下肢静脈瘤は足の血管がこぶのように浮き出る病気で、見た目の問題だけでなく、足のだるさや痛み、むくみなどの症状を引き起こします。日本の最新ガイドラインや国際的なエビデンスに基づき、現在ではレーザーや高周波による血管内焼灼術が第一選択の治療法とされています12。この記事では、症状のセルフチェックから、保険適用される最新の治療法(グルー治療、硬化療法など)、費用、術後の生活まで、専門的な情報を分かりやすく解説します。
この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
下肢静脈瘤とは?足の血管の病気の基本
夕方になると足が重くだるい、むくんで靴がきつくなる、そして何より足の血管がミミズ腫れのようにボコボコと浮き出て見える——そんなお悩みを抱えていませんか。その気持ち、とてもよく分かります。これは下肢静脈瘤という、足の静脈にある弁が正しく機能しなくなることで起こる病気の典型的なサインです。
科学的には、足から心臓へ血液を戻す流れが重力に負けて逆流し、血管内に血液が溜まってしまう状態です。これは例えるなら、一方通行の道路でゲートが壊れてしまい、車(血液)が逆走して渋滞を引き起こしているようなもの。だからこそ、見た目だけでなく、だるさや痛みといった不快な症状が現れるのです。まずはご自身の足の状態を知ることが、解決への第一歩となります。
このセクションの要点
- 下肢静脈瘤は、足の静脈の弁が壊れ、血液が逆流・停滞する病気です。
- 見た目の血管のこぶだけでなく、足のだるさ、痛み、むくみなどの症状を引き起こします。
なぜ起こる?下肢静脈瘤の主な原因とリスク要因
「なぜ自分だけがこんな症状に?」と感じるかもしれませんが、決して珍しいことではありません。実は多くの人が同じような要因を抱えています。その背景には、遺伝的な体質や、避けられない生活上の要因が複雑に関わっています。
最も大きな原因は、血液の逆流を防ぐ「静脈弁」の機能不全です。長時間の立ち仕事(美容師、調理師、販売員など)、妊娠・出産によるホルモンバランスの変化や腹圧の上昇、加齢による血管の弾力低下、そして遺伝的な要因などが重なると、弁への負担が増大します。そのため、血の巡りをサポートする生活習慣を意識することが、進行予防の鍵となります。
このセクションの要点
- 主な原因は、血液の逆流を防ぐ「静脈弁」が正常に機能しなくなることです。
- 長時間の立ち仕事、妊娠・出産、加齢、遺伝などが主なリスク要因として知られています。
これって静脈瘤?セルフチェックしたい代表的な症状
「ただの足の疲れ」だと思っていた症状が、実は下肢静脈瘤のサインかもしれません。特に、以下のような症状が一つでも当てはまる場合は注意が必要です。ご自身の生活を振り返りながら、チェックしてみましょう。
代表的な症状には、「足の血管が蛇行したり、こぶのように浮き出て見える」「夕方になると足が重く、だるい」「寝ている時に足がつる(こむら返り)」「足にかゆみや湿疹、皮膚の色素沈着がある」「原因不明の足のむくみ」などがあります。これらの症状は、血行不良によって引き起こされるため、特に夕方以降に悪化しやすいのが特徴です。もし気になるサインがあれば、早めに専門医に相談することが大切です。
受診の目安と注意すべきサイン
- 足の皮膚が硬くなったり、茶色っぽく変色してきた。
- 治りにくい湿疹や、皮膚に穴が開いたような状態(潰瘍)ができた。
- 血管が浮き出ている部分が赤く腫れて、強い痛みを伴う。
治療の基本方針:日本の学会推奨ガイドライン
数ある治療法の中から「どれを選べばいいのか分からない」と途方に暮れてしまうお気持ちは、ごく自然なことです。ご安心ください、現在の日本には明確な治療の指針があります。
その背景には、科学的根拠に基づいた専門家たちの合意があります。日本静脈学会1や日本皮膚科学会2などが策定した診療ガイドラインでは、症状のある下肢静脈瘤に対して、体への負担が少ない「血管内熱焼灼術(EVTA)」を第一選択として強く推奨しています。これは、国際的なNICE3やESVS4のガイドラインとも一致しており、いわば「世界標準の治療」です。だからこそ、まずはこの血管内治療について知ることから、安心して治療の検討を始めてみませんか?
