乳児用ミルクの脂質組成の役割:パーム油、パルミチン酸の構造、および便性に関する科学的レビュー
小児科

乳児用ミルクの脂質組成の役割:パーム油、パルミチン酸の構造、および便性に関する科学的レビュー

乳児栄養の理想、すなわち「ゴールドスタンダード」は母乳であり、乳児用調製粉乳(以下、乳児用ミルク)は、母乳育児が不可能な、あるいは補完が必要な場合の代替品として、その複雑な栄養組成を可能な限り忠実に模倣することを目指して設計されています1。特に重要なのが脂質であり、乳児の総エネルギー摂取量の約50%を供給する主要なエネルギー源です2。この高いエネルギー要求は、生後1年間に見られる急速な身体発育と神経発達を支えるために不可欠です。母乳に含まれる脂肪酸の中でも、パルミチン酸 (C16:0) は最も豊富な飽和脂肪酸であり、全脂肪酸の約20~25%を占めます6。したがって、乳児用ミルクが母乳の脂肪酸プロファイルを再現するためには、パルミチン酸を適切な量で配合することが不可欠となります8。このパルミチン酸の供給源として、乳児用ミルクの製造において広く利用されているのがパーム油(PO)およびその分画油であるパームオレイン(POL)です。これらはパルミチン酸を豊富に含み、かつコスト効率が高いという利点があります6。しかし、この慣行が、乳児における便の硬化や便秘といった、意図せざる生理学的影響と関連していることが長年にわたり指摘されてきました8。本稿では、JapaneseHealth.org編集委員会として、この広く報告されている現象の背後にある科学的「真実」を、分子構造のレベルから解き明かすことを目的とします。この問題の根源には、母乳の「量的」な組成(パルミチン酸の含有量)を模倣しようとする試みが、母乳の持つ「質的」な構造(脂肪酸の分子内結合位置)を見過ごしてきたという、栄養科学における重大な乖離が存在します。乳児用ミルクの組成は、国際食品規格委員会(Codex Alimentarius)や日本の厚生労働省といった規制当局によって厳格に管理されていますが11213、歴史的に脂質の「構造」までは規定してこなかったという背景が、本稿で詳述する問題が生じる一因となっています。

本記事の科学的根拠

本記事は、提示された研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性のみが含まれています。

  • Lasekan et al. (2017) メタアナリシス:
    本記事における「パーム油非配合ミルクは便を軟らかくする」という指針は、このランダム化比較試験のメタアナリシスに基づいています8
  • ESPGHANポジションペーパー (2019):
    本記事における「パーム油は硬便と関連しているが、その使用を避けるべきと結論付けるにはエビデンスが不十分」という専門機関の見解は、欧州小児栄養消化器肝臓学会のポジションペーパーに基づいています9
  • 順天堂大学/明治 共同研究 (2024):
    本記事における「高sn-2ミルクは日本人乳児においても脂肪の便中排泄増加を回避できる」という国内での実証に関する指針は、この共同研究の結果に基づいています17
  • 雪印乳業 全国母乳調査 (1990年代): 本記事における「日本人母乳におけるパルミチン酸の高いsn-2結合率」に関する記述は、この全国調査報告に基づいています5

要点まとめ

  • 母乳は乳児栄養の理想であり、その脂質はパルミチン酸が中央の「sn-2位」に結合した特殊な構造(OPO構造)を持ち、効率的な消化吸収を可能にしています。
  • 多くの乳児用ミルクは、パルミチン酸の供給源としてパーム油を使用しています。しかし、パーム油中のパルミチン酸は外側の「sn-1,3位」に結合しており、母乳とは構造が異なります。
  • この構造の違いにより、パーム油由来の遊離パルミチン酸が腸内でカルシウムと結合し、吸収されにくい硬い「カルシウム石鹸」を形成します。これが便を硬くし、脂肪やカルシウムの吸収を妨げる一因となります。
  • 母乳の構造を模倣した「高sn-2パルミチン酸(OPO)」を配合したミルクは、便を軟らかくし、栄養吸収を改善することが多くの臨床試験で示されています。
  • 日本の主要なミルクの多くはパーム油を使用していますが、最新の国内研究により、この消化吸収のメカニズムが日本人乳児にも当てはまることが確認されており、将来的な製品開発への応用が期待されます。

