酒さは、単なる美容上の問題ではなく、複雑な慢性の炎症性皮膚疾患です。自宅で効果的に管理するためには、その背景にある生物学的メカニズムを理解することが不可欠です。現在の科学的エビデンスは、酒さの病態生理における3つの主要な柱、すなわち神経血管系の調節不全1、自然免疫系の機能障害2、そして皮膚バリアの損傷3を指摘しています。
この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
第1章:酒さを理解する – 赤みの背景にある科学
「なぜ自分の肌だけが、こんなにも赤く、敏感なのだろう?」その根本的な原因が分からず、鏡を見るたびに不安な気持ちになるのは、とても辛い経験です。その気持ち、とてもよく分かります。酒さの症状は見た目にも直接現れるため、原因が複雑で分かりにくいことは、大きなストレスになりますよね。科学的には、その赤みの背景には、肌の内部で起きているいくつかの重要な変化が関連しています。
その中心にあるのが「皮膚バリア機能の低下」です。これは、家の屋根に小さな穴が空いて雨漏りする状態に似ています。健康な肌には、外部の刺激物(アレルゲンや細菌など)の侵入を防ぎ、内部の水分が蒸発しないように守る「バリア」がありますが、酒さの肌ではこのバリアが弱っています3。だからこそ、ちょっとしたことで刺激を感じやすくなり、乾燥しやすくなるのです。この章では、酒さの背景にある「血管」1、「免疫」2、「皮膚バリア」3という3つの科学的な要因を学び、ご自身の状態を理解する第一歩としましょう。
1.1 病状の分析:炎症、血管、そして皮膚バリア
酒さは、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って発症する慢性の炎症性皮膚疾患です。主要な要因は3つあります。第一に「神経血管系の調節不全」で、これは肌の血管が過敏になり、些細な刺激で拡張してしまう状態です。交通整理がうまくいかない交差点のように、一度赤信号(血管拡張)になると、なかなか青信号(収縮)に戻れず、顔の赤みやほてりが長く続きます1。第二に「自然免疫系の異常」です。肌を守るはずの免疫システムが過剰に反応し、カセリシジンという物質を異常に多く作り出すことで、不必要な炎症を引き起こし、ぶつぶつ(丘疹・膿疱)の原因となります2。そして第三に、先述した「皮膚バリア機能の低下」です。これにより肌は乾燥し、外部からの刺激にさらに弱くなります。これらに加え、皮膚に常在するDemodex(ニキビダニ)のような微生物も、免疫反応を誘発し症状を悪化させる一因と考えられています。
1.2 あなたの表現型を特定する:従来の4分類を超えて
かつて酒さは4つのタイプに分類されていましたが、実際の患者さんの症状はもっと多様です。そのため、国際的な専門家グループROSCOは、個々の症状、つまり「表現型」に注目する新しいアプローチを提唱しています4。これは、決まった定食メニューではなく、好きなおかずを自由に選ぶビュッフェに似ています。例えば、「一過性のほてり」「持続的な赤み」「ぶつぶつ(丘疹・膿疱)」「見える血管(毛細血管拡張)」といった個別の症状を評価し、それぞれに最適な治療を組み合わせることで、より個人に合った効果的なケアが可能になります。
1.3 酒さの慢性的な性質:短距離走ではなく、マラソン
酒さと向き合う上で最も大切なことの一つは、これが長期的な管理を必要とする慢性疾患であると理解することです。多くの患者さんが経験するように、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返し、終わりが見えないように感じることがあります6。しかし、目標を「完治」から「良好な管理」に切り替えることで、精神的な負担を大きく減らすことができます。治療のゴールは、症状をゼロにすることではなく、日常生活に支障がないレベルにコントロールし、悪化の頻度を減らし、生活の質(QOL)を高めることです5。症状の改善には数ヶ月、時には年単位の時間が必要な場合もありますが、焦らず根気強くケアを続けることが、ゴールへの一番の近道です。
