赤ちゃんのBCG接種：いつ、なぜ必要？知っておくべき全情報【医師監修】

BCGワクチンとは？結核から赤ちゃんを守る「はんこ注射」

BCGワクチンは、一般に「はんこ注射」として知られ、結核菌の毒性を弱めて作られた生ワクチンです。このワクチンは、乳幼児を重篤な結核から守ることを主な目的としています。

予防できる病気：重症化しやすい乳幼児の結核

BCGワクチンが予防する病気は結核です。結核菌によって引き起こされるこの感染症は、主に肺を侵しますが、脳、骨、腎臓など、体のあらゆる臓器に影響を及ぼす可能性があります¹。特に免疫システムが未発達な乳幼児が感染すると、結核菌が血流に乗って全身に広がる「粟粒結核」や、脳を覆う膜が感染する「結核性髄膜炎」といった、命を落としたり、重い後遺症を残したりする可能性のある深刻な病態に進展しやすいのです³。BCGワクチンは、これらの重症型の結核に対して特に高い予防効果を持つことが科学的に証明されています。

BCGワクチンの効果と持続期間

厚生労働省のデータによると、BCGワクチンは乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核といった重症結核の発症危険性を64%から78%減少させます¹。これは、BCGの最も重要な価値と言えるでしょう。また、結核全体の発症も約52%から74%抑える効果があると報告されています¹。国際的な大規模研究もこの知見を支持しており、2022年に医学雑誌『ランセット』に掲載されたあるメタアナリシスでは、BCGワクチンが5歳未満の小児における結核発症リスクを37%有意に減少させることが示されました¹⁹。日本の保健機関によれば、一度の接種で得られる免疫の持続期間は、およそ10年から15年とされており、子どもが最も感染しやすい幼少期から思春期にかけて、重要な保護を提供します¹。

BCG接種の最適な時期はいつ？【2025年最新ガイドライン】

BCGの接種時期は、最大の予防効果と最小限の副反応リスクを両立させるために、科学的根拠に基づいて慎重に決定されています。

国が推奨する標準的な接種期間：生後5か月から8か月

現在、日本政府が公式に推奨しているBCG接種の「標準的な接種期間」は、生後5か月から8か月に達するまでの間です¹。この時期は、乳児が他の病原体に接触する機会が増える前に、結核に対する免疫を効果的に確立するための「黄金の窓」と考えられています。

なぜ「生後5か月以降」が推奨されるのか？骨炎リスクとの関連

生後5か月以降の接種が推奨される主な理由は、安全性への配慮です。2005年に接種時期が早められた後、まれな副反応であるBCGによる骨炎・骨髄炎の報告が増加傾向にあることが確認されました（2001-2004年の年平均1.25件に対し、2005-2011年は年平均4.14件）¹²。厚生労働省は、接種時期の早期化と骨炎増加との直接的な因果関係は明確ではないとしつつも、乳児の免疫系が未熟な段階で生ワクチンを接種することが、このリスクの一因である可能性を否定できないと判断しました¹²。このため、「予防原則」に基づき、赤ちゃんの免疫系がより成熟する生後5か月以降に接種時期を遅らせることで、潜在的なリスクを最小限に抑えるという、子どもの安全を最優先する慎重な措置が取られています。

地域による違い：お住まいの市町村の情報を確認しましょう

日本のBCG接種方針は、全国一律ではありません。結核の罹患率が高い地域では、地方自治体が早期の接種を推奨することがあります。例えば、全国平均よりも罹患率が高い神戸市では、子どもをより早く守るために、生後3か月から7か月の間に接種するよう推奨しています¹⁷。したがって、保護者の皆様は、お住まいの市町村から提供される公式の通知やガイダンスを必ず確認することが非常に重要です。

1歳までに接種できなかった場合

重い病気にかかっていた、あるいは免疫を抑制する治療を受けていたなど、特別な医学的理由で1歳までにBCGを接種できなかった場合、法律では定期接種（無料）の期間を延長することが認められています。原因となった医学的状態が解消されれば、4歳の誕生日の前日まで接種が可能です³。

BCG接種のスケジュール：他のワクチンとの兼ね合い

乳児期の過密な予防接種スケジュールの中で、BCG接種をどこに組み込むかは慎重な計画が必要です。

BCGと他のワクチンの接種間隔

BCGは注射生ワクチンに分類されます。日本の規則では、BCGや麻しん・風しん（MR）混合ワクチンなどの注射生ワクチンを接種した後は、次の注射生ワクチンを接種するまでに少なくとも27日以上の間隔をあける必要があります⁸。一方で、BCGと五種混合や肺炎球菌などの不活化ワクチン、あるいはロタウイルスのような経口生ワクチンとの間には、接種間隔の規定はありません⁸。

