エビデンスに基づくかかとのひび割れ分析:原因、鑑別診断、および日本臨床現場に焦点を当てた管理戦略
皮膚科疾患

エビデンスに基づくかかとのひび割れ分析:原因、鑑別診断、および日本臨床現場に焦点を当てた管理戦略

足の裏、特に踵(かかと)の皮膚は、体重全体を支え、移動時の衝撃を吸収するという重要な機械的役割を果たすため、独特の構造的・機能的特徴を備えています。この部位の皮膚は、絶え間ない圧力や摩擦に耐えるために体の他の部位より著しく厚くなっています1。しかし、ひび割れの根本原因となる最も重要な生理学的特徴の一つは、皮脂腺が全く存在しないことです。皮脂腺は、皮膚の潤いを保ち、柔らかさを維持する天然の油分である皮脂を分泌する役割を担っています。皮脂腺がないため、かかとは本質的に乾燥(xerosis)しやすく、体内の水分補給と外部からのスキンケア製品に完全に依存しているのです2

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の主要なガイドライン:日本糖尿病学会の「糖尿病性足病変」に関する指針は、特にハイリスク患者のフットケアの重要性を強調しています10
  • 国際的な主要なエビデンス:米国皮膚科学会(AAD)による乾燥肌・ひび割れケアの推奨事項や、学術誌『Dermatology and Therapy』に掲載された尿素の多機能性に関する包括的なレビュー論文を基にしています163

要点まとめ

  • かかとの皮膚は皮脂腺がなく本質的に乾燥しやすいため、ひび割れは単なる「乾燥肌」ではなく、圧力と乾燥が組み合わさった進行性の病態です25
  • 頑固なひび割れは、水虫や糖尿病、甲状腺機能低下症といった他の病気のサインである可能性があり、自己判断は危険です812
  • 治療の鍵は、保湿(尿素10%以上など)と角質ケアの組み合わせです。特に尿素は、濃度によって保湿と角質溶解の両方の役割を果たします318
  • 日本では、専門家による角質除去(胼胝処置)や高濃度の保湿剤の処方が健康保険の適用となり、非常に安価に質の高い治療を受けられます1920

第1部:足底面の外皮系:生体力学的視点

毎日保湿しているのに、なぜかかとだけが硬くなり、ひび割れてしまうのか。多くの方がそう感じたことがあるでしょう。そのお悩みは、かかとの皮膚が持つ特別な「宿命」に根差しています。科学的には、この問題の背景には、驚くほど合理的な、しかし少し不運な体の仕組みがあります。それは、かかとの皮膚が、家の土台のように頑丈であると同時に、給水システムを持たないコンクリートのようなものだからです。

具体的には、体重を支えるために厚くなった角質層は、その柔軟性を保つために大量の水分を必要とします3。この厚い角質層は、例えるなら幾重にも重ねられた乾いた紙束のようなものです。水分があればしなやかですが、乾燥すると硬くなり、少しの力で「パリッ」と割れてしまいます。この乾燥しやすい性質こそが、ひび割れの根本原因なのです。だからこそ、ただ潤いを与えるだけでなく、この「硬くなった紙束」を適切に管理することが大切になります。

1.1. かかと皮膚の独特な解剖学的・生理学的特徴

かかとの皮膚が体の他の部分と根本的に違うのは、その構造にあります。マンチェスター・フィートのような専門機関の分析によると、体重を支えるという極めて重要な役割を果たすため、皮膚の一番外側にある角質層が非常に厚く発達しています1。しかし、その頑丈さと引き換えに、皮膚の潤いを保つ皮脂を分泌する「皮脂腺」が全く存在しません。この生まれ持った構造的特徴が、かかとを本質的に乾燥しやすい部位にしており、ひび割れの根本的な原因となっているのです2

1.2. 角質層、ケラチン、皮膚バリアの役割

皮膚の最も外側にある角質層は、外部の刺激から体を守り、内部の水分が蒸発するのを防ぐ「バリア」として機能しています。このバリアの主成分はケラチンという硬いタンパク質です。2021年に学術誌『Dermatology and Therapy』で発表されたレビュー論文で詳述されているように、このケラチン線維が十分に水分を保持しているかどうかが、皮膚の柔軟性を決定づけます3。さらに角質層内部には、水分を磁石のように引き寄せて保持する「天然保湿因子(NMFs)」が存在します。加齢や環境要因でNMFsが減少すると、皮膚の保水能力が低下し、乾燥と弾力性の喪失を招いてしまいます。

