要因、治療法、日常生活でのセルフケア、妊娠・授乳・仕事・学校への影響、受診の目安まで、Japanese Health(JHO)編集部が丁寧に整理して解説します。
最後までお読みいただくことで、「アトピー性皮膚炎はうつる病気なのか」という不安だけでなく、「これからどう付き合っていけばよいか」「どのタイミングで医療機関に相談すればよいか」が具体的にイメージできるようになることを目指しています。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、主に日本皮膚科学会・日本アレルギー学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」1や、その英語版エグゼクティブサマリー2、アメリカのアレルギー学会によるアトピー性皮膚炎ガイドライン3、広島県のAsa Studyをはじめとする疫学研究4、皮膚バリアや遺伝子(フィラグリン)に関する研究5,17、細菌やウイルス感染に関する論文6,7,8、保湿による予防効果を検証したランダム化比較試験9,10,16、生活の質(QOL)に関する研究など11、信頼できる一次情報に基づいています。
これらの一次情報源をもとに、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら記事を作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:アトピー性皮膚炎の概要や基本的治療をまとめた資料12など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本皮膚科学会・日本アレルギー学会、米国アレルギー学会、WHO、各種レビュー論文・メタアナリシスなど、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,13,14,15。
- 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:日本アトピー協会などによるQ&Aや啓発資料を参考に、「アトピーは感染症ではなく、人にうつる病気ではない」といったメッセージの伝え方を工夫しています15。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会のページをご覧ください。
要点まとめ
- アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではなく、人にうつる病気ではありません。皮膚バリアの異常とアレルギー体質(免疫の反応のしやすさ)が重なって起こる慢性的な湿疹です1,2。
- 家族内で複数人がアトピー性皮膚炎になるのは、「うつった」からではなく、遺伝的な体質(フィラグリン遺伝子など)や生活環境が似ているためと考えられています4,5,17。
- 一方で、アトピー性皮膚炎の皮膚に「とびひ(伝染性膿痂疹)」やヘルペス、カンジダなどの感染症が重なると、その感染症のほうは周囲にうつる可能性があり、早めの受診と治療が必要です6,7,8。
- 治療の基本は、毎日の保湿による皮膚バリアの補強と、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などで炎症をコントロールすること、そして汗・乾燥・ストレスなどの悪化因子への対策です1,2,3,12。
- 中等症〜重症の場合には、シクロスポリンなどの内服薬、デュピルマブなどのバイオ製剤、JAK阻害薬といった選択肢もあり、近年はより多くの方が症状を大きく改善できるようになってきました3,13。
- 乳児期からの保湿でアトピーを予防できるかについては、効果があるとする研究と、明らかな予防効果が見られなかった研究の両方があり、現時点では「役立つ可能性はあるが、100%予防できるわけではない」という慎重な見方が一般的です9,10,16。
- 強い痛みや広いただれ、高熱、目の痛み・視力低下などの危険なサインがあるときは、アトピーの悪化だけでなく重い感染症の可能性もあるため、救急外来や119番通報も含めて早急な対応が必要です6,7。
「人にうつるのでは?」「仕事や学校に影響しないか心配」「ステロイドや新しい薬が怖い」といった不安は、アトピー性皮膚炎の方やそのご家族の多くが抱えるものです。
そこでこの記事では、まずアトピー性皮膚炎の基本的な仕組みとうつる・うつらないの正しい理解からスタートし、そのうえで皮膚バリア・遺伝・環境といった要因を整理します。その後、日常生活でできるセルフケア、医療機関で行われる標準治療、妊娠や子育て、仕事・学校への影響まで、段階的に読み進められる構成にしました。
必要に応じて、JapaneseHealth.org(JHO)のトップページや、今後公開予定の関連解説記事とあわせて読むことで、ご自身やご家族の状態を多面的に理解しやすくなるはずです。
