消化器疾患

【科学的根拠に基づく】肝硬変による腹水のすべて:症状・原因から食事、最新治療法まで徹底解説

肝硬変が進行した際に現れる最も一般的で深刻な合併症の一つが「腹水」です。お腹が張る、体重が急に増えるといった症状から始まり、進行すると呼吸困難や食欲不振を引き起こし、患者様とそのご家族に大きな不安をもたらします。腹水の出現は、病気が「代償期」から「非代償期」へと移行したことを示す重要なサインであり、決して軽視できません8。しかし、これは決して「もう手遅れ」を意味するものではありません。日本の『肝硬変診療ガイドライン2020』をはじめとする最新の医学的知見に基づけば、適切な治療と生活習慣の管理によって、症状をコントロールし、生活の質(QOL)を維持・改善することが可能です917。この記事では、JapaneseHealth.org編集委員会が、肝臓専門医の監修のもと、肝硬変による腹水の原因、症状、そして日本の医療現場で実践されている最新の治療法まで、科学的根拠に基づいて包括的かつ詳細に解説します。

この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示します。

  • 日本消化器病学会・日本肝臓学会: 本記事における治療法の基本方針、特に塩分制限、段階的な利尿薬の使用法、難治性腹水に対する治療選択肢(CARTやトルバプタンの推奨など)に関する指針は、これらの学会が発行した『肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)』に基づいています17。これは日本国内における診療の基盤となる最も権威ある情報源です。
  • 米国肝臓学会(AASLD): 腹水の診断基準(SAAGなど)、特発性細菌性腹膜炎(SBP)の管理、および治療法の国際的な標準治療に関する記述は、AASLDが発表した2021年の診療ガイドラインを参考にし、日本の状況と比較検討しています67
  • 欧州肝臓学会(EASL): 腹水管理の原則や合併症に関する国際的なコンセンサスを補強するため、EASLの診療ガイドラインも参照しています1520

要点まとめ

  • 腹水は進行した肝硬変の深刻な兆候ですが、適切な治療により症状のコントロールと生活の質の改善が可能です。
  • 主な原因は、硬くなった肝臓による「門脈圧亢進症」と、肝機能低下による血中の「アルブミン減少」です。
  • 治療の基本は、1日5〜7gを目安とした厳格な「減塩食」です。これが最も重要な生活習慣の改善となります。
  • 薬物治療では、まずスピロノラクトンなどの利尿薬が用いられ、効果が不十分な場合にフロセミドなどが追加される段階的アプローチが標準です。
  • 通常の利尿薬で効果がない「難治性腹水」に対しては、日本では保険適用の「CART(腹水濾過濃縮再静注法)」や「トルバプタン(サムスカ®)」という有効な治療選択肢があります。
  • 腹痛、発熱、意識の変化は、命に関わる合併症「特発性細菌性腹膜炎(SBP)」の可能性があり、直ちに医療機関を受診する必要があります。

日本の肝硬変治療が直面する新たな局面

本題に入る前に、現在の日本における肝硬変治療の背景を理解することは極めて重要です。かつて、日本の肝硬変の主たる原因はC型肝炎ウイルス(HCV)であり、日本肝臓学会の調査によれば2008年には全症例の約60.9%を占めていました1。しかし、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という画期的な治療法の登場により、HCVを原因とする肝硬変は2018年には48.2%まで著しく減少しました1。この変化は、日本の肝疾患対策の大きな成功物語です。
一方で、新たな課題も浮上しています。同調査によると、アルコール性肝硬変の割合は13.6%から19.9%へと増加1。さらに深刻なのは、生活習慣と密接に関連する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に起因する肝硬変の急増で、その割合は2.1%から6.3%〜9.1%へと数倍に増加しています2。これは、現代日本の肝硬変患者が、ウイルス感染者だけでなく、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病を併せ持つ人々へと変化していることを示唆しています。日本国内の肝硬変患者数は、未診断例を含めると30万人を超えると推定されており2、依然として大きな国民的課題です。腹水は、この肝硬変が「代償期」から「非代償期」へ移行する転換点であり、5年生存率を約80%から30%へと急落させる予後不良のサインです6。この厳しい現実を認識しつつ、現代医療が提供する希望に目を向けることが、本稿の目的です。

