消化器疾患

慢性肝炎とは?その原因と症状を徹底解説!

肝臓は、体内の化学工場とも称されるほど多岐にわたる重要な機能を担っていますが、その一方で「沈黙の臓器」として知られています。これは、肝臓の細胞が障害を受けても、初期段階では自覚症状がほとんど現れないためです。この特性が、慢性肝炎という病態の発見を遅らせ、気づいた時には病状が深刻に進行しているケースが多い一因となっています。本稿では、この静かなる脅威である慢性肝炎について、その定義から原因、症状、そして日本国内における最新の治療法とサポート体制に至るまで、専門的かつ包括的な解説を行います。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の主要な治療指針: 日本肝臓学会によるB型・C型肝炎の最新治療ガイドラインは、国内の診療における中核的な基準となっています。914
  • 国際的な公衆衛生情報: 世界保健機関(WHO)は、ウイルス性肝炎に関する世界的な動向と推奨事項を提供しています。712

要点まとめ

  • 慢性肝炎は、肝臓の炎症が6か月以上続く状態で、自覚症状がないまま肝硬変や肝がんへ進行する可能性がある「沈黙の病気」です。13
  • C型肝炎の治療は、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場により革命的に進歩し、現在では95%以上の患者でウイルスの完全な排除(治癒)が期待できます。1214
  • アルコールや肥満が原因の肝炎には特効薬がなく、断酒や減量といった生活習慣の改善が治療の基本となります。417
  • 日本では、高額な肝炎治療費を助成する制度や、専門的な医療機関、無料の相談窓口など、手厚いサポート体制が整備されています。2123

慢性肝炎の全体像:沈黙の臓器の警告を理解する

「なんとなく体がだるいけれど、特に大きな問題はないだろう」と感じて日々を過ごしている方は少なくないかもしれません。その気持ち、とてもよく分かります。はっきりとした症状がないと、つい自分の健康を後回しにしてしまいがちです。科学的には、この「症状のなさ」こそが肝臓の病気の最も注意すべき点なのです。慢性肝炎とは、肝臓の炎症が最低でも6か月以上続く状態を指します12。この炎症は、まるで消えることのない小さな火事のようなもので、じわじわと肝臓の組織を硬く変化させて(線維化)、最終的には肝硬変や肝がんといった、後戻りできない深刻な状態へと至る可能性があります34。だからこそ、症状がない段階でこの静かな警告に気づくことが、将来の健康を守るための最も重要な一歩となるのです。

慢性肝炎の定義の鍵は、「時間」と「炎症」です。急性肝炎が一過性の病態であるのに対し、慢性肝炎はじわじわと進行します。初期段階では、倦怠感や食欲不振といった、他の病気と区別がつきにくい軽微な症状しか現れないことがほとんどです5。しかし、病状が進行し肝硬変に至ると、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」、お腹に水が溜まる「腹水」、意識が朦朧とする「肝性脳症」といった、誰の目にも明らかな症状が現れます。これらの症状が出た時点では、肝臓の機能は相当に低下していると考えられます。そのため、症状がないうちから定期的な健康診断を受け、肝機能の数値(AST, ALT, γ-GTPなど)をチェックすることが、この病気を早期に発見する唯一の確実な方法と言えるでしょう。

受診の目安と注意すべきサイン

  • 健康診断で肝機能の異常を指摘された場合(これが最も重要なサインです)
  • 皮膚や白目が黄色っぽく見える(黄疸)
  • 理由なくお腹が張る、または足がむくむ(腹水・浮腫)
  • 些細なことで出血しやすくなった、または血が止まりにくくなった

