美肌を遠ざける9つの誤解:あなたのスキンケアは大丈夫?
皮膚科疾患

美肌を遠ざける9つの誤解:あなたのスキンケアは大丈夫?

「美肌を目指して毎日丁寧にお手入れしているのに、なぜか肌の悩みは一向に改善しない… それどころか、悪化している気さえする。」
もしあなたがこのように感じているなら、その原因は日々のスキンケア習慣そのものにあるのかもしれません1。現代は、ブログやSNS、雑誌、そして化粧品の広告に至るまで、膨大な美容情報で溢れています。しかし、その中には科学的根拠の乏しい情報や、誤解を招くような古い常識、さらには単なる「美容の都市伝説」も数多く紛れ込んでいます2, 3。このような誤った情報に基づいてスキンケアを行うことは、「肌誤解(はだごかい)」と呼ばれ、良かれと思って続けている努力が、かえって肌の健康を損なう大きな原因となり得るのです4
JAPANESEHEALTH.ORGは、読者の皆様が信頼できる健康情報に基づいて、より良い選択ができるよう支援することを使命としています。この記事では、巷に溢れるスキンケアの「常識」を、皮膚科学の観点から徹底的に検証します。そのために、日本皮膚科学会(Japanese Dermatological Association)や米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology, AAD)といった権威ある専門機関の診療ガイドライン、そして査読付き学術雑誌に掲載された臨床研究の論文など、質の高い科学的エビデンス(根拠)のみを基に解説を進めます5。これは、ウェブ上の健康情報に求められる最も重要な要素、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を最高レベルで満たすための私たちの約束です10
この記事を貫く中心的な科学的原則は、「皮膚のバリア機能」です。私たちの皮膚の一番外側にある角質層(stratum corneum)が持つこの機能こそが、健やかで美しい肌の礎です。バリア機能は、紫外線や病原体、アレルゲンといった外部の刺激から肌を守り、同時に体内の水分が過剰に蒸発する(経皮水分蒸散:TEWL)のを防ぐ、生命維持に不可欠な役割を担っています11。これから解き明かしていく9つの誤解の多くは、知らず知らずのうちにこの重要なバリア機能を傷つけてしまっているのです。
本稿では、以下の9つの誤解を一つひとつ科学的に解き明かし、あなたのスキンケアが本当に肌のためになっているのかを再確認する旅へとご案内します。正しい知識を身につけ、スキンケアの迷路から抜け出しましょう。

医学的レビュー担当者:
本記事の専門的妥当性は、皮膚科医 吉木伸子先生の見識に基づき検証されています26


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示すリストです。

  • 日本皮膚科学会(Japanese Dermatological Association): 本記事における尋常性痤瘡(ニキビ)や酒皶(しゅさ)に関する治療・ケアの推奨事項は、同学会の治療ガイドラインに基づいています6
  • 米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology, AAD): 365日の紫外線対策や基本的なスキンケアに関する指針は、同学会が推奨する内容を参考にしています7
  • 査読付き学術論文: 皮膚バリア機能、保湿剤の役割、各成分の有効性に関する記述は、PubMed Central (PMC)などで公開されている臨床研究や総説論文に基づいています8, 13, 14

この記事の要点

  • 脂性肌やニキビ肌でも保湿は必須。乾燥させると逆に皮脂が増え、バリア機能が低下します。
  • 洗顔は「優しく、素早く、ぬるま湯で」が鉄則。ゴシゴシ洗いはバリア機能を破壊します。
  • 化粧品の「浸叩き込み」は肌を傷つけるだけ。優しくハンドプレスで馴染ませるのが正解です。
  • シートマスクは推奨時間を守り、使用後は必ず乳液やクリームで「フタ」をしないと効果が半減します。
  • 肌老化の最大の原因は紫外線。日焼け止めは季節や天候を問わず「365日」必要です。
  • 高価な化粧品が必ずしも良いとは限りません。基本は「洗顔・保湿・日焼け止め」のシンプルケアです。
  • 「自然派=安全」は誤解。合成でも安全性の高い成分は多数あり、肌との相性が最も重要です。
  • 過度なピーリングはバリア機能を損ないます。角質ケアは週1回程度の穏やかなものに留めましょう。
  • できてしまったシミやシワも、レチノールや美白有効成分などの継続使用で改善が期待できます。

【第一部】美肌の鍵「皮膚バリア機能」を科学する

多くのスキンケアの誤解は、皮膚の最も基本的な機能、すなわち「バリア機能」への理解不足から生じています。この機能を正しく理解することこそ、美肌への最短ルートです。ここでは、その科学的な仕組みを詳しく見ていきましょう。

1.1. 皮膚の構造と「角質層」の重要性

皮膚は複数の層から成り立っていますが、スキンケアにおいて最も重要なのが、表皮の一番外側にある厚さわずか0.02mmほどの「角質層」です。この極めて薄い層が、私たちの体を外部環境から守る最前線の砦、すなわちバリア機能の中心を担っています。

角質層の構造は、しばしば「レンガとモルタル」のモデルで説明されます14。角質細胞が「レンガ」、そしてその隙間を埋める細胞間脂質が「モルタル」の役割を果たします。このモルタルの主成分がセラミドであり、その他にコレステロールや遊離脂肪酸などが層状(ラメラ構造)に整然と並ぶことで、水分の蒸発を防ぎ、外部からの異物の侵入をブロックする強固な壁を形成しています14

一方、レンガである角質細胞の内部には、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor, NMF)と呼ばれるアミノ酸などの水分を抱え込む性質を持つ物質が存在し、細胞自体の潤いを保っています13

しかし、このバリア機能は単なる物理的な壁ではありません。近年の研究では、バリア機能は以下の4つの層が相互に連携して機能する、動的で複雑なシステムであることがわかっています14

  • 物理的バリア:今説明した「レンガとモルタル」構造そのもの。
  • 化学的バリア:皮膚表面が弱酸性(pH 4.0~6.0)に保たれている「皮脂膜」。この酸性の環境が、病原菌の繁殖を抑え、角質層が正常に剥がれ落ちるために必要な酵素の働きを最適化します12
  • 微生物学的バリア:皮膚表面に存在する常在菌フローラ(マイクロバイオーム)。善玉菌が優位な環境を保つことで、悪玉菌の増殖を防ぎます。
  • 免疫学的バリア:異物が侵入した際に働く、皮膚の免疫システム。

この4層構造の理解は極めて重要です。なぜなら、例えばアルカリ性の強い洗顔料を使うといった一つの誤ったケアが、化学的バリア(pHの上昇)を崩すだけでなく、微生物学的バリア(常在菌バランスの乱れ)や物理的バリア(細胞間脂質の流出)にも連鎖的に悪影響を及ぼし、システム全体を脆弱にしてしまうからです。スキンケアとは、単に「保湿する」ことではなく、「この複雑な生態系を健全にサポートする」行為なのです。

