1歳8ヶ月(生後20ヶ月)の発達のすべて:【小児科医監修】身体・言葉・心の成長とチェックリスト
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1歳8ヶ月(生後20ヶ月)の発達のすべて:【小児科医監修】身体・言葉・心の成長とチェックリスト

生後20ヶ月、つまり1歳8ヶ月という時期は、子どもの成長において非常に大きな節目です。昨日まで赤ちゃんだったわが子が、はっきりと自分の意思を持ち、ダイナミックに動き回り、言葉で世界と関わり始める姿に、驚きと喜びを感じる保護者の方は多いでしょう1。その一方で、自己主張が強くなる「いやいや期」の始まりや、食事、言葉の発達に関する悩みなど、新たな課題に直面する時期でもあります2。この記事では、1歳8ヶ月の子どもの発達について、保護者の方が知りたい情報を網羅的かつ正確に解説します。内容は、こども家庭庁が発表した最新の公式データである令和5年「乳幼児身体発育調査」や、日本小児科学会、国立成育医療研究センターなどの専門機関が公表するガイドラインに基づいています4。本稿は小児科専門医の監修のもと、身体、心と知性、そして日常生活での具体的なお悩み解決法から、事故予防や健康管理といった重要な情報まで、5つの柱で構成されています。この記事を通して、保護者の皆様が1歳8ヶ月というかけがえのない時期の子育てを、より深く理解し、自信を持って楽しむための一助となることを目指します。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性が含まれています。

  • こども家庭庁: この記事における身長・体重の目安に関する記述は、こども家庭庁が公表した令和5年「乳幼児身体発育調査」の結果に基づいています478
  • 国立成育医療研究センター: 1歳6か月児健康診査で確認される発達の目安(特に運動機能、言語理解、社会性)に関する記述は、同センター作成の「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」を重要な参考資料としています5
  • 日本小児科学会: 1歳代で推奨される予防接種のスケジュール、および子どもの窒息事故予防に関する注意喚起は、同学会が公表する提言やガイドラインに基づいています615
  • 厚生労働省: 言葉の発達や食事に関する悩みへの対応策は、厚生労働省が示す「授乳・離乳の支援ガイド」や「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド」の考え方を参考にしています313
  • 米国疾病予防管理センター (CDC): 国際的な発達のマイルストーンとの比較参照として、CDCが公表する2歳児までの発達指標を参考にしています16

要点まとめ

  • 身体的成長: 令和5年の最新公式データによると、1歳8ヶ月児の中央値は男子で身長82.1cm・体重10.84kg、女子で身長81.0cm・体重10.30kgです8。個人差が大きいため、成長曲線に沿った伸びが重要です。
  • 運動能力: 安定して歩き、小走りを始めます。階段を一人で登ったり、ボールを蹴ったり、積み木を2〜3個積んだりする動きが見られます15
  • 言葉の発達: 「パパ すき」のような二語文が出始める子もいます。言葉を話すより理解が先行し、「おもちゃをちょうだい」といった簡単な指示に従えます9
  • 心と社会性: 自我の芽生えにより「自分でやりたい」という欲求が強くなり、「いやいや期」が本格化します。他方で、ごっこ遊びを始めたり、他児への共感を示したりします23
  • 生活上の注意点: 「遊び食べ」や「食べムラ」には、環境整備や生活リズムの見直しが有効です。癇癪には、まず安全を確保し、子どもの気持ちを言葉で代弁してあげることが大切です9
  • 安全対策: 窒息、溺水、やけど、転落が最も多い事故です。トイレットペーパーの芯を通るサイズのものは全て手の届かない場所へ。浴槽の残り湯は必ず抜きましょう1
  • 健康管理: 1歳6か月児健診は発達を確認する重要な機会です。MR、水痘、肺炎球菌などの予防接種を計画的に進めましょう56

第1章:1歳8ヶ月の身体の発達と運動能力

この時期の子どもの身体は、目覚ましい成長を遂げます。特に運動能力の向上は著しく、行動範囲が一気に広がるのが特徴です。ここでは、最新の公式データに基づいた身体発育の目安と、具体的な運動能力の発達について解説します。

