【産婦人科医監修】妊娠中のパーソナルケア完全ガイド|母体と胎児を守る毎日の衛生管理・安全な製品選び・感染症予防のすべて
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【産婦人科医監修】妊娠中のパーソナルケア完全ガイド|母体と胎児を守る毎日の衛生管理・安全な製品選び・感染症予防のすべて

妊娠は、女性の人生において最も喜びに満ちた時期の一つであると同時に、心身に大きな変化をもたらす特別な期間です。ホルモンバランスの劇的な変動は、肌質の変化や口腔環境の悪化、感染症への抵抗力の低下など、これまで経験したことのないような様々な戸惑いを引き起こします。多くの妊婦さんが「どのスキンケア製品なら安全なの?」「おりものが増えたけど大丈夫?」「食事で気をつけることは?」といった数々の疑問や不安を抱えるのは当然のことです。本記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本産科婦人科学会(JSOG)の診療ガイドライン2や厚生労働省3、食品安全委員会12などの公的機関、そして第一線の専門家による最新の研究知見に基づき、妊娠中のパーソナルケアに関するあらゆる疑問に答えるために作成した包括的なガイドです。科学的根拠に基づいた正しい知識を身につけ、心穏やかで健やかなマタニティライフを送るための一助となれば幸いです。

本稿の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性が含まれています。

  • 厚生労働省(MHLW): 本稿における感染症予防の基本方針(手洗い、密集・密接・密閉の回避)や、妊婦が特定の感染症で重症化しやすいという公的見解に関するガイダンスは、厚生労働省が発表した報告書に基づいています37
  • 食品安全委員会(FSCJ): 妊娠中に特に注意すべき食中毒(リステリア菌、トキソプラズマ)に関するリスク食品の特定と予防策に関するガイダンスは、食品安全委員会が発行した詳細なリーフレットに基づいています12
  • 日本産科婦人科学会(JSOG)/ 日本産婦人科医会(JAOG): 妊婦健診、感染症スクリーニング、および本稿で議論される臨床的推奨事項に関するガイダンスは、日本産科婦人科学会が発行した「産婦人科診療ガイドライン」に基づいています2
  • 日本助産師会: おりものケアや皮膚のかゆみ対策など、日常生活に密着したセルフケア指導に関するガイダンスは、日本助産師会が発行したガイドラインに基づいています1121
  • 順天堂大学 鈴木紀子准教授: 口腔ケアの重要性、特に歯周病が早産や低出生体重児のリスクを高めるという科学的知見に関するガイダンスは、鈴木紀子准教授の研究に基づいています19
  • 専門家(Dr. Ava Shamban, Dr. Alexandra Boles): 妊娠中に避けるべきスキンケア成分(レチノイド、高濃度サリチル酸など)に関するガイダンスは、Women’s Health Magazineに掲載された専門家の見解に基づいています23

要点まとめ

  • 妊娠中はホルモンバランスの変化と免疫機能の調整により、肌トラブル、口腔内の問題、感染症のリスクが増加します。
  • 歯周病は早産や低出生体重児のリスクを高める可能性があり、つわり中でも工夫した口腔ケアが不可欠です。
  • スキンケアではレチノイドやハイドロキノンなどを避け、セラミドやヒアルロン酸での保湿、酸化亜鉛などミネラルタイプの日焼け止めによる紫外線対策が重要です。
  • リステリア菌やトキソプラズマによる食中毒を防ぐため、肉や魚の十分な加熱、生ハムやナチュラルチーズなどのリスク食品を避けることが最も確実な予防策です。
  • デリケートゾーンの洗浄は、専用の低刺激ソープを使い、洗いすぎないことが大切です。異常を感じたら自己判断せず産婦人科医に相談してください。

なぜ妊娠中のセルフケアは特別なのか?科学的根拠に基づく母体の変化とリスク

妊娠期間中、女性の身体は胎児を育むために劇的な変化を遂げます。この変化を理解することは、なぜ特別なセルフケアが必要なのかを知るための第一歩です。その根幹にあるのは、ホルモンバランスの変動と、それに伴う全身への影響です。