1.2. バリア機能を測る指標:経皮水分蒸散量(TEWL)と肌のpH

皮膚科学の臨床研究では、バリア機能の状態を客観的に評価するために、いくつかの指標が用いられます。その代表が経皮水分蒸散量(Transepidermal Water Loss, TEWL)です8。これは、皮膚を通して自然に失われる水分の量を測定したもので、バリア機能が低下している(=壁に隙間ができている)肌ほど、TEWLの値は高くなります。逆に、TEWLが低いということは、バリア機能が健全で、肌の潤いがしっかりと保たれている証拠です。

臨床試験で「TEWLが有意に低下した」という結果は、消費者が「肌の乾燥が改善した」「しっとり感が持続するようになった」と感じる状態を科学的に裏付けていると言えます8

もう一つの重要な指標が、前述した皮膚のpHです。健康な肌表面はpH 4.0~6.0の弱酸性に保たれていますが、洗浄力の強い洗顔料の使用や、乾燥によってバリア機能が低下すると、pHがアルカリ性に傾きやすくなります。アルカリ性の環境では、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が繁殖しやすくなるだけでなく、角質層の構造を維持する酵素の働きが阻害され、バリア機能のさらなる低下を招く悪循環に陥ります12

1.3. 日本人の肌の特徴とスキンケア文化

科学的な知見に加えて、私たち日本人の肌が持つ遺伝的な特徴と、歴史的に育まれてきた独自の文化を理解することも、誤解を解く上で欠かせません。

まず生理学的な特徴として、日本人の角質層は、白人の約3分の2の厚さしかないことが研究で示されています17。これは、日本人の肌が物理的な摩擦や化学的な刺激に対して、より敏感でデリケートであることを意味します。バリア機能が元々脆弱になりやすい素因を持っているのです。

一方で、日本の美容文化には、江戸時代から続く「取り去る美容」という考え方が根付いています17, 18。これは、汚れや古い角質を徹底的に洗い流し、清浄な状態にすることを美の基本とする価値観です。また、白く透明感のある肌を理想とする「美白」への強い意識も、日本のスキンケア文化の大きな特徴です19, 20

ここに、「文化的な嗜好」と「生理学的な特性」の間のコンフリクトが生じます。文化的には「さっぱり、つるつるになるまでしっかり洗いたい」という欲求がある一方で、生理学的には「角質層が薄くデリケートなので、優しく扱わなければならない」という要請があるのです。この矛盾こそが、多くの日本人を「洗いすぎ」や「こすりすぎ」といった、バリア機能を損なうスキンケアの誤解へと導いている根本的な要因の一つと考えられます。

この記事では、日本の文化に深く根ざした美意識に共感を示しつつも、「しかし、私たちの肌の特性を考えると、科学的にはこのようなアプローチがより効果的です」という、専門家ならではの、よりパーソナライズされた視点から解説を進めていきます。

【第二部】美肌を遠ざける9つの誤解と科学的真実

ここからは、具体的な9つの誤解を一つずつ取り上げ、科学的エビデンスに基づいてその真相を解き明かしていきます。あなたのスキンケア習慣と照らし合わせながら、読み進めてみてください。

誤解1:脂性肌・ニキビ肌に「保湿」は不要、むしろ悪化させる

【The Myth – よくある誤解】
「自分は脂性肌(オイリー肌)だから、これ以上ベタつきたくない」「ニキビができるのは油分が多いせいだから、保湿剤(乳液やクリーム)は使わない方がいい」―。これは、特に皮脂分泌が活発な若年層や、ニキビに悩む方に根強く信じられている誤解です21。さっぱりとした洗い上がりの洗顔料を使い、その後のケアは化粧水だけ、あるいは何もしないという方も少なくありません。

【The Science – 科学的根拠】
この考え方は、皮膚の生理機能を根本的に誤解しています。洗浄力の強い洗顔料で皮脂を必要以上に取り去ってしまうと、肌は乾燥状態に陥ります。すると、皮膚は失われた潤いを補おうとして、かえって皮脂の分泌を活発化させるというフィードバック機構が働きます。これが、いわゆる「インナードライ」と呼ばれる、肌内部は乾燥しているのに表面はベタつく状態です21。この悪循環は、肌の水分と油分のバランスを著しく崩し、バリア機能を低下させます。

ニキビは単に「皮脂が多すぎること」だけが原因ではありません。むしろ、ニキビとは「毛穴の炎症」であり、多くの場合「バリア機能が低下した肌」で起こるという視点が、皮膚科学における現代的な理解です。実際、日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡(ニキビ)治療ガイドライン」では、ニキビ治療薬(アダパレンや過酸化ベンゾイルなど)による乾燥や刺激といった副作用を軽減し、治療の継続性を高めるために、保湿剤などのスキンケア製品の併用が推奨されています6

さらに、ニキビ治療における保湿剤の有効性を示した臨床研究も存在します。標準的なニキビ治療と並行して保湿剤を使用した群では、使用しなかった群に比べて、治療による刺激感が少なく、バリア機能の指標である経皮水分蒸散量(TEWL)の改善が見られたと報告されています16。これは、保湿がニキビ治療の妨げになるどころか、治療をサポートする重要な役割を果たすことを示しています。

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 脂性肌やニキビ肌を含む、すべての肌タイプにとって保湿は不可欠です。重要なのは、肌の水分と油分のバランスを整えることであり、油分をゼロにすることではありません。

実践プラン:

  • 保湿剤の選択: 油分が少なく、軽い使用感の製品を選びましょう。「オイルフリー」や「ノンコメドジェニックテスト済み(ニキビのもとになりにくい処方)」と表示されたジェルや乳液が適しています21
  • 成分に注目: 水分を抱え込む性質のあるヒアルロン酸やグリセリンなどの湿潤剤(Humectant)を豊富に含む製品がおすすめです。重い感触のワセリンやミネラルオイルが主体の閉塞剤(Occlusive)が多量に配合されたクリームは、毛穴を塞ぐ可能性が気になる場合は避けた方が良いかもしれません。
  • 部分的な使い分け: 顔全体はベタつくけれど、目元や口元は乾燥するという「混合肌」の場合は、保湿剤を使い分けるのも有効です。Tゾーンにはさっぱりした乳液を、乾燥するUゾーンには少し保湿力の高いクリームを、というように、肌の状態に合わせてケアを調整しましょう24