生化学的基礎:パルミチン酸の分子構造の理解

この問題の核心を理解するためには、まず脂質の基本構造に目を向ける必要があります。脂質の主成分であるトリグリセリド(TAG)は、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したもので、その結合位置は立体特異的にsn-1、sn-2、sn-3と番号付けされます8。この分子構造こそが、脂質の消化吸収と生理機能における挙動を決定づける鍵となります。

母乳の脂肪構造:自然が生んだ最適な設計

母乳のTAG構造には顕著な特徴があります。母乳に含まれるパルミチン酸の約70~80%は、中央のsn-2位に選択的に結合しています8。一方で、外側のsn-1位とsn-3位は、主にオレイン酸のような不飽和脂肪酸によって占められています5。この特異的なOPO(オレイン酸-パルミチン酸-オレイン酸)構造は、母乳脂肪の消化吸収における効率性を担保する上で極めて重要です。1990年代に雪印乳業(現・雪印ビーンスターク)が実施した全国母乳調査においても、この特徴的な日本人母乳の結合位置分布がすでに確認されていました5

パーム油の脂肪構造:模倣の限界

対照的に、パーム油を含む多くの植物油では、TAGの構造が母乳とは大きく異なります。パーム油では、パルミチン酸の約90%が外側のsn-1位およびsn-3位に結合しているのです7。この根本的な構造の違いが、パーム油を配合した乳児用ミルクが便秘を引き起こす直接的な原因となります。問題は「パーム油」や「パルミチン酸」という成分そのものではなく、純粋にその分子構造にあります。同一のパルミチン酸分子であっても、グリセロール骨格上の結合位置が異なるだけで、乳児の消化管内での運命が劇的に変わるのです。これは、乳児の消化器系という「錠」が、母乳脂肪(sn-2パルミチン酸)という特定の「鍵」の形状に進化的に適応していると理解できます。パーム油(sn-1,3パルミチン酸)は、一見似ていても形状の異なる鍵であり、うまく適合しないために消化器系に「詰まり」を生じさせるのです。この事実は、乳児用ミルクの開発において、単にパルミチン酸の「量」を母乳に合わせるだけでは不十分であり、脂質分子の「構造」をも模倣する必要があることを明確に示しています6

生理学的カスケード:消化から便秘までの連鎖反応

乳児の消化管内では、膵リパーゼという酵素がTAGの消化を担います。この酵素は、sn-1位とsn-3位の脂肪酸を選択的に切断する性質を持っています8。その結果、sn-2位に結合した脂肪酸はグリセロール骨格と共に2-モノグリセリドとして残ります。この消化プロセスにおいて、パルミチン酸の結合位置の違いが決定的な差を生むのです。

パルミチン酸の二つの運命:吸収か、石鹸か

  • 効率的な吸収(母乳/高sn-2ミルクの経路):母乳や後述する高sn-2ミルクのように、パルミチン酸がsn-2位に結合している場合、消化後も2-パルミトイル-グリセロールの形で残り、この形態のまま腸管上皮細胞に効率よく吸収されます。これにより、脂肪とエネルギーが効率的に体内に取り込まれます8
  • 不溶性石鹸の形成(標準的なパーム油配合ミルクの経路):一方、パーム油を配合した標準的なミルクのように、パルミチン酸がsn-1位またはsn-3位に結合している場合、リパーゼによって切断され、「遊離脂肪酸」として腸管内に放出されます。この遊離パルミチン酸は融点が高く水に溶けにくい性質を持ち、乳児用ミルクに豊富に含まれるカルシウムイオンと容易に結合して、不溶性の「カルシウム-パルミチン酸複合体」、すなわち「脂肪酸カルシウム石鹸(カルシウムセッケン)」を形成します7

カルシウム石鹸形成がもたらす三重の不利益

このカルシウム石鹸の形成は、乳児の身体に三重の不利益をもたらす可能性があります。

  1. 便の硬化と便秘:カルシウム石鹸は消化吸収されず、そのまま糞便として排泄されます。この硬い粒子が便の硬度を増大させ、乳児における便秘の主症状である硬便を引き起こします8。これは最も直接的で、保護者が認識しやすい影響です。
  2. 脂肪とエネルギーの吸収阻害:石鹸として排泄されることは、本来エネルギー源となるべきパルミチン酸が吸収されずに体外へ失われることを意味します。これにより、貴重な脂肪とカロリーの損失が生じます6
  3. カルシウムの吸収阻害:石鹸形成に利用されたカルシウムもまた、吸収されずに排泄されてしまいます。これにより、骨の発育に不可欠なカルシウムの生体利用率が低下する可能性があります6

