【科学的根拠に基づく】子供の咳、その音は病気のサイン?日本の小児科ガイドラインに基づく包括的解説
小児科

【科学的根拠に基づく】子供の咳、その音は病気のサイン?日本の小児科ガイドラインに基づく包括的解説

お子様の咳が止まらない、夜になると特にひどくなる、普段と違う呼吸音がする。このような状況は、保護者の皆様にとって大きな不安の種となることでしょう。子供の咳は単なる風邪の症状であることも多いですが、中にはRSウイルス感染症、クループ症候群、あるいは肺炎といった、より専門的な対応を必要とする病気が隠れている可能性もあります。この記事は、日本の保護者の皆様が抱える「この咳は何だろう?」という切実な疑問に答えるため、日本の主要な医療ガイドラインと最新の医学的知見に基づき、信頼できる情報を提供することを目的としています。JapaneseHealth.org編集委員会は、お子様の健康を守るための正確な知識を提供することで、皆様の不安を和らげ、適切な受診行動を支援します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本小児感染症学会(JSPID)および日本小児呼吸器学会(JSPRI): 本記事における肺炎、マイコプラズマ肺炎、百日咳などの細菌感染症に対する治療推奨(例:第一選択薬としての抗生物質の種類や使用期間)は、両学会が共同で作成した「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」に準拠しています。このガイドラインは、日本の小児医療における標準治療の根幹をなすものです。3031
  • 厚生労働省(MHLW): 日本国内の医療費の推移や予防接種スケジュールに関するデータは、厚生労働省が公表する公式統計および勧告に基づいています。これにより、情報の正確性と日本の医療制度との整合性を確保しています。238
  • 国立感染症研究所(NIID): インフルエンザやRSウイルスなどの感染症の季節的な流行パターンに関する記述は、国立感染症研究所が毎週更新する感染症発生動向調査のデータに基づいています。これは、日本国内の最新の流行状況を反映するための重要な情報源です。9
  • 日本小児アレルギー学会: 小児ぜん息の診断、治療、および長期管理に関する解説は、「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020」に基づいています。これには、吸入ステロイド薬を中心とした段階的な治療法や、日常生活での環境整備の重要性が含まれています。4041

要点まとめ

  • 子供の咳は音で種類を判別できる場合があります。「コンコン」は乾いた咳、「ケンケン」はクループ症候群、「ゼーゼー」はぜん息やRSウイルス感染症の可能性があります。1
  • 呼吸が苦しそう(陥没呼吸、多呼吸)、顔色が悪い(チアノーゼ)、水分が摂れないなどの症状は、夜間や休日でも直ちに医療機関を受診すべき危険なサインです。2
  • 日本の小児における「肺炎」診断は、欧米に比べ5倍多く、その多くは抗生物質が効かないウイルス性(例:RSウイルス)です。3
  • RSウイルス感染症の重症化予防には、シナジス®やベイフォータス®といった抗体製剤が特定の条件下(早産児など)で保険適用となります。4
  • マイコプラズマ肺炎はマクロライド系抗生物質への耐性が問題となっており、服薬後48~72時間で解熱しない場合は薬の変更が検討されます。5
  • 百日咳はワクチンで予防できますが、免疫が徐々に低下するため、日本小児科学会は就学前(5~6歳)の追加接種を推奨しています(任意接種)。1

まず確認:お子様の咳と症状から考えられること

お子様の咳の種類や伴う症状を注意深く観察することは、適切な対応への第一歩です。保護者の皆様が医師に症状を正確に伝える手助けとなるよう、典型的な症状とそれに対応する可能性のある病気をまとめました。これは自己診断を促すものではなく、あくまで受診の目安としてご活用ください。

緊急受診が必要な危険なサイン

以下の症状が一つでも見られる場合は、時間帯にかかわらず、直ちに救急外来を受診するか、救急車を要請することを検討してください。これらは呼吸困難や重篤な状態を示唆する重要な兆候です。

  • 呼吸の異常: 息が速い(多呼吸)、呼吸のたびに胸や肋骨の下がへこむ(陥没呼吸)、小鼻がひくひくする(鼻翼呼吸)、唇や顔の色が青白い(チアノーゼ)。2 日本小児科学会のガイドラインでは、呼吸数の目安として、生後2ヶ月未満で毎分60回以上、2~12ヶ月で毎分50回以上を多呼吸としています。6
  • 高い熱または長引く熱: 40℃以上の高熱、生後12週未満の乳児の発熱、一度下がった熱が再びぶり返す場合。7
  • 全身状態の悪化: 食事や水分が全くとれない、8時間以上おしっこが出ない(脱水のサイン)、ぐったりしていて元気がない、あやしても反応が鈍い、または異常に機嫌が悪い。3
  • 突然の発症: 元気だったお子様が突然、激しくむせ込むように咳き込み始めた場合、ピーナッツなどの異物が気道に入った可能性があります。特に幼児に多い事例です。8