この誤解の根底には、ニキビを「攻撃」して治そうという発想があります。しかし、科学的なアプローチは、肌のバリア機能を「癒し、サポートする」ことで、ニキビができにくい、健やかな肌環境を育むことにあります。

誤解2:洗顔はゴシゴシ、時間をかけて「しっかり」洗うべき

【The Myth – よくある誤解】
「メイクや皮脂汚れを毛穴の奥からスッキリ落とすには、力を入れてゴシゴシこすり、時間をかけて洗うのが一番」―。この考え方は、特に日本の「取り去る美容」文化と相まって、多くの人が無意識のうちに実践してしまっている、最も肌にダメージを与える誤解の一つです1

【The Science – 科学的根拠】
皮膚科学の観点から見ると、「ゴシゴシ洗い」は百害あって一利なしです。その理由は主に二つあります。

第一に、物理的な摩擦(まさつ)です。タオルやスクラブ、そして指先で肌を強くこすることは、デリケートな角質層を物理的に削り取り、傷つける行為です。これにより、バリア機能の要である角質細胞の配列が乱れ、細胞間脂質が流出してしまいます11

第二に、界面活性剤への過剰な曝露です。クレンジング剤や洗顔料に含まれる界面活性剤は、油性の汚れを水と馴染ませて洗い流すために不可欠な成分ですが、肌に必要な皮脂や細胞間脂質までも洗い流す作用があります。洗浄時間が長くなればなるほど、これらの重要な保湿成分が奪われ、バリア機能は著しく低下します1

さらに、熱いお湯(一般的に35℃以上)での洗顔も、皮脂を過剰に溶かし出し、乾燥を助長する要因となります11。日本皮膚科学会のニキビ治療ガイドラインでも、1日2回の「優しい」洗顔が推奨されており、過度な洗浄は避けるべきとされています6

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 洗顔の目的は、不要な汚れや余分な皮脂を落とすことであり、肌のバリア機能を構成する必須成分まで取り去ることではありません。洗顔は「優しく、素早く、ぬるま湯で」が鉄則です。

実践プラン:

  • たっぷりの泡をクッションに: 洗顔料は手のひらで十分に泡立て、弾力のある泡を作ります。この泡がクッションとなり、指と肌との直接的な摩擦を防ぎます11。泡立てネットを使うのも効率的です。
  • 優しくなでるように: 泡を顔全体に広げたら、ゴシゴシこするのではなく、泡を転がすように優しくなでます。
  • 時間は1分以内: クレンジング料や洗顔料が肌に触れている時間は、合計で1分以内を目安にしましょう1
  • ぬるま湯ですすぐ: すすぎは、体温より少し低い33~35℃程度のぬるま湯が理想的です11。シャワーを直接顔に当てるのは水圧が強すぎるため避け、手で優しくお湯をかけて洗い流しましょう。
  • タオルは押さえるように: 洗顔後の水分を拭き取るときも、タオルでこするのではなく、優しく顔に押し当てて水分を吸わせるようにします25

ここで、日本のスキンケアの基本ともいえる「ダブル洗顔」について触れておく必要があります。メイクや日焼け止めを落とすために、クレンジング料(オイルやバームなど)の後に洗顔料を使うダブル洗顔自体は、合理的な方法です22。しかし、それは「2回、肌に負担をかける」ことと表裏一体です。専門家として推奨する安全なダブル洗顔のプロトコルは、1回目のクレンジングも、2回目の洗顔も、上記の「優しく、素早く」の原則を厳守することです。特に、2回目の洗顔料は、洗浄力がマイルドで、肌のpHを乱しにくい弱酸性の製品を選ぶことが、バリア機能を守る上で極めて重要です。

誤解3:化粧品は「肌に浸透する」ほど効果が高い

【The Myth – よくある誤解】
「角層の奥深くまでグングン浸透!」―。化粧品の広告で頻繁に目にするこの種の表現から、「成分が肌の奥まで届けば届くほど、その化粧品は効果が高い」と信じている方は多いでしょう26。そして、その「浸透」を助けようと、化粧水を肌に強く叩き込んだり、クリームを力を込めて擦り込んだりしていませんか?1

【The Science – 科学的根拠】
この「浸透神話」は、皮膚の最も基本的な役割を無視しています。皮膚の第一の機能は、外部からの異物の侵入を防ぐ「バリア」であることです26。もし、どんな物質でも簡単に肌の奥深くまで浸透してしまうなら、私たちの体は病原菌や有害物質に対して無防備になってしまいます。

化粧品の有効性は、単純な「浸透の深さ」で決まるわけではありません。「適切な成分が、適切な場所で、適切に作用すること」が重要です。皮膚科医の吉木伸子先生が指摘するように、多くの保湿成分(例えば、高分子のヒアルロン酸やワセリンなど)に期待される役割は、角質層の表面に留まり、水分の蒸発を防いだり、角層に水分を保持したりすることです。これらの成分がもし皮膚の奥深くまで浸透してしまったら、本来の役割を果たせなくなってしまいます26

一方で、ビタミンC誘導体やレチノールといった一部の有効成分は、より深い層(表皮の生きた細胞や真皮)に到達することで効果を発揮するように設計されています。しかし、これは成分の分子量を小さくしたり、脂溶性にするなど、高度な製剤技術によって可能になるものであり、消費者が物理的に「押し込む」ことで実現できるものではありません27。むしろ、肌を強く叩いたりこすったりする行為(パッティング)は、肌への刺激となって微細な炎症を引き起こし、その結果、シミ(炎症後色素沈着)の原因になったり、肌のくすみを招いたりするリスクがあります11

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 化粧品の効果は「浸透」という曖昧な言葉ではなく、科学的な作用機序によって決まります。物理的な力で浸透を促そうとする行為は、肌にダメージを与えるだけです。

実践プラン:

  • 叩かない、こすらない: 化粧水や美容液、クリームなどをつける際は、手のひらで顔全体を優しく包み込むようにハンドプレスして馴染ませましょう。
  • 製品の目的を理解する: 保湿剤は角層を潤し、保護するもの。美白やシワ改善を謳う美容液は、特定の有効成分を届けるもの。それぞれの目的を理解し、広告の「浸透」という言葉に惑わされず、自分の肌で感じられる効果で製品を評価しましょう。
  • 法律上の区別を知る: 日本の薬機法(旧・薬事法)では、化粧品に認められている効能効果の範囲は厳密に定められています。「肌を整える」「皮膚にうるおいを与える」といった、人体への作用が緩和なものが「化粧品」です28。一方で、「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ(美白)」や「シワを改善する」といった、より積極的な効果を謳うことができるのは、厚生労働省が有効成分を承認した「医薬部外品」です27。この区別を知ることは、マーケティング言語を批判的に読み解き、製品に現実的な期待を抱く上で非常に役立ちます。

