乾癬とは?原因、症状、最新治療法、生活上の注意点を専門家が徹底解説
皮膚科疾患

乾癬とは?原因、症状、最新治療法、生活上の注意点を専門家が徹底解説

乾癬(かんせん)は、単なる皮膚の病気ではありません。これは、免疫系の異常が引き起こす慢性の全身性炎症性疾患であり、日本国内でも約43万人から56万人、約300人に1人の方々がこの疾患と共に生活していると推定されています12。その名は「感染」を連想させますが、乾癬は他者へうつることは絶対にありません1。しかし、その見た目から誤解や偏見を受け、多くの患者さんが社会生活において深い悩みを抱えています。近年、乾癬研究は飛躍的に進歩し、病態の解明が進んだことで、治療法は劇的に変化しました。かつては症状を抑えることが主目的でしたが、現在では「皮疹がほとんどない、あるいは完全に消失した状態」を目指し、健常な人と変わらない生活の質(QOL)を維持することが現実的な目標となっています。本記事では、JapaneseHealth.org編集部が、最新の科学的エビデンスと日本の診療ガイドラインに基づき、乾癬の根本的な原因から、多様な症状、そして革新的な最新治療法、さらには日常生活でのセルフケアや医療費支援制度に至るまで、乾癬に関する全ての情報を網羅的かつ深く掘り下げて解説します。

本記事の科学的根拠

この記事は、日本皮膚科学会の診療ガイドラインや世界保健機関(WHO)の報告書、権威ある医学雑誌に掲載された学術論文など、信頼性の高い情報源にのみ基づいて作成されています。読者の皆様に正確で最新の医療情報を提供するため、全ての記述には明確なエビデンスを紐づけています。

  • 日本皮膚科学会(JDA): 本記事における乾癬性関節炎や膿疱性乾癬の治療選択、生物学的製剤の使用に関する指針は、日本皮膚科学会が策定した各種診療ガイドラインに基づいています34
  • 世界保健機関(WHO): 乾癬が世界的な健康問題であり、患者のQOLに深刻な影響を与える全身性疾患であるとの認識は、WHOの公式報告書に基づいています5
  • 国際的な学術論文(ネットワークメタ解析など): 最新の治療薬(生物学的製剤)の有効性に関する比較データは、The Lancet、Frontiers in Pharmacologyなどの査読付き医学雑誌に掲載された複数の研究成果を統合・分析したものです67
  • 厚生労働省および難病情報センター: 日本における疫学データや、汎発性膿疱性乾癬に関する指定難病制度、高額療養費制度などの公的支援に関する情報は、厚生労働省や関連機関の公式発表に基づいています89

要点まとめ

  • 乾癬は、免疫系の異常により皮膚細胞が過剰に増殖する慢性の炎症性疾患であり、他者に感染することはありません
  • 遺伝的素因に、ストレス、感染症、生活習慣などが引き金となって発症・悪化します。日本の患者数は約43万~56万人と推定されています。
  • 尋常性乾癬が最も一般的ですが、関節の痛みを伴う「乾癬性関節炎」など複数の病型が存在し、心血管疾患などの合併症リスクもあります。
  • 治療法は外用薬、光線療法、内服薬に加え、近年ではIL-17/23阻害薬などの生物学的製剤が登場し、「皮疹ゼロ」を目指せる時代になっています。
  • 治療選択は個別化され、客観的な重症度(BSA、PASI)だけでなく、生活の質(DLQI)の改善も重要な目標です。
  • 食事管理、運動、スキンケアといったセルフケアが症状のコントロールに重要であり、日本では高額療養費制度などの医療費支援が利用可能です。

乾癬の基本:「うつらない」慢性炎症性疾患

乾癬とは? – 免疫系の異常による皮膚の病気

乾癬は、皮膚に境界がはっきりした赤い発疹(紅斑 – こうはん)が現れ、その表面が銀白色の鱗屑(りんせつ)と呼ばれるフケのようなもので覆われる、慢性の皮膚疾患です10。ギリシャ語の「psora」(かゆみ)に由来するように、多くの患者さんがかゆみや痛みを伴います10。この疾患の核心は、皮膚細胞の異常なターンオーバーにあります。健康な皮膚では、細胞は約28~30日かけて生まれ変わりますが、乾癬の皮膚ではこのサイクルがわずか3~7日へと異常に加速します10。これは正常の10倍以上の速度であり、未熟な細胞が地表に積み重なることで、特徴的な厚い皮疹が形成されるのです2
この異常を引き起こす根本的な原因は、免疫系の機能不全にあります。乾癬は、免疫系が介在する炎症性疾患(immune-mediated inflammatory disease)であり、自己免疫疾患の一種と考えられています10。具体的には、体を守るはずの免疫細胞(特にT細胞)が誤って自身の健康な皮膚細胞を攻撃し、炎症を引き起こします。この炎症の過程で、TNF-α、IL-17、IL-23といった「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質が過剰に放出され、皮膚細胞の異常増殖を指令し続けるのです11。このメカニズムの解明が、サイトカインを直接標的とする後述の生物学的製剤の開発に繋がりました。