臨床エビデンスの評価:パーム油配合 vs. 非配合ミルク

パーム油の配合が乳児の便性に与える影響については、複数の高品質な臨床研究によって検証されています。

ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシス

科学的エビデンスの階層において最高位に位置するのがメタアナリシスです。2017年にLasekanらが発表した研究は、この問題に関する最も強力なエビデンスの一つとされています8。この研究は、乳児466名を対象とした9件のランダム化比較試験(RCT)のデータを統合解析したものです。その主要な結果として、パームオレイン非配合(NoPALM)ミルクを摂取した乳児は、パームオレイン配合(PALM)ミルクを摂取した乳児と比較して、有意に便が軟らかいことが示されました。便の硬度スコア(1=水様便~5=硬便)の平均差は-0.355であり、統計学的に極めて有意な差でした(p<0.001)。一方で、1日あたりの排便回数については、両群間に有意な差は認められませんでした。この結果は、パーム油の配合が便の「回数」ではなく「硬さ」に直接的な影響を与えることを明確に示しています。

ESPGHANポジションペーパー(2019年):専門機関の多角的な見解

一方で、欧州小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)が2019年に発表したポジションペーパーは、より多角的で慎重な見解を示しています9。ESPGHANの委員会は、パーム油が硬便と関連しているというエビデンスを認めつつも、「健康上の理由から乳児用ミルクの脂肪源としてパーム油を避けるべきであると示唆するにはエビデンスが不十分である」と結論付けています。また、後述する高sn−2ミルクが便を軟らかくする可能性はあるものの、「必須とは考えられない」とも述べています。

エビデンスの統合と解釈

これら二つの権威ある情報源は、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、Lasekanらのメタアナリシスが「パーム油は便を硬くするか?」という具体的な臨床的疑問に「イエス」と答えているのに対し、ESPGHANは「パーム油の使用を避けるよう公衆衛生政策として推奨すべきか?」という、より広範な問いに取り組んでいます。後者の判断には、コストや世界的な供給体制といった多様な要因が考慮されるため、便の硬化という影響だけでは使用回避を勧告するほど重大ではないと判断されたのです。この視点の違いを理解することが、本問題を深く把握する上で不可欠です。

表1:パーム油と便性に関する主要エビデンスの要約
研究/情報源 発表年 研究タイプ 便の硬度に関する主要な結果 カルシウム/脂肪吸収に関する結果
Lasekan et al.8 2017 RCTのメタアナリシス パーム油非配合ミルク群は、配合ミルク群に比べ有意に便が軟らかい(p < 0.001)。
ESPGHAN Position Paper9 2019 ポジションペーパー パーム油は硬便と関連していることを認める。 骨への影響は短期的である可能性を示唆。
Koo et al.8 2006 メタアナリシス パーム油が脂肪とカルシウムの吸収および骨石灰化を低下させることを文書化。
Yu et al.8 2009 メタアナリシス β-パルミチン酸(高sn-2)配合ミルクは、パーム油配合ミルクに比べ便が軟らかい。

技術的解決策:高sn−2パルミチン酸(OPO)配合ミルク

パーム油配合ミルクが引き起こす問題を解決するため、食品科学技術によって新たな解決策が生み出されました。それが、酵素的エステル交換反応という技術を用いて、母乳のOPO構造を模倣した構造化脂質(structured lipids)です6。この成分は、高sn−2パルミチン酸、またはβ-パルミチン酸としても知られ、乳児用ミルクの脂質組成を質的に母乳に近づけることを可能にしました。

OPO配合ミルクの臨床的有効性

OPOを強化した乳児用ミルクの有効性については、数多くの臨床試験によって強力なエビデンスが蓄積されています。OPO配合ミルクを摂取した乳児は、標準的なミルクを摂取した乳児と比較して、有意に便が軟らかく、糞便中のカルシウム石鹸濃度およびカルシウム排泄量が低いことが一貫して示されています8。その結果は、しばしば母乳栄養児のそれに近いものとなります。また、カルシウム石鹸の形成を抑制することにより、脂肪とカルシウムの両方の吸収を改善し、より良好な骨の健康をサポートする可能性も示唆されています4。研究によっては、泣いている時間の短縮、睡眠の改善、腸内細菌叢への好影響(ビフィズス菌や乳酸菌の増加)といった、より広範な利益も報告されています3