この記事を読み進めることで、「自分や家族のアトピー性皮膚炎は人にうつるのか」「今日から何を変えていけばよいか」「いつ・どこで誰に相談すべきか」が具体的にイメージできるようになることを目指します。
第1部:アトピー性皮膚炎の基本と「うつる・うつらない」の仕組み
まずは、アトピー性皮膚炎がどのような病気なのか、なぜ「うつる」と誤解されやすいのかを整理します。そのうえで、日常生活や環境要因との関係を確認していきましょう。
1.1. アトピー性皮膚炎とは?基本的なメカニズム
日本皮膚科学会・日本アレルギー学会のガイドラインによると、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis: AD)とは、かゆみを伴う湿疹が、慢性的に(長く続く・繰り返す)経過をとり、年齢によって特徴的な部位に出やすい皮膚疾患と定義されています1,2。
簡単にいうと、「皮膚のバリア機能が弱く、アレルギー体質の影響を受けやすい人に起こる、強いかゆみを伴う湿疹」がアトピー性皮膚炎です。生まれつきの体質に加え、乾燥・汗・ストレス・ダニやハウスダストなどの日常的な刺激が重なって悪化しやすくなります1,12。
皮膚を家やお城の「外壁」にたとえると、アトピー性皮膚炎では外壁のレンガやモルタルに当たる角層(かくそう)や皮脂のバランスが崩れ、壁に細かな隙間が空いているような状態です。その隙間から水分が逃げやすく、ほこりや細菌、アレルゲン(ダニや花粉など)が入り込みやすくなり、免疫が過剰に反応して炎症やかゆみが続きます1,8。
1.2. 湿疹・皮膚炎のいろいろなタイプとアトピーの違い
「湿疹(しっしん)」や「皮膚炎」という言葉は、アトピー性皮膚炎だけでなく、さまざまな皮膚トラブルの総称として使われます。例えば、金属アレルギーや化粧品でかぶれる接触皮膚炎、皮脂の分泌が多い頭皮や顔にでる脂漏性皮膚炎、ダニなどによるじんましんなども、見た目は赤くてかゆい湿疹に見えることがあります2。
アトピー性皮膚炎は、これらの中でも「アトピー素因」と呼ばれるアレルギー体質との関連が強い慢性湿疹であり、乳児期から小児期にかけて発症し、思春期〜成人まで続く場合もあります1,4。見た目だけで他の湿疹と区別するのは難しいため、「自分でアトピーと決めつける」ことは避け、必要に応じて皮膚科で診断を受けることが大切です。
1.3. 「アトピーは人にうつるの?」— 感染症ではない理由
アトピー性皮膚炎は、細菌やウイルスそのものが原因で起こる病気ではありません。先ほどの「皮膚の外壁」のたとえの通り、バリア機能の弱さと免疫の過敏さが重なって炎症が続いている状態です1,2。
インフルエンザや新型コロナウイルス、みずぼうそうなどの感染症は、ウイルスや細菌が体内に入り増えることで、人から人へうつります。一方、アトピー性皮膚炎は体質と環境が重なって発症する非感染性の疾患であり、握手や会話、同じお風呂に入る程度で他人にうつることはありません1,2,15。
日本のNPOや医療機関の資料でも、「アトピー性皮膚炎は感染症ではなく、人にうつる病気ではありません」と明確に説明されています15。見た目の赤みやカサカサから「うつりそう」と誤解されることがありますが、そこに細菌やウイルス感染が重なっていない限り、周囲の人が感染症として心配する必要はありません。
1.4. なぜ「家族にうつった」と感じてしまうのか — 遺伝と生活環境
とはいえ、親子やきょうだいでアトピー性皮膚炎が見られることは珍しくありません。これが「家族の中でうつった」と感じやすい一因です。
実際には、アトピー性皮膚炎には遺伝的な要因が関わっており、親やきょうだいにアトピー性皮膚炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患があると、子どもに起こりやすくなることが知られています1,5,17。
特に「フィラグリン(filaggrin)」という皮膚のバリアに重要な役割を果たすタンパク質の遺伝子に変異があると、アトピー性皮膚炎になりやすくなることが多くの研究で示されています。あるメタアナリシスでは、フィラグリン遺伝子に機能低下変異を持つ人は、持たない人に比べてアトピー性皮膚炎になるオッズ比が約3.1倍と報告されています5。
さらに、家族で同じ家に暮らしていれば、部屋の乾燥具合やダニ・ハウスダストの量、ペットの有無、使っている洗剤や入浴習慣など、環境も似通いやすくなります。こうした要因が重なり、「うつった」のではなく「似た体質と環境の結果として、家族内で複数人が発症した」と考えられています4,12。
1.5. 本当にうつるのは「アトピー」ではなく、その上に重なる感染症
ここで注意したいのは、アトピー性皮膚炎そのものはうつらなくても、その上に重なる感染症はうつる可能性があるという点です。
- とびひ(伝染性膿痂疹):アトピーの皮膚に黄色ブドウ球菌などの細菌が増え、じくじくした水ぶくれやかさぶたが広がる病気で、触った手から他の人にも広がることがあります6,7。