誤解4:シートマスクは毎日、そして長く着けるほど潤う

【The Myth – よくある誤解】
手軽に集中保湿ができるシートマスクは、人気のスキンケアアイテムです。その手軽さから、「毎日使えば肌はもっと潤うはず」「シートが乾くまで、できるだけ長く貼っておいた方が成分が浸透してお得」と考える人が後を絶ちません29

【The Science – 科学的根拠】
この習慣には、二つの大きな落とし穴があります。

第一に、長時間の使用による逆効果です。シートマスクが肌に水分を与えるのは、マスクが肌よりも湿っている間だけです。製品に記載された推奨時間を超えて貼り続けると、やがてシートの水分が蒸発し、肌よりも乾燥した状態になります。すると、浸透圧の原理により、今度は肌の水分が乾燥したシート側に吸い取られてしまうという逆転現象が起こります。つまり、潤すためにつけたマスクが、逆に肌の乾燥を招いてしまうのです29

第二に、製品タイプによる適切な使用頻度の違いです。シートマスクは、大きく二つのタイプに分けられます。一つは、化粧水代わりに毎日使えるように設計された、さっぱりとした使用感の「デイリータイプ」30。もう一つは、高濃度の美容液成分や特殊な成分を配合した「スペシャルケアタイプ」です。後者を毎日使用すると、肌にとって過剰な栄養(栄養過多)となり、かえってバリア機能のバランスを崩したり、ニキビや肌荒れの原因になったりする可能性があります31

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: シートマスクの効果を最大限に引き出す鍵は、「推奨時間を守ること」と「製品タイプに応じた頻度で使うこと」、そして「マスク後のケア」にあります。

実践プラン:

  • 推奨時間を厳守: パッケージに記載されている使用時間(通常5分~15分程度)を必ず守りましょう。まだシートが湿っているように感じても、時間になったら剥がすことが重要です。
  • タイプを見極める: 大容量で安価な製品の多くは、毎日使える化粧水タイプのマスクです。これらは、肌の調子が良ければ毎日の習慣にしても良いでしょう33。一方、個包装で高価な美容液マスクは、週に1~2回の集中ケアとして使うのが賢明です31
  • 必ず「フタ」をする: シートマスクは、それ自体でスキンケアが完了するものではありません。その役割は、主に水分や水溶性の保湿成分(湿潤剤)を角質層に集中的に届けることです。マスクを剥がした後は、その潤いが蒸発してしまわないように、必ず乳液やクリームなどの油分を含む保湿剤で「フタ」をして、水分を閉じ込める必要があります29。この最後のステップを怠ると、せっかくの保湿効果が半減してしまいます。シートマスクはスキンケアの「最終工程」ではなく、潤いを補給する「中間工程」と捉えることが、科学的に正しい理解です。

誤解5:日焼け止めは夏や晴れの日だけで十分

【The Myth – よくある誤解】
「日焼け止めを塗るのは、海や山へ行く時だけ」「冬や曇りの日は紫外線が弱いから必要ない」―。多くの人が、日焼け止めを「日焼け(サンバーン)」を防ぐための特別なアイテムと捉えており、日常的な使用を怠りがちです25

【The Science – 科学的根拠】
これは、美肌を維持する上で最も致命的な誤解と言っても過言ではありません。皮膚科学における最大のコンセンサスの一つは、「肌老化の最大の原因は、紫外線による光老化(ひかりろうか)である」という事実です。研究によっては、肌老化の約7割から8割が紫外線によるものだと推定されています22

私たちが浴びる紫外線には、主に2種類あります。

  • UVB(紫外線B波): エネルギーが強く、肌表面に作用して赤みやヒリヒリといった日焼け(サンバーン)を引き起こします。シミの原因にもなります。ガラスである程度ブロックされます。
  • UVA(紫外線A波): エネルギーは弱いものの、波長が長く、皮膚の奥深く(真皮)まで到達します。コラーゲンやエラスチンといった肌のハリを支える組織にダメージを与え、シワやたるみの主な原因となります。UVAは、雲や窓ガラスを透過するため、曇りの日でも、室内でも、私たちの肌に降り注いでいます34

つまり、日焼け止めを塗らないでいることは、季節や天候に関わらず、毎日肌の老化を自ら進めているのと同じことなのです。この事実は、米国皮膚科学会(AAD)をはじめとする世界中の皮膚科学会が、365日の紫外線対策を強く推奨している理由です7。また、日本皮膚科学会の酒皶(しゅさ)治療ガイドラインにおいても、症状の悪化因子として日光が挙げられており、適切な遮光が推奨されています6

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 日焼け止めは、季節限定の化粧品ではなく、肌の健康を守り、老化を防ぐための「毎日使うべき健康必需品」です。

実践プラン:

  • 365日の習慣に: 天候や季節、屋内外を問わず、毎日、朝のスキンケアの最後に日焼け止めを塗ることを習慣にしましょう。
  • 製品の選び方: シワやたるみの原因となるUVAを防ぐ指標「PA」と、日焼けの原因となるUVBを防ぐ指標「SPF」の両方が表示された「ブロードスペクトラム」の製品を選びます。日常生活では「SPF30、PA+++」以上が目安です7
  • 十分な量を塗る: 製品に記載された効果を得るためには、十分な量を塗ることが不可欠です。顔全体で、液状タイプなら500円玉大、クリームタイプならパール粒2個分が目安です。
  • 塗り直し: 汗をかいたり、タオルで拭いたりした後はもちろん、屋外で長時間過ごす場合は2~3時間おきに塗り直すことが理想的です7
  • 肌タイプに合わせる: 脂性肌やニキビ肌の方は、「ノンコメドジェニックテスト済み」の日焼け止めを選ぶと、毛穴詰まりのリスクを減らせます21

多くの人が悩む「シミ・くすみ」や「シワ・たるみ」36, 37に対して、最も効果的で、最もコストパフォーマンスの高い対策は、高価な美容液ではなく、毎日欠かさず日焼け止めを塗ることなのです。この動機付けを、季節的な美容から長期的な健康維持へとシフトさせることが、美肌への鍵となります。

誤解6:高価な化粧品ほど、また多くの製品を重ねるほど効果的

【The Myth – よくある誤解】
「値段が高い化粧品は、それだけ良い成分が入っているに違いない」「スキンケアは、化粧水、導入美容液、美容液、乳液、クリームと、たくさんのアイテムを重ねた方が肌に良いはずだ」―。価格やステップの多さが、そのまま効果に比例するという考え方です24

