大切なお子様がワクチンを接種するにあたり、「接種後に熱が出たらどうしよう」「どんな副反応があるのだろうか」とご心配されるのは、保護者として当然のことであり、非常に責任感の強い証拠です。そのご不安を、確かな知識に基づく自信へと変える一助となること、それが本稿の目的です。本稿は、単なる情報の羅列ではありません。お子様の健やかな成長を守るための、信頼できる専門的なガイドです。特に、2024年4月1日から日本の定期接種プログラムに正式に導入された新しい「6種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型肝炎混合ワクチン)」に焦点を当てます1。この重要な変更点は、本稿で解説するすべての情報が、現在の日本の医療制度に即した最新のものであることを意味します。
この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
第1章:6種混合ワクチンとは?保護の基盤を築く
「一度にたくさんの種類のワクチンを接種して、赤ちゃんの小さな体に負担がかかるのではないか」— このような懸念を抱くのは、お子様を深く想うからこそです。そのお気持ちは、とても自然なことです。しかし、科学的にはその心配は不要です。乳幼児の免疫システムは、私たちが想像する以上にたくましく、日常生活の中で常に無数の異物と戦っています。混合ワクチンに含まれる成分の数は、それに比べればごくわずかです。
その背景には、ワクチンの「抗原」という物質の働きがあります。科学的には、抗原とは免疫反応を引き起こす「目印」のようなものです。混合ワクチンは、この目印を効率的に免疫システムへ提示する仕組みと言えます。これは、一度の外出で複数の用事を済ませるようなもので、体への負担を増やすのではなく、むしろ接種の痛みや通院の負担といった全体のストレスを大きく減らす、非常に合理的な方法なのです2。日本で承認されている「ゴービック水性懸濁注シリンジ」も、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による厳格な審査をクリアした安全なワクチンです3。
防ぐことができる6つの病気
6種混合ワクチンは、その名の通り、乳幼児期にかかると重症化しやすい6つの深刻な感染症からお子様を守るために設計されています。
- ジフテリア (Diphtheria): 喉の炎症による呼吸困難や、菌の毒素による心筋炎などを起こすことがあります。
- 百日せき (Pertussis): 特有のけいれん性の咳が続き、特に生後6か月未満では無呼吸発作で命に関わることがあります。
- 破傷風 (Tetanus): 傷口から菌が侵入し、毒素によって筋肉のけいれんを起こす致死率の高い病気です。
- ポリオ(急性灰白髄炎)(Poliomyelitis): 手足に麻痺が残ることがあります。
- ヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症 (Haemophilus influenzae type b): 細菌性髄膜炎など重篤な全身感染症の原因となります。
- B型肝炎 (Hepatitis B): 将来的に慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行するリスクがあります。
日本における標準的な接種スケジュール
お子様が最も効果的に免疫を獲得できるよう、科学的に設計された合計4回の接種スケジュールが定められています。初回免疫として生後2か月から3回(各接種の間隔は27日以上あける)、そして追加免疫として3回目の接種完了から60日以上の間隔をあけて1回接種するのが標準的な進め方です。米子市などの自治体の案内にもあるように435、かかりつけの小児科医と相談しながら計画的に進めることが大切です。
このセクションの要点
- 6種混合ワクチンは、ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ、ヒブ感染症、B型肝炎という6つの重篤な病気を予防します。
- 混合ワクチンは接種回数を減らし、子どもと保護者の負担を軽減する科学的で安全な方法です。
第2章:ワクチン接種後の発熱:正常な免疫反応のデータ駆動型分析
ワクチン接種後にお子様の体温が上がると、多くの方が心配になります。しかし、この発熱は「悪いこと」が起きているサインではなく、むしろ体が正常に機能している証拠、「有効性のしるし」と捉えることができます。体の中にワクチンの成分が入ると、免疫システムは「見慣れないものが入ってきた」と認識し、すぐに行動を開始します。その働きは、体内の警備システムが作動する様子に似ています。
具体的には、免疫細胞がサイトカインという情報伝達物質を放出します。このサイトカインは、いわば「全部隊へ、警戒レベルを引き上げよ!」という指令です。この指令が脳の体温調節中枢に届くと、体はあえて体温を上げます。なぜなら、少し体温が高い方が免疫細胞は活発に動け、ウイルスや細菌と戦いやすくなるからです。つまり、発熱は免疫システムが効率的に働くための、体の正常で合理的な生理反応なのです。
日本国内の臨床試験から得られた客観的データ