このセクションの要点
- 日本の主要な学会ガイドラインは、第一選択の治療法として「血管内熱焼灼術(レーザーや高周波)」を強く推奨しています。
- この推奨は、国際的なガイドラインとも一致する「世界標準」の考え方です。
低侵襲治療①:血管内焼灼術(レーザー・高周波)
「レーザーと高周波、どちらが良いの?」という疑問は、治療を検討する多くの方が抱くものです。情報が色々あって混乱してしまうのも無理はありません。これは、医療が常に新しいデータと共に進化している証拠でもあります。
科学的には、どちらも血管の内側から熱を加えて悪い血管を閉塞させる、という同じ目的を持っています。壊れた血管を熱で「焼き固めて」通行止めにするイメージです。長らく、どちらの治療成績が優れているかについては、Cochrane Database Syst Rev5のような質の高い分析でも議論が続いていました。しかし、Phlebology誌に掲載された2025年の新しい大規模な研究では、治療後24ヶ月時点での再発率は、レーザー治療(EVLA)の方が高周波治療(RFA)よりも有意に低い(5.6% vs 10.2%)という結果が報告されました6。そのため、絶対的な優劣を断定するのではなく、最新のデータとご自身の状況を医師と相談し、最適な方法を選ぶことが重要です。
自分に合った選択をするために
高周波治療(RFA): 術後の痛みが比較的少ない傾向にあるとされ、長期的な有効性を示すデータも豊富です。
レーザー治療(EVLA): 最新の大規模研究で、2年後の再発率がより低い可能性が示されています。最新のエビデンスを重視する場合の有力な選択肢です。
低侵襲治療②:血管内塞栓術(グルー治療)
治療と聞いて、麻酔の注射の痛みや、術後に長期間きついストッキングを履くことへの抵抗感を感じる方は少なくありません。そのお気持ち、とてもよく分かります。
その背景には、まさにそうした患者さんの負担を軽減するために開発された新しい治療法があります。それがシアノアクリレートという医療用の接着剤を用いる「血管内塞栓術(CAC)」、通称「グルー治療」です。これは熱を使わず、血管を内側から「接着して」塞ぐ方法です。水道管の修理で、漏れている箇所を特殊な接着剤でピタッと塞ぐようなイメージです。この方法の最大の利点は、熱を使わないため、血管周囲に麻酔薬を大量に注射する必要がなく、術後の圧迫ストッキングの着用も原則不要な点です。J Vasc Surg Venous Lymphat Disord誌で報告された2025年の日本の全国調査では、血栓症などの合併症リスクも極めて低い(0.59%)ことが確認されています7。だからこそ、もし治療の痛みや術後の快適性を最優先に考えるなら、ご自身がグルー治療の対象となるか医師に尋ねてみるのはいかがでしょうか。
今日から始められること
- 治療中の痛みや術後の圧迫ストッキング着用を避けたい、という希望がご自身にあるか確認してみましょう。
- 専門医の診察の際に「グルー治療に興味がある」と伝え、自分の血管の状態に適しているか相談してみましょう。
治療法のメリット・デメリット徹底比較表
ここまでご紹介した主な治療法について、それぞれの利点と注意点を一覧表にまとめました。ご自身のライフスタイルや価値観に合った治療法を見つけるための参考にしてください。
選択肢 | 主な利点 | 主なリスク | 日本での状況 |
---|---|---|---|
血管内焼灼術 (レーザー/高周波) | 長期的な有効性が高く、標準治療として確立3 | 局所麻酔注射の痛み、稀に神経障害 | 保険適用・広く普及 |
グルー治療 (血管内塞栓術) | 治療中の痛みが少なく、術後の圧迫が不要 | アレルギー反応・静脈炎のリスク7 | 保険適用・認定施設で実施 |
硬化療法 | 注射のみで簡便、細い静脈瘤に有効 | 大元の静脈(伏在静脈)には使えない | 保険適用・外来で実施 |
ストリッピング手術 | 根治性が高く再発が少ない | 体への負担が大きく、入院が必要な場合も | 保険適用・実施施設は減少傾向 |
自分に合った選択をするために
血管内焼灼術: 「最も標準的で実績のある治療を受けたい」と考える方に適しています。
グルー治療: 「とにかく痛みを最小限に、そして術後の生活を快適に過ごしたい」と考える方に適しています。
全て保険適用!治療法別の費用を解説
「最新の治療は魅力的だけど、費用が高額になるのでは…」というご心配は、治療を考える上で最も大きな壁の一つですよね。そのお気持ち、よく分かります。
ですがご安心ください。その背景には、優れた治療を誰もが受けられるようにという日本の医療制度があります。現在主流となっている血管内焼灼術(レーザー・高周波)やグルー治療は、すべて公的医療保険の対象です。足と心臓血管クリニックのような専門施設の情報でも示されている通り9、窓口での自己負担は3割(または1割)となり、さらに高額療養費制度を利用すれば、月の負担上限額を超えた分は払い戻されます。だからこそ、費用を理由に治療を諦める前に、まずは専門クリニックで具体的な見積もりについて相談してみませんか?