【The Science – 科学的根拠】
化粧品の価格は、研究開発費や原材料費だけでなく、広告宣伝費、パッケージデザイン、ブランドのイメージ戦略など、多くの要因によって決まります。したがって、価格と効果は必ずしも比例しません24。重要なのは、価格ではなく「処方(フォーミュレーション)」です。つまり、どのような成分が、どのような濃度で、どのようなバランスで配合されているか、そしてそれが自分の肌質や悩みに合っているかどうかが全てです。科学的に効果が証明された成分を適切な濃度で配合した安価な製品が、イメージだけで高価な製品よりもはるかに効果的であることは珍しくありません。

また、多くの製品を無計画に重ねる「足し算のスキンケア」も問題です。皮膚が一度に吸収・処理できる成分の量には限界があります24。必要以上に油分の多いクリームやオイルを重ねると、毛穴を詰まらせてニキビの原因になったり、肌表面がベタつくだけで内部は潤わないという事態を招いたりします24。さらに、使用する製品数が多ければ多いほど、配合されている防腐剤や香料、その他の添加物に肌が反応し、接触皮膚炎(かぶれ)やアレルギーを引き起こすリスクも高まります。

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: スキンケアの基本は「シンプル is ベスト」。自分の肌に必要な、厳選された少数の製品を継続して使う方が、高価で複雑なルーティンよりも効果的かつ安全です。

実践プラン:

  • 基本の3ステップを確立する: まずは、以下の3つの基本を徹底しましょう。
    1. 優しい洗顔
    2. 適切な保湿(自分の肌質に合った保湿剤1品)
    3. 毎日の日焼け止め

    これだけで、肌の健康の大部分は維持できます38

  • 悩みには「1点集中」で追加: 特定の悩み(シミ、シワ、ニキビなど)がある場合は、その悩みに特化した有効成分を含む美容液などを1つだけ追加します。一度に複数の新しい製品を試すと、どれが効果があったのか、あるいは肌荒れの原因になったのかが分からなくなってしまいます。
  • ライン使いに固執しない: 同じブランドの製品をラインで揃える必要は全くありません24。洗顔料はA社、保湿剤はB社、日焼け止めはC社というように、各ステップで自分の肌に最も合うと感じる製品を、ブランドの垣根を越えて選ぶのが賢明です。

この「ミニマリズム」のアプローチは、単に時間やお金の節約になるだけでなく、肌への刺激リスクを最小限に抑え、長期的な肌の健康を維持するための、科学的根拠に基づいた戦略なのです。

誤解7:「自然派」「オーガニック」な成分は、必ず肌に優しい

【The Myth – よくある誤解】
「化学成分は肌に悪そうだから、植物由来の自然派化粧品やオーガニック認証の製品を選べば安心」―。「ナチュラル」「ボタニカル」といった言葉に、無条件の安全性と優しさを感じる人は少なくありません。

【The Science – 科学的根拠】
この誤解は、「自然=安全、化学(合成)=危険」という単純な二元論に基づいた「ケモフォビア(化学物質嫌悪)」から生じています。しかし、科学的にはこの考え方は正しくありません。

まず、自然由来の成分が必ずしも安全とは限りません。植物には、アレルギー反応や皮膚刺激を引き起こす可能性のある多種多様な物質が含まれています。例えば、ウルシは100%天然の植物ですが、強力なアレルゲンです。化粧品に配合されるエッセンシャルオイル(精油)や特定の植物エキスも、人によっては接触皮膚炎の原因となり得ます。

逆に、合成された成分の中には、極めて安全性が高く、皮膚科学の現場で長年使用されてきたものが数多くあります。その代表例が、保湿剤として非常に優れたワセリンや、感触を良くするために使われるジメチコン(シリコーンの一種)です。これらの成分は化学的に非常に安定しており、アレルギー反応を起こす可能性が極めて低い(不活性である)ため、敏感肌用の製品や医療用軟膏の基剤としても広く用いられています13

また、「オーガニック」や「自然派」という表示は、化粧品においては法的に厳密な定義がなく、その基準はメーカーや認証団体によって様々です。重要なのは成分の「由来」ではなく、その成分の「純度」「濃度」「処方」、そして最終製品としての「安全性試験」が適切に行われているかどうかです。

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 製品の安全性と有効性は、成分が自然由来か合成かではなく、科学的な品質管理と、個人の肌との相性によって決まります。

実践プラン:

  • マーケティング用語に惑わされない: 「自然派」「無添加」といった言葉のイメージだけで製品を選ばず、全成分表示を確認する習慣をつけましょう。
  • 敏感肌向けの処方を選ぶ: 肌が敏感な方は、「敏感肌用」「低刺激性」「アレルギーテスト済み」「スティンギングテスト済み(ピリピリ感を評価するテスト)」といった表示のある製品を選ぶ方が、単に「オーガニック」と書かれた製品を選ぶよりも合理的です。
  • パッチテストを行う: 新しい化粧品を使用する前には、必ず目立たない場所(腕の内側など)でパッチテストを行い、赤みやかゆみが出ないかを確認しましょう。

科学的な視点とは、由来にとらわれず、物質そのものの性質を評価することです。例えば、研究室で高純度に精製された合成セラミドは、私たちの肌に元々存在するセラミドと化学構造が同一であり、多くの不純物を含む可能性のある粗雑な植物エキスよりも、はるかに安全かつ効果的である場合があります。このように、化学を正しく理解することが、賢い製品選びにつながります。

誤解8:ピーリングやスクラブで角質を「リセット」できる

【The Myth – よくある誤解】
「肌がゴワゴワする」「化粧ノリが悪い」と感じた時、ピーリング剤やスクラブ洗顔料で古い角質を取り除き、肌を「リセット」したくなる人は多いでしょう。頻繁な角質ケアが、つるつるの肌への近道だと信じられています。

【The Science – 科学的根拠】
肌には、ターンオーバーと呼ばれる自然な新陳代謝のサイクルがあります。基底層で生まれた新しい細胞が徐々に押し上げられ、最終的に角質層となり、やがて垢として自然に剥がれ落ちていきます。このサイクルは、健康な20代の肌で約28日と言われています11

ピーリングやスクラブによる人為的な角質除去(Exfoliation)は、このデリケートなターンオーバーのプロセスに介入する行為です。適度に行えば、ターンオーバーが滞って厚くなった角質を取り除き、肌を滑らかにする効果が期待できます。しかし、やりすぎは禁物です11

過度な角質ケアは、まだ剥がれ落ちる準備ができていない未熟な角質細胞まで無理やり剥がしてしまいます。これは、バリア機能の著しい低下に直結し、乾燥、敏感、赤み、炎症といった様々な肌トラブルを引き起こす原因となります11

