妊娠

低置胎盤の兆候とリスク:知っておくべきこと、そして効果的な治療と管理の進め方

低置胎盤と診断されると、多くの妊婦が不安を感じるかもしれません。しかし、この状態は正確な医学的定義に基づいており、データに基づいた管理計画を立てることが可能です。漠然とした不安を具体的な知識に変えることが、安心して妊娠期間を過ごすための第一歩となります。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の産科婦人科学会(JSOG)の定義: 日本国内における低置胎盤の診断基準と管理方針の基礎となる指針です。1
  • 国際的なシステマティックレビュー: 多数の研究を統合・分析し、低置胎盤における経腟分娩の成功率や早産リスクに関する高いレベルのエビデンスを提供しています。413

要点まとめ

  • 低置胎盤とは、胎盤の縁と子宮の出口(内子宮口)との距離が2cm以内にある状態を指しますが、子宮口を覆っている前置胎盤とは区別されます。1
  • 妊娠中期に診断されても、約90%は妊娠後期の子宮の成長に伴い自然に解消されます(胎盤移動)。8
  • 最大のリスクは出血であり、特に分娩方法の決定には妊娠36週頃の胎盤と子宮口の距離(IOD)が最も重要な指標となります。8
  • 医学的に必要な帝王切開や管理入院には公的医療保険が適用され、高額療養費制度などの経済的支援も利用可能です。16

第1部 低置胎盤を理解する:定義、診断、頻度

「胎盤の位置が低い」と告げられたものの、それが具体的に何を意味し、どれほど心配すべきことなのか分からず、戸惑いを感じているかもしれません。その気持ちは、多くの妊婦さんが経験する自然な反応です。科学的には、この状態は「胎盤が低い」という曖昧なものではなく、数ミリ単位で測定される客観的な診断です。その背景には、子宮が成長する仕組みが関係しています。子宮が大きくなる様子は、風船を膨らませるのに似ています。風船の入り口近くに描いた印が、風船が膨らむにつれて入り口から遠ざかっていくように、胎盤の位置も子宮の成長と共に相対的に上がっていくことが多いのです。だからこそ、まずは正確な定義を知り、漠然とした不安を管理可能な知識に変えていきましょう。

1.1 低置胎盤とは?明確な定義

低置胎盤(ていちたいばん、low-lying placenta)とは、胎盤の位置に関する状態を指す言葉であり、胎盤そのものの異常ではありません。日本の産科診療における権威である日本産科婦人科学会(JSOG)は、低置胎盤を「胎盤が正常より低い部位の子宮壁に付着するが、内子宮口を覆っていない状態」と明確に定義しています1。診断の鍵となるのは、超音波検査で測定される胎盤の最も低い縁(胎盤辺縁)と子宮の出口である内子宮口との距離です。この距離が2cm以内である場合、低置胎盤と診断されます1。この基準は国際的にも広く受け入れられており、例えば英国産科婦人科学会(RCOG)も、妊娠16週以降に胎盤の縁が内子宮口から20mm未満の場合を低置胎盤と定義しており、日本の基準と実質的に同じです2。このように診断基準が世界的に標準化された具体的な数値に基づいていることで、客観的なデータに基づいたリスク評価と分娩計画の策定が可能になります。

1.2 前置胎盤との違い:数ミリ単位の重要な区別

低置胎盤とよく似た状態に前置胎盤(ぜんちたいばん、placenta previa)があります。両者の違いを理解することは極めて重要です。前置胎盤は、胎盤が内子宮口を部分的、あるいは完全に覆ってしまっている状態を指します3。この区別が臨床的に決定的な意味を持つのは、分娩方法の選択に直結するためです。前置胎盤は、胎盤が産道を塞いでいるため経腟分娩が不可能であり、帝王切開が絶対的な適応となります。一方、低置胎盤は必ずしも経腟分娩が不可能というわけではなく、胎盤と子宮口の距離に応じて慎重に分娩方法が検討される点が大きな違いです4

