この記事の科学的根拠
この記事は、以下に示すような、日本の主要な医学会が策定した診療ガイドラインや、権威ある学術研究で報告された最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて執筆されています。提示されるすべての医学的指導は、これらの情報源に明確に依拠しています。
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」: 本稿における女性型脱毛症(FPHL)の定義、毛髪の菲薄化(miniaturization)のメカニズム、そして治療法として推奨されるミノキシジル外用薬に関する記述は、乾重樹医師、板見智医師、坪井良治医師らが参画したこの公式ガイドラインに基づいています525。
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」: 頭皮の皮脂過剰分泌の背景にある、毛包脂腺系の機能やホルモンの影響に関する分析は、このガイドラインで示された病態生理学的な知見を参考にしています6。
- 日本香粧品学会の研究報告: 毛髪一本一本の「ハリ」や「コシ」の源である毛髪線維の構造(コルテックス、キューティクル)や、髪の感触を決定づける18-メチルエイコサン酸(18-MEA)の役割に関する科学的解説は、同学会の学術誌に掲載された研究に基づいています78。
要点まとめ
- 「ペタ髪」の根本原因は、(1)頭皮の皮脂過剰、(2)毛髪自体のダメージ、(3)加齢などによる毛髪の菲薄化(細くなること)という3つの経路に大別されます。
- 日々のシャンプーやすすぎ残し、重いスタイリング剤の使用、ドライヤーのかけ方など、不適切なヘアケアが「ペタ髪」を悪化させている可能性があります2。
- 対策は、即効性のあるスタイリング術から、毎日のヘアケア習慣の見直し、栄養バランスの取れた食事や質の良い睡眠といった生活習慣の改善まで、多岐にわたります112。
- セルフケアで改善しない、あるいは明らかな薄毛の進行が見られる場合は、毛包の菲薄化が原因である可能性があります。日本皮膚科学会のガイドラインでは、ミノキシジル外用薬が女性型脱毛症に有効な治療として強く推奨されており、皮膚科専門医への相談が重要です5。
第1部:髪のボリュームを左右する科学的基盤
髪のボリュームを論じる上で、まず毛髪そのものの構造と、それを生み出す毛包の生物学的なメカニズムを理解することが不可欠です。このセクションでは、「ハリ」「コシ」といった感覚的な言葉を科学的に解明し、ボリュームダウンの背景にある生理的変化の基礎を解説します。
1.1 毛髪一本一本の「ハリ」と「コシ」の源泉:毛髪線維の構造科学
「ハリ」や「コシ」とは、毛髪一本一本が持つ物理的な強度としなやかさの感覚的な表現です。この特性は、毛髪線維の精緻な内部構造によって決定されます。日本香粧品学会の報告によれば、毛髪は主に3つの層から構成されています。中心部には「メデュラ(毛髄質)」、その周囲を毛髪の大部分を占める「コルテックス(毛皮質)」が取り囲み、最も外側を「キューティクル(毛小皮)」が覆っているのです7。
コルテックスは、ケラチンと呼ばれるタンパク質線維が束になったもので、毛髪の強度、弾力性、しなやかさの源泉となります。健康なコルテックスは密度が高く、毛髪にしっかりとした芯を与えます。一方、キューティクルは、硬いケラチンからなる数層の細胞が魚の鱗のように重なり合った構造をしており、外部の物理的・化学的刺激から内部のコルテックスを保護する重要な役割を担っています7。
これらの構造体の中でも、毛髪の感触やまとまり、ひいてはボリューム感に決定的な影響を与えるのが、細胞間を接着する脂質成分です。キューティクル細胞同士を接着しているのが「細胞膜複合体(Cell Membrane Complex, CMC)」であり、その最外層には「18-メチルエイコサン酸(18-MEA)」という特殊な脂質が存在します8。岐阜大学で行われた博士論文研究によると、18-MEAは、毛髪表面に自然な潤滑性と疎水性(水をはじく性質)を与え、キューティクルの滑らかさを保ち、髪の絡まりを防ぐ役割を果たしています78。
しかし、カラーリングやパーマ、紫外線、日々のブラッシングといった外的要因によってキューティクルが損傷し、18-MEAが失われると、毛髪の疎水性は低下します。その結果、髪は湿気の影響を受けやすくなり、空気中の水分を吸収して重くなることで、ボリュームを失い「ペタ髪」の状態を呈するのです1。さらに、CMCやコルテックス内部の脂質が流出すると、毛髪内部に空洞が生じ、構造的な強度が低下します。これが「ハリ」「コシ」の喪失、すなわち毛髪線維由来のボリュームダウンの直接的な原因となります7。