ホルモンバランスの劇的な変化とその全身への影響

妊娠を維持するため、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌量は急激に増加します。これらのホルモンは、胎児の成長に不可欠である一方、母体には様々な変化をもたらします。例えば、皮脂の分泌を活発化させニキビができやすくなったり、メラニン色素の生成を促してシミやそばかす(特に肝斑)の原因となったりします5。また、口腔内では、特定の歯周病菌の増殖を促し、歯肉炎を引き起こしやすくなります4。さらに、腟の環境にも影響を与え、おりものの量が増加するのもこのホルモンの働きによるものです6

免疫機能の変化と感染症リスクの増大

妊娠中のもう一つの重要な変化は、免疫機能の調整です。母体は、父親由来の遺伝子を持つ胎児を「異物」として攻撃しないよう、免疫システムを意図的に抑制します。この「免疫寛容」と呼ばれる状態は、妊娠を維持するために不可欠ですが、同時に母体の感染症に対する抵抗力を低下させることにも繋がります28。そのため、普段なら問題にならないような細菌やウイルスでも、妊娠中は感染しやすくなったり、重症化したりする危険性があるのです。

感染症が母体と胎児に及ぼす深刻な影響

母体の感染症は、時に胎盤を通じて胎児にまで影響を及ぼすことがあります。例えば、厚生労働省や食品安全委員会が注意を喚起しているサイトメガロウイルス、トキソプラズマ、リステリア菌といった病原体は、流産、早産、あるいは胎児に先天性の障害を引き起こす可能性があります1229。だからこそ、日々のパーソナルケアを通じて感染症のリスクを正しく理解し、適切な予防策を講じることが、母体と未来の赤ちゃんの健康を守る上で極めて重要なのです。

【部位別】毎日の正しい衛生管理・実践ガイド

妊娠中の身体の変化に対応し、様々なリスクを軽減するためには、日々の正しい衛生管理が欠かせません。ここでは、特に注意が必要な「口腔」「デリケートゾーン」「身体全体」の3つの部位に分け、具体的なケア方法を科学的根拠に基づいて解説します。

1. 口腔ケア:歯周病と早産リスクを防ぐために

妊娠中の口腔ケアは、単なる虫歯予防以上の意味を持ちます。実は、お口の健康が、お腹の赤ちゃんの健康にも深く関わっていることが、近年の研究で明らかになっています。

妊娠性歯肉炎のメカニズム

妊娠すると、女性ホルモンの分泌増加に伴い、特定の歯周病菌(プレボテラ・インターメディア菌など)が活発に増殖します。これらの菌は女性ホルモンを栄養源とするためです。菌が増殖すると、歯茎の血管が拡張し、わずかな刺激でも腫れたり出血したりしやすくなります。これが「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる状態で、多くの妊婦さんが経験する症状です4

歯周病と全身への影響(早産・低出生体重児リスク)

歯周病を放置すると、炎症を引き起こす物質(プロスタグランジンなど)が歯茎の血管から血流に入り込み、全身へと運ばれます。この物質が子宮に到達すると、子宮の収縮を促し、正期産(妊娠37週以降)を迎える前に陣痛を引き起こしてしまうことがあります。順天堂大学の鈴木紀子准教授の研究をはじめ、多くの研究が、歯周病が早産や低出生体重児のリスクを高めることを指摘しており、口腔ケアが母子の健康を守る上で極めて重要であることを示しています19

つわり中の歯磨きの工夫

つわりで歯磨きが辛いと感じる妊婦さんは少なくありません。しかし、口腔ケアを怠るわけにはいきません。以下のような工夫で、無理なくケアを続けましょう。

  • タイミングを選ぶ: 「食後すぐ」にこだわらず、ご自身の体調が良い時間帯を見つけて歯磨きをしましょう30
  • 歯ブラシを工夫する: 歯ブラシのヘッド(ブラシ部分)ができるだけ小さいものを選ぶと、嘔吐感を刺激しにくくなります30
  • 姿勢を工夫する: 顔を下に向け、唾液が喉の奥に流れ込まないように意識しながら磨くと、吐き気を抑えやすくなります30
  • 歯磨き粉を見直す: 香料や発泡成分の少ない、または無香料の歯磨き粉を試してみましょう30
  • うがいだけでも効果あり: どうしても歯ブラシを口に入れるのが難しい場合は、食後に水やお茶で口をゆすぐだけでも、食べかすを洗い流す効果があります27

