赤ちゃんのぽっこりと飛び出したおへそ、通称「でべそ」は、多くの保護者にとって心配の種です。その見た目から不安を感じるかもしれませんが、これは「臍(さい)ヘルニア」と呼ばれる状態で、ほとんどの場合は自然に治るため、過度に心配する必要はありません。東京ベイ・浦安市川医療センター1が示すように、医療現場では「そんなに心配しなくても大丈夫です」という言葉で保護者を安心させているほどです。
この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
臍ヘルニアを正しく理解する
大切なお子さんのおへそがぽっこりと膨らんでいるのを見ると、「何か大変な病気なのでは?」と不安になるのは、ごく自然なことです。その気持ち、とてもよく分かります。しかし、その正体を知ることで、冷静な一歩を踏み出すことができます。科学的には、この現象は「臍ヘルニア」と呼ばれ、お腹の壁の筋肉がまだ発達途中であるために起こります。これはまるで、家の門がまだ完全に閉まりきっていないような状態です。そのため、赤ちゃんが泣いたりして、お腹に力が入ったときに、家の中にあるもの(腸)が少しだけ外に顔を出すのです。これは誰のせいでもなく、多くの赤ちゃんが経験する成長の一過程であることを、まずは知っておきましょう。
具体的には、日本小児外科学会2の説明によると、臍ヘルニアとはお腹の中の臓器(主に腸)が、おへその部分から皮膚の下に飛び出した状態を指します。赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいた時、へその緒は「臍輪(さいりん)」という筋肉の穴を通っていました。出生後にこの穴が閉じる過程で、お腹の圧力によって腸が押し出されるのです。これは、BNSSG ICB NHS3が指摘するように、保護者のケアに問題があるわけではありません。
この状態は決して珍しいものではなく、日本の新生児の約10人に1人に見られます。特に、低出生体重児や早産児では発生頻度が高くなることが知られています。また、BAPSによる2017年の報告書4では、アフリカ系の乳児で発生率が高いことも報告されていますが、これは人種的な背景によるものと考えられています。
このセクションの要点
- 臍ヘルニアは、へその緒が通っていた筋肉の穴(臍輪)が完全に閉じる前に、お腹の圧力で腸が押し出される自然な現象です。
- 日本の新生児の約10人に1人が経験する一般的な状態であり、保護者のケアの問題ではありません。
自然治癒のタイムライン
「このぽっこりしたおへそは、本当に自然に元に戻るのだろうか?」と、毎日おへそを見るたびに心配になるかもしれません。先の見えない状況は不安を大きくしますよね。しかし、ここでも赤ちゃんの生命力が主役です。科学的には、赤ちゃんの成長とともに腹筋が発達し、開いていた門(臍輪)が自然に閉じていくことで、ヘルニアは治癒します。これはまるで、両側からゆっくりとスライドドアが閉まっていくようなものです。だからこそ、焦らずにその自然なプロセスを見守ることが大切になります。
保護者にとって最も安心できる事実は、臍ヘルニアの大部分が特別な治療をしなくても自然に治るということです。東京ベイ・浦安市川医療センター1のデータでは、1歳までに約80%、2歳までに約90%が自然に治癒すると報告されています。一方で、BMJ Best Practice5が示すように、欧米のガイドラインでは自然治癒の観察期間をより長く設定しており、4歳から5歳頃まで様子を見ることが一般的です。この違いは、日本の臨床現場がより早期の治癒や美容的な観点を重視する傾向を反映しています。
自然治癒の可能性には、ヘルニアの穴(ヘルニア門)の大きさが影響します。AAFP6のガイドラインによると、一般的に穴の直径が1.5cmより大きい場合は自然に閉じにくく、一方でNCBI BookshelfのStatPearls7によれば、1cm未満の場合は自然に治る可能性が非常に高いとされています。また、2017年のシステマティックレビュー8では、早産児は満期産児に比べて自然治癒しにくい傾向があると報告されています。
このセクションの要点