- カポジ水痘様発疹症(eczema herpeticum):ヘルペスウイルスがアトピーの皮膚に広がり、発熱や痛みを伴う多数の水ぶくれが生じる重い感染症です7,8。
- カンジダや白癬(いわゆる水虫)などの真菌感染:湿った部分に起こりやすく、人にうつることがあります7。
これらはアトピー性皮膚炎そのものではなく、アトピーの「弱った皮膚」に二次的に起こる感染症です。ですから、「アトピーがうつった」というより、「アトピーがあることで、うつりやすい感染症が起こった」と理解するとイメージしやすいでしょう。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 赤くてかゆい湿疹が数カ月〜数年以上、良くなったり悪くなったりを繰り返している | アトピー性皮膚炎などの慢性湿疹の可能性 |
| 突然、ブツブツが増えてじくじくし、黄色いかさぶたが次々に広がっている | とびひ(細菌感染)の可能性。家族にうつることもあるため早めの受診を |
| 湿疹に加えて強い痛みやピリピリ感、高熱を伴い、小さな水ぶくれが密集している | カポジ水痘様発疹症(ヘルペス)の可能性。救急受診が必要なことも |
| 赤みが輪のように広がり、ふちが盛り上がっている。かゆみが強い | 白癬(みずむし)などの真菌感染の可能性 |
上のような急激な悪化や痛み・発熱を伴う症状がある場合には、「アトピーがうつった」と考えるのではなく、感染症が重なっていないかどうかを早めに医療機関で確認することが重要です。
第2部:身体の内部要因 — 皮膚バリア・遺伝・免疫・ライフステージ
次に、アトピー性皮膚炎と深く関わる「皮膚バリア」「遺伝的素因」「免疫の働き」「ホルモンやライフステージ」の視点から、病気の背景を見ていきます。
2.1. 皮膚バリア異常:角層・フィラグリン・セラミド
アトピー性皮膚炎では、皮膚の一番外側にある角層(かくそう)の構造が崩れ、水分が逃げやすく、外から異物が入りやすい状態になっていることが知られています1,8。角層は、レンガ(角質細胞)とセメント(細胞間脂質)でできた壁のような構造で、その中でもフィラグリンというタンパク質や、セラミドなどの脂質が重要な役割を持っています1,5。
フィラグリンの遺伝子に変異があると、角層の水分保持能が低下し、皮膚が乾燥しやすくなります。これにより、ダニやハウスダスト、細菌などが皮膚から侵入しやすくなり、免疫が過剰に反応して炎症が長引くと考えられています5,8。
2.2. 遺伝的要因とアトピー素因
アトピー性皮膚炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなど、アレルギー性疾患を起こしやすい体質をまとめて「アトピー素因」と呼びます。親やきょうだいにこれらの病気がある場合、子どもにもアトピー性皮膚炎が起こりやすくなることが、数多くの研究で示されています1,4,5,17。
ただし、「遺伝する=必ず発症する」という意味ではありません。例えば、フィラグリン遺伝子の変異があっても、皮膚の保湿ケアや環境整備によって症状が軽く抑えられる人もいれば、明らかな遺伝子変異が見つからなくても環境要因が強く作用して発症する人もいます5,9,10。
重要なのは、「家族にアトピーがいるから自分も必ず重症になる」と悲観しすぎるのではなく、体質を理解したうえで、早めのケアと適切な治療につなげる視点です。
2.3. 免疫の偏りと「アトピー行進(atopic march)」
アトピー性皮膚炎の背景には、免疫の働き方の偏りも重要です。特に、IL-4やIL-13、IL-31といったサイトカイン(免疫細胞が出すメッセージ物質)が、炎症やかゆみに深く関わっていることが分かってきました1,3,13。
乳児期にアトピー性皮膚炎を発症した子どもが、その後、小児ぜんそくやアレルギー性鼻炎など別のアレルギー疾患を続けて発症することがあり、これを「アトピー行進(atopic march)」と呼びます4。皮膚からのアレルゲン侵入が続くと、免疫が「この物質は敵だ」と学習し、気道や鼻でも過敏に反応しやすくなると考えられています。
そのため、乳児期からのアトピー性皮膚炎の適切な治療とスキンケアは、肌の症状を抑えるだけでなく、将来のアレルギーリスクを減らす可能性があると指摘されています9,16。
2.4. ライフステージ:乳児・小児・思春期・成人の違い
アトピー性皮膚炎は、年齢によって出やすい部位や症状の出方が変わります1,4。
- 乳児期(0〜2歳頃):ほほや額、頭、体幹にじゅくじゅくした赤い湿疹が出やすく、よだれやミルクで口の周りがただれやすくなります。
- 幼児〜学童期:肘や膝の裏、首、手首、足首など、関節の内側(屈側)にカサカサして厚くなった湿疹が出やすくなります。
- 思春期〜成人:顔や首、胸・背中、手など、露出部に出やすくなり、仕事や人間関係にも影響しやすくなります。