日本皮膚科学会のニキビ治療ガイドラインにおいても、ケミカルピーリングは、標準的な治療法で効果が見られない場合に検討される医療行為として位置づけられており、家庭で気軽に行う日常的なケアとは一線を画しています6。これは、角質除去という行為が、専門的な知識と管理の下で慎重に行われるべきものであることを示唆しています。

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 角質ケアは、肌の自然なターンオーバーを「置き換える」ものではなく、「サポートする」ための強力なツールです。習慣的に行うのではなく、肌の状態を見ながら戦略的に、そして慎重に取り入れるべきです。

実践プラン:

  • 物理的スクラブは慎重に: 大きくて角の尖った粒子(砕いた種子など)を含むスクラブは、肌を傷つけるリスクが高いため避けましょう。使うのであれば、粒子が細かく丸い、刺激の少ないものを選びます。
  • 穏やかな化学的角質除去を選ぶ: AHA(グリコール酸など)やBHA(サリチル酸)、またはより刺激がマイルドとされるPHA(グルコノラクトンなど)といった成分を含む、洗い流すタイプの製品や、酵素洗顔パウダー21などを選ぶ方が、物理的な摩擦によるダメージを避けられます。
  • 頻度は週1回から: どのような角質ケア製品であっても、まずは週に1回程度の使用から始め、肌の反応を注意深く観察しましょう。特に問題がなければ頻度を少し増やすことも可能ですが、毎日行うのはやりすぎです。
  • 専門家に相談する: 敏感肌やアトピー性皮膚炎、酒さなどの皮膚疾患がある方は、自己判断で角質ケアを始める前に、必ず皮膚科専門医に相談してください。

特に加齢とともにターンオーバーの周期は長くなるため(30代で約45日11)、角質ケアは年齢を重ねた肌にとって有効な手段となり得ます。しかし、その場合でも「より優しく、より慎重に」という原則は変わりません。

誤解9:一度できたシミやシワは、化粧品ではどうにもならない

【The Myth – よくある誤解】
「できてしまったシミや深いシワは、もう化粧品では手遅れ。美容医療に頼るしかない」―。このような諦めの気持ちから、効果的なケアを放棄してしまっている人もいます22

【The Science – 科学的根拠】
まず、信頼を築くために限界を正直に認めることが重要です。確かに、化粧品で深いシワを完全に「消去」したり、濃く定着したシミを「消しゴムで消すように」なくしたりすることはできません39。これは薬機法における化粧品・医薬部外品の限界でもあります。

しかし、「どうにもならない」というのは完全な誤解です。科学的根拠に基づいた有効成分を、継続的に使用することで、肌の外観を著しく改善することは可能です。

  • シワに対して: レチノールやその誘導体(ビタミンA類)は、肌のターンオーバーを促進し、真皮のコラーゲン産生をサポートすることで、浅いシワ(小ジワ)を目立たなくする効果が、数多くの臨床研究で証明されています。これは、米国皮膚科学会なども認める、シワ改善におけるゴールドスタンダードな成分の一つです34
  • シミに対して: 日本で医薬部外品の美白有効成分として承認されている成分(ビタミンC誘導体、トラネキサム酸、ナイアシンアミド、アルブチンなど)は、シミの原因であるメラニンの生成プロセスに働きかけ、新たなシミができるのを防いだり、既存のシミの色が濃くなるのを抑制したりする効果が科学的に確認されています34, 41, 42
  • 基本的な保湿: 適切な保湿によって角質層が水分で満たされると、肌がふっくらとし、乾燥による小ジワはそれだけで目立たなくなります13

【The Truth & Action Plan – 真実と実践プラン】
真実: 化粧品は「魔法の消しゴム」ではありませんが、科学に基づいた製品を正しく使い続けることで、肌の未来を大きく変えることができる「強力な投資」です。

実践プラン:

  • 最大の予防策は日焼け止め: これ以上の光老化を防ぐことが、あらゆるエイジングケアの基本です。毎日欠かさず日焼け止めを使いましょう7
  • 有効成分を導入する:
    • 朝: 抗酸化作用のあるビタミンC美容液は、日中の紫外線ダメージから肌を守り、メラニン生成を抑制するのに役立ちます40
    • 夜: レチノール配合製品を、まずは週2~3回の使用から始め、肌を慣らしながら徐々に頻度を上げていきましょう34
  • 継続は力なり: これらの有効成分が目に見える効果を発揮するには、数週間から数ヶ月単位の継続的な使用が必要です42。焦らず、根気強く続けることが成功の鍵です。

この誤解は、「治療か、諦めるか」という二者択一の思考を生み出します。しかし、専門家が提唱するのは、「予防」「治療(改善)」「サポート」の三位一体の考え方です。日焼け止めで未来のダメージを「予防」し、有効成分で現在の悩みを「改善」し、日々の優しい洗顔と保湿で、肌が本来持つ回復力を「サポート」する。この統合的なケアシステムを理解し、実践することこそが、真の美肌への道筋なのです。

保湿剤の主要成分カテゴリー

保湿剤の主な成分カテゴリーとその作用機序13
成分カテゴリー 作用機序 代表的な成分
湿潤剤 (Humectants) 真皮や環境から表皮へ水分を引き寄せる。 ヒアルロン酸, グリセリン, 尿素, 天然保湿因子 (NMF)
エモリエント剤 (Emollients) 角質細胞間の隙間を埋め、肌を滑らかにし、バリア機能をサポートする。 セラミド, スクワラン, 脂肪酸
閉塞剤 (Occlusives) 皮膚表面に物理的な膜を形成し、経皮水分蒸散(TEWL)を防ぐ。 ワセリン, ミネラルオイル, ジメチコン

【第三部】結論:あなただけの「正解」を見つけるために

これまで、美肌から遠ざかってしまう9つの代表的な誤解を、科学的根拠に基づいて解き明かしてきました。これら全ての誤解に共通する核心的なメッセージは、「肌本来が持つ『バリア機能』をいかに守り、育むか」という一点に尽きます。巷に溢れるテクニックや高価な製品に飛びつく前に、まずは肌にダメージを与えるこれらの誤った習慣をやめること。それが、美肌への最も確実で、最も重要な第一歩です。

しかし、この記事を読んだからといって、全ての人に共通する唯一無二の「完璧なスキンケア法」が存在するわけではありません。肌質(脂性肌、乾燥肌、混合肌など)、肌悩み(ニキビ、シミ、シワなど)、年齢、そして季節によっても、肌の状態は刻々と変化します7。真の「正解」とは、科学的な原則を理解した上で、日々の自分の肌と対話し、その声に耳を傾けながら、自分自身でケアを調整していくプロセスの中に見出されるものです。