ウイルス性肝炎:国内最大の原因を知る

「ウイルス性肝炎と診断され、一生この病気と付き合っていかなければならないのか」と、将来に大きな不安を感じているかもしれません。特に、かつてC型肝炎は治療が難しい病気とされてきたため、その心配はごもっともです。しかし、その背景には、ウイルスが体内でどのように振る舞うかという科学的な理由があります。B型肝炎ウイルス(HBV)は、感染した人の肝細胞の核に自身の遺伝子を組み込むため、完全に排除することが困難です。これは、ウイルスの設計図が家の土台に埋め込まれてしまうようなもので、家を壊さずに設計図だけを取り除くのが難しいのと似ています。そのため、現在のB型肝炎治療の目標は、ウイルスの増殖を生涯にわたって抑制し、活動を眠らせておくことに置かれています。日本の感染者数は推定110万〜120万人と報告されています。「厚生労働省」6。その一方で、C型肝炎ウイルス(HCV)は核の外で増殖するため、薬で直接攻撃しやすい特性があります。だからこそ、近年の治療薬の進歩は目覚ましく、不安を希望に変える力を持っているのです。

B型慢性肝炎は、主に母子感染が原因で、乳幼児期に感染すると約95%が慢性化すると世界保健機関(WHO)は報告しています7。治療は、ウイルスの増殖を抑える「核酸アナログ製剤」の内服が第一選択です。「日本肝臓学会, 2022, Guideline」9。これは、ウイルスのコピー機のインクを偽物とすり替えて、それ以上増殖できなくするような治療法です。

一方、C型慢性肝炎の治療は、「直接作用型抗ウイルス薬(DAA)」と呼ばれる飲み薬の登場により、まさに革命的な変化を遂げました。この薬はウイルスの増殖に必要な酵素を直接阻害するもので、短期間(8〜12週間)の内服で95%以上の患者さんがウイルスを完全に排除(SVR:Sustained Virologic Response)し、治癒を目指せるようになりました。「World Health Organization (WHO), 2025」12。これは、ウイルスのコピー機そのものを分解してしまうような、強力かつ的を絞った治療法と言えます。「日本肝臓学会, 2024, Guideline」14

今日から始められること

  • ご自身がウイルス性肝炎の検査を受けたことがあるか確認し、なければ無料検査を利用する。
  • 診断されている場合は、定期的な受診を絶対に中断せず、医師の指示に従う。
  • 最新の治療法(特にC型肝炎)について、主治医に積極的に質問してみる。

自己免疫性肝炎(AIH):自らの免疫が肝臓を攻撃する病態

原因がはっきりしない体調不良が続き、検査の結果「自己免疫性肝炎」と告げられ、なぜ自分の体が自分を攻撃するのかと、戸惑いや不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。その気持ちは、とても自然な反応です。本来、私たちの体を守るはずの免疫システムが、何らかの理由で自分の肝細胞を「敵」と誤認して攻撃を始めてしまうのが、この病気の本質です。科学的には、これは国の防衛システムが誤作動を起こし、自国の重要な施設を攻撃し始めるような状態と例えられます。この誤作動を正常に戻すことが治療の目的となります。だからこそ、まずは免疫の過剰な働きを適切に抑えることで、肝臓へのダメージを食い止める一歩を踏み出すことが重要なのです。

自己免疫性肝炎(Autoimmune Hepatitis, AIH)は、特に中年以降の女性に多く見られる疾患です。診断は、血液検査での自己抗体(抗核抗体など)やIgG(免疫グロブリンG)の値、そして最終的には肝臓の組織を少量採取して調べる肝生検の所見を総合して行われます。「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班, 2021, Guideline」15。治療の基本は、副腎皮質ステロイドを用いて、過剰に働いている免疫を抑制することです。多くの場合、治療は長期間にわたりますが、適切にコントロールすることで、病気の進行を抑え、通常の日常生活を送ることが可能です。

今日から始められること

  • 医師から処方された薬を、自己判断で中断したり減量したりしないことが最も重要です。
  • 副作用について不安な点があれば、必ず主治医や薬剤師に相談する。
  • 病気と長く付き合うために、ストレス管理やバランスの取れた食事など、心身の健康を保つ生活を心がける。

