本記事の科学的根拠
本記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下に、参照した主要な情報源とその医学的指導における関連性を示します。
要点まとめ
第1章:ひと目でわかる!1歳6ヶ月の成長と発達マイルストーン
この時期の子どもたちは、身体能力、言語能力、社会性など、あらゆる面で飛躍的な成長を遂げます。まずは、その全体像を掴んでいきましょう。
1-1. 身体と運動能力の発達
身長・体重の目安(こども家庭庁 最新データ)
1歳6ヶ月頃の子どもの身体発育には個人差が大きく、成長のペースは一人ひとり異なります1。他の子と比較して一喜一憂する必要はありませんが、客観的な目安を知っておくことは大切です。最も信頼性の高い指標として、こども家庭庁が10年ごとに実施している全国調査の最新版「令和5年乳幼児身体発育調査」の結果をご紹介します2。下記の表は、同じ性別・月齢の子どもを100人集めた時に、小さい方から数えて何番目になるかを示す「パーセンタイル値」です。例えば「50パーセンタイル」が中央値(多くの場合は平均と近い値)にあたり、多くの子どもは3パーセンタイルから97パーセンタイルの範囲内に入ります。この範囲に入っていれば、順調に成長していると考えてよいでしょう。
性別 | 項目 | 3パーセンタイル | 10パーセンタイル | 25パーセンタイル | 50パーセンタイル | 75パーセンタイル | 90パーセンタイル | 97パーセンタイル |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男子 | 身長 (cm) | 75.2 | 76.7 | 78.3 | 80.2 | 82.0 | 83.6 | 85.1 |
男子 | 体重 (kg) | 8.58 | 9.04 | 9.57 | 10.20 | 10.89 | 11.56 | 12.23 |
女子 | 身長 (cm) | 73.8 | 75.3 | 76.9 | 78.8 | 80.7 | 82.3 | 83.8 |
女子 | 体重 (kg) | 7.95 | 8.38 | 8.87 | 9.50 | 10.19 | 10.84 | 11.51 |
出典: こども家庭庁「令和5年乳幼児身体発育調査」8
粗大運動:上手にあんよ、階段にも挑戦!
ほとんどの子どもが一人で上手に歩けるようになります9。歩き始めの頃は腕を肩より高く上げて均衡を保ちますが(ハイガード歩行)、次第に腕が腰のあたりまで下がり(ミドルガード)、やがて腕を振って安定して歩けるようになります(ローガード)10。階段を見つけると、手すりにつかまりながら上り下りしようとしたり、椅子やソファによじ登ったりと、上下への動きが活発になります1。走るような素早い動きも見られるようになりますが、まだ均衡を崩しやすく転倒も多いため、安全な環境で見守ることが重要です。
微細運動:指先が器用になり、遊びが広がる
手と指の協調性が高まり、細かい動きができるようになります。この発達が、遊びの幅を広げ、後の自立につながっていきます。クレヨンを持つと、なぐり書きを楽しむようになります1。積み木を2〜3個、そっと積み上げることができるようになります。これは1歳6ヶ月健診でも確認される重要な発達の目安です11。簡単なパズルのピースを、形を合わせてはめようとします1。また、絵本を自分でめくろうとする姿も見られます12。この指先の器用さが、「自分でスプーンを使って食べる」「自分で服を脱ごうとする」といった生活習慣の自立へとつながっていく大切な土台となります7。
1-2. 心・言葉・社会性の発達
目に見える身体の成長だけでなく、子どもの内面も驚くべき速度で発達します。
言葉の発達:「ママ、ワンワンいた」一語文から二語文へ
