【科学的根拠に基づく】ニキビ跡のクレーター肌に悩むあなたへ:効果的な治療法と専門医の選び方
皮膚科疾患

【科学的根拠に基づく】ニキビ跡のクレーター肌に悩むあなたへ:効果的な治療法と専門医の選び方

ニキビ跡によって肌が凸凹になってしまった、かつてニキビがあった場所がクレーターのように凹んでしまった――。このような悩みは、単なる美容上の問題にとどまらず、日々の生活の質(QOL)や自己肯定感にまで深く影響を及ぼすことがあります1。鏡を見るたびに感じる憂鬱、メイクで隠しきれない凹凸への焦燥感、そしてセルフケアでは一向に改善しない無力感。これらは、クレーター状のニキビ跡、すなわち「萎縮性瘢痕(いしゅくせいはんこん)」に悩む多くの人々が共有する、切実な苦しみです。
市販のスキンケア製品やセルフケア用品では、残念ながらこの深い皮膚構造の変化を根本から修復することは極めて困難です2。なぜなら、クレーターは皮膚表面の問題ではなく、皮膚の深層である「真皮」が破壊され、組織が失われた結果生じる「傷跡」だからです。しかし、絶望する必要はありません。現代の皮膚科学と美容医療の進歩は目覚ましく、かつては治療が困難とされたクレーター状のニキビ跡に対しても、科学的根拠に基づいた有効な治療法が数多く確立されています。重要なのは、自身の肌の状態を正確に理解し、専門家の指導のもとで最適な治療戦略を立て、根気強く取り組むことです。
本稿は、皮膚科学および再生医療を専門とする研究者の立場から、最新の医学的知見と臨床データを基に、ニキビ跡のクレーターに悩むすべての方々へ向けた包括的なガイドを提供することを目的とします。日本皮膚科学会(JDA)や米国皮膚科学会(AAD)などの権威ある機関のガイドラインを参照しつつ、クレーターが形成されるメカニズムから、その正確な分類、そして個々の症状に合わせた最先端の治療法までを徹底的に解説します。この記事が、あなたの長い悩みに終止符を打ち、なめらかな肌を取り戻すための一助となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本稿で提示された医学的指導に直接関連する主要な情報源の一覧です。

  • 日本皮膚科学会(JDA): ニキビ(尋常性痤瘡)の標準治療や、過去のニキビ跡治療に関するガイドラインの記述は、日本皮膚科学会の公式ガイドラインに基づいています34
  • 米国皮膚科学会(AAD): 国際的なニキビ跡治療の標準的な考え方や、各種治療法(レーザー、サブシジョン等)の推奨に関する情報は、米国皮膚科学会の公式見解や出版物を参照しています5
  • 各種査読付き医学論文: 各治療法(TCAクロス、サブシジョン、マイクロニードリング等)の作用機序、有効性、リスクに関する具体的な記述は、PubMed Centralなどに掲載されている多数の査読付き臨床研究論文に基づいています678

要点まとめ

  • ニキビ跡のクレーター(萎縮性瘢痕)は、皮膚深層の組織が破壊・消失した「傷跡」であり、市販品での改善は困難です。
  • クレーターには「アイスピック型」「ボックスカー型」「ローリング型」の3種類があり、それぞれ最適な治療法が異なります。
  • 治療の第一歩は、新たなクレーターを作らないために、まず皮膚科で現在進行形のニキビを完全に治療することです。
  • 効果的な治療には、レーザー、サブシジョン、TCAクロス、マイクロニードリングなどを組み合わせる「コンビネーション治療」が不可欠です。
  • 治療の成否は施術者の技術に大きく依存するため、資格・実績・治療選択肢の多様性などを見極め、信頼できる専門医を選ぶことが最も重要です。

第1章:なぜクレーターはできるのか?ニキビ跡の病態生理学

クレーター状のニキビ跡がなぜ形成されるのかを理解することは、効果的な治療法を選択するための第一歩です。この凹みは、単なる肌荒れではなく、皮膚の深部で起きた深刻なダメージの結果です。そのメカニズムは、「炎症」「組織破壊」「修復不全」という3つの段階で説明できます。