このセクションの要点
- 酒さは、「血管の過敏な反応」「免疫システムの異常」「皮膚バリアの弱体化」という3つの主要な生物学的要因によって引き起こされます。
- 現代の治療アプローチでは、個々の症状(表現型)に焦点を当て、それぞれに合わせた治療を組み合わせることが推奨されています。
第2章:酒さ管理の3つの柱:スキンケア、紫外線対策、増悪因子
良かれと思って試したスキンケア製品で、かえって肌の調子が悪化してしまった、という経験はありませんか。そのお気持ち、とてもよく分かります。敏感な酒さの肌では、製品選びに失敗して落ち込む「コスメ難民」のような経験は、多くの人がしています6。科学的には、酒さの肌は皮膚のバリア機能が低下しているため、守る力が弱っている状態です8。このバリアを再建し、外部の刺激から肌を守ることが、あらゆる治療の土台となります。だからこそ、日々のスキンケアは単なる美容習慣ではなく、治療そのものの一部なのです。この章では、毎日の習慣となる「優しいスキンケア」、「必須の紫外線対策」、「個人の増悪因子の特定」という、管理の土台となる3つの柱を具体的に確立します。
2.1 強固な皮膚バリアの構築:優しいスキンケアの技術
優しいスキンケアは、日本皮膚科学会の治療ガイドラインでも推奨される、酒さ管理の基本です8。その目的は、弱った皮膚バリア機能を回復させ、肌の基礎体力を上げることです。洗顔は、低刺激でpHが低い(弱酸性の)洗浄料を使い、肌をこすらず優しく洗います。最も重要なのは保湿です。セラミド、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸といった、肌のバリア機能を補強し、水分を保つ成分が含まれた保湿剤を毎日使用しましょう9。一方で、アルコール、香料、物理的なスクラブ剤、そして意外なことに、血行促進作用のあるヘパリン類似物質(医療用保湿剤に含まれることがある)は、赤みを悪化させる可能性があるため避けるべきです11。
2.2 侵入不可能な盾:日焼け止めに関する深い洞察
紫外線は、酒さの症状を悪化させることが知られている最も強力な因子の一つです1。紫外線は肌に炎症を引き起こし、血管にダメージを与えるため、日焼け止めによる防御は一年中欠かせません。製品選びのポイントは、肌への刺激が少ない「物理的サンスクリーン」(またはノンケミカル処方)を選ぶことです。これは、酸化亜鉛や酸化チタンといったミネラル成分が肌の表面で紫外線を物理的に反射させる仕組みで、紫外線を吸収して熱に変換する「化学的サンスクリーン」よりもアレルギーや刺激のリスクが低いとされています10。SPF30以上で、UVAとUVBの両方を防ぐ「広域スペクトラム」の製品を、曇りの日や室内でも毎日使用することを習慣にしましょう。
2.3 「酒さ探偵」になる:個人の増悪因子を特定する
酒さの症状が悪化するきっかけは、人によって大きく異なります。アルコールや香辛料の効いた食事が原因の人もいれば6、ストレスや急激な温度変化が引き金になる人もいます5。自分だけの「増悪因子」を見つけ出すことは、長期的な症状管理において非常に効果的な戦略です。そこでおすすめなのが「酒さ日記」をつけることです。食べた物、行った活動、その日のストレスレベル、使用したスキンケア製品と、その時の肌の状態を数週間にわたって記録します。すると、やがて「これをすると悪化するかもしれない」という自分なりのパターンが見えてきます。これにより、やみくもに全てを避けるのではなく、自分にとって本当に影響のあるものだけを賢く管理できるようになります。
今日から始められること
- 今使っている洗顔料と保湿剤の成分表を確認し、アルコールや香料が含まれていないかチェックしてみましょう。
