がん・腫瘍疾患

大腸内視鏡検査の完全ガイド:がん予防の重要性から費用、準備、最新治療まで

大腸内視鏡検査の重要性を理解する上で、まず日本の公的ながん検診制度におけるその位置づけを正確に把握することが不可欠です。国の検診方針と、個々の患者にとっての最適な医療選択は、目的と対象が異なるため、分けて考える必要があります。日本の厚生労働省が推奨する対策型検診(住民検診など)では、40歳以上の男女を対象とした大腸がん検診の標準的な方法は便潜血検査(FIT)です1

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の対策型検診の根幹をなす公式指針:国立がん研究センターが発行する「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」は、便潜血検査を推奨する科学的根拠を明確に示しています2
  • 内視鏡検査の予防効果を示す国際的研究:複数の研究を統合したメタアナリシスにより、定期的な大腸内視鏡検査ががん死亡率を大幅に低下させる効果が示されています6

要点まとめ

  • 日本の公的な対策型検診(住民検診など)では、まず「便潜血検査」で広くスクリーニングを行うことが推奨されています1
  • 大腸内視鏡検査は、がんになる前のポリープを発見しその場で切除できるため、唯一「がんを予防できる」検査とされています5
  • 検査の苦痛は、鎮静剤の使用や炭酸ガスの送気、技術の進歩により大幅に軽減されており、安心して受けられる環境が整っています16
  • 検査後のフォローアップは個々のリスクに応じて決まり、ポリープがなければ5年後、高リスクの場合は1年後の再検査が推奨されます19

大腸がん検診における内視鏡検査の位置づけ:日本の公式ガイドラインを読み解く

「大腸がん検診」と聞くと、多くの人が直接的な内視鏡検査を思い浮かべるかもしれません。しかし、日本の公衆衛生戦略は、より緻密で段階的なアプローチを採用しています。その背景には、個人の利益と集団全体の利益を両立させるという、科学的根拠に基づいた考え方があります。この仕組みは、まず広くて目の細かい網で魚をすくい上げ、その中から特定の魚だけを専門家の手で選り分ける漁に似ています。

科学的には、この最初の「網」にあたるのが、便潜血検査免疫法(FIT)です。厚生労働省は、この方法を40歳以上の男女を対象とする対策型検診の標準として「推奨グレードA」に位置づけています。「国立がん研究センター」の2024年度版ガイドラインは、この検査法が死亡率を減少させる十分な科学的証拠を持つと結論付けています12。受診者の身体的負担がほとんどなく、低コストで多くの人々を検査できるため、社会全体でがんによる死亡を減らす上で非常に効率的なのです。

その一方で、全大腸内視鏡検査(トータルコロノスコピー)は、対策型検診としては「推奨グレードC」とされています1。これは決して内視鏡検査の有効性が低いという意味ではありません。むしろ、症状のない大多数の人々を対象とする集団検診として一斉に実施するには、検査前の下剤服用という負担や、ごく稀ながら重篤な偶発症のリスクといった「不利益が無視できない」という理由に基づいています2。つまり、個人の医療選択としては、大腸内視鏡検査は依然として「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」です。特に、便潜血検査で陽性反応が出た場合の精密検査として、あるいは血便などの症状がある場合の診断検査としては、この検査が強く推奨されます31

このセクションの要点

  • 日本の対策型大腸がん検診の第一選択は「便潜血検査(FIT)」であり、これは死亡率減少効果が確立された推奨グレードAの方法です。
  • 全大腸内視鏡検査は、対策型検診としては推奨グレードCですが、これは集団検診としての不利益を考慮したものであり、精密検査や診断検査における「ゴールドスタンダード」としての価値は揺るぎません。

大腸内視鏡検査がもたらす最大の利益:がん死亡率低下への科学的根拠

大腸内視鏡検査がなぜこれほど重要視されるのか、その核心は「発見」と「予防」を同時に行えるという他に類を見ない能力にあります。この検査は、単に病気を探す探偵であるだけでなく、将来の災いの芽をその場で摘み取ってしまう庭師のような役割も果たします。この二重機能こそが、他のどのがん検診にもない、大腸内視鏡検査だけの強力な利点です。