表1:日本における肝硬変の原因の変化(2008年 vs 2018年)
原因(成因) 割合(2008年)1 割合(2018年)1 傾向(傾向)
C型肝炎ウイルス (HCV) 60.9% 48.2% ▼ 減少
B型肝炎ウイルス (HBV) 13.6% 11.5% ▼ 微減
アルコール性 13.6% 19.9% ▲ 増加
非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) 2.1% 6.3% ▲ 増加
その他/不明 9.8% 14.1% ▲ 増加

腹水の症状:あなたの体が発するサイン

腹水の症状は、溜まった水の量によって変化します。早期に気づくことが、早期治療につながります。

軽度・初期の症状

腹水の初期段階では、症状は非常に微妙かもしれません。以下のような変化に注意してください。

  • お腹の膨満感・張り: 食後でもないのに、常にお腹が張っている感じがする30
  • 原因不明の体重増加: 食事量は変わらない、あるいはむしろ減っているのに体重が増え続ける30
  • 衣服がきつくなる: 特にウエスト周りのズボンやスカートがきつく感じる。

進行した腹水の症状

腹水の量が増えるにつれて、より明白な症状が現れます。

  • 目に見える腹部の膨満: お腹がカエルのようにぽっこりと膨らみ、皮膚が張り詰める31
  • 呼吸困難: 大量の腹水が横隔膜を押し上げるため、特に横になると息苦しさを感じる30
  • 食欲不振・吐き気: 胃が圧迫されることで、少し食べただけですぐに満腹になったり、吐き気を感じたりする。
  • 尿量の減少: 体が水分を溜め込もうとするため、尿の量が減る30
  • 足のむくみ(浮腫): 腹水だけでなく、足の甲やすねにも水分が溜まり、指で押すと跡が残るようになる33
  • 臍ヘルニア(でべそ): 腹圧の上昇により、おへそが飛び出してくることがあります。

これらの症状は、多くの場合、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、全身の倦怠感、あざができやすいといった、他の肝機能低下のサインと同時に現れることを理解しておくことが重要です33

なぜ腹水がたまるのか? 悪化の「悪循環」の仕組み

腹水がたまるメカニズムは複雑ですが、その根底には二つの大きな要因と、それらが引き起こす「悪循環」があります。この仕組みを理解することが、治療法を理解する上で非常に役立ちます。
1. 門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)
肝硬変によって肝臓が硬くなると、腸から肝臓へ血液を送る主要な血管である「門脈」の内部の圧力が異常に高くなります10。この高い圧力が、血管から腹腔内(お腹の中の空間)へ血漿成分、つまり水分を「漏れ出させる」最大の駆動力となります。
2. 低アルブミン血症
アルブミンは、肝臓で合成されるタンパク質の一種で、血管内に水分を保持する「スポンジ」のような役割(膠質浸透圧の維持)を担っています9。肝機能が低下すると、このアルブミンの産生が減少し、血管が水分を保持する力が弱まります。これもまた、水分が血管外へ漏れ出す原因となります。

腹水を増やす「悪循環」

これら二つの要因が引き金となり、体内で悪循環が形成されます。この概念を視覚的に理解するために、以下の流れを想像してみてください。

  1. 肝臓の硬化: 肝硬変が進行し、肝臓が硬くなる。
  2. 門脈圧の上昇: 肝臓内の血流が滞り、門脈の圧力が上昇する。
  3. 内臓血管の拡張と「有効循環血漿量の減少」: 門脈圧の上昇に対抗しようとして、内臓の血管が拡張します。これにより血液が内臓に「溜まって」しまい、腎臓など他の臓器へ流れる血液量が相対的に減少したと体が誤認識します。これを「有効循環血漿量の減少」と呼びます7
  4. ホルモン系の活性化: 体は「脱水状態だ」と勘違いし、水分と塩分(ナトリウム)を保持しようとするホルモン(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系など)を大量に放出します7
  5. 腎臓による塩分・水分の再吸収: ホルモンの指令を受けた腎臓は、必死に塩分と水分を体内に溜め込みます15
  6. 腹水の増加: 体内に過剰に溜め込まれた水分が、高い門脈圧と低いアルブミン血症の影響で、さらに腹腔内へ漏れ出し、腹水が悪化します。そして、これがさらなる有効循環血漿量の減少を招き、1からのサイクルが繰り返されます。