- 明日から、外出の有無にかかわらず、SPF30以上の物理的サンスクリーンを塗ることを朝の習慣に加えてみましょう。
- スマートフォンや手帳に、今日食べた辛いものと、その後の肌の赤みの変化をメモしてみましょう。それが「酒さ日記」の第一歩です。
第3章:効果の高い外用有効成分:医療用から市販化粧品まで
「どの治療薬や化粧品が、本当に自分の肌に効果があるのだろう?」情報が氾濫する中で、最適な製品を選び出すのは至難の業です。多くの選択肢を前にして、途方に暮れてしまうそのお気持ち、よく分かります。科学の世界では、薬や成分の効果は「エビデンスレベル」という物差しで評価されます。これは、その治療法がどれだけ多くの信頼できる研究で有効性を示されたかを示す指標です。例えば、大規模なランダム化比較試験(RCT)で有効性が証明された成分は、エビデンスレベルが「高い」と評価されます。だからこそ、流行や口コミだけでなく、このエビデンスに基づいて選択することが、遠回りのように見えて一番の近道なのです。この章では、臨床試験で効果が証明されている医療用成分から、日常ケアで使える市販の有効成分まで、そのエビデンスレベルと共に整理してご紹介します。
3.1 臨床のゴールドスタンダード
酒さの治療において、その有効性が多くの臨床研究で確認されている「ゴールドスタンダード」と呼べる外用薬がいくつかあります。国際的なガイドラインで推奨されるアゼライン酸は、炎症を抑え、抗菌作用も持つ多機能な成分です4。日本では2022年から、メトロニダゾール(製品名:ロゼックスゲル)が酒さに対して保険適用となり、多くの患者さんにとって第一選択肢の一つとなりました。これは抗炎症作用と抗菌作用を併せ持ちます11。さらに、イベルメクチンは、Cochraneのシステマティックレビューで質の高いエビデンスが示されており、ニキビダニ(Demodex)を減らす効果と強力な抗炎症作用で、丘疹や膿疱に対して特に高い効果を発揮します13。
3.2 化粧品カウンターでの賢い選択:低濃度の有効成分を活用する
処方薬に加えて、日常のスキンケアに取り入れられる市販の化粧品にも、酒さの肌に有益な成分があります。これらは治療を補完し、症状が安定している時期の維持療法として役立ちます。例えば、処方薬よりも低濃度(5-10%)のアゼライン酸や、その誘導体を含む美容液は、刺激を抑えつつ穏やかに炎症をケアします15。また、ナイアシンアミドは、皮膚バリア機能を強化し、赤みを軽減する効果で知られ、CIR(米国化粧品成分評価委員会)によってその安全性が確認されている、非常に優れたサポート成分です16。同様に、赤みや色むらにアプローチするトラネキサム酸も、肌に優しい選択肢として注目されています9。
自分に合った選択をするために
医療機関での治療: ぶつぶつ(丘疹・膿疱)が目立つ場合や、市販品で改善しない場合は、皮膚科専門医に相談し、メトロニダゾールやイベルメクチンなどの処方薬治療を検討するのが最も効果的です。
日常のスキンケアでのサポート: 主に赤みや敏感さが気になる場合、または症状が安定している時期の維持には、ナイアシンアミドや低濃度アゼライン酸誘導体を含む市販の化粧品を日々の保湿ケアに加えるのが良いでしょう。
第4章:自然の「薬箱」:ハーブ療法と代替療法の批判的評価
化学的な薬には少し抵抗がある、できれば「自然」由来の優しいものでケアしたい、そう考えるのはとても自然なことです。そのお気持ちは、多くの人が共有する願いでしょう。しかし、ここで一つ大切なことがあります。科学的には、「自然由来」という言葉は、必ずしも「安全」や「効果的」を意味するわけではありません3。植物には確かに素晴らしい力がありますが、中にはアレルギーや刺激の原因となる物質も含まれています。これは、美味しいキノコと毒キノコを見分ける必要があるのに似ています。見た目が似ていても、体に与える影響は全く違うのです。だからこそ、自然療法を選ぶ際にも、どの成分が信頼できる研究によってその有効性と安全性が示されているのか、という「エビデンス」の視点を持つことが非常に重要になります。