1.3. 病態生理:乾燥症から過角化症、そして亀裂形成へ

かかとのひび割れは、一夜にして起こるわけではありません。それは一連の連鎖反応の結果です。まず、皮脂腺の欠如による根本的な乾燥(Xerosis)が始まります4。次に、歩行や起立による慢性的な圧力に対応するため、体は防御反応として角質層をさらに厚くします。これを過角化症(Hyperkeratosis)と呼びます5。しかし、この厚くなった角質層は柔軟性に乏しく、乾燥すると非常に硬く、脆くなります。最終的に、体重がかかった際にその圧力に耐えきれず、硬化した皮膚が物理的に「裂ける」ことで、痛みを伴う亀裂(Fissure)が形成されるのです6

このセクションの要点

  • かかとの皮膚は、体重を支えるために厚く進化した一方で、潤いを自給自足するための皮脂腺を持たないという構造的な弱点があります。
  • ひび割れは、①乾燥 → ②防御反応としての角質肥厚(過角化症) → ③硬化した皮膚が体重に耐えきれずに裂ける、という物理的な破壊プロセスです。

第2部:かかとのひび割れの包括的な原因:多因子モデル

「良い靴を履いているし、清潔にもしているのに、なぜ?」というかかとの悩み。その原因は一つではなく、まるでパズルのピースのように、生活習慣や環境、そして体質が複雑に絡み合ってできあがっています。その背景を理解することは、遠回りのようで、実は根本的な解決への一番の近道です。科学的には、かかとのひび割れは「機械的な圧力」と「皮膚の乾燥」という二つの大きな力がぶつかり合うことで発生します。これは、乾いて硬くなった粘土板に、上から強い力を加えるようなものです。粘土が潤っていれば力を吸収できますが、乾いているとひびが入ってしまいます。あなたの生活の中に、知らず知らずのうちに粘土板を乾燥させ、さらに上から圧力をかけている要因がないか、一緒に見ていきましょう。

2.1. 主な原因:機械的圧力と環境要因の相互作用

かかとのひび割れは、主に二つの要因が相互に作用することで悪化します。第一に、機械的な圧力です。メイヨー・クリニックの専門家が指摘するように、特に硬い床の上での長時間の立ち仕事は、かかとに持続的な圧力をかけ続けます7。また、体重の増加は単純にかかとへの負荷を増大させ、皮膚を横に引き伸ばす力を強めます9。さらに、ヤヴァパイ足・足首センターの報告によれば、サンダルやかかとの開いた靴は、踵の脂肪体を適切に支えられないため、皮膚が横に広がり、ひび割れのリスクを高める最大の外的要因の一つです11。第二に、環境と生活習慣です。ユースキン製薬などの国内機関も注意を促しているように、40℃を超える熱いお湯での長時間の入浴や、洗浄力の強い石鹸の使用は、皮膚を守る天然の油分を奪い、乾燥を加速させます5。冬場の乾燥した空気や、エアコンの効いた室内環境も同様に皮膚から水分を奪います4

2.2. 全身的・生理的寄与因子

外的な要因だけでなく、体内の変化もかかとの状態に大きく影響します。例えば、東洋医学でいう「冷え」にも通じる血行不良は、皮膚細胞の正常な再生サイクル(ターンオーバー)を妨げます。これにより、古い角質が剥がれ落ちずに蓄積し、皮膚が厚く硬くなる一因となります2。また、加齢に伴い、皮膚は天然の脂質を生成する能力が低下し、細胞の再生速度も遅くなります。その結果、皮膚は全体的に乾燥し、弾力性を失い、ひび割れやすい状態になるのです5

このセクションの要点

  • かかとのひび割れは、単一の原因ではなく、「機械的圧力(体重、立ち仕事、不適切な靴)」と「環境・生理的要因(乾燥、入浴習慣、血行不良、加齢)」が複合的に作用した結果です。
  • 特に、かかとの開いたサンダルやミュールは、踵の脂肪体を適切に支えられず、皮膚への張力を増大させる主要な外的リスク要因です。