咳の種類と症状チェック表

様々な呼吸器疾患は、特徴的な咳の音や症状を示します。以下の表は、お子様の状態を把握し、医師とのコミュニケーションを円滑にするためのツールです。

表1:お子さんの咳・症状チェック表
病名 主な咳の特徴 呼吸の音 その他注意すべき症状 主な原因
風邪症候群 初期は乾いた「コンコン」、後に痰が絡んだ「ゴホンゴホン」1 通常は正常 ある場合とない場合がある 鼻水、鼻づまり、喉の痛み ウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス等)
クループ症候群 犬やオットセイの鳴き声のような「ケンケン」という響く咳1 息を吸う時に「ヒュー」という音(吸気性喘鳴) 軽度から中等度の熱が多い 声がかすれる、夜間に症状が悪化しやすい9 ウイルス(パラインフルエンザウイルス)
RSウイルス感染症/細気管支炎 激しい咳、痰が絡むことが多い 息を吐く時に「ゼーゼー、ヒューヒュー」(喘鳴)1 発熱することが多い 呼吸が速い、乳児では哺乳困難10 RSウイルス
気管支ぜん息 長引く咳、特に夜間や早朝に多い 繰り返す「ゼーゼー、ヒューヒュー」(喘鳴) 通常は熱はない(感染症合併時を除く) 運動時に咳き込む、アレルギー素因 慢性の気道炎症、アレルギー
百日咳 顔を真っ赤にして息もできないほどの激しい咳が連続して起こる(スタッカート) 咳の後に息を吸い込む時の「ヒュー」という笛のような音(レプリーゼ) 初期は無熱か微熱 咳の後に嘔吐することがある、乳児では無呼吸発作を起こし危険1 百日咳菌
マイコプラズマ肺炎 乾いた「コンコン」という咳が数週間にわたり頑固に続く9 正常、または細かいパチパチ音(捻髪音)が聞こえることがある 発熱することが多く、高熱になることもある 頭痛、倦怠感、解熱後も咳だけが残る 肺炎マイコプラズマ

情報源: おおたかの森こどもクリニック1, 横浜弘明寺呼吸器内科クリニック9, ふかざわ小児科3の情報を基にJHO編集委員会が作成。

注意すべき主な子供の呼吸器疾患:日本のガイドラインに基づく詳細解説

ここでは、お子様によく見られる主要な呼吸器疾患について、日本の専門学会が定める診療ガイドラインに基づき、その特徴、治療法、家庭でのケアを詳しく解説します。

一般的なウイルス感染症:日々の闘い

子供の呼吸器感染症のほとんどはウイルスが原因です。多くは自然に回復しますが、中には重症化しやすいものもあり、正しい知識を持つことが重要です。

RSウイルス感染症(RSウイルスかんせんしょう)

RSウイルスは非常にありふれたウイルスで、2歳までにほぼ100%の子供が一度は感染すると言われています。10 年長児や大人では軽い鼻風邪で済むことが多い一方、生後6ヶ月未満の乳児、特に新生児が感染すると、細気管支炎や肺炎を引き起こし重症化する危険があります。10 症状は鼻水、咳、発熱といった風邪様の症状で始まりますが、数日かけて「ゼーゼー、ヒューヒュー」という喘鳴がひどくなり、呼吸が速く、哺乳が困難になることがあります。10
治療と予防: このウイルスに対する特効薬はなく、治療は水分補給、休息、加湿といった対症療法が中心となります。11 重症化し、呼吸困難や脱水が見られる場合は、酸素投与や点滴のために入院が必要になることもあります。
予防が極めて重要であり、特に重症化の危険性が高いお子様には特別な予防法があります。

  • 基本的な予防策: 流行期には、保護者の手洗いの徹底、マスク着用、人混みを避けることが基本です。7
  • 抗体製剤による予防(保険適用): これはワクチンではなく、重症化を防ぐための抗体を直接注射するものです。日本の保険診療でこの治療を受けるには厳格な基準があり、以下のようなハイリスクの乳幼児が対象となります。4
    • 早産児(例:在胎28週以下で生まれ、流行開始時に12ヶ月齢以下など)
    • 慢性肺疾患(気管支肺異形成症)を持つ子供
    • 先天性心疾患を持つ子供
    • 免疫不全を持つ子供
    • ダウン症候群の子供