4.1 レベル1 – 臨床研究されたハーブ
ごく一部の天然成分は、信頼性の高いランダム化比較試験(RCT)によって、酒さへの有効性が示されています。ニュージーランドで行われた研究では、医療用カヌカハニーを含むクリームが、酒さの重症度を有意に改善したことが報告されました。これは蜂蜜の持つ抗炎症・抗菌作用によるものと考えられています17。また、キク科の植物であるクリサンテルム・インディクムの抽出物を含むクリームも、プラセボ(偽薬)と比較して赤みを著しく改善することが示されています18。近年スキンケアで人気のツボクサ(Cica)抽出物も、内服薬の補助療法として使用した場合に、肌の乾燥やほてりを改善したというRCTの結果があります19。
4.2 レベル2 – 強力な理論的根拠といくつかの臨床的裏付けを持つ成分
RCTとまではいかなくとも、その作用機序や間接的な臨床データから、酒さの肌に有益である可能性が高い成分もあります。コロイド状オートミールは、米国食品医薬品局(FDA)によって皮膚保護剤として認められており、抗炎症作用と保湿効果が証明されています21。緑茶に含まれるEGCGというポリフェノールは、強力な抗酸化・抗炎症作用を持ちます22。また、ナツシロギク(Feverfew)は、アレルギーの原因となりうるパルテノライドという成分を除去したものであれば、抗酸化・抗炎症作用が期待できます。甘草抽出物も、古くから抗炎症ハーブとして知られています20。
4.3 レベル3 – 注意と論争を要する成分
一般的に「肌に優しい」というイメージで使われがちですが、酒さの肌には慎重になるべき天然成分も存在します。アロエベラやカモミールは、鎮静作用が期待される一方で、アレルギー性接触皮膚炎の原因となる可能性があります3。ラベンダーやティーツリーなどのエッセンシャルオイルは、その香りや抗菌作用が注目されますが、高濃度では皮膚細胞に対する毒性も報告されており、刺激やアレルギーのリスクが高い成分です26。また、ココナッツオイルは保湿力があるものの、毛穴を詰まらせる性質(面皰形成性)が高く、ぶつぶつ(丘疹・膿疱)を悪化させる可能性があるため、特に注意が必要です27。
自分に合った選択をするために
エビデンスを重視する場合: 医療用カヌカハニーやクリサンテルム・インディクム、ツボクサ(Cica)など、RCTで効果が示されている成分を含む製品を探すのが最も確実です。
日々のサポートとして取り入れる場合: コロイド状オートミールや緑茶抽出物など、作用機序が明確で安全性の高い成分を含む保湿剤や美容液を、基本的なスキンケアに加えるのが良いでしょう。エッセンシャルオイルやココナッツオイルの直接塗布は避けましょう。
第5章:脳-腸-皮膚軸:食事と酒さに関する実践的ガイド
「これを食べたら、また顔が赤くなるかもしれない…」食事の時間が、楽しみではなく不安の原因になってしまう。そのように感じている方は、決して少なくありません6。食事と酒さの関係については多くの情報があり、何が正しくて何が間違っているのか、混乱してしまいますよね。ここで重要な科学的視点は、「誘発食品」と「炎症性食品」を区別することです。前者は、辛い食べ物やアルコールのように、摂取後すぐに血管を拡張させてほてりを引き起こすもの。後者は、血糖値を急激に上げる食品のように、長期的に体内の炎症レベルを高める可能性があるものです。だからこそ、全てを禁止するのではなく、自分の体質に合わないものを見極める「賢い管理」が大切なのです。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、特定の食品を画一的に制限することは推奨しておらず、個人に合わせたアプローチを重視しています8。極端な食事制限はかえってストレスとなり、症状を悪化させることさえあります。大切なのは、神経質になりすぎず、第2章で紹介した「酒さ日記」を活用して、自分自身の明確な増悪因子(トリガーフード)を特定することです28。全体としては、加工食品や糖分を控えめにし、野菜や果物から食物繊維や抗酸化物質を豊富に摂るという、一般的な抗炎症的な食生活を心がけることが、最も現実的で持続可能なアプローチと言えるでしょう。
