【産婦人科医監修】妊婦帯・腹帯は必要？効果と正しい選び方、人気おすすめ20選｜戌の日の準備も解説

第1章：腹帯（妊婦帯）とは？- 日本の伝統と基本的な役割

妊娠中の体をサポートするアイテムについて調べる際、様々な言葉が出てきて混乱することがあります。まずは、これらの用語を整理し、それぞれの役割を理解することから始めましょう。

1-1. 腹帯、妊婦帯、骨盤ベルト – まずは言葉を整理しよう

妊婦さん向けのサポートアイテムを探していると、似たような言葉が多く、どれが自分に合うのか分かりにくいことがあります。最初にこれらの用語を明確に区別することは、本当に必要な製品を見つけるための第一歩です。

• 腹帯 (はらおび・ふくたい): これは伝統的な呼称で、古くは「岩田帯（いわたおび）」とも呼ばれました。一般的には、「さらし」と呼ばれる長い一枚の綿布で作られたものを指します。² このタイプは、安産祈願の儀式である「帯祝い」と深く結びついています。
• 妊婦帯 (にんぷたい): これはより現代的な用語で、腹巻タイプ、パンツタイプ、サポートベルトタイプなど、さらしよりも手軽に使えるように開発された製品全般を指す言葉としてメーカーが使用しています。⁴ 大手マタニティウェアメーカーの犬印本舗は、従来のさらしより使いやすい製品を説明するために「妊婦帯」という言葉を生み出したと述べています。⁵
• 骨盤ベルト (こつばんベルト): これは腹部を覆い支える腹帯や妊婦帯とは異なり、骨盤の関節を安定させることに特化した製品です。⁶ 主に妊娠中から産後にかけての腰痛や骨盤周囲の痛みを軽減する目的で使用され、後の章で詳しく解説します。

これらの違いを理解することで、例えば「恥骨のあたりが痛い」という悩みを持つ方は、保温目的の妊婦帯ではなく、骨盤ベルトが必要かもしれない、という判断がつきやすくなります。

1-2. なぜ戌の日に？「帯祝い」に込められた安産への願い

「帯祝い（おびいわい）」は、日本の古くからの慣習で、妊娠中の母子の健康と安産を祈願する儀式です。

• 戌の日（いぬのひ）の意味: 伝統的に、この儀式は妊娠5ヶ月目に入った最初の「戌の日」に行われます。日本の文化において、犬（戌）は多産でありながらお産が軽い動物とされており、その犬にあやかって妊婦さんも安産になるようにという願いが込められています。⁸ また、妊娠5ヶ月は胎児が安定期に入る時期であり、流産のリスクが低くなることもこの時期が選ばれる理由の一つです。
• 儀式と準備: この日、家族は神社やお寺へ安産祈願に訪れます。その際に腹帯（多くはさらしタイプ）を持参し、ご祈祷を受けるのが一般的です。¹ 東京の水天宮のように、安産祈願で有名な神社では、ご祈祷済みの腹帯を授与している場合もあります。⁹ 伝統的には妊婦の実家が腹帯を贈る風習がありましたが、現在ではご自身の好みや使いやすさに合わせて自分で選ぶ方が増えています。¹⁰
• 柔軟な考え方: このような伝統はありますが、最も優先されるべきは妊婦さんの体調です。体調が優れない場合や家族の都合がつかない場合は、別の日に行っても全く問題ありません。⁸ また、この風習は日本の地域によっても違いがあり、その土地の文化的な多様性を示しています。¹¹

1-3. 腹帯の2つの基本的な役割：「お守り」と「支え」

腹帯や妊婦帯が持つ役割は、大きく分けて精神的なものと物理的なものの二つに集約されます。

• 役割1：心理的な「お守り」として: 多くの人にとって、腹帯の第一の役割は精神的なシンボルです。安産への祈りが込められた具体的な品であり、妊娠という特別な期間を記念するものでもあります。⁴ 帯をお腹に巻くという行為を通じて、お腹の中で育っている赤ちゃんとのつながりをより深く実感するきっかけにもなります。
• 役割2：物理的な「支え」として: こちらはメーカーや利用者が実感する機能的な役割です。具体的には、お腹を冷えから守る「保温」、外部からの衝撃を和らげる「保護」、そして最も重要な、大きくなるお腹の重みを支えて腰や背中への負担を軽減する「サポート」機能が挙げられます。¹