そのための揺るぎない土台となるのが、以下の「3つの必須項目」です。どのような肌タイプの人であっても、この基本を抜きにして美肌は語れません。

  1. 優しい洗顔: 1日2回、たっぷりの泡で、摩擦を避けて素早く行う。
  2. 適切な保湿: 朝晩、自分の肌質に合った保湿剤で、バリア機能に必要な潤いと油分を補う。
  3. 毎日の紫外線対策: 365日、天候や場所を問わず、朝のケアの最後に必ず日焼け止めを塗る。

この土台を確立した上で、必要であれば特定の悩みに対応する美容液などを一つずつ、慎重に追加していきましょう。

そして、最後に最も重要なことをお伝えします。セルフケアには限界があります。重度のニキビ、アトピー性皮膚炎、酒さ、治らない湿疹、あるいは少しでも疑わしいと感じるホクロや皮膚の変化がある場合は、自己判断でケアを続けるのではなく、必ず皮膚科専門医の診察を受けてください7。専門家による正確な診断と治療こそが、あなたの肌の健康を守る最善の道です。

正しい知識は、あなたをスキンケアの迷路から解放し、自信を与えてくれます。今日から、肌を「攻撃」するのではなく、「育む」ケアを始めましょう。

スキンケアの誤解と真実:早見表

よくある誤解 科学的真実 推奨される行動
1. 脂性肌に保湿は不要 乾燥が更なる皮脂分泌を招く。バリア機能の維持が重要。 ノンコメドジェニックの軽い保湿剤を選ぶ。
2. 洗顔はゴシゴシ洗うべき 摩擦はバリア機能を破壊し、炎症の原因となる。 泡で優しく洗い、ぬるま湯で1分以内に。
3. 化粧品は「浸透」するほど良い 成分は目的の場所で働くことが重要。叩き込みは炎症を招く。 優しくハンドプレスで馴染ませる。
4. シートマスクは毎日・長く 長時間の使用は逆に乾燥を招く。マスク後の保湿が必須。 推奨時間を守り、必ず乳液やクリームでフタをする。
5. 日焼け止めは夏だけ 肌老化の最大の原因UVAは一年中降り注ぐ。 365日、毎日SPF30・PA+++以上の日焼け止めを塗る。
6. 高価・多品目が良い 効果は価格や品数に比例しない。処方と相性が重要。 シンプルな基本ケアを徹底し、悩みには1点集中で追加。
7. 「自然派」は必ず優しい 自然由来でもアレルゲンはある。安全性は処方次第。 「敏感肌用」などの表示を参考にし、パッチテストを行う。
8. ピーリングでリセット 過度な角質除去はバリア機能を破壊する。 週1回程度の穏やかな角質ケアに留める。
9. シミ・シワは手遅れ 化粧品で改善は可能。予防と継続的なケアが鍵。 日焼け止めを徹底し、レチノールや美白有効成分を導入する。

よくある質問

Q1: 脂性肌でニキビもできやすいのですが、本当に保湿剤を使っても大丈夫ですか?

はい、大丈夫です。むしろ、適切な保湿が必要です。脂性肌やニキビ肌は、肌の水分と油分のバランスが崩れていることが多く、間違ったケアで肌が乾燥すると、かえって皮脂が過剰に分泌されてしまいます21。大切なのは、油分の少ない「オイルフリー」や、ニキビの原因になりにくい「ノンコメドジェニックテスト済み」と表示されたジェルや乳液タイプの保湿剤を選ぶことです6。これにより、必要な潤いは補給しつつ、ベタつきや毛穴詰まりのリスクを最小限に抑えられます。

Q2: 日焼け止めは、曇りの日や家の中にいる時も必要ですか?

はい、必要です。肌のシワやたるみの主な原因となる紫外線A波(UVA)は、雲や窓ガラスを透過して一年中私たちの肌に届いています34。したがって、日焼け(サンバーン)を起こす紫外線B波(UVB)が弱い日でも、光老化は進行しています。肌の老化の約8割は紫外線が原因とも言われており、将来のシミやシワを防ぐ最も効果的な方法は、季節や天候、場所を問わず毎日日焼け止めを塗ることです7, 22

Q3: 高価な化粧品と安価な化粧品、効果にどれくらい違いがありますか?

価格と効果は必ずしも比例しません24。化粧品の価格には、研究開発費だけでなく、広告費やパッケージ代なども含まれています。最も重要なのは、価格ではなく「自分の肌質や悩みに合った有効成分が、適切な処方で配合されているか」です。安価な製品でも、科学的根拠のある成分がしっかり配合されていれば、高価な製品よりも高い効果が期待できることもあります。まずは「優しい洗顔・適切な保湿・毎日の日焼け止め」という基本を、価格帯にこだわらず自分に合う製品で確立することが大切です38