その仕組みの背景には、大腸がんの発生過程があります。科学的には、大腸がんの多くは「腺腫(せんしゅ)」と呼ばれる良性のポリープが、数年から十数年かけてゆっくりとがん化することで発生します。「国立がん研究センター」の情報によれば、このポリープの段階で切除(ポリペクトミー)することは、将来のがん化を未然に防ぐ「一次予防」そのものなのです5。この有効性は国際的な大規模研究によっても裏付けられています。2023年に医学誌『Cancers』で発表された複数の研究を統合したメタアナリシスでは、10年ごとの大腸内視鏡検査が大腸がんによる死亡率を73%も減少させると推定されています(率比 0.27、95%信頼区間 0.21-0.35)6

ただし、検査の有効性は、誰が実施しても同じというわけではありません。検査の質を測る重要な指標として「腺腫発見率(Adenoma Detection Rate: ADR)」があります。これは、検査医がスクリーニング検査において、少なくとも1つ以上の腺腫を発見する割合を指します。2020年の医学誌『Annals of Medicine』に掲載されたレビュー論文によると、ADRが高い医師による検査ほど、検査後に見つかる大腸がん(インターバルがん)の発生率や死亡率が低いことが科学的に証明されています4。これは、検査機器の性能だけでなく、医師の技術と丁寧さが患者の未来を大きく左右することを示唆しています。

このセクションの要点

  • 大腸内視鏡検査は、病変の「診断」と、がんの前段階であるポリープの「切除(予防)」を同時に行える唯一の検査です。
  • 10年ごとの定期的な内視鏡検査は、大腸がんによる死亡率を73%減少させると推定されており、その効果は科学的に確立されています。

検査の全貌:準備から回復までのステップ・バイ・ステップガイド

「検査は痛いのだろうか」「下剤を飲むのが大変だと聞く」——。大腸内視鏡検査は、多くの人にとって未知の体験であり、様々な不安がつきものです。しかし、事前に全体の流れを正確に知ることで、漠然とした不安は具体的な準備へと変わり、心構えができます。ここでは、検査の準備から当日の手順、そして回復までの全工程を段階的に解説します。

検査の精度を左右する最も重要なステップが、大腸内を空にしてきれいにする「前処置」です。これが不十分だと、小さな病変が見逃される原因となりかねません4。検査前日は、うどんやおかゆなど、消化の良い繊維質の少ない食事を摂るよう指示され、多くの医療機関では専用の「検査食」も用意されています7。そして、多くの方が最も負担に感じるとされるのが、腸管洗浄剤(下剤)の服用です2。検査当日、または前日の夜から、約2リットルの液体状の下剤を数時間かけて服用します5。この負担を軽減するため、近年では下剤を前日の夜と検査当日の朝に分けて服用する「分割投与法」が主流です。この方法は、一度に全て服用するよりも腸管の洗浄度を有意に向上させることが、複数の研究で明らかになっています(オッズ比 2.5)4

検査当日は、受付を済ませ検査着に着替えた後、多くの場合、鎮静剤や鎮痛剤が静脈から注射されます10。これにより、うとうとと眠っているようなリラックスした状態で検査を受けることが可能です5。医師が肛門から内視鏡スコープをゆっくりと挿入し、大腸の最も奥にある盲腸まで進めた後、スコープを抜きながら粘膜を隅々まで観察します。検査時間自体は、通常15分から30分程度です7。検査終了後は、30分から1時間ほど回復室で休み、意識がはっきりしてから帰宅となります11

今日から始められること

  • 検査日が決まったら、前日の食事内容(検査食の利用など)や下剤の飲み方(分割投与法の希望など)について、事前に医療機関に相談・確認しておきましょう。
  • 鎮静剤を使用した日は終日、車やバイク、自転車の運転はできません。帰宅手段をあらかじめ確保しておくことが重要です。

リスクと安全性の徹底分析:偶発症の頻度と予防策

「腸に穴が開くことがあると聞いたけれど、本当だろうか」——。どんな医療行為にもリスクは伴いますが、その頻度と内容を正しく知ることが、過度な不安を和らげる第一歩です。大腸内視鏡検査は非常に安全性の高い検査ですが、具体的な数値を客観的に理解しておくことが重要です。

リスクは、単に観察のみで終了する「診断的検査」と、ポリープ切除などを行う「治療的検査」とで大きく異なります。「日本消化器内視鏡学会(JGES)」の全国調査報告によると、観察のみの大腸内視鏡検査における腸管穿孔(腸に穴が開くこと)の発生頻度は、約381万件の検査に対し200件、すなわち約0.005%と極めて低い確率です12。これは2万件に1件という頻度であり、非常に稀な事象であることがわかります。