第2章：【専門家が解説】腹帯の医学的な効果と必要性

腹帯には深い文化的・心理的な意味合いがありますが、その効果を医学的な観点から客観的に評価することは、全体像を理解するために不可欠です。

2-1. 主張される効果を科学的エビデンスで検証

メーカーや利用者からは腹帯の様々な利点が挙げられています。ここでは、それらの主張を現存する科学的根拠に基づいて分析します。

• 腰痛・骨盤帯痛（LBP/PGP）の軽減: これは、最も多くの科学的根拠に支持されている利点です。複数の国際的なシステマティック・レビュー（質の高い研究を網羅的に分析したもの）によると、マタニティサポート製品（maternity support garments）の使用は、腰痛や骨盤帯痛に悩む妊婦の痛みを軽減し、日常の運動機能を改善する助けとなることが示されています。¹²¹³ 2015年のあるレビューでは、骨盤ベルトと鍼治療が、妊娠関連の痛みに対して強力な肯定的エビデンスを持つ二つの介入方法であると結論付けられています。¹² 日本国内でも、このテーマに関する研究はまだ限定的ですが、その効果を検証する試みが始まっています。¹⁴
• 保温・冷え対策: 日本で広く信じられている効果であり、物理的には合理的な考え方です。¹⁵ 体を温めることは血行改善につながります。しかし、腹帯の着用が切迫早産の予防など、特定の妊娠結果に直接結びつくことを証明した質の高い臨床研究は、現時点では存在しないことを明確にしておく必要があります。¹⁶
• 衝撃からの保護と姿勢のサポート: これらは、腹部に物理的なサポートを提供することによる合理的な副次的効果です。研究では、サポート製品の着用が妊婦のバランス感覚を改善し、転倒リスクを減らし、姿勢をわずかに改善する可能性があることが示唆されています。¹²
• 妊娠線の予防: お腹を支えることで皮膚への急激な伸展を和らげる可能性があるという論理的な根拠はあります。¹⁷ しかし、これは医学的に証明された主要な機能ではなく、効果には個人差が大きいと考えられます。

2-2. 日本の産科医療における腹帯の位置づけ

ここで極めて重要な点を明確にする必要があります。日本産科婦人科学会（JSOG）が発行する「産婦人科診療ガイドライン産科編2023」において、腹帯（はらおび）や妊婦帯（にんぷたい）の使用に関する言及や推奨は一切ありません。¹⁸
この事実は、日本の産科医療の最高権威の観点からは、腹帯が標準的または医学的に必須の妊婦ケアの一部とは見なされていないことを示しています。さらに、厚生労働省は腹帯について言及していますが、それは妊娠に特化したものではなく、重い物を持ち上げる際の腰痛予防といった一般的な労働安全衛生の文脈においてです。¹⁹ このことも、公的機関における腹帯の役割が、医療的というよりは補助的なものであることを裏付けています。

2-3. 産婦人科医の見解：腹帯は「必須」か「任意」か

これまでのエビデンスを総合すると、専門家としての見解は以下のように要約できます。

「腹帯は医学的に必須ではありません。着用しないことが、妊娠の経過に直接悪影響を及ぼすことはありません。¹⁵ しかし、腰痛などの不快な症状を和らげたり、保温による安心感を得られたりする場合、それは母体の快適性を向上させるための有効な選択肢となり得ます。」

「腹帯をしないと逆子になる」「お腹が早く大きくなる」といった一般的に聞かれる話には、医学的な根拠はありません。²⁰

2-4. 注意点：どんな時に使うべきではないか

• 締め付けすぎない: 帯をきつく締めすぎると、血行を妨げたり、陣痛の兆候となり得る「お腹の張り」といった重要な感覚を覆い隠してしまったりと、逆効果になる可能性があります。²⁰
• 長時間の使用を避ける: 特に高温多湿の環境下では、締め付けの強いタイプの帯を長時間着用し続けることは避けるべきです。¹²
• 医師に相談する: 着用によって痛みや不快感が増す場合や、何らかの妊娠合併症がある場合は、使用を中止し、かかりつけの医師に相談してください。

文化的な信仰と科学的根拠を照らし合わせることで、腹帯は宣伝文句のような「万能薬」ではないものの、主に腰痛の緩和と快適性の向上のために、正しく、目的に合わせて使用されれば、依然として有用なサポートツールとなり得ることがわかります。

第3章：あなたに最適な一枚を！腹帯・妊婦帯の選び方完全ガイド

数えきれないほどの製品を前にして、多くの妊婦さんが圧倒されてしまうかもしれません。²² しかし、段階的なアプローチを取ることで、選択肢を絞り込み、自分に最適な一枚を見つけることができます。