    使用される薬剤には、毎月注射が必要なパリビズマブ(シナジス®)と、1回の注射でシーズン中の予防効果が期待できる新しい長時間作用型のニルセビマブ(ベイフォータス®、2024年3月日本承認)があります。4 投与開始時期は地域によって異なり、春や初夏から始まることもあります。12

クループ症候群(クループしょうこうぐん)

クループ症候群は、主に生後6ヶ月から3歳頃の子供に見られる病気で、特徴的な「ケンケン」という犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)と、息を吸う時の「ゼーゼー」という音(吸気性喘鳴)で識別されます。1 この病気の症状は夜間に悪化する傾向があり、保護者を非常に不安にさせることがあります。9
治療と「真夜中の対処法」: クループの対応で最も大切なのは、お子様を落ち着かせることです。泣くと喉の腫れが悪化するため、冷静に対応することが求められます。

  • 家庭でのケア: 涼しく湿った空気を吸わせることが一般的に推奨されます。13 ただし、MSDマニュアルによると、冷たい空気や蒸気の有効性に関する科学的根拠は限定的であるものの、害はないとされています。14 このようなバランスの取れた情報提供は、医療の信頼性を高めます。
  • 医療機関での治療: 医療現場では、喉の腫れを速やかに引かせるためのアドレナリン(ボスミン®)の吸入や、より持続的な効果を狙ったステロイド薬(デカドロン®)の内服または注射が行われます。15 重症の場合は酸素投与のために入院が必要です。14
  • 真夜中の緊急対応チェックリスト:
    1. まず保護者が冷静になり、お子様を安心させる。
    2. 窓を開けて涼しい空気を吸わせる、または加湿器を使用する。
    3. 落ち着いている時でも呼吸が苦しそう、胸がへこむ(陥没呼吸)、顔色が悪い場合は、直ちに救急外来を受診する。

細菌感染症と非定型肺炎:抗生物質の役割

ウイルス性疾患とは異なり、細菌が原因の呼吸器感染症には抗生物質が有効です。しかし、不適切な使用は薬剤耐性の問題を引き起こすため、正確な診断と日本の診療ガイドラインに沿った治療が不可欠です。

肺炎(はいえん)および気管支炎(きかんしえん)

前述の通り、日本の小児科で「肺炎」と診断され入院するケースの多くは、実はウイルス性が原因です。3 一方、細菌性肺炎の主な原因菌は肺炎球菌ですが、これは小児用肺炎球菌ワクチン(PCV)の普及により大幅に減少しました。3 細菌性肺炎はウイルス性よりも症状が重く、高熱や激しい咳、呼吸困難を伴うことが一般的です。9
ガイドラインに基づく治療: 「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」は、この分野における最も権威ある指針です。30 このガイドラインの監修者の一人である石和田稔彦医師らの専門的知見が反映されています。16

  • 第一選択薬: 細菌性の市中肺炎が疑われる場合、第一選択薬としてアモキシシリンまたはアンピシリンを5日間投与することが推奨されています。17
  • 入院の目安: 水分や食事がとれない、呼吸困難がある、血中酸素飽和度が低いといった重症例では、入院による点滴での抗生物質投与や酸素管理が必要となります。1819

マイコプラズマ肺炎(マイコプラズマはいえん)

肺炎マイコプラズマという細菌によって引き起こされる病気で、学童期(5~14歳)の子供に多く見られます。9 熱が下がった後も3~4週間続く、頑固な乾いた咳が最大の特徴です。9
治療と薬剤耐性の問題: 日本におけるマイコプラズマ肺炎治療の核心は、薬剤耐性への対応です。

  • 第一選択薬と耐性問題: 日本マイコプラズマ学会やJSPIDのガイドラインでは、第一選択薬としてマクロライド系の抗生物質(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)を推奨しています。17 しかし、これらの薬剤に対する耐性菌の割合が日本で非常に高いことが大きな問題となっています。17
  • 「48~72時間ルール」: このため、ガイドラインでは重要な臨床判断基準を設けています。マクロライド系抗生物質を開始してから48~72時間経っても解熱しない場合、耐性菌の可能性が高いと判断し、治療薬の変更を検討すべきであるとされています。5
  • 第二選択薬: 耐性菌が疑われる場合の代替薬は、トスフロキサシン(フルオロキノロン系)またはテトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)です。ただし、テトラサイクリン系薬剤は8歳未満の子供には歯や骨への影響から原則として使用されないため、より年少の子供における重要な第二選択薬はトスフロキサシンとなります。5