1.2 ヘアサイクル、加齢、そして「菲薄化」のメカニズム:毛包の生物学
毛髪のボリュームは、個々の毛髪の太さだけでなく、頭皮全体の毛髪の本数と密度にも依存します。これらを支配するのが、毛髪の成長サイクルである「ヘアサイクル」と、それを制御する毛包の生物学的機能です。
ヘアサイクルは、毛髪が活発に成長する「成長期(anagen)」、成長が停止し毛根が退縮する「退行期(catagen)」、そして毛根の活動が完全に休止する「休止期(telogen)」の3つの段階を繰り返します10。健康な頭皮では、ほとんどの毛髪(約85-90%)が2年から6年続く成長期にあり、太く長い毛髪が維持されます。
しかし、加齢、特に女性においては、このヘアサイクルに変化が生じます。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」では、女性に見られるびまん性(広範囲)の薄毛を「女性型脱毛症(Female Pattern Hair Loss, FPHL)」と定義しています5。FPHLの病態生理学的な中核は、ヘアサイクルの成長期が短縮し、それに伴い毛包が徐々に小さくなる「菲薄化(miniaturization)」という現象です5。菲薄化した毛包からは、本来生えるべき太く硬い「硬毛」の代わりに、細く、短く、色素の薄い「軟毛」しか生えてこなくなります。この軟毛の割合が増加することが、髪全体のボリュームダウン、分け目が目立つ、地肌が透けて見えるといったFPHLの臨床的特徴に直結するのです11。
この変化の背景には、ホルモンバランスの変動が大きく関与しています。特に、女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、毛髪の成長期を維持する働きがあります。40代以降、閉経期にかけてエストロゲンの分泌が減少すると、相対的に男性ホルモンの影響が優位になり、FPHLが進行しやすくなることが多くの研究で示唆されています1。このFPHLによる毛髪の菲薄化は、毛包由来のボリュームダウンの最も代表的な原因であり、皮膚科専門医である乾重樹医師、板見智医師、坪井良治医師らが参画したガイドラインでもその重要性が強調されています5。
第2部:ペタ髪の根本原因を徹底解剖
「ペタ髪」は、前述の3つの経路―頭皮、毛髪線維、毛包―から生じる複合的な問題です。本セクションでは、この枠組みを用いて、読者が自身の状態を理解できるよう、内的要因と外的要因を体系的に分析します。
2.1 内的要因:身体の内側から始まる変化
髪のボリュームダウンは、目に見える毛髪や頭皮だけでなく、体内の生理的な変化に深く根差している場合が多いです。ホルモンバランス、栄養状態、ストレスレベルなどが複雑に絡み合い、髪の健康を左右します。
2.1.1【頭皮由来】皮脂の過剰分泌と血行不良
「ペタ髪」の最も直接的かつ体感しやすい原因の一つが、頭皮からの皮脂の過剰分泌です1。過剰に分泌された皮脂は、毛髪の根元をコーティングし、その重みで髪を物理的に押しつぶします。さらに、皮脂によって毛髪同士が束になり、髪の間に空気が含まれなくなることで、全体としてボリュームのない、べたついた印象を与えるのです3。
この皮脂分泌のメカニズムを理解する上で、日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡(ニキビ)治療ガイドライン」が重要な示唆を与えます6。同ガイドラインは、尋常性痤瘡を「毛包脂腺系を場とする脂質代謝異常(内分泌的因子)、角化異常、細菌の増殖が複雑に関与する慢性炎症性疾患」と定義しています16。顔のニキビも頭皮の皮脂過剰も、同じ「毛包脂腺系」という器官の機能異常であり、その背景には共通の生理学的要因が存在します。特に「内分泌的因子」、すなわちアンドロゲン(男性ホルモン)などのホルモンが皮脂腺を刺激し、皮脂産生を亢進させることが知られています。
頭皮の皮脂分泌を過剰にする引き金は多岐にわたります。脂質の多い食事2、精神的ストレスによるホルモンバランスの乱れ14、そして洗浄力の強すぎるシャンプーによる洗いすぎが、かえって皮脂の分泌を促す「リバウンド現象」などが挙げられます13。