以下に、各治療法における費用の目安をまとめました。
治療法 | 保険適用 | 3割負担の窓口支払額 (目安) | 1割負担の窓口支払額 (目安) |
---|---|---|---|
初診・超音波検査 | 適用 | 約 ¥2,700 | 約 ¥900 |
硬化療法 (片足) | 適用 | 約 ¥14,000 | 約 ¥5,000 |
血管内焼灼術 (片足) | 適用 | 約 ¥43,000 – ¥48,000 | 約 ¥15,000 – ¥18,000* |
グルー治療 (片足) | 適用 | 約 ¥53,000 – ¥63,000 | 約 ¥18,000 – ¥21,000* |
ストリッピング手術 | 適用 | 約 ¥31,000 | 約 ¥10,000 |
弾性ストッキング | 適用外(原則自己負担) | ¥7,700 – ¥11,000 | ¥7,700 – ¥11,000 |
*注: 1割負担の場合、血管内焼灼術やグルー治療は高額療養費制度の月額上限に達することが多く、3割負担の場合と比較して自己負担額の差が相対的に小さくなる。
このセクションの要点
- 現在主流の低侵襲治療(レーザー、高周波、グルー)は、すべて公的医療保険が適用されます。
- 「高額療養費制度」を活用することで、家計への負担をさらに軽減することが可能です。
再発の可能性は?
「せっかく治療しても、また元に戻ってしまうのでは?」というご心配はもっともです。残念ながら、どんな治療法でも再発の可能性をゼロにすることはできません。これは、下肢静脈瘤が体質や生活習慣も関わる病気だからです。
しかし、血管内焼灼術やグルー治療といった最新の治療法は、従来の手術に比べて再発率が大幅に低いことが多くの研究で示されています。治療した血管が再び開通することは稀ですが、別の場所に新たな静脈瘤が発生する可能性があります。そのため、治療後も適度な運動や長時間の同じ姿勢を避けるなど、セルフケアを続けることが、再発予防のためにとても大切になります。
今日から始められること
- ウォーキングなど、ふくらはぎの筋肉を動かす運動を生活に取り入れましょう。
- デスクワークや立ち仕事の合間に、足首を回したり、かかとの上げ下ろし運動をしたりして血行を促しましょう。
よくある質問
手術は痛いですか?怖いです。
最新の治療は、局所麻酔を使った日帰り治療が中心です。麻酔を注射する際にチクッとした痛みはありますが、治療中の痛みはほとんど感じないと答える患者さんが多いです。ご不安な点があれば、医師が丁寧にご説明しますのでご安心ください。
治療費は高額になりますか?
ご安心ください。現在主流となっているレーザー治療、高周波治療、グルー治療は、すべて健康保険が適用されます9。さらに、ひと月の医療費が高額になった場合には「高額療養費制度」を利用でき、自己負担額をさらに抑えることが可能です。具体的な金額については、カウンセリングの際に詳しくご説明します。
治療後、すぐに仕事に戻れますか?
血管内治療は日帰りが基本で、患者さんの体への負担が少ないため、多くの場合、治療の翌日か翌々日にはデスクワークなどの通常のお仕事に復帰が可能です。長期のお休みを取得する必要はありません。
治療しても再発しませんか?
血管内治療は、従来の手術に比べて再発率が低いと報告されていますが、残念ながらゼロではありません。しかし、生活習慣の改善などで再発リスクを低減することは可能ですし、万が一再発した場合でも、状態に応じた追加の治療が可能です。
結論
下肢静脈瘤は、見た目の悩みだけでなく、足のだるさや痛みなど生活の質を低下させる病気ですが、もはや「治らない」「手術が大変」という時代ではありません。日本のガイドラインで推奨される血管内焼灼術をはじめ、痛みの少ないグルー治療など、日帰りで体への負担が少ない治療が主流となっています12。そして、これらの優れた治療はすべて保険適用で受けることが可能です。足の症状を「歳のせい」「体質だから」と諦めずに、まずは一度、血管外科や下肢静脈瘤を専門とするクリニックに相談し、あなたに最適な一歩を踏み出してください。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
参考文献
- 日本静脈学会. 下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術ガイドライン2019. [インターネット]. 2019. 引用日: 2025年11月9日. リンク
- 日本皮膚科学会. 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン(第3版). [インターネット]. 2024. 引用日: 2025年11月9日. リンク
- NICE. Varicose veins: diagnosis and management (QS67). [インターネット]. 2013. 引用日: 2025年11月9日. リンク
- ESVS. ESVS 2022 Clinical Practice Guidelines on the Management of Chronic Venous Disease. [インターネット]. 2022. 引用日: 2025年11月9日. リンク
- Cochrane Database Syst Rev. Endovenous treatments for varicose veins. [インターネット]. 2021. 引用日: 2025年11月9日. リンク
- Phlebology. Comparison of the safety and efficacy between endovenous laser ablation and radiofrequency ablation for great saphenous vein incompetence. [インターネット]. 2025. PMID: 40764269. 引用日: 2025年11月9日. リンク [有料]
- J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 日本における下肢静脈瘤に対するシアノアクリレート塞栓術の全国調査. [インターネット]. 2025. PMID: 39706258. 引用日: 2025年11月9日. リンク [有料]
- J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. Systematic review and meta-analysis of endovenous cyanoacrylate adhesive ablation for incompetent saphenous veins. [インターネット]. 2020. PMID: 31917181. 引用日: 2025年11月9日. リンク [有料]
- 足と心臓血管クリニック. 下肢静脈瘤の治療・手術費用について. [インターネット]. 2025. 引用日: 2025年11月9日. リンク