1.1. 最新データで見る!身長と体重の目安

子どもの成長を客観的に把握する上で、身長と体重は重要な指標です。ただし、成長には大きな個人差があることを理解し、平均値や中央値はあくまで目安として捉えることが大切です3。ここで示すデータは、日本の乳幼児の発育に関する最も権威ある情報源である、こども家庭庁が2024年に公表した令和5年「乳幼児身体発育調査」に基づいています4。この調査は、これまでの厚生労働省による平成22年調査に代わる最新の公式データであり、本記事ではこの最も新しい情報を提供します。古い情報源では平成22年のデータが引用されている場合がありますが、より正確な現状を反映したこちらの数値をご参照ください1
パーセンタイル値とは、同じ性別・月齢の子どもを100人集めたときに、小さい方から数えて何番目になるかを示す数値です。例えば「50パーセンタイル」は中央値(平均的な値)を意味し、「3パーセンタイル」は100人中3番目に小さい値、「97パーセンタイル」は100人中97番目(大きい方から3番目)の値であることを示します。

表1:1歳6ヶ月~2歳未満の身体発育値(令和5年乳幼児身体発育調査)

性別 項目 3パーセンタイル 10パーセンタイル 25パーセンタイル 50パーセンタイル (中央値) 75パーセンタイル 90パーセンタイル 97パーセンタイル
男子 身長 (cm) 76.7 78.5 80.2 82.1 84.0 85.6 87.2
体重 (kg) 8.93 9.53 10.15 10.84 11.55 12.19 12.84
女子 身長 (cm) 75.6 77.4 79.1 81.0 82.9 84.6 86.2
体重 (kg) 8.50 9.04 9.62 10.30 11.03 11.71 12.43

出典: こども家庭庁 令和5年乳幼児身体発育調査8

この表の範囲から大きく外れている場合でも、その子なりのペースで成長曲線に沿って伸びていれば、過度に心配する必要はありません。しかし、急激な体重の増減や成長の停滞など、気になる点があれば、かかりつけの小児科医や地域保健センターに相談しましょう。

1.2. 動きがダイナミックに!運動能力チェックリスト

1歳8ヶ月頃になると、足腰の筋力がつき下半身が安定するため、歩き方がスムーズになり、動きが格段に活発になります2。日本の多くの育児情報サイトがこの時期の特徴を「動きがダイナミックになる」と表現していることからも、その変化の大きさがうかがえます1。この喜ばしい成長は、同時に新たな危険への備えが必要になることも意味します。この関連性を念頭に置きながら、以下のチェックリストで子どもの発達を確認してみましょう。

  • 歩く・走る (Walking/Running): 誰かや何かに捕まらなくても、安定して歩けます。歩くだけでなく、小走りができるようになる子が増えます1。歩行時の腕の振りが、肩より高い位置(ハイガード)から腰のあたり(ミドルガード)、そして自然に下に降りた状態(ローガード)へと成熟していきます5
  • 登る・ジャンプする (Climbing/Jumping): 階段を一人で登れるようになります。ただし、まだ上り下りは不安定で、バランスを崩しやすいため注意が必要です1。手すりなどを使ったり、手伝いがあったりすれば、数段の階段を歩いて(這うのではなく)上ることができます。その場でジャンプのような動きを見せる子も出てきます2
  • ボール遊び (Playing with Balls): ボールを蹴ることができるようになります。両手でボールを持ち、投げることができます2
  • 手先の器用さ (Fine Motor Skills): 積み木を2〜3個、積むことができます5。これは、1歳6か月児健康診査でも確認される巧緻運動(手先の器用さ)の重要な指標です5。クレヨンなどでなぐり書き(スクリブル)をします。スプーンを使って自分で食べようとします。まだこぼすことも多いですが、道具を使う意欲が見られます。容器の蓋を開けるなど、片手で物を持ちながらもう片方の手で操作することができます。