規制と商業的背景

臨床的エビデンスは強力であるものの、欧州食品安全機関(EFSA)のような規制機関は、これまで慎重な姿勢を崩していません。2011年の科学的意見書では、β-パルミチン酸とカルシウム吸収増加に関する特定の健康強調表示(ヘルス・クレイム)を確立するにはエビデンスが不十分であると結論付けています22。この慎重な姿勢は、OPOの有効性を示す多くの研究が、Bunge社(Betapol®)やIFF社(INFAT®)といった原料メーカーの資金提供によって行われているという商業的背景と合わせて考慮する必要があります3。これは、標準的なパーム油によって生じた問題が市場機会を創出し、産業界が解決策(OPO)を生み出し、その有効性を証明するための臨床試験に資金を提供してプレミアム製品カテゴリーを確立したという、「市場主導型の科学」の一例と見ることができます。

日本の状況:市場、研究、そして消費者の現実

日本の市場で販売されている主要な乳児用ミルクの原材料表示を分析すると、その脂肪源の構成に共通の傾向が見られます。

表2:主要な国内乳児用ミルクの調整食用油脂の構成
メーカー ブランド名 調整食用油脂に含まれる主な脂肪・油
株式会社 明治 明治ほほえみ 豚脂分別油、大豆白絞油、パーム核油、精製魚油、アラキドン酸含有油脂24
森永乳業株式会社 森永はぐくみ パーム核油パーム油、大豆油、エゴマ油27
江崎グリコ株式会社 アイクレオ バランスミルク 分別ラード、オレオ油、大豆油、ヤシ油、パームオレイン31
アサヒグループ食品株式会社 和光堂レーベンスミルク はいはい パーム油パーム核分別油、大豆白絞油33
雪印ビーンスターク株式会社 ビーンスターク すこやかM1 パーム核油、大豆油、パーム油、カノーラ油34
雪印メグミルク株式会社 雪印メグミルク ぴゅあ パーム核油、大豆油、パーム油、カノーラ油37

この表から明らかなように、日本の主要な乳児用ミルクは、そのほとんどが脂肪源の一部としてパーム油、パーム核油、またはパームオレインを利用しており、前述のカルシウム石鹸形成のリスクを潜在的に有していることを意味します。

日本におけるsn−2パルミチン酸研究の進展と「日本のパラドックス」

近年、この分野における日本の研究は大きな進展を見せています。順天堂大学と株式会社 明治による2024年の共同研究は、国内で初めてこの問題に焦点を当てた画期的な臨床研究です17。この研究では、パルミチン酸のsn−2結合比率が母乳に近い50%以上のミルク(高sn−2ミルク)は、標準的なミルクで見られる脂肪の便中排泄増加を回避できることが示されました。これは、これまで海外で報告されてきたメカニズムが、日本人乳児においても同様に当てはまることを証明した、極めて重要な国内エビデンスです。

しかし、この状況は「日本のパラドックス」とも言える特異な様相を呈しています。すなわち、国内企業は母乳の脂肪構造に関する先進的な知見を1990年代から有し5、最新の国内研究でもその重要性が確認されているにもかかわらず、市場をリードする主流製品の多くは依然として標準的なパーム油ブレンドを使用し続けています。日本の保護者は赤ちゃんの便秘に強い関心を持っていますが11、その関心は消化しやすいとされるペプチドミルク42やオリゴ糖32に向けられることが多く、脂質の「構造」についてはまだ十分に認識されていません。解決策であるOPO技術は、まだ日本のマスマーケットには浸透していないのが現状です。

包括的視点:乳児の便性に影響を与えるその他の要因

乳児の便性は、脂質の構造だけでなく、ミルクに含まれる他の成分との相互作用によっても影響を受けます。特に便の「硬度」を決定づける主要な物理的要因としては脂質の構造が重要ですが、以下の要因も便性に関与します。

  • プレバイオティクス:ガラクトオリゴ糖(GOS)やフラクトオリゴ糖(FOS)といったプレバイオティクスは、腸内のビフィズス菌などの善玉菌の増殖を促進します。これにより、腸内環境が酸性に傾き、便が軟らかくなる効果が期待され、日本の多くのミルクに配合されています4932
  • タンパク質加水分解:タンパク質をあらかじめ分解した「部分加水分解乳」や「高度加水分解乳」は、消化しやすさを目的としており、便秘などの機能性胃腸障害に対して推奨されることがあります2。しかし、ESPGHANのような専門機関は、これらのミルクが便秘の治療に有効であるというエビデンスは不足しているとの見解を示しています50

