【皮膚科専門医が解説】保湿クリームの科学|効果を最大化する成分・選び方・使い方完全ガイド
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【皮膚科専門医が解説】保湿クリームの科学|効果を最大化する成分・選び方・使い方完全ガイド

多くの人々は「保湿」を、肌のつっぱり感を解消したり、化粧のりを良くしたりするための美容行為だと考えています。しかし、現代の皮膚科学において、保湿はより根源的な意味を持ちます。それは、「皮膚の恒常性を維持し、様々な皮膚疾患を予防・管理するための科学的アプローチ」なのです。この理解の鍵となるのが、皮膚の最も外側にある、わずか0.02mmの薄い層である「角質層」と、それが担う「バリア機能」です1。バリア機能には、二つの極めて重要な役割があります。一つは、アレルゲン(花粉、ダニなど)、細菌、化学物質といった外部の侵入者から身体を守る「城壁」としての役割2。もう一つは、体内の水分が過剰に蒸発するのを防ぐ「ダム」としての役割です。この水分の蒸散は「経皮水分蒸散量(TEWL: Transepidermal Water Loss)」として測定されます3。多くの読者が悩む「乾燥」の根本原因は、この「バリア機能の破綻」にあります。バリア機能が低下すると、外部からの刺激を受けやすくなり(敏感肌)、同時に内部の水分が逃げやすくなる(乾燥肌)という悪循環に陥ります。日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同で作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインにおいても、このバリア機能不全が病態の中心にあることが広く知られています4。したがって、保湿クリームの真の役割とは、単に潤いを「与える」ことではなく、この壊れた城壁を「修復し、強化する」ことにあるのです。

本記事の科学的根拠

本記事は、明示的に引用された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したリストです。

  • 公益社団法人日本皮膚科学会 (JDA): 本記事におけるアトピー性皮膚炎や皮脂欠乏症(乾燥肌)に関する記述、保湿剤の適切な使用法(例:FTU)、そしてバリア機能の重要性に関する指針は、同学会が発行する診療ガイドラインに基づいています56
  • 一般社団法人日本アレルギー学会 (JSA): アトピー性皮膚炎とバリア機能不全の関連性、およびスキンケアの重要性に関する記述は、同学会がJDAと共同で作成した診療ガイドラインを根拠としています4
  • 厚生労働省 (MHLW): 化粧品および医薬部外品の定義、効能表現、成分表示に関する基準は、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく同省の規制を参照しており、製品の安全性と信頼性の根拠となっています7
  • PubMed (米国国立医学図書館): セラミド、ナイアシンアミドといった特定の保湿成分の有効性に関する記述は、PubMedに収載されているシステマティックレビュー、メタアナリシス、ランダム化比較試験(RCT)といった質の高い国際的な学術論文に基づいています8

要点まとめ

  • 保湿の真の目的は、単に潤いを与えることではなく、皮膚の「バリア機能」を修復・強化する科学的アプローチです。
  • バリア機能の主役は角質細胞間脂質の約50%を占める「セラミド」であり、特に肌なじみの良い「ヒト型セラミド」が推奨されます。
  • 「ナイアシンアミド」は、バリア機能強化、シワ改善、美白効果を併せ持つ、科学的根拠の豊富な万能成分です。
  • 肌質(乾燥肌、脂性肌、年齢肌など)に応じて、適切な成分とテクスチャーの製品を戦略的に選ぶことが重要です。
  • 保湿効果を最大化するには、洗顔後すぐに、摩擦を避けて適切な量を塗布し、紫外線対策や生活習慣の改善も並行して行う必要があります。

保湿クリームがもたらす5つの科学的効果

保湿クリームがもたらす効果を、科学的根拠に基づいて深く解説します。

1. 水分蒸散を防ぎ、潤いを保持する(エモリエント効果)

保湿クリームに含まれるワセリンやスクワランなどの油分(オイル成分)は、皮膚の表面に薄い膜(人工的な皮脂膜)を形成します。この膜が「蓋」の役割を果たし、角質層からの水分の蒸発(TEWL)を物理的に防ぎます9。これが保湿の最も基本的な仕組みであり、肌のしなやかさを保つ「エモリエント効果」として知られています10