これらの運動能力の発達は、子どもが自分の身体をコントロールする喜びを学び、世界を探索するための重要なステップです。保護者はその成長を喜びつつも、このダイナミックな動きがもたらす新たな危険(転落、衝突など)を予測し、安全な環境を整えることが不可欠です。具体的な安全対策については、第4章で詳しく解説します。

第2章:心と知性の発達:言葉、遊び、社会性

1歳8ヶ月は、身体だけでなく、内面の世界も爆発的に成長する時期です。言葉でコミュニケーションを取り始め、想像力を働かせた遊びに夢中になり、そして「自分」という存在を強く意識し始めます。

2.1. 言葉の世界が広がる

この時期の言語発達は、多くの保護者が最も関心を寄せる分野の一つです。言葉の数だけでなく、その使い方にも大きな変化が見られます。

  • 二語文の始まり: 多くの子どもが、「ママ」「パパ」「ワンワン(犬)」「ブーブー(車)」といった意味を持つ単語(一語文)をいくつか話せるようになります1。そして、発達の早い子では、これらの単語を組み合わせた「二語文」が出始めます3。例えば、「パパ すき(パパが好き)」「ママ きて(ママが来て)」「ワンワン いた(犬がいた)」といった、2つの単語で構成される簡単な文章です9
  • 言葉の理解が先行する: 言葉を話す(表出する)能力よりも、言葉を理解する能力の方が先に発達します。この時期の子どもは、大人の言うことを驚くほど理解しています。例えば、身振り手振りがなくても「そのおもちゃをちょうだい」といった簡単な指示に従うことができます5。また、絵本を見ながら「ワンワンはどれ?」と聞くと、犬の絵を指さす「応答の指差し」ができるようになります5。これは、言葉と物が結びついている証拠であり、1歳6か月児健康診査でも重要視される発達のサインです5

保護者のよくある悩みと専門家からのアドバイス:

「うちの子はまだあまり話さない」「周りの子と比べて言葉が遅いのでは?」といった心配は、この時期の保護者が抱える最も一般的な不安の一つです3。実際、言葉の発達には非常に大きな個人差があります。大切なのは、話す言葉の数だけで判断しないことです。言葉はあまり出なくても、大人の言うことを理解している、指差しや身振りで意思を伝えようとしている、といった様子が見られれば、コミュニケーションの基礎は育っていると考えられます3

専門家に相談を検討する目安

ただし、以下のようなサインが見られる場合は、一人で抱え込まず、かかりつけの小児科医や地域の保健センター、子育て支援センターに相談することをお勧めします。これは「異常」を決めつけるためではなく、子どもの発達を専門家の視点から確認し、必要であれば早期のサポートにつなげるための前向きなステップです。

  • 意味のある言葉が全くない、あるいは1〜2語程度しか見られない5
  • 名前を呼んでも視線が合わない、または振り向かない5
  • 「〇〇はどれ?」と聞いても指差しで答えようとしない(応答の指差しが見られない)5
  • 「おもちゃをどうぞして」などの簡単な言葉の指示が通らない5

2.2. ごっこ遊びと想像力

1歳8ヶ月頃から、子どもの遊びに質的な変化が現れます。それは「ごっこ遊び(ふり遊び)」や「見立て遊び」の始まりです1

  • 想像力の芽生え: 積み木を車に見立てて「ブーブー」と言いながら走らせたり、人形にご飯を食べさせる真似をして「どうぞ」と言ったり。目の前にないものをあるかのように想像し、身近なものを別の何かに見立てて遊ぶようになります1。これは、物事を抽象的に捉える認知能力が発達してきた証拠です。
  • ごっこ遊びが育む力: このごっこ遊びは、単なるお遊びではありません。子どもの発達にとって非常に重要な役割を果たします1。想像力や創造性、コミュニケーション能力、そして他者の役割や気持ちを理解しようとする社会性の発達を促します。
  • 保護者の関わり方のポイント: 子どものごっこ遊びを豊かにするために、大人の関わりは非常に効果的です。「あら、おいしいね」「次は何を買いましょうか?」など、遊びの場面に合った言葉をかけることで、子どもの想像力はさらに広がり、コミュニケーションの楽しさを学ぶことができます1