広島県の小学生を対象としたAsa Studyでは、1年生時点でアトピー性皮膚炎がある子どもの約59%が、6年生までに症状が寛解(ほとんど出なくなる状態)したと報告されています4。一方で、学童期以降も続く人や、成人してから発症する「成人発症型アトピー」の人も一定数いることが分かっています4,14。
2.5. 妊娠・授乳・ホルモンとアトピー性皮膚炎
妊娠・出産・授乳期は、ホルモンバランスや生活リズムの変化により、アトピー性皮膚炎が良くなる場合もあれば、悪化する場合もあります。妊娠中にアトピーが悪化して強いかゆみや不眠に悩まされる方も少なくありません。
日本および海外のガイドラインでは、保湿剤は基本的に妊娠中・授乳中でも安全に使用できるとされています1,3。また、広く使われている外用ステロイドやタクロリムス軟膏も、適切な強さと範囲で使えば、妊娠・授乳期にも使用可能なことが多いとされています1,3。
一方で、シクロスポリンや一部のJAK阻害薬、バイオ製剤など、妊娠中は使用を控えたり慎重な判断が必要な薬もあります3,13。妊娠を希望している方やすでに妊娠している方は、自己判断で薬を中止する前に、必ず皮膚科と産婦人科の両方で相談し、母体と赤ちゃんにとって最もバランスの良い治療方針を一緒に検討することが大切です。
2.6. QOL(生活の質)とメンタルヘルス
アトピー性皮膚炎は、命にかかわる病気ではないことが多い一方で、生活の質(QOL)に大きな影響を与える病気です。強いかゆみで夜中に何度も起きてしまい、昼間の仕事や勉強に集中できない、肌の見た目が気になって人前に出るのが怖いといった悩みが数多く報告されています11。
日本国内のQOL調査でも、アトピー性皮膚炎の患者さんは、睡眠障害や抑うつ、不安、自己肯定感の低下などに悩むことが多いことが示されています11。特に顔や手など、他人の目に触れやすい部位に症状が出る場合、いじめや職場での誤解につながることもあり、医療的な治療と同時に、家族や学校・職場での理解とサポートが欠かせません。
第3部:専門的な診断が必要な状態と危険なサイン
ここでは、アトピー性皮膚炎に合併しやすい感染症や、似た症状を示す別の病気(鑑別疾患)、そして早急に医療機関を受診すべき「危険なサイン」について解説します。
3.1. 黄色ブドウ球菌と「とびひ」などの細菌感染
アトピー性皮膚炎の皮膚には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が高頻度で付着していることが知られています。あるメタアナリシスでは、アトピー性皮膚炎の患者さんの病変部における黄色ブドウ球菌の定着は、アトピーのない人の約10倍以上に達すると報告されています6。
皮膚バリアが弱っているところに黄色ブドウ球菌が増えると、とびひ(伝染性膿痂疹)を起こすことがあります。小さな水ぶくれが破れてじくじくし、黄色いかさぶたが次々に広がっていくような症状が特徴で、強いかゆみを伴います6,7。
とびひは細菌感染症として家族やクラスメイトにうつる可能性があるため、皮膚科や小児科での診断と、適切な抗菌薬治療が必要です。学校や保育園・幼稚園では、医師の指示に従って登校・登園の可否を判断します。
3.2. カポジ水痘様発疹症(ヘルペス感染)とウイルス感染
アトピー性皮膚炎の皮膚にヘルペスウイルスが広がると、カポジ水痘様発疹症(eczema herpeticum)という重症の感染症を起こすことがあります7,8。
高熱や全身倦怠感を伴い、顔や体の広い範囲に小さな水ぶくれが密集して現れ、強い痛みやピリピリ感をともなうことが多い病気です。放置すると目や内臓に広がる危険もあるため、救急外来や皮膚科での早急な診断と抗ウイルス薬治療が必要です。
カポジ水痘様発疹症は、「単なるアトピーの悪化」ではなく、命にかかわる可能性がある状態です。いつもと違う強い痛みや高熱、急速に広がる水ぶくれがある場合には、ただちに医療機関を受診し、迷ったときは119番に相談することも検討しましょう。
3.3. 真菌感染(カンジダ・白癬など)
肌がジメジメしやすい部位(脇の下、股、足の指の間など)では、カンジダや白癬(いわゆる水虫)といったカビ(真菌)による感染が起こることがあります7。アトピー性皮膚炎があると、掻き壊しやすく真菌感染が重なりやすくなるため、治りにくい円形の赤い湿疹や、輪のように広がる赤み、ふちが盛り上がっている病変がある場合には、真菌感染も疑われます。
真菌感染の一部は人にうつる可能性があるため、自己判断でステロイドのみを塗り続けるのではなく、皮膚科で顕微鏡検査などを受けて正確な診断をつけることが大切です。
3.4. 他の病気との鑑別:接触皮膚炎・乾癬・疥癬など
アトピー性皮膚炎に似た症状を示す病気として、金属や化粧品などに対する接触皮膚炎、銀白色の鱗屑を伴う乾癬、ダニが皮膚に寄生する疥癬などがあります2。
特に疥癬は、家族や施設内で人から人へうつる感染症であり、手の指の間や陰部に強いかゆみを伴うことが多い病気です。高齢者施設や医療機関で集団発生することもあるため、「家族全員が急に夜中の強いかゆみを訴える」といった場合には、皮膚科で疥癬の可能性を含めた診察を受ける必要があります。