また、皮脂の問題と並行して考慮すべきが、頭皮の血行不良です。長時間のデスクワークやストレスは、自律神経のバランスを崩し、頭皮の血管を収縮させることがあります12。これにより頭皮が硬く凝り固まった状態になると、毛根にある毛母細胞へ酸素や栄養素が十分に行き渡らなくなります14。栄養不足に陥った毛包は健康な髪を育てることができず、結果として細く、ハリ・コシのない髪が増え、ボリュームダウンにつながるのです。
2.1.2【毛包由来】加齢とホルモンバランスの変化
第1部で詳述した通り、加齢に伴うホルモンバランスの変化は、毛包由来のボリュームダウンの主要な内的要因です。特に40代以降の女性において、髪の成長を司る女性ホルモン(エストロゲン)の減少は、FPHLの発症および進行と密接に関連しています3。
このプロセスは、毛髪の「菲薄化」を引き起こします。つまり、毛包そのものが小型化し、産生される毛髪が徐々に細く、弱々しくなっていくのです5。一本一本の髪が細くなることで、同じ本数でも全体の体積は減少し、髪全体のボリュームが失われます。これは、髪がべたついているわけでも、傷んでいるわけでもなく、生えてくる髪そのものの性質が変化している状態であり、根本的な対策には医学的アプローチが必要となる場合があります。
2.1.3【複合要因】生活習慣と栄養状態
髪は健康のバロメーターとも言われ、日々の生活習慣や栄養状態がその質に直接反映されます。
栄養面では、毛髪の主成分であるタンパク質(ケラチン)の摂取が不可欠です。皮膚科専門医の齊藤典充医師は、タンパク質やビタミン類、亜鉛、鉄分が不足すると、抜け毛が増えたり、毛が折れやすくなったりすると指摘しています18。特に、過度なダイエットや偏った食生活は、髪に必要な栄養素の欠乏を招き、細く弱い髪しか育てられなくなります3。
睡眠もまた、髪の健康に極めて重要です。睡眠中に分泌される成長ホルモンは、日中に受けたダメージを修復し、細胞の成長を促進する役割を担います1。睡眠不足が続くと、この成長ホルモンの分泌が阻害され、毛髪の健やかな成長サイクルが乱れ、ボリュームダウンの一因となります。
さらに、慢性的なストレスは、ストレスホルモンである「コルチゾール」の過剰分泌を招く可能性があります。コルチゾールは、ヘアサイクルの成長期を短縮させる作用が指摘されており、髪が十分に太く成長する前に休止期へと移行させてしまうことがあります13。また、ストレスは自律神経を介して血管を収縮させ、頭皮の血行不良や皮脂の過剰分泌を引き起こすため、複合的に「ペタ髪」を悪化させる要因となります14。
2.2 外的要因:日々の習慣と環境の影響
髪のボリュームは、体内の要因だけでなく、日々のヘアケア習慣や環境からの影響によっても大きく左右されます。これらの外的要因は、毛髪線維そのものを直接的に傷つけ、あるいは頭皮環境を悪化させることで、「ペタ髪」を助長します。
2.2.1【毛髪線維由来】蓄積ダメージによる構造破壊
カラーリングやパーマに用いられる薬剤、ヘアドライヤーやアイロンの熱、そして日常的に浴びる紫外線は、毛髪にとって大きなストレスとなります12。これらの外的刺激は、第1部で述べた毛髪の保護層であるキューティクルを剥がし、損傷させるのです1。
キューティクルが傷つくと、その隙間から毛髪内部のタンパク質や脂質(18-MEAやCMC脂質など)が流出してしまいます。これにより、毛髪の構造的な支えが失われ、一本一本の「ハリ」や「コシ」が低下します1。内部がスカスカになった毛髪は、自重を支えきれずに倒れやすくなり、ふんわりとしたスタイルを維持できなくなります。これが、ダメージの蓄積による毛髪線維由来のボリュームダウンのメカニズムです。
2.2.2【複合要因】湿気と不適切なヘアケア
環境要因として特に影響が大きいのが「湿気」です。梅雨の時期や雨の日に髪が広がる、あるいは逆にぺたんこになる経験は多くの人が持っています。この現象は、毛髪のダメージと密接に関連しています。前述の通り、ダメージによってキューティクルが損傷し、内部のタンパク質が流出した髪は、多孔質(ポーラス)な状態になっています。このような髪は、空気中の水分を過剰に吸収しやすく、その結果、毛髪一本一本の重量が増加します。この重みが、根元の立ち上がりを妨げ、髪全体をぺたんとさせてしまうのです1。
さらに、日々の何気ないヘアケア習慣が、「ペタ髪」を悪化させているケースも少なくありません。研究資料から特定された代表的な誤ったケアを以下に挙げます。