第3部:臨床評価と鑑別診断:かかとのひび割れが他の疾患の兆候である場合

いろいろ試してもかかとの状態が良くならないとき、「自分のケアが悪いのかな」と自分を責めてしまうかもしれません。しかし、その頑固なひび割れは、単なる皮膚の問題ではなく、体が送っている別のサインかもしれません。その可能性に気づくことが、適切な治療への第一歩です。医学的には、かかとのひび割れは他の皮膚疾患や、時には全身の病気と見分ける「鑑別診断」が非常に重要になります。これは、煙が出ているのを見て、それがただの焚き火なのか、あるいは家の火事の兆候なのかを見極めるようなものです。保湿という「水をかける」行為は焚き火には有効ですが、火事の場合は消防車を呼ばなければなりません。これから、その「見極め方」について解説します。

3.1. 一般的な皮膚疾患との鑑別

かかとの乾燥やひび割れは、他の皮膚疾患の症状と非常によく似ていることがあります。代表的なものが、モカシン型の足白癬(水虫)です。これは足の裏全体が乾燥し、粉をふいたように硬くなるのが特徴で、単純な乾燥肌と見分けるのが困難な場合があります4。また、乾癬や掌蹠膿疱症などの炎症性の皮膚疾患も、かかとの角質が厚くなり、ひび割れを引き起こすことがあります2。これらの場合、保湿剤だけでは効果がなく、原因に応じた抗真菌薬や抗炎症薬による治療が必要です。自己判断でケアを続けると、かえって症状を悪化させる危険があるため、鑑別には専門医による診察が不可欠です。

3.2. 全身性疾患の皮膚症状としてのかかとのひび割れ

特に注意が必要なのが、全身性の疾患が原因で起こるかかとのひび割れです。その中でも最も重要なのが、糖尿病性足病変です。日本糖尿病学会の診療ガイドラインでも厳しく警告されているように、糖尿病の合併症である神経障害は、足の汗の分泌を減少させ、極度の乾燥肌を引き起こします1013。同時に、感覚も鈍くなるため、小さなひび割れに気づかず、そこから細菌が侵入して重篤な潰瘍や感染症に発展し、最悪の場合、下肢切断に至るケースも少なくありません14。また、甲状腺機能低下症も、体の新陳代謝を全般的に低下させるため、皮脂や汗の分泌が減少し、全身が乾燥肌になります。東京警察病院の報告によれば、この症状は特にかかとや肘で顕著に現れることがあります15。倦怠感や冷え、脱毛など他の症状を伴う場合は、内科的な検査が必要です。

受診の目安と注意すべきサイン

  • 赤み、腫れ、熱感、膿など、感染を疑う兆候がある場合。
  • 亀裂が深く出血したり、歩くときに強い痛みを伴う場合。
  • 2~3週間、市販薬などでセルフケアを続けても全く改善が見られない場合。
  • 特に、ご自身が糖尿病や末梢動脈疾患、または足の感覚が鈍いと感じている場合は、軽微なひび割れでもすぐに専門医に相談してください。

第4部:段階的治療・管理フレームワーク

硬くなってしまったかかとを前に、どこから手をつけていいか分からなくなることがあります。その気持ち、よく分かります。しかし、焦る必要はありません。かかとのケアは、段階を踏んで丁寧に行うことが成功の鍵です。科学的にも、効果的なケアは「硬い角質を安全に取り除き、失われた水分を補給し、それを閉じ込める」という3つのステップに基づいています。これは、硬くなった土を耕し、水をやり、そしてビニールシートで覆って水分の蒸発を防ぐ庭仕事と似ています。まずは土を耕すところから、安全で効果的な方法を一緒に学んでいきましょう。

4.1. 基本戦略:予防と積極的なセルフケア

効果的なケアの第一歩は、日々の習慣の見直しから始まります。ユースキン製薬などの専門機関は、入浴時に40℃程度のぬるま湯に10~15分程度浸かることを推奨しています。これにより、皮膚に必要な油分を奪いすぎずに角質を柔らかくすることができます5。そして最も重要なのが、入浴後です。米国皮膚科学会(AAD)は、タオルで軽く水気を拭き取った後、「5分以内」に保湿剤を塗ることを強く推奨しています16。これは、皮膚にまだ水分が残っているうちにクリームで蓋をすることで、水分を閉じ込める「保湿ロック」効果を最大化するためです。角質除去を行う場合は、必ずこのようにお風呂で皮膚を十分に柔らかくしてから、軽石などを使い、優しく一方向にこするようにします17。持田ヘルスケアの専門家は、削りすぎると皮膚が防御反応でさらに硬くなる「リバウンド」が起こる可能性があると警告しています19。特に糖尿病などの基礎疾患がある方は、自己判断での角質除去は感染症のリスクが非常に高いため絶対に避け、専門医に相談してください18