今日から始められること
- 夕食にアルコールを飲んだら、その後の顔のほてり具合を簡単にメモしてみましょう。これが自分のトリガーを知る第一歩です。
- 明日のランチは、白米の量を少し減らし、その分、色の濃い野菜(ブロッコリーやパプリカなど)を加えてみませんか。
- 「〇〇を食べてはいけない」と考えるのではなく、「〇〇を食べると、自分の肌はどう反応するかな?」と観察する視点を持ってみましょう。
第6章:皮膚を越えて:心理社会的負担の管理
酒さの悩みは、単に皮膚の赤みやぶつぶつだけではありません。「人の視線が気になる」「メイクで隠せないのが辛い」「かゆみで夜も眠れない」…。こうした経験は、自信を失わせ、人と会うことをためらわせるなど、生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼします6。その苦しみは、ご本人にしか分からない深いものであり、決して些細なことではありません。科学的にも、ストレスと酒さの悪化には明確な関連が示されています。ストレスを感じると、体内で炎症反応が活発になり、それが皮膚の症状として現れるのです。これは、心と体が密接につながっている証拠です。だからこそ、ストレスを管理することは、肌をいたわることと全く同じくらい重要なセルフケアなのです。
マインドフルネス瞑想やヨガ、軽いウォーキングなど、自分が心地よいと感じるストレス解消法を見つけることは、有効な治療の一部となり得ます。また、「メイクができない」という悩みに対しては、解決策があります。肌への負担が少ないミネラルベースのファンデーションを選んだり、緑色の下地を使って赤みを補正したりするなど、工夫次第でメイクを楽しむことは可能です。大切なのは、一人で抱え込まず、信頼できる医師やカウンセラーに相談したり、同じ悩みを持つ人々のコミュニティに参加したりすることです。悩みを共有し、認め合うだけでも、心の負担は大きく軽減されます。
今日から始められること
- 5分間だけ、静かな場所でゆっくりと深呼吸する時間を作ってみましょう。スマートフォンを置いて、ただ呼吸に集中するだけでも、心は落ち着きます。
- ドラッグストアで、敏感肌向け・ノンコメドジェニックテスト済みの緑色のコントロールカラーを探してみませんか。
- あなたの悩みを、信頼できる一人の友人や家族に話してみましょう。理解してもらうことが、大きな力になります。
第7章:あなただけの酒さ回復プロセスの統合
これまでに多くの情報を学んできましたが、「結局、明日から具体的に何をすればいいの?」と迷ってしまうかもしれませんね。その気持ちは、新しいことに挑戦するときの自然な反応です。大切なのは、すべての情報を一度に完璧に実行しようとしないことです。科学的な知識を元に、自分に合った無理のないプランを立て、それを継続することが成功への鍵です。ここでは、これまで学んだことを整理し、あなたの症状に合わせた具体的な朝晩のケアプランの例を提示します。これを参考に、あなただけの「酒さ回復プロセス」をデザインしてみましょう。
7.1 朝と夜のケアプラン構築
一貫したスキンケア習慣は、肌の状態を安定させるための土台です。基本的な流れは以下の通りです。
- 朝のケア: 優しい洗顔 → (必要なら)治療薬や美容液 → 保湿剤 → 日焼け止め
- 夜のケア: (メイクした場合)優しいクレンジング → 優しい洗顔 → (必要なら)治療薬や美容液 → 保湿剤
7.2 サンプルプラン:症状別の管理法