安全な歯科受診のタイミングと伝え方

妊娠中に虫歯や歯周病の治療が必要になった場合、最も安全な時期は、つわりが落ち着き体調が安定する妊娠中期(16週~27週頃)とされています24。歯科医院を受診する際は、安全な治療計画(麻酔の種類やレントゲン撮影の要否など)を立ててもらうために、必ず「妊娠していること」と「現在の妊娠週数」を正確に伝えてください4

2. デリケートゾーンケア:おりもの増加とカンジダ腟炎への対策

妊娠中、おりものの量の変化に戸惑う方は少なくありません。これは多くの妊婦さんが経験する自然な変化ですが、正しい知識を持ってケアすることが不快感の軽減と感染症の予防に繋がります。

おりもの増加の原因と正常な変化

妊娠中はエストロゲンなどのホルモンの影響で、子宮頸管や腟からの分泌物が増加します。これは、腟内を潤して清潔に保ち、外部からの細菌の侵入を防ぐための身体の防御機能の一つです。したがって、色が透明や白っぽく、特に強い臭いがなければ、量が増えても生理的な変化であり、過度に心配する必要はありません6

カンジダ腟炎の予防とセルフケア

妊娠中はホルモンバランスの変化と免疫力の低下により、腟内の常在菌であるカンジダ菌が異常に増殖し、「カンジダ腟炎」を発症しやすくなります28。かゆみやカッテージチーズ状のおりものといった不快な症状を防ぐため、以下のセルフケアを心がけましょう。

  • 通気性を保つ: 締め付けの強い下着や化学繊維のものは避け、通気性の良い綿素材の下着を選びましょう6
  • 清潔を維持する: 汗をかいたり、おりもので下着が濡れたりした場合は、こまめに着替えることが大切です28
  • おりものシートの適切な使用: おりものシートは便利ですが、常用すると蒸れの原因となり、かえって菌の繁殖を招くことがあります。日本助産師会も、使用する場合はこまめな交換を推奨しています21

正しい洗浄方法

デリケートゾーンの清潔を保とうとするあまり、洗いすぎてしまうのは逆効果です。石鹸でゴシゴシ洗ったり、ビデで腟内まで洗浄したりすると、腟の自浄作用を担う善玉菌まで洗い流してしまい、感染症のリスクを高めてしまいます28。洗浄は外陰部のみにとどめ、デリケートゾーン専用の低刺激・弱酸性の洗浄料をよく泡立て、指の腹を使って優しく洗うようにしましょう。洗浄後は、清潔なタオルで優しく水分を拭き取ります。

医療機関を受診すべきサイン

もし、おりものが「カッテージチーズ状」や「ポロポロした塊状」になったり、色が「黄緑色」をしていたり、強いかゆみや魚が腐ったような悪臭を伴う場合は、カンジダ腟炎や細菌性腟症などの可能性があります。自己判断で市販薬を使用せず、速やかにかかりつけの産婦人科を受診してください21

3. 入浴と身体の清潔:安全な入浴法と注意点

一日の終わりに湯船に浸かることは、日本人にとって大きなリラックスタイムです。妊娠中も、いくつかの注意点を守れば、安全に入浴のメリットを享受することができます。

入浴のメリット

身体を温めることで血行が促進され、筋肉がリラックスするため、妊娠中に起こりがちな腰痛や足のむくみの緩和に繋がります。また、精神的なリフレッシュ効果も期待できます25