2. 乱れた皮膚バリア機能を修復・強化する

これは保湿クリームの最も重要な効果です。健康な角質層では、角質細胞同士の隙間が「細胞間脂質」と呼ばれる脂質で満たされています。この細胞間脂質の約50%を占めるのがセラミドです3。乾燥肌や敏感肌、そしてアトピー性皮膚炎の患者では、このセラミドが不足し、バリア構造がもろくなっています11。セラミドなどの生理的脂質を含む保湿クリームは、失われた細胞間脂質を直接補い、バリア構造そのものを立て直す働きがあります2。国際的な研究でも、このような「バリア修復型保湿剤」が皮膚の健康維持に極めて重要であることが示されています8

3. 乾燥による小じわやエイジングサインを目立たなくする

肌が十分に保湿されると、角質層が水分を含んでふっくらとし、キメが整います。これにより、目元や口元に現れやすい表面的な「乾燥による小じわ」が目立たなくなります12。さらに、ナイアシンアミドのような特定の有効成分を含む保湿クリームは、より積極的な加齢対策(エイジングケア)効果を発揮します。複数のランダム化比較試験により、ナイアシンアミドがシワ、シミ(色素沈着)、黄ぐすみ、弾力低下といった複数の老化サインを改善することが証明されています13

4. 外部刺激から肌を守り、肌荒れを予防する

正常に機能する皮膚バリアは、花粉、ほこり、細菌、大気汚染物質といった様々な外的刺激の侵入を防ぎます。保湿ケアによってバリア機能を健全に保つことは、かゆみ、赤み、ヒリヒリ感といった肌荒れのトラブルを未然に防ぐことに直結します14。日本皮膚科学会のガイドラインにおいても、接触皮膚炎(かぶれ)の予防における保湿の重要性が推奨されています15

5. 乾燥に起因する過剰な皮脂分泌を抑制し、ニキビを防ぐ

「脂性肌だから保湿は不要」というのは大きな誤解です。肌が乾燥を感知すると、それを補おうとして防御反応が働き、かえって皮脂が過剰に分泌されることがあります。この過剰な皮脂が毛穴を詰まらせ、ニキビ(尋常性ざ瘡)の一因となるのです14。適切な保湿によって肌の水分と油分のバランスを整えることで、この「インナードライ」状態による悪循環を断ち切り、ニキビのできにくい肌環境へと導くことができます。

【成分別】保湿効果を最大化するキープレイヤーたち

保湿クリームの成分を単に羅列するのではなく、その「機能」によって分類し、それぞれの役割と仕組みを理解することが、戦略的な製品選びの鍵となります。成分は大きく3つのタイプに分類できます。①水分を「与え、掴む」成分(ヒューメクタント)、②バリアを「修復する」成分(バリアリペア)、そして③水分を「閉じ込める」成分(オクルーシブ)です。

バリア機能の絶対的主役:セラミド(バリアリペア)

役割と仕組み: セラミドは角質細胞間脂質の主成分であり、水分と油分が交互に重なる「ラメラ構造」を形成することで、水分をがっちりと挟み込み、バリア機能の根幹を担います3
不足の原因: セラミドは加齢によって著しく減少し、50代では20代の約半分になると報告されています3。また、アトピー性皮膚炎の患者では、健常者と比較してセラミドの総量が少なく、その組成も変化していることが多くの研究で示されています11
種類と選び方: 最も推奨されるのは、人の皮膚に存在するセラミドと化学構造が同じ「ヒト型セラミド」です。成分表示では「セラミドEOP」「セラミドNG」「セラミドNP」「セラミドAP」などと表記されます。ヒト型セラミドは、肌への親和性が高く、浸透力と保湿力に優れているのが特徴です9
科学的根拠: セラミド配合保湿剤が、アトピー性皮膚炎の重症度スコア(SCORAD)を有意に改善することを示したメタアナリシス(複数の研究結果を統合・解析した質の高い研究)が存在します16。また、多くの総説論文が、皮膚バリア修復におけるセラミドの中心的役割を結論付けています8

水分を抱え込むスポンジ:ヒアルロン酸・コラーゲン(ヒューメクタント)