同時接種は可能か？

医学的には、医師が必要かつ適切と判断した場合、BCGは他のワクチンと同じ日に同時に接種することが可能です⁹。これにより、保護者と赤ちゃんの通院回数を減らすことができます。ただし、一部の地域ではBCGが集団接種形式で実施されるため、同時接種が難しい場合もあります。この選択肢については、かかりつけの医師や地域の保健センターに相談することをお勧めします⁹。

0歳児の予防接種モデルスケジュール

以下は、保護者の方が参考にできる予防接種スケジュールの一例です。BCG接種の位置づけを確認できます。

注意：これはあくまで参考スケジュールです。使用するワクチンの種類や、医師・自治体の指導によって変わることがあります³⁸。

BCG接種を受ける前に：対象者と注意事項

接種を受けられない方（禁忌）

以下のいずれかに該当するお子さんは、BCGワクチンを接種できません¹。

• BCGワクチンの成分に対して、アナフィラキシー（重篤なアレルギー反応）を起こしたことがある。
• ケロイド体質であることが明らかな場合。
• 先天性免疫不全症と診断されている、または免疫を抑制する治療を受けている。
• 過去に結核にかかったことがある。
• 現在、高熱がある、または重篤な急性疾患にかかっている。

接種に注意が必要な方

接種前に医師と十分に相談する必要があるのは、以下のような状態のお子さんです¹。

• 心臓、腎臓、肝臓などに慢性の病気がある。
• 過去の予防接種で、2日以内に発熱や全身性の発疹などのアレルギーが疑われる症状が出たことがある。
• けいれんを起こしたことがある。
• 家族に先天性免疫不全症と診断された人がいる。
• 結核患者との長期的な接触がある、または結核感染が疑われる。

BCG接種当日と接種後のケア

接種方法：「管針法」によるスタンプ注射

BCGワクチンは、「管針法」と呼ばれる特殊な技術で接種されます。これは、9本の針がついたスタンプ状の器具を上腕の外側に2回強く押しつけて、合計18個の針の跡を作る方法です⁵。

接種後の注意点：乾燥、入浴、運動について

• 乾燥：接種後、接種部位を日陰で10～15分ほど自然に乾かす必要があります。触ったり、すぐに衣服を着せたり、拭き取ったりしないでください²。
• 入浴：接種当日の入浴は可能ですが、接種部位を強くこすったり、掻いたりすることは避けてください⁵。
• 運動：当日は激しい運動や水泳は控えるのが賢明です⁵。
• 日光：BCGワクチンは光や熱に弱いため、接種部位が直射日光に当たらないように注意してください²。

接種後の反応：正常な経過と注意すべきサイン

接種後の反応を正しく理解することは、保護者が適切に対応し、不必要な不安を避けるために極めて重要です。

正常な皮膚の変化：いつ、どのように現れるか

BCGによる免疫形成の過程は、特徴的な皮膚の変化として現れます。通常、接種後10日から4週間ほどで針の跡が赤くポツポツと現れます。この反応は接種後約4週間で最も強くなり、一部に膿を持つこともあります。その後は徐々に乾いてかさぶたとなり、3か月後までには自然に剥がれ落ち、最終的に特徴的な小さな瘢痕が残ります。これは全て正常な経過です³。

コッホ現象とは？早期発見と対応の重要性

コッホ現象とは、BCGワクチンを接種する前にすでに結核菌に感染している子どもに起こる、早期の強い免疫反応です²⁷。これはワクチンの副反応ではなく、体がすでに結核菌を「知っている」というしるしです。接種後わずか数日以内に、接種部位が通常よりもはるかに強く赤く腫れ、化膿が見られる場合、コッホ現象の可能性があります。この兆候が見られたら、必要に応じて適切な診断と治療を受けるため、直ちに接種した医療機関を受診することが極めて重要です⁹。

その他の副反応：リンパ節の腫れなど

局所反応以外で最も一般的な副反応は、接種した側の腋窩リンパ節の腫れです。これは接種を受けた子どもの1%未満にみられます。ほとんどの場合は軽度で自然に治まりますが、リンパ節が著しく大きく（例えば大豆大以上）なったり、痛みを伴ったり、化膿の兆候が見られたりした場合は、医師の診察を受ける必要があります¹。

よくある質問

結論

BCGワクチンは、日本の予防接種プログラムの重要な一部であり、乳幼児を危険な結核から守る強固な盾としての役割を果たしています。標準期間である生後5か月から8か月の間に正しく接種を受けることが、安全性と効果を最大限に引き出すための最善の方法です。接種後の正常な反応、副反応、そしてコッホ現象の違いを理解することは、保護者の皆様がお子さんを最善の方法でケアする上で助けとなります。いかなる疑問や懸念も、かかりつけの小児科医や地域の医療専門家と率直に話し合うことを忘れないでください。