安全な入浴の絶対ルール

多くの自治体や専門機関が、妊婦の安全な入浴のために以下の点を指導しています。

  • 適切な湯温: 42℃以上の熱いお湯は、血圧の急激な変動を招き、のぼせや立ちくらみの原因となります。38℃~41℃程度のぬるめのお湯にしましょう25
  • 適切な時間: 長時間の入浴は脱水や疲労に繋がります。10分程度を目安にし、長湯は避けましょう25
  • 清潔なお湯: 感染予防の観点から、雑菌が繁殖しにくい一番風呂など、清潔なお湯を使用することが望ましいです。ただし、産後1ヶ月検診で医師の許可が出るまでは、悪露(おろ)による子宮への感染リスクを避けるため、浴槽には浸からずシャワー浴が基本となります21
  • 転倒防止策の徹底: 妊娠中の家庭内事故で最も注意すべきは転倒です。お腹が大きくなると足元が見えにくくなり、身体の重心も不安定になります。松戸市などの自治体も注意喚起しているように、浴室には滑り止めマットを敷く、手すりを設置する、浴槽をまたぐ際は壁や手すりに捕まるなど、具体的な転倒防止策を徹底してください1

温泉・公衆浴場の利用について

2014年の温泉法改正により、妊娠は温泉入浴の禁忌事項から削除されました。しかし、不特定多数の人が利用することによる感染症のリスクや、床が滑りやすいことによる転倒のリスクは依然として残ります。利用を検討する場合は、衛生管理が徹底された施設を選び、体調が安定している妊娠中期に留めるのが賢明です。転倒のリスクが高まる妊娠後期や臨月は、避けることを強く推奨します25

【徹底解説】妊娠中の安全なスキンケア:成分の選び方と使い方

妊娠中は肌が敏感になり、これまで使っていた化粧品が合わなくなることも少なくありません。ここでは、専門家の見解23に基づき、どの成分を避け、どの成分を選べば良いのかを具体的に解説します。ご自身のスキンケア製品を選ぶ際の確かな指針としてご活用ください。

妊娠中の肌の変化の科学

前述の通り、妊娠中はホルモンの影響で皮脂分泌が活発になりニキビができやすくなる一方で、肌のバリア機能が低下し、水分が蒸発しやすく乾燥しがちになります5。また、メラノサイト(色素細胞)を刺激するホルモンの影響で、シミやそばかす、特に頬骨のあたりに左右対称に広がる「肝斑(かんぱん)」ができやすい状態になります5。これらの変化に対応するためには、保湿と紫外線対策を基本としつつ、使用する成分を慎重に選ぶ必要があります。

【表】妊娠中に避けるべきスキンケア成分と安全な代替成分

以下の表は、米国の著名な皮膚科医であるAva Shamban医師やAlexandra Boles医師などの専門家の見解23を基に、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が作成したものです。製品の成分表示を確認する際にお役立てください。

成分カテゴリ 避けるべき成分(具体的な成分名) 避けるべき理由(胎児へのリスク) 安全な代替成分
ビタミンA誘導体 レチノール, トレチノイン, アダパレン, パルミチン酸レチニル 経口薬(飲み薬)で胎児の奇形を引き起こすリスクが確立されており、外用薬(塗り薬)も皮膚から吸収されるため、妊娠中の安全性は確立されていません23 バクチオール(植物由来でレチノール様の効果が期待される成分)23, ナイアシンアミド
角質除去成分 サリチル酸(BHA)※高濃度、広範囲での使用 高用量を広範囲に使用した場合、皮膚から吸収され、胎児への影響が懸念されます。市販の洗顔料などに低濃度で含まれる程度ならリスクは低いとされますが、高濃度のピーリング製品などは避けるべきです23 アゼライン酸, 乳酸(AHA), グリコール酸(AHA) ※いずれも低濃度で使用23
美白成分 ハイドロキノン 全身への吸収率が他の成分と比較して高く(約35~45%)、妊娠中の安全性が確立されていないため、使用は推奨されません23 ビタミンC誘導体, ナイアシンアミド, アゼライン酸23
その他 特定のエッセンシャルオイル(ローズマリー、セージ、ジャスミン等), 化学的紫外線吸収剤(オキシベンゾン等) 一部のエッセンシャルオイルには子宮収縮を誘発する可能性が指摘されています。また、オキシベンゾンなどの一部の化学的紫外線吸収剤には内分泌かく乱作用(ホルモンへの影響)が懸念されています23 ミネラル(物理的)紫外線散乱剤(酸化亜鉛, 酸化チタン)23