1.3 診断プロセスと「胎盤移動」

低置胎盤の診断は超音波検査で行われますが、最終的な精密診断には経腟超音波検査(TVS)が最も信頼性の高い検査法(ゴールドスタンダード)とされています5。この検査は母子ともに安全であることが確立されています。妊娠中期に低置胎盤と診断されても、過度に心配する必要はありません。これは「胎盤移動」と呼ばれる現象により、多くの場合、妊娠後期には胎盤の位置が正常化するためです。妊娠20週の超音波検査で低置胎盤と診断されたケースの約90%は、妊娠後期までには解消し、胎盤の縁が子宮口から2cm以上離れた安全な位置に移動すると報告されています8

1.4 頻度と主なリスク因子

分娩時まで解消しなかった低置胎盤を含む前置胎盤の全体的な発生頻度は、全妊娠の約200分の1(0.5%)とされています10。低置胎盤や前置胎盤になりやすいとされる主なリスク因子には、帝王切開の既往、35歳以上の高齢妊娠、出産回数が多いこと、子宮内膜に瘢痕が残るような子宮内手術の既往、喫煙、そして体外受精(IVF)など生殖補助医療(ART)による妊娠が複数の研究で一貫して示されています19

このセクションの要点

  • 低置胎盤の診断は、胎盤の縁と内子宮口の距離が「2cm以内」という世界的に標準化された客観的な数値に基づきます。
  • 妊娠中期に診断されても、約90%は子宮の成長に伴う「胎盤移動」という現象で自然に解消されます。

第2部 リスクの評価:母体と胎児の健康に関するデータに基づいた考察

「ハイリスク妊娠」という言葉を聞くと、漠然とした大きな恐怖を感じてしまうかもしれません。その不安は、大切な赤ちゃんを守りたいという母親として当然の感情です。しかし、医学の世界では「リスク」とは「可能性」を数字で表したものであり、決して運命を決定づけるものではありません。科学的には、リスクの大きさは確率で評価されます。例えば天気予報で「降水確率30%」と聞いても、一日中雨が降り続くわけではないと理解できるように、医療におけるリスクも冷静に捉えることが可能です。だからこそ、具体的な数値を理解し、どのリスクがどの程度の確率で起こりうるのかを知ることが、不必要な不安を和らげ、適切な備えをするための第一歩となるのです。

2.1 最大のリスク:妊娠中および分娩後の出血

低置胎盤で最も注意すべきリスクは、妊娠中および分娩後の大量出血です。妊娠後期になると、子宮下部が引き伸ばされることで胎盤の一部が剥がれ、腹痛を伴わない突然の出血(警告出血)を引き起こす可能性があります8。複数の研究を統合したメタアナリシスによると、低置胎盤の妊婦さんにおける分娩後異常出血(PPH)の発生率は14.5%でした12。これは決して無視できないリスクですが、前置胎盤の27.4%と比較すると低い数値です。日本の研究では、胎盤と子宮口の距離がリスクに直結することが示されています1

2.2 早産のリスク:メタアナリシスからの洞察

出血は子宮収縮を誘発し、早産につながる可能性があるため、低置胎盤は早産のリスクが高いとされています。しかし、リスクの内訳を詳細に見ることが重要です。34の研究を統合した大規模なシステマティックレビューおよびメタアナリシスによると、低置胎盤の妊婦さんにおける妊娠37週未満の早産率は30%(95%信頼区間 19–43%)でした。一方で、赤ちゃんの未熟性が特に問題となる妊娠34週未満での重篤な早産率は1%(95%信頼区間 0–6%)と非常に低いことが示されています13。このデータは、「早産リスクが高い」という包括的な情報だけでなく、「重篤な早産のリスクは低い」という具体的な事実を理解する上で非常に重要です。

2.3 関連する合併症:癒着胎盤と前置血管

稀ではあるものの、他の重篤な合併症の可能性も念頭に置く必要があります。一つは癒着胎盤で、胎盤が子宮の筋層に深く侵入し、分娩後に剥がれにくくなる状態です。このリスクは、低置胎盤・前置胎盤と帝王切開の既往という二つの条件が重なった場合に著しく上昇します1。もう一つは前置血管で、保護されていない胎児の血管が内子宮口の近くを走行する非常に稀な状態です。これは、低置胎盤が「解消」したケースで発生するリスクが指摘されており、胎盤の位置が正常化した後も注意深い超音波検査が必要です7