1.1 炎症という名の破壊活動

すべての始まりは、重症化したニキビ、特に「結節性ニキビ」や「嚢腫性ニキビ」と呼ばれる、皮膚の深くまで炎症が及ぶタイプのニキビです9。毛穴に皮脂や角質が詰まり、アクネ菌(Cutibacterium acnes)が増殖すると、免疫システムがこれを異物とみなし、激しい炎症反応を引き起こします9。この炎症が長引く、あるいは非常に強い場合、その影響は表皮を越えて真皮層にまで達します10。真皮は、肌のハリや弾力を支えるコラーゲン線維やエラスチン線維が網目状に張り巡らされた、いわば肌の土台となる部分です。しかし、重度のニキビによる執拗な炎症は、これらの重要な構造タンパク質を破壊・分解してしまうのです11。さらに深刻なケースでは、真皮の下にある皮下脂肪組織までもがダメージを受け、失われてしまいます11

1.2 失われた組織が作る「萎縮性瘢痕」

炎症がようやく鎮静化した後、皮膚は損傷した組織を修復しようと創傷治癒プロセスを開始します。しかし、真皮層の広範囲にわたる破壊が起きた場合、コラーゲンの産生が追いつかなかったり、異常な形で再構築されたりします12。その結果、正常な皮膚組織を再生することができず、コラーゲンや皮下脂肪が失われた部分がそのまま凹んでしまいます。これが「萎縮性瘢痕」、すなわちクレーター状のニキビ跡の正体です13。重要なのは、クレーターが「組織が過剰に作られた」のではなく、「組織が失われた(萎縮した)」状態であるという点です。これは、傷跡が盛り上がる「肥厚性瘢痕」や「ケロイド」とは正反対の病態です11。この「失われた空間(ネガティブ・スペース)」という概念を理解することが、治療法を考える上で極めて重要になります。

1.3 治療の遅れが招く深刻な結果

萎縮性瘢痕が形成されるリスクは、ニキビの重症度と炎症が続いた期間に直接的に関連しています12。つまり、炎症性のニキビを放置したり、不適切な自己流のケアで悪化させたりすることが、クレーター形成の最大の引き金となるのです9。日本皮膚科学会のガイドラインでも、早期の積極的な治療が瘢痕の予防につながることが示唆されています3

第2章:あなたのクレーターはどのタイプ?萎縮性瘢痕の分類と診断

すべてのクレーターが同じではありません。その形状、深さ、大きさによっていくつかのタイプに分類され、それぞれに最適な治療法が異なります9。多くの人は複数のタイプのクレーターが混在しているため、治療を成功させるには、まず専門医による正確な診断が不可欠です12。ここでは、国際的に広く用いられている3つの主要な分類について詳述します。

2.1 萎縮性瘢痕の主要3タイプ

  • アイスピック型 (Ice Pick Scars): アイスピックで突き刺したような、鋭く深いV字型の穴が特徴です1。直径は通常2mm以下と小さいですが、真皮の深層、時には皮下組織にまで達します1。毛穴の開きと見間違えやすいですが、より深く、底が尖っています1。嚢胞などの感染が毛穴に沿って深部へと進み、その通り道に沿って組織が破壊・線維化することで形成され14、萎縮性瘢痕の中で最も多く、全体の約60-70%を占めると報告されています11。深く狭いため、レーザーなどの面でアプローチする治療が効きにくく、治療が難しいタイプとされています2
  • ボックスカー型 (Boxcar Scars): 輪郭がはっきりとした、垂直に凹んだクレーターです1。円形または楕円形で、辺縁が鋭く垂直に落ち込み、底面が比較的平坦なのが特徴で、大きさは直径1.5mmから4.0mm程度と様々です112。水ぼうそうの跡もこのタイプに分類されることがあります1。同じ場所で繰り返し炎症が起こり、コラーゲンが広範囲に破壊されることで生じ14、萎縮性瘢痕の約20-30%を占めます11
  • ローリング型 (Rolling Scars): なだらかな波状の凹凸が特徴です1。個々の凹みの境界は不明瞭で、肌全体がうねっているように見えます1。直径は4-5mm以上と比較的大きいですが、深さは浅い傾向にあります12。このタイプの最大の特徴は、炎症の結果、真皮とさらにその下の筋膜との間に線維性の癒着(瘢痕組織のひきつれ)が生じ、この線維が皮膚表面を内側から下方へ引っ張ることで、なだらかで広範囲な凹みが生み出される点にあります2。萎縮性瘢痕の約15-25%を占めるとされています11
表1:萎縮性瘢痕のタイプ別特徴と治療法