役割と仕組み: 自身の重量の数百倍から数千倍もの水分を保持する能力(保水力)を持つ代表的なヒューメクタントです。肌の表面に水分を供給し、一時的にみずみずしさとハリをもたらします9
限界と相乗効果: ヒアルロン酸やコラーゲンだけでは、補給した水分が時間とともに蒸発してしまいます。そのため、セラミドでバリアを補強し、スクワランやワセリンなどの油性成分(オクルーシブ)で「蓋」をすることで、その効果を最大限に引き出すことができます10

万能エイジングケア成分:ナイアシンアミド(ビタミンB3)

役割と仕組み: ナイアシンアミドは、一つの成分で複数の肌悩みに働きかける非常に優れた成分です。

  • バリア機能強化: セラミドやフィラグリン(天然保湿因子のもととなるタンパク質)の産生を促進し、バリア機能を内側から強化します。
  • シワ改善: コラーゲンの産生を促進し、肌の弾力を高め、シワを改善します。
  • 美白効果: メラノソーム(メラニンを含む小胞)が表皮細胞へ受け渡されるのを阻害し、シミ・そばかすを防ぎます。
  • 抗炎症作用: 炎症を引き起こす物質を抑制し、肌荒れや赤みを抑えます。

科学的根拠: 日本では「シワ改善」と「美白」の有効成分として医薬部外品に承認されています7。国際的にも、5%のナイアシンアミドを配合したクリームが、シワ、色素沈着、赤み、黄ぐすみを有意に改善したという質の高いランダム化比較試験(RCT)が複数報告されています13

伝統的な保湿成分:グリセリン、ワセリン、ヘパリン類似物質など

  • グリセリン(ヒューメクタント): 安全性が非常に高く、優れた保湿効果を持つため、ほとんどの保湿製品の基剤として配合されています17
  • ワセリン(オクルーシブ): 石油から精製された炭化水素油で、最も強力な閉塞性を持つ成分の一つです。皮膚表面を強力に覆って水分の蒸発をほぼ完全に防ぎますが、べたつきが強いという特徴があります。皮膚科の治療で、保護剤として頻繁に用いられます6
  • ヘパリン類似物質(ヒューメクタント/血行促進): 医療用医薬品として長年使用されてきた成分で、高い保水能力に加え、血行促進作用や抗炎症作用を持ち合わせています。皮脂欠乏症の治療においてその有効性が確立されています5
表1: 主要保湿成分の機能比較と科学的根拠
成分名 主な機能分類 作用機序 特に推奨される肌悩み 主な科学的根拠
ヒト型セラミド バリア修復 角質細胞間脂質を直接補充し、ラメラ構造を再構築・安定化させる。 乾燥肌、敏感肌、アトピー傾向肌、加齢による乾燥 6, 8, 16
ヒアルロン酸 水分補給(ヒューメクタント) 分子内に大量の水分を吸着・保持し、角質層に水分を供給する。 あらゆる肌の水分不足、ハリ不足、乾燥小じわ 9, 12
ナイアシンアミド 多機能改善 セラミド・コラーゲン産生促進、メラニン移行抑制、抗炎症作用。 シワ、シミ、くすみ、肌荒れ、毛穴の目立ち、皮脂 13, 18
ワセリン 水分閉塞(オクルーシブ) 皮膚表面に不揮発性の油膜を形成し、TEWL(経皮水分蒸散量)を強力に防止する。 極度の乾燥、ひび・あかぎれ、皮膚の物理的保護 6, 19
グリセリン 水分補給(ヒューメクタント) 空気中や皮膚深部から水分を引き寄せ、角質層に保持する。 基本的な保湿、あらゆる肌タイプ 17

【肌質・悩み別】あなたに最適な保湿クリームの選び方

乾燥肌・敏感肌

この肌質の最優先課題は「バリア機能の強化と鎮静」です。したがって、製品選びでは以下の点を重視すべきです。
最重要成分: ヒト型セラミドを高濃度で配合している製品を選びます9
処方: 香料、着色料、アルコール、パラベンなど、刺激となる可能性のある成分を極力排除した「低刺激性処方」「敏感肌用」と明記された製品が望ましいです17
追加成分: 肌荒れや赤みが気になる場合は、抗炎症作用を持つ有効成分「グリチルリチン酸ジカリウム」や「アラントイン」などが配合された医薬部外品も有効な選択肢です9

