【産婦人科医・管理栄養士監修】妊娠中のドリアンは安全？栄養価、適量、注意点のすべてを徹底解説

結論：妊娠中にドリアンは「適量を守れば」食べても良い。ただし注意が必要な人も

多忙な読者のために、まず結論を明確に提示します。専門家の総意として、ドリアンは「バランスの取れた食事の一部として、適量を守る」という条件下で安全に楽しむことができます。厚生労働省の「妊産婦のための食生活指針」では、特定の食品を禁止するのではなく、多様な食品をバランス良く摂ることの重要性が強調されています¹。ドリアンもこの原則に則り、その栄養価を享受しつつ、後述するリスクを正しく理解し管理することが可能です。

ドリアンの驚くべき栄養価と妊婦・胎児への5つのメリット

「果物の王様」と称されるドリアン。その理由は、他の果物とは一線を画すユニークで豊富な栄養プロファイルにあります。文部科学省の「日本食品標準成分表2020年版（八訂）」⁴の公式データに基づき、その栄養価を詳しく見ていきましょう。

1. 豊富な葉酸：胎児の神経管閉鎖障害リスク低減に不可欠

ドリアンは果物の中でも際立って葉酸が豊富です。100gあたり150µgという含有量⁴は、厚生労働省が妊娠初期に推奨する食事からの葉酸摂取目標量（通常時240µgに加えて付加量240µgが必要）をサポートする上で非常に有益です¹⁵。葉酸は、胎児の脳や脊髄といった中枢神経系が作られる妊娠初期に特に重要で、先天的な神経管閉鎖障害のリスクを低減する働きがあることがわかっています。ただし、葉酸の必要量を食事だけで満たすのは困難なため、厚生労働省はサプリメントの活用も推奨しています¹。ドリアンはあくまで「食事からの強力な補助」と位置づけ、バランスの取れた摂取を心がけましょう。

2. 豊富なカリウム：妊娠後期のむくみや高血圧予防をサポート

100gあたり510mgというカリウム含有量⁴は、カリウムが豊富とされるバナナを大きく上回ります。カリウムは体内の余分なナトリウム（塩分）の排出を促す働きがあり、血液量が増えることでむくみや血圧上昇が気になりがちな妊娠中期から後期にかけて、特に重要なミネラルです¹⁶。

3. 食物繊維：妊娠中の便秘解消に貢献

妊娠中はプロゲステロンというホルモンの影響で腸の動きが鈍くなったり、大きくなる子宮によって腸が圧迫されたりすることで便秘になりやすくなります。ドリアンに含まれる100gあたり2.1gの食物繊維⁴は、腸内環境を整え、便通を改善する助けとなります¹⁷。

4. ビタミンCと抗酸化物質：母体の免疫力維持と細胞の保護

ドリアンは100gあたり31mgのビタミンC⁴に加え、ポリフェノールやフラボノイドといった多様な抗酸化物質を含んでいることが、マレーシアの研究者グループによるレビュー論文で報告されています¹¹。これらの成分は、感染症への抵抗力を高めるなど、妊娠中に低下しがちな免疫機能をサポートし、体内の酸化ストレスから母体と胎児の細胞を保護する役割が期待されます。

5. エネルギー補給源として

つわりなどで食事が十分に摂れない時期には、少量で効率的にエネルギーを補給できる食品が役立ちます。ドリアンは高カロリー（100gあたり140kcal⁴）であるため、そのような状況下でのエネルギー源として有用な場合があります¹⁹。

妊娠中にドリアンを食べる際の【5つの重要な注意点】

多くのメリットがある一方で、ドリアンを食べる際には必ず知っておくべき重要な注意点があります。これらを理解し、正しく付き合うことが、安全に楽しむための鍵となります。

1. カロリーと糖質の過剰摂取：急激な体重増加と妊娠糖尿病のリスク

ドリアン摂取における最大のリスクは「食べ過ぎ」です。100gで140kcalというカロリー⁴は、ご飯一杯（約150gで234kcal）の半分以上に相当します。濃厚な甘さとクリーミーな食感から、つい無意識に食べ過ぎてしまうと、急激な体重増加を招く可能性があります。妊娠中の過度な体重増加は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクを高めることが知られています¹⁹。
ここで、血糖値に関する専門的な解説を加えます。食品を食べた後の血糖値の上昇度合いを示す指標に「GI値（グリセミック・インデックス）」があります。マレーシアの研究では、ドリアンのGI値は49と、スイカ（55）やパイナップル（82）よりも低いことが示されています¹⁰。これは、ドリアンに含まれる脂質や食物繊維が糖の吸収を穏やかにするためと考えられます。しかし、GI値が低くても、一度に食べる量が多ければ、血糖値を上昇させる糖質の総量である「GL値（グリセミック・ロード）」は高くなります。したがって、「GI値が低いから安心」と考えるのは誤りであり、「適量を守ることが極めて重要」であることを科学的に理解する必要があります。

2. 【特に注意】摂取を控えるべき、または医師への相談が必須な妊婦

すべての妊婦に同じ推奨が当てはまるわけではありません。以下の条件に該当する方は、ドリアンを食べる前に必ずかかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。

