この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。
要点まとめ
- 1歳未満の赤ちゃんに、塩や砂糖を食事に加えることは推奨されません。
- 理由は、未熟な腎臓への負担と、将来の味覚形成や生活習慣病の危険性への影響です。
- 味付けの基本は、昆布や鰹節からとった「だし」のうま味を最大限に活用することです。
- 9ヶ月頃から、醤油や味噌を「風味付け」として1滴程度から試すことは可能です。
- シナモンやパセリなど、辛味のないハーブやスパイスは、赤ちゃんの味覚を豊かにする安全な選択肢です。
なぜ1歳未満の赤ちゃんに「塩」と「砂糖」を加えてはいけないのか?【最重要】
離乳食における調味料の基本原則は、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」や世界保健機関(WHO)が一貫して推奨するように、「1歳になるまでは、食事に塩や砂糖を加えない」ことです12。これは単なる努力目標ではなく、赤ちゃんの生涯にわたる健康を守るための、極めて重要な医学的根拠に基づいています。
科学的根拠①:未熟な腎臓への深刻な負担
乳児の身体、特に腎臓はまだ発達の途上にあります。成人の腎臓が持つ高度なフィルター機能は、乳児には備わっていません。具体的には、血液をろ過して老廃物を排出する能力を示す糸球体濾過量(GFR)が、成人と比較して著しく低いのです56。このため、赤ちゃんは過剰なナトリウム(食塩の主成分)を体外へ効率的に排出することができません。食事に塩を加えてしまうと、処理しきれないナトリウムが体内に蓄積し、未熟な腎臓に大きな負担をかける可能性があります。長期的には、これが高血圧などの健康問題につながる危険性も指摘されています56。厚生労働省が発行する「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、生後6~11ヶ月の乳児におけるナトリウムの摂取目安量は、食塩相当量で1日あたり1.5gとされています7。この数値は、母乳や育児用ミルク、そして野菜などの食材自体に自然に含まれるナトリウム量で十分に満たされるため、追加で塩分を加える必要は全くないのです。
科学的根拠②:生涯の健康を左右する「味覚のプログラミング」
生まれてからおよそ2歳までの期間、特に最初の1000日間は、味覚の好みが形成される「臨界期」とも言える非常に重要な時期です68。この時期に経験した味は、その後の食生活、ひいては生涯の健康状態にまで影響を及ぼすことが科学的に明らかになっています。乳児は本能的に甘味や塩味、うま味を好む傾向がありますが、この時期に塩や砂糖で味付けされた濃い味に慣れてしまうと、その後の人生においても濃い味付けを好むようになります5。このような食習慣は、将来的に高血圧、肥満、2型糖尿病、心血管疾患といった生活習慣病の危険性を著しく高めることが、数多くの研究で示されています63。特に糖分に関しては、欧州小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)が「乳幼児にとって、栄養学的に遊離糖類(free sugars、食品に添加される砂糖やジュースに含まれる糖分など)は一切不要である」という強力な声明を発表しています3。甘い味は赤ちゃんの食を進めるかもしれませんが、それは栄養的に価値のないカロリー摂取につながり、栄養豊富な母乳やミルク、他の離乳食を摂取する機会を奪ってしまう可能性すらあります。
塩・砂糖に頼らない!赤ちゃんの味覚を育む「うま味」の力
塩や砂糖を使わずに、どうすれば赤ちゃんが喜ぶ離乳食を作れるのでしょうか。その答えは、日本の食文化が育んできた知恵、「だし」にあります。
日本の知恵「だし」を科学する
「だし」は、塩分を加えずに食事の風味を豊かにし、満足感を与えるための最適な方法です。その秘密は「うま味」にあります。うま味は、甘味、塩味、酸味、苦味に次ぐ第5の基本味として世界的に認知されています。特に、日本の伝統的なだしは、科学的にも非常に優れています。
- 昆布だし: 主成分である「グルタミン酸」が、穏やかで持続性のあるうま味を提供します。
- 鰹節だし: 主成分である「イノシン酸」が、力強くキレのあるうま味を提供します。
この二つの異なるうま味成分を組み合わせることで、「うま味の相乗効果」が生まれ、それぞれを単独で使うよりも何倍も強いうま味を感じることができます。これは、赤ちゃんに塩分を与えることなく、食事をおいしく感じさせるための非常に有効な戦略です。
実践ガイド:家庭でできる「基本のだし」