3-1. 【STEP 1】5つの「タイプ」からライフスタイルに合うものを選ぶ

比較を容易にするため、最も一般的な腹帯のタイプを以下の表にまとめました。

3-2. 【STEP 2】「使用シーン」と「サポート力」で絞り込む

• リラックス時・就寝時: 保温と包まれている安心感を得るために、腹巻タイプのようなソフトなサポート力のものを選びましょう。睡眠を妨げる可能性のある、締め付けの強いタイプは避けるべきです。²¹
• 仕事中・外出時: ずれにくいパンツタイプや、調節可能なサポートベルトタイプは、活動的に動く際のサポートに理想的です。²⁴
• 腰痛がひどい時: 痛みの緩和を目的として特別に設計されているサポートベルトタイプや骨盤ベルトが最も効果的な選択肢となります。⁷

3-3. 【STEP 3】「季節」と「素材」で快適さを追求

• 春夏シーズン: 綿（コットン）やパイル地、メッシュ素材など、通気性が良く、汗をよく吸う素材を選びましょう。²⁴
• 秋冬シーズン: 裏起毛素材など、保温性の高い素材がお腹を冷えから守ってくれます。²⁴
• 敏感肌の場合: オーガニックコットンやシルクなど、肌に優しい天然素材を優先しましょう。²⁴

3-4. 【STEP 4】「サイズ選び」の基本と注意点

• 基本ルール: 妊娠前の洋服のサイズを基準に選び始めます。²¹
• サイズ表の確認: 必ずメーカーの詳細なサイズ表を確認し、腹囲とヒップの測定値に基づいて選びましょう。²⁴
• 注意点: きつすぎる、あるいは緩すぎる帯は期待した効果を発揮しません。²¹ 体の変化に対応できる調節可能なタイプは、より柔軟性があります。

第4章：人気ブランド徹底比較！おすすめ腹帯・妊婦帯ランキング

日本の妊婦帯市場には多くのブランドが存在しますが、その中でも特に妊婦さんが知っておくべき3つの主要なブランドがあります。

4-1. 押さえておきたい主要3大ブランド：ワコール、ピジョン、犬印本舗

各ブランドの位置づけを理解することで、ご自身の優先順位に合った製品を迅速に見つけることができます。

• ワコール: 数十年にわたる女性の身体研究に基づいた高級な選択肢として位置づけられています。ワコールの製品はフィット感、快適さ、そして贅沢な素材で知られていますが、価格は高めになる傾向があります。²⁹
• ピジョン: ベビーケア分野での名声を活かした、実用的な選択肢です。ピジョンは機能的で使いやすい製品を多く提供しており、特に初めての妊婦さん向けのセット商品が人気です。²⁶
• 犬印本舗: マタニティウェア専門の老舗ブランドで、「妊婦帯」のパイオニアを自認しています。犬印は、伝統的なさらしから電磁波シールド機能付きの革新的な製品まで、最も幅広い製品ラインナップを誇ります。⁵

4-2. 【総合ランキング】今、選ばれている人気腹帯TOP10

専門家の評価、販売データ、そしてユーザーの口コミに基づき選定した製品リストです。²⁸³³

1. ワコール | マタニティ 妊婦帯 腹巻タイプ (MRP476)
   タイプ: 腹巻 | 参考価格: ¥3,600 – ¥4,700
   概要: 伸縮性に優れ、お腹の変化にぴったりフィット。肌触りが柔らかく、その快適さで多くの人から愛されています。
   利用者の声: 「着け心地の良さと適度なサポート力を評価する声が多いですが、臨月には少しきつく感じたという意見もありました。」³²
2. ピジョン | はじめてママの妊婦帯セット
   タイプ: 腹巻＋サポートベルトセット | 参考価格: ¥2,800 – ¥3,600
   概要: 初めての妊婦さんに最適なセットで、妊娠時期に応じて柔軟に使用できます。
   利用者の声: 「両方のタイプが入っていて便利。お腹が大きくなるにつれてサポート力を調節できるのが良い。」⁴³
3. 犬印本舗 | ninaruコラボ サポートベルト＆腹巻セット
   タイプ: 腹巻＋サポートベルトセット | 参考価格: ¥3,850
   概要: 人気の妊娠アプリ「ninaru」とのコラボ商品で、多くの妊婦さんの声に基づいて設計されています。
   利用者の声: 「設計が丁寧で、サポートベルトがしっかりしているのに苦しくない。」
4. トコちゃんベルトII (青葉)
   タイプ: 骨盤ベルト | 参考価格: ¥6,500 – ¥8,000
   概要: 骨盤ベルトの「王様」的存在で、腰痛や恥骨痛の緩和に非常に効果的。正しく着用するためには指導を受けることが推奨されます。
   利用者の声: 「痛みの軽減効果は明らかだが、着用方法に慣れるまで時間が必要。」³⁵
5. アンジェリーベ | 日本助産師会推奨 ベルト式腹帯
   タイプ: サポートベルト | 参考価格: 約¥5,000
   概要: 日本助産師会から推奨されており、品質と機能性が保証されています。上下の二重ベルトが効果的にサポートします。
   利用者の声: 「しっかりと支えられている感じがあり、歩行が楽になった。」³⁶
6. … (その他トップ10製品)