- 日本のデータでは、臍ヘルニアの約90%が2歳までに自然に治癒します。
- ヘルニアの穴が小さいほど自然治癒の可能性は高まりますが、欧米では4~5歳まで経過観察するのが一般的です。
受診のサイン:観察ポイントと緊急時の見分け方
「もし、万が一危険な状態になったら…」と考えると、夜も眠れなくなるかもしれません。その不安は、お子さんを深く愛しているからこそ生まれるものです。しかし、最悪の事態を過度に心配するよりも、本当に危険なサインだけを正確に知っておくことが、あなたと赤ちゃんを守る盾になります。科学的には、最も注意すべき合併症は「嵌頓(かんとん)」と呼ばれます。これは、飛び出した腸が筋肉の門にはまり込み、戻れなくなる状態です。これはまるで、鍵穴に違う鍵が詰まってしまったようなもので、非常に稀ですが緊急の対応が必要です。だからこそ、その具体的な「危険信号」を知り、それ以外の時は安心して赤ちゃんの笑顔を見守りましょう。
通常の臍ヘルニアは、Nemours KidsHealth9が解説するように、おへその部分に柔らかい膨らみがあり、指で押すと「グジュグジュ」という音を立てながら簡単にお腹の中に戻ります。通常、赤ちゃんが痛がることはありません。
最も注意すべき合併症「嵌頓(かんとん)」は、日本小児外科学会2によると、飛び出した腸がヘルニアの穴にはまり込み、お腹の中に戻らなくなった状態を指します。発生率は0.2%未満と極めて稀ですが、血流が途絶えて腸が壊死する危険があるため、緊急の処置が必要です。
受診の目安と注意すべきサイン
以下の「レッドフラッグ(危険信号)」が見られた場合は、夜間や休日であっても直ちに医療機関を受診してください。
治療法の選択肢:経過観察から積極的治療まで
「様子を見るだけでいいの?」「何かしてあげられることはないの?」と、治療法について迷うのは当然です。どの選択が我が子にとって最善なのか、判断するのは大きな責任と感じられるかもしれません。ここでは、それぞれの治療法がどのような考えに基づいているかを知ることが大切です。科学的には、これらの選択肢は、目的地へのルート選びに似ています。赤ちゃんの自然治癒力を信じてゆっくり進む「経過観察」というルート。専門家の助けを借りて治癒を早める「圧迫療法」というルート。そして、確実な解決を目指す「手術」というルートです。どの道を選ぶにしても、ゴールは同じです。まず、地図全体を眺めて、医師というナビゲーターと一緒に、あなたと赤ちゃんに最適な旅の計画を立ててみませんか?
乳児の臍ヘルニアの治療方針は、大きく分けて「経過観察」「圧迫療法」「手術」の3つがあります。
選択肢1:経過観察(世界的な標準治療)
ほとんどが自然に治り、合併症のリスクも極めて低いため、まずは赤ちゃんの自然治癒力に任せるという考え方です。これは、NHS10などが推奨する世界的な標準治療であり、特に症状がなければ4歳から5歳まで手術を検討せずに様子を見ます。
選択肢2:圧迫療法(日本で普及している積極的治療)
日本小児外科学会2によると、2000年頃から日本で広く行われるようになった治療法で、自然治癒を早め、治癒後の美容的な見た目を改善することが目的です。飛び出したおへそを指で戻し、綿球などを当ててテープで固定しますが、自己判断での圧迫は危険なため、必ず医師の指導のもとで行う必要があります。ニチバン社製の「乳児用へそ圧迫材パック」12のような専用キットもあります。おおぐちこどもクリニック11によれば、治癒が早まり、皮膚のたるみが少なくなるメリットがある一方で、テープによる皮膚のかぶれが最も一般的な副作用です。獨協医科大学埼玉医療センター13のように、有効性に懐疑的な医療機関もあります。
選択肢3:手術(最終的な解決策)
2歳を過ぎても治らない場合や、嵌頓を起こした場合などに検討されます。American College of Surgeons15が説明するように、全身麻酔下で筋肉の穴を縫い合わせる比較的簡単な手術で、京都市立病院16では、傷跡はほとんど目立たないとされています。
自分に合った選択をするために
経過観察: お子さんの自然な治癒力を最大限に信じ、医療的介入を避けたいと考える場合に適しています。世界的な標準治療であり、最も身体的負担の少ない選択です。
