女性の健康

膣の緩みの原因と自分に合った治し方【医師監修】保険適用と自由診療の違いを徹底解説

「膣の緩み」は多くの女性が抱える悩みですが、その原因や治療法には誤解も少なくありません。実は、この悩みは医療保険が適用される「骨盤臓器脱」のような病気と、美容目的の「自由診療」に分かれます。この記事では、日本の診療ガイドラインや国内外の研究に基づき、自宅でできる骨盤底筋トレーニングから医療機関でのレーザー治療、手術まで、それぞれの選択肢のメリット・デメリット、費用、そして保険適用の条件を医師監修のもとで詳しく解説します。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の主要ガイドライン: 日本泌尿器科学会による「女性下部尿路症状・骨盤臓器脱診療ガイドライン」は、保険適用される症状の診断と治療の根幹をなす情報源です1
  • 国際的な科学的レビュー: 治療法の有効性を評価するため、コクラン共同計画(Cochrane)のような国際的な機関による複数の研究を統合・分析したシステマティックレビューを重視しています7

要点まとめ

  • 「膣の緩み」という悩みは、保険適用となる病気「骨盤臓器脱(POP)」などと、美容目的の「自由診療」に分けられます113
  • くしゃみでの尿漏れ(腹圧性尿失禁)は、骨盤底筋の緩みが原因で起こる代表的な症状です4
  • 最も科学的根拠が豊富で、国内外のガイドラインが推奨する最初の対策は「骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)」です6
  • レーザー治療は広く行われていますが、その有効性と長期的な安全性に関する質の高いエビデンスは不足しており、国際的な専門機関は慎重な立場を取っています78

膣の緩みとは?骨盤臓器脱(POP)との違い

「最近、膣が緩んだ気がする…」——その感覚は、あなただけが感じている特別なことではありません。多くの女性が出産や年齢の変化とともに経験する自然な悩みですが、その背景には二つの異なる状態が隠れている可能性があります。大切なのは、それが単なる感覚的なものなのか、それとも医学的な治療が必要なサインなのかを見極めることです。

科学的には、この問題は家を支える「土台」に例えることができます。「膣の緩み」という主観的な感覚は、いわば「家の床が少しきしむ感じ」です。一方で、「骨盤臓器脱(POP)」は、土台そのものが弱ってしまい、子宮などの臓器が実際に下がってくる状態で、これは「家の柱が傾いている」ような医学的な問題です。日本泌尿器科学会が2019年に定めたガイドラインでは、この骨盤臓器脱は明確な診断基準を持つ病気とされ、保険適用の治療対象となります12。つまり、症状は似ていても、原因と対処法が全く異なるのです。

このセクションの要点

  • 「膣の緩み」は主観的な感覚であり、それ自体は病名ではありません。
  • 「骨盤臓器脱(POP)」は臓器が実際に下がる病気で、医師の診断により保険診療の対象となります1

あなたの悩みはどれ?膣の緩みに伴う代表的な症状セルフチェック

「膣の緩み」と一言でいっても、その現れ方は人それぞれです。くしゃみをした瞬間や、重いものを持ち上げた時に「あっ」と思う尿漏れ、お風呂上がりに意図せず膣からお湯が出てくる不快感。これらは誰にも相談しづらく、一人で抱え込みがちな悩みかもしれません。その気持ち、とてもよく分かります。しかし、それは決して珍しいことではないのです。

その背景には、骨盤の底でハンモックのように内臓を支えている「骨盤底筋」という筋肉群の働きが関係しています。この筋肉が緩むと、尿道を締める力や膣の支持力が弱まり、様々な症状が現れます。2023年の臨床医学雑誌に掲載されたレビュー論文(J Clin Med)でも、これらの症状が膣の緩みと密接に関連していることが指摘されています3。つまり、あなたが感じている不快な症状は、体の構造的な変化からくるサインなのです。だからこそ、まずはご自身の状態を客観的にチェックしてみませんか?

受診の目安と注意すべきサイン

  • くしゃみ、咳、運動時に尿が漏れる(腹圧性尿失禁)4
  • 入浴後、膣からお湯が漏れ出てくる
  • 性交渉の際の感度が以前より低下したと感じる
  • 膣から何か丸いものが触れる、または出てくる感じがする(これは骨盤臓器脱の可能性があり、早めの婦人科・泌尿器科受診を推奨します1

膣が緩む3大原因:出産・加齢・ホルモン変化

では、なぜ骨盤底筋は緩んでしまうのでしょうか。その原因を知ることは、ご自身に合った対策を見つけるための第一歩です。多くの場合、原因は一つではなく、いくつかの要因が時間とともに重なり合って影響しています。それは 마치, 長年の使用で少しずつ弾力を失っていくゴムバンドのようなものです。