4-3. 【お悩み・目的別】専門家が選ぶおすすめ腹帯

総合ランキングに加えて、特定のニーズに合わせて選ぶことで、最も効果的な製品を見つけることができます。

• 腰痛・骨盤痛がひどい方向け: アンジェリーベの「日本助産師会推奨ベルト」³⁶のようなしっかりした構造のサポートベルトや、「トコちゃんベルトII」⁶のような専門的な骨盤ベルトが最良の選択です。
• 帝王切開後の方向け: 術後専用の腹帯（術後腹帯）を選ぶ必要があります。これらの製品は、創部を保護し、素材が柔らかく刺激が少ないように設計されており、通常の妊婦帯とは異なります。犬印本舗の「帝王切開後の腹部保護帯」などが一例です。²⁸³⁷
• 敏感肌の方向け: オーガニックコットン製やその他の天然素材で、刺激の少ない製品を優先しましょう。犬印本舗の製品には、この選択肢が多く見られます。²⁴
• 信頼性で選ぶ – 「日本助産師会推奨」の帯: 製品がこの認証を得ていることは、機能性と安全性について専門的な評価を経ていることを示します。これは品質に関する信頼できる指標です。³⁶

第5章：腹帯（妊婦帯）の正しい使い方とQ&A

最適な一枚を見つけたら、次はその効果を最大限に引き出すための正しい使い方を学びましょう。

5-1.【図解】意外と知らない？さらしタイプの基本的な巻き方

（注：正確な巻き方には視覚的な図解が不可欠ですが、ここでは手順を文章で説明します。）

1. さらし布を縦に二つ折りにします。
2. お腹の正面から始め、布を背中に回し、背中で交差させてから前に持ってきます。
3. 下から上に向かって、下腹部を優しく持ち上げるように巻いていきます。各周は、前の周に約半分重なるようにします。
4. お腹全体が覆われるまで巻き、最後に布の端を上部の層にしっかりと挟み込みます。

5-2. いつからいつまで？着用の開始・終了時期の目安

• 開始時期: 一般的には妊娠5ヶ月目の「戌の日」からですが、お腹の重さや腰の不快感を感じ始めたらいつでも構いません。³
• 終了時期: 厳密なルールはありません。ほとんどの方は出産後に使用をやめます。ただし、骨盤ベルトや術後用の帯のように、産後の回復をサポートするために設計されたタイプもあります。⁷

5-3. 就寝時もつけたほうがいい？

これは任意であり、必須ではありません。²¹ 帯を着用することで温かさや安心感が得られ、より快適に感じるのであれば着用しても良いでしょう。ただし、その場合は腹巻タイプのような柔らかく伸縮性のあるものを選び、血行を妨げたり安眠を妨害したりする可能性のある締め付けの強いタイプは避けるべきです。²¹

5-4. 使い終わった腹帯はどうする？

• 再利用（リメイク）: さらしタイプの場合、赤ちゃんの布おむつや沐浴布として再利用したり、防災袋に入れておいて包帯として活用したりできます。⁸
• お焚き上げ: 神社でご祈祷を受けた帯の場合、伝統的にはゴミ箱に捨てるのではなく、感謝を込めて神社に返納し、お焚き上げをしてもらうのが丁寧な方法です。¹⁰

よくある質問

結論

妊婦帯や腹帯は、伝統的な「腹帯」であれ現代的な「妊婦帯」であれ、妊娠中において医学的に必須のアイテムではありません。科学的根拠が最も強く支持しているのは、腰痛や骨盤帯痛を軽減し、母体の快適性を高めるための使用です。
しかし、その価値は物理的な機能だけにとどまりません。多くの人々にとって、それは文化的なシンボルであり、安心感と赤ちゃんとのつながりをもたらす「お守り」でもあります。
最終的な選択は、完全にあなた自身に委ねられています。ご自身の体に耳を傾け、ライフスタイルや直面している不快感を考慮してください。腰痛を和らげるためにしっかりとしたサポートベルトを選ぶのか、保温のために柔らかい腹巻を選ぶのか、あるいは何も使用しないという決断をするのか。最も重要なのは、あなたが快適で自信を持って過ごせることです。
この記事が、残りの妊娠期間を幸せで心地よく過ごすための完璧な一枚を見つけるための一助となれば幸いです。