このように、「アトピーがうつった」と感じられる状況の背景には、実は別の感染症や皮膚疾患が隠れていることも少なくありません。自己判断で薬を塗り続けるのではなく、症状の変化が気になる場合は早めに皮膚科で相談しましょう。
3.5. すぐに受診すべき危険なサイン
- 高熱(38℃以上)や強い倦怠感を伴う
- 湿疹の部位が急速に広がり、痛みやピリピリ感が強い
- 目の周りの赤み・腫れ・痛み、視力の低下がある
- 顔全体や体の広い範囲が赤く腫れ、ヒリヒリとした痛みが強い
- 皮膚が熱を持ち、押すと強い痛みがある(蜂窩織炎が疑われる)
これらの症状がある場合は、単なるアトピーの悪化ではなく、重い感染症や他の病気が隠れている可能性があります。迷うときは、「すぐに受診すべき危険なサイン」と考え、救急外来や休日夜間診療、場合によっては119番に相談してください。
第4部:今日から始める改善アクションプラン
アトピー性皮膚炎は、体質や環境が複雑に絡み合うため、「これだけで必ず治る」という単純な方法はありません。しかし、日々のスキンケアと生活習慣の工夫、適切な薬物治療を組み合わせることで、多くの方が症状を大きく改善することが可能です1,2,3。
ここでは、「今夜から」「今週から」「長期的に」の3つのレベルに分けて、実践しやすいアクションプランを整理します。
4.1. スキンケアの基本:保湿と入浴のコツ
日本のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎の治療の柱として、①スキンケア(保湿) ②外用抗炎症療法 ③悪化因子への対策が挙げられています1,2。そのうち、毎日自宅でできる最も重要なケアが保湿です。
- 入浴はぬるめのお湯で短時間:熱すぎるお湯や長風呂は、皮膚の油分を過剰に奪い、乾燥とかゆみを悪化させます。目安として、38〜40℃程度のお湯で5〜10分ほどを意識しましょう1,12。
- 洗浄料は刺激の少ないものを:ゴシゴシこするのではなく、泡でやさしくなでるように汚れを落とします。ナイロンタオルなどの強い摩擦は避け、手のひらで洗うのがおすすめです1。
- 入浴後5分以内に保湿剤を全身に:タオルで軽く水気を押さえたら、まだ皮膚に少し水分が残っているうちに保湿剤(ヘパリン類似物質、ワセリン、クリームなど)をたっぷり塗りましょう。顔だけでなく、首や体、四肢も含めて「全身のバリアを補強する」イメージです1,9。
4.2. 外用薬(ステロイド・タクロリムスなど)の正しい使い方
炎症が起きている部分には、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの外用抗炎症薬が必要になります1,2,3。日本のガイドラインでは、症状の程度や部位に応じて、ステロイドの強さを使い分けることが推奨されています。
よくある不安として、「ステロイドは怖い」「長く塗ると皮膚が薄くなるのでは?」という声があります。しかし、ガイドラインに沿って適切な強さ・量・期間を守って使用すれば、安全に強い炎症を抑えることができるとされています1,3。
- 医師の指示どおりの回数・期間を守る(独断で減らしたり中止しない)
- 「薄くのばす」ではなく、「必要な量をムラなく塗る」(1FTUという指標など)
- 症状が落ち着いたら、保湿中心の維持療法に切り替える
ステロイドの副作用が心配な場合は、その不安をそのまま医師に伝え、なぜその強さが必要なのか、どのくらいの期間を想定しているのか、長期的な方針を一緒に確認していくことが大切です。
4.3. バイオ製剤・JAK阻害薬など新しい治療の位置づけ
近年、中等症〜重症のアトピー性皮膚炎に対して、デュピルマブなどのバイオ製剤や、JAK阻害薬(ウパダシチニブ、アブロシチニブなど)といった内服薬が登場し、日本でも使える選択肢が増えました3,13。
これらの薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こすサイトカインの働きを標的にして抑えるため、従来の治療では十分にコントロールできなかった重症例でも、症状やかゆみが大きく改善することが多くの臨床試験で示されています3,13。
一方で、費用や長期的な安全性の評価、個々の持病やライフステージ(妊娠希望など)とのバランスを考える必要があるため、「誰にでもすぐ使える薬」というより、標準的な外用療法で十分な効果が得られない方に対して検討される選択肢と考えるとイメージしやすいでしょう。
4.4. 食事・アレルギーとの付き合い方
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は複雑で、「食べ物がアトピーを悪化させているのでは?」と感じる方も多くいます。確かに、乳児期には卵や牛乳、小麦などの食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の悪化に関わっていることがありますが、すべてのアトピー性皮膚炎が食物アレルギーによって起きているわけではありません14。
