【科学的根拠に基づく】女性の右胸の痛み：危険なサイン、考えられる全原因、何科を受診すべきか徹底解説

あなたの症状はどれに近い？症状から考える原因のヒント

胸痛の原因を特定するのは専門医の仕事ですが、ご自身の症状を整理することで、受診の際の助けとなります。以下の質問を参考に、ご自身の状態をチェックしてみましょう。

質問1：胸の特定の場所を押したり、体を動かしたり、深呼吸したりすると痛みが強まりますか？

はいの場合： 肋軟骨炎、肋間神経痛、筋肉痛など、胸壁（骨、軟骨、筋肉、神経）に由来する痛みの可能性が高いです。これらは非常に一般的な原因であり、多くは生命に危険を及ぼすものではありません²。詳しくは「胸壁（筋肉・骨・神経）が原因の場合」の章をご覧ください。
いいえの場合： 次の質問に進んでください。

質問2：痛みは胸やけのような焼ける感覚で、食後や横になったときに悪化しますか？

はいの場合： 胃食道逆流症（GERD）など、消化器系の問題が考えられます。胃酸が食道に逆流することで、胸の中央あたりに灼熱感を引き起こすことがあります¹⁸。詳しくは「消化器やその他の臓器が原因の場合」の章をご覧ください。
いいえの場合： 次の質問に進んでください。

質問3：発熱や咳、痰を伴い、息を吸うと痛みが鋭くなりますか？

はいの場合： 肺炎や胸膜炎など、肺やそれを覆う膜（胸膜）の炎症が原因である可能性が考えられます²³。詳しくは「呼吸器が原因の場合」の章をご覧ください。
いいえの場合： 次の質問に進んでください。

質問4：痛みは締め付けられるような圧迫感で、動悸、息切れ、異常な疲労感を伴いますか？

はいの場合： これは心臓に関連する症状の可能性があり、注意が必要です。特に女性の場合、典型的な胸痛以外の症状が前面に出ることもあります⁸。上記の「救急車を呼ぶべき症状」を再度確認し、循環器内科の受診を検討してください。詳しくは「心臓・血管が原因の場合（危険な胸痛）」の章をご覧ください。

【原因別】女性の右胸の痛みを引き起こす可能性のある疾患

女性の右胸の痛みの原因は多岐にわたります。ここでは、関連する体の部位ごとに、考えられる主な疾患を詳しく解説します。

乳房が原因の場合

胸の痛みを感じたとき、多くの女性がまず乳房の病気を心配しますが、その大半は良性のものです。特に痛みが乳がんの唯一の症状であることは非常に稀です⁵。

• ホルモンバランスの変化： 月経周期に伴う痛みは最も一般的な原因です。月経前に胸が張って痛む（月経前症候群）、妊娠中、授乳中、更年期など、女性ホルモンの変動が乳腺に影響を与え、痛みや張りとして感じられます⁶。痛みは周期的に現れ、左右両方の乳房に感じることが多いです。
• 乳腺症 (Mastopathy)： 30代から40代の女性に非常に多く見られる乳腺の良性な変化です。乳腺組織が硬くなったり、嚢胞（水が溜まった袋）ができたりして、痛み、張り、しこりのようなものを感じることがあります。痛みは月経周期と連動して強まる傾向があります²。
• 乳腺炎 (Mastitis)： 主に授乳期に起こりますが、それ以外の時期にも発症することがあります。乳管が詰まったり、細菌が感染したりすることで乳房が赤く腫れ、熱感を持ち、ズキズキとした強い痛みを伴います。発熱することもあります⁵。
• その他の良性腫瘍： 乳腺嚢胞（Breast Cyst）や乳腺線維腺腫（Fibroadenoma）などの良性のできものが痛みの原因となることもあります²。これらは通常、緊急の治療を必要としませんが、痛みが強い場合や診断を確定するために専門医の診察が必要です。

注意点： 痛みを伴う乳がん（特に炎症性乳がん）は稀ですが存在します。乳房の痛みとともに、しこり、皮膚のひきつれ、赤み、ただれ、乳頭からの分泌物などの異常がある場合は、速やかに乳腺外科を受診してください。

胸壁（筋肉・骨・神経）が原因の場合

片側だけの、特にチクチク、ズキズキとした鋭い痛みの場合、胸壁が原因であることが非常に多いです。

• 肋間神経痛 (Intercostal Neuralgia)： 最も一般的な原因の一つです。肋骨に沿って走る神経が、姿勢の悪さ、筋肉の緊張、ストレスなどによって刺激され、電気が走るような、あるいは針で刺すような鋭い痛みを引き起こします。痛みは突然現れて短時間で消えることも、持続することもあります²。
• 肋軟骨炎 (Costochondritis)： 肋骨と胸骨をつなぐ軟骨部分に炎症が起こる状態で、ティーツェ病とも呼ばれます。痛む場所を指で押すと強い痛みを感じるのが特徴です。深呼吸、咳、くしゃみ、体をひねる動作で痛みが悪化します²。
• 帯状疱疹 (Herpes Zoster / Shingles)： 体内に潜伏していた水痘（みずぼうそう）のウイルスが再活性化して起こります。特徴は、体の片側の特定の神経に沿って、ピリピリ、チクチクとした焼けるような痛みが数日間続いた後、その部位に赤い発疹と水ぶくれが現れることです¹。発疹が出る前に痛みだけが先行することがあるため、診断が難しい場合があります。
• 筋肉の損傷： スポーツや重い物を持ち上げるなどの動作で大胸筋や肋間筋を痛めた場合にも胸痛が起こります。関連する筋肉を動かすと痛みが再現されます。