瘢痕タイプ 見た目の特徴 サイズ 深さ 主な原因 発生頻度 最適な治療法(代表例)
アイスピック型 鋭く、狭く、深いV字型の穴 直径 < 2mm 深い(真皮深層〜) 毛穴に沿った組織の破壊・線維化 60-70% TCAクロス、CO2アブレージョン、外科的切除
ボックスカー型 垂直な壁と平坦な底を持つ、輪郭が明瞭な凹み 直径 1.5-4mm 浅い〜深い 繰り返す炎症による広範なコラーゲン破壊 20-30% フラクショナルレーザー、ポテンツァ、TCAクロス(深い場合)、パンチ挙上術
ローリング型 境界が不明瞭で、なだらかに波打つような広範囲の凹み 直径 > 4-5mm 浅い 皮膚深部の線維性癒着による下方への牽引 15-25% サブシジョン、ヒアルロン酸・コラーゲンブースター注入、マイクロニードリング

出典: 参考文献12111415に基づき作成

第3章:治療の第一歩:瘢痕化を防ぎ、肌の土台を整える

クレーター治療を成功させるためには、まず盤石な「土台」を築くことが不可欠です。この土台作りは、①現在進行形のニキビを完全にコントロールすること、②日々のスキンケアで肌の健康状態を最適化すること、③紫外線から肌を徹底的に守ること、の3つの柱から成り立っています。

3.1 瘢痕化の最大の予防策:現在のニキビを治療する

最も重要な原則は、「新たなニキビができていては、ニキビ跡の治療は始まらない」ということです。皮膚科専門医は、クレーター治療を開始する前に、まずアクティブなニキビを保険診療などでしっかりと治療し、寛解状態に導くことを最優先します9。この標準治療は、日本皮膚科学会が策定した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」や、米国皮膚科学会(AAD)のガイドラインに準拠して行われます316。強く推奨される治療法には、外用レチノイド(アダパレンなど)、過酸化ベンゾイル(BPO)、抗菌薬(内服・外用)などがあり、これらを組み合わせて急性期の炎症を抑え、再発を防ぐための「維持療法」に移行するのが標準的なアプローチです1718

3.2 セルフケアの現実と限界:肌の土台作り

市販の化粧品(OTC)やセルフケアで、一度できてしまったクレーターを治すことはできません2。しかし、セルフケアの役割は、美容医療の効果を最大限に引き出し、副作用を軽減するための「土台作り」と「サポート」にあります。

  • レチノイド(レチノール、トレチノインなど): 肌のターンオーバーを促進し、ごく浅い凹凸や肌質感を改善する助けにはなりますが、深いクレーターを埋める力はありません1920。しかし、臨床研究では、外用レチノイドが新たな萎縮性瘢痕の形成を抑制することが示されており21、ニキビ治療中からの使用が推奨されています。
  • ビタミンC誘導体: 強力な抗酸化作用を持ち、ニキビの炎症によって生じる赤みや茶色い色素沈着の改善に有効です18。また、コラーゲン産生を促進する作用も報告されています22
  • ナイアシンアミド: コラーゲン産生を促進し、皮膚のバリア機能を強化する作用が報告されており23、肌全体のコンディションを整える上で有用です。

3.3 必須の防御策:紫外線対策の重要性

紫外線対策は、クレーター治療において必須事項です。紫外線はニキビ跡の色素沈着を悪化させ24、レーザーなどの治療後の肌に重度の副作用を引き起こすリスクを飛躍的に高めます525。季節や天候に関わらず、毎日、広域スペクトルで「ノンコメドジェニックテスト済み」の日焼け止めを使用することが、治療の成否を分ける鍵となります26

第4章:美容医療によるクレーター治療:各論

肌の土台が整ったら、本格的なクレーター治療の段階に入ります。これらの治療法の多くは、意図的に微細な傷を皮膚に作り出し、体が本来持つ修復能力を引き出すことで、コラーゲンの新生を促し、凹んだ部分を内側から再構築させる「創傷治癒」のメカニズムを応用しています2

4.1 マイクロニードリング療法

ダーマペンやポテンツァに代表される、極細の針を用いて皮膚に高密度に微小な穴を開ける治療法です27。創傷治癒を誘導し、コラーゲンやエラスチンを産生させ、肌の構造を再構築します2。また、成長因子やポリ乳酸(PLLA)といった薬剤を塗布しながら施術することで、薬剤の効果を高めるドラッグデリバリーシステムとしても機能します28。比較的浅いボックスカー型やローリング型に効果的で、通常4~6週間間隔で3~12回程度の治療が推奨されます28。セルフダーマペンは衛生管理や深度設定の誤りから症状を悪化させる危険性が非常に高いため、必ず医療機関で受けるべき治療です2