- シャンプー・トリートメントのすすぎ残し: シャンプーや、特に油分を多く含むトリートメントが頭皮や髪の根元に残留すると、その重みで髪が立ち上がらなくなるだけでなく、毛穴を詰まらせて頭皮環境を悪化させる原因にもなります2。
- 重いスタイリング剤の使用: 特に髪が細い、いわゆる「猫っ毛」の人が、油分の多いワックスや保湿力の高いオイルを根元からつけてしまうと、スタイリング剤の重みでボリュームが完全につぶれてしまいます1。
- 不適切なドライヤーのかけ方: 髪を乾かす際に、根元を立ち上げる意識なく、上から押さえつけるように風を当てたり、毛先ばかりを乾かしたりすると、根元が寝たままの状態で乾いてしまい、ぺたんこな髪型が固定されてしまいます。また、頭皮が湿ったまま放置することも同様にボリュームダウンの原因となります1。
これらの外的要因は、互いに影響し合い、悪循環を生み出すことがあります。例えば、ダメージを受けた髪は湿気の影響を受けやすくなり、それを隠そうと重いスタイリング剤を使うことで、さらに髪がぺたんこになるといった具合です。
第3部:根元から立ち上がる、ボリューム美髪への包括的アクションプラン
「ペタ髪」の悩みは多岐にわたる原因から生じるため、その解決策も一つではありません。本セクションでは、科学的根拠に基づき、即時的なスタイリング術から、日々のケアの見直し、生活習慣の改善、そして最終手段としての専門的な医療介入まで、段階的かつ包括的なアクションプランを提示します。
3.1 今すぐできる応急処置と戦略的スタイリング
ボリュームダウンの悩みに直面した際、まず自信を取り戻すためには、即効性のある対策が有効です。これらは根本解決ではありませんが、見た目の印象を劇的に改善し、QOLを向上させる力を持っています。
- スタイリング剤の戦略的選択: 「ペタ髪」に悩む場合、スタイリング剤の選択が鍵となります。重さのあるオイルやワックスは避け、髪に空気を含ませるような軽い質感の製品を選ぶべきです。具体的には、フォーム状のムースや、根元の立ち上がりをキープするボリュームアップスプレーが推奨されます20。
- ドライシャンプーの活用: 特に皮脂によるべたつきが原因で髪がぺたんとなる場合、ドライシャンプーは非常に有効な応急処置です。頭皮や髪の根元にスプレーし、指で揉み込むことで、余分な皮脂を吸着し、サラサラとしたふんわり感を瞬時に復活させることができます。外出先での手直しにも最適です20。
- ヘアカットによる視覚効果: 美容師と相談し、ボリュームが出やすい髪型に変えることも一つの手です。髪の表面に段差をつける「レイヤーカット」は、髪に動きと軽さを与え、自然なボリューム感を演出します22。また、根元からのパーマは、物理的に髪を立ち上げる効果があり、スタイリングを容易にします19。
- スタイリングテクニックの習得: 日々のスタイリングに一工夫加えるだけで、見た目は大きく変わります。分け目を直線ではなくジグザグに取ることで、根元が立ち上がりやすくなります21。ドライヤーで乾かす際に、髪の生え癖と逆方向に髪を引っ張りながら根元に風を当てる「根元起こしドライ」は、ボリュームアップの基本技術です1。また、トップの部分だけカーラーで巻いておくだけでも、手軽に高さを出すことができます19。
3.2 毎日のヘアケア改革
日々のシャンプーとドライヤーの習慣を見直すことは、「ペタ髪」改善における中核的なアプローチです。これは、頭皮環境を健やかに保ち、毛髪への不要な負担を減らすための根本的な対策となります。
シャンプーの選定と洗浄法
- 製品選択: 頭皮の皮脂や汚れを適切に落としつつ、必要な潤いは奪わないシャンプーを選ぶことが重要です。洗浄力がマイルドなアミノ酸系シャンプー23や、髪を重くするシリコンが含まれていないノンシリコンシャンプー20は、「ペタ髪」に悩む人にとって良い選択肢となります。セグレタやリジェンヌといった、加齢による髪の変化に対応した製品も市販されています22。
- 洗浄技術: 正しい洗い方は、まずお湯で髪と頭皮を十分に予洗いし、汚れを浮かせることから始まります。シャンプーは手のひらでよく泡立て、髪ではなく頭皮を指の腹でマッサージするように洗います。そして最も重要なのが「すすぎ」です。シャンプー剤やトリートメントが頭皮に残らないよう、2~3分かけて念入りに洗い流すことが推奨されています。特に、後頭部や襟足はすすぎ残しが起きやすいため注意が必要です2。
ボリュームアップを決定づけるドライヤー術
髪は、濡れた状態から乾く瞬間、そして温かい状態から冷える瞬間に形が固定されます。この性質を利用することが、ボリュームアップの鍵です。