脂性肌・混合肌

「保湿は不要」という誤解を解き、「水分と油分のバランスを整える保湿」を提案します。
質感(テクスチャー): 油分が少なく、べたつきにくい「ジェルクリーム」や、軽やかな使用感の「乳液」が適しています9
処方: 「オイルフリー」と表示された製品や、皮脂分泌を調整する効果が期待できる「ナイアシンアミド」配合の製品も良い選択です9
基本成分: ヒアルロン酸やグリセリンなどでしっかりと水分を補給することが、過剰な皮脂分泌を抑える鍵となります。

年齢肌(エイジングケア)

「高度な保湿+多機能な有効成分」がテーマです。
基本: 加齢によりセラミドは減少するため、ヒト型セラミドによる基本的な保湿とバリア機能の支援は必須です3
有効成分: 保湿による乾燥小じわ対策に加え、コラーゲン産生を促進し、より深いシワやたるみに働きかける「ナイアシンアミド」や「レチノール(ビタミンA)」といった有効成分が配合された製品を積極的に選びます13。これらの成分は、肌の生まれ変わり(ターンオーバー)を正常化し、シミやくすみの改善にも寄与します。

アトピー性皮膚炎の方へ

アトピー性皮膚炎のスキンケアは「治療の一環」であり、必ず皮膚科医の指導のもとで行う必要があります。日本皮膚科学会および日本アレルギー学会が共同で作成した「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、ステロイド外用薬などによる薬物療法と並行して、スキンケア(保湿剤の外用)が治療の基本的な柱であると明確に位置づけられています4。治療の目標は、皮膚の炎症を抑え、かゆみのない、あるいはあっても軽微で、日常生活に支障のない状態を維持することです。そのために、低下したバリア機能を保湿剤で補い、正常化させることが不可欠です。自己判断で市販品を選ぶのではなく、医師が処方する保湿剤(ヘパリン類似物質、ワセリンなど)や、医師が推奨する製品を使用することが原則です。

効果を最大化する正しい保湿ケアの実践法

スキンケアにおける正しい手順とタイミング

保湿クリームの効果は、使い方次第で大きく変わります。
基本の順番: スキンケアの基本は、水分を補給し、それを油分で閉じ込めることです。したがって、「洗顔 → 化粧水(水分補給) → 美容液(目的別ケア) → 乳液・クリーム(蓋をする)」という順番が原則です10。クリームはスキンケアの最終段階で、それまでに与えた水分や有効成分が蒸発しないように保護膜を作る重要な役割を担います。
ゴールデンタイム: 保湿の最も効果的なタイミングは「洗顔後・入浴後すぐ」です。洗顔後の肌は皮脂膜が洗い流され、無防備な状態にあります。そのまま放置すると、肌表面の水分が蒸発する際に角質層内部の水分まで奪っていく「過乾燥」という現象が起こります。可能であれば、タオルで水分を優しく拭き取った後、5分から10分以内に保湿ケアを開始することが理想的です20

適切な塗布量と塗り方

塗布量(FTUの活用): 量が少なすぎると十分な効果が得られず、多すぎても肌に浸透せずべたつくだけです21。適切な量の目安として、日本皮膚科学会も推奨しているのが「FTU(フィンガーチップユニット)」です。これは、チューブの口径が5mmの場合、大人の人差し指の先端から第一関節まで出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのが適量とされています6。ローションタイプの場合は、1円玉大が目安です。感覚的には「肌がしっとりとし、少し光る程度」が適切な量です。
塗り方(摩擦の回避): 最も重要なのは「摩擦を避ける」ことです。肌をゴシゴシこすることは、バリア機能を自ら破壊する行為です21。クリームを手のひらで少し温めてから、顔の数か所に置き、顔の中心から外側に向かって、優しく押し込むように(プレスするように)、あるいは包み込むようになじませるのが正しい方法です22