2.3. 「自分」の芽生え:社会性と心の発達

この時期は、子どもが「自分」という存在をはっきりと意識し始める「自我の芽生え」の季節です3。この内面的な大きな変化が、社会性や感情の表現に様々な形で現れます。

  • 自己主張と「いやいや期」: 「自分でやりたい!」という強い欲求が生まれます。服を自分で着ようとしたり、靴を自分で履こうとしたり、大人の手を借りることを嫌がることが増えます。これは反抗ではなく、自立心の発達を示す健全なサインです2。思い通りにいかずに癇癪を起したり、「イヤ!」と強く拒否したりする、いわゆる「いやいや期」もこの自己主張の現れです。保護者は、子どもの「やりたい気持ち」を尊重し、安全な範囲で見守り、挑戦させてあげることが大切です。
  • 他者への思いやりと社会性の発達: 自己中心的に見える一方で、他者への関心や共感の気持ちも芽生え始めます。他の子が泣いていると心配そうな顔をしたり2、新しい状況でどう反応すべきか保護者の顔をうかがう「社会的参照」という行動が見られたりします。人見知りが続く子もいますが、親が楽しそうに話している相手には少し心を開くなど、関係性を理解し始めます3

この時期の子どもは、「自分」と「他者」の関係性を学び始めたばかりです。保護者が子どもの気持ちを受け止め、共感し、社会のルールを根気強く教えていくことで、子どもの心は健やかに育っていきます。

第3章:1歳8ヶ月の「お悩み」解決ガイド

子どもの成長は喜びであると同時に、保護者にとっては新たな悩みの始まりでもあります。特に1歳8ヶ月頃に顕著になる「食事」と「癇癪」の問題は、多くの親が直面する課題です。ここでは、専門家のアドバイスに基づいた具体的な解決策を提案します。

3.1. 食事の悩み:「遊び食べ」「食べムラ」どうする?

これまでよく食べていた子が急に食べなくなったり、食事中に席を立って遊び始めたり。「遊び食べ」や「食べムラ」は、この時期の子どもの発達段階においてごく自然な行動です。食への興味よりも、動きたい、遊びたいという好奇心が勝ってしまうのです。叱りつけるのではなく、環境や関わり方を見直すことで改善できる場合があります。以下に、専門家が推奨する5つのステップを紹介します9

  1. ステップ1:食事に集中できる環境を整える
    子どもの興味を引くものが視界に入ると、食事への集中力は簡単に途切れてしまいます。食事の前にはテレビを消し、おもちゃや絵本は片付けて、子どもの視界に入らない場所にしまいましょう。食事は「食べることに集中する時間」というメリハリをつけることが大切です。
  2. ステップ2:生活リズムを見直し、お腹を空かせる
    「座って食べない」のは、そもそもお腹が空いていないからかもしれません。日中の活動量が足りているか、おやつの時間や量が適切かを見直してみましょう。食事の前に公園で体を動かすなど、空腹で食事時間を迎えられるように生活リズムを整えることが、食欲を促す最も効果的な方法です。
  3. ステップ3:「自分で食べたい」気持ちを尊重し、楽しさを演出する
    この時期の子どもは「自分でやりたい」意欲に満ちています。食事が進まないときは、スプーンやフォークでうまく食べられないことが原因の場合もあります。手づかみで食べられるおにぎりや野菜スティックなどの献立を取り入れましょう。汚されることは覚悟の上で、椅子の下にビニールシートや新聞紙を敷くなどの工夫をすれば、親の心理的負担も軽くなります。
  4. ステップ4:無理強いはせず、親の役割を明確にする
    嫌いなものを無理に食べさせるのは逆効果です。かえってその食材への嫌悪感を強めてしまいます13。保護者の役割は、栄養バランスの取れた食事を「提供する」こと。そして、それを食べるかどうか、どれだけ食べるかを「決める」のは子ども自身です。嫌いなものでも食卓には出し続け、家族がおいしそうに食べる姿を見せることで、いつか興味を持つ日が来るかもしれません。1日単位ではなく、1週間単位で栄養バランスを考えるくらいの、おおらかな気持ちで見守りましょう。
  5. ステップ5:食事の終わりを明確に告げる
    食べ物を投げたり、席を立って遊び続けたりするのは、「もうお腹がいっぱい」のサインかもしれません。その場合は、「ごちそうさまだね」と声をかけ、きっぱりと食事を片付けましょう。「まだ食べなさい!」と追いかけ回すのではなく、「食事はこれで終わり」というルールを一貫して示すことで、子どもは食事の時間と遊びの時間の区別を学んでいきます。