乾癬の主な原因と症状を悪化させる誘発因子

乾癬の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、「遺伝的素因」と「環境因子」が複雑に絡み合って発症すると考えられています2。乾癬になりやすい体質を持つ人が、何らかの外的・内的なきっかけによって発症する、というイメージです。

  • 遺伝的要因: 親や兄弟に乾癬患者がいる場合、発症リスクがやや高まることが知られていますが(日本の家族内発症率は約5%)、必ずしも遺伝するわけではありません2
  • 環境・誘発因子:
    • 感染症: 特に小児や若年層では、扁桃炎などの溶連菌感染症が「滴状乾癬」の引き金になることがよく知られています1
    • 皮膚への物理的刺激(ケブネル現象): 正常な皮膚を引っ掻いたり、衣類でこすれたり、怪我をしたりすると、その刺激を受けた部位に新たな皮疹が出現することがあります1。かゆみから掻いてしまい、さらに皮疹が広がるという悪循環は、この現象によるものです。
    • 精神的ストレス: 仕事や家庭での強いストレスは、乾癬の代表的な悪化因子です2
    • 薬剤: 特定の薬剤が乾癬を誘発、または悪化させることが報告されています12
    • 生活習慣: 喫煙、過度の飲酒、肥満、不規則な食生活なども症状に悪影響を与えることが知られています2

これらの因子は個人差が大きいため、自身の生活の中で何が症状を悪化させているかを把握することが、有効な疾患管理の第一歩となります。

【重要】乾癬は他人にうつる? – 感染症との違い

これは乾癬患者さんが最も心を痛め、社会的な誤解を生む最大のポイントです。結論から言うと、乾癬は他者に絶対にうつりません1。乾癬の皮疹は、免疫系の誤作動による「炎症」であり、ウイルスや細菌などの病原体による「感染症」とは全く異なります。前述の通り、ある種の感染症が乾癬の発症の「引き金」になることはありますが、乾癬の皮疹そのものに病原体は存在しません。したがって、温泉やプール、理髪店などで他者と接触しても、乾癬がうつる心配は一切ありません。この正しい理解が、患者さんを不当な偏見から守るために極めて重要です。世界保健機関(WHO)も、この点に関する啓発の重要性を強調しています5

乾癬の種類と見分け方

乾癬は、その見た目や症状の現れ方によっていくつかの病型に分類されます。それぞれの特徴を知ることは、適切な治療に繋がります。

表1: 主な乾癬の臨床病型とその特徴
病型名 日本での割合 主な症状 好発部位 特記
尋常性乾癬 約90%12 境界明瞭な赤い発疹(紅斑)、銀白色の鱗屑、皮膚の肥厚。約60-90%でかゆみを伴う12 頭皮、肘、膝、腰など刺激を受けやすい部位12 最も一般的なタイプ。皮疹が拡大・癒合して大きな局面を形成することがある。
乾癬性関節炎 (PsA) 約10-15%13 皮膚症状に加え、手足の指、背中、腰などの関節に痛み、腫れ、こわばりが生じる。 指、趾、脊椎、アキレス腱など12 関節破壊が進行すると変形に至るため、早期診断と治療が不可欠。日本の患者数は3-4万人と推定される14
滴状乾癬 約4%15 直径1cm程度の水滴状の小さな皮疹が全身に多発する。 体幹、四肢12 小児や若年者に多く、扁桃炎などの溶連菌感染が引き金になることが多い1
膿疱性乾癬 約1-2%11 赤くなった皮膚の上に多数の無菌性膿疱(膿のたまった水疱)が出現。発熱や倦怠感を伴うことがある。 全身12 全身に症状が広がる汎発性膿疱性乾癬(GPP)は国の指定難病であり、入院治療が必要な重篤な病型9
乾癬性紅皮症 約1%15 全身の皮膚の80-90%以上が真っ赤になり、細かい鱗屑が剥がれ落ちる。発熱や悪寒を伴う。 全身12 不適切な治療や急な治療中断から移行することが多く、重症型である。
爪乾癬 全患者の40-80%に合併15 爪に点状の凹み(pitting)、爪の変色、肥厚、剥離などが生じる。 手指、足趾の爪。 爪症状は乾癬性関節炎との関連が深く、診断上の重要な手がかりとなる4