保湿と紫外線対策の重要性

妊娠線(ストレッチマーク)は、急激な体重増加によって皮膚が引き伸ばされ、真皮層が断裂することで生じます。肌が乾燥していると皮膚の柔軟性が失われ、よりできやすくなるため、徹底した保湿ケアが予防の鍵となります26。セラミドやヒアルロン酸、ワセリンなど、シンプルで刺激の少ない保湿剤で、お腹だけでなく、バスト、お尻、太ももなど、変化の大きい部分を毎日ケアしましょう。また、ホルモンの影響でシミができやすい状態にあるため、紫外線対策は必須です。肌への負担が少ないノンケミカル処方(物理的散乱剤である酸化亜鉛や酸化チタンを使用)の日焼け止めを選び、毎日塗ることを習慣にしてください5

感染症から母子を守る:食品衛生と生活習慣

妊娠中は免疫機能が低下するため、普段なら問題にならないような食中毒菌でも、母体や胎児に深刻な影響を及ぼすことがあります。ここでは、特に注意が必要な感染症と、それを防ぐための具体的な方法を解説します。

【表】妊娠中に特に注意すべき食中毒と予防策

食品安全委員会12および米国疾病予防管理センター(CDC)14などの国内外の権威ある機関のガイドラインに基づき、特にリスクの高い食中毒についてまとめました。

感染症名 原因菌/寄生虫 主なリスク食品 具体的な予防策
リステリア症 リステリア菌 加熱殺菌されていないナチュラルチーズ(カマンベール、ブリー等)、生ハム、スモークサーモン、肉や魚のパテ、コールスローなどのデリ惣菜 「中心部まで十分に加熱する」ことが唯一確実な予防策です。リステリア菌は低温でも増殖できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。食べる直前に中心部が75℃で1分以上(またはそれに準ずる温度と時間)になるよう、しっかりと加熱してください12
トキソプラズマ症 トキソプラズマ原虫 加熱不十分な肉(特に豚、羊、鹿の肉。レアステーキやユッケなど)、猫の糞、汚染された土壌や水 肉は中心の色が変わるまでしっかり加熱します。生野菜や果物は食べる前によく洗いましょう。ガーデニングや土いじり、猫のトイレの掃除をする際は必ず手袋を着用し、作業後は石鹸で徹底的に手を洗うことが重要です。可能であれば、これらの作業はパートナーに頼むのが最も安全です12

一般的な感染予防の基本

食中毒だけでなく、様々な感染症から身を守るために、厚生労働省7や日本助産師会11は以下の基本行動を推奨しています。

  • 手洗い: 外出から帰宅した際、調理や食事の前、トイレの後、動物を触った後など、こまめに石鹸と流水で手を洗うことが、最も簡単で効果的な予防策です。
  • 人混みを避ける: 特に感染症が流行している時期は、不要不急の外出や人混みを避けるようにしましょう。
  • 共有を避ける: 家族間であっても、食器やタオル、歯ブラシなどの共有は感染のリスクを高めるため避けましょう。

ペットとの安全な関わり方

ペットは大切な家族の一員ですが、感染症のリスクを正しく知っておく必要があります。特にトキソプラズマ症の主な感染源となる猫の糞には注意が必要です。猫のトイレの掃除は、可能な限りパートナーなど他の家族に頼みましょう。ご自身で行う場合は、必ず使い捨ての手袋を着用し、作業後は石鹸で念入りに手を洗ってください。また、猫に限らず、動物を触った後や屋外から帰宅した際の手洗いを徹底することが重要です12