この悪循環を断ち切ることが治療の鍵であり、塩分制限(腎臓の負担を減らす)や利尿薬(ホルモンの働きを阻害し、水分を強制的に排出する)がなぜ重要なのかを説明しています。

腹水の診断方法:医師はこうして確認する

「お腹が張る」と感じて医療機関を受診した場合、医師は以下のステップで腹水の有無とその原因を診断します。

  • 身体診察: 医師はお腹を触診・打診し、腹部の膨らみや、お腹を叩いた際の「波動」(腹水が波打つ感覚)を確認します31
  • 画像検査:
    • 腹部超音波(エコー)検査: 最も手軽で重要な検査です。これにより、少量の腹水でも確実に存在を確認し、その量や肝臓・脾臓の状態を評価できます10
    • CT・MRI検査: より詳細な情報が必要な場合や、他の病気(がんなど)が疑われる場合に用いられます。
  • 腹水穿刺(ふくすいせんし)と腹水検査: 診断を確定し、特に感染の有無を調べるために、細い針をお腹に刺して腹水を少量採取することがあります。これは非常に重要な検査です。採取した腹水は、以下のような分析に用いられます7
    • 細胞数算定: 腹水中の白血球、特に好中球の数を数えます。この数値が高い場合、後述する危険な合併症である特発性細菌性腹膜炎(SBP)が強く疑われます。
    • SAAG(血清-腹水アルブミン濃度差): 血液中のアルブミン濃度と腹水中のアルブミン濃度の差を計算します。この値が1.1 g/dL以上であれば、腹水の原因が肝硬変に伴う門脈圧亢進症である可能性が非常に高いことを示します7。これは、腹水の原因を特定する上で最も信頼性の高い指標の一つです。
    • 総タンパク濃度: 腹水中のタンパク濃度が低い(特に1.5 g/dL未満)と、SBPを発症する危険性が高いことが知られています15

肝硬変による腹水の治療法:日本の標準治療を徹底解説

腹水の治療は、生活習慣の改善から薬物治療、そして高度な医療介入まで、多岐にわたる選択肢を段階的に組み合わせて行われます。『肝硬変診療ガイドライン2020』に基づき、日本における標準的な治療法を解説します17

5.1. 治療の土台:食事療法と生活習慣

全ての治療の基礎となるのが、食事と生活習慣の管理です。これなくして薬物治療の効果は期待できません。

  • 減塩(げんえん): これが最も重要です。体内に塩分(ナトリウム)が増えると、それを薄めるために体が水分を溜め込むため、腹水が悪化します。ガイドラインでは、1日あたり5〜7gの塩分制限が推奨されています21。ラーメンやうどんの汁、味噌汁、漬物、加工食品など、塩分の多い日本の食事には特に注意が必要です37
  • 水分制限: 一般的には厳格な水分制限は必要ありません。むしろ脱水は腎機能障害を引き起こす危険性があります。ただし、血液中のナトリウム濃度が著しく低い「低ナトリウム血症」を合併している場合や、治療に抵抗性の重度の腹水の場合に限り、医師の指示のもとで水分摂取量が制限されることがあります15
  • 適切な栄養摂取と夜間補食(LES): 肝硬変の患者様は、エネルギーの貯蔵能力が低下しており、特に夜間の空腹時間が長いと自身の筋肉を分解してエネルギー源としてしまうため、栄養状態が悪化しがちです。これを防ぐため、「夜間補食(Late Evening Snack: LES)」が推奨されています。就寝前に約200 kcal程度の軽食(おにぎり、ヨーグルト、栄養補助食品など)を摂ることで、筋肉の分解を防ぎ、栄養状態を改善する効果が期待できます140