保護者の皆様が最も知りたいのは、「実際にどれくらいの確率で熱が出るのか」という点でしょう。この疑問に答えるため、日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開している6種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」の審査報告書から、日本人乳児を対象とした客観的なデータを見てみましょう3。この臨床試験では、37.5℃以上の発熱が、皮下接種で67.4%、筋肉内接種で75.8%の乳児に認められました。しかし、ここで極めて重要なのは、比較対象となった他の標準的なワクチンを接種したグループでも63.4%に発熱が見られたという事実です。これは、6種混合ワクチンだけが突出して発熱しやすいわけではないことを示唆しています。
一方で、高熱(38.5℃以上など)の発生頻度はまれで、同じ試験では皮下接種群で0.3%、筋肉内接種群で3.0%でした3。このデータは、ほとんどの発熱が管理可能な範囲に収まることを示しており、保護者の方々にとって安心材料となるでしょう。
接種後の発熱における典型的な経過
ワクチン接種後の発熱には、予測可能なパターンがあります。厚生労働省の資料によると6、通常、発熱は接種後24時間から48時間以内に現れ、ほとんどの場合1〜2日以内に自然に解熱します7。もし48時間を超えても熱が続く、あるいは一旦下がった熱が再び上昇するような場合は、ワクチン副反応以外の原因も考えられるため、医療機関への相談が推奨されます。
このセクションの要点
- 接種後の発熱は、免疫システムが正常に機能している証拠であり、体の合理的な反応です。
- 国内データでは約3人に2人が37.5℃以上の発熱を経験しますが、高熱はまれです。発熱は通常1~2日で自然に治まります。
第3章:その他の副反応の包括的プロファイル
発熱以外にも、ワクチン接種後にはいくつかの反応が見られることがあります。これらは体の免疫システムがワクチンに反応している正常な過程の一部であり、その多くは一時的で自然に軽快します。何が起こりうるかを知っておくことで、冷静にお子様の状態を見守ることができます。
最も頻繁に見られるのは、注射した部位の赤み、腫れ、痛み、しこりといった局所反応です。日本小児科学会の資料でも示されているように8、これは約70%の乳児に見られますが、通常3〜4日で自然に良くなります6。また、機嫌が悪くなる、うとうとする(傾眠)、食欲が一時的に落ちるといった全身性の反応もよく見られます。これらは、体が免疫を獲得するためにエネルギーを使っていることの現れです。
まれ、または非常にまれに見られる副反応(0.1%未満)
これらの事象が発生する可能性は極めて低いですが、知識として持っておくことは重要です。例えば、急な発熱に伴って起こる可能性のある熱性けいれんは、発生頻度が非常に低く、1万回接種あたり1回未満と報告されています89。熱性けいれんの既往があるお子様でも、通常はワクチン接種が可能ですが、事前にかかりつけ医とよく相談することが推奨されます6。
また、重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーの発生率は極めて低く、厚生労働省の報告によれば10万回接種あたり0.08〜0.11件です10。この極めてまれなリスクに対応するため、接種後30分間の医療機関内での待機・観察が強く推奨されています11。これは、万が一の場合に専門家が即座に適切な処置を行えるようにするための、非常に重要な安全対策です。
受診の目安と注意すべきサイン
- 注射部位の赤みや腫れが48時間経っても悪化する、または非常に大きく広がる場合。
- 何時間も激しく泣き続け、なだめることができない場合。
- 普段と比べて明らかに元気がなくぐったりしている様子が見られる場合。
第4章:ワクチン接種後のケアに関する決定版ガイド
お子様がワクチンを接種した後の時間は、保護者にとって少し緊張するかもしれません。しかし、正しい知識があれば、自信を持って穏やかに対応できます。大切なのは、特別なことをするのではなく、普段のケアを少しだけ丁寧に行うことです。
まず、厚生労働省の指針にもあるように11、接種後30分間は医療機関内で待機することが最も重要です。これは、万が一の急な副反応に備えるための不可欠な安全措置です。ご自宅に戻ってからは、接種当日、入浴は問題ありませんが、注射した部位を強くこすらないように注意しましょう。また、激しい運動は避け、静かに過ごさせてあげてください12。
段階的な発熱管理プロトコル
発熱した場合、まずはお子様の全体的な様子を観察してください。体温の数字だけでなく、機嫌が良く、水分(母乳やミルク)が摂れていれば、必ずしもすぐに対処が必要なわけではありません。快適さを保つために衣服を一枚減らしたり、室温を調節したり、こまめな水分補給を心がけましょう。解熱剤は、単に熱を下げるためではなく、高熱でお子様がつらそうにしている、眠れないといった状態を和らげるために使用するのが基本です。日本の乳幼児には、アセトアミノフェンが有効かつ安全な解熱剤として推奨されています6。ただし、キッズドクターなどの専門サイトでも注意喚起されているように13、生後3か月未満の乳児の発熱は、自己判断で解熱剤を使用せず、必ず医療機関を受診してください。
注射部位の局所反応への対応
注射部位の赤み、腫れ、しこりは正常な反応であり、数日で自然に消えていくことを念頭に置き、冷静に見守りましょう14。お子様が痛がる場合は、清潔な布で包んだ冷却パックなどを短時間あてて冷やすと不快感が和らぐことがあります。注射部位を揉んだりマッサージしたりすることは、症状を悪化させる可能性があるため避けてください6。