百日咳(ひゃくにちぜき)

その名の通り、非常に長い期間咳が続く病気で、特に顔を真っ赤にして連続で激しく咳き込む発作(スタッカート)が特徴です。1 ワクチン接種を完了していない乳児が感染すると、無呼吸発作などを起こし命に関わることもある非常に危険な感染症です。
ワクチンの重要性と免疫の減衰: 予防の要はワクチンですが、その効果が時間とともに薄れる(免疫の減衰)ことが問題となっています。

  • 定期接種: 日本の標準的な予防接種スケジュールでは、4種混合(DPT-IPV)または2024年4月から導入された5種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチンを、生後2ヶ月から計4回接種します。2021
  • 追加接種の推奨: 4回の定期接種で得られた免疫は、4~6歳頃には低下し始め、学童期での流行の一因となっています。122 このため、日本小児科学会は就学前の5~6歳(年長さん)の時期に、3種混合(DPT)ワクチンの追加接種を強く推奨しています。1 これは自己負担による任意接種ですが、お子様を百日咳から守るために非常に重要です。1
  • 治療: 発症初期(カタル期、1~2週間以内)に診断されれば、マクロライド系抗生物質により症状の期間を短縮し、他者への感染性を低下させることができます。17

慢性的な疾患:小児ぜん息の管理

小児ぜん息は、単に咳や発作を繰り返すだけでなく、気道に慢性的な炎症が続いている状態です。治療の目標は、発作を止めることだけではなく、炎症をコントロールし、子供が制限なく活動的な日常生活を送れるようにすることです。23
ガイドラインに基づく段階的治療: 「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020」では、長期管理と発作治療の二本柱でアプローチします。24

  • 長期管理薬(コントローラー): 気道の炎症を抑えることが治療の基本です。
    • 吸入ステロイド薬(ICS): 最も効果的な抗炎症薬です。23 正しい吸入技術の習得と、使用後のうがいが不可欠です。23
    • ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA): モンテルカスト(シングレア®、キプレス®)などの飲み薬です。23 ガイドラインでは、吸入が難しい低年齢児の軽症例(ステップ1)において、初期治療の選択肢として推奨しています。24
  • 発作治療薬(リリーバー): 発作時に気道を素早く広げるための気管支拡張薬です。
    • 短時間作用性β2刺激薬(SABA): 発作を和らげるために使用します。23
  • 環境整備: ぜん息の引き金となるアレルゲン(子供ではダニやハウスダストが主9)を減らすための掃除や寝具の工夫も、薬物療法と並行して非常に重要です。23
  • 合併症の管理: ガイドラインでは、ぜん息児の約70%がアレルギー性鼻炎を合併していると指摘しており、これらの合併症を同時に治療することの重要性を強調しています。24

包括的な予防戦略:お子様を守るために

多くの呼吸器疾患は、日々の心がけと計画的な予防接種によって、感染のリスクを減らしたり、重症化を防いだりすることが可能です。以下の表は、日本の医療制度に沿った予防策をまとめたものです。

表2:日本のガイドラインに基づく主な治療とケア
病名 主な治療法(ガイドライン準拠) 家庭でのケア 入院の目安
RSウイルス感染症 対症療法:水分補給、休息、加湿。特効薬なし。11 鼻水の吸引、部屋の加湿、少量ずつの水分補給、呼吸状態の観察。 呼吸困難(多呼吸、陥没呼吸)、哺乳・飲水不能、チアノーゼ。2
クループ症候群 アドレナリン吸入(ボスミン®)、ステロイド薬内服/注射(デカドロン®)による消腫。15 子供を落ち着かせる、涼しく湿った空気。 安静時でも呼吸困難、陥没呼吸、全身状態の悪化。8
細菌性肺炎 第一選択薬:アモキシシリンを5日間(2022年ガイドライン)。17 安静、十分な水分補給、必要に応じて解熱剤を使用。 高熱が下がらない、飲食不能、呼吸不全、意識が朦朧とする。18
マイコプラズマ肺炎 第一選択:マクロライド系抗生物質。48~72時間で解熱しない場合、トスフロキサシンまたはテトラサイクリン(8歳以上)への変更を検討。5 安静、水分補給、非薬物的な方法での咳の緩和。 呼吸不全、飲食不能、重篤な合併症。18
気管支ぜん息(急性増悪) 短時間作用性気管支拡張薬(SABA)。重症例では全身性ステロイド薬も。6 指示通りに発作治療薬を使用、子供を落ち着かせる、刺激物を避ける。 発作治療薬を使用しても症状が改善しない、会話困難、チアノーゼ。6
表3:子供の呼吸器感染症・予防スケジュール
年齢/時期 予防接種/予防薬 対象疾患 公費/任意 備考
生後2ヶ月~ 5種混合ワクチン(ヒブ、DPT-IPV)、肺炎球菌ワクチン(PCV) Hib髄膜炎、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、肺炎球菌性肺炎 公費 できるだけ早く開始。スケジュール通りに基礎免疫を完了させる。21
生後6ヶ月~ インフルエンザワクチン インフルエンザ 任意(一部自治体で助成あり) 毎年、秋頃に接種。9歳未満で初回接種の場合は2回接種が必要。7
年長(5~6歳) 3種混合ワクチン(DPT)追加接種 百日咳、ジフテリア、破傷風 任意 減衰する百日咳の免疫を補強するため日本小児科学会が強く推奨。1
毎年(流行期) パリビズマブ(シナジス®)/ ニルセビマブ(ベイフォータス®) RSウイルス重症感染症 公費(適応対象者) ハイリスク児(早産児、先天性心・肺疾患、ダウン症等)が対象。医師の判断が必要。4