生活習慣に起因する慢性肝炎

お酒の席が好きだったり、美味しいものを食べることが生き甲斐だったりする中で、「肝臓に良くない」と頭では分かっていても、長年の習慣をなかなか変えられない。そんな葛藤を抱えている方は多いのではないでしょうか。そのお気持ち、よく分かります。習慣を変えるのは簡単なことではありません。しかし、その背景にある科学的な事実を知ることが、変化への第一歩になるかもしれません。アルコールや過剰な脂肪は、肝臓にとって処理能力を超える「残業」を強いるようなものです。毎日続く過重労働が、やがて肝臓という工場を疲弊させ、炎症という警報を発し、ついには機能不全に陥らせてしまうのです。だからこそ、今日からその「残業」を少しでも減らしてあげることが、肝臓の未来を大きく変えることに繋がるのです。

アルコール性肝障害(Alcohol-related Liver Disease, ALD)は、長期にわたる過剰な飲酒が原因です。日本では、男性で1日あたり純アルコール換算で60g以上が危険域とされています。「肝炎情報センター」17。この病気に対する唯一かつ最も効果的な治療法は、完全な断酒です。「株式会社文光堂, 2022, Guideline」16

一方、お酒をほとんど飲まないのに肝臓に脂肪が溜まるのが、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。これは肥満や糖尿病といったメタボリックシンドロームと深く関連しています。NAFLDの中で炎症や線維化を伴うものを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼び、肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあるため注意が必要です。現在、NASHに対する承認された治療薬はなく、体重の7〜10%の減量、食事療法、運動療法といった生活習慣の改善が治療の主軸となります。「日本消化器病学会, 2020, Guideline」4

今日から始められること

  • アルコール性の場合:まずは「休肝日」を週2日以上設けることから始める。専門機関への相談も選択肢です。
  • NAFLD/NASHの場合:現在の体重の7%減を目標に設定し、食事の見直し(間食を減らすなど)と運動(1日30分の早歩きなど)を開始する。
  • どちらの場合も、一人で抱え込まず、かかりつけ医や家族に相談し、サポートを得ることが成功の鍵です。

診断から治療、そして生活へ:日本国内でのサポート体制

「治療が必要と言われたけれど、高額な医療費を払い続けられるだろうか」「どこで専門的な相談をすれば良いのか分からない」といった経済的、情報的な不安は、病気そのものの不安と同じくらい大きいものです。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、ご安心ください。日本には、こうした不安を和らげるための、世界でも手厚い公的サポート体制が整っています。これらの制度は、患者さんが安心して治療に専念できるように設計された、いわば社会的な「セーフティーネット」です。このセーフティーネットの存在を知り、適切に活用することが、治療への道を確かなものにするための重要な鍵となります。だからこそ、まずはどのような支援があるのかを知り、最寄りの相談窓口に連絡を取ってみることから始めてみませんか。

日本では、特に高額になりがちなB型・C型肝炎の抗ウイルス治療に対して、「肝炎治療医療費助成制度」が設けられています。これは、世帯の所得に応じて、月々の自己負担額が1万円または2万円に軽減される画期的な制度です。「なるほど!肝炎」2122。申請は、お住まいの地域の保健所が窓口となります。また、各都道府県には、肝疾患に関する専門的な医療を提供する「肝疾患診療連携拠点病院」が指定されており、「肝炎情報センター」から探すことができます23。これらの病院の多くには「肝疾患相談センター」が併設されており、療養上の悩みや制度に関する質問を無料で専門の相談員にすることができます24。一人で抱え込まず、これらの公的なサポートを積極的に活用することが大切です。

今日から始められること

  • お住まいの市区町村のウェブサイトで「肝炎医療費助成」と検索し、担当窓口(保健所など)を確認する。
  • 「肝疾患診療連携拠点病院」を検索し、最寄りの専門医療機関を把握しておく。
  • まずは電話一本、「肝疾患相談センター」に現在の悩みを相談してみる。

よくある質問

症状がないのに、なぜ治療が必要なのですか?