よくある質問

妊娠中にパーマやヘアカラーをしても大丈夫?
現在までのところ、パーマ液やカラー剤に含まれる化学物質が皮膚から吸収され、お腹の赤ちゃんに直接影響を及ぼすという明確な科学的根拠を示す報告はありません。しかし、妊娠中は皮膚が非常に敏感になっており、これまで問題なかった薬剤でかぶれてしまう可能性があります。また、薬剤の匂いや長時間の同じ姿勢がつわりを悪化させることも考えられます。そのため、多くの専門家は、体調が安定する妊娠中期以降に行い、施術前には美容師に妊娠中であることを伝え、換気の良い環境で施術を受けることを推奨しています27
おりものシートは毎日使ってもいいですか?
日本助産師会などは、おりものシートの常用を必ずしも推奨していません21。おりものシートは下着の汚れを防ぐのに便利ですが、長時間同じものを使用し続けるとデリケートゾーンが蒸れやすくなり、雑菌が繁殖しやすい環境を作ってしまいます。これがカンジダ腟炎などの感染症のリスクを高める可能性があります。基本的には通気性の良い綿素材の下着を着用し、おりもので濡れたと感じたら、下着そのものをこまめに替えるのが最も衛生的です。シートを使用する場合は、交換を頻繁に行うようにしてください。
妊娠線予防クリームは本当に効果がありますか?
残念ながら、塗るだけで妊娠線を「完全に防ぐ」ことを科学的に保証されたクリームは存在しません。妊娠線は、急激な体重増加などでお腹が大きくなる際に、皮膚の真皮層が伸びに耐えきれず断裂してしまうことが主な原因です。しかし、肌が乾燥していると皮膚の柔軟性が失われ、より断裂しやすくなることも事実です。したがって、専用のクリームやオイルで毎日しっかりと保湿ケアを行うことは、皮膚の柔軟性を保ち、妊娠線ができにくくする、あるいはできてしまった跡を目立たなくするために重要であると考えられています26

結論

妊娠中のパーソナルケアは、単なる美容や身だしなみの問題ではなく、母体と胎児の健康を直接守るための重要な医療行為の一部です。ホルモンバランスの変化や免疫機能の調整といった身体の根本的な変化を理解し、科学的根拠に基づいた正しいケアを実践することが、様々なリスクを回避し、健やかで安心なマタニティライフを送るための鍵となります。口腔ケアが早産リスクの低減に繋がり、スキンケア成分の選択が胎児の安全に関わり、日々の手洗いや食品衛生が深刻な感染症を防ぎます。この記事で提供した情報が、ご自身の身体と向き合い、自信を持って日々のケアを選択するための一助となることを願っています。最も大切なことは、不安や異常を感じた際に一人で抱え込まず、自己判断をせずに、かかりつけの産婦人科医や助産師といった専門家に速やかに相談することです。専門家との信頼関係のもと、心穏やかな毎日をお過ごしください。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  28. 妊娠中のおりものの変化とは?デリケートゾーンケアのポイント…. 持田ヘルスケア. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://hc.mochida.co.jp/skincare/delicate/delicate6.html
  29. 妊娠を希望する方や妊娠中に気をつけたい感染症について – 大阪市. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000192263.html
  30. 妊娠中の口腔ケア – 松江市. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://www.city.matsue.lg.jp/soshikikarasagasu/kosodatebu_kodomokateisiennka/kosodateshien/shokuikuhaiku/15163.html
  31. 妊娠中の日常生活[妊娠中の過ごし方] | 妊娠・出産期 | 岩手県子育て応援ポータルサイト【いわて子育てiらんど】. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: http://www5.pref.iwate.jp/~hp0359/ninshin/page03.html
  32. 快適マタニティライフのために!妊娠中のデリケートゾーンケア―『妊娠中に必要な“フェムケア”って?』 – たかくらとくらす Takakura. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://takakura.co.jp/note/femcare-pregnancy/
  33. 妊娠中でも安全なスキンケア成分 – amperna. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://amperna.com/ja-jp/blogs/news/pregnancy-safe-skincare-alternatives
  34. 妊娠中に安全なスキンケア:使用すべき製品に関する専門家のアドバイス – Zicail. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. 入手先: https://www.zicail.com/ja/%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%AA%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%82%A2/
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