日本や海外のガイドラインでは、医師の指示なく自己判断で多くの食品を除去することは栄養不良や成長への影響につながるため、慎重であるべきとされています1,3,14。
- 特定の食べ物を食べた直後〜数時間以内に、じんましんや呼吸苦、嘔吐などが出る場合は、アレルギー専門医に相談する
- 「何となく悪い気がする」だけで食品を一律に除去するのではなく、症状日記などでパターンを整理する
- 必要に応じて血液検査(IgE)やプリックテスト、食物負荷試験などを行い、除去の必要性や範囲を専門家と一緒に判断する
4.5. 生活環境の工夫:汗・乾燥・ストレスとの付き合い方
毎日の生活の中にも、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因と、うまく付き合うための工夫がいくつもあります1,12。
- 汗:運動や部活動、通勤で汗をかいたら、できるだけ早めにシャワーや濡れタオルで軽く流し、清潔なタオルで押さえるように水分を取ります。その後、必要に応じて保湿剤を塗り直しましょう。
- 衣類:肌に直接触れる下着やシャツは、綿などのやわらかい素材を選び、タグや縫い目が当たらない工夫をします。ウールや化繊は、かゆみを誘発しやすい場合があります。
- 室内環境:ダニ・ハウスダスト対策として、こまめな掃除や換気、寝具の洗濯を行い、必要に応じて布団乾燥機やダニ対策カバーを活用します12。
- ストレス・睡眠:ストレスや睡眠不足は、かゆみに対する感じ方を強めることがあります。長時間労働や不規則な生活を続けるのではなく、休息時間を確保し、眠れなくても横になって目を閉じるなど、体を休める時間を意識しましょう。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 保湿と入浴習慣の見直し | ぬるめのお湯で短時間入浴し、入浴後5分以内に全身へ保湿剤を塗る |
| Level 2:今週から始めること | 悪化因子の整理と環境調整 | 寝具の洗濯・掃除の頻度を決める/汗をかく場面ごとの対策をメモする |
| Level 3:長期的に続けたいこと | 定期的な受診と治療方針のアップデート | 数カ月ごとに皮膚科で状態を確認し、必要に応じて治療のステップアップや見直しを行う |
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
アトピー性皮膚炎は、生活習慣や市販薬だけでは十分にコントロールできないことが多く、皮膚科など専門家との長期的な付き合いが大きな支えになります。ここでは、受診の目安と診療科の選び方、診察時に役立つポイントを整理します。
5.1. 受診を検討すべきサイン
- かゆみや湿疹が2週間以上続き、日常生活に支障をきたしている
- 市販の保湿剤や弱いステロイドを使っても、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す
- 夜間のかゆみで眠れず、仕事や学校に行けない日が出てきた
- 痛みや高熱、急速に広がる水ぶくれ・かさぶたなど、感染症を疑うサインがある
- 妊娠・授乳中で、薬の使い方に不安がある
- 新しい治療(バイオ製剤やJAK阻害薬など)について相談したい
5.2. 診療科の選び方
- まずは皮膚科へ:アトピー性皮膚炎そのものの診断と治療、合併する感染症の診断は、皮膚科が基本の窓口になります。
- 小児の場合:小児科でもアトピー性皮膚炎の初期対応は可能ですが、長引く・重症・難治例では皮膚科や小児アレルギー専門医への紹介を受けることもあります。
- 食物アレルギーが疑われる場合:小児アレルギー専門医やアレルギー科の受診が役立ちます。
- メンタル面の不調が強い場合:抑うつや不安が強い、学校や仕事に行けないほどつらい場合には、精神科・心療内科と連携しながら支援を受けることも検討されます。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状のメモ・写真:いつから、どこに、どのような症状が出ているのか(特に悪化した時の写真)があると、診断や重症度の判断に役立ちます。
- 使用中の薬や保湿剤のリスト:市販薬を含め、実際に使っている薬や保湿剤を持参すると、塗り方や組み合わせの見直しがしやすくなります。
- 生活習慣・仕事・学校の状況:シフト勤務、長時間労働、部活動の内容など、悪化因子になりうる生活情報も共有できると良いでしょう。
- 費用の目安:日本では健康保険(原則3割負担)が適用されるため、一般的な外来受診と外用薬の処方であれば、1回あたり数千円程度からが目安ですが、重症例でバイオ製剤やJAK阻害薬を使用する場合は自己負担額が高くなることがあります。公費助成や高額療養費制度が利用できるケースもあるため、詳細は医療機関や自治体に確認しましょう。
よくある質問
Q1: アトピー性皮膚炎は人にうつる病気ですか?