心臓・血管が原因の場合（危険な胸痛）

これらは最も危険な原因であり、迅速な対応が求められます。女性特有の非典型的な症状にも注意が必要です。

• 急性冠症候群 (Acute Coronary Syndrome, ACS)： 心筋梗塞や不安定狭心症を含む、心臓への血流が急激に減少する危険な状態です。典型的な症状は胸の中央の圧迫感や締め付けられるような痛みですが、女性では背中、肩、首、顎の痛み、極度の疲労感、吐き気、息切れなどが主な症状として現れることも少なくありません²⁴。痛みは安静にしても治まらず、20分以上続くことが多いです。
• 大動脈解離 (Aortic Dissection)： 体の中で最も太い血管である大動脈の壁が裂ける、極めて緊急性の高い病気です。突然、胸から背中にかけて「引き裂かれるような」激痛が起こるのが特徴です¹。
• 肺塞栓症 (Pulmonary Embolism)： 主に足の静脈にできた血栓が血流に乗って肺の動脈に詰まる病気です。突然の鋭い胸痛（特に深呼吸で悪化）、急な息切れ、頻脈が典型的な症状です。長時間同じ姿勢でいること（飛行機での移動など）、手術後、がん、経口避妊薬の使用などが危険因子となります¹。

呼吸器や消化器などが原因の場合

• 呼吸器系の疾患：
  • 肺炎 (Pneumonia)・胸膜炎 (Pleuritis)： 肺の感染症や、肺を覆う胸膜の炎症は、咳や深呼吸で強まる鋭い胸痛を引き起こすことがあります。通常、発熱や咳、痰などの症状を伴います¹。
  • 気胸 (Pneumothorax)： 肺に穴が開き、空気が漏れて肺がしぼんでしまう状態です。突然の片側の胸痛と呼吸困難が特徴で、特に背の高い痩せ型の若者に多く見られます²。
• 消化器系の疾患：
  • 胃食道逆流症 (Gastroesophageal Reflux Disease, GERD)： 胃酸が食道へ逆流することで、胸骨の後ろに焼けるような痛み（胸やけ）を生じます。痛みは食後や前かがみになった時、横になった時に悪化しやすいです²。
  • 胆石症・胆嚢炎 (Gallstones / Cholecystitis)： 胆嚢にできた石が詰まったり、胆嚢が炎症を起こしたりすると、右の上腹部に激しい痛みが起こります。この痛みは右の肩や背中、そして右胸に放散することがあり、他の胸痛と間違われる原因となります¹。脂っこい食事の後に起こりやすいのが特徴です。
• 心因性の原因：
  • パニック障害・不安障害： 強いストレスや不安は、動悸、息苦しさ、めまい、そして胸の痛みといった身体症状を引き起こすことがあります。これらの症状は心臓発作と非常によく似ているため、パニック発作を経験した人は大きな恐怖を感じます。心因性の胸痛は、他の危険な身体的疾患がすべて除外された後に診断されます⁴。

【専門医が解説】なぜ女性の胸痛は特別なのか？ 見逃してはいけないサイン

「心臓病は男性の病気」という古いイメージは、女性の健康にとって非常に危険です。実際には、心臓病は日本を含む多くの国で女性の主要な死因の一つです³⁵。しかし、女性の心臓病は男性とは異なる特徴を持つため、見過ごされやすいという深刻な問題があります。日本の循環器医療の最高権威である日本循環器学会（JCS）も、2024年に性差を考慮した診療ガイドラインを発表し、この問題への注意を喚起しています¹¹¹²。

1. 「非典型的」な心臓発作の症状

最も重要な違いは、心臓発作の症状です。米国心臓協会（AHA）は、女性は男性が経験するような「象が胸に乗っているような」典型的な胸痛を感じないことが多いと警告しています²⁴。その代わりに、以下のような症状が中心となることがあります：

• 背中の上部（特に肩甲骨の間）、首、顎、肩、上腹部の痛みや不快感
• 突然の息切れ（胸の不快感なしに起こることもある）
• 原因不明の極度の、異常な疲労感
• 吐き気や嘔吐
• めまいや立ちくらみ

AHAは、これらの症状を「狭心症同等症状（anginal equivalents）」と呼び、決して「非典型的（atypical）」という言葉で軽視すべきではないと強調しています²⁵。これらの症状を知らないために、女性自身も医療従事者も、症状を更年期障害、ストレス、消化不良などと誤解し、診断と治療が遅れる一因となっています⁹。