3.2. 癇癪(かんしゃく)への向き合い方

自分の思い通りにならないと、火がついたように泣き叫び、床に転がって手足をばたつかせる――。1歳半を過ぎた頃から見られる「癇癪(かんしゃく)」は、保護者を最も悩ませる行動の一つです。しかし、これは子どもの心が順調に成長している証でもあります。やりたいことがうまくできないもどかしさや、不快な気持ちを言葉でうまく表現できないために、感情が爆発してしまうのです。癇癪は、しつけの問題ではなく、コミュニケーションのズレと感情コントロールの未熟さが原因です。したがって、親の役割は罰することではなく、子どもの気持ちを翻訳し、感情の嵐が過ぎ去るのを安全に手伝ってあげることです。以下に、多くの専門家が推奨する4ステップの対応法を示します。

  1. ステップ1:安全を確保し、冷静に見守る
    まず最も重要なのは、子どもの安全を確保することです。頭をぶつけたり、物を投げたりする危険がない場所に移動させましょう。そして、保護者自身が冷静になることが不可欠です。感情的に怒鳴ったり、無理に泣き止ませようとしたりせず、子どものそばで静かに嵐が過ぎるのを待ちます。公共の場であれば、一旦その場を離れるのが賢明です。
  2. ステップ2:気持ちを言葉で代弁する
    少し落ち着いてきたら、子どもの気持ちを短い言葉で代弁してあげます。「これがやりたかったんだね」「うまくできなくて、悔しかったんだね」。子どもは自分の感情を「わかってもらえた」と感じることで、安心感を取り戻し始めます。この「感情のラベリング」は、子どもが自分の気持ちを理解し、コントロールする力を育む上で非常に重要です。
  3. ステップ3:共感し、抱きしめる
    言葉で気持ちを代弁した後は、優しく抱きしめてあげましょう。身体的な接触は、子どもの高ぶった神経を鎮め、安心感を与えるのに非常に効果的です。ただし、癇癪の原因となった要求(お菓子が欲しい、など)を安易にのむのは避けましょう。「怒れば要求が通る」と学習させてしまう可能性があります。共感はしますが、要求には屈しないという毅然とした態度が大切です。
  4. ステップ4:落ち着けたことを褒める
    完全に落ち着いたら、「自分で気持ちを落ち着けることができたね、えらいね」と、その行動自体を具体的に褒めてあげましょう。これにより、子どもは癇癪以外の方法で感情を処理する方法を学び、自己肯定感を育むことができます。
専門家への相談を検討するサイン

ほとんどの癇癪は成長の一過程ですが、癇癪が頻繁すぎる、自分の頭を壁に打ち付けるなどの自傷行為を伴う、年齢が上がっても改善が見られないといった場合は、発達上の課題が隠れている可能性も考えられます11。心配な場合は、小児科医や地域の専門機関に相談しましょう。

第4章:子どもの命を守る:事故予防と安全対策

運動能力が飛躍的に向上し、好奇心が旺盛になる1歳8ヶ月は、家庭内での思わぬ事故が最も増える時期の一つです。子どもはまだ危険を判断できません。事故は「起きてから」では遅く、「起こさせない」ための環境づくりが保護者の最も重要な責任です。ここでは、日本の専門機関が特に警鐘を鳴らす5つの危険とその対策を、具体的なチェックリスト形式で解説します1

窒息・誤飲 (Choking and Accidental Ingestion)