乾癬の診断と重症度チェック

専門医はどこを見ている?(診断のポイント)

乾癬の診断は、多くの場合、皮膚科専門医による視診で可能です1。医師は特徴的な皮疹(境界明瞭な紅斑と鱗屑)を確認しますが、診断の助けとなるいくつかの特徴的な所見があります。

  • アウスピッツ現象: 皮疹表面の鱗屑を剥がすと、点状の出血が見られる現象。これは乾癬に特徴的な所見の一つです1
  • ケブネル現象: 正常な皮膚への刺激が、新たな皮疹の出現を誘発する現象です1

診断が難しい非典型的なケースでは、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる「皮膚生検」が行われることもあります1。乾癬性関節炎が疑われる場合は、リウマチ専門医と連携し、血液検査やX線検査、国際的な分類基準(CASPAR分類基準)などを用いて総合的に診断します4

自分の重症度を知るには?(客観的評価)

治療方針を決定する上で、重症度を客観的に評価することが重要です。

  • BSA (Body Surface Area): 体の表面積のうち、どれくらいの割合に皮疹があるかを示します。患者さん自身の「手のひら1枚分(指を含む)」の面積が、体表面積の約1%に相当します16。一般的にBSAが10%を超えると重症と判断されます。
  • PASI (Psoriasis Area and Severity Index): 臨床試験で標準的に用いられる評価法で、皮疹の面積と、紅斑(赤み)、浸潤(厚み)、鱗屑(かさぶた)の重症度を数値化します(0~72点)7
  • DLQI (Dermatology Life Quality Index): 皮膚疾患が生活の質(QOL)にどれだけ影響を与えているかを評価する、10項目の質問票です17。スコアが高いほどQOLへの影響が大きいことを意味します。

重要なのは、皮疹の面積(BSA/PASI)とQOL(DLQI)が必ずしも比例しない点です。例えば、顔や手など人目につく部位に小さな皮疹があるだけでも、患者さんの心理的苦痛は非常に大きい場合があります5。そのため、現代の治療では皮疹の改善だけでなく、患者さん自身のQOL改善も同等に重要な目標とされています。

乾癬の治療法ガイド:最新治療からセルフケアまで

治療のゴールは「皮疹ゼロ」とQOL向上

乾癬治療の目標は、単に症状を和らげることから、皮疹がほとんどない、あるいは完全に消失した状態(PASI 90/100達成)を長期的に維持し、患者さんが病気を意識せずに生活できる状態を目指すことへと進化しています2。治療は画一的ではなく、病型、重症度、合併症の有無、そして患者さん自身のライフスタイルや希望を考慮して、最適な方法が選択されます。

外用療法(塗り薬)- 治療の基本

軽症から中等症の乾癬治療の基本となるのが外用療法です18。主に以下の2種類の薬剤が用いられます。

  • ステロイド外用薬: 強力な抗炎症作用があり、最も一般的に処方されます。症状や部位に応じて様々な強さや剤形(軟膏、クリーム、ローション等)を使い分けます19
  • 活性型ビタミンD3誘導体: 皮膚細胞の異常な増殖を抑制し、正常な状態に戻す作用があります。ステロイドと併用することで、効果を高め、副作用を軽減することが期待できます19

光線療法(紫外線治療)- 通院による専門治療

外用療法で効果が不十分な場合や、皮疹が広範囲に及ぶ中等症以上の患者さんに適応されます20。医療機関で特殊な紫外線を照射する治療法です。

  • ナローバンドUVB療法: 現在、日本で最も広く行われている光線療法です。治療効果が高く安全性の高い特定の波長(311nm前後)の紫外線を照射します21
  • エキシマライト/レーザー: より強力な波長(308nm)の光線を、病変部のみを狙って照射します。治りにくい部位の限局した皮疹に有効です22

全身療法(飲み薬)- 中等症~重症の選択肢

中等症から重症の乾癬、または乾癬性関節炎に対して用いられる内服薬です。

  • メトトレキサート: 免疫抑制作用と抗炎症作用があり、関節症状にも有効です。定期的な血液検査が必要です23
  • シクロスポリン: 強力な免疫抑制剤で、速やかな効果が期待できますが、腎機能障害などのリスクから通常は短期的に使用されます23
  • アプレミラスト: 比較的新しい内服薬で、細胞内の炎症シグナルを調節します。安全性は高いですが、効果は生物学的製剤に比べると穏やかです22
  • アシトレチン: 角化を正常化させるビタミンA誘導体で、特に膿疱性乾癬に有効です。催奇形性があるため使用には厳重な注意が必要です24