2. 女性に多い特殊な心臓疾患

特定の心臓疾患は、男性よりも女性に多く見られます。

• 微小血管狭心症 (Microvascular Angina, MVA)： これは、心臓の太い冠動脈には問題がないものの、非常に細い血管（微小血管）の機能不全によって胸痛が引き起こされる状態です。通常の心臓カテーテル検査では異常が見つかりにくいため、「原因不明の胸痛」とされたり、心因性と誤診されたりすることが長年問題でした。この病態は特に閉経期の女性に多いことが知られています⁸²⁸。
• 特発性冠動脈解離 (Spontaneous Coronary Artery Dissection, SCAD)： これは、動脈硬化などの伝統的な危険因子が少ない健康な若年～中年女性（特に50歳以下）の心筋梗塞の重要な原因です。冠動脈の壁が突然、自然に裂けてしまう病気です。日本の国立循環器病研究センター（NCVC）が行った重要な研究では、50歳未満の日本人女性の心筋梗塞の原因の第2位（35%）がSCADであったと報告されており、精神的ストレスが大きな誘因であることが示唆されています³⁰。

3. ホルモン周期とライフステージの影響

女性の一生を通じたホルモンの変動は、心血管系の健康に深く関わっています。

• 妊娠： 稀ですが、周産期心筋症（Peripartum Cardiomyopathy）という重篤な状態があります。これは、心臓病の既往がない女性が、妊娠末期から産後数ヶ月の間に心不全を発症する病気です。息切れやむくみといった症状が、妊娠に伴う正常な変化と間違われやすく、診断が遅れる危険性があります³¹。
• 更年期： 閉経に伴い、血管を保護する作用を持つ女性ホルモン（エストロゲン）が減少すると、女性の心臓病リスクは急激に上昇します。高血圧や脂質異常症が起こりやすくなり、この時期の胸痛や動悸は、更年期症状の一部であると同時に、微小血管狭心症などの心臓病のサインである可能性も考慮する必要があります¹⁴³²。

あなた自身が健康の最良の擁護者になるために： これらの知識は、不安を煽るためではなく、あなた自身が自分の体の変化に気づき、医師と的確にコミュニケーションをとるための力となります。「いつもと違う」「何かおかしい」と感じたら、その直感を信じ、些細なことと思える症状でもためらわずに医師に伝えることが、あなたの健康を守る鍵となります。

【右胸の痛み】症状別・鑑別診断マトリクスと受診すべき診療科

右胸の痛みに特化して、考えられる原因、症状の特徴、そしてどの診療科を受診すべきかの目安を一覧表にまとめました。これはあくまで一般的な指針であり、最終的な診断は医師による診察が必要です。

出典: MSDマニュアル¹、かねむらクリニック³、からだケアナビ²などの医療情報サイトの情報を基にJHO編集部が作成。

具体的なアクションプラン：次に何をすべきか

1. 何科を受診すべきか？

上記の表でも示しましたが、どの専門科を受診するかは症状を判断する上で重要です。迷った場合は、まずはかかりつけの内科医に相談するか、以下の指針を参考にしてください³⁴。

• 循環器内科： 締め付けられるような痛み、動悸、息切れ、むくみがある場合。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴、家族に心臓病の人がいるなど、心血管疾患の危険因子がある場合は、まず最も危険な病気から除外するために受診が推奨されます。
• 呼吸器内科： 咳、痰、発熱を伴う、または深呼吸で痛みが強まる場合。
• 消化器内科： 胸やけ、げっぷ、食事との関連が明らかな痛みの場合。
• 乳腺外科： しこり、乳房の変形、乳頭からの異常分泌など、乳房自体に明らかな変化がある場合。
• 整形外科： 体を動かしたり、特定の場所を押したりすると痛みが再現される場合。
• 皮膚科： 痛みに加えて発疹が出現した場合。
• 心療内科・精神科： 他の科で身体的な異常が見つからず、強いストレスや不安を感じている場合。

2. 診察前に準備しておくこと

医師に症状を正確に伝えることは、迅速で的確な診断に不可欠です。受診する前に、以下の項目についてメモを準備しておくと非常に役立ちます。

1. いつから痛むか？ (例：3日前から、今日の朝突然)
2. 痛みの場所はどこか？ (右胸のどのあたりか、指で示せるか)
3. どのような痛みか？ (例：チクチク、ズキズキ、締め付けられる、焼けるような)
4. 痛みの強さは？ (10段階でどのくらいか)
5. 痛みの持続時間は？ (一瞬か、数分続くか、ずっと痛いか)
6. どのような時に痛むか？ (例：体を動かした時、安静時、食後、深呼吸した時)
7. どうすれば楽になるか？ (例：安静にすると、特定の体勢をとると)
8. 他に症状はあるか？ (例：発熱、咳、息切れ、動悸、吐き気、しこり、発疹)
9. ご自身の病歴、家族の病歴、現在服用中の薬（サプリメント含む）

よくある質問