慢性肝炎の最大の特徴は、自覚症状がないまま静かに進行し、肝硬変や肝がんといった命に関わる病気に至る可能性がある点です。症状がない段階で治療を開始することが、これらの深刻な状態への進行を防ぐ最も有効な手段だからです。34

C型肝炎は本当に治るのですか?

はい。直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という飲み薬の登場により、現在では副作用も少なく、95%以上の確率でウイルスの完全な排除、つまり「治癒」を目指せるようになりました。治療期間も8〜12週間と、以前に比べて大幅に短縮されています。1214

治療費はどのくらいかかりますか?

B型・C型肝炎の抗ウイルス治療は高額ですが、日本では「肝炎治療医療費助成制度」を利用できます。これにより、世帯の所得に応じて自己負担額の上限が月額1万円または2万円に抑えられます。まずは、お住まいの地域の保健所にご相談ください。21

結論

慢性肝炎は、「沈黙の臓器」である肝臓が静かに発する警告サインです。多くの場合、自覚症状がないまま進行しますが、その原因はウイルス、自己免疫、そしてアルコールや肥満といった生活習慣まで多岐にわたります。しかし、医療の進歩は目覚ましく、特にC型肝炎は治癒が望める時代になりました。重要なのは、症状がないからと安心せず、健康診断などを通じて早期に発見し、適切な治療に繋げることです。そして、日本には手厚い医療費助成制度や相談体制が整っています。この記事が、皆様がご自身の肝臓の健康に関心を持ち、正しい知識をもって適切な一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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  2. Merck Manuals Professional Edition. Overview of Chronic Hepatitis – Hepatic and Biliary Disorders. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  3. Mayo Clinic. Hepatitis B – Symptoms and causes. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  4. 日本消化器病学会. NAFLD/NASH 診療ガイドライン 2020(改訂第 2 … 2020. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  5. Tampa General Hospital. Chronic Hepatitis: Causes, Symptoms & Treatment. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  6. 厚生労働省. 肝炎とは. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  7. World Health Organization (WHO). Hepatitis B. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  8. NCBI Bookshelf. Hepatitis B (chronic): diagnosis and management. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  9. 日本肝臓学会. B型肝炎治療ガイドライン. 2022. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  10. 富山駅前おおむら内科. 慢性肝炎|富山市富山駅徒歩3分の富山駅前おおむら内科・内視鏡. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  11. 厚生労働省 肝炎対策国民運動事業. なぜ検査が必要なのか | 知って、肝炎. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  12. World Health Organization (WHO). Hepatitis C. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  13. 肝炎情報センター. ウイルス肝炎治療の要点. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  14. 日本肝臓学会. C型肝炎治療ガイドライン 第8.3版 2024年5月. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  15. 難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班. 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021 年). 2021. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
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  17. 肝炎情報センター. アルコール性肝障害. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  18. 宮崎大学医学部. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020を概説する. 2023. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
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  20. 中島こうやクリニック. C型肝炎インターフェロン治療)春日市、那珂川町、福岡市近郊の病院. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  21. なるほど!肝炎. 医療費助成と高額療養費制度|肝炎治療を知る. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  22. B型肝炎とは. 医療費助成について | B型肝炎とは. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  23. 肝炎情報センター. 肝疾患診療連携拠点病院. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  24. 肝炎情報センター. 全国の拠点病院と肝疾患相談・支援センター 一覧. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  25. 肝ナビ. 肝炎医療ナビゲーションシステム: 【公式】肝ナビ. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク
  26. なるほど!肝炎. 肝炎情報広場|なるほど!肝炎公式サイト. 2025. [インターネット]. 引用日: 2025年9月17日. 入手先: リンク

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