• 妊娠糖尿病（GDM）と診断された方: 産婦人科医の佐藤杏月先生によると、妊娠糖尿病は厳格な血糖コントロールが必要な状態です⁷。ドリアンのような糖質が多い果物は、血糖値を急激に上昇させる可能性があるため、摂取は慎重になるべきです。
• 妊娠前のBMIが25以上の肥満傾向の方: 日本産科婦人科学会のガイドラインでは、肥満のある妊婦は体重管理が特に重要とされています⁵。高カロリーなドリアンの摂取は、体重管理をさらに難しくする可能性があります。
• 過去の妊娠でGDMの既往歴がある方、または糖尿病の家族歴がある方: これらの方は妊娠糖尿病を発症するリスクが比較的高いため、食事には特に注意が必要です。

3. 残留農薬の安全性：日本の公式見解は？

輸入果物に対する残留農薬の不安は、多くの消費者が抱く懸念です。この点について、厚生労働省の公式発表を基に正確な情報を提供することが、過度な不安を和らげるために重要です。過去に、タイ産²およびベトナム産³のドリアンから、日本の基準値（0.01 ppm）を超える殺菌剤「プロシミドン」が検出され、食品衛生法に基づく検査命令が出された事例があります。これは、日本の厳格な水際対策が機能している証拠です。
重要なのは、厚生労働省が同時にリスク評価も公表している点です。例えばタイ産の事例では、「体重60kgの妊婦が、基準値の5倍のプロシミドン（0.05 ppm）が残留したドリアンを1日に42kg摂取したとしても、健康に及ぼす影響（急性参照用量を超えること）はない」と結論付けています²。これは非現実的な量であり、通常の食生活で摂取する量では、健康へのリスクは極めて低いことを示しています。この公式見解を正確に理解し、冷静に判断することが求められます。

4. 衛生管理：リステリア菌などの食中毒予防

妊娠中は免疫力が低下するため、普段以上に食中毒への注意が必要です²²。特に、生の果物を食べる際は衛生管理が重要になります。食中毒の原因となるリステリア菌は低温でも増殖するため、冷蔵庫で保存していても安心はできません。管理栄養士の川口由美子先生も、カットフルーツなどを購入する際は、衛生管理の行き届いた信頼できる店舗を選ぶこと、また、食べる直前に流水でよく洗い、調理前の手洗いも徹底することが、基本的な予防策として重要であると指摘しています⁶。

5. 食べ合わせ：アルコールとの同時摂取は厳禁

まず大前提として、妊娠中のアルコール摂取は、胎児の脳の発育に深刻な影響を及ぼす「胎児性アルコール症候群」のリスクがあるため、量にかかわらず絶対に避けるべきです。それに加え、東南アジアのいくつかの地域では、ドリアンとアルコールを一緒に摂取すると体内で異常発酵を起こし、健康に害を及ぼすという言い伝えがあります²⁴。この伝承に関する明確な科学的根拠はまだ確立されていませんが、万が一のリスクを避けるためにも、この組み合わせは厳禁です。

【管理栄養士が推奨】妊娠中のドリアンの賢い食べ方

リスクを理解した上で、ドリアンを安全に楽しむための具体的な方法を、専門家の視点からご紹介します。

1日の適量はどれくらい？

厚生労働省と農林水産省が策定した「妊産婦のための食事バランスガイド」では、妊娠中期以降の果物の摂取目安は1日におおよそ200g〜300gとされています¹²。ドリアンの高いカロリーと糖質を考慮すると、1日に100g程度（中くらいの房で1〜2かけ）を上限と考えるのが賢明です²⁰。これは、日本でドリアンが高価で日常的ではないという食文化にも合致した、現実的な「たまのご褒美」としての量と言えるでしょう。

いつ食べるのがベスト？

血糖値の急上昇を避けるため、空腹時に単体で食べるよりも、活動量の多い日中の間食として、他の食品と組み合わせて摂るのがおすすめです²¹。夜遅い時間に食べるのは、エネルギーが消費されにくく体重増加につながりやすいため、避けた方が良いでしょう。

おすすめの食べ方：少量でも満足できる工夫

• 無糖ヨーグルトと混ぜる: タンパク質や脂質と一緒に摂ることで、糖の吸収がより穏やかになります。ドリアンの濃厚な甘みとヨーグルトの酸味が良く合います。
• 冷凍してシャーベットのように: ドリアンを冷凍すると、ねっとりとした食感がアイスクリームのようになります。少量でもひんやりとした食感と濃厚な甘みをゆっくり楽しめるため、満足感が高まり、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できます。
• 他の果物と組み合わせない: 1日の果物の総量をオーバーしないよう、ドリアンを食べる日は他の甘い果物を控えるなど、食事全体でバランスを調整しましょう。

よくある質問（FAQ）

結論

ドリアンは、豊富な葉酸やカリウムなど、妊娠中に有益な栄養素を多く含む魅力的な果物です。しかし同時に、高カロリー・高糖質という側面も持ち合わせており、その摂取には正しい知識が不可欠です。本記事で解説したように、1日100g程度という「適量を守る」こと、特に妊娠糖尿病などのリスクがある方は事前に医師に相談すること、そして衛生管理を徹底することが絶対条件となります。残留農薬に関しては、日本の公的機関が安全性を確認しており、過度な心配は不要です。科学的根拠を正しく理解し、バランスの取れた食事の一部として賢く取り入れることで、「果物の王様」を妊娠中でも安全に楽しむことが可能です。