- 昆布だし: 水1リットルに対し、10gの昆布を入れ、30分~1時間ほど浸しておきます。その後、弱火にかけ、沸騰直前に昆布を取り出します。
- かつお昆布だし: 上記の昆布を取り出した後、一度沸騰させ、火を止めてから鰹節を20gほど入れます。鰹節が沈んだら、キッチンペーパーなどを敷いたざるで静かにこします。
- 保存: 製氷皿に入れて冷凍保存しておくと、1食分ずつ使えて非常に便利です。
食材本来の味を引き出す工夫
調味料に頼る前に、食材そのものが持つ自然な風味を最大限に活かすことも重要です。
- 野菜の甘み: かぼちゃ、さつまいも、にんじん、玉ねぎなどをじっくり加熱すると、自然な甘みが引き出されます。
- 食材のうま味・塩味: トマトはグルタミン酸を豊富に含みます。また、塩抜きしたしらす干しは、適度な塩味とうま味を持っています9。これらの食材をうまく組み合わせることで、味に深みを出すことができます。
調味料はいつから?何を?どのくらい?月齢別・種類別 完全ガイド
「基本は1歳まで調味料不要」という大原則を理解した上で、離乳食の進行に伴う現実的なステップについて解説します。ここでのキーワードは「味付け」ではなく、あくまで「風味付け」です。
月齢 | 基本方針 | 使用可能な調味料(風味付け程度) | 避けるべき調味料 | 根拠 |
---|---|---|---|---|
初期 (5-6ヶ月) | 調味料は一切不要。だしと素材の味のみ。 | なし | 全ての調味料 | 1011 |
中期 (7-8ヶ月) | だしが基本。風味付けにごく少量の油脂類は可。 | バター(食塩不使用)、植物油(オリーブ油等) | 塩、砂糖、醤油、味噌など | 121314 |
後期 (9-11ヶ月) | 食べむら対策で、風味付けとして挑戦可。 | 醤油・味噌(1滴)、塩(極微量)、マヨネーズ・ケチャップ(無添加・ごく少量) | 辛味・香辛料、ソース類、はちみつ | 9101516 |
完了期 (1歳以降) | 薄味を基本に、使える種類が増える。 | ソース、ケチャップ、カレールウ(幼児用) | はちみつ(1歳未満)、辛い香辛料 | 1516 |
各調味料の詳細解説と注意点
- 醤油・味噌: 日本の食文化に欠かせない調味料ですが、使用は9ヶ月以降、風味付けに1滴程度から始めます。原料である大豆や小麦はアレルギーの原因となる可能性があるため、初めて使用する際は少量から試し、赤ちゃんの様子を注意深く観察してください。可能な限り、添加物の少ない、減塩タイプを選ぶと良いでしょう9。
- 油(バター、オリーブ油など): 脂質は赤ちゃんの重要なエネルギー源です。7~8ヶ月頃から、炒めたり和えたりする際に風味付けとして少量(小さじ1/4程度)を使用できます。バターは食塩不使用のものを選びましょう12。
- マヨネーズ・ケチャップ: 味が濃く、塩分や糖分が多いため、使用は9ヶ月以降、ごく少量に留めます。マヨネーズは主成分が油であり、また原料の卵はアレルギーの危険性があるため、特に注意が必要です。最初は加熱して使用し、ベビー用の無添加・低塩分・低糖分の製品を選ぶことを強く推奨します1617。
- みりん・料理酒: アルコールが含まれているため、使用する場合は必ず十分に加熱し、アルコール分を完全に蒸発させてください13。
- コンソメ・鶏ガラスープの素: 市販の大人向け製品は塩分や化学調味料が多く含まれているため、離乳食期には避けるのが賢明です。使用する場合は、食塩・化学調味料無添加のベビー用製品を選ぶか、鶏肉や野菜を煮込んだスープ(野菜だし)で代用しましょう18。
【絶対禁止】1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由
はちみつには、ボツリヌス菌の芽胞が含まれている可能性があります。腸内環境が未熟な1歳未満の乳児がこの芽胞を摂取すると、腸内で菌が増殖し「乳児ボツリヌス症」を発症する危険性があります。これは、便秘、哺乳力の低下、麻痺などを引き起こし、最悪の場合、命に関わる重篤な疾患です。ボツリヌス菌の芽胞は熱に非常に強く、通常の加熱調理では死滅しません。厚生労働省も1歳未満の乳児にはちみつを与えないよう、強く警告しています1016。
世界のスタンダード:安全なハーブ&スパイスで味覚の扉を開く
塩や砂糖に頼らない風味付けの選択肢として、国際的にはハーブやスパイスの活用が積極的に推奨されています。これは、日本の従来の離乳食の考え方を更新し、赤ちゃんの味覚の世界をより豊かにするための新しい視点です。米国小児科学会(AAP)なども、辛味のないハーブやスパイスの使用を安全なものとして認めています419。
なぜハーブ&スパイスが良いのか?