4.2 レーザーリサーフェシング

レーザー光で皮膚に熱エネルギーを与え、コラーゲンのリモデリングと皮膚の再生を促す治療法で29、「アブレイティブ(蒸散型)」と「ノンアブレイティブ(非蒸散型)」があります。

  • アブレイティブ・フラクショナルレーザー(蒸散型): フラクショナルCO2レーザーなどが代表的で、皮膚に点状の穴を開け組織を蒸散させ、強力な創傷治癒反応を引き起こします29。深いボックスカー型やアイスピック型に高い効果を発揮しますが28、ダウンタイムが1~2週間と長く、特にアジア人の肌では炎症後色素沈着(PIH)のリスクが高いです2930
  • ノンアブレイティブ・フラクショナルレーザー(非蒸散型): ピコフラクショナルレーザーなどがこれにあたり、皮膚表面を傷つけずに真皮層に熱を届け、コラーゲン産生を穏やかに促進します28。ダウンタイムが短い利点がありますが、効果はマイルドで多くの治療回数が必要になります28

4.3 サブシジョン

ローリング型クレーターの原因である、皮膚深部で癒着して表面を下に引っ張っている線維組織を、特殊な医療用の針を皮下に挿入して物理的に切断・剥離する外科的手技です2。この「ひきつれ」を解放することで、凹んだ皮膚が持ち上がります。ローリング型治療の第一選択とされ28、剥離した空間にヒアルロン酸やコラーゲンブースターを注入し、再癒着を防ぐ併用療法が一般的です231。施術後は強い内出血と腫れが1~2週間程度続き9、施術者の高い技術力が求められます。

4.4 TCAクロス

アイスピック型クレーターのための特殊な治療法で、高濃度(70~100%)のトリクロロ酢酸(TCA)という酸性の薬剤をクレーターの底にピンポイントで塗布します32。意図的に化学熱傷の状態を作り出し、その後の強力な創傷治癒反応によって凹みを内側から持ち上げます32。複数の臨床研究で高い有効性が報告されていますが32、炎症後色素沈着のリスクが非常に高く33、瘢痕が逆に広がってしまうリスクもあるため、極めて高度な技術と経験を要する治療法です34

4.5 その他の治療法

ヒアルロン酸などの皮膚充填剤(フィラー)を注入し物理的に凹みを持ち上げる方法や、孤立した深いクレーターに対して外科的治療(パンチ切除やパンチ挙上術)を行う方法もあります1415

表2:主要なクレーター治療法の包括的比較

治療法 作用機序 最適な瘢痕タイプ ダウンタイム 主な利点 主な欠点/リスク
マイクロニードリング 創傷治癒によるコラーゲン新生 ローリング、浅いボックスカー 数日〜1週間 ダウンタイムが比較的短い 深い瘢痕への効果は限定的
アブレイティブ・レーザー 皮膚組織の蒸散と強力な再構築 ボックスカー、アイスピック 1~2週間 1回あたりの効果が高い 長いダウンタイム、高いPIHリスク
ノンアブレイティブ・レーザー 皮膚を傷つけず真皮を加熱 ごく浅い瘢痕、質感改善 数時間〜1日 ダウンタイムが非常に短い 効果がマイルド、多くの回数が必要
サブシジョン 癒着した線維組織の物理的切断 ローリング 1~2週間(内出血) ローリング型の根本原因にアプローチ 強い内出血と腫れ、高い技術力を要する
TCAクロス 高濃度酸による化学的再構築 アイスピック 約1週間(かさぶた) アイスピック型に特化した高い効果 非常に高いPIHリスク、瘢痕拡大リスク
フィラー注入 物理的に凹みを充填し持ち上げる ローリング、浅いボックスカー ほぼ無し〜数日 即効性がある 効果が一時的、根本治療ではない