A1: アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではなく、人から人へうつる病気ではありません。原因は、皮膚バリアの弱さやアレルギー体質、環境要因などが重なった結果と考えられています1,2,15。握手や会話、同じお風呂に入る程度で周囲の人にアトピーがうつることはありません。
ただし、アトピーの皮膚に「とびひ」やヘルペスなどの感染症が重なっている場合、その感染症はうつる可能性があります。急にじくじくが広がる、高熱や強い痛みを伴うといった症状があるときは、早めに皮膚科や小児科を受診してください6,7,8。
Q2: 親がアトピーだと、子どもにも必ず遺伝しますか?
A2: 親にアトピー性皮膚炎やぜんそく、アレルギー性鼻炎などがあると、子どももアトピー性皮膚炎になりやすくなることは確かです1,4,5,17。特にフィラグリン遺伝子など、皮膚バリアに関わる遺伝子の変異は重要なリスク要因とされています5,17。
しかし、遺伝するのは「病気そのもの」ではなく、「なりやすい体質」です。親がアトピーでも子どもが全く症状が出ないこともあれば、家族にアトピーがなくても環境要因が重なって発症することもあります。早めのスキンケアや環境整備でリスクを減らすことは可能なので、「必ず遺伝する」と決めつけて悲観しすぎる必要はありません。
Q3: アトピーの子どもは、保育園や学校を休んだほうがよいですか?
A3: アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではないため、湿疹があることだけを理由に保育園や学校を休む必要はありません1,12,15。日常生活を送りながら、スキンケアと治療を続けていくことが基本になります。
ただし、とびひやみずぼうそう、インフルエンザなどの感染症を合併している場合は、他の子どもにうつる可能性があるため、一時的に登園・登校を控える必要があります。具体的な判断は、かかりつけ医の意見や園・学校のルールに従いましょう。
Q4: アトピーでもプールや運動をしても大丈夫ですか?
A4: 一般的には、アトピー性皮膚炎があってもプールや運動は可能です。ただし、塩素や汗が刺激となってかゆみや赤みが強くなることがあるため、以下のポイントに注意しましょう1,12。
- プールの前後に皮膚をよく洗い流し、必要に応じて保湿剤を塗る
- 症状がひどくジュクジュクしている部位は、医師と相談して一時的にプールを控える
- 運動時は汗をかいたら早めに拭き取り、濡れたシャツを着替える
運動自体はストレス発散や睡眠改善にもつながるため、上手に付き合いながら続けることが勧められます。
Q5: ステロイド外用薬は長く塗ると怖いですか?
A5: ステロイド外用薬には、炎症をしっかり抑えてアトピー性皮膚炎をコントロールする上で欠かせない役割があります1,3。ガイドラインに沿って適切な強さ・量・期間を守って使えば、長期的にも安全性が高いとされています。
一方で、自己判断で必要以上に強い薬を広範囲に長期間使い続けると、皮膚の薄化や毛細血管の拡張などの副作用が出る可能性があります。そのため、「怖いから全く使わない」か「自己流で使い続ける」のではなく、医師と相談しながら、必要な時に必要な量をしっかり使い、落ち着いたら減らすというバランスが大切です。
Q6: 乳児期から保湿をするとアトピーを予防できますか?
A6: 日本を含むいくつかの研究では、アトピー性皮膚炎のリスクが高い乳児に対して、生後まもなくから毎日保湿剤を塗ることで、発症リスクが減少したと報告されています9。一方で、より大規模な研究では明らかな予防効果が見られなかったという結果もあり、研究結果は一貫していません10,16。
現時点では、「乳児期からの保湿は肌の乾燥を防ぎ、アトピー性皮膚炎の予防に役立つ可能性があるが、これだけで完全に予防できるとは言えない」という慎重な見解が主流です10,16。保護者の方は、保湿を含めたスキンケアを大切にしつつ、発疹が続く場合には早めに小児科や皮膚科で相談するとよいでしょう。
Q7: 妊娠・授乳中でもアトピーの薬を使って大丈夫ですか?