- 多様な風味への架け橋: 幼い頃から様々な香りに触れることで、新しい食材への抵抗が少なくなり、将来の偏食予防につながる可能性があります19。
- 塩分・糖分への依存を低減: 風味豊かなハーブやスパイスは、塩や砂糖がなくても食事に満足感を与えてくれます。
- 食材の健康効果: スパイスの中には、抗酸化作用など、それ自体が健康に良い効果を持つものもあります。
赤ちゃんに安全なハーブ&スパイスリスト
離乳食には、辛味がなく、香りが穏やかなものから試してみましょう。
- 甘い香りのもの: シナモン、ナツメグ
- 爽やかな香りのもの: パセリ、青のり、ディル、バジル、オレガノ
- 異国風の香りのもの: クミン、コリアンダー
- 風味付けの基本: ガーリックパウダー、オニオンパウダー、ジンジャーパウダー
- 避けるべきもの: カイエンペッパー、チリパウダー、ブラックペッパー、からし、わさびなど、辛味や刺激の強いスパイスは、赤ちゃんの未熟な消化器官に負担をかけるため、幼児期になるまで避けましょう1519。
実践!ハーブ&スパイス活用レシピ例
ごく少量(ひとつまみ程度)から始めるのがポイントです。
- かぼちゃのピューレ + シナモン少量
- 鶏ささみのマッシュ + クミンパウダー少量
- プレーンヨーグルト + ディル少量
- トマトソース + オレガノやバジル少量
よくある質問
Q1. 大人の食事から取り分ける時の注意点は?
「味付けの前に取り分ける」ことが絶対的な原則です。例えば、煮物を作る際は、だしで具材を煮た段階で赤ちゃんの分を取り分けます。その後、大人の分に醤油やみりんを加えて味を調えます。この方法なら、調理の手間を大幅に省くことができます。
Q2. 市販のベビーフードの味付けは濃すぎませんか?
Q3. どうしても食べてくれない時は、味を濃くしてもいい?
安易に味を濃くすることは避けるべきです。それは問題の根本的な解決にはならず、むしろ将来の健康の危険性を高める可能性があります。食べてくれない場合は、まず他の可能性を探ってみましょう。
- 風味を変える: 昆布だしを鰹だしに変える、少量のハーブを試す。
- 食感や温度を変える: 少し固めにしてみる、温かいものを冷ましてみる。
- 環境を変える: 食事の時間や場所、食器を変えてみる。
- 体調を確認する: 機嫌が悪い、疲れている、お腹が空いていないのかもしれません。
結論
赤ちゃんの離乳食における調味料の使用は、単なる食事の準備ではなく、「一生の健康の土台を築くための味覚教育」です。本記事で解説した要点を再確認しましょう。
- 1歳までは塩・砂糖は加えない: 未熟な腎臓を守り、正しい味覚を育むための大原則です。
- 基本は「だし」のうま味: 日本の食文化の知恵を活かし、塩分に頼らずにおいしさを引き出します。
- 調味料は「風味付け」: 9ヶ月以降、醤油や味噌を使う場合も、ごく微量に留めます。
- 新しい扉を開くハーブ&スパイス: 辛味のないものを活用し、味覚の世界を安全に広げましょう。
離乳食の進め方には個人差があり、育児書通りに進まないことも多々あります。不安なこと、わからないことがあれば、決して一人で悩まず、かかりつけの小児科医や地域の保健センターの保健師、管理栄養士などの専門家に相談してください。正しい知識に基づいた取り組みで、赤ちゃんの健やかな成長を支援していきましょう。
参考文献
- 厚生労働省. 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版). [インターネット]. 2019年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04250.html
- World Health Organization/UNICEF. 補完食:母乳で育っている子どもの家庭の食事. [インターネット]. 2003年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/66389/WHO_NHD_00.1_jpn.pdf
- Fidler Mis N, Braegger C, Bronsky J, Campoy C, Domellöf M, Embleton ND, et al. Sugar in Infants, Children and Adolescents: A Position Paper of the European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition (ESPGHAN) Committee on Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2017;65(6):681-696. doi:10.1097/MPG.0000000000001733. Available from: https://www.espghan.org/dam/jcr:9fdb9c21-494a-4237-9be7-303f68d8b0a2/2018_Sugar_Intake_in_Infants__Children_and_Adolescents.pdf
- American Academy of Pediatrics. Starting Solid Foods. [インターネット]. HealthyChildren.org; 2023年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/feeding-nutrition/Pages/Starting-Solid-Foods.aspx
- Felman A. Salt for Babies: How Much Should They Eat?. [インターネット]. Healthline; 2021年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.healthline.com/nutrition/salt-for-babies