- タオルドライ: 摩擦でキューティクルを傷つけないよう、タオルで髪を挟み、優しく押さえるようにして水分を吸い取ります。
- 根元から乾かす: 必ず髪の根元から乾かし始めます。髪の毛流れに逆らうように手ぐしで髪を持ち上げ、下からドライヤーの風を送り込むことが重要です1。
- 完全乾燥: 根元が湿っていると、その重みでボリュームが出ません。頭皮と根元が100%乾いたことを確認します1。
- 冷風で固定: 髪全体が乾き、理想の形ができたら、最後に冷風を全体に当てます。これによりキューティクルが引き締まり、根元の立ち上がりが長時間キープされると言われています1。
週に1~2回、シャンプー前に頭皮用のクレンジング剤を使い、毛穴に詰まった古い皮脂や角質を取り除くことも有効です20。また、指の腹を使った頭皮マッサージは、血行を促進し、健やかな髪を育む土壌作りに貢献します23。
3.3 体内から育む根本改善
長期的な視点で見れば、健やかでボリュームのある髪は、健康な身体から育まれます。日々の食事と生活習慣の改善は、最も根本的な「ペタ髪」対策と言えるでしょう。
栄養摂取の最適化
髪の主成分であるタンパク質をはじめ、その合成を助けるビタミンやミネラルをバランス良く摂取することが不可欠です。齊藤典充医師の指摘に基づき18、以下の栄養素を意識的に食事に取り入れることが推奨されます。
- タンパク質: 髪の原料。鶏むね肉、魚、卵、大豆製品など良質なタンパク源を確保します12。
- 亜鉛: ケラチンの合成に必須。牡蠣、赤身肉、ナッツ類などに多く含まれます18。
- ビタミンB群: 頭皮の新陳代謝を促し、皮脂の分泌をコントロールする働きが期待されます。青魚、レバー、豆類などに豊富です19。
- 鉄分: 酸素を全身に運ぶヘモグロビンの材料。不足すると毛母細胞の働きが低下する可能性があります。赤身肉、ほうれん草、ひじきなどから摂取します18。
生活習慣の是正
- 質の高い睡眠: 髪の成長と修復を促す成長ホルモンは、深い睡眠中に最も多く分泌されます。毎日決まった時間に就寝・起床し、質の高い睡眠を確保することが重要です1。
- ストレスマネジメント: ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良や皮脂過剰を招く可能性があります9。適度な運動、趣味の時間、瞑想など、自分に合った方法でストレスを効果的に解消することが推奨されます。
3.4 専門家への相談:皮膚科医があなたの力になる時
セルフケアを続けても改善が見られない場合や、明らかな薄毛の進行を感じる場合は、皮膚科専門医への相談が強く推奨されます。特に、毛包の菲薄化が原因であるFPHLに対しては、医学的介入が最も効果的な解決策となる可能性があります。
受診の目安
「抜け毛が急に増えた」「分け目の地肌が明らかに透けて見えるようになった」「髪全体のボリュームが著しく低下した」「頭皮にかゆみや炎症が続いている」といったサインが見られたら、専門医の診断を仰ぐタイミングです。
科学的根拠に基づく治療法
日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」において、女性型脱毛症(FPHL)に対する治療として、ミノキシジル外用薬が推奨度「A(行うよう強く勧める)」という最高ランクの評価を受けています526。ミノキシジルは、毛包に直接作用し、休止期から成長期への移行を促進し、成長期を延長させる効果があります。また、毛包周囲の血流を増加させる作用も示唆されています。これにより、菲薄化した毛包を再活性化させ、より太く、長く、健康な髪の成長を促すことで、髪のボリュームを根本から改善する効果が期待できます5。
専門家による診断の重要性
髪のボリュームダウンの原因は多岐にわたるため、自己判断でケアを続けるよりも、まずは専門医による正確な診断を受けることが重要です。医師は、問診や視診、ダーモスコピー(頭皮の拡大鏡)などを用いて原因を特定し、個々の患者に最適な治療計画を提案します。 最先端の研究として、杏林大学の大山学教授らのチームが主導する毛髪再生医療272930や、東邦大学などが参加するS-DSC®を用いた毛髪再生医療2831など、新たな治療法の開発が絶えず進められていますが、現時点での標準治療はガイドラインに基づいたものであることを理解しておく必要があります。
よくある質問
Q1: ノンシリコンシャンプーは本当にペタ髪に良いのですか?