4.2. エビデンスに基づく外用薬治療

保湿剤を選ぶ際、成分に注目することが重要です。その中でも「尿素(Urea)」は、非常にユニークで効果的な成分です。2021年の学術レビューで明らかにされたように、尿素はその濃度によって働きが変わります3。10%以下の低濃度では、強力な保湿剤として機能し、皮膚の水分保持能力を高めます。一方、20%などの高濃度になると、硬くなった角質(ケラチン)を溶かして柔らかくする「角質溶解作用」を発揮します。この二つの作用を併せ持つため、米国皮膚科学会(AAD)は、厚く硬くなったかかとのひび割れに対して、10%から25%の尿素を配合した製品の使用を推奨しています16。実際に、糖尿病患者の足の乾燥肌を対象としたランダム化比較試験では、尿素を配合したクリームが、標準的な保湿クリームに比べて臨床的に有意な改善を示したことが報告されています21

今日から始められること

  • 入浴後5分以内の保湿を徹底しましょう。スマートフォンを見る前に、まず保湿を習慣にすることから始めてみませんか。
  • 硬い角質には、尿素が20%配合された市販の医薬品クリームを選び、まずは夜寝る前に塗って靴下を履くことから試してみましょう。
  • 角質を削る際は「やりすぎない」ことが鉄則です。週に1~2回、優しく行うに留め、痛みを感じたらすぐに中止してください。

第5部:日本の文脈:臨床実践、保険、および消費者衛生

日本で生活している私たちが、かかとのひび割れに悩んだとき、どのような選択肢があるのでしょうか。ドラッグストアには無数の製品が並び、どれを選べば良いか迷うのも無理はありません。しかし、日本の医療制度には、この悩みに対して非常に心強いサポート体制が整っています。実は、専門医による効果的な治療が、驚くほど身近で、かつ経済的な負担も少なく受けられることをご存知でしょうか。これは、適切な治療へのアクセスを保証する日本の皆保険制度の大きな利点です。市販薬でのケアに限界を感じたとき、その先には信頼できる専門的な選択肢が用意されていることを知っておくことは、大きな安心につながります。

5.2. 日本の医療保険制度の活用(保険適用)

重度に硬化したかかとの角質(胼胝)は、皮膚科で専門的に除去してもらうことができます。この「鶏眼・胼胝処置」は健康保険が適用される医療行為です。大木皮膚科などの医療機関の情報によれば、その費用は保険点数で170点と定められており、自己負担が3割の方であれば、窓口での支払いはわずか510円程度(別途診察料が必要)です23。また、医師が治療に必要と判断した場合、高濃度の尿素クリームも保険適用で処方されます。例えば、代表的な「ケラチナミンコーワクリーム20%」は、巣鴨千石皮ふ科の提供する情報によると薬価が非常に安く、患者の自己負担は50gのチューブ1本あたり60円程度です24。同様に「ウレパールクリーム10%」も、50gあたり約58.5円の自己負担となります25。このように、専門的な治療への金銭的なハードルは、日本では非常に低いのが実情です。

5.3. 日本の市販薬(OTC)市場

日本のドラッグストア市場は非常に充実しており、症状の段階に応じた様々な製品が手に入ります。製品は主にその効果効能によって法的に分類されています。EPARKくすりの窓口などの薬剤師向け情報サイトによると、硬くなった角質を積極的に柔らかくしたい場合は、尿素を20%配合した「第3類医薬品」が選択肢となります(例:ケラチナミンコーワ20%クリーム)2226。一方、日常的な乾燥予防や軽度のガサガサには、尿素10%配合の「医薬部外品」が適しています。また、すでに「ぱっくり」と割れて痛みを伴うひびには、アラントインやビタミン類を配合し、組織の修復を促すことを目的とした製品(例:メンソレータム ヒビプロLP)も「第3類医薬品」として販売されています20。自分の症状が「硬さ」が問題なのか、「痛み」が問題なのかを見極めて製品を選ぶことが重要です。

今日から始められること

  • 市販薬を2週間試しても改善しない、または痛みが強い場合は、迷わず皮膚科を受診しましょう。保険適用で、自己負担は予想以上に少ないかもしれません。
  • ドラッグストアで製品を選ぶ際は、パッケージの「医薬品分類」を確認してみましょう。「第3類医薬品」はより積極的な治療を、「医薬部外品」は予防や軽度の症状を目的としています。
  • 受診の際は、いつから症状があるか、どの市販薬をどのくらいの期間試したかを医師に伝えると、よりスムーズに診察が進みます。