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医療アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. そのスキンケアは間違い! まずやめるべき8つの“NG習慣” [インターネット]. CREA. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://crea.bunshun.jp/articles/-/30209
  2. 肌の悩みが何故、消えないのか。。。それは、嘘の情報がコピーされて伝播されているから。 [インターネット]. アメーバブログ. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://ameblo.jp/claire-parfait/entry-12813026293.html
  3. SNSで話題の美容の都市伝説について皮膚科医が真実を解説します。 [インターネット]. YouTube. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=ompx5QeVPMk
  4. 思い込みが、間違ったスキンケアの原因に!? 30人中29人が自分の肌状態を誤解!? [インターネット]. PR TIMES. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000020186.html
  5. 日皮会編ガイドライン [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: http://www.mahoroba.ne.jp/~shuzo/contents/atopy/newguide.html
  6. 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023 [インターネット]. 公益社団法人日本皮膚科学会. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/zasou2023.pdf
  7. Healthy Skin Care Tips [インターネット]. ContinueCARE Hospital at Baptist Health Corbin. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://corbin.continuecare.org/healthnews/healthy-skin-care-tips-2/
  8. Zhu J, et al. Safety and Efficacy of a Novel Antiaging Skin Care Regimen Containing Neutraceuticals and Growth Factors on the Facial Skin of Women: A 12-Week Open-label Study. J Clin Aesthet Dermatol. 2020;13(8):22-29. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7442306/
  9. エビデンスに基づくスキンケアQ&A [インターネット]. 中山書店. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.nakayamashoten.jp/sample/pdf/978-4-521-74771-2.pdf
  10. 権威性とは?SEOにおける意味と向上方法をわかりやすく解説 [インターネット]. 株式会社クリエル. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.creal.co.jp/column/seo/13026/
  11. 【皮膚科医監修】今さら聞けない間違ったスキンケアと正しいケア [インターネット]. 東京皮膚科・形成外科. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://tokyoderm.com/column/%E3%80%90%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%A7%91%E5%8C%BB%E7%9B%A3%E4%BF%AE%E3%80%91%E4%BB%8A%E3%81%95%E3%82%89%E8%81%9E%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%84%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3/
  12. Angelova-Fischer E. A Daily Cleansing–Moisturizing Routine for Maintaining Skin Barrier Integrity and Function. Cosmetics. 2024;5(1):5. Available from: https://www.mdpi.com/2673-6179/5/1/5
  13. Purnamawati S, et al. The Role of Moisturizers in Addressing Various Kinds of Dermatitis: A Review. Clin Med Res. 2017;15(3-4):75-87. doi:10.3121/cmr.2017.1363. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5849435/
  14. Harwood A, et al. The Skin Barrier and Moisturization: Function, Disruption, and Mechanisms of Repair. Skin Pharmacol Physiol. 2023;36(4):174-187. doi:10.1159/000534208. Available from: https://karger.com/spp/article/36/4/174/863006/The-Skin-Barrier-and-Moisturization-Function
  15. Nakamura M, et al. Improving the quality of life of patients with inflammatory skin diseases: a multicenter evaluation of a ceramide-containing regimen in patients with atopic dermatitis, psoriasis and xerosis. J Dermatolog Treat. 2025. doi:10.1080/09546634.2025.2486702. Available from: https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09546634.2025.2486702
  16. Chittick S. Does enhancing epidermal barrier function with moisturizing topical products improve acne vulgaris in adult patients compared to non-moisturizing products or non-intervention? [Internet]. Arcadia University; 2020. Available from: https://scholarworks.arcadia.edu/showcase/2020/pa/16/
  17. 海外のスキンケア・基礎化粧品事情。日本と中国・欧米・ASEANの違いとは [インターネット]. プルーヴ株式会社. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.provej.jp/column/lf/skincare/
  18. 顔そりや洗顔も|江戸時代から受け継がれてきた、日本の“取り去る”美容文化の歴史 [インターネット]. 婦人画報. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.fujingaho.jp/lifestyle/beauty-health/a64807259/off-beauty-history-of-japanese-beauty-culture/
  19. 日本の化粧文化史 [インターネット]. ポーラ文化研究所. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/culture/cosmehistory/index_2.html
  20. 化粧の文化史 [インターネット]. 日本化粧品工業会. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.jcia.org/user/public/knowledge/history
  21. 脂性肌に関する5つの誤解|スキンケアの真実とは [インターネット]. dermalogica. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://dermalogica.jp/blogs/skin-care-blog/oily-skin-myths
  22. 【皮膚科医監修】スキンケアのありがちな間違い&正しい知識 [インターネット]. Tarzan Web. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://tarzanweb.jp/post-279411
  23. あなたの肌老化を加速させる間違いスキンケア【肌の基礎知識 その1】 [インターネット]. 【ピュアリー】 山梨県甲府市のエステサロン. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.purely.co.jp/care-basic01
  24. 日本人の知らないスキンケアの誤解を皮膚科医が解説します。 [インターネット]. YouTube. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=9l-AxiW8rmU
  25. 間違ったスキンケアかも?正しいスキンケア方法とアイテムの [インターネット]. Dr.Recella. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.dr-recella.com/recellaterrace/journal/beauty-technique/wrong-skin-care
  26. 実は間違いだった⁉誤解しやすい美容の「常識」 [インターネット]. 【公式】大人のおしゃれ手帖web. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://osharetecho.com/column/18714/
  27. 「スキンケア用品はほとんど効果がない」という主張に対する専門家の意見とは? [インターネット]. GIGAZINE. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://gigazine.net/news/20210905-skincare-science/
  28. 化粧品や健康食品のライティングは要注意! 薬機法違反にならないために [インターネット]. Digital Identity. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://digitalidentity.co.jp/blog/pmd-act/cosmetics-writing.html
  29. 毎日使う?使わない?どっちがいいの?シートマスク! [インターネット]. @cosme. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.cosme.net/biche/articles/URWDQmaZ
  30. シートマスクを朝晩20日間使ったら、40代の肌はどうなった?4種のシートマスクを毎日試してみた [インターネット]. 石澤研究所. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.ishizawa-lab.co.jp/enjoy/letter/info/29023.html
  31. シートマスクは毎日していい? 朝晩で使い分ける方法も紹介 [インターネット]. COCORO STORE – シャープ. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://cocorostore.jp.sharp/column/24070802
  32. 毎日パックした結果と効果は?デメリットや注意点を徹底解説【2025年最新】 [インターネット]. 健康肌スキンケア. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://earthcare.co.jp/blog/daily-pack-usage-surprising-truth-and-proper-usage-explained
  33. フェイスマスクは毎日使ってもいい?肌への影響と効果的な使用頻度と選び方 [インターネット]. LuLuLun. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://lululun.com/labo/131/
  34. 美容皮膚科医が教える正しい美白とアンチエイジング [インターネット]. 芦屋市 ふくおか整形外科. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://fukuoka-seikei.net/column/1935/
  35. 10 skin care secrets for healthier-looking skin [インターネット]. Excel Laser Skin Clinic. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.excellaserskinclinic.com/post/10-different-types-of-facial-cleasings-we-recommen
  36. <調査レポート>女性2,000人に肌のお悩みを調査!第2位は「シワ・たるみ」で40.0%という結果に。第1位は? [インターネット]. 美ST ONLINE. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://be-story.jp/prtimes/56586/
  37. 女子社員率90%の会社で聞いた 気になる肌悩みランキングとお悩み別治療法! [インターネット]. 美容ヒフコ. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://biyouhifuko.com/column/2794/
  38. それって意味ある?肌質は一生かわらない?スキンケアの「うそ・ほんと」5選 [インターネット]. MEN’S NON-NO. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.mensnonno.jp/beauty/skincare/406945/
  39. アンチエイジングの嘘 [インターネット]. ニューハーフ美容研究家・岡江美希の美容ブログ『美肌は太陽が好き』. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://ameblo.jp/okaemiki/entry-12847058336.html
  40. Basic Skin Care Routine Recommendations to Up Your Game [インターネット]. Advanced Dermatology and Skin Cancer Center. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.advancederm.net/basic-skin-care-routine-recommendations-to-up-your-game/
  41. 皮膚科医1023人へのアンケートからわかる、効果ある美白ケア [インターネット]. ナールスエイジングケアアカデミー. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.nahls.co.jp/eijingukea/editorial_news/hifukai/
  42. ルシノールの科学:美白効果を実現する化学的プロセス [インターネット]. コスメ研究所 – note. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://note.com/cosme_lab/n/n1edea0229a4d
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