受診の目安と注意すべきサイン

  • 妊娠中の出血は、量や色にかかわらず、すべてが医師への連絡が必要なサインです。
  • 重篤な早産(34週未満)のリスクは1%と低いですが、ゼロではありません。出血と共に規則的なお腹の張りや痛みを感じた場合は、すぐに病院に連絡してください。

第3部 妊娠中の臨床管理

診断後、これからどう過ごせば良いのか、何に気を付ければ良いのか、常に緊張しながら生活しているかもしれません。そのお気持ち、とてもよく分かります。低置胎盤の管理には、胎盤の位置を動かす特効薬はありませんが、それは逆に言えば、日々の生活の中でリスクを最小限に抑え、慎重に経過を観察することが最も有効な「治療」であるということです。科学的には、管理の基本は「待機的観察」と呼ばれ、問題が起きない限りは積極的に介入せず、母子にとって最も安全な状態を維持することを目指します。そのため、定期的な検査で赤ちゃんと胎盤の状態を正確に把握し、日常生活での注意点を守ることが、穏やかなマタニティライフにつながるのです。

3.1 「待機的観察」とフォローアップ検査

低置胎盤と診断された後の主な管理方針は、「待機的観察(Watchful Waiting)」です14。これは、定期的な超音波検査で胎盤の位置の変化を注意深く追いながら、問題が発生しない限りは積極的な介入を控えるアプローチです。具体的なフォローアップのスケジュールは、国際的なガイドラインに基づき、一般的に妊娠32週に再度超音波検査を行い、胎盤の位置を確認します2。32週の時点で低置胎盤が持続している場合は、分娩方法を最終的に決定するため、妊娠36週に最後の超音波検査を行います8

3.2 生活と活動に関する指針

出血のリスクを最小限に抑えるため、日常生活において子宮収縮を誘発したり、腹部に圧力をかけたりするような行動を避けることが推奨されます。具体的には、激しい運動や重い物を持つこと、そして直接的な刺激が出血の引き金になる可能性がある性交渉(「骨盤内の安静」と呼ばれます)を控えるよう指示されることが一般的です915。ただし、出血などの症状がなければ、必ずしも絶対安静が必要というわけではありません。担当医と相談しながら、日常生活の活動レベルを調整することが重要です14

3.3 入院管理と高次医療施設への紹介

警告出血を含む、量にかかわらず性器出血が認められた場合は、入院管理が必要となります1。入院により、母体と胎児の状態を24時間体制で監視し、緊急事態に迅速に対応できます。ここで、日本の周産期医療システムにおける重要な特徴を理解しておくと安心です。地域の診療所などが「自院では緊急時の対応困難」と判断した場合、JSOGのガイドラインでは、遅くとも妊娠32週末までに、NICU(新生児集中治療室)などを備えた高次医療施設への紹介を完了させることが推奨されています1。これは状態が悪化したからではなく、万が一に備えて母子にとって最も安全な環境を計画的に確保するための標準的な手順です。

今日から始められること

  • 出血やお腹の張りなど、少しでも異常を感じたらすぐに病院に連絡できるよう、連絡先や移動手段を家族と再確認しておきましょう。
  • 重い買い物はパートナーやネットスーパーに頼る、上の子のお世話は家族の協力を得るなど、お腹に負担がかからない生活スタイルを具体的に計画しましょう。

第4部 分娩に向けて:重要な意思決定

お産が近づくにつれ、どうやって産むことになるのか、その決定がどのように下されるのか、不安に思うのは当然のことです。特に経腟分娩を望んでいる方にとっては、帝王切開の可能性は大きな心配事でしょう。しかし、現代の産科医療における分娩方法の選択は、医師の一方的な指示ではなく、科学的根拠に基づいて行われます。その核心にあるのは、「胎盤の縁と子宮口の最短距離(IOD)」という客観的なデータです。このデータは、いわば安全な航路を示す海図のようなものです。海図があれば、どのルートが安全で、どのルートが危険かを判断できるように、IODの測定値によって、経腟分娩という航路を選択できるか、計画的帝王切開という最も安全な港に向かうべきかが決まります。このプロセスを理解することで、ご自身の状況を客観的に把握し、医療チームとの対話を通じて、納得のいく意思決定を下すことができます。