「マンマ(ごはん)」「ブーブー(車)」「ワンワン(犬)」など、意味のある単語(有意語)を10語以上話す子どもが増えてきます。早い子では、「ワンワン いた」「ブーブー きた」のように、2つの単語をつなげた「二語文」を話し始めます7。ただし、言葉の発達には非常に大きな個人差があります。まだ数語しか話さない子もいれば、おしゃべりが上手な子もいます。大切なのは、子どもが話す言葉の数そのものよりも、大人の言うことをどれだけ理解しているかです。焦らずに見守りましょう7。子どもの中には「言葉のコップ」があり、たくさんの言葉をかけられることでコップが満たされ、ある日突然あふれ出すように言葉が出てくると言われています。日々の語りかけや絵本の読み聞かせが、このコップを満たす大切な時間になります7。
認知・理解力の発達:「あれ取って」がわかるように
「〇〇を取ってきて」「そのおもちゃを箱にポイして」といった、簡単な言葉での指示を理解し、行動に移せるようになります12。絵本やイラストを見て、「ワンワンはどれかな?」と聞かれると、正しく指を差せるようになります(応答の指差し)。これは言語理解が順調に発達している証拠です7。「おめめはどこ?」「おくちはどこ?」と聞くと、自分の顔の部位を指さすこともできるようになります13。
社会性と自我の芽生え:「自分」の発見と「イヤイヤ」の始まり
鏡に映る姿を見て、それが「自分」だと認識したり、自分の名前を呼ばれると「はい」と手を挙げたりと、「自我」がはっきりと芽生え始めます1。「自分でやりたい!」という自立心が日に日に強くなります。しかし、やりたい気持ちとは裏腹に、まだうまくできないことも多く、そのもどかしさから癇癪(かんしゃく)を起こすことがあります。これが、いわゆる「イヤイヤ期」(第一次反抗期)の始まりです。これは困った行動ではなく、心が順調に成長している証拠なのです1。大人の行動をじっと見て真似をする「模倣遊び」(例:掃除の真似、電話の真似)や、積み木を車に見立てて遊ぶような「見立て遊び」が始まります。これらは社会性や想像力を育む大切な遊びです12。この時期の特筆すべき発達として、「共感の指差し」があります。これは、単に欲しいものを指すのではなく、犬や飛行機など、自分が興味を持ったものを指さして「あっ!」と大人に伝え、その興味や驚きを共有しようとする行動です。この行動は、他者と心を通わせる高度な意思疎通能力が育っていることを示す、非常に重要な徴候とされています3。
第2章:【専門家が徹底解説】1歳6ヶ月児健康診査、ここを確認します
1歳6ヶ月児健康診査は、母子健康法に基づいて市町村が実施する、発育・発達の重要な節目となる健診です9。この健診は、単にお子さんの成長を確認するだけでなく、保護者が抱える育児の悩みや不安を、小児科医や保健師、歯科医師といった専門家に直接相談できる貴重な機会でもあります14。健診でどのような点が確認されるのかを事前に知っておくことで、お子さんの日々の成長をより深く理解し、安心して健診に臨むことができます。ここでは、国立成育医療研究センターが作成した専門家向けの「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」10などを基に、各確認項目の「目的」と「見る要点」を詳しく解説します。
2-1. 身体発育と運動機能の確認
身体計測: 身長、体重、頭囲、胸囲を測定し、母子健康手帳の発育曲線に記録します。これまでの成長の経過と合わせて、発育が順調かどうかを確認します11。
粗大運動(一人歩き): 診察室を歩く様子を観察し、一人で安定して歩けるか、歩き方に不自然な点はないかなどを確認します。これは、運動機能や神経系の発達が順調かを評価する重要な指標です。もし歩行が未開始の場合、その背景に何らかの医学的な要因がないかを探るための手がかりとなります11。
微細運動(積み木): 1辺3cm程度の立方体の積み木を2〜3個積めるかを見ます。この単純な動作から、物をつまむ指先の巧緻性、目で見たものに合わせて手を動かす協調性、さらには脳や神経系の発達状態までを評価しています11。