よくある質問

「ケンケン」という咳が出たら、夜中でも病院に行くべきですか?
「ケンケン」という咳はクループ症候群の典型的な症状です。1 夜間に悪化しやすい特徴があります。咳だけで比較的元気にしているのであれば、加湿したり、涼しい空気を吸わせたりして様子を見ることができます。しかし、咳に加えて、安静にしていても呼吸が苦しそう(肩で息をする、胸がへこむ)、顔色が悪い、よだれを飲み込めないといった症状が見られる場合は、喉の腫れが非常に強くなっているサインですので、夜間でも直ちに救急外来を受診してください。8
「肺炎」と診断されましたが、抗生物質が処方されませんでした。なぜですか?
日本の小児科では、入院を要する「肺炎」の多くが、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスといったウイルスによって引き起こされることが知られています。3 ウイルスには抗生物質は効果がありません。そのため、医師が診察や検査の結果、ウイルス性の可能性が高いと判断した場合は、抗生物質を処方せず、水分補給や解熱剤などの対症療法で回復を待つことが標準的な治療となります。これは不要な抗生物質の使用を避け、薬剤耐性菌の発生を防ぐための重要な考え方です。
ぜん息の吸入ステロイド薬は、長期間使っても安全ですか?
小児ぜん息の治療で使われる吸入ステロイド薬は、気道に直接作用するため、全身への影響が非常に少なくなるように設計されています。23 日本のガイドラインで推奨されている通常の用量であれば、長期的に使用しても安全性が高いことが確認されており、成長への影響もほとんどないと考えられています。23 むしろ、ぜん息の炎症を放置することによる発作の繰り返しや呼吸機能の低下の方が、お子様の発育にとって大きな問題となります。医師の指示通りに正しく使用し、定期的に診察を受けることが大切です。
百日咳のワクチンは受けていますが、それでもかかりますか?
はい、かかる可能性があります。百日咳ワクチン(4種混合や5種混合に含まれる)は非常に有効ですが、その効果は時間とともに徐々に弱まっていきます。1 特に、乳幼児期に受けた4回の接種による免疫は、4~6年経つと低下してくるため、小学生の間で流行することがあります。22 そのため、日本小児科学会は、免疫を再び強化するために、就学前の5~6歳の時期に任意接種として3種混合ワクチンの追加接種を受けることを強く推奨しています。1

結論

子供の呼吸器疾患は、ありふれた風邪から専門的な治療を要するぜん息や肺炎まで多岐にわたります。保護者の皆様にとって最も重要なことは、パニックにならず、お子様の状態を冷静に観察し、危険なサインを見逃さないことです。本記事で紹介した咳の種類や症状のチェックリストは、そのための有用なツールとなるでしょう。しかし、最終的な診断と治療は、必ず専門家である小児科医の判断を仰ぐ必要があります。特に、日本の医療現場の特性(ウイルス性肺炎の多さやマイコプラズマの薬剤耐性問題など)を理解した上で、診療ガイドラインに沿った最適な治療を受けることが、お子様の健やかな回復への最短の道です。予防接種は、お子様を重篤な感染症から守る最も効果的な手段の一つです。定期接種はもちろん、推奨されている任意接種についても、かかりつけ医とよく相談し、計画的に進めていくことをお勧めします。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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