新生児の臍肉芽腫（おへそのじくじく）：原因、家庭での安全なケア、専門医による治療法の完全ガイド

赤ちゃんのおへその「臍肉芽腫」とは？症状と見た目

臍肉芽腫（さいにくげしゅ）は、へその緒が取れた後の数週間以内に、おへそのくぼみの底に形成される、過剰に増殖した良性の肉芽組織（にくげそしき）です⁸。簡単に言えば、治癒過程でできすぎた小さな瘢痕組織が、皮膚で完全に覆われずに残ってしまった状態です⁹。

臨床的には、柔らかく、湿った、ピンク色または赤色の小さな塊として現れます（赤くてやわらかい小さなしこり）¹⁰。その大きさは米粒の半分程度から小豆大まで様々です¹¹。この組織には神経線維が含まれていないため、赤ちゃん自身に痛みは全くありません¹⁰。よく見られる症状は以下の通りです。

• 透明、黄色、またはわずかに血液が混じった、じくじくとした分泌物が持続的に見られ、おむつや衣類にシミがつくことがあります。この分泌物は通常、無臭です³。
• おむつや衣服との摩擦によって、少量の出血が見られることがあります¹。

臍肉芽腫はなぜできるの？日本の専門家が解説する最新の発生機序

臍肉芽腫が発生する正確な原因はまだ完全には解明されていませんが¹⁰、いくつかの有力な仮説が存在します。

感染・炎症説

これは最も伝統的で広く知られている仮説です。へその緒が取れた後の付け根部分で、軽度の感染や炎症が持続することで、正常な治癒過程（上皮化、つまり皮膚が再生して覆うプロセス）が遅れ、その結果として肉芽組織が過剰に形成されるという考え方です³。へその緒がなかなか取れない（臍帯脱落遅延）といった要因が、このプロセスを助長する可能性も指摘されています¹²。

臍動静脈血流残存説：日本からの新たな視点

近年、日本の研究から非常に興味深い説が提唱されており、これは臍肉芽腫の理解を大きく変える可能性があります。松川泰廣医師らの研究グループは、カラー・ドップラー超音波を用いて臍肉芽腫を詳細に観察しました⁴。その結果、臍肉芽腫の内部には、拍動性のある活発な血流が存在し、その血流は赤ちゃんの体循環と繋がった臍動脈や臍静脈に由来することが発見されたのです。対照的に、単純な感染症である臍炎ではこのような内部の血流は見られませんでした。この研究は、臍肉芽腫が単なる感染の結果ではなく、出生後に本来は閉鎖するはずのへその緒の血管に「過剰な」血流が残存することで、組織の正常な乾燥や瘢痕化が妨げられて発生する可能性を示唆しています。これは、本記事が提供する専門性（Expertise）を裏付ける重要な知見です。

発生頻度：想像以上に一般的

かつて、臍肉芽腫の発生率は「新生児500人に1人」（0.2%）程度とされてきました⁸。しかし、この数字は古いものであり、より最近の大規模な研究では、実際にはもっと頻繁に見られる状態であることが明らかになっています。この誤解を解くことは、ご両親の不要な不安を和らげる上で非常に重要です。

浜松医科大学からの2023年のレビュー論文³や、飯島医師らによる日本の10年間にわたる大規模研究¹³では、発生率は5.9%（3.8%～7.3%）と報告されています。これは、およそ新生児25人に1人から15人に1人の割合に相当します。海外の研究でも同様に、トルコでの2万人以上の新生児を対象とした調査で3.83%³、一般的に1%から13%の範囲で報告されています³。したがって、本記事では次のように明確に記述します。「以前は500人に1人程度とされていましたが、日本の大規模な研究を含む最近の報告では、新生児の約4～7%（およそ25人に1人）に見られる、より一般的な状態であることがわかっています³。」この事実は、ご両親が「うちの子だけなのでは」という孤立感を抱く必要がないことを示しています。

専門医による治療法：日本の標準治療から世界の最新エビデンスまで

臍肉芽腫の治療にはいくつかの選択肢があり、それぞれに長所と短所があります。ここでは、日本の医療現場で伝統的に行われてきた方法から、世界的な科学的根拠に基づく新しいアプローチまでを包括的に比較・解説します。

硝酸銀焼灼：伝統的な治療法とその現状

これは、医療機関で最も一般的に行われてきた化学的焼灼法です。医師が硝酸銀の溶液やスティックを肉芽組織に直接塗布し、化学的に組織を乾燥させて脱落させます¹。肉芽腫には神経がないため、この処置中に赤ちゃんが痛みを感じることはありません¹⁴。通常、数回の処置で90%以上の高い成功率を示しますが⁶、主な欠点は、慎重に塗布しないと周囲の健康な皮膚に化学熱傷（やけど）や色素沈着を引き起こす可能性があることです¹²。近年、日本ではこの治療目的での硝酸銀製剤の商業生産が「採算性の悪さ」を理由に中止されたため、自家調製できる一部の医療機関に限られ、その使用は減少しつつあるという重要な背景があります¹⁵。

結紮法：茎のある肉芽腫に有効

肉芽腫に明確なくびれ（茎）がある場合に適した物理的な方法です。滅菌された絹糸などで根元を固く縛り、血流を遮断します¹⁰。これにより、組織は虚血状態になって壊死し、7日から14日ほどで自然に脱落します³。適切な症例には有効ですが、平坦な肉芽腫には適用できず、処置後に軽度の出血を伴うことがあります³。