2-2. 精神発達・言語・社会性の確認
言語理解(指差し): 犬や車の絵が描かれたカードを見せ、「ワンワンはどれ?」といった質問に指差しで答えられるかを確認します。これは、単語の音と意味を結びつけて理解しているか、つまり言語の理解力を評価するためです10。
発語: 診察中の自然な発声や、保護者からの聞き取りを通じて、意味のある言葉(「ママ」「ブーブー」など)が3語以上出ているかが一つの目安とされます11。言葉の数だけでなく、意思疎通の手段として言葉を使おうとする意欲も見られます。
社会性・意思疎通: 医師や保健師が「こんにちは」と挨拶をした時に目が合うか、物を「ちょうだい」「どうぞ」とやり取りできるかなどを観察します。これにより、他者を認識し、関わろうとする社会性の発達を評価します。特に、物と人との間で注意を共有する「共同注意」が成立しているかは、意思疎通発達の重要な要点です10。
2-3. 歯科健診
むし歯の有無と歯の状態: 口の中を直接診察し、乳歯の本数、生え方、そしてむし歯(う蝕)がないかを確認します。歯の汚れ(歯垢)の付着状態や歯肉の状態も確認します14。
歯磨き指導: 多くの自治体で、この機会に保護者に対して仕上げ磨きの具体的な方法や、むし歯予防に効果的なフッ素の利用についての専門的な指導が行われます6。
健診を円滑に受けるためには、普段の食事や睡眠、遊びの様子、心配なことなどを控え書きにまとめておくと、質問し忘れを防げます。また、慣れない場所で緊張してしまう子も多いため、お気に入りのおもちゃや絵本を持参すると、子どもが安心して過ごしやすくなります。
【表2:1歳6ヶ月児の発達マイルストーン 確認項目】
分野 | 発達の目安 |
---|---|
運動 | □ 一人で安定して歩くことができる □ 手すりにつかまって階段を上り下りしようとする □ 椅子やソファによじ登る |
言葉 | □ 「マンマ」「ワンワン」など意味のある言葉を3つ以上話す □ 「〇〇取って」などの簡単な指示がわかる □ 絵本を見て「犬はどれ?」と聞かれると指を差せる |
手先の器用さ | □ 積み木を2個以上積める □ クレヨンでなぐり書きをする □ スプーンやフォークを使いたがる |
生活・社会性 | □ 「自分でやる!」と自己主張をすることがある(イヤイヤ) □ 大人の真似(電話、掃除など)をする □ 興味のあるものを指さして、親に伝えようとする |
出典: 国立成育医療研究センター「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」10、厚生労働省・自治体の健診項目11、CDC/UNICEFのマイルストーン12を基に作成
第3章:1歳6ヶ月児の生活リズムと過ごし方
心と体の健やかな成長のためには、日々の生活リズムを整えることが非常に重要です。ここでは、食事・睡眠・遊びの具体的な要点と、1日の模範的な日課をご紹介します。
3-1. 1日の生活リズム(模範的な日課)
この時期の生活リズムの基本は、「早寝早起き」「日中に活発に遊ぶ」「規則正しい3回の食事」の3つの柱で成り立っています。日中に体をたくさん動かしてエネルギーを消費し、栄養の均衡が取れた食事をしっかり摂ることで、夜はぐっすりと眠ることができます。この良い循環を作ることが、子どもの心身の安定につながります。昼寝は1日1回、午後に行う子どもが多くなりますが、午前と午後の2回に分けて寝る子もいます。どちらの形式でも問題ありませんが、夜の睡眠に影響が出ないよう、昼寝は15時〜16時頃には切り上げるのが望ましいとされています。
時間 | 活動内容 | 要点 |
---|---|---|
6:30-7:00 | 起床 | 朝日を浴びて体内時計を整える。着替えをして活動様式に。 |