Q2: 40代になってから急に髪のボリュームが減った気がします。これは加齢によるものでしょうか?
Q3: 食事を変えれば、髪のボリュームは本当に回復しますか?
結論
「ペタ髪」という悩みは、単なる美容上の問題ではなく、頭皮の健康状態、毛髪線維の構造的健全性、そして毛包の生物学的機能という、3つの異なる階層が複雑に絡み合った結果として現れる現象です。本稿で提示した「頭皮由来」「毛髪線維由来」「毛包由来」という三大経路の分析的枠組みは、この複雑な問題を体系的に理解し、効果的な対策を講じるための羅針盤となります。
導き出される結論は、ボリュームのある美しい髪を取り戻すための道筋は一つではないということです。それは、即時的な改善(スタイリング)、習慣的な改善(日々のケアと生活習慣)、そして医学的な改善(専門医による治療)という階層的なアプローチの組み合わせによって実現されます。特に、セルフケアで改善が見られない場合、特に毛髪の菲薄化が疑われる際には、躊躇なく皮膚科専門医に相談することが重要です。日本皮膚科学会のガイドラインで最高評価を受けるミノキシジル外用薬のような、エビデンスに基づいた治療が、根本的な解決への最も確実な道筋となり得るからです5。
最終的に、この記事が読者の皆様に提供すべき最も重要なメッセージは、「ペタ髪」は克服可能な問題であるという希望と、そのための具体的な手段です。読者自身が、本稿で提供される科学的知識と実践的ツールを手に取り、自己の状態を理解し、主体的にご自身の髪の健康を管理していくこと。魔法のような特効薬を求めるのではなく、日々の着実なケアと、必要に応じた専門家の助言を組み合わせる、知的でホリスティックなアプローチこそが、真のボリューム美髪への唯一の道なのです。
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
- 髪がぺたんこになる原因って?すぐに試せる直し方と予防法6選… 2025年6月22日閲覧, https://salonia.jp/column/hair/hair-how-to/vol_cl103/
- 髪のボリュームアップが叶う「17の方法」ペタンコの原因は? | 美的… 2025年6月22日閲覧, https://www.biteki.com/hair/hair-arrange/370100
- ぺたんこ髪、どうやって解決?シャンプーの選び方からおすすめの髪型&ヘアアレンジまでご紹介! – ホットペッパービューティー. 2025年6月22日閲覧, https://beauty.hotpepper.jp/magazine/973158/
- 円形脱毛症診療ガイドライン 2024 – 公益社団法人日本皮膚科学会. 2025年6月22日閲覧, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/AAGL2024.pdf
- 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版. 2025年6月22日閲覧, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
- 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023 – 公益社団法人日本皮膚… 2025年6月22日閲覧, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/zasou2023.pdf
- 美しい髪をめざして—香粧品ができること— | CiNii Research. 2025年6月22日閲覧, https://cir.nii.ac.jp/crid/1390564238096765824
- 毛髪の物性解析及び脂質分布、動態に関する研究 – 岐阜大学機関… 2025年6月22日閲覧, https://gifu-u.repo.nii.ac.jp/record/73470/files/uk0028.pdf
- vol.246 髪の毛がぺたんこになってしまうのをどうにかしたい!原因と対策をご紹介 – ヴィラロドラ. 2025年6月22日閲覧, https://www.villalodola.jp/magazine/column-246/
- 自分でできる“薄毛対策”には何があるの?~髪型やシャンプー、生活習慣などに対する注意点とは. 2025年6月22日閲覧, https://medicalnote.jp/diseases/%E8%96%84%E6%AF%9B/contents/201119-002-JW
- 思春期以降に髪が薄くなるAGAとは-AGAの原因は?症例写真と日常での対策法の有無. 2025年6月22日閲覧, https://medicalnote.jp/diseases/AGA/contents/160524-002-QY
- 髪のボリュームダウンに悩む30~40代女性必見!ボリュームアップに効果的な栄養素と生活習慣は? – eo健康. 2025年6月22日閲覧, https://health.eonet.jp/life/kamivolume.html