4.1 分娩方法の決定要因:胎盤と子宮口との距離(IOD)

分娩方法を決定する上で最も重要な指標は、妊娠36週頃に経腟超音波検査で測定される胎盤の縁と内子宮口との最短距離(Internal Os Distance, IOD)です8。この数ミリ単位の測定値が、経腟分娩を試みることができるか、あるいは計画的帝王切開が最善かを判断するための客観的な基準となります。

4.2 経腟分娩の試み vs 計画的帝王切開

かつては低置胎盤の多くが帝王切開の対象でしたが、近年の研究により、特定の条件下では経腟分娩が安全に試みうることが示されています。この分野の重要なシステマティックレビューおよびメタアナリシスは、IODに基づいた経腟分娩の成功率について、以下のような強力なエビデンスを提供しています4。IODが11-20mmの場合、経腟分娩の成功率は85%と高い一方、IODが0-10mmの場合、成功率は43%に低下し、緊急帝王切開への移行リスクが著しく高まります。そのため、妊娠36週時点の超音波検査でIODが20mm未満である場合、分娩時の大量出血リスクが非常に高いと判断され、計画的帝王切開が最も安全な分娩方法として推奨されます8。帝王切開が選択された場合でも、出血量が少ないとされる区域麻酔(脊椎麻酔など)が一般的に選択され、事前に輸血用の血液を準備するなど、母体の安全を最大限に確保するための周到な準備が行われます6

自分に合った選択をするために

IODが20mmを超える場合: 経腟分娩の試行が安全な選択肢として考慮されます。分娩の自然なプロセスを重視する方に適しています。

IODが20mm未満の場合: 計画的帝王切開が母子の安全のために強く推奨されます。分娩日を計画的に決定し、出血リスクを最小限に抑えたい場合に最も安全な選択です。

第5部 日本の医療制度:費用、保険、専門医療へのアクセス

管理入院や帝王切開の可能性について聞くと、次に頭をよぎるのは医療費という現実的な問題かもしれません。「費用はどれくらいかかるのだろう」「経済的な負担に耐えられるだろうか」といった心配は、誰しもが抱くものです。そのご心配、よく分かります。しかし、幸いなことに、日本には世界でもトップクラスの医療保険制度という強力なセーフティネットが存在します。この制度は、病気やけがの治療費の負担を軽減するために設計されていますが、低置胎盤のような医学的介入が必要な妊娠・分娩も、このセーフティネットの対象となります。これから説明する制度を知ることで、費用の心配を軽減し、安心して治療と出産に臨むことができるでしょう。

5.1 保険適用と経済的支援制度

日本の公的医療保険制度において、正常な分娩は保険適用の対象外ですが、低置胎盤の管理入院や、医学的に必要と判断された帝王切開は「異常分娩」として扱われ、公的医療保険が適用されます16。これにより、窓口での自己負担は原則3割となります。さらに、医療費が高額になった場合でも、高額療養費制度を利用することで、1ヶ月の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた分が払い戻されます17。事前に入院することが分かっている場合は、「限度額適用認定証」を取得し病院に提示することで、退院時の支払いを自己負担限度額までに抑えることができ、一時的な経済的負担を大幅に軽減できます19。また、分娩方法にかかわらず、子ども一人につき原則として50万円が支給される出産育児一時金も利用できます18

5.2 専門医療へのアクセス

日本では、リスクの程度に応じた周産期医療を提供するための体制が整備されており、その中核をなすのが総合周産期母子医療センターです20。これらのセンターは、母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)を備え、最もハイリスクな妊娠・分娩に対応します21。低置胎盤で出血リスクが高いケースなどは、かかりつけ医からの紹介状(診療情報提供書)を通じて、これらの施設で管理されるのが一般的です。

このセクションの要点

  • 低置胎盤の管理入院や帝王切開は、公的医療保険の対象となります。
  • 「高額療養費制度」と「出産育児一時金」を組み合わせることで、経済的負担を大幅に軽減できます。
  • 日本にはハイリスク妊娠に対応する「総合周産期母子医療センター」が整備されており、専門的な医療へのアクセスが確保されています。