7:30 | 朝食 | 1日の始まりのエネルギーをしっかり補給。 |
9:00 | 午前の遊び(室内・屋外) | 天気が良ければ公園へ。散歩や外遊びで思いきり体を動かす。 |
12:00 | 昼食 | |
13:00 | 昼寝 | 1.5時間〜2時間程度が目安。静かで暗い環境を整える。 |
15:00 | おやつ(補食) | 3回の食事で不足しがちな栄養(果物、乳製品など)を補う時間。 |
16:00 | 午後の遊び | 室内で絵本を読んだり、ブロックで遊んだり、ゆったりと過ごす。 |
18:00 | 夕食 | 家族と一緒に食卓を囲み、楽しい雰囲気で。 |
19:00 | 入浴 | |
20:00-20:30 | 就寝 | 寝る前の習慣(絵本、静かな音楽など)を決め、部屋を暗くして眠りを誘う。 |
※これはあくまで一例です。お子さんの個性やご家庭の状況に合わせて柔軟に調整してください。
3-2. 食事と栄養:「離乳食完了期」の要点
この時期は、栄養の大部分を母乳やミルクから食事へと移行させる「離乳の完了期」(12〜18ヶ月頃)にあたります。厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」4に基づく要点は以下の通りです。
食事回数と量: 1日3回の食事を基本とし、必要に応じて1〜2回の補食(おやつ)で栄養を補います4。
固さと調理形態: 歯ぐきで噛みつぶせる固さ(調理した野菜やバナナ程度)が目安です。自分で食べられるよう、野菜棒やおにぎりなど、手づかみ食べしやすい献立を取り入れることが、自分で「一口の量」を覚える練習になります4。
食具の使用: スプーンやフォークに興味を持ち、自分で使いたがるようになります。最初はこぼしたり汚したりしますが、それは発達の過程です。意欲を尊重し、温かく見守ってあげましょう12。
牛乳について: 鉄分の吸収を妨げる可能性があるため、コップで飲む牛乳は1歳を過ぎてからが望ましいとされています。また、離乳が順調に進んでいれば、補助乳(フォローアップミルク)は必ずしも必要ではありません。
3-3. 睡眠:「夜泣き」や寝かしつけの工夫
この時期に必要な睡眠時間は、昼寝を含めて1日あたり合計11〜14時間程度が目安です1。日中に公園で新しい遊具に挑戦したり、多くの人と会ったりと、たくさんの刺激を受けると、夜に脳が興奮状態のままになり、なかなか寝付けなかったり、夜中に突然泣き出したりする「夜泣き」の原因になることがあります15。寝る前はテレビやスマートフォンを消し、絵本を読んだり、静かな音楽を聴いたり、背中を優しく軽く叩いたりするなど、毎日決まった入眠儀式(習慣)を行うことが、心と体をリラックスさせ、円滑な眠りへと導きます12。
3-4. 遊び方:心と体を育む遊びのヒント
遊びは子どもの心と体を育む最高の学びの場です。発達段階に合わせた遊びを取り入れてみましょう。
体を動かす遊び: 公園での散歩、追いかけっこ、滑り台、ボールを転がしたり投げたりする遊びは、全身の運動能力を高めます1。
手先を使う遊び: 積み木やブロックを積んだり崩したり、お絵かき、シール貼り、簡単な型はめパズルなどは、集中力と指先の巧緻性を養います1。
想像力を育む遊び: おもちゃの食べ物を「どうぞ」と渡したり、ぬいぐるみを寝かしつけたりする「ごっこ遊び」や「見立て遊び」は、社会性や他者への共感力を育みます7。
言葉を育む遊び: 色鮮やかな絵本の読み聞かせは、語彙力と想像力を豊かにします。親子で一緒に手遊び歌を歌うのも、リズム感と言葉の発達を促すのに効果的です15。
第4章:保護者の二大の悩み「イヤイヤ期」と「言葉の遅れ」
この時期、多くの保護者が直面するのが「イヤイヤ期」と「言葉の遅れ」に関する悩みです。ここでは、それぞれの原因と具体的な対処法を専門的な視点から解説します。
4-1.「イヤイヤ期」との上手な付き合い方
なぜ「イヤイヤ」するのか?