出典: 参考文献283536に基づき作成

ここで重要な点として、日本の皮膚科学会の2017年版ガイドラインでは、萎縮性瘢痕に対するレーザー治療や高濃度TCAは「推奨度C2(十分な根拠がないので推奨しない)」とされていました4。しかし、その後の美容医療の急速な発展と国際的なエビデンスの蓄積により、これらの治療法は現在、ニキビ跡治療を専門とする多くのクリニックで標準的な治療として確立されています28。米国皮膚科学会(AAD)のガイドラインでは明確に推奨されており5、公式ガイドラインの改訂が臨床現場の技術革新のスピードに追いついていない現状を示唆しています。したがって、治療法を選択する際には、古いガイドラインの文言に固執せず、その分野における専門医の最新の知見と臨床経験を信頼することがより重要です。

第5章:最適な治療戦略の構築:コンビネーション治療と専門医の役割

クレーター治療の成功は、個々の治療法を単独で行うのではなく、それらをいかに戦略的に組み合わせるか、そしてその戦略を誰が実行するかにかかっています。

5.1 「一つの治療法」という幻想:コンビネーション治療の重要性

多くの患者の顔には、複数のタイプのクレーターが混在しています12。そのため、真に効果的な治療を行うには、それぞれのクレータータイプに対して最適な治療法を組み合わせる「コンビネーション治療」が不可欠です。例えば、ローリング型にはサブシジョン、アイスピック型にはTCAクロス、ボックスカー型や全体の質感改善にはフラクショナルレーザー、というように段階的かつ複合的にアプローチすることで、治療効果を最大化できます。実際に、「はなふさ皮膚科」ではサブシジョンと炭酸ガスレーザーを組み合わせた独自のプロトコルを提供しており37、これはコンビネーション治療の有効性を示す好例です。

5.2 専門医の選び方:成功への最も重要な鍵

効果の高い治療法は、いずれも施術者の技術と経験に結果が大きく左右されます。信頼できる専門医を見つけることが、治療の成否を分ける最も重要な要素です。厚生労働省なども注意喚起している通り38、以下の点をチェックリストとして活用してください。

  • 資格と専門性: 「日本皮膚科学会認定皮膚科専門医」または「日本形成外科学会認定専門医」の資格を持っているか39
  • 治療の専門領域: 「ニキビ跡治療」を明確に専門分野として掲げ、症例写真を豊富に公開しているか40
  • 治療選択肢の多様性: 多様な治療法を複数導入しており、状態に合わせて組み合わせる提案ができるか39
  • カウンセリングの質: 医師自らが診察し、複数の選択肢の効果、リスク、費用について十分に説明し、非現実的な期待を煽らないか38。即日契約を迫るなど高圧的でないか41

5.3 期待値のマネジメント:治療はマラソンである

最後に、クレーター治療は短距離走ではなく、長期的な視点が必要なマラソンであることを理解してください。治療の経過を追った個人のブログなどを見るとその現実がよくわかります42。施術後数日から数週間にわたるダウンタイムが伴い43、コラーゲンの再構築には時間がかかるため、効果は3ヶ月から1年以上かけて徐々に現れることも珍しくありません44。治療の目標は「完全な消滅」ではなく、「化粧で隠せるレベルになる」といった「著しい改善」です。多くの臨床研究では50~70%の改善で「良好」な結果と評価されます32。現実的なゴールを設定することが、精神的な満足感につながります。

よくある質問

市販のスキンケア製品でクレーターは治りますか?
いいえ、治りません。クレーターは皮膚の深い「真皮層」の組織が失われた「傷跡」です。市販の製品が作用するのは皮膚表面の「角質層」までであり、真皮層の構造を再構築する力はありません2。セルフケアの役割は、あくまで肌のコンディションを整え、治療のサポートをすることにあります。
どの治療法が一番効果がありますか?
「一番」という治療法は存在しません。なぜなら、最適な治療法はあなたのクレーターのタイプ(アイスピック、ボックスカー、ローリング)によって異なるからです9。多くの場合、複数のタイプのクレーターが混在しているため、単一の治療ではなく、サブシジョンやレーザー、TCAクロスなどを戦略的に組み合わせる「コンビネーション治療」が最も効果的です。
治療の痛みやダウンタイムはどのくらいですか?
治療法によって大きく異なります。表面麻酔を使用するため施術中の痛みは最小限に抑えられますが、施術後のダウンタイムは覚悟が必要です。例えば、ノンアブレイティブ・レーザーは数時間の赤みで済むことが多いですが、サブシジョンでは1~2週間の強い内出血、アブレイティブ・レーザーでは1週間以上のかさぶたや赤みが続くことがあります2843
治療を受ければ、完全に元通りの肌になりますか?
完全に元通りになることを保証するのは困難です。治療の現実的なゴールは、瘢痕を「消滅」させることではなく、「著しく改善させ、目立たなくする」ことです。多くの臨床研究では、50~70%の改善をもって成功とみなします32。治療前に医師と現実的な期待値についてしっかりと話し合うことが重要です。