結論と専門的見解:保護者は選択肢をどう考えるべきか

乳児用ミルクに含まれる標準的なパーム油の分子構造と、不溶性カルシウム石鹸の形成、そしてそれに伴う硬便および栄養吸収の低下との関連性は、科学的に妥当であり、RCTのメタアナリシスや最新の日本人を対象とした研究を含む強力な臨床エビデンスによって裏付けられています。この問題の「真実」は、パーム油という成分そのものにあるのではなく、その分子構造、すなわちパルミチン酸の結合位置にあります。高sn−2パルミチン酸(OPO)は、この問題を解決するために開発された、科学的に検証された有効な技術的解決策です。

日本の消費者への専門的提言

これらの科学的知見を踏まえ、JapaneseHealth.org編集委員会は日本の保護者に対して以下の提言を行います。

  1. 基本認識を持つ:乳児用ミルクの脂質組成、特にパーム油(またはパームオレイン)の使用が、赤ちゃんの便の硬さに影響を与える主要な要因の一つであることを認識することが重要です。
  2. 赤ちゃんが便秘に悩んでいる場合
    • ラベルを読む:製品の「原材料名」を確認し、「調整食用油脂」の項目に「パーム油」、「パームオレイン」、「パーム核油」といった記載があるかを確認してください。これらが含まれている場合、便が硬くなる一因である可能性があります。
    • 医療専門家に相談する:かかりつけの小児科医や管理栄養士に懸念を相談してください。その際、具体的に「sn-2パルミチン酸」に関するエビデンスについて尋ね、代替ミルクが適切かどうかを検討してもらうことが推奨されます。
    • 代替案を検討する:現時点で高OPOを配合した国内の主流製品はまだ少ないですが、パーム油不使用の輸入品45や、江崎グリコの「アイクレオ」のように異なる脂肪ブレンドの製品31を、医師の指導のもとで検討する価値はあるかもしれません。
  3. 未来への展望に注意を払う:順天堂大学と明治による最新の研究17は、国内メーカーがOPO技術を積極的に検証していることを示唆しています。今後、OPOや同様の構造化脂質を特徴とする新製品や改良品が日本の市場に登場する可能性は高いと考えられます。保護者は、こうした栄養科学の進歩に基づいた製品革新に注意を払うことが望ましいです。

よくある質問

パーム油自体が赤ちゃんに悪いのですか?

問題はパーム油そのものではなく、その「構造」にあります。パーム油に含まれるパルミチン酸は、主に外側のsn-1,3位に結合しています。これは母乳のパルミチン酸が中央のsn-2位に結合しているのとは異なります。この構造の違いが、消化の過程で硬い「カルシウム石鹸」を形成し、便を硬くする原因となります。

なぜ日本のほとんどの粉ミルクにパーム油が使われているのですか?

パーム油は、母乳に最も多く含まれる飽和脂肪酸であるパルミチン酸を豊富に含み、かつコスト効率が高く安定して供給できるため、世界中の乳児用ミルクで広く使用されています。目的は母乳のパルミチン酸の「量」を合わせることにありましたが、近年ではその「構造」の重要性も認識されるようになってきました。

「高sn-2パルミチン酸」や「OPO」と書かれたミルクを選ぶべきですか?

もし赤ちゃんが硬い便に悩んでいる場合、これらのミルクは科学的に裏付けられた有効な選択肢の一つです。臨床研究では、これらのミルクが便を軟らかくし、栄養吸収を改善することが示されています。ただし、すべての赤ちゃんに必須というわけではなく、ESPGHANのような専門機関は慎重な見解も示しています9。まずはかかりつけの小児科医に相談することが最も重要です。

便秘対策として、オリゴ糖やペプチドミルクと脂質の構造、どちらが重要ですか?

それぞれ役割が異なります。オリゴ糖は腸内環境を整えることで便性を改善します。ペプチドミルクはタンパク質の消化しやすさに焦点を当てています。一方で、脂質の構造は、便の物理的な「硬さ」に直接関わるカルシウム石鹸の形成を左右します。したがって、特に「硬い便」が問題である場合、脂質の構造は非常に重要な検討項目となります。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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