保湿効果を高める生活習慣

保湿クリームの効果を最大限に引き出すためには、スキンケアを「健康的な生活習慣」という大きな枠組みの中に位置づける必要があります。

  • 紫外線対策: 紫外線は季節を問わず、皮膚バリアに損傷を与え、乾燥を助長する最大の外的要因です。日焼け止めは夏だけでなく、一年中使用することが、保湿効果を維持する上で不可欠です1
  • 室内環境: 空気が乾燥していると、肌からの水分蒸発は加速します。特に冷暖房を使用する季節は、加湿器などを利用して室内の湿度を60%前後に保つことが望ましいです20
  • 食事: 肌はタンパク質から作られます。肉、魚、大豆製品などの良質なタンパク質に加え、皮膚の新陳代謝を助けるビタミンA、B群、抗酸化作用のあるビタミンC、Eなどをバランス良く摂取することが、内側からのスキンケアにつながります23
  • 睡眠: 質の良い睡眠中に分泌される成長ホルモンは、日中に受けた皮膚の損傷を修復し、肌の生まれ変わりを促進します。最低でも6時間以上の睡眠を確保することが推奨されます24
  • 水分補給: 体内の水分が不足すれば、肌の潤いも失われます。1日に1.5~2リットルを目安に、こまめに水分を摂取する習慣が大切です25

よくある質問

乳液とクリームの違いは何ですか?両方使うべきですか?
主な違いは水分と油分のバランスです。乳液は水分が多く配合されており、肌に水分を与え柔らかくする役割が主です。一方、クリームは油分が多く、乳液よりも強力に水分の蒸発を防ぐ「蓋」としての役割(エモリエント効果)が強いのが特徴です9。使い分けとしては、脂性肌の方や夏の季節は乳液だけでも十分な場合があります。乾燥が特に気になる方や冬場は、クリームを使用するか、乳液の後にクリームを重ね付けすることで、より高い保湿効果が期待できます。ご自身の肌質や季節に応じて使い分けるのが最適です。
皮膚科で処方される保湿剤(例:ヘパリン類似物質)と市販の化粧品との違いは何ですか?
最大の違いは、その目的と法的な分類です。皮膚科で処方される保湿剤は、皮膚疾患の「治療」を目的とした「医薬品」です。有効成分の濃度や効果・効能が国によって厳格に審査・承認されており、医師の診断に基づいて使用されます5。一方、市販の製品は、肌を健やかに保つことや美容を目的とした「化粧品」、あるいは特定の効果(肌荒れ防止、ニキビ予防など)が認められた有効成分を配合した「医薬部外品」に分類されます26。これらは主に「予防」や「整肌」を目的としています。したがって、かゆみや湿疹を伴うような重度の乾燥がある場合は、自己判断で市販品に頼るのではなく、まず皮膚科専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
夏でも保湿クリームは必要ですか?
はい、必要です。夏は汗や皮脂で潤っているように感じがちですが、実際には強力な紫外線による損傷や、室内での冷房使用による空気の乾燥によって、肌のバリア機能は低下し、水分は失われています(インナードライ)1。ただし、冬と同じ重い質感のクリームでは不快に感じることがあります。夏場は、べたつきの少ないジェルタイプや、さっぱりとした使用感の乳液、オイルフリーの保湿剤を選ぶなど、季節や肌の調子に合わせた製品選びを心がけましょう。

結論

本記事で詳述したように、保湿は単なる美容習慣ではなく、皮膚の健康を維持するための根源的な科学的アプローチです。その核心は、外部刺激から肌を守り、内部の潤いを保つ「皮膚バリア機能」を正常に維持することにあります。保湿の科学的効果を理解し、特にバリア機能の主役であるセラミドや、多機能な加齢対策成分であるナイアシンアミドといったキープレイヤーの役割を知ること。ご自身の肌質や悩みに合った成分と質感の製品を戦略的に選ぶこと。洗顔後すぐのタイミングで、摩擦を避けて適切な量を塗布するという正しい使い方を実践すること。そして、紫外線対策や食生活、睡眠といった生活習慣全体でスキンケアを支えること。これらを総合的に実践することで、保湿クリームの効果を最大限に引き出し、健やかで美しい肌を育むことが可能になります。
この記事で得た知識を基に、ぜひ今日からご自身のスキンケアを見直してみてください。しかし、セルフケアで改善しない、あるいは悪化するような深刻な肌トラブル(強いかゆみ、湿疹、痛みなど)を抱えている場合は、決して自己判断を続けず、速やかに皮膚科専門医に相談してください。専門家による正確な診断と治療が、最も安全かつ確実な解決策です。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。

参考文献

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