最大の要因は、多くの方が経験する「出産」です。妊娠中の大きくなった子宮の重みと、出産時の赤ちゃんが産道を通る際の物理的な伸びによって、骨盤底筋は大きなダメージを受けます。その他、「加齢」による全身の筋力低下は骨盤底筋も例外ではありません。さらに、閉経を迎えると女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、膣周りの組織のコラーゲンが減って弾力性が失われることも、緩みの一因となります。複数のクリニックのウェブサイトでも、これらの要因が複合的に関わっていると解説されています5

このセクションの要点

  • 最大の原因は、出産による骨盤底筋への物理的なダメージです。
  • 加齢に伴う筋力低下と、閉経後の女性ホルモン減少による組織の変化も大きく影響します3

【まず試したい】自宅でできる骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)の正しい方法

様々な症状の原因が骨盤底筋の緩みにあると知ると、「何か特別な治療が必要なのでは」と不安に思うかもしれません。しかし、その一方で、最も信頼性が高く、世界中の専門家が最初に勧める方法が、ご自身の力で、しかも費用をかけずに始められることをご存知でしょうか。

その方法が「骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)」です。これは、単なる気休めの体操ではありません。科学的には、骨盤底筋という「インナーマッスル」を意識的に鍛えることで、その支持力を回復させる、いわば「膣の筋トレ」です。その有効性、特に尿漏れ(SUI)に対する効果は非常に高く、2012年に行われたコクランのシステマティックレビューでは、指導を受けたトレーニングが高い改善効果を示すことが結論付けられています6。日本の診療ガイドラインでも第一選択肢として推奨されており1、まさに「王道」の対策と言えるのです。だからこそ、高額な治療を検討する前に、まずこの安全で確実な一歩から始めてみませんか?

今日から始められること

  • 正しい方法の確認: 仰向けに寝て膝を立て、排尿を途中で止めるような感覚で、膣と肛門をきゅっと締めます。5秒間キープして、ゆっくりと緩めます。これを10回1セットとして、1日に数セット行いましょう。
  • 継続のヒント: すぐに効果が出なくても焦らないことが大切です。まずは2〜3ヶ月、毎日続けることを目標にしましょう。歯磨きなど、毎日の習慣とセットにすると忘れにくくなります。

医療機関での治療法を徹底比較:選択肢と費用

骨盤底筋トレーニングを続けても改善が見られない場合や、より積極的な治療を望む場合、医療機関での治療が選択肢となります。しかし、ウェブで検索すると「レーザー」「手術」など様々な情報が溢れており、「どれが自分に合っているの?」「費用は?」「本当に安全なの?」と混乱してしまう方も少なくないでしょう。特に、自由診療の分野では情報が玉石混交です。

この状況は、たくさんの道が示された地図を渡されたようなものです。目的地に着くためには、それぞれの道の特徴(メリット)、危険な箇所(デメリット)、そして通行料(費用)を知る必要があります。ここでは、主要な治療法を「保険適用の治療」と「自由診療の治療」に分け、それぞれの特徴を客観的なデータに基づいて比較し、ご自身に合った道筋を見つけるための判断材料を提供します。

自分に合った選択をするために

レーザー・高周波(RF)治療: メスを使わない手軽さを求めるが、効果の不確かさや費用は自己負担であることを理解している方向け7

膣縮小手術: 物理的な改善による高い満足度を期待し、外科的なリスクと高額な費用を受け入れられる方向け14

骨盤臓器脱手術: 医師から「骨盤臓器脱」と診断され、根本的な病気の治療を保険適用で受けたい方向け1

【重要】保険適用になるケース・ならないケース

治療を考える上で、最も気になる点の一つが費用、特に「保険が使えるかどうか」ではないでしょうか。「同じような悩みでも、友人は保険がきいたのに、私は自費だった」という話を聞いたことがあるかもしれません。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。

その答えは、「治療の目的」にあります。日本の医療保険制度は、病気の治療を目的とした医療行為に対して適用されるのが原則です。これは、車の修理に例えることができます。エンジンが故障して車が動かない(病気)場合、その修理(治療)には保険が使えます。しかし、乗り心地を良くするために高級なシートに交換する(QOL向上、美容)のは、自己負担となります。この原則に基づき、日本泌尿器科学会などのガイドラインでは、医師が診察し「骨盤臓器脱」や「腹圧性尿失禁」という明確な診断を下した場合の治療にのみ、保険が適用されると定めています113。美容クリニックで行われる「緩みの改善」を目的としたレーザー治療や手術は、この「病気の治療」には当たらないため、自由診療(全額自己負担)となるのです15

このセクションの要点

  • 医師による診察の結果、「骨盤臓器脱(POP)」や「腹圧性尿失禁(SUI)」と診断された場合の治療は、保険適用となります。
  • 美容的な引き締めや性生活の質の向上を目的とした治療(レーザー、膣縮小手術など)は、病気の治療ではないため自由診療(全額自己負担)です13

治療を受ける前に知っておくべき医療機関の選び方と注意点

自分に合った治療法が見えてきたら、次のステップは信頼できる医療機関を選ぶことです。特に自由診療の分野では、クリニックによって技術や方針、費用が大きく異なるため、慎重な選択が求められます。しかし、広告やウェブサイトだけを見て、その質を見抜くのは非常に難しいと感じるでしょう。