この時期の子どもは何でも口に入れて確かめようとします。窒息は命に直結する最も危険な事故です。

  • 食べ物: ピーナッツなどの硬い豆類、あめ、こんにゃくゼリーは窒息リスクが非常に高いため、日本小児科学会の提言に従い、3歳頃までは与えないようにしましょう115。ミニトマトやブドウは、丸ごとではなく必ず4等分に切って与えます。食べながら歩き回ったり、笑ったり、泣いたりさせないことも重要です。
  • おもちゃ・小物: 子どもの口に入る大きさ(直径39mm、トイレットペーパーの芯を通るサイズが目安)のものは、手の届かない場所に徹底して保管します。特に危険なのがボタン電池や強力なマグネットで、飲み込むと消化管に穴が開くなど重篤な事態につながります。リモコンやおもちゃの電池蓋は、テープで固定するなどの対策を講じましょう1。また、歯ブラシをくわえたまま歩かせないように注意が必要です1

溺水 (Drowning)

子どもはわずか10cmの水深でも溺れる可能性があります。静かに溺れるため、発見が遅れがちです。

  • 浴槽の残り湯は、入浴後すぐに必ず抜きます1
  • 浴室のドアには、子どもの手の届かない位置に鍵や補助錠を設置し、普段から必ず閉めておきましょう。
  • 洗濯機の中に水が溜まっている場合は、蓋にチャイルドロックをかけるなどの対策が有効です。
  • ビニールプールでの水遊び中も、決して目を離さないでください。

やけど・ケガ (Burns and Injuries)

子どもの行動範囲が広がり、これまで届かなかった場所にも手が届くようになります。

  • テーブルクロスは使用しないようにしましょう(引っ張って熱いものや重いものを落とす危険があるため)。
  • アイロン、電気ケトル、炊飯器、ポットなどの熱を発する家電は、使用中・使用後ともに子どもの手の届かない場所に置き、コードを引っ張られないよう注意します1
  • 調理中のコンロ周りには、ベビーゲートなどで近づけないようにする工夫が有効です。
  • 包丁やハサミなどの刃物は、使用後すぐに鍵のかかる引き出しなどにしまいましょう1

転落・転倒 (Falls)

階段の上り下りや家具へのよじ登りができるようになり、転落事故のリスクが高まります。

  • 階段の上と下には、引き続きベビーゲートを設置することが推奨されます1
  • ベランダや窓の近くに、足がかりになるようなソファ、椅子、植木鉢などを置かないようにしましょう1
  • タンスや棚などの家具は、壁に固定器具でしっかりと固定することが重要です。
  • スーパーのショッピングカートの座席に子どもを立たせたり、カゴの中に入れたりする行為は危険です1

屋外の事故 (Outdoor Accidents)

走れるようになることで、屋外での危険も増大します。

  • 道路の近くや駐車場、エスカレーターでは、必ず手をつなぐ習慣をつけましょう1
  • 車に乗せる際は、必ずチャイルドシートを正しく使用してください1
  • 車のパワーウィンドウやドアの開閉時は、子どもの手や指が挟まれていないか必ず確認することが大切です。

これらの対策は、子どもの自由を奪うものではなく、子どもが安全に世界を探索するための土台作りです。定期的に家の中を子どもの目線でチェックし、危険な箇所がないか確認する習慣をつけましょう。

第5章:知っておきたい健康のこと:1歳6か月児健診と予防接種

子どもの健やかな成長を守るためには、定期的な健康チェックと予防接種が欠かせません。1歳8ヶ月という時期は、日本の母子保健制度において重要な「1歳6か月児健康診査」が行われ、また1歳代で受けるべき予防接種の総仕上げの時期にあたります。

5.1. 「1歳6か月児健康診査」では何をみるの?