第6部 診断との向き合い方と今後の展望

ハイリスク妊娠という診断を受け、様々なリスクについて知る中で、精神的に落ち込んだり、先の見えない不安に押しつぶされそうになったりすることもあるでしょう。それは決して弱いからではなく、母親として当然の反応です。このような心理的ストレスに対処する最も効果的な方法は、正確な情報を得て、ご自身の状況を客観的に理解することです。科学的データに基づいた管理計画を理解することは、漠然とした恐怖を管理可能な課題へと変える力になります。医療チームとの積極的なコミュニケーションを通じて疑問や不安を解消し、意思決定のプロセスに主体的に関わることが、精神的な安定を保つ上で非常に重要であると、多くの研究で示唆されています2324

6.1 次回以降の妊娠への影響

低置胎盤を経験した場合、あるいは帝王切開で分娩した場合、次回以降の妊娠で再び低置胎盤や前置胎盤となるリスクは、統計的に上昇することが知られています10。これは、長期的な家族計画を考える上で知っておくべき重要な情報です。次回の妊娠計画を立てる際には、今回の経験を産科医に伝え、早期からの慎重な管理について相談することが推奨されます。

6.2 最新の研究と将来の展望

低置胎盤や関連する状態の予後をさらに改善するため、世界中で研究が続けられています。例えば、出血を減らし妊娠期間を延長する目的でプロゲステロン(黄体ホルモン)を使用する効果が検証されたり25、子宮頸管ペッサリーの使用が研究されたりしています26。特に、低置胎盤の女性における最適な分娩方法を評価するために設計された「MODEL-PLACENTA」試験のような臨床研究が進行中であることは、注目に値します27。これらの研究成果が、将来的には診療ガイドラインに反映され、さらに個別化された最適なケアが提供されることが期待されます。

今日から始められること

  • 健診の際に、医師に質問したいことや不安に思っていることをメモにまとめて持参し、対話の時間を有効に使いましょう。
  • 地域の保健センターや、同じ経験を持つ妊婦さんのオンラインコミュニティなど、医療チーム以外のサポートリソースを探してみるのも良いでしょう。

よくある質問

妊娠中期に「低置胎盤」と言われましたが、必ず帝王切開になりますか?

いいえ、必ずしも帝王切開になるとは限りません。妊娠中期に低置胎盤と診断されても、そのうちの約90%は、妊娠後期の子宮の成長に伴って胎盤の位置が正常な範囲まで上昇します(胎盤移動)。最終的な分娩方法は、妊娠36週頃の超音波検査で、胎盤の縁と子宮口の距離を測定して慎重に判断されます。8

日常生活で特に気をつけることは何ですか?

出血のリスクを避けるため、激しい運動、重い物を持つこと、性交渉は控えるように指示されることが一般的です。出血やお腹の張りなどの症状がなければ、必ずしも絶対安静が必要なわけではありませんが、担当医と相談の上、活動レベルを調整することが大切です。15

どのような症状が出たら、すぐに病院に連絡すべきですか?

量や色(鮮血、茶色など)にかかわらず、あらゆる性器からの出血、または規則的なお腹の張りや痛み(子宮収縮)を感じた場合は、時間帯を問わず直ちに病院へ連絡してください。自己判断で様子を見ることは危険です。2

管理入院や帝王切開の費用が心配です。

ご安心ください。低置胎盤の管理入院や、医学的に必要と判断された帝王切開は、日本の公的医療保険の適用対象です。さらに、高額療養費制度を利用すれば、1ヶ月の医療費の自己負担額に上限が設けられます。また、出産育児一時金も支給されるため、経済的負担は大幅に軽減されます。1617

結論

低置胎盤という診断は、多くの不安を引き起こすかもしれませんが、それは現代の産科医療において管理可能な状態です。重要なのは、正確な情報に基づいてご自身の状況を客観的に理解し、漠然とした恐怖を具体的な備えに変えることです。診断基準からリスクの確率、管理計画、そして分娩方法の決定に至るまで、そのプロセスはデータに基づいた論理的なものです。医療チームとの積極的なコミュニケーションを重ね、日本の充実した医療制度を活用することで、母子ともに最も安全な出産を迎えることが可能です。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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