- 【美容師執筆】髪のボリュームが減ったのはなぜ?日常生活で意識したい対策と取り入れたいヘアケアとは. 2025年6月22日閲覧, https://www.happiness-direct.com/shop/pg/1h-vol553/
- 【男性必見】朝の髪がぺたんこになる6つの原因とおすすめの直し方. 2025年6月22日閲覧, https://enore-headspa.jp/blogs/12668/
- 髪の毛がぺたんこになる原因とは?改善方法も紹介 | DEMI LABO(デミラボ) – デミ コスメティクス. 2025年6月22日閲覧, https://www.demi.nicca.co.jp/media/1296/
- 尋常性痤瘡治療ガイドライン 2016 – 公益社団法人日本皮膚科学会. 2025年6月22日閲覧, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/acne%20guideline.pdf
- 髪の毛がぺたんこになる原因とは?髪の毛のボリュームアップ方法5選. 2025年6月22日閲覧, https://cosmedy.jp/shop/pages/fasa-column-post?id=474
- 特集 肌と髪の正しいケア 抜け毛や薄毛の心配は「専門医」にまず相談! – ヘルシスト. 2025年6月22日閲覧, https://healthist.net/medicine/1768/
- ぺったんこ前髪をどうにかしたい!前髪にボリュームをもたせる方法 – スカルプD. 2025年6月22日閲覧, https://scalp-d.angfa-store.jp/others/bangs-flat/
- 気になる「ペタンコ髪」改善方法、教えます!〈美容師ライター直伝〉 – スーパーミリオンヘアー. 2025年6月22日閲覧, https://www.ruan.co.jp/hair-thinning-column/hair-thinning-column-267/
- “ぺたんこヘア”にさようなら!《猫っ毛さん向け》対処法&おすすめヘアカタログ | キナリノ. 2025年6月22日閲覧, https://kinarino.jp/cat5/36704
- 【保存版】髪がぺたんこになる原因&直す方法!おすすめシャンプーや改善策はコレだ | LIPS. 2025年6月22日閲覧, https://lipscosme.com/articles/5677
- ぺたんこ髪を解消する16の方法!ヘアケアやアレンジで対策してボリュームを取り戻そう – RAXY. 2025年6月22日閲覧, https://raxy.rakuten.co.jp/beautytopics/articles/2022/article459/
- 髪がぺたんこになってしまう原因は?家庭でもできるぺたんこ髪を予防するヘアケアを紹介!. 2025年6月22日閲覧, https://www.ozmall.co.jp/hairsalon/onayami/article/27293/
- 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版 – Mindsガイドラインライブラリ. 2025年6月22日閲覧, https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00458/
- 【AGA】ガイドラインって何? – たかはし皮膚科クリニック. 2025年6月22日閲覧, https://www.skin-clinic.jp/guidelines2017/
- 皮膚科 大山教授の研究チーム、毛髪再生医療の実用化に向けた新たな臨床研究に参加. 2025年6月22日閲覧, https://www.kyorin-u.ac.jp/hospital/introduction/info/news_detail/3334/
- S-DSC®を用いた毛髪再生医療の提供を開始~ 薄毛に悩む患者さんの QOL 向上に貢献へ ~ | プレスリリース | 東邦大学. 2025年6月22日閲覧, https://www.toho-u.ac.jp/press/2024_index/20240628-1381.html
- ᴾ プレスリリースᴾᴾ – 杏林大学. 2025年6月22日閲覧, https://www.kyorin-u.ac.jp/cn/html/kyorin/00003/202012101/pr.pdf
- 壮年性脱毛症のための再生医療の臨床試験を東京医科大などが実施 – マイナビニュース. 2025年6月22日閲覧, https://news.mynavi.jp/techplus/article/20201210-1577019/
- 研究機関紹介|よくわかるS-DSC毛髪再生医療. 2025年6月22日閲覧, https://www.s-dsc.com/research-institute