多くの自治体で1歳半頃に集団または個別で実施される「1歳6か月児健康診査」は、子どもの心身の発達を確認し、育児に関する保護者の不安や悩みに専門家が応えるための大切な機会です12。事前に問診票が送られてくることが多いため、日頃の様子や気になることをメモしておくと、当日スムーズに相談できます。健診では、主に以下のような項目がチェックされます。これらの内容は、国立成育医療研究センターが作成した「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」など、専門的な指針に基づいています5

  • 身体測定 (Physical Measurement): 身長、体重、頭囲、胸囲を測定し、成長曲線に記録して発育状態を確認します。
  • 運動機能 (Motor Function): 一人で上手に歩けるか、歩き方に不自然な点がないかといった粗大運動と、積み木を2〜3個積めるかといった巧緻運動(指先の器用さ)を確認します5
  • 精神発達 (Mental/Cognitive Development): 「ワンワンはどれ?」といった質問に指差しで答えられるか(応答の指差し)、簡単な指示に従えるかなどを通して、言葉の理解度を確認します5
  • 言語 (Language): 「ママ」「ブーブー」など、意味のある言葉(有意語)をいくつか話しているかを問診で確認します。通常、2〜3語以上が目安とされますが、個人差が大きいことも考慮されます5
  • 社会性 (Social Skills): 診察中に医師や保健師と視線が合うか、簡単なやり取りができるかを見ます5。ごっこ遊びや大人の真似をするかといった点も参考にされます。
  • その他: 歯科検診(歯の数、むし歯の有無、噛み合わせのチェック)や、食事、睡眠、排泄などの生活習慣に関する問診も行われます。

この健診は、子どもの発達を評価するだけでなく、保護者が専門家に育児相談をする絶好の機会です。どんな些細なことでも、心配な点があれば積極的に質問しましょう。

5.2. 1歳代の予防接種スケジュール

感染症から子どもを守るために、予防接種は非常に重要です。1歳を過ぎると、それまで受けてきたワクチンの追加接種や、新たに受け始めるワクチンがあります。スケジュールが複雑なため、母子健康手帳で接種歴を確認し、かかりつけ医と相談しながら計画的に進めることが大切です。以下に、日本小児科学会が推奨する、1歳代で接種が予定されている主なワクチンをまとめました6

表2:1歳代の主な予防接種(日本小児科学会推奨スケジュール準拠)

ワクチン名 定期/任意 標準的な接種時期・回数(1歳代に関連するもの)
MR(麻しん・風しん混合) 定期 第1期: 1歳になったらなるべく早く、2歳になるまでに1回接種6
水痘(みずぼうそう) 定期 1回目: 1歳〜1歳3ヶ月の間に接種。 2回目: 1回目から3ヶ月以上(標準的には6〜12ヶ月)あけて接種6
小児用肺炎球菌 (PCV) 定期 4回目: 3回目接種から60日以上あけて、1歳〜1歳3ヶ月の間に接種6
五種混合 (DPT-IPV-Hib) 定期 4回目(追加接種): 3回目接種から6ヶ月以上あけて接種(標準的には1歳〜1歳半の間)6
おたふくかぜ (流行性耳下腺炎) 任意 1回目: 1歳になったら接種することが推奨される。2回接種が推奨されている6
インフルエンザ 任意 毎年流行期前(10月頃)に接種。13歳未満は原則2回接種。