ご自身の主な悩みに合わせて、プランを調整してみてください。
主な悩み/表現型 | 朝のケアプラン例 | 夜のケアプラン例 |
---|---|---|
赤み・敏感さが中心 | 1. 優しい洗顔 2. ナイアシンアミド/トラネキサム酸配合美容液 3. セラミド配合保湿剤 4. 物理的サンスクリーン (SPF30+) |
1. 優しい洗顔 2. セラミド配合保湿剤 3. (週1-2回) コロイドオートミール配合の鎮静パック |
赤みとぶつぶつ(丘疹・膿疱)が混在 | 1. 優しい洗顔 2. 軽い質感の保湿剤 3. 物理的サンスクリーン (SPF30+) |
1. 優しい洗顔 2. 処方薬 (メトロニダゾール、アゼライン酸など) 3. バリア修復機能のある保湿剤 |
症状が安定している維持期 | 1. 優しい洗顔 2. サポート美容液 (ナイアシンアミドなど) 3. 保湿剤 4. 物理的サンスクリーン (SPF30+) |
1. 優しい洗顔 2. (隔日など) 処方薬を継続 3. 保湿剤 |
7.4 専門家に相談すべき時
自宅でのセルフケアは非常に重要ですが、限界もあります。次のような場合は、皮膚科専門医に相談することが不可欠です。数ヶ月間セルフケアを続けても症状が改善しない、あるいは悪化する場合。特に、持続的な赤みや毛細血管拡張に対しては、レーザー(Vビームなど)や光治療(IPL)が最も効果的な選択肢となることが多いです4。また、中等度以上のぶつぶつ(丘疹・膿疱)には、ドキシサイクリンの低用量内服などが処方されることもあります。これらの専門治療は、多くの場合、保険適用外で費用がかかるため29、治療の選択肢、効果、リスク、費用について医師と十分に話し合い、納得のいく治療計画を一緒に立てることが重要です。
受診の目安と注意すべきサイン
- 自宅でのケアを数ヶ月続けても、丘疹や膿疱が改善しない、または増加する。
- 目の充血、異物感、乾燥など、目の症状が現れた場合(眼酒さの可能性)。
- 皮膚が厚くなり、鼻がゴツゴツと変形してきた場合(鼻瘤の可能性)。
よくある質問
スキンケアで一番大切なことは何ですか?
赤みを隠すためにメイクをしてもいいですか?
はい、適切な製品を選び、優しくメイクすれば問題ありません。むしろ、赤みをカバーすることで心理的な負担が軽くなり、QOLが向上するという大きなメリットがあります6。肌への負担が少ないミネラルファンデーションや、赤みを補正する緑色の下地を選びましょう。クレンジングの際は、絶対にこすらないように注意してください。
食事は厳しく制限しないといけませんか?
いいえ、その必要はありません。日本皮膚科学会のガイドラインでも、画一的な食事制限は推奨されていません8。大切なのは、自分にとっての明確な増悪因子(例えば、アルコールや特定の香辛料など)を「酒さ日記」で見つけ、それを避けることです。神経質になりすぎず、バランスの取れた食事を心がける方が、ストレスも少なく継続しやすいでしょう。
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結論
酒さは、その複雑な性質から不安や混乱を引き起こしやすい疾患ですが、正しい知識に基づけば、自宅で効果的に管理することが十分に可能です。この記事で解説したように、その鍵は「皮膚バリアの保護と強化」「個人の増悪因子の特定と回避」「エビデンスに基づく有効成分の活用」そして「心身のストレス管理」という多角的なアプローチにあります。症状の改善には時間がかかるかもしれませんが、焦らず、あなた自身の肌と対話しながら、一歩ずつ着実にケアを続けていくことが、穏やかな肌と自信を取り戻すための最も確実な道筋となるでしょう。
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
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