結論

ニキビ跡のクレーターという深い悩みは、セルフケアの限界を超えた、真皮層の構造的な損傷です。しかし、本稿で詳述してきたように、現代の皮膚科学は、この難治性の問題に対して確かな解決策を提示しています。絶望から希望へと舵を切るために、以下の原則を心に刻むことが重要です。

  1. 新たなニキビを制圧する: すべての治療の土台は、現在進行形のニキビを皮膚科専門医のもとで完全にコントロールすることにあります。
  2. 自分のクレーターのタイプを知る: 正確な診断が、最適な治療法を選択する羅針盤となります。
  3. コンビネーション治療を理解する: 最良の結果は、多くの場合、複数の治療法を戦略的に組み合わせることで得られます。
  4. 最高の専門医を選ぶ: 治療の成否は施術者の技術と経験に大きく依存します。資格、実績、誠実さを見極め、信頼できる医師をパートナーに選ぶことが成功への最短距離です。
  5. 現実的な期待と忍耐を持つ: 治療は時間と根気を要するマラソンです。ダウンタイムを乗り越え、数ヶ月単位での緩やかな改善を受け入れる覚悟が求められます。

クレーター治療の道のりは、決して平坦ではありません。しかし、それはもはや暗闇の中を手探りで進むような旅ではありません。科学的根拠に裏打ちされた治療法という確かな地図と、経験豊富な専門医という信頼できるガイドがいれば、その道のりは格段に明るく、確実なものとなります。この情報を行動に変え、まずは勇気を出して専門医のカウンセリングの扉を叩いてみてください。そこから、あなたが長年悩み続けた肌との、新しい関係が始まるはずです。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  29. フラクショナルレーザー | 立川皮膚科クリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://tachikawa-derma.biz/menu/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC/
  30. CO2フラクショナルレーザーによるニキビ跡・毛穴治療なら – うらた皮膚科. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://urata-hifuka.com/equipment/fractional-laser.html
  31. 笑気麻酔付きニキビ跡サブシジョン – プライベートクリニック恵比寿. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://private-clinic-ebisu.com/menu/subcision/
  32. An Assessment of the Efficacy and Safety of CROSS Technique with 100% TCA in the Management of Ice Pick Acne Scars – PubMed. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21031068/
  33. Evaluation of CROSS technique with 100% TCA in the management of ice pick acne scars in darker skin types – PubMed. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21332915/
  34. Worsening of Acne Scars from Trichloroacetic Acid CROSS Delivered via Micropipette: A Case Report – PMC. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8142827/
  35. 【ダーマペン4】料金、効果について – 渋谷美容外科クリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://shibu-cli.com/plan/dermapen/
  36. サブシジョン(クレーター治療) | 美容整形はTCB東京中央美容外科. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://aoki-tsuyoshi.com/opinfo/acne/subscision
  37. ニキビ跡・クレーター専門治療|東京・埼玉に9院展開のはなふさ皮膚科. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://www.acnescars-hanafusa.com/
  38. 美容医療サービスの消費者トラブル サービスを受ける前に確認したいポイント | 政府広報オンライン. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201307/1.html
  39. 【脱クレーター肌】最新のニキビ跡治療ができるおすすめの安い美容皮膚科・クリニック11選!. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://www.fire-method.com/method/note/acnescars/
  40. 医師紹介 | 実績多数の【はなふさ皮膚科へ】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://mitakahifu.com/ikebukuro/staff/
  41. 美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について – 消費者庁. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/information_002/
  42. クレーター治療の経過をみてみよう! | メディアージュニキビクリニックのスタッフブログ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://ameblo.jp/mediage-daikanyama-staff/entry-12623677637.html
  43. サブシジョンのダウンタイムはどれくらい?経過や注意点についても紹介. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://tokyoderm.com/column/sabushijon-dauntaimu/
  44. 【ダーマペン4】港区浜松町でニキビ跡・毛穴改善なら青い鳥クリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. 入手先: https://www.aoitori-clinic.com/microneedle/
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