「イヤイヤ期」は、子どもの成長における自然で重要な段階です。その背景には、主に2つの心理があります1。
1. 自我の芽生え: 「自分」という意識がはっきりし、「自分でやりたい」「自分の思い通りにしたい」という強い欲求が生まれます。
2. 表現力の未熟さ: 「やりたい」という気持ちはあっても、まだ言葉でうまく伝えられなかったり、手先が思うように動かなかったりします。この「やりたい」と「できない」の隔たりから生じるもどかしさや悔しさが、「イヤ!」という行動や癇癪として爆発するのです。これは困らせるための「反抗」ではなく、自立に向けた「主張」の始まりです。この時期を「自立期」と捉え、子どもの心の成長を応援する視点を持つことが大切です。
基本的な対応法
- 気持ちを受け止め、代弁する: まずは子どもの言い分に耳を傾け、「〇〇したかったんだね」「これがイヤだったんだね」と、子どもの気持ちを言葉にしてあげましょう。自分の気持ちを理解してもらえたと感じることで、子どもの心は落ち着きを取り戻します7。
- 選択肢を与える: 「赤い服と青い服、どっちを着る?」のように、子ども自身に選ばせる場面を作りましょう。自分で決めるという経験が、自立心と自己肯定感を育みます。
- 危険でなければ、挑戦を見守る: 時間がかかり、汚れたり散らかったりするかもしれませんが、子どもが「自分でやる!」と主張したときは、危険がない限り挑戦させてあげましょう。この「できた!」という達成感が、次への意欲につながります7。
- 気分転換を促す: 癇癪が激しくなってどうしようもない時は、無理に説得しようとせず、「あ、飛行機が飛んでるよ!」「わんわん見に行こうか」など、全く別の楽しいことに誘って、気持ちを切り替えさせてあげましょう1。
- 危険なことは毅然と止める: 道路への飛び出しや、危険なものに触ろうとするといった命に関わる行為は、「ダメ!」とはっきりと、毅然とした態度で止めなければなりません。その上で、「なぜダメなのか」を真剣に、短い言葉で伝えましょう7。
4-2.「言葉の遅れ」が心配なとき
はじめに:個人差が大きいことを理解する
まず最も大切なことは、言葉の発達は運動発達以上に個人差が非常に大きいということです7。周りの子と比較して焦る必要はありません。言葉の数よりも、以下の点がお子さんに見られるかを確認することが重要です。
言葉の遅れを考える前に:確認すべき3つの要点
- 言葉の理解はしているか?
「おもちゃ、ちょうだい」「おいで」などの簡単な指示に従えますか?絵本を指さして「ワンワンはどれ?」と聞くと、指せますか?これらができていれば、言葉を理解する力は育っています。話すこと(表出)が少しゆっくりなだけかもしれません。 - 呼びかけに反応するか?(聴力の確認)
名前を呼ばれたときに振り向きますか?反応が薄い、テレビの音を大きくするなどの様子があれば、中耳炎などで一時的に聞こえにくくなっている可能性も考えられます。1歳6ヶ月健診や、かかりつけの小児科・耳鼻咽喉科で相談しましょう。 - 意思疎通の意欲はあるか?
言葉はなくても、指差しや身振り、表情で何かを伝えようとしていますか?目が合いますか?大人の真似をしますか?このような関わろうとする姿勢が見られる場合、意思疎通の土台は育っています。
家庭でできる言葉を促す関わり方
- 言葉のシャワーを浴びせる: 「赤い車が走ってるね」「お花、きれいだね」など、子どもの見ているもの、していることを実況中継するように、たくさん話しかけてあげましょう。
- 絵本の読み聞かせ: 言葉を教えるというより、親子で絵を楽しみ、意思疎通を取る時間として大切にしましょう16。
- 先回りしない: 子どもが指差しなどで何かを伝えようとしている時、すぐに「お茶ね、はいどうぞ」と代行するのではなく、「お茶が欲しいの?」と聞いてみたり、子どもが「ちゃ」などと言葉を発するのを少し待ってあげたりしましょう16。
- 「マザリーズ」を意識する: 大人が乳幼児に話しかける際に自然と使う、やや高めの声で、ゆっくり、抑揚をつけた話し方(マザリーズ/ペアレンティーズ)は、子どもの注意を引き、言葉の学習を促す効果があることが研究で示されています16。
専門機関への相談
上記の関わりを試みてもなお、言葉の遅れに加えて、「目が合わない」「こだわりが強い」「一人遊びばかりで他者に関心を示さない」など、意思疎通面で気になる様子が続く場合は、一人で悩まず専門機関に相談しましょう。早期の相談が、適切な支援につながります。主な相談窓口は、1歳6ヶ月健診、お住まいの地域の保健センター、子育て支援センター、かかりつけの小児科、児童発達支援センターなどです。