- Di Paolo M, Garzon D, Verduci E, Zuccotti GV, Vizzuso S. The Role of Salt in the First 1000 Days of Life: A Comprehensive Review. Nutrients. 2024;16(3):386. doi:10.3390/nu16030386. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10814202/
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書. [インターネット]. 2019年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586577.pdf
- Dr. Mona. Sugar, Spice, and Seasonings in your Baby’s Food. [インターネット]. PedsDocTalk; [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://pedsdoctalk.com/sugar-spice-and-seasonings-in-your-babys-food/
- tomonite. 離乳食の醤油|初めてはいつから?保存方法やレシピ・アレルギーを解説【管理栄養士監修】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://tomonite.com/articles/4415
- 岡山市. 子どもの味覚を育てる食事を. [インターネット]. 2023年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.city.okayama.jp/kosodate/0000045645.html
- ヤマト醤油味噌. 【月齢別】離乳食の味付けに使える調味料って何?月齢ごとの目安をご紹介!. [インターネット]. 2020年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://shop.yamato-soysauce-miso.co.jp/blog/2020/11/01/babyfood-taste/
- 子どものごはんテーブルゆう. 離乳食では調味料はいつから使っていいですか?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://kodomonogohantableyuu.blog/tyoumiryou1/
- Benesse. 離乳食 時期別>赤ちゃんが食べていいもの・ダメなもの【調味料】. [インターネット]. 2023年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=121410
- ベビーカレンダー. 調味料で赤ちゃんが食べられるもの – 月齢ごとの材料別食べていいものダメなもの|離乳食・離乳食レシピ(管理栄養士監修). [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://baby-calendar.jp/baby-food-guide/19
- samoe. 生後5・6ヶ月〜2歳までの調味料の使い方【子どもの味覚発達におすすめ】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://samoe.net/contents/blog/blog-1208/
- Benesse. 【専門家監修】離乳食に調味料は何をいつから?マヨネーズ、焼肉のたれはNG?. [インターネット]. 2020年 [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=32989
- Casy. この調味料はいつから使える?離乳食、幼児食のお悩みに答えます. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://casy.co.jp/fblog/family/8104.html
- eversense. 離乳食の味付けはいつから?赤ちゃんに塩・醤油・砂糖・味噌は?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://eversense.co.jp/article/26898
- Petite Palates. Is it safe to add spices or seasonings to my baby’s food?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.petitepalates.com/blogs/petite-palates/is-it-safe-to-add-spices-or-seasonings-to-my-babys-food
- 堤ちはる. 授乳・離乳の支援ガイドの改定について. [インターネット]. 日本小児科学会; 2018年. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/shokuiku_12-2.pdf
- 和光堂. グーグーキッチン|商品情報|離乳食、粉ミルク、ベビーフードの和光堂. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.wakodo.co.jp/product/babyfood/babyfood/googoo/