A7: 一般的に、保湿剤は妊娠・授乳中でも安全に使用できるとされています1,3。また、多くの外用ステロイドやタクロリムス軟膏も、適切な範囲と用量であれば妊娠・授乳中に使用可能なことが多いとされています1,3。
一方、シクロスポリンや一部のJAK阻害薬、バイオ製剤など、妊娠中の使用に慎重な判断が必要な薬もあります3,13。妊娠を希望している方や、すでに妊娠・授乳中の方は、自己判断で薬を中止せず、皮膚科と産婦人科の両方で相談し、母体と赤ちゃんにとって最も安全な治療方針を一緒に決めていくことが重要です。
Q8: 大人になればアトピーは自然に治りますか?
A8: 乳児期に発症したアトピー性皮膚炎は、成長とともに改善・寛解するケースが少なくありません。広島県のAsa Studyでは、小学1年生でアトピー性皮膚炎があった子どものうち、約6割が6年生までに寛解したと報告されています4。
しかし、すべての方が大人になると自然に治るわけではなく、思春期〜成人期も症状が続く人や、成人してから新たに発症する「成人発症型アトピー」の人もいます4,14,24。重要なのは、「いつか自然に治るから」と放置するのではなく、適切な治療とセルフケアで症状をコントロールし、生活の質を保つことです。
Q9: アトピーがあると仕事や恋愛に影響しますか?
A9: 顔や首、手など人目につきやすい部分に症状がある場合、見た目が気になって人前に出るのをためらったり、接客業や飲食業などをあきらめてしまう方もいます。また、夜のかゆみと不眠により、日中の集中力が落ちて仕事のパフォーマンスに影響することもあります11。
ただし、近年は治療の選択肢が増え、症状を大きく改善できるケースも増えてきています3,13。一人で抱え込まず、皮膚科で治療の見直しを相談したり、職場やパートナーに病気について説明することで、理解と配慮を得られることも少なくありません。「アトピーだから何もできない」と諦めるのではなく、治療とコミュニケーションの両面から環境を整えていくことが大切です。
Q10: どのタイミングで119番や救急外来を受診すべきですか?
A10: 次のような場合は、アトピーの悪化だけでなく重い感染症や他の緊急性の高い病気が隠れている可能性があります。
- 高熱(38℃以上)が続き、ぐったりしている
- 顔や体の広い範囲に痛みを伴う水ぶくれやただれが急速に広がっている
- 目の周りの腫れや痛み、視力低下がある
- 息苦しさや意識がもうろうとするなど、全身の異常を感じる
こうした症状がある場合は、救急外来を受診したり、119番に相談して指示を仰いでください。判断に迷うときは、「心配しすぎかも」と我慢するのではなく、「念のため相談しておく」くらいの気持ちで早めに行動することが重要です。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
アトピー性皮膚炎は、感染症ではなく、人にうつる病気ではありません。家族内で複数人が発症するのは、遺伝的な体質と生活環境が似ていることが大きな理由であり、「うつった」わけではないと理解していただければと思います。
その一方で、アトピー性皮膚炎の皮膚には細菌やウイルス、カビなどが重なりやすく、とびひやヘルペスなど本当にうつる感染症を起こすことがあります。急な悪化や高熱・強い痛みなどの危険なサインがある場合は、重い感染症の可能性も考え、ためらわずに医療機関や119番に相談してください。
日々の生活では、保湿を中心としたスキンケア、汗や乾燥、ストレスへの対策、そして正しい外用薬の使い方が、症状をコントロールする土台になります。中等症〜重症でコントロールが難しい場合には、バイオ製剤やJAK阻害薬といった新しい治療法も選択肢として存在します。
アトピー性皮膚炎は長い付き合いになることも多い病気ですが、一人で抱え込む必要はありません。皮膚科やアレルギー専門医、家族や職場・学校と協力しながら、自分のペースで治療とセルフケアを続けていくことで、「症状があっても自分らしく暮らせる」状態を目指していくことができます。
本記事の情報は一般的な内容であり、個々の診断や治療方針を直接決めるものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を考える際には、必ず身近な医療機関に相談し、ご自身に合った方針を一緒に検討していきましょう。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、日本皮膚科学会・日本アレルギー学会によるアトピー性皮膚炎診療ガイドライン20211,2や、海外のガイドライン・レビュー論文3,4,5,6,7,8,9,10,11,13,14,24などをもとに、JHO編集部が内容を整理しました。
本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
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