【最先端】生物学的製剤・低分子標的薬 – 高い効果が期待できる治療

乾癬治療における最大の進歩が、特定のサイトカイン(炎症の原因物質)などをピンポイントで狙い撃ちする生物学的製剤および低分子標的薬の登場です。既存の治療で効果が不十分な中等症から重症の患者さんが対象で、皮疹をほぼ完全に消失させる(PASI 90/100)という、これまでの治療法では達成困難だった高い効果が期待できます11。ネットワークメタ解析という複数の研究を統合した分析では、特にIL-17阻害薬とIL-23阻害薬が極めて高い有効性を示すことが一貫して報告されています6

表2: 主要生物学的製剤の長期(約1年)有効性比較(PASI 90/100達成率)
薬剤名 作用機序 PASI 90達成率 (%) PASI 100達成率 (%) 出典
リサンキズマブ 抗IL-23抗体 85.3 65.4 25
ブロダルマブ 抗IL-17受容体A抗体 78.8 55.7 25
グセルクマブ 抗IL-23抗体 78.1 54.8 25
イキセキズマブ 抗IL-17A抗体 72.1 (データなし) 25
セクキヌマブ 抗IL-17A抗体 67.0 (データなし) 25
注: 複数の研究のネットワークメタ解析に基づく間接比較データ。治療選択は医師との相談の上で決定されます。

この表が示すように、最新の薬剤は1年後も高い確率で皮疹のない状態を維持できる可能性を持っています。ただし、高額な薬剤費や感染症リスクの増加といった側面もあり、使用には日本皮膚科学会が認定した施設での専門的な判断が必要です26

乾癬と上手に付き合うための生活習慣

薬物療法と並行して、日々のセルフケアを実践することは、症状をコントロールし、QOLを高める上で非常に重要です。

食事療法のポイント:何を食べるべき?何を避けるべき?

乾癬に特効薬となる食品はありませんが、全身の炎症を抑え、健康状態を改善する食生活が推奨されています。

  • 体重管理: 肥満は乾癬の悪化因子です。米国乾癬財団のガイドラインでは、過体重の患者さんが低カロリー食で減量することが強く推奨されています。減量自体が乾癬の重症度を改善し、治療薬の効果を高めることが示されています27
  • 抗炎症食の実践: 魚油(オメガ3脂肪酸)、野菜、果物、全粒穀物を多く含む「地中海式食事」は、全身の炎症を抑制する効果が期待され、症状改善に寄与する可能性があります28
  • 避けるべき食品: 過度のアルコール摂取、高糖質・高塩分の食事は炎症を促進し、乾癬を悪化させる可能性があるため、避けるべきです10

運動のすすめと注意点

定期的な運動は、体重管理、心血管疾患リスクの低減、ストレス軽減など多くのメリットをもたらします29。週に150分程度の中強度の有酸素運動(ウォーキングなど)が目標です。乾癬性関節炎がある場合は、水泳やヨガなど、関節に負担の少ない運動が推奨されます30

日常のスキンケアと入浴法

皮膚のバリア機能を保ち、ケブネル現象を防ぐためのスキンケアは不可欠です。

  • 保湿: 皮膚の乾燥はかゆみや亀裂を悪化させます。入浴後など、1日に数回、無香料・無着色の保湿剤をたっぷりと塗布しましょう19
  • 入浴: 熱いお湯は皮脂を奪い乾燥を助長するため、ぬるめのお湯にしましょう。体を洗う際は、ナイロンタオルなどで強くこすらず、低刺激の石鹸を泡立てて手で優しく洗うことが重要です19
  • 掻破の回避: かゆくても掻きむしらないことが鉄則です。爪を短く切り、肌触りの良い木綿などの柔らかい衣類を選ぶ工夫も有効です19

日本の医療費支援制度:高額な治療費の負担を軽減

特に生物学的製剤などの新しい治療法は高額ですが、日本の公的医療保険にはその負担を軽減するための優れた制度があります。

高額療養費制度の仕組みをわかりやすく解説

高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です31。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。