第5章:子どもの命を守る!事故予防と健康管理
行動範囲が広がり、好奇心旺盛になるこの時期は、家庭内での思わぬ事故が起こりやすい時期でもあります。子どもの命と健康を守るための重要な要点を、公的機関の注意喚起に基づいて解説します。
5-1. 家庭内の事故予防
消費者庁や国民生活センターは、この時期の子どもに起こりやすい事故として「誤飲」「転落」「溺水」「やけど」を挙げています17。子どもの目線で家の中の危険を再点検しましょう。
- 誤飲・窒息: タバコ、ボタン電池、医薬品、硬貨、おもちゃの小さな部品など、子どもの口に入る大きさのもの(直径39mmの円筒を通過するもの)は、絶対に子どもの手の届かない場所に保管しましょう5。ミニトマトやブドウ、ナッツ類など、丸くてつるっとした食品は、窒息の危険性が高いため、4等分に切るなどして与えましょう5。
- 転落: 窓やベランダには、子どもの手の届かない高さに補助錠を付けましょう。また、ベランダや窓の近くに、エアコンの室外機や椅子、箱など、足場になるものを置かないようにします18。大人用の寝台で寝かせている場合の転落事故が多発しています。乳児用寝台を使用するか、寝台の周りに緩衝材を置くなどの対策が必要ですが、柔らかすぎる寝具は窒息の危険性にもなるため注意が必要です19。
- 溺水: 子どもを入浴させている間は、たとえ一瞬でも絶対に目を離さないでください。浴槽の残り湯は、子どもが誤って転落し溺れる危険があるため、必ず抜いておきましょう。
- やけど: 熱い飲み物や汁物、調理器具は、食卓の端や子どもの手の届く場所に置かないようにしましょう。食卓クロスは、子どもが引っ張って上のものを落とす危険があるため使用を避けます。炊飯器や電気ポットの蒸気に触れてやけどをする事故も多いため、置き場所に注意が必要です。
5-2. むし歯予防と仕上げ磨き
乳歯が生えそろってくるこの時期は、むし歯予防が非常に重要になります。日本歯科医師会や日本小児歯科学会は、以下の点を推奨しています6。
- むし歯の主な原因: むし歯の主な原因は、糖分の多いおやつやジュースなどを、時間を決めずにだらだらと摂取することです。食事やおやつの時間を決めることが、最大の予防策となります6。
- 仕上げ磨きの方法: 保護者の膝の上に子どもの頭を乗せて仰向けに寝かせる「寝かせ磨き」が、口の中がよく見え、安定して磨けるため基本の姿勢です6。歯ブラシは、力を入れすぎないよう鉛筆のように持ち(ペングリップ)、軽い力で小刻みに動かします。特に上の前歯の中央にある筋(上唇小帯)に歯ブラシが強く当たると痛がり、歯磨き嫌いの原因になります。保護者の指で上唇をめくり、この筋を保護しながら優しく磨きましょう。
- フッ素の活用: むし歯予防に効果的なフッ化物配合歯磨剤の使用が推奨されています。使用量は年齢に応じてごく少量(米粒〜豆粒程度)とし、少なくとも就寝前を含む1日2回の歯磨きを習慣にしましょう6。
よくある質問
うちの子はまだ歩かないのですが、大丈夫でしょうか?
「イヤイヤ期」はいつまで続くのでしょうか?
意味のある言葉が2〜3語しか出ませんが、遅れていますか?
結論
1歳6ヶ月という時期は、歩き、話し、自己主張を始めるといった、人間としての基礎が築かれる、驚きと喜びに満ちた段階です。できることが爆発的に増える一方で、イヤイヤ期や発達の個人差に、保護者の皆様が悩みや不安を感じるのも当然のことです。本記事で解説したように、子どもの成長には一人ひとり異なる速度があります。大切なのは、他の子どもと比較することではなく、昨日のお子さんと比べて「今日はこんなことができるようになった」という小さな成長を見つけ、喜んであげることです。子育てにおける悩みや不安は、決して一人で抱え込む必要はありません。1歳6ヶ月健診はもちろんのこと、かかりつけの小児科医、お住まいの地域の保健センターや子育て支援センターなど、いつでも相談できる専門家や場所があります。ぜひ、これらの社会資源を積極的に活用してください。この記事が、可能性に満ちた1歳6ヶ月というかけがえのない時期を、保護者の皆様がより深く、そして温かい気持ちで見守るための一助となることを心から願っています。
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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