ポリープ切除などの処置が加わる「治療的内視鏡検査」では、リスクはわずかに上昇します。同じくJGESの全国調査では、大腸ポリープ切除術における主な偶発症として、後出血が0.47%、穿孔が0.048%と報告されています13。また、検査前の下剤服用にも注意が必要です。「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」は、経口腸管洗浄剤の服用に伴う腸閉塞や腸管穿孔のリスクについて注意喚起を行っており、特に高齢者や腸管狭窄(腸が狭くなっている)の疑いがある方などは慎重な判断が求められます14

受診の目安と注意すべきサイン

  • 下剤の服用中に、我慢できないほどの激しい腹痛や嘔吐が続く場合。
  • 下剤を飲んでも全く排便がない場合。
  • 検査後、出血が止まらない、量が多い、または強い腹痛が続く場合。

これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、検査を受けた医療機関に連絡してください。

患者の視点から:不安、痛み、羞恥心にどう向き合うか

検査そのものよりも2リットル近い下剤を飲む過程や、スコープ挿入時の痛み、肛門からカメラを入れることへの羞恥心が、受診をためらわせる大きな要因です。多くの方が、これらの身体的・心理的な負担に対して大きな不安やストレスを感じていることを、医療者は理解しています。現在では、鎮静剤の使用やプライバシーへの配慮など、苦痛を最小限に抑える様々な工夫があります。遠慮なく医師に相談し、ご自身に合った方法を選択することが可能です。

多くの方が最もつらいと感じる下剤の服用ですが15、近年ではより少量で効果のある下剤や、味が改善されたものも登場しています。また、前述の「分割投与法」は、一度に飲む負担を軽減する効果も期待できます11。検査中の痛みへの不安は、鎮静剤の使用で効果的に解決できます1016。リラックスした状態で苦痛を感じることなく検査を終えることが可能です。さらに、体内に吸収されやすい炭酸ガスを使用して腹部の張りを軽減する工夫も普及しています15

「もしがんだと診断されたら」という恐怖も大きな障壁です17。しかし、大腸がんは早期に発見すれば、内視鏡治療だけで完治できる可能性が非常に高いがんです5。検査を受けることは、未来の健康を守るための最も確実な一歩です。また、羞恥心に対しては、多くの医療機関がプライバシーに配慮し、女性医師による検査を選択できる施設も増えています10

今日から始められること

  • 検査に関する不安(痛み、羞恥心、下剤など)をリストアップし、事前の診察時に医師や看護師に具体的に伝えてみましょう。
  • 女性医師を希望する場合や、プライバシーに配慮した施設(個室の待合室など)を重視する場合は、事前に医療機関のウェブサイトなどで確認しましょう。

費用の全体像:保険適用と自治体の助成制度

大腸内視鏡検査にかかる費用は、受診の目的によって大きく異なります。何らかの症状があって医師が必要と判断した場合や、便潜血検査陽性による精密検査では健康保険が適用され、自己負担は通常3割となります。一方で、人間ドックなど症状がない場合の検査は自費診療となります。

保険適用の場合、費用は検査内容によって段階的に変わります。港北肛門クリニックのウェブサイトで示されているように、観察のみであれば5,000円~8,000円程度、組織の一部を採取する生検・病理組織検査を行うと11,000円~15,000円程度、ポリープを切除した場合は20,000円~40,000円程度が一般的な目安です1819。これらはあくまで目安であり、使用する薬剤やポリープの数・大きさによって変動します。

経済的な負担を軽減するため、多くの市区町村ではがん検診の費用を補助する制度を設けています。例えば、東京都小平市では、市の一次検診で「要精密検査」と判定された方が内視鏡検査を受けた場合、自己負担額のうち最大4,000円を助成しています20。また、練馬区など多くの自治体では、住民税非課税世帯などを対象に、がん検診の自己負担金を免除または減額する制度があります21。ご自身が対象となるか、お住まいの市区町村のウェブサイトや担当窓口で確認することをお勧めします。

今日から始められること

  • 保険適用となるか不明な場合は、まずかかりつけ医に相談しましょう。
  • お住まいの市区町村のウェブサイトで「がん検診 助成」などのキーワードで検索し、利用できる制度がないか確認してみましょう。