出典: 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール (2025年5月19日版)614

この表はあくまで標準的なスケジュールです。接種間隔や子どもの体調によって最適なタイミングは異なります。必ずかかりつけの小児科医と相談の上、接種を進めてください。

よくある質問

Q1: 1歳8ヶ月でまだ歩かないのですが、大丈夫でしょうか?
A1: 1歳6か月児健診の時点では約98%の子どもが一人で歩けるようになりますが、発達には個人差があります。歩き始めが遅くても、つかまり立ちや伝い歩きができていて、足の動きに左右差がないなど、他の運動発達に問題がなければ、少し様子を見ても良いことが多いです。ただし、1歳半を過ぎても一人歩きの兆候が全く見られない場合や、他に気になる点(体の緊張が強い・弱いなど)があれば、健診の際に小児科医に相談してみましょう5
Q2: 言葉が「パパ」「ママ」くらいしか出ません。遅れていますか?
A2: 言葉の発達は個人差が非常に大きい分野です。1歳半の時点で意味のある言葉が1つでも出ていれば、多くは心配ないとされています5。大切なのは、話す言葉の数よりも、大人の言うことをどれだけ理解しているかです。「おいで」「ちょうだい」などの簡単な指示が通じる、指差しで要求を伝えようとする、といった様子が見られれば、コミュニケーションの基礎は育っています。言葉の発達を促すには、絵本を読んだり、たくさん話しかけたりすることが効果的です。それでも心配な場合は、健診で専門家に相談してください。
Q3: 「いやいや期」がひどく、毎日疲れてしまいます。どう乗り切ればいいですか?
A3: 「いやいや期」は自我が育っている証拠であり、成長の重要なステップです。大変な時期ですが、子どもの「自分でやりたい」という気持ちをまずは受け止めてあげることが大切です。危険がない限りは見守り、挑戦させてあげましょう。癇癪を起こしたときは、まず安全を確保し、親は冷静に対応します。気持ちが少し落ち着いたら、「〇〇したかったんだね」と気持ちを代弁し、共感を示してあげると効果的です。保護者自身が休息を取ることも非常に重要ですので、地域のサポートなどを利用して、息抜きの時間を作りましょう。
Q4: 離乳食は完了しましたが、まだあまり噛まずに丸飲みしているようです。
A4: この時期は、奥歯が生えそろっていないため、まだ上手に噛むことができない子もいます。食べ物を少し大きめにして前歯でかじり取らせる練習や、噛みごたえのある食材(茹でた野菜スティックなど)を献立に取り入れると、噛む練習になります。食事中に「もぐもぐしようね」と口の動きを見せてあげるのも良いでしょう。焦らずに、一口の量を調整しながら、噛むことを促していきましょう。それでも改善が見られない場合は、歯科健診などで相談してみることをお勧めします。
Q5: 発達障害の可能性が心配です。どこに相談すればよいですか?
A5: 言葉の遅れ、視線が合わない、こだわりが強いなど、発達について気になることがある場合、まずはかかりつけの小児科医や、1歳6か月児健診の機会に相談するのが第一歩です11。そこで必要と判断されれば、地域の保健センターや子育て支援センター、発達支援センターなどの専門機関を紹介してもらえます。早期に相談することで、子どもの特性に合った関わり方を学ぶことができ、適切なサポートにつながります。一人で悩まず、専門家の力を借りることが大切です。

結論

1歳8ヶ月(生後20ヶ月)は、子どもが「赤ちゃん」から「子ども」へと変貌を遂げる、驚きと発見に満ちたダイナミックな時期です。よちよち歩きはしっかりとした走りへと変わり、単語は文章になり、単純な遊びは想像力豊かなごっこ遊びへと発展します。そして何よりも、「自分」という存在を強く主張し始めます。
この目覚ましい成長は、保護者にとって大きな喜びであると同時に、「食べない」「話さない」「言うことを聞かない」といった新たな挑戦をもたらします。本稿で詳述したように、これらの「お悩み」の多くは、実は子どもが健全な発達の階段を一段一段のぼっている証拠です。癇癪は言葉で表現できない感情の表れであり、遊び食べは食への興味以外の好奇心が育っている証です。
重要なのは、これらの行動を問題として捉えるのではなく、子どもの内面で何が起きているのかを理解しようと努めることです。最新の公式データや専門家の知見は、そのための羅針盤となります。こども家庭庁の身体発育調査は子どもの身体的な成長を客観的に示し4、日本小児科学会や国立成育医療研究センターのガイドラインは、発達の目安と健康を守るための道筋を照らしてくれます56
子どもの発達は、決して一直線のレースではありません。一人ひとり、その子だけのユニークなペースと個性があります。大切なのは、平均と比較することではなく、わが子の昨日に比べて今日どれだけ成長したかに目を向け、その小さな一歩一歩を共に喜ぶことです。
もし育児に不安や困難を感じたときは、決して一人で抱え込まないでください。かかりつけの小児科医、地域の保健センター、子育て支援センターなど、保護者を支えるための専門家や窓口が必ずあります。専門家の助けを借りることは、子どものため、そして何より保護者自身のために非常に重要です。
このかけがえのない時期を、自信と愛情を持って、そして何よりも楽しみながら、子どもの成長を支えていかれることを心から願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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