その背景には、医療に関する広告のルールがあります。日本では、患者を守るために厚生労働省が「医療広告ガイドライン」を定めています。これは、レストランを選ぶ際に、誇張されたメニュー写真ではなく、信頼できる口コミや衛生評価を参考にするのに似ています。科学的根拠のない効果をうたったり、リスクを説明しなかったりする広告は、このガイドラインに違反している可能性があります。2024年の厚生労働省の報告書でも、美容医療における不適切な広告の問題点が指摘されています9。だからこそ、目先の安さや手軽さだけでなく、誠実な情報提供を行っているかどうかを基準に、大切なご自身の体を任せる場所を選んでみませんか?

今日から始められること

  • 広告のチェック: 「必ず治る」「リスクなし」といった断定的な表現や、過度なキャンペーンを強調する広告には注意しましょう9
  • カウンセリングの活用: 治療のメリットだけでなく、デメリット、リスク、費用について、時間をかけて丁寧に説明してくれるかを確認します。その場で契約を急がせるようなクリニックは避けるのが賢明です。
  • 資格と経験の確認: 担当する医師が、産婦人科や形成外科、泌尿器科などの関連分野の専門医であるかどうかも、一つの判断材料になります。

よくある質問

産後、膣が緩んだ気がします。元に戻りますか?

出産による膣の緩みは多くの女性が経験します。産後3ヶ月から1年ほどかけてある程度は自然に回復しますが、骨盤底筋がダメージを受けていると完全には戻らないこともあります。骨盤底筋トレーニングを行うことで、回復を助けることができます。

くしゃみをすると尿が漏れます。これも膣の緩みが原因ですか?

はい、その可能性が高いです。くしゃみや咳で尿が漏れる症状は「腹圧性尿失禁」といい、膣の緩みと同じく骨盤底筋の機能低下が原因です。これは治療可能な症状ですので、婦人科や泌尿器科にご相談ください1

レーザー治療は安全で効果がありますか?

レーザー治療は美容クリニックで広く行われていますが、その有効性や長期的な安全性については、まだ質の高い科学的データが不足しているのが現状です。国際的な専門学会(ICSなど)は、現時点では臨床研究以外での使用を推奨していません8。治療を受ける前には、リスクについても十分な説明を受けることが大切です。

結論

「膣の緩み」という悩みは、デリケートで複雑に見えますが、その原因と対処法を正しく理解することで、適切な一歩を踏み出すことができます。最も重要なのは、ご自身の症状が保険適用の可能性がある医学的な状態なのか、それとも美容的なケアの範囲なのかを見極めることです。そして、どのような選択をするにしても、国内外の診療ガイドラインが共通して推奨する「骨盤底筋トレーニング」が、すべての基本となる安全で有効な対策であることを忘れないでください16。安易な情報に惑わされず、科学的根拠に基づいた知識を武器に、ご自身にとって最善の選択をされることを願っています。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

  1. 日本泌尿器科学会. 女性下部尿路症状・骨盤臓器脱診療ガイドライン[第2版]. 2019. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  2. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2023. 2023. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク [有料]
  3. Qureshi A, et al. Vaginal Laxity: Prevalence, Risk Factors, Diagnostic and Therapeutic Approaches. J Clin Med. 2023;12(2):669. doi:10.3390/jcm12020669. リンク
  4. 愛知県医師会. 骨盤臓器脱の診断と治療. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  5. 複数のクリニック. 膣レーザー費用. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  6. Hay-Smith J, et al. Comparisons of approaches to pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2012. doi:10.1002/14651858.CD009508. リンク
  7. Rioseco PA, et al. Vaginal laser for treating stress urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2022;11(11):CD013231. doi:10.1002/14651858.CD013231.pub3. リンク
  8. Preti M, et al. The clinical role of LASER for vulvar and vaginal treatments in gynecology and female urology: An ICS/ISSVD best practice consensus document. Neurourol Urodyn. 2019;38(4):1009-1023. doi:10.1002/nau.23924. リンク
  9. 厚生労働省. 美容医療の適切な実施に関する検討会報告書. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  10. 共立美容外科. 膣縮小術. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  11. Ghaderi F, et al. The Effect of Vaginal Tightening Surgery on Sexual Function: A Systematic Review. Int Urogynecol J. 2024. doi:10.1007/s00192-024-05969-z. リンク [有料]
  12. American Society of Plastic Surgeons. Nonsurgical aesthetic genital procedures: Vaginal laxity. 2024. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  13. 日本皮膚科学会. 美容医療診療指針(令和3年度改訂版). 2021. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  14. PMDA/厚生労働省. レーザ医療機器の承認申請の取扱いについて. 2016. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク
  15. FDA. FDA warns against use of energy-based devices to perform vaginal ‘rejuvenation’. 2018. [インターネット]. 引用日: 2025年9月16日. リンク

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