検査後のフォローアップ:ポリープ切除後の推奨サーベイランス間隔

大腸内視鏡検査は、一度受けたら終わりではありません。むしろ、個々のリスクに応じた、生涯にわたる健康管理プログラムの始まりと捉えるべきです。検査の結果は、次回の検査をいつ受けるべきかを決定するための、極めて重要な道しるべとなります。

このフォローアップ計画の根拠となるのが、「日本消化器内視鏡学会」が発行する「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」です19。このガイドラインでは、初回の検査所見に基づいて、次回の推奨検査間隔をリスクごとに層別化して提示しています。例えば、初回検査で特に問題となる腫瘍性病変がなかった場合や、がん化のリスクが低い小さなポリープ(10mm未満の腺腫が1〜2個)が見つかっただけの場合は、次回の検査は5年後で十分とされています。しかし、がん化する可能性が比較的高いポリープ(10mm以上の腺腫など)が見つかった場合は、1年後に再度検査を行い、見逃しや新たな病変がないかを慎重に確認する必要があります。この個別化されたサーベイランス計画に従うことが、大腸がんのリスクを効果的に管理する鍵となります。

このセクションの要点

  • 初回の検査で腫瘍性病変がなければ、次回の推奨間隔は5年後です。
  • 高リスクなポリープ(10mm以上など)が発見された場合は、1年後の再検査が推奨されます。
  • 個々の所見に基づいたサーベイランス計画に従うことが、将来のがんリスク管理において重要です。

大腸内視鏡検査以外の選択肢:CTコロノグラフィとの比較

「どうしても内視鏡スコープを挿入するのに抵抗がある」という場合、代替となる検査法も存在します。その代表がCTコロノグラフィ(CTC)、通称「バーチャル大腸内視鏡」です。両者の長所と短所を理解し、自分に合った選択をすることが大切です。

CTCは、CTスキャナで腹部を撮影し、そのデータをコンピュータで3D画像に再構成して、あたかも内視鏡で大腸内を観察しているかのように見せる検査です22。スコープを挿入しないため身体的負担が少ないのが最大の特徴ですが、大腸内視鏡検査と同様に下剤による前処置は必要です。その診断精度は高く、日本消化器病学会のガイドラインによると、6mm以上のポリープに対する感度(病変がある場合に正しく陽性と判定する確率)は59~91%と報告されています23

しかし、両者には決定的な違いがあります。CTCは純粋な「診断検査」であり、ポリープやがんが疑われる病変が見つかっても、その場で組織を採取したり切除したりすることはできません。「日本大腸検査学会」の報告書でも指摘されているように、陽性所見があった場合は、治療を目的として改めて大腸内視鏡検査を受ける必要があります24。この「二度手間」になる可能性が、CTCを選択する際の重要な検討事項です。一方で、腸の癒着が強いなど、何らかの理由で内視鏡検査が困難な場合には、CTCが非常に有用な選択肢となります。

自分に合った選択をするために

大腸内視鏡検査が適している方: 一度の検査で診断から治療(ポリープ切除)まで完結させたい方。ポリープが見つかる可能性が比較的高いと考えられる方。

CTコロノグラフィが選択肢となる方: 過去の手術などで腸の癒着が強く、内視鏡の挿入が困難な方。内視鏡挿入への身体的・心理的負担が極めて大きい方。

信頼できる医療機関の選び方

検査の質は医師の技術に大きく依存するため、どこで検査を受けるかは極めて重要です。質の高い検査を提供している信頼できる医療機関を見分けるには、いくつかの具体的なポイントがあります。

最も重要な指標の一つが、医師の専門資格です。「日本消化器内視鏡学会専門医・指導医」の資格は、内視鏡に関する高度な知識と豊富な経験の証となります10。また、検査の精度と快適性を向上させる先進的な設備の導入状況も重要な基準です。微細な病変も鮮明に映し出す「高解像度内視鏡システム」25、医師の見逃しを減らす「AI診断支援システム」26、検査後のお腹の張りを大幅に軽減する「炭酸ガス(CO2)の使用」15などが挙げられます。

苦痛や不安を最小限に抑えるための患者中心のケア体制も確認すべき点です。苦痛の少ない検査を希望する患者に対し、鎮静剤の使用を積極的に提供しているか、プライバシーが守られる環境が整っているかなども大切な要素です。これらの情報を調べるには、厚生労働省が運営する全国統一の公的サイト「医療情報ネット(ナビイ)」が便利です27。診療科目や地域だけでなく、詳細な条件で医療機関を絞り込むことが可能です。