圧迫療法: 少しでも早く治してあげたい、また治った後のおへその形をきれいにしたいという美容的な側面を重視する場合に良い選択肢です。ただし、定期的な通院と皮膚トラブルのリスクを考慮する必要があります。
手術: 2歳を過ぎても治らない場合や、穴が大きく自然治癒が期待しにくい場合に、確実な解決を求める選択肢となります。
日本の医療制度の活用法
治療が必要になった場合、「費用はどれくらいかかるのだろう?」という心配が頭をよぎるかもしれません。その不安、よく分かります。しかし、日本には手厚い公的医療制度が整備されています。科学的な治療法は、経済的な負担を心配することなく受けられるようになっています。これは、社会全体で子どもたちの健康を支えようという知恵の結晶です。だからこそ、まずはお金の心配は脇に置いて、お子さんにとって何が最善かを考えることに集中しましょう。必要な手続きを知っておけば、安心して医療の助けを求めることができます。
臍ヘルニアの診察、圧迫療法の指導、そして手術は、いずれも日本の公的医療保険の適用対象です。ただし、shibuya-biyou.com17によると、美容目的で余った皮膚を切除する手術は、自費診療となる場合があります。日本の保険制度には、「B001-8 臍ヘルニア圧迫指導管理料」という項目があり、今日の臨床サポート18によれば、これは圧迫療法が正式な治療指導として認められていることを示しています。さらに、中央区の例19のように、ほとんどの自治体には「子ども医療費助成制度」があり、自己負担分が助成されるため、費用面の心配はほとんどありません。
最初の相談窓口は、かかりつけの小児科で問題ありません。圧迫療法や手術を検討する段階になった場合は、おおぐちこどもクリニック11が示すように、小児外科の専門医を紹介されるのが一般的な流れです。
今日から始められること
- まずはお近くの小児科を受診し、正確な診断と現状の評価を受けてください。
- お住まいの自治体の「子ども医療費助成制度」について確認し、医療証を準備しておきましょう。
- 治療について心配な点や疑問点をリストアップし、医師に相談する準備をしましょう。
保護者の方へのメッセージ
日々の育児の中で、赤ちゃんの「でべそ」は小さな心配事の一つかもしれません。しかし、その一つ一つに真剣に向き合うあなたの愛情は、何よりも尊いものです。大切なのは、パニックにならず、正しい情報に基づいて行動することです。森の子供クリニック21がアドバイスするように、赤ちゃんが泣いてもヘルニアは悪化しません。泣くことを我慢させる必要はないのです。また、Mayo Clinic14は、硬貨などを貼り付ける民間療法は皮膚トラブルの原因となるため絶対に行わないよう警告しています。
最終的に、乳児の臍ヘルニアは非常に予後が良い状態です。経過観察を選ぶか、積極的な治療を選ぶかは、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、医師とよく相談して決めることが重要です。この記事で得た知識をもとに、かかりつけの医師に具体的な質問を投げかけ、ご自身のお子さんにとって最適な方針を見つけてください。正しい情報に基づいた冷静な観察と、専門家との連携が、保護者の不安を和らげ、赤ちゃんの健やかな成長を見守るための鍵となります。
今日から始められること
- おへその見た目だけでなく、硬さや色、赤ちゃんの機嫌など、全体的な様子を毎日観察する習慣をつけましょう。
- 硬貨などを貼る民間療法は絶対に避けてください。
- 不安なことがあれば一人で抱え込まず、かかりつけの小児科医にすぐに相談しましょう。
よくある質問
赤ちゃんが泣くと「でべそ」が大きくなりますが、大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。赤ちゃんが泣いたりいきんだりしてお腹に力が入ると、一時的に膨らみが大きくなりますが、これは臍ヘルニアの正常な経過であり、悪化のサインではありません。赤ちゃんの機嫌が直れば、また元の大きさに戻ります。泣くことを無理にやめさせる必要はありません21。
圧迫療法はいつから始めるのが効果的ですか?