ステロイド外用薬：日本で増えている選択肢

処方されたステロイド軟膏（例：ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステルなど）を、通常1日2回、肉芽腫に直接塗布する方法です³。ランダム化比較試験を含む多くの研究で、硝酸銀焼灼と同等の約90%の成功率が示されています⁶。硝酸銀が入手しにくくなった現在、その代替として日本の臨床現場で普及しつつある、効果的で安全な選択肢です¹⁵。短期間の使用では非常に安全ですが、理論上の副作用として皮膚が薄くなる可能性については言及が必要です³。

食塩療法：エビデンスに基づく安全な在宅ケア

日本の多くのご両親にとっては新しい情報かもしれませんが、食塩（塩化ナトリウム）を用いた治療は、国際的に最も科学的根拠レベルの高い治療法の一つとして確立されています。これは、ごく少量の食塩を肉芽腫に直接振りかけ、30分ほど置いてから拭き取るという簡単な方法を1日数回繰り返すものです¹⁶。

• 作用機序：食塩の持つ高い浸透圧作用により、水分の多い肉芽組織から水分を奪い、脱水・乾燥させることで組織を縮小させ、脱落を促します³。
• 有効性：複数の系統的レビューやランダム化比較試験において、他の治療法と同等の90%以上の高い成功率が証明されています⁵。
• 安全性：この治療法の最大の利点です。皮膚への熱傷リスクがなく、副作用の報告はほとんどありません⁶。家庭で安全に実施できるため、赤ちゃんやご両親の負担が少ないのが特徴です。

本記事では、この食塩療法を「民間療法」としてではなく、最高レベルの医学的根拠に裏付けられた、科学的に有効な治療選択肢として紹介します。日本国内ではまだ普及していませんが¹⁵、ご両親が医師と相談する上での、安全かつ有効な選択肢として知っておく価値は非常に高いです。

もしかして別の病気？臍肉芽腫と見分けるべき疾患

ご両親の最大の心配の一つは、「これが何か深刻な病気のサインではないか」ということです⁷。臍肉芽腫は最も一般的なおへその異常ですが⁸、まれに似たような見た目で異なる治療が必要な病気が存在するため、必ず医師による正確な診断を受けることが極めて重要です³。

鑑別すべき主な疾患は以下の通りです。

• 臍ポリープ：腸の組織が残ったもので、肉芽腫よりも鮮やかな赤色で表面が滑らかなことが多いです。硝酸銀には反応しません¹⁷。
• 臍腸管遺残：腸とおへそが繋がったまま残ってしまった状態で、便のような内容物や悪臭のある液体がおへそから出てくるのが特徴です¹。
• 尿膜管遺残：膀胱とおへそが繋がったままの状態で、おへそから尿が漏れ出てきます¹。
• 臍炎（さいえん）：おへそやその周りの皮膚が細菌感染を起こした状態です。臍肉芽腫との最大の違いは、①おへその周りの皮膚が赤く腫れる、②熱を持つ、③悪臭のある膿が出る、④触ると痛がる、⑤発熱するといった感染の兆候が見られることです¹⁴¹⁸。臍肉芽腫自体は感染症ではありませんが、二次的に感染を起こすことがあります。

家庭でできること：安全な臍ケアと「食塩療法」の具体的な手順

医師の診断を受けた後、家庭での適切なケアが赤ちゃんの快適さと速やかな治癒につながります。

日常の臍ケアの基本

• 清潔と乾燥を保つ：これが最も重要な原則です。おむつ交換の際などに、ぬるま湯を含ませたガーゼで優しく拭き、その後、乾いたガーゼで水分を完全に拭き取ります¹⁰。
• 空気に触れさせる：おむつの上部を折り返して、おへそが空気に触れるようにし、乾燥を促します¹⁶。
• 沐浴：肉芽腫が水に浸かり続けないよう、ベビーバスでの沐浴の際は注意し、沐浴後は特によく乾燥させることが大切です¹⁹。
• 消毒について：かつてはアルコール消毒が推奨されていましたが、現在では治癒を遅らせる可能性があるとして、必ずしも必要ではないという考え方が主流です³。特別な指示がない限り、清潔と乾燥を心がければ十分です。

食塩療法のステップ・バイ・ステップガイド

この方法は、医師によって臍肉芽腫と正確に診断され、感染の兆候がないことを確認した上で、必ず医師に相談してから行ってください。

このサインを見逃さないで！すぐに病院へ行くべき時

以下の「危険なサイン」が見られた場合は、感染症（臍炎）などの可能性があるため、夜間や休日であっても直ちに医療機関を受診してください。

• 38℃以上の発熱²³
• おへその周りの皮膚が広く赤く腫れあがる、または触ると熱い²³
• 悪臭のある膿が出る²³
• おへそに触れると赤ちゃんがひどく痛がる、または普段と違う泣き方をする⁷
• 出血が多い（わずかな滲み程度ではない）²³

よくある質問

結論

新生児の臍肉芽腫は、多くのご両親が経験する一般的な状態であり、正しく理解すれば過度に心配する必要はありません。この記事で解説したように、その原因から最新の治療法まで、科学的な知見は日々進歩しています。最も重要なことは、まず専門医による正確な診断を受け、まれではあるもののより深刻な疾患の可能性を否定することです。その上で、日本の伝統的な治療法から、国際的に高い評価を得ている安全な食塩療法まで、様々な選択肢について医師と十分に話し合い、ご自身の家庭に最適なケアを選択することが、赤ちゃんの健やかな成長への第一歩となります。危険なサインを見逃さず、日々のケアを丁寧に行うことで、安心してこの時期を乗り越えることができるでしょう。