今日から始められること

  • 気になる医療機関のウェブサイトで、在籍する医師が「日本消化器内視鏡学会専門医」の資格を持っているか確認してみましょう。
  • 「AI診断支援」「炭酸ガス使用」など、苦痛や見逃しを減らすための設備が導入されているかをチェックしましょう。
  • 厚生労働省の「医療情報ネット(ナビイ)」を使って、お住まいの地域の医療機関を検索してみましょう。

未来の健康を守るための、情報に基づいた選択

本稿では、大腸内視鏡検査について、日本の公的ガイドラインから具体的なプロセス、リスク、費用、そして医療機関の選び方まで、多角的に解説してきました。要点を整理すると、公衆衛生の観点からは便潜血検査が最初のステップとして最適ですが、個人のレベルでは、大腸内視鏡検査が、大腸がんによる死亡リスクを大幅に低下させる最も強力な手段であることに疑いの余地はありません。

その理由は、高い診断精度に加え、がんの前駆病変であるポリープをその場で切除することで、がんそのものを「予防」できるという、他の検査にはない唯一無二の利点にあります。検査に伴う様々な障壁は、鎮静剤の使用やAI技術の活用といった医療技術の進歩と、患者に配慮したケア体制によって、着実に克服されつつあります。大腸内視鏡検査を受けるという決断は、自らの健康状態とリスクを正確に把握し、科学的根拠に基づいて将来を守るための、能動的な自己投資です。本稿の知識が、あなたやあなたの大切な人が、医師と対等な立場で話し合い、賢明な選択を下すための一助となることを願っています。

よくある質問

検査前の下剤を飲むのが、一番つらいと聞きましたが本当ですか?

多くの方がそのように感じられますが、近年は改善が進んでいます。以前の2リットル近い量から、より少量の1~1.5リットルで効果のある新しいタイプの下剤が登場しています。また、味もスポーツドリンクに近い風味に改良されたものや、錠剤タイプも選択できます。前日の夜と当日の朝に分けて飲む「分割投与法」も、一度に飲む負担を大きく軽減します11。不安な点は事前に医師に相談し、ご自身に合った方法を選択することが可能です。

検査は痛いのでしょうか?苦しいのが怖いです。

痛みへの不安は、鎮静剤(静脈麻酔)を使用することで大幅に和らげることができます10。多くの場合、うとうとと眠っている間に検査が終わり、苦痛をほとんど感じることがありません。また、検査中にお腹が張る原因となる空気の代わりに、体内に速やかに吸収される炭酸ガスを使用する施設が増えており、検査後の不快感も大きく軽減されています15。苦痛の少ない検査を希望することを、遠慮なく医療機関に伝えてください。

お尻からカメラを入れるのが恥ずかしいです。

羞恥心は、特に女性にとって大きなハードルとなり得ます。その点に配慮し、多くの医療機関では様々な工夫をしています。例えば、検査着は臀部に切れ込みが入っているズボンタイプで、検査中もタオルで体を覆うため、不必要な露出はありません。また、待合室や回復室が個室になっている施設や、女性医師・スタッフが対応する専門外来を設けているクリニックも増えています10。安心して検査を受けられる環境を選ぶことができます。

もし検査でがんが見つかったら、と考えると怖くて受診できません。

そのお気持ちは非常によく分かります。しかし、大腸がんの大きな特徴は、早期に発見すれば極めて高い確率で治癒するがんだということです。特に、ポリープの段階やごく早期のがんであれば、開腹手術ではなく内視鏡治療だけで完治できる可能性が非常に高いのです5。検査を先延ばしにすることで、かえって進行した状態で見つかるリスクを高めてしまいます。検査を受けることは、不安を解消し、ご自身の未来を守るための最も確実で前向きな行動です。

結論

日本の大腸がん対策は、まず「便潜血検査」という安全で広範な網でリスクのある人々をスクリーニングし、陽性となった場合に「大腸内視鏡検査」という高精度な診断・治療ツールで確定診断と早期治療を行う、非常に合理的な二段階システムを採用しています13。個人の健康を守るという観点では、大腸内視鏡検査は、がんそのものを予防できる最も強力な手段です。鎮静剤の使用や技術の進歩により、検査はかつてなく快適で安全なものになっています。本稿で得た知識をもとに、ご自身の健康状態とリスクを正しく理解し、情報に基づいた賢明な選択を下すことが、未来の健康を守るための最も重要な一歩となるでしょう。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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