圧迫療法は、腹筋がまだ柔らかい乳児期早期、特に生後1〜4ヶ月頃に開始することが最も効果的とされています。腹筋が発達してくる生後6ヶ月以降に開始すると、効果は低くなる傾向があります。治療を希望される場合は、早めに小児科医や小児外科医に相談することをお勧めします2。
自然に治った後、おへその皮膚がたるんでしまいました。これも治りますか?
ヘルニアの穴が閉じた後も、伸びてしまった皮膚がたるみとして残ることがあります。これは「臍突出症」と呼ばれます。この皮膚のたるみは自然には改善しにくいことが多いですが、健康上の問題はありません。見た目が気になる場合は、成長を待ってから形成外科などで整える手術(保険適用外の場合あり)を検討することもあります17。
硬貨をおへそに貼る民間療法は効果がありますか?
いいえ、絶対に行わないでください。硬貨などをテープで貼り付ける民間療法は、治癒を早める効果がないだけでなく、硬貨の圧迫による皮膚の損傷(潰瘍)や、細菌感染、金属アレルギーなどを引き起こす危険があります。治療は必ず医師の指導のもとで行ってください14。
結論
赤ちゃんの「でべそ」、すなわち臍ヘルニアは、多くの保護者が経験する心配事ですが、その大部分は赤ちゃんの成長とともに自然に解消される一過性の状態です。この記事で解説したように、重要なのは、過度に不安がらず、しかし「嵌頓」の危険なサインは見逃さないよう、日々の冷静な観察を続けることです。治療には経過観察から積極的な圧迫療法、手術まで複数の選択肢があり、どの道を選ぶにせよ、日本の手厚い医療制度がサポートしてくれます。最終的な判断は、信頼できるかかりつけ医と十分に話し合い、ご家族と赤ちゃんにとって最も納得のいく方法を見つけることが、不安を解消し、健やかな成長を見守るための最善の道となるでしょう。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
参考文献
- 東京ベイ・浦安市川医療センター. 臍ヘルニア(さいへるにあ)〜『赤ちゃんのでべそ』そんなに心配しなくても大丈夫です〜. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 一般社団法人日本小児外科学会. 臍ヘルニア. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- BNSSG ICB NHS. Umbilical Hernias in Children – BNSSG Remedy. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- BAPS. Management of paediatric hernia. 2017. [PDF]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- BMJ Best Practice. Umbilical hernia in children – Symptoms, diagnosis and treatment …. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク [有料]
- AAFP. Avoid referring most children with umbilical hernias to a pediatric surgeon until around age four to five years.. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- NCBI Bookshelf. Pediatric Umbilical Hernia – StatPearls. 2023. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- Zens T, et al. Management of Asymptomatic Pediatric Umbilical Hernias: A Systematic Review. ResearchGate. 2017. PMID: 28778691. リンク
- Nemours KidsHealth. Umbilical Hernias. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- NHS. Umbilical hernia repair. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- おおぐちこどもクリニック. 7. 臍ヘルニア. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- ニチバン株式会社. 乳児の臍(さい)ヘルニア圧迫療法に「へそ圧迫材パック」リニューアル発売. 2022. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科. 臍ヘルニア. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- Mayo Clinic. Umbilical hernia – Diagnosis & treatment. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- American College of Surgeons (ACS). Pediatric Umbilical Hernia. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 京都市立病院. 臍(へそ)ヘルニア. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- shibuya-biyou.com. でべその手術を受ける前に読んでおこう【保険・治療・相場】. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 今日の臨床サポート. B001-8 臍ヘルニア圧迫指導管理料. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 中央区. 子ども医療費助成. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 恵比寿こどもクリニック. 赤ちゃんの診療. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク
- 森の子供クリニック. 赤ちゃんのおへそがぽっこり?臍ヘルニアの原因・症状・治療の…. [インターネット]. 引用日: 2025-09-19. リンク