5.2. 薬物治療:利尿薬(りにょうやく)

食事療法だけではコントロールできない場合、尿として塩分と水分を排泄させる利尿薬が用いられます。治療は段階的に行われます。

  1. 第一段階:抗アルドステロン薬: まず、アルドステロンという塩分・水分を溜め込むホルモンの働きを阻害する「スピロノラクトン」が使用されます21
  2. 第二段階:ループ利尿薬の追加: スピロノラクトンだけでは効果が不十分な場合、より強力に尿量を増やす「フロセミド」などのループ利尿薬が追加されます23

治療の目標は、急激な体重減少を避け、腎臓への負担を考慮しながら、浮腫がない場合は1日0.5kg、浮腫がある場合でも1日1kg以内の緩やかな体重減少を目指すことです16

5.3. 難治性腹水に対する先進的薬物治療

上記の標準的な利尿薬を使用しても腹水がコントロールできない状態を「難治性腹水」と呼びます。これに対して、日本では有効な次の選択肢があります。

  • トルバプタン(製品名:サムスカ®): これは、水分のみを排泄させる(水利尿)作用を持つ新しいタイプの利尿薬です28。従来の利尿薬の効果が不十分な場合や、低ナトリウム血症が問題となる場合に使用されます。日本のガイドラインでは、この薬の開始にあたっては、血中ナトリウム濃度の急激な変動を監視するため、入院での導入が推奨されています2129

5.4. 処置・IVRによる治療

薬物治療で管理できない重度の腹水に対しては、より直接的な処置が必要となります。

  • 大量腹水穿刺排液(LVP): 大量の腹水を穿刺によって直接体外へ排出し、呼吸困難などの苦痛な症状を速やかに緩和する方法です。非常に重要な点として、『肝硬変診療ガイドライン2020』では、5リットル以上の腹水を一度に抜く際には、循環動態の破綻(穿刺後循環不全)を防ぐために、アルブミン製剤の点滴補充が強く推奨されています23
  • CART(腹水濾過濃縮再静注法): これは日本で開発され、保険適用となっている特有の治療法です25。患者様自身の腹水を体外に取り出し、専用のフィルターで細菌やがん細胞などを除去し、アルブミンなどの有用なタンパク質を濃縮して、再び体内に点滴で戻す方法です26。栄養状態の改善やQOLの向上が期待できます43
  • TIPS(経頸静脈肝内門脈大循環シャント術): 首の静脈からカテーテルを挿入し、肝臓内に門脈と肝静脈をつなぐ「バイパス(シャント)」を作成することで、門脈の圧力を根本的に下げる治療法です。欧米では難治性腹水に対して広く行われていますが、日本では標準的な保険適用がなく、実施できる施設が非常に限られているのが現状です1724

5.5. 根治療法:肝移植

上記すべての治療は対症療法ですが、唯一の根治療法として肝移植があります。適応となる患者様にとっては、肝硬変そのものを治癒させる唯一の選択肢です6

表2:腹水治療法の比較まとめ(日本国内の状況を反映)
治療法 目的 対象 利点 欠点・注意点 日本での保険適用
減塩食 水分貯留の軽減 全患者 治療の基本、安全 厳格な遵守が必要
利尿薬 塩分・水分の排泄 軽症〜中等症腹水 効果的、非侵襲的 電解質異常、腎機能障害 適用あり
トルバプタン (サムスカ®) 自由水の排泄 利尿薬抵抗性、低Na血症 従来薬不応例に有効 入院での導入、高コスト 適用あり
大量腹水穿刺 (LVP) 迅速な症状緩和 緊張性腹水、難治性腹水 即効性がある 一時的、循環不全リスク 適用あり
CART アルブミン補充、栄養改善 難治性腹水 自己タンパクの再利用 専用機器が必要、侵襲的 適用あり
TIPS 門脈圧の根本的低下 難治性腹水(選択的) 長期的な効果 肝性脳症リスク、高コスト 標準適用外