表3: 高額療養費制度の自己負担上限額(月額・69歳以下の場合)
所得区分 年収の目安 自己負担上限額 多数回該当※
区分ア 約1,160万円~ 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 140,100円
区分イ 約770万~約1,160万円 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 93,000円
区分ウ 約370万~約770万円 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 44,400円
区分エ ~約370万円 57,600円 44,400円
区分オ 住民税非課税者 35,400円 24,600円
※過去12ヶ月以内に3回以上上限額に達した場合の4回目以降の限度額。出典: 厚生労働省資料31を基に作成。

汎発性膿疱性乾癬の指定難病助成

重症型の汎発性膿疱性乾癬(GPP)は国の指定難病であるため、認定基準を満たす患者さんは「指定難病医療費助成制度」を利用でき、自己負担がさらに軽減されます32。詳細はかかりつけの医療機関や保健所にご相談ください。

専門医・病院の探し方と患者会情報

生物学的製剤承認施設の探し方

生物学的製剤による治療は、安全性と有効性を適切に管理できると日本皮膚科学会が承認した施設でのみ開始できます26。承認施設のリストは日本皮膚科学会のウェブサイトで公開されており、お住まいの地域の専門施設を探すことが可能です26。また、多くの大学病院では「乾癬センター」や「乾癬専門外来」を設置し、専門的な診療を提供しています33

患者会の役割と参加のメリット

日本乾癬患者連合会(JPA)などの患者会は、同じ病気を持つ仲間と情報交換をしたり、悩みを分かち合ったりする貴重な場です34。医療講演会などを通じて最新の治療情報を得ることもでき、孤立感を和らげるための大きな支えとなります35

よくある質問

Q1: 乾癬は完治しますか?
現時点では、乾癬を完全に「根治」させる治療法は確立されていません。乾癬は、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の疾患です12。しかし、近年の治療法の進歩、特に生物学的製剤の登場により、皮疹が完全に消失した「寛解」状態を長期間維持することが可能になりました。適切な治療とセルフケアを続けることで、病気をコントロールし、症状のない生活を送ることを目指せます。
Q2: 子供に遺伝しますか?
乾癬には遺伝的な要因が関与しているため、親が乾癬の場合、子供が発症するリスクは一般の人よりやや高くなります。しかし、これはあくまで「乾癬になりやすい体質」が遺伝する可能性であり、必ず発症するわけではありません。日本のデータでは、家族内での発症率は約5%と報告されています2。乾癬の発症には遺伝的素因だけでなく、様々な環境因子が関わっているため、過度に心配する必要はありません。
Q3: 乾癬があると、他の病気にもなりやすいですか?
はい。乾癬は皮膚だけの病気ではなく、全身の炎症が関わるため、いくつかの合併症(併存疾患)のリスクが高まることが知られています。代表的なものに、関節の痛みを伴う「乾癬性関節炎」があります13。その他、心筋梗塞などの心血管疾患、肥満、高血圧、糖尿病といったメタボリックシンドローム、さらにはうつ病との関連も指摘されています236。定期的な健康診断を受け、生活習慣を見直すことが重要です。
Q4: 生物学的製剤は誰でも使えますか?副作用は?
生物学的製剤は、既存の治療法(外用療法や光線療法など)で十分な効果が得られない中等症から重症の乾癬患者さんが対象です11。非常に高い効果が期待できる一方、免疫の働きを抑えるため、感染症にかかりやすくなるリスクがあります。そのため、使用前には結核などの感染症がないかを詳しく検査する必要があります。治療は、日本皮膚科学会が認めた専門の医療機関でのみ開始できます26。費用は高額ですが、高額療養費制度などの公的支援を利用することができます。

結論

乾癬は、かつての「治らない皮膚病」というイメージから、「コントロールし、寛解を目指せる疾患」へと大きく変貌を遂げました。その背景には、病態の解明と、それに基づく生物学的製剤という画期的な治療法の登場があります。しかし、どんなに優れた治療法があっても、それが全ての患者さんに幸福をもたらすとは限りません。治療の成功は、皮疹の消失だけでなく、患者さん一人ひとりが抱える痛み、かゆみ、そして社会的な苦悩から解放され、自分らしい生活を取り戻せるかどうかにかかっています。
本記事で解説したように、乾癬の管理は多岐にわたります。最新の治療法を正しく理解し、医師と相談しながら最適な選択をすること。食事や運動、スキンケアといった日々のセルフケアを地道に続けること。そして、高額療養費制度や患者会といった社会的な支援を積極的に活用すること。これら全てが、乾癬という疾患と上手に付き合っていくための重要な要素です。もしあなたが乾癬で悩んでいるなら、決して一人で抱え込まないでください。信頼できる専門医を見つけ、正しい情報に基づいて、希望を持って治療に臨んでいただくことを、JHO編集部一同、心から願っています。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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