今日から始められること
- 観察を続ける: お子様の機嫌、食欲、体温など、全体的な様子を注意深く観察してください。
- 快適な環境を保つ: 衣服や室温を調節し、十分な水分補給を心がけます。
- 冷静な対応: ほとんどの反応は一時的で自然に治まることを理解し、落ち着いてケアにあたりましょう。
第5章:医療機関への相談が必要な場合:明確な「レッドフラッグ」ガイド
ほとんどの副反応はご家庭でのケアで対応できますが、中には専門的な判断が必要なサインもあります。どのような場合に医療機関へ連絡すべきか、明確な基準を知っておくことで、ためらわずに行動できます。これらの「レッドフラッグ」は、お子様の安全を守るための重要な道しるべです。
まず、診療時間内にかかりつけの小児科に電話で相談すべき症状があります。キッズドクターなどの専門情報サイトでも指摘されているように13、48時間以上続く発熱や、39℃を超えるような高熱、または時間とともに熱が上昇し続ける場合は相談の目安です15。また、何時間も激しく泣き続けてなだめることができない、普段と比べて明らかに元気がなくぐったりしている、おしっこの量が少ないなど脱水の兆候が見られる場合も同様です。
すぐに受診、または救急車を要請すべき症状
以下の症状は、緊急の対応を要する可能性のあるサインです。ためらわずに救急外来を受診するか、救急車を要請してください。予防接種実施規則においても9、けいれん(ひきつけ)を起こした場合は速やかな医師の診察が定められています。また、アナフィラキシーの兆候(呼吸が苦しそう、ゼーゼーしている、全身にじんましんが出る、顔や唇、喉が腫れるなど)16や、意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりして顔色が悪く体の力が抜けている(低緊張・低反応発作:HHE)といった症状が見られた場合も、直ちに行動が必要です13。
受診の目安と注意すべきサイン
- 緊急性が高いサイン: けいれん、呼吸困難、顔色の悪化、意識の低下。これらは直ちに救急受診が必要です。
- 早めに相談すべきサイン: 48時間以上続く発熱、39℃以上の高熱、激しい泣き、ぐったりしている様子。
よくある質問
接種後に熱が出たら、解熱剤はすぐに使った方がいいですか?
いいえ、必ずしもすぐに使う必要はありません。発熱は免疫が作られている正常な反応です。解熱剤は、熱そのものを下げることよりも、高熱でお子様がつらそうにしている、水分が摂れない、眠れないといった状態を和らげるために使用します。お子様の機嫌が良く、水分が摂れていれば、まずは衣服の調節や水分補給で様子を見てください6。
接種したところが赤く硬くなっています。大丈夫でしょうか?
接種当日はお風呂に入ってもいいですか?
はい、接種当日の入浴は問題ありません。ただし、注射した部位を強くこすったりしないように注意してください。また、長湯や熱いお湯は避け、体を温めすぎないようにしましょう。接種後は体力を消耗している可能性があるので、入浴後はゆっくり休ませてあげてください12。
48時間以上熱が続く場合はなぜ受診が必要なのですか?
ワクチンによる発熱は通常1~2日で治まるため、48時間以上続く場合は、ワクチン副反応以外の原因、例えば、偶然同じ時期にかかった別の感染症(風邪など)の可能性を考える必要があるからです。正確な診断のために、一度かかりつけ医に相談することが推奨されます13。
結論
本稿で詳述したように、6種混合ワクチン接種後の発熱は、免疫システムが正常に機能していることを示す一般的で予測可能な反応です。そのほとんどは一過性で、適切なホームケアによって管理することが可能です。日本国内の臨床試験データは、重篤な副反応の発生率が極めて低いことを明確に示しており、ワクチンの全体的な安全性は非常に高いと言えます。さらに重要なのは、アナフィラキシーのような極めてまれなリスクに対して、接種後30分間の院内待機という体系的な安全対策が講じられている点です。これにより、リスクは最小限に抑えられ、万が一の事態にも迅速に対応できる体制が整っています。保護者の皆様がワクチンの副反応について正しい知識を持つことは、不安を力に変えるための第一歩です。何が正常な反応で、どのような場合に専門家の助けを求めるべきかを理解することで、自信をもってお子様のケアにあたることができます。ワクチンは、6つの深刻な病気からお子様の命と健康を守るための、科学に基づいた最も効果的な手段の一つです。かかりつけの小児科医との信頼関係を大切にし、疑問や不安があればいつでも相談しながら、お子様の健やかな未来のための大切な一歩を踏み出してください。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
参考文献
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- 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 審議結果報告書 令和 5 年 3 月 6 日 医薬・生活衛生局医薬品 … [インターネット]. 2023. 引用日: 2025年9月19日. リンク
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