最も警戒すべき合併症:特発性細菌性腹膜炎(SBP)

腹水がたまっている患者様が最も注意すべき、命に関わる合併症が「特発性細菌性腹膜炎(Spontaneous Bacterial Peritonitis: SBP)」です。これは、腸内細菌などが血流を介して腹水に侵入し、感染を起こす状態です36

SBPを疑うべき警告サイン

以下の症状が一つでも現れた場合は、時間をおかずに直ちに医療機関を受診してください。

  • 原因不明の発熱
  • 持続する腹痛や圧痛
  • 意識状態の変化、混乱(肝性脳症の悪化)35

重要なのは、腹水のある患者様が「なんとなく調子が悪い」と感じただけでも、SBPの可能性があると考えて行動することです。

診断と治療

診断は、腹水穿刺で採取した腹水中の好中球数が250/mm3以上であることをもって確定します35。SBPは医学的な緊急事態であり、診断が確定、あるいは強く疑われた時点ですぐに強力な抗菌薬(セフェム系など)の静脈内投与が開始されます7。さらに、米国肝臓学会(AASLD)のガイドラインでは、抗菌薬と同時にアルブミンを点滴することで、腎障害を防ぎ生存率を改善することが強く推奨されています7。一度SBPを発症した患者様や、消化管出血時など特に危険性が高い状況では、再発予防のために抗菌薬を毎日服用することがあります1

よくある質問

腹水が見つかったら、もう末期なのでしょうか?
腹水の出現は、肝硬変が進行した「非代償期」にあることを示す深刻なサインであることは事実です。しかし、「末期」や「手遅れ」という言葉が必ずしも当てはまるわけではありません。現代の治療法、特に塩分制限、利尿薬、そして難治性の場合のCARTやトルバプタンなどを適切に組み合わせることで、多くの患者様が症状をコントロールし、長期間にわたり安定した生活を送ることが可能です9。大切なのは、悲観的にならず、主治医と密に連携し、治療計画を粘り強く続けることです。
食事で一番気をつけることは何ですか?
繰り返しになりますが、最も重要なのは「減塩」です。目標は1日5〜7gです2140。調味料は「かける」より「つける」工夫をしたり、香辛料や酸味をうまく利用したり、加工食品や外食を避け、手作りの食事を心がけることが基本です。また、肝硬変では栄養不足に陥りやすいため、塩分を控える一方で、タンパク質やカロリーは十分に摂取する必要があります。栄養士による具体的な食事指導を受けることが非常に有効です。
腹水がたまっているとき、運動はできますか?
激しい運動は避けるべきですが、安静にしすぎると筋力が低下し、かえって全身状態が悪化することがあります。医師と相談の上、ウォーキングなどの軽い有酸素運動を無理のない範囲で行うことは、多くの場合推奨されます。ただし、体調が優れない時や腹水の量が多い時は、安静が第一です。ベッドで安静にしていると、利尿薬の効果が高まることも知られています。

結論

肝硬変による腹水は、患者様の生活の質を著しく低下させ、生命予後にも関わる深刻な状態です。しかし、その背景にある病態生理の解明と、治療法の進歩により、現在では多くの有効な対策が存在します。治療の根幹は、厳格な塩分制限と、個々の病状に合わせた段階的な利尿薬の使用です。そして、これらの標準治療に抵抗性を示す難治性の腹水に対しても、日本ではCARTやトルバプタンといった、国際的にも注目される先進的な治療が保険診療下で利用可能です。最も重要なことは、腹水の兆候に早期に気づき、専門医のもとで適切な診断と治療を受けること、そして危険な合併症であるSBPの兆候を見逃さず、迅速に対応することです。本記事が提供する科学的根拠に基づいた情報が、腹水と向き合う患者様とご家族にとって、病状を正しく理解し、前向きに治療に取り組むための一助となることを心より願っています。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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