第6部:統合と戦略的推奨

ここまで、かかとのひび割れの科学的背景から日本の医療事情までを詳しく見てきました。大切なのは、これらの知識を日々の実践に結びつけることです。結局のところ、私たちの体が出すサインにどう応えるかが、健康を維持する上で最も重要です。かかとのひび割れもまた、体からの大切なメッセージです。「少し潤いが足りないよ」という優しい合図の時もあれば、「専門家の助けが必要だよ」という緊急の警告の時もあります。この最後のセクションでは、そのメッセージを正しく受け取り、賢明な次のステップを踏み出すための、具体的な行動指針を提案します。

今日から始められること

  • 軽度の場合(乾燥・ざらつき):日々の保湿ケアを徹底しましょう。尿素10%配合のクリームなどが予防に効果的です。
  • 中等度の場合(厚い角質、小さなひび割れ):市販の尿素20%配合クリームを導入し、週に1〜2回の優しい角質ケアを組み合わせます。
  • 重度の場合(深い亀裂、痛み、出血):直ちにセルフケアを中止し、皮膚科を受診してください。特に糖尿病などの持病がある方は、軽度であっても専門医への相談が不可欠です。

よくある質問

Q1. 尿素(Urea)クリームはなぜかかとのひび割れに良いのですか?

尿素は、濃度によって二つの重要な働きをするユニークな成分です。10%以下の低濃度では、周囲から水分を引き寄せて肌に潤いを与える「保湿剤」として機能します。一方で、20%などの高濃度になると、硬くなった皮膚のタンパク質(ケラチン)を分解し、柔らかくする「角質溶解剤」としての働きが強くなります3。そのため、硬くてひび割れたかかとには、この両方の作用を持つ高濃度の尿素クリームが特に効果的とされています18

Q2. 角質は削れば削るほど良いのですか?

いいえ、それは危険な誤解です。角質を無理に削りすぎると、皮膚の防御機能が働き、かえって角質を厚くしようとする「リバウンド」現象が起きることがあります19。また、健康な皮膚まで傷つけてしまい、感染症の原因となることもあります。角質ケアは、必ずお風呂などで皮膚を十分にふやかした後、週に1〜2回程度、軽石などで優しく行うに留めてください17

Q3. 病院に行くと、どのような治療をしてもらえますか?

症状が重い場合、皮膚科ではまず、専用の医療器具を使って安全に硬くなった角質(胼胝)を削り取る処置(鶏眼・胼胝処置)を行います。これは健康保険が適用され、3割負担の方で510円程度の自己負担です23。これにより、圧力が軽減され痛みが和らぎます。その後、症状に応じて高濃度の尿素クリームや、ひび割れの修復を助けるビタミンA軟膏などが処方されます。これらも保険適用となります。

Q4. 糖尿病だとなぜかかとのケアが特に重要なんですか?

糖尿病の合併症として、神経障害と血流障害が起こることがあります。神経障害が起きると、足の感覚が鈍くなり、痛みを感じにくくなります。そのため、小さなひび割れや傷に気づかず放置してしまいがちです。さらに血流障害があると、傷の治りが遅く、細菌に感染しやすくなります。このため、ささいなひび割れから重篤な潰瘍や壊疽(えそ)に発展し、最悪の場合は足を切断しなければならないこともあります1014。だからこそ、糖尿病患者さんには、毎日の足の観察と専門家による定期的なフットケアが不可欠なのです。

結論

かかとのひび割れは、多くの人が経験するありふれた悩みですが、その背景には皮脂腺の欠如という解剖学的な特徴と、日々の生活習慣が複雑に絡み合っています。本記事で解説したように、その解決策は、単に保湿クリームを塗るだけでなく、原因となる「圧力」と「乾燥」の両方にアプローチする段階的なケアにあります。特に、尿素のような科学的根拠のある成分を適切に活用すること、そして日本では、費用負担の少ない保険診療という非常に有効な選択肢があることを知っておくことが重要です。痛みを我慢したり、自己判断でケアを続けて悪化させたりする前に、この記事が専門家への相談を後押しする一助となれば幸いです。